(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877462
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】チューナビリティ用非磁性金属部分が組み込まれた永久磁石粒子ビーム装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/143 20060101AFI20210517BHJP
G21K 1/093 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
H01J37/143
G21K1/093 F
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-553215(P2018-553215)
(86)(22)【出願日】2017年4月6日
(65)【公表番号】特表2019-511823(P2019-511823A)
(43)【公表日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】US2017026438
(87)【国際公開番号】WO2017180441
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2020年4月1日
(31)【優先権主張番号】62/321,077
(32)【優先日】2016年4月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/429,071
(32)【優先日】2017年2月9日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500049141
【氏名又は名称】ケーエルエー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プレットナー トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ガーリング ジョン デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】タマッセブパー モハメッド
【審査官】
山本 一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−508303(JP,A)
【文献】
米国特許第02934666(US,A)
【文献】
米国特許第03217200(US,A)
【文献】
特開平06−162979(JP,A)
【文献】
特開平01−296549(JP,A)
【文献】
特開平02−204946(JP,A)
【文献】
特表2002−538596(JP,A)
【文献】
特開平05−028944(JP,A)
【文献】
米国特許第05612535(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/143
H01J 37/04
H01J 37/10
H05H 7/04
G21K 1/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電粒子ビームを放出する帯電粒子ビームエミッタと、
上記帯電粒子ビームが通るチャネルを有する非磁性導電体部材であり、上記帯電粒子ビームの運動エネルギを制御する非磁性導電体部材と、
上記帯電粒子ビームの凝縮を制御するための磁界を形成する環状の永久磁石と、
を備え、
上記環状の永久磁石は、上記非磁性導電体部材の出力開口に面した入力開口を有し、上記帯電粒子ビームは、凝縮されるため、上記非磁性導電体部材の上記出力開口から上記入力開口において上記磁界に入り、上記非磁性導電体部材が上記永久磁石から電気的に分離されている、永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項2】
帯電粒子ビームを放出する帯電粒子ビームエミッタと、
上記帯電粒子ビームが通るチャネルを有する非磁性導電体部材であり、上記帯電粒子ビームの運動エネルギを制御する非磁性導電体部材と、
上記帯電粒子ビームの凝縮を制御するための磁界を形成する環状の永久磁石と、
を備え、
上記環状の永久磁石は、上記非磁性導電体部材の出力開口に面した入力開口を有し、上記帯電粒子ビームは、凝縮されるため、上記非磁性導電体部材の上記出力開口から上記入力開口において上記磁界に入り、上記非磁性導電体部材の入力開口、即ち上記帯電粒子ビームを上記帯電粒子エミッタから入力として受け取る開口が、その非磁性導電体部材の出力開口、即ちそれを介し上記帯電粒子ビームが上記永久磁石の入力開口へ出て行く開口より大きく、上記帯電粒子が上記非磁性導電体部材を通って集束される、永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項1、2のいずれかに記載の永久磁石粒子ビーム装置であって、上記帯電粒子ビームが電子ビームである永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項1、2のいずれかに記載の永久磁石粒子ビーム装置であって、上記非磁性導電体部材が、上記磁界が最強な個所に配置されている永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項1、2のいずれかに記載の永久磁石粒子ビーム装置であって、上記非磁性導電体部材が金属である永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項6】
