特許第6877886号(P6877886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877886
(24)【登録日】2021年5月6日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】成型炭用バインダーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/16 20060101AFI20210517BHJP
   C10B 53/08 20060101ALI20210517BHJP
   C10C 1/02 20060101ALI20210517BHJP
   C10L 5/28 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C10L5/16
   C10B53/08
   C10C1/02
   C10L5/28
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-62090(P2016-62090)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-171836(P2017-171836A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年9月11日
【審判番号】不服2020-958(P2020-958/J1)
【審判請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安楽 太介
(72)【発明者】
【氏名】長西 良
【合議体】
【審判長】 門前 浩一
【審判官】 川端 修
【審判官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−80302(JP,A)
【文献】 特開昭53−124530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/04
C10C 1/00
C10L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を乾留してコークスを製造する際に副生した固液成分から、スクレパーの起動後の
経過時間を制御し、
スクレパーの起動後の経過時間が100分以上であり、
タールとタール滓を回収し、これらを混合することにより、70℃での粘度が56mP
a・s以上330mPa・s以下であり、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(
A)が65%以上87%以下のものとして得ることを特徴とする成型炭用バインダーの製
造方法。
【請求項2】
常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)が44〜55%のものとして得る請
求項1に記載の成型炭用バインダーの製造方法。
【請求項3】
常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)を、常温から400℃迄加熱した際
の重量減少量(B)で除した値((A)/(B))が1.40〜1.60のものとして得
る請求項1または2に記載の成型炭用バインダーの製造方法。
【請求項4】
タールとタール滓の分離をタールデカンターにより行う請求項1〜3の何れか1項に記
載の成型炭用バインダーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型炭用バインダー及びその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、コークスを製造する際にコークス炉から副生物として生成されるコールタールとタール滓を原料とする成型炭製造用バインダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄用コークスは、粘結炭や非微粘結炭等の石炭の粉砕物(粉炭)を配合してコークス炉に装入し、これをコークス炉内において高温で乾留することにより製造される。コークスは、製鉄時の高炉内で粉化すると高炉内の通気性を悪化させることから、高い強度を有することが望ましい。コークスの強度を上げるためには、コークス原料中に一定の割合以上の粘結炭を含有させる必要がある。しかし、粘結炭は埋蔵量及び産出地が限られているため、近年はその入手が困難となってきている。
【0003】
これに対し、粘結炭に比べて粘結性の劣る微粘結炭や非粘結炭(以下、これらを総称して「非微粘結炭」という。)は、粘結炭に比べて埋蔵量が豊富かつ安価に入手することができる。このため、コークスの強度を維持しながら非微粘結炭をより多く配合する検討が従来より行われてきた。中でも、コークス原料として成型炭を使用する方法は、非微粘結炭をより多く使用することが可能となるばかりでなく、コークスの製造過程において、成型炭が膨張して周囲の粉炭部分を圧密化することにより、コークス強度を高めることが可能な方法であるため有用である。
【0004】
かかるコークス製造用成型炭の製造に際しては、単に粘結炭や非微粘結炭等の粉炭のみを成型したところで、成型炭としての形状を保持することが困難である。このため、一般に成型炭は粘結材(バインダー)と呼ばれる成分を粉炭と共に配合したものを成型することによって製造されている。通常、コークス製造用成型炭に用いる粘結材としては、石炭ピッチ、アスファルト、ロードタール等(特許文献1参照)や、タール、重質油、ピッチ類等(特許文献2、3参照)や、コールタール、アスファルトおよびタールやアスファルトを蒸留または重質化したピッチなどの瀝青物(特許文献4参照)等が用いられている。
【0005】
一方、石炭を乾留してコークスを製造する際には、コークス炉ガスが多量に副生される。コークス炉ガスの主成分は水素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素などであるが、これらの主成分の他に、タール分やアンモニア、硫化水素、メタン以外の炭化水素ガス、粗軽油成分、シアン化水素、その他多数の成分が含まれている。
