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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878721
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   E21C50/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-64701(P2017-64701)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-168537(P2018-168537A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】大林 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇一
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−269070(JP,A)
【文献】 国際公開第91/010808(WO,A1)
【文献】 特開2014−218715(JP,A)
【文献】 特開昭51−084701(JP,A)
【文献】 特開昭46−001929(JP,A)
【文献】 特開平02−232497(JP,A)
【文献】 特公昭48−042321(JP,B1)
【文献】 特表2016−504174(JP,A)
【文献】 米国特許第06178670(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 25/00−51/00
E21B 1/00−49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路内、又は海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、海水より粘性が高い粘性流動物質であることを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項2】
該粘性流動物質は、5℃における粘度が1,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1記載の海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項3】
該粘性流動物質は、5℃における粘度が2,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1記載の海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項4】
環状の管路を用いる揚鉱方法であって、該海底有価物質を含むキャリア物質は、海上側の管路外に取り出し、該キャリア物質から該海底有価物質を分離することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の揚鉱方法。
【請求項5】
U字状の管路を用いる揚鉱方法であって、海上において、該海底有価物質を回収した後のキャリア物質は、組成調整された後、該下降管に戻されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に1記載の揚鉱方法。
【請求項6】
下降管の長さを上昇管の長さより大とし、該上昇管に満たされたキャリア物質のヘッドより、該下降管に満たされたキャリア物質のヘッドを大とすることを特徴とする請求項5記載の揚鉱方法。
【請求項7】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、又は海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路と、
該環状の管路内、又はU字状の管路内に充填されるキャリア物質と、
該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、
該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、
該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、海水より粘性が高い粘性流動物質であること特徴とする海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項8】
海上側に設けられた分離装置を更に有することを特徴とする請求項7記載の揚鉱装置。
【請求項9】
該環状の管路、又は該U字状の管路は、上昇管と下降管がそれぞれ独立の管であるか、又は二重管であることを特徴とする請求項7又は8記載の揚鉱装置。
【請求項10】
U字状の管路を備える揚鉱装置であって、海底有価物質を分離回収した後のキャリア物質を組成調整する組成調整装置を、海上側に設置することを特徴とする請求項9記載の揚鉱装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底鉱物資源である有価物質を連続的に、海上に輸送、運搬する揚鉱方法及び揚鉱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底鉱物資源等の有価物質を海上に輸送、運搬する揚鉱方法及び揚鉱装置としては、種々の技術が開示されている。特開2003−269070号公報には、一方が下降管、他方が上昇管となるU字管を海底から海面にかけて鉛直保持し、上昇管の上端開口から下降管の上端開口に海水を輸送するとU字管内で海水が循環流動し、深海底で採掘された鉱物塊を上昇管の底部に送り込むと、上昇管を上昇する海水に載って鉱物塊が海面に浮上することが開示されている。この方法によれば、鉱物塊の浮上に要する駆動力は、上昇管の上端開口から送り出された海水を下降管の上端開口に搬送するポンプの推力だけでよいため、設備構成が大幅に簡略化され、揚鉱作業自体も容易となる。
【0003】
特開2005−255391号公報には、ガスハイドレードペレット等の粒状の被搬送物をスラリー母液によって流動化しながら搬送するスラリー搬送システムであって、粒状体にスラリー母液を投入し、それを流動化させ、管路内を流れるスラリー母液に合流させて搬送する方法が開示されている。この方法によれば、被搬送物をスラリー輸送する管路やポンプの閉塞を回避する。