請求項1、2のいずれかに記載の永久磁石粒子ビーム装置であって、上記非磁性導電体部材の形状が、上記帯電粒子ビームの運動エネルギが制御される度合に影響を及ぼす永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項1、2のいずれかに記載の永久磁石粒子ビーム装置であって、非磁性金属材料から構成される上記非磁性導電体部材が、上記環状の永久磁石により形成された磁界を変えることなく、その磁界内で運動する帯電粒子ビームの運動エネルギを制御する永久磁石粒子ビーム装置。
【請求項8】
永久磁石粒子ビーム装置を通る粒子ビームを制御する方法であって、
帯電粒子ビームエミッタにより帯電粒子ビームを放出するステップと、
上記帯電粒子ビームの運動エネルギを制御するために上記帯電粒子ビームを非磁性導電体部材のチャネルを通って送るステップと、
上記非磁性導電体部材からの上記帯電粒子ビームを、上記非磁性導電体部材の出力開口に面した、環状の永久磁石の入力開口において受け取るステップと、
環状の永久磁石により形成された磁界内に上記帯電粒子ビームを送ることでその帯電粒子ビームの凝縮を制御するステップと、
を有し、上記非磁性導電体部材が上記環状の永久磁石から電気的に分離されている方法。
【請求項9】
永久磁石粒子ビーム装置を通る粒子ビームを制御する方法であって、
帯電粒子ビームエミッタにより帯電粒子ビームを放出するステップと、
上記帯電粒子ビームの運動エネルギを制御するために上記帯電粒子ビームを非磁性導電体部材のチャネルを通って送るステップと、
上記非磁性導電体部材からの上記帯電粒子ビームを、上記非磁性導電体部材の出力開口に面した、環状の永久磁石の入力開口において受け取るステップと、
環状の永久磁石により形成された磁界内に上記帯電粒子ビームを送ることでその帯電粒子ビームの凝縮を制御するステップと、
を有し、上記帯電粒子ビームエミッタからの上記帯電粒子ビームを上記非磁性導電体部材の入力開口にて入力として受け取り、その非磁性導電体部材の出力開口を介し上記環状の永久磁石の入力開口へ出力する方法であり、上記入力開口が上記出力開口より大きく、上記帯電粒子ビームは上記非磁性導電体部材を通って集束される、方法。
【請求項10】
永久磁石粒子ビーム装置を通る粒子ビームを制御する方法であって、
帯電粒子ビームエミッタにより帯電粒子ビームを放出するステップと、
上記帯電粒子ビームの運動エネルギを制御するために上記帯電粒子ビームを非磁性導電体部材のチャネルを通って送るステップと、
上記非磁性導電体部材からの上記帯電粒子ビームを、上記非磁性導電体部材の出力開口に面した、環状の永久磁石の入力開口において受け取るステップと、
環状の永久磁石により形成された磁界内に上記帯電粒子ビームを送ることでその帯電粒子ビームの凝縮を制御するステップと、
を有し、上記帯電粒子ビームの運動エネルギが制御される度合が上記非磁性導電体部材の形状に依拠して制御される、方法。
【請求項11】
請求項8、9、10のいずれかに記載の方法であって、上記帯電粒子ビームが電子ビームである方法。
【請求項12】
請求項8,9,10のいずれかに記載の方法であって、上記非磁性導電体部材が、上記磁界が最強な個所に配置されている方法。
【請求項13】
請求項8,9,10のいずれかに記載の方法であって、上記非磁性導電体部材が、上記磁界が最強な個所の近くに配置されている方法。
【請求項14】
請求項8,9,10のいずれかに記載の方法であって、非磁性金属材料から構成される上記非磁性導電体部材が、上記環状の永久磁石により形成された磁界を変えることなく、上記帯電粒子ビームの運動エネルギを制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯電粒子ビーム装置、より具体的には永久磁石を有する粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願)
本願は2016年4月11日付米国仮特許出願第62/321077号の利益を主張する出願であるので、同米国仮特許出願の全容をこの参照を以て本願に繰り入れることにする。
【0003】
粒子ビーム装置は、様々な目的で粒子ビームを放出する電気的装置の一種である。電子ビームの場合、個別のビーム装置を電子銃/エミッタ(放出器)とすることができる。既存の電子銃の短所について以下記述するが、他種の個別ビーム装置(例.正又は負帯電イオンビーム)にもそれら短所が過不足なく当てはまることに注意されたい。
【0004】
電子銃の場合、これらの装置は、通常、制御された電子ビームをもたらすよう、即ち電子ビームを加速及び/又は集束(凝縮;コンデンシング)させるよう、動作する。ある種の基本的形態では、永久磁石と協働して電子ビームを制御するよう電子銃が構成される。それらの磁石は、電子ビームを制御する磁界を整形すべく電子銃ハウジング内に常駐させる。
【0005】