コークス炉ガスは、ガス精製設備により精製されてエネルギー源として利用されるが、このガス精製設備においてコークス炉ガスを冷却した際には多量の固液混合物が発生する。この固液混合物はタールデカンターにおいて、水分、タール、タールと固形分を含有するタール滓に静置分離され、分別回収される。
【0006】
このうち液状物であるタールは、蒸留等の工程を経ることによりコールタールとして各種用途に有効利用される。具体的には、前記の成型炭におけるバインダー成分や、コークス化することにより炭素電極用の材料として利用される。水分及びタールを回収した残渣であるタール滓は半固形物であり、原料炭に添加することで製鉄用コークスの原料として利用される他、微粉砕することで燃料として利用されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−80480号公報
【特許文献2】特開平10−130653号公報
【特許文献3】特開2007−284557号公報
【特許文献4】特開2011−26468号公報
【特許文献5】特開2010−209165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、コークスを製造する際に副生されるタール及びタール滓は、それぞれ異なる目的に利用されている。しかしながら、タールはバインダーや電極材料の原料等として積極的に利用されている一方、タール滓は産業廃棄物として処理される他、主に原料炭に添加することで製鉄用コークスの原料として利用されているに過ぎなかった。
前記したタールデカンターでは、コークス炉ガスを冷却して得られた固液混合物を経時的に層分離してタール及びタール滓を回収するが、タール成分をより多く回収するためには静置分離に長時間を要していた。また、より多くタールを回収すると、残渣であるタール滓は固形分量が増えるため、スクレパーを用いてタールデカンター底部からすくい上げるように回収することが必要となり、それによって設備運転上負荷が掛かるなどの問題があった。
更には、タールを回収した後のタール滓の組成は安定していないため、タール滓を原料炭に添加する際には、品質の均一性に問題があった。
【0009】
以上の通り、従来はタール滓を原料として有効に利用することについては十分に検討がなされていなかった。このため、如何なる特性のタール滓とすれば、如何なる用途の原料として有効に利用可能であるかについても知られていなかった。
本発明は、従来は産業廃棄物や燃料としての利用が主であったタール滓を、成型炭用バインダーとして有効に利用することを目的とする。より具体的には、本発明は、タール滓を成型炭製造用に適したバインダーとして使用することを目的とする。
また本発明は、タールデカンターからの回収に際して設備運転上負荷のかかるタール滓を、負荷をかけずに回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来は利用価値の高いタールをより多く回収していたため、残渣としてのタール滓の利用価値は極めて低いという一般常識に対し、敢えてタールとしての回収割合を抑え、タール成分の一部をタール滓として回収すれば、タール滓も成型炭用バインダーとして有効利用が可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は以下の[1]〜[9]に存する。
[1] タールとタール滓との混合物からなる成型炭用バインダーであって、70℃での粘度が330mPa・s以下であり、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)が87%以下である成型炭用バインダー。
[2] 常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)が44〜55%である[1]に記載の成型炭用バインダー。
[3] 常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)を、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)で除した値((A)/(B))が1.40〜1.60である[1]又は[2]に記載の成型炭用バインダー。
[4] 粒度3mm以下の固形分の含有割合が5〜30重量%である[1]〜[3]の何れかに記載の成型炭用バインダー。
[5] 石炭を乾留してコークスを製造する際に副生した固液成分からタールとタール滓を回収し、これらを混合することにより、70℃での粘度が330mPa・s以下であり、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)が87%以下のものとして得ること
を特徴とする成型炭用バインダーの製造方法。
[6] 常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)が44〜55%のものとして得る[5]に記載の成型炭用バインダーの製造方法。
[7] 常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)を、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)で除した値((A)/(B))が1.40〜1.60のものとして得る[5]又は[6]に記載の成型炭用バインダーの製造方法。
[8] タールとタール滓の分離をタールデカンターにより行う[5]〜[7]の何れかに記載の成型炭用バインダーの製造方法。
[9] 粉炭とバインダーとを含有するコークス製造用成型炭の製造方法であって、バインダーとして[1]〜[4]の何れかに記載の成型炭用バインダーを用いるコークス製造用成型炭の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来は産業廃棄物や燃料としての利用が主であったタール滓を、成型炭用バインダーとして有効に利用する方法を提供することができる。
本発明によれば、タール滓を成型炭製造用に適したバインダーとして使用する方法を提供することができる。