【0004】
特開2011−196047号公報には、海上に配置される揚鉱基地と、揚鉱基地から海底まで配設され、海底で採掘された有価物を含む海底海水を揚鉱基地に移送する揚鉱用の移送管と、有価物と海底海水を分離するセパレータと、揚鉱基地から海底まで配設され、有価物が分離された海水を海底に戻す循環用の移送管と、有価物が分離された海水を循環用の移送管に送り込む循環ポンプと、海底に配置され、有価物を海底海水と共に吸込口から吸入して揚鉱用の移送管に送り込む水中ポンプと、循環用の移送管によって海底に戻される海水を駆動水にして水中ポンプを駆動させるハイドロモーターと、を有する揚鉱装置と、を含む揚鉱システム及び揚鉱方法が開示されている。この方法によれば、海底の採掘した有価物を移送管内に投入する設備構造を簡素化できる。このため、深海の過酷な環境下においても安定して揚鉱することが可能となる。
【0005】
特公平8−26740号公報には、深海鉱物質源原鉱のかさ比重より大きい比重を有する、例えばフェロシリコン、重晶石等、海水及び添加剤を含む重液を、一方が下降管、他方が上昇管となるU字管において、粉砕された原鉱をその重液から生じる浮力によって上昇管を経て海上に揚鉱する方法が開示されている。この方法によれば、従来技術による揚鉱方法よりも遥かに小さい動力で揚鉱できる。
【0006】
特開2000−227100号公報には、コンプレッサーを使用しないで、気体と液体を共に深海へ圧送するポンプを稼働させて、気体と液体を高圧化して、深海の気液分離室へ圧送し、液体は気液分離室の下部から外部に放流し、気体は上部からサイフォンを経て他端の気泡押出口から、自動的に気泡となってエアリフトパイプに入り、気泡は自動的に上昇してエアリフト効果を起こし、同時に下端に接続した吸引パイプの吸引口に吸引力を起こし、海底等の深部の資源を吸引し、資源が上昇する速度で上部まで引揚げる、気液ポンプとエアリフトの機構を組合わせた深底資源吸引揚装置が開示されている。これにより、低速回転で、高圧送力を有し、騒音振動が少ない、エネルギーのロスの小さい、高圧力を有し、深海で、簡単な構造と操作で、強力なエアリフト効果と吸引力を有し、深海から資源を引揚げることができる。
【0007】
特開2015−168971号公報には、管路内に海水が満たされて下部が海底側まで延設され且つ上部が海上若しくはその近傍まで到達する揚鉱管を用い、その揚鉱管の下部開口から採掘したスラリー状の鉱物を導入するとともに、海水を海底側で電気分解して発生させた水素ガスを前記揚鉱管の下部開口から導入し、その導入した水素ガスの浮上力でスラリー状の鉱物を海上若しくはその近傍まで運搬することを特徴とする海底鉱物の揚鉱方法が開示されている。この方法によれば、低コスト且つ簡便で定常的に採掘鉱物を海底から海上に運搬することができる。
【0008】
このような従来の揚鉱方法は、大別すれば、ポンプ等により管内に液体又は気体の流れを生じさせ、その掃流力により輸送・運搬するポンプ圧送方式、鉛直の管路に下方から気体を混入して上昇流を生じさせ、その掃流力により上方に輸送・運搬するエアリフト方式、海底有価物より比重が大きな重液を用いる浮力方式によるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−269070号公報
【特許文献2】特開2005−255391号公報
【特許文献3】特開2011−196047号公報
【特許文献4】特公平8−26740号公報
【特許文献5】特開2000−227100号公報
【特許文献6】特開2015−168971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のポンプ圧送方式は、主に海水をキャリア物質として使用しており、高密度ないし粗粒な粒状体の揚鉱には不適である。また、ポンプの性能に制限され、揚程が短く、長距離の輸送・運搬には不適であるという問題がある。特に、揚鉱装置が一時停止した場合、キャリア物質中の海底有価物質が沈降し、再稼働の際、沈降した有価物質の揚鉱が不可能になると共に、圧送ポンプに大きな負荷がかかるという問題がある。なお、特開2005−255391号公報には、スラリー母液の詳細な記載はない。また、従来のエアリフト方式は、ポンプ圧送方式と同様に、高密度ないし粗粒な粒状体の揚鉱には不適である。また、長距離の輸送・運搬にも不適であり、水平方向の輸送・運搬は不可能であるという問題がある。また、重液による浮力方式は、海底有価物質の粒度が小さくなると、分離精度が急激に低下する。また、重液が漏れた場合の汚染対策や機械部分の摩耗対策が必要となるという問題がある。
【0011】
従って、本発明の目的は、鉛直方向及び水平方向にも輸送、運搬でき、粗粒な粒状体や高密度な粒状体の揚鉱及び一時停止後の再揚鉱ができ、長距離輸送が可能であり、海洋を汚染しない海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するものであり、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路内、又は海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、海水より粘性が高い粘性流動物質であることを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、又は海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路と、該環状の管路内、又はU字状の管路内に充填されるキャリア物質と、該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、海水より粘性が高い粘性流動物質であること特徴とする海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、管路にキャリア物質として粘性流動物質を充填して循環させ、この循環系に海底有価物質を取り込み、運搬するため、粗粒な粒状体や高密度な粒状体の揚鉱及び一時停止後の再揚鉱が可能となる。また、管路は、環状(ループ状)又はU字状であり、キャリア物質はその管路内を循環するため、廃棄物は生じない。また、揚程が大きい場合でも、ポンプには管内壁の摩擦損失以外の負荷が生じないため、効率的に長距離輸送が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態の揚