筆者の知識によれば、どのような電子銃にも、エミッタ領域内電界を制御する専用のエクストラクタ(抽出器)電極が備わっている。
図1に、従来技術に係り放出(エミッション)電流制御用エクストラクタを有する永久磁石電子銃の一例構成を示す。図示の通り、
図1においてはエクストラクタ107A,107Bが電子エミッタ102付近に配置されている。エクストラクタ107A,107Bは、電子エミッタ102により放出された電子ビーム106をその開口にて加速させ、そしてその電子ビーム106をより小さな開口を介し永久磁石104A,104Bへと差し向ける。その永久磁石素子104A,104Bは、電子ビーム106を凝縮させる磁気レンズを構成している。この種の永久磁石電子銃については、より詳細な記述が、2012年5月10日付で提出されNasser−Ghodsi et al.に付与された「電子源用非平坦エクストラクタ構造」(Non-planar extractor structure for electron source)と題する特許文献1中に記されている。最も理想的なのは、永久磁石レンズにより引き起こされる凝縮に影響を及ぼすことなくエクストラクタにより放出を制御することである。しかしながら、従来技術(例えばNasser−Ghodsi et al.に付与された特許文献1)の現実的構成では、エクストラクタが電子銃における放出,凝縮双方に影響を及ぼすため、その動作が困難になる。更に、そこに示されているエクストラクタは、製造困難になりうる深い井戸を有しており、エミッタ所在個所では捕捉領域(トラップ容積)が生じ局所的に真空が貧弱になる。
【0006】
永久磁石電子銃に由来する凝縮制御上の短所に対処するのに役立つ策の一つは、永久磁石に代え磁気コイルを採用することである。コイルなら可調磁界となるが、残念なことに、その磁界を発生させるための電力が必要になる。ひいては、コイル及び電源接続を担持するため電子銃ハウジングを対応する永久磁石電子銃、例えば上述のそれに比べ広くする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8513619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来技術の永久磁石式帯電粒子銃装置に係る上掲の及び/又はその他の問題に対処する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
永久磁石粒子ビーム装置及び方法であり、チューナビリティ(可調性)用非磁性部分が組み込まれたものが提供される。本永久磁石粒子ビーム装置は、帯電粒子ビームを放出する粒子ビームエミッタを備え、またその帯電粒子ビームの凝縮を制御するための磁界を形成す
る永久磁石を備える。本永久磁石粒子ビーム装置は、更に、その磁界内で運動する帯電粒子ビームの運動エネルギを制御するため上
記永久磁石と併置された非磁性導電体部材を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来技術に係り放出電流制御用エクストラクタを有する永久磁石電子銃の一例構成を示す図である。
【
図2】一実施形態に係りチューナビリティ用装着型非磁性金属部分を有する永久磁石粒子ビーム装置を示す図である。
【
図3】一実施形態に係りチューナビリティ用非装着型非磁性金属部分を有する永久磁石粒子ビーム装置を示す図である。
【
図5】一実施形態に係る永久磁石粒子ビーム装置内での粒子ビームの制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図2に、一実施形態に係りチューナビリティ用装着型非磁性金属部分を有する永久磁石粒子ビーム装置を示す。具体的には、
図2は、本来は三次元的な永久磁石粒子ビーム装置の断面である。
【0012】
注記すべきことに、永久磁石粒子ビーム装置に備わる幾つかの部材について示してあるが、本永久磁石粒子ビーム装置には、図示されていないその他の部材をオプション的に具備させることができる。一例としては、
図2には示されていないが本件技術分野では周知のハウジング及び電気的接続材を、通例通り本永久磁石粒子ビーム装置に具備させることができる。他の付加的でオプション的な部材については後述する。このように、
図2は、永久磁石粒子ビーム装置の内部のうち一部又は全体を示すものとして解されるべきである。
【0013】
更に、一貫して永久磁石粒子ビーム装置を参照することにする。これは、粒子ビームを放出するよう且つ一組の永久配置型磁石を備えそれを利用しその粒子ビームを制御するよう構成された電気デバイスが、参照されるということである。とはいえ、本願記載の諸実施形態はチューナビリティ用非磁性導電体(例.金属)部分をも有しており、そのことが同類の従来装置例えば
図1に示したそれに対する改良点になっている。本永久磁石粒子ビーム装置は、例えば電子ビームリソグラフィ用マイクロ集束素子を含め、数多くの用途で利用することができる。
【0014】
図2に示すように、本実施形態の永久磁石粒子ビーム装置は、粒子ビーム208を放出する粒子エミッタ202を備えている。粒子ビーム208は粒子流、例えば電子その他の帯電粒子によるそれで構成されている。本永久磁石粒子ビーム装置は、更に、エクストラクタ203A,203Bと、粒子ビーム208の凝縮を制御するための磁界を形成す