本発明によれば、タールデカンターからの回収に設備運転上負荷のかかるタール滓を、より負荷をかけずに回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】タールデカンターを示す模式図。
図2】タールデカンターにおいてタール滓を回収する機構を示す模式図。
図3】実施例で使用した成型機および圧壊強度の評価装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。
なお、以下で用いる用語については、特に明示したもの以外はJIS M0104(1984)に基づくものとする。
【0015】
〔タール成分の回収〕
コークスは通常、石炭を乾留することにより製造される。乾留条件は限定されないが、通常約1000〜1400℃、高炉用コークスでは約1100〜1300℃の温度範囲で行われ、乾留後にコークス炉から押し出されて冷却することによりコークスが得られる。コークス炉では、石炭の乾留によってコークスが製造されるとともに、乾留ガスとしてタール成分及びコークス炉ガスが生成する。通常、原料石炭に対して約70質量%がコークスとなり、約30質量%が高温(約500〜800℃)の乾留ガスとしてコークス炉から排出され、タール成分及びコークス炉ガスとなる。
【0016】
タール成分及びコークス炉ガスはコークス炉の炭化室から上昇管へ排出され、水冷(フラッシング)することにより100℃以下、通常80〜85℃程度に冷却されて気体成分(コークス炉ガス)とそれ以外に分離される。
タール成分及びコークス炉ガスは、コークス炉に沿って配設された集気管を通って、それぞれガス精製設備、タール精製設備(タールデカンター)へと送られる。このうちタール成分は、冷却水とともにタールデカンターに送られ、冷却水、タール、タール滓に分離された後、適宜蒸留されて各種の分留品やピッチに精製される。
【0017】
タールの成分は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の軽油分;タール酸類やナフタレン
等のカルボル油分;ナフタレン、メチルナフタレン、高沸点タール酸やタール塩基等の中油分;洗浄油分;アントラセン等のアントラセン油分;クレオソート油等が含まれている。
本発明におけるタール及びタール滓(以下、これらを総称して「タール成分」という場合がある。)は、石炭を乾留してコークスを製造する際に副生した固液成分であるが、タールとタール滓とは明確に区別されるものではない。通常、実質的に固形分を含まない液状物をタール、固形物(スラッジ)を含むものをタール滓という。タール滓を構成する固形分としては、石炭や一部熱分解を受けた石炭が含まれる。
【0018】
〔タールデカンター〕
前記の通りコークス炉ガスから分離された水及びタール成分は、タールデカンターにおいて、水分、タール、タール滓に静置分離されて分別回収される。タールデカンター底部にはタール滓を掻き上げるためのスクレパーが設置されており、それを適宜稼働させ、底部に沈降したタール滓をタールデカンター系外へと分離回収する。スクレパーは、タールデカンター内部を稼働する際にタール部分を通過するため、分離回収されたタール滓にはタール分が一部含有されることとなる。
【0019】
図1及び図2にタールデカンターの模式図を示す。タールデカンター1は略直方体形状の貯槽であり、水分、タール、タール滓の混合物の流入口2、水分排水口3(堰)、タール抜出口4、タール滓を回収するスクレパー6等を備えている。タールデカンター中の固液混合物は、タールデカンター内部で上から順に水分a、タールb、タール滓cに経時的に分離させることができる。
分離した水分は、タールデカンター上部に設置された水分排水口3(堰)からオーバーフローし、配管にてタンクへと送られる。また、分離したタールbはタールデカンター側面に設置したタール抜出口4の配管より抜きだしポンプにて蒸留設備へと送液される。
【0020】
タールデカンターの底部に沈降したタール滓cは、スクレパー6にて物理的に掻き上げられタールデカンター外に設置されたタール滓受器8に貯蔵される。スクレパー6の運転は、通常、定期的に一定時間稼働させることで、底部に沈降したタール滓を掻き上げ、タールデカンター外に設置したタール滓受器8へ移すことで行われる。スクレパー6を稼働させると、初期にはタールの含有量が少ないタール滓が回収されるが、経時的にタールの含有量が多いタール滓が回収されることとなる。
【0021】
〔タールとタール滓との混合物からなる成型炭用バインダー〕
本発明の成型炭用バインダーは、タールとタール滓との混合物であって、70℃での粘度が330mPa・s以下であり、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)が87%以下であるという特定の性状を有する。以下に、その詳細を示す。
【0022】
本発明の成型炭用バインダーは、70℃における粘度の下限は限定されないが、通常56mPa・s以上である。70℃における粘度が56mPa・s未満であると、成型時に成型機の型部分に付着して成型炭の歩留まりが低下し、生産性が悪くなる場合がある。また、70℃における粘度は前記と同様の理由により、好ましくは60mPa・s以上、より好ましくは70mPa・s以上である。
一方、本発明の成型炭用バインダーは、70℃における粘度の上限が330mPa・s以下である。70℃における粘度が330mPa・sを超過すると、成型原料炭と成型炭用バインダーとの混合が困難となるため好ましくない。また、70℃における粘度は前記と同様の理由により、好ましくは300mPa・s以下、より好ましくは250mPa・s以下、更に好ましくは200mPa・s以下である。
ここで、70℃における粘度は、東機産業株式会社製TVC−7型粘度計で測定した値を用いる。
【0023】
本発明の成型炭用バインダーは、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)の下限は限定されないが、通常65%以上である。常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)が65%未満の場合は、成型原料炭と成型炭用バインダーとの混合が困難となる場合がある。また、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)は、前記と同様の理由により、好ましくは70%以上、より好ましくは76%以上である。