る永久磁石204A,204Bとを備えている。
【0015】
更に、本永久磁石粒子ビーム装置は、磁界内を運動する粒子ビーム208の運動エネルギを制御するた
め永久磁石204A,204Bと併置された、非磁性金属(或いはその他の非磁性導電体/半導電素材)部材206A,206B(即ち電極)を備えている。この素子206A,206Bは、磁気レンズの領域内で、その磁界分布に影響を及ぼすことなく粒子ビーム208の運動エネルギを制御する。この断面図では2個の部分206A,206Bとして示されているが、注記すべきことに、実施形態によっては、非磁性金属部材206A,206Bが、粒子ビーム208がその中を進んでいくチャネルを有する単一の部材とされることがある。例えば、非磁性金属部材206A,206Bを、非磁性金属素材からなるリング状その他の円筒形状部材とすることができる。
【0016】
非磁性金属部材206A,206Bは、永久磁石204A,204B又はその付近に連結(装着)することで
、永久磁石204A,204Bと併置すればよい。図示実施形態では非磁性金属部材206A,206Bが永久磁石204A,204Bに連結されている。具体的には、非磁性金属部材206A,206Bを永久磁石204A,204Bの前側(即ち粒子ビーム208が進入してくる開口を有する側)に連結させればよい。とはいえ、非磁性金属部材206A,206B
が永久磁石204A,204Bから分離された別の実施形態も想定されているので、それについては
図3に照らし後に詳述することにする。
【0017】
この目的を達成するには、磁界が最強な場所又はその付近に非磁性金属部材206A,206Bを配置すればよい。他方で、非磁性金属部材206A,206Bは非磁性金属素材であるので、その非磁性金属部材206A,206Bにより粒子ビーム208の静電ポテンシャル、ひいてはその磁界内で運動する粒子ビーム208の運動エネルギを
、永久磁石204A,204Bにより形成された磁界と干渉することなく(その磁界を変化又は劣化させることなく)、非磁性金属に関し既知な科学的特性に従い制御することができる。注記すべきことに、非磁性金属部材206A,206Bの形状により、磁気レンズ領域内又はその付近で粒子ビーム208の運動エネルギが制御される度合に対し、影響を及ぼすことができる。従って、粒子ビーム208の速度に所望程度まで影響を及ぼす形状になるよう非磁性金属部材206A,206Bを製造することで、本永久磁石粒子ビーム装置にチューナビリティを付与することができる。
【0018】
(ビーム絞り目的が付加された非磁性部材206A,206Bの具体例として)図示の通り、非磁性金属部材206A,206Bの第1開口、即ち粒子ビーム208をエミッタ202から入力として受け取る開口を、その非磁性金属部材206A,206Bの第2開口、即ちそれを介しその粒子ビーム208が出て行く開口よりも、大きくすることができる。この構成の非磁性金属部材206A,206Bによれば、非磁性金属部材206A,206B内を通じ粒子ビーム208を集束させることができる。無論、非磁性金属部材206A,206Bのこうした開口構成はオプション的なものであり、所望の速度及びビーム電流の粒子ビーム208が出力にてもたらされるような個別開口サイズで以て構成してもよい。
【0019】
図3には、一実施形態に係りチューナビリティ用非装着型非磁性金属部分を有する永久磁石粒子ビーム装置が描かれている。本永久磁石粒子ビーム装置は
図2との関連で上述した通りであるが、
図2に示す如く非磁性金属部材206A,206Bが永久磁石204A,204Bに電気的に接続される代わりに、
図3に示す実施形態では非磁性金属部材207A,207B
が永久磁石204A,204Bから電気的に分離されている。
【0020】
図2及び
図3に係る上述の実施形態では、それぞれ、ミニアチュアスケールの装置及び高真空と相性のよいアーキテクチャが開示されている。非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bの組込により、磁界のピーク又はその付近における静電ポテンシャルの制御が実現され、ひいてはビーム凝縮チューナビリティの能力が最大化されると共に永久磁石204A,204B上での運動エネルギ変化が低減されている。
【0021】
図2及び
図3に示した実施形態では、本永久磁石粒子ビーム装置に別体のエクストラクタを必ずしも具備させる必要がない。そう言えるのは、永久磁石204A,204B付近にある非磁性金属部材206A,206B又は207A,207B自体で上述の如くエクストラクタ,ビーム制限アパーチャ双方を構成可能だが、その機能がオプション的で使用事例によるからである。加えて、ビーム制限アパーチャの新たな在処、即ち非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bにより実現したときの在処(即ちエクストラクタ使用時にそうであったのとは違い、エミッタ202付近ではなく磁石付近にあるそれ)はエミッタ202から見て遠く離れており、より粒子エミッタに近かった従前の在処でのそれに比べ、僅かに大きな直径にすること及び一群の公差を緩くすることができる。これは製造可能性上の長所となりうる。無論、既に上述した通り、非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bに係るこのビーム制限アパーチャはオプション的である。