一方、本発明の成型炭用バインダーは、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)の上限が87%以下である。常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)が87%を超過すると、成型時に成型機の型部分に付着して成型炭の歩留まりが低下し、生産性が悪くなるため好ましくない。また、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)は前記と同様の理由により、好ましくは85%以下、より好ましくは83%以下である。
ここで、常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)は、JIS M8812に基づいて測定することが出来る。
【0024】
本発明の成型炭用バインダーは、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)の下限は限定されないが、通常44%以上である。常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)が44%未満の場合は、成型原料炭と成型炭用バインダーとの混合が困難となる場合がある。また、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)は、前記と同様の理由により、好ましくは47%以上、より好ましくは50%以上である。
一方、本発明の成型炭用バインダーは、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)の上限は限定されないが、好ましくは55%以下、より好ましくは54%以下である。常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)が前記の上限を超える場合は、成型時に成型機の型部分に付着して成型炭の歩留まりが低下し、生産性が悪くなる場合がある。
ここで、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)は、JIS M8812に基づき、炉の温度を400℃に設定して測定することが出来る。
【0025】
タール滓は、コークス粉、石炭粉などからなる粒状の炭素質にタールが付着した状態の物質である。このためタールとタール滓とを比較すれば、タール滓の方が加熱した際の重量減少量が小さいことは容易に推考できる。しかしながら、「常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)」と「常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)」とを比較すれば、非常に高温の加熱条件である前者の評価では、タールとタール滓との相違は小さいと考えられた。しかしながら本発明者らの検討結果によれば、意外にも「常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)」の評価においてタールとタール滓との間に多きな差異が生じており、これを適宜混合して特定範囲内とすることにより、成型炭のバインダーとして最適なものとすることが可能であることを見出したものである。
【0026】
また、以下に示す通り、異なる加熱温度による重量減少量の相違を、相対比として規定することによって、成型炭のバインダーとして最適なものとすることが可能な範囲を見出すことが出来た。
本発明の成型炭用バインダーは、「常温から900℃迄加熱した際の重量減少量(A)を、常温から400℃迄加熱した際の重量減少量(B)で除した値」(以下、「(A)/(B)」として示す場合がある。)の下限は限定されないが、通常1.40以上である。(A)/(B)が1.40未満の場合は、成型原料炭と成型炭用バインダーとの混合が困難となる場合がある。また、(A)/(B)は、前記と同様の理由により、好ましくは1.44以上、より好ましくは1.48以上である。
一方、本発明の成型炭用バインダーは、(A)/(B)の上限は限定されないが、通常1.60以下である。(A)/(B)が1.60を超過すると、成型時に成型機の型部分に付着して成型炭の歩留まりが低下し、生産性が悪くなる場合がある。また、(A)/(
B)は前記と同様の理由により、好ましくは1.55以下、より好ましくは1.50以下である。
【0027】
タールとタール滓とを混合することによって上記の特性を有する本発明の成型炭用バインダーを得る方法は限定されないが、具体的には、タールとタール滓とをそれぞれ回収した後、これらを混合する方法でもよいし、タールとタール滓との分離が不完全な状態で回収することによってもよい。後者の方法としては、タール滓が沈降分離する前の段階でタール層から回収する方法や、タール滓を回収する際にタールを同伴して回収する方法等が挙げられる。すなわち、独立した混合工程を有さずに予め混合された状態のものを回収することも、本発明における「混合」に包含されるものである。
【0028】
特に、本発明の成型炭用バインダーを得る方法としては、上述の方法のうち、タール滓を回収する際にタールを同伴して回収する方法が好ましい。この場合、具体的には、スクレパーの稼働時間を延長し、タール滓中のタール含有量を増加させる方法が挙げられる。また、タールデカンターにおける静置時間を短くすることによっても同様の効果が得られる。このようにしてタール滓を回収することにより、上記の特性を有する本発明の成型炭用バインダーを調整することが容易となり、しかもスクレパーの動力負荷を低減させることも可能となる。
【0029】
なお、本発明の成型炭用バインダーは、タール滓を粉砕処理した後にこれをタールと混合してもよいし、タールとタール滓との混合物を粉砕処理してもよい。前記の通り、タール滓は、コークス粉、石炭粉などからなる粒状の炭素質にタールが付着した状態の物質であるため、粘度が高く流動性に乏しいものであるが、粉砕機を用いて粉砕処理を行うことによって、上記した粘度特性や重量減少量特性を調整することもできる。
【0030】
本発明の成型炭用バインダーは、粒度3mm以下の固形分量の下限は限定されないが、通常5重量%以上である。粒度3mm以下の固形分量が5重量%未満の場合は、成型時に成型機の型部分に付着して成型炭の歩留まりが低下し、生産性が悪くなる場合がある。また、粒度3mm以下の固形分量は、前記と同様の理由により、好ましくは8重量%以上、より好ましくは11重量%以上である。
一方、本発明の成型炭用バインダーは、粒度3mm以下の固形分量の上限は限定されないが、通常30重量%以下である。粒度3mm以下の固形分量が30重量%を超過すると、成型原料炭と成型炭用バインダーとの混合が困難となる場合がある。また、粒度3mm以下の固形分量は前記と同様の理由により、好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
ここで、粒度3mm以下の固形分量は、成型炭用バインダーをベンゼン試薬にて約10分洗浄後、目開き幅3mmの篩を通過する固形分の重量を計測することで測定することが出来る。
【0031】
〔成型炭〕
以下に、本発明のバインダーを用いたコークス製造用成型炭(以下、「コークス製造用成型炭」を単に「成型炭」という場合がある)及びその製造方法について詳述する。本発明における成型炭は、その原料として原料炭及びバインダーを少なくとも含有し、その他成分を任意に用いることができる。
【0032】
[成型原料炭]
本発明が対象とする成型炭は、原料炭(成型原料炭)として粉炭を少なくとも含有する。また、粉炭を主成分とすることが好ましい。ここで「主成分」とは50重量%以上を意味する。成型原料炭中の粉炭の含有割合は、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
本発明において「粉炭」とは、粉状の石炭を意味し、通常、粒径が3mm以下の石炭粒子を70〜90重量%程度の範囲で含有する。すなわち、使用する原料炭の粒径が前記範囲に該当するものである場合は、原料炭が全て粉炭で構成されていることを意味する。なお、粉炭は石炭を粉砕することによって一般的に製造される。
【0033】
本発明に用いる粉炭としては、前記に該当するものであれば制限は無いが、粘結炭と非微粘結炭とを配合して用いることが好ましい。
前記粘結炭とは、加熱したときに軟化溶融する性質(粘結性)をもつ石炭をいう。コークスは、製鉄時における高炉内の充填層の圧力に耐えて高い空隙率を保つのに十分な強度が必要であるとともに、微粉の発生を抑制しうる高い耐摩耗性が必要であるが、この特性を付与するためにコークス原料として粘結炭を用いることが好ましい。
【0034】
非微粘結炭とは、単独では加熱しても粘結性を示さない、又は示してもその程度はごく僅かである石炭化度の低い石炭をいう。この非微粘結炭は世界的に粘結炭より産出量が多く、粘結炭より安価に入手することができる。
前記非微粘結炭の反射率は特に限定されないが、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.50〜0.79%であり、更に好ましくは0.60〜0.78%である。なお、非微粘結炭の反射率とは、ビトリニットの平均最大反射率であり、たとえば、JIS M8816で規定される方法(反射率測定方法)で測定することができる。
【0035】
非微粘結炭の最高流動度は特に限定されないが、好ましくは0.9〜4.0であり、より好ましくは1.0〜2.7である。非微粘結炭の最高流動度とは、石炭の流動性を評価する指標の一つであり、これにより石炭のコークス化性を評価することができる。最高流動度はJIS M8801で規定される方法(ギーセラープラストメーター法)で測定することができる。なお、上述の数値範囲は本測定法で得られた数値を常用対数で換算した値(単位:Log DDPM(Log Dial Division Per Minute))である。
【0036】
非微粘結炭の揮発分は特に限定されないが、好ましくは30〜50重量%であり、より好ましくは32〜40重量%であり、更に好ましくは34〜38重量%である。なお、揮発分とは、試料を900℃で7分間加熱したときの減量の試料に対する重量百分率を求め、これから同時に定量した水分を減じたものであり、たとえばJIS M8812で規定される方法(揮発分定量方法)で測定することができる。
【0037】
原料炭(成型原料炭)中の前記粘結炭の含有量(配合割合)は限定されないが、10〜40重量%が好ましく、15〜35重量%がより好ましい。また、原料炭(成型原料炭)中の前記非微粘結炭の配合量は限定されないが、60〜90重量%が好ましく、65〜85重量%がより好ましい。粉炭中の粘結炭の配合割合が上記下限未満である場合は、得られるコークスの強度が低下する傾向がある。一方、原料炭(成型原料炭)中の粘結炭の配合割合が上記上限を超過する場合は、コークス製造において炉内の閉塞を生じる場合がある。
【0038】
前記の通り、非微粘結炭は産出量が多く、安価に入手することができるため、コークスの原料として極力多く用いることが望ましいが、一方で非微粘結炭は粘結性に乏しいため、コークス原料中の含有量を増加させるとコークスの強度が低下する傾向がある。
コークス原料炭として非微粘結炭の使用比率を増大させる手法としては、成型炭の原料として高い含有割合で用いることによって達成することができる。更には後述する通り、成型炭の原料としてバインダーを最適化して添加することも効果的である。
【0039】
[バインダー]
本発明が対象とする成型炭は、原料炭とともに少なくとも、タールとタール滓とを混合することによって得られる本発明の成型炭用バインダーを含有する。バインダーとしては、本発明の成型炭用バインダー以外のものを併用することもできる。具体的には、例えば、ボトムピッチや、石油ピッチ(アスファルトピッチ)、石油アスファルト等の瀝青物、溶剤精製炭(溶剤脱瀝ピッチ)等が挙げられる。