【0022】
とはいえ、オプションとして、
図2及び
図3に係る上述の永久磁石粒子ビーム装置に、非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bとは完全に別体なエクストラクタ(図示せず)を具備させると共に、非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bと永久磁石204A,204Bとの組合せによりもたらされる電極真空から、エクストラクタによりもたらされるチップエクストラクタ真空領域が分離されるよう、その永久磁石粒子ビーム装置を構成してもよい。この場合、
図1にて開示された従来技術でそうであったのとは違い、捕捉領域(トラップ容積)をもたらす半ば閉ざされた長い孔をエクストラクタに設ける必要がない。
図2及び
図3のアーキテクチャでありエクストラクタを備えるものであれば、今やそのエクストラクタを完全に別体の電極としビーム制限アパーチャを非磁性金属部材206A,206B又は207A,207B上に所在させることができるため、永久磁石粒子ビーム装置の全域に亘るコンダクタンス及び真空アーキテクチャ上、より高い柔軟性を提供することができる。
【0023】
永久磁石粒子ビーム装置にエクストラクタが備わっている場合、抽出場の変化と凝縮との間のクロストークの低減を実現することができる。例えば、エクストラクタ上での運動エネルギの変化は、従来型の永久磁石粒子ビーム装置アーキテクチャで観測されるそれに比べ、凝縮に対し弱めの効果を呈する。これは、
図2及び
図3に関し述べたアーキテクチャではエクストラクタが磁気レンズ磁界のピーク領域に所在していないためである。
【0024】
更に、凝縮の個別制御を静電圧により実現することができる。以前は、更に下流に位置する別体の静電凝縮レンズを付加する必要があった。個別の永久磁石レンズ電圧制御及び非磁性金属部材により、その機能がかなり低い所要調整電圧域で以て実現される。
【0025】
図2及び
図3に係る上述の永久磁石粒子ビーム装置によれば、製造可能性も向上させることができる。個別の非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bを、ビーム制限アパーチャ寸法の精密ピック個別選択により製造、選択及び位置決めすることができる。開口サイズがミクロンオーダの小サイズであるため、非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bをその製造ロットから「いいとこ取り」することで、ターゲット公差及びシステム対システム不均一性をより密に整合させることができる(1ミクロン=1μm)。
【0026】
更には、
図2及び
図3に係る上述の永久磁石粒子ビーム装置では省電力駆動電子回路を利用することができる。非磁性金属部材206A,206B又は207A,207Bが電圧により制御される。小さな漏れ電流及び静電容量のみが関連インピーダンスとなる。そのため、プログラミング速度が比較的高くなるのに加え、
図1を参照し上述したアーキテクチャを有する電子銃の場合はそうであったのと違い、大電流で高インダクタンスコイルを駆動する必要がない。
図2及び
図3のアーキテクチャでは除熱が必要でなく、凝縮の高速変化が可能となりうる。後者は将来の帯電粒子装置にとり価値あるものとなるであろう。
【0027】
図4には、
図1の従来型構成に対する
図2及び
図3の構成の効果例が描かれている。図示の通り、
図1の装置により実現されるビーム凝縮は、あるレベルの放出を保つのに必要な抽出場の強い関数であった。従って、このグラフ上ではその線が最も急峻な勾配(即ち結合)を呈している。
【0028】
図2の装置は、
図1の装置でもたらされるそれの勾配より約5倍小さな勾配を呈している。これは、本装置の下流ではより少量の凝縮補正しか必要とされないこと、より多くのチューナビリティが源泉で実現されること、並びにより豊かな軸方向公差バジェットが提供されることを意味している。
【0029】
図3の装置によれば、このグラフに示されているように、放出及び凝縮の全面的な制御を実現し、本装置の下流に更なる凝縮レンズを配置する必要性をなくすことができる。
【0030】
図5には、永久磁石粒子ビーム装置内粒子ビーム制御方法500が描かれている。本方法500は、粒子ビームエミッタにより帯電粒子ビームを放出する動作502を含んでいる。その後の動作504では、帯電粒子ビームの凝縮を制御するた
め永久磁石により形成された磁界内に、その帯電粒子ビームが送られる。更に、動作506では、その磁界内で運動する帯電粒子ビームの運動エネルギが、当
該永久磁石と併置されている非磁性導電体部材を用い制御される。
【0031】
様々な実施形態について上述したが、ご理解頂くべきことに、それらは専ら例として提示されたものであり限定ではない。即ち、好適な実施形態の拡がり及び技術的範囲は、上述の例示的諸実施形態のうちいずれによってであれ限定されるべきものではなく、後掲の特許請求の範囲及びそれらの均等物に専ら従い定義されるべきものである。