ここで本発明において「ピッチ」「石油ピッチ」とは、石油を蒸留したときに残るタール状のアスファルトを、更に真空蒸留して残る黒色の樹脂状の物質、又はそのアスファルトを意味する。
また、ボトムピッチとは、コールタールを蒸留した際に、軽質分を留去して得られる重質成分(残留成分)を意味し、一般に「軟ピッチ」、「中ピッチ」、「硬ピッチ」と呼ばれるものが該当する。「軟ピッチ」、「中ピッチ」、「硬ピッチ」とは、コールタール常圧蒸留物を軟化点(環球法)で区分した際に、それぞれ「70℃以下」、「70〜85℃」、「85℃以上」の留分を意味する。
【0040】
成型炭中のバインダーの含有量は限定されないが、その下限が通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。成型炭中のバインダーの含有量が前記下限未満であると、原料炭の結着が不十分となり、成型炭の強度が低下したり、成型炭の形状を保持することが困難となる傾向がある。更には、得られるコークスの強度も低下する傾向がある。
また、成型炭中のバインダーの含有量の上限も限定されないが、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは6重量%以下である。成型炭中のバインダーの含有量が前記上限を超過すると、コークス炉内にカーボンが付着し、炉の閉塞が生じる場合がある。
【0041】
成型炭に用いられる全バインダーのうち本発明の成型炭用バインダーの含有割合は限定されないが、その下限が通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。また、全バインダーのうち本発明の成型炭用バインダーの含有割合の上限も限定されないが、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは6重量%以下である。
【0042】
バインダーとして石油ピッチを使用する場合の、成型炭原料中の含有量は特に限定されないが、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。石油ピッチの含有量が前記下限未満の場合は、成型炭の強度が低下する傾向がある。一方、石油ピッチの含有量は、5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましい。石油ピッチの含有量が前記上限を超えると、コークスの生産性(歩留まり)が低下する傾向がある。
【0043】
〔成型炭の製造方法〕
本発明における成型炭の製造方法は、原料炭としての粉炭とバインダーを混合し、成型することによって行われ、主として以下の工程を有する。ここで工程1は任意である。
[工程1]成型原料炭を混合する。
[工程2]配合された成型原料炭とバインダーとを混合する。
[工程3]工程2の配合物を成型する。
【0044】
[工程1]
工程1は原料炭を配合し混合して粉炭とする工程であり、原料炭として前記の粘結炭及び非微粘結炭を適宜配合し混合する。具体的には、原料となる石炭を移送する過程で自然配合することで混合してもよいが、均質化するためには混練機を用いることが好ましい。また、予め粉砕されている粘結炭及び非微粘結炭を配合して粉炭としてもよいし、原料炭を配合した後に、これを粉砕して粉炭としてもよい。通常、原料炭の粉砕には粉砕機が使用される。
原料炭を混合する際の温度は限定されないが、通常20〜80℃である。また、原料炭を混合する時間も限定されないが、通常1〜10分である。
なお、原料炭の混合及び粉砕は、この工程及び設備を成型炭製造用に独立して設けてもよいが、成型原料炭以外のコークス原料炭を配合、粉砕する工程及び設備をそのまま採用することもできる。すなわち、コークス原料炭を混合、粉砕する工程から、その一部を成型原料炭(粉炭)として分取すればよい。
【0045】
[工程2]
工程2は、原料炭としての粉炭とバインダーを混合する工程である。原料炭とバインダーとを混合する方法は限定されないが、通常は混合装置(混合機)を用いて行われる。混合機としては、例えば、回転円板型混合機である新東工業社製「ミックスマラー混合機」、ケイハン社製「KBミキサー混合機」或いは、円筒横型混合機である中央機工社製「レディゲミキサー」、太平洋機工社製「アペックスミキサー」等が挙げられる。
なお、バインダーとして2種以上を用いる場合は、予めこれらを混合して用いてもよいし、一方又は一部は工程1において粉炭と混合しておき、他方又は残部を工程2で混合してもよい。
【0046】
粉炭とバインダーを混合する際の温度は特に限定されないが、20℃以上が好ましく、より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは60℃以上である。混合する際の温度が前記下限未満であると、成型炭の強度が低下し、成型炭の形状を保持することが困難となる傾向がある。
一方、温度の上限は特に限定されないが、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。混合する際の温度が前記上限を超過すると、バインダー成分から引火性のガスが発生して混合機内部で爆発の恐れが生じ、混合機内部へ窒素などの不活性な気体を注入する必要性が生じる場合がある。
なお、混合機の温度は使用する熱媒体の温度で調整することができる。
【0047】
[工程3]
工程3は、工程2で得られた配合物を成型して成型炭を得る工程である。成型炭を成型する方法は限定されないが、通常、成型炭の形状が凹型となった金型や木枠、又は加圧成型機等を用いた成型が行われる。加圧成型機を使用すると、連続的に大量生産出来るだけでなく、大量の成型炭を一度にムラ無く圧密することができ、粉炭粒子の接着性を向上させることができる。
加圧成型機の方式や機構は限定されないが、成型炭の形状が形成された凹部を有する1対のローラー型の金型を使用し、該ローラーが回転する際に成型炭原料が凹部に充填されて圧縮される機構であることが好ましい。
このような加圧成型機による加圧条件は特に限定されないが、圧力(線圧)0.8〜2.0t/cmが好ましく、1.0〜1.2t/cmがより好ましい。加圧が上記範囲より小さいと、十分な強度を有する成型炭が得られない場合がある。
【0048】
成型する際の原料に含まれる水分量は限定されないが、0.1重量%以上が好ましく、より好ましくは1重量%以上であり、更に好ましくは2重量%以上である。一方、水分量の上限は特に限定されないが、15重量%以下が好ましく、より好ましくは13重量%以下であり、更に好ましくは12重量%以下である。この範囲を外れると成型炭としての強度が発現しにくくなる傾向がある。
【0049】
〔成型炭〕
本発明が対象とする成型炭は、コークス製造用の成型炭として用いる限り使途は限定されないが、製鉄用に好適に用いることができ、特に高炉用に好適に用いることができる。
本発明の製造方法によって得られた成型炭の形状や諸特性は限定されないが、具体的に
は以下の通り例示される。
【0050】
成型炭の形状は、具体的には、例えば、マセック型、タマゴ型、俵型、アーモンド型、枕型、立方体、球体、直方体、円柱、円すい等の形状が例示される。更には、上記形状を本体として吐出した部位が設けられていてもよい。好ましくは、成型加工のし易さの観点では、マセック型、立方体、直方体などが好ましく、生産性、強度、石炭塔内のコークス原料炭の山での転がり抑制の観点からは、すい状、円柱状等の柱状などが好ましい。
成型炭の厚さは、通常10〜50mmであり、好ましくは24〜35mmである。成型炭の厚さが大き過ぎると、成型加工時に成型機からの剥離性が低下する傾向がある。一方、成型炭の厚さが小さすぎると、生産性が低下する傾向があり、また、成型炭を用いることによるコークス品質の向上効果が低減する傾向がある。なお、成型炭の厚さは、成型炭本体(突起部位等を除く)の最短径を意味する。
【0051】
成型炭のアスペクト比は限定されないが、好ましくは1.0〜3.5であり、より好ましくは1.5〜3.0、更に好ましくは2.0〜2.7である。アスペクト比が大き過ぎると、成型加工が困難となる場合や、成型炭が折れ易くなる場合がある。また、アスペクト比が小さ過ぎると、コークス炉の石炭塔や装入車へコークス原料炭と成型炭との混合物を投入する際に不均一化が生じる場合がある。本発明においてアスペクト比とは、成型炭の最大長(最大径)と最短径との比(最大長/最短径)を意味する。
【0052】
成型炭の最大長は特に限定されないが、100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましい。成型炭の最大長が100mmを超える場合は、成型炭の強度が低下する傾向がある。一方、成型炭の最大長の下限は、前記した成型炭の厚さの下限に相当し、好ましい下限も同様である。
【0053】
成型炭の密度は限定されないが、通常0.90〜1.40g/cm、好ましくは1.00〜1.35g/cm、より好ましくは1.05〜1.30g/cm、更に好ましくは1.10〜1.28g/cmである。成型炭の密度が前記下限値未満であると成型炭の強度が不十分となり、割れが発生する場合や、得られるコークスの強度が低下する傾向がある。一方、成型炭の密度が前記上限を超える場合は、装入重量が過大となり、各作業機械が過積載となる場合がある。
【0054】
〔コークスの製造方法〕
本発明の製造方法によって得られた成型炭は、通常、コークス原料炭と混合されてコークス炉内へ装入される。
コークス原料として粉炭とともに成型炭を用いることにより、コークスの強度が向上する。その主な理由は、以下の通りである。(1)コークス原料炭の一部を成型炭とすることにより、石炭粒子間の間隔が狭くなり粘結性が向上する。(2)コークス製造時に成型炭部の膨張性が増大することにより、周囲にある粉炭部の圧密化が促進され、粉炭部の粘結性も向上する。(3)成型炭に含有される粘結材により、粉炭の軟化溶融性が向上する。
【0055】
以下に、成型炭を用いたコークスの製造法について具体例を説明する。
まず、原料ヤード(貯炭場)よりベルトコンベアー等を用いて原料となる石炭を配合槽へ移送する。コークスの原料となる石炭は前記の通り、粘結炭や非微粘結炭である。配合する際の温度や配合時間は、前記した成型炭を製造する際の工程1と同様である。配合槽にて目的とする配合割合で原料の石炭を配合した後、これを粉砕機で粉砕することにより、コークス原料炭としての粉炭を得ることが出来る。また、石炭を予め粉砕しておき、これを配合してもよい。
なお、前述の通り、ここで配合、粉砕したコークス原料炭の一部を分取して成型原料炭
として用いることが出来る。
【0056】
上記の方法で得られた粉炭と、本発明の方法によって製造された成型炭は、所定の割合で混合された後、コークス用原料炭として石炭塔へ投入され、ここからコークス炉へ装入される。
粉炭と成型炭との混合割合は限定されないが、成型炭を通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上で配合することが望ましく、一方、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下で配合することが望ましい。成型炭の配合割合が前記下限未満であると、成型炭を石炭塔に導入する際に、石炭塔内で成型炭の存在割合に偏り(偏析)が生じる場合がある。一方、成型炭の配合割合が前記上限を超過すると、得られるコークスの強度が低下する場合がある。
【0057】
上記の通り、成型炭は成型されてからコークス炉へ搬送される迄の間に一度石炭塔などの貯槽に貯蔵されるため、大量の成型炭が貯蔵されると、成型炭はその重さ分だけの荷重を受ける。また、成型炭のコークス炉への搬送は、通常、ベルトコンベアーで搬送されるが、ベルトコンベアーのベルトの乗り継ぎでの衝撃もある。このような衝撃や荷重などを受けるため、成型炭の強度が低いと粉化の度合いが大きくなり、結果としてコークス強度の向上効果が低下する。
これに対し、本発明の製造方法により得られた成型炭は、従来の方法で製造された成型炭と同等以上の強度を有することが可能であり、更には、成型炭の形状を最適化したり、成型炭の製造方法を最適化することにより、より強度の高いコークスを製造することができる。このため、上記のような問題点を解消することが出来る。
【0058】
コークス炉へ装入されたコークス用原料炭(粉炭と成型炭との配合物)をコークス炉内で乾留することにより、コークスが得られる。この乾留時の条件としては公知の条件が適宜採用され、通常、1100〜1300℃で18〜20時間の乾留を行う。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例について以下に示す。なお、以下の実施例は本発明の効果を確認するための例であり、本発明はこの例に限定されるものではない。本発明は本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0060】
[成型炭の原料]
<成型原料炭>
以下の成型原料炭をそれぞれ粉砕し、粉炭(粒径が3mm以下のものを70〜90重量%含有)としたものを使用した。粘結炭を30重量%、非微粘結炭を70重量%の割合で配合し、水分を9.5重量%に調整した配合炭とした。
・粘結炭 : 反射率1.46%、最高流動度2.03Log DDPM、揮発分18.6%
・非微粘結炭: 反射率0.70%、最高流動度2.64Log DDPM、揮発分36.4%
<バインダー>
・アスファルトピッチ: 石油由来のアスファルトソルベントピッチ(ASP)を使用した(軟化点:252℃)。
【0061】
[成型炭用バインダーの性状]
<70℃での粘度>
東機産業株式会社製、TVC−7型粘度計を使用し、70℃で測定した。
<900℃迄の加熱減少量(A)>
JIS M8812に基づいて測定した。
<400℃迄の加熱減少量(B)>
JIS M8812に基づき、炉の温度を400℃に設定して測定した。
<粒度3mm以下の固形分量>
成型炭用バインダーをベンゼン試薬にて約10分洗浄後、目開き幅3mmの篩を通過する固形分の重量を計測することで測定した。
【0062】
<成型炭の圧壊強度試験>
成型原料炭、成型炭用バインダー及びアスファルトピッチを混練して得た成型炭原料(原料混合物)を、図3(a)に示す成型機に約20g装入し、40MPaにて30秒間加圧することにより、直径30mm、高さ30mmの円筒形状の成型炭を得た。
得られた成型炭を、図3(b)に示す圧壊試験機(今田製作所製、SV−55C−20M型)に設置し、圧縮速度30mm/minの速度で圧縮して破壊時の強度を測定した。なお、成型炭は図3(b)に示す通り、円形断面が縦方向となるように設置した。
【0063】
[実施例1]
コークス炉のガス精製設備から分離された冷却水及びタール成分を図1に示すタールデカンターに供給し、常温にて十分に静置することにより、水、タール及びタール滓に分離した。分離後、タール層からタールを、底部からタール滓をそれぞれ回収した。
得られたタールとタール滓を、配合割合が90:10となるように十分に混合して成型炭用バインダーを調整した。
得られた成型炭用バインダーの性状を分析した結果、70℃での粘度が80mPa・s、900℃迄の加熱減少量(A)が81.0重量%、400℃迄の加熱減少量(B)が54.8重量%であった。
前記の成型原料炭97重量部に対し、上記で得たバインダーを5重量部、アスファルトピッチを3重量部加えて手作業で約2分間混練した。
混練した原料混合物を用い、前記した方法で成型炭を製造し、圧壊強度を測定した結果、71.0Nであった。
【0064】
[実施例2、3、比較例2]
タールとタール滓との配合割合を表−1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして成型炭用バインダーをそれぞれ調整した。得られた成型炭用バインダーの性状を実施例1と同様に測定した結果を表−1に示す。
得られた成型炭用バインダーを使用し、実施例1と同様にして成型炭を製造し、圧壊強度を測定した結果を表−1に示す。
【0065】
[比較例1]
タールとタール滓とを配合した成型炭用バインダーを用いずに、タールをそのまま成型炭用バインダーとして用いた。タールの性状を実施例1と同様に測定した結果を表−1に示す。
成型炭用バインダーとしてタールを使用し、実施例1と同様にして成型炭を製造し、圧壊強度を測定した結果を表−1に示す。
【0066】
[比較例3]
タールとタール滓とを配合した成型炭用バインダーを用いずに、タール滓をそのまま成型炭用バインダーとして用いた。タール滓の性状を実施例1と同様に測定した結果を表−1に示す。
成型炭用バインダーとしてタール滓を使用し、実施例1と同様にして成型炭を製造し、圧壊強度を測定した結果を表−1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表−1に示す通り、タールとタール滓との配合割合を調節することにより、70℃での粘度、400℃迄の重量減少量、900℃迄の重量減少量と特定範囲とすることが出来た。これらの特性が所定の範囲内となる実施例1〜3の成型炭用バインダーを使用した成型炭は、比較例1〜3の成型炭用バインダーを使用した成型炭に較べて圧壊強度が有意に高いことが確認された。
【0069】
[実施例4]
コークス炉のガス精製設備から分離された冷却水及びタール成分を図1に示すタールデカンターに供給し、4時間静置した。その後、図2に示すタールデカンターのスクレパーを起動して連続運転した。スクレパー起動後の所定時間経過後に(タールが混合されている)タール滓をサンプリングし、実施例1と同様に70℃での粘度を測定した。
得られた70℃での粘度の値と、実施例1〜3及び比較例2で測定した70℃での粘度を対比し、これに相当するスクレパー起動時間のサンプルを確認した結果を表−1に示す。実施例1〜3及び比較例2で作成した成型炭用バインダーは、タールデカンターから回収したタールとタール滓とを混合して得たものであるが、表−1の結果から、同等の性状を有する成型炭用バインダーは、タールデカンターのスクレパー起動時間を調節してタール滓として回収することによっても達成出来ることが判った。
【符号の説明】
【0070】
1 タールデカンター
2 固液混合物流入口
3 水分排出口
4 タール抜出口
5 タール滓排出口
6 スクレパー
7 スクレパー駆動部
8 タール滓受器
9 評価用成型機
10 圧壊強度試験機
a 水分
b タール
c タール滓
d 成型炭原料
e 成型炭
図1
図2
図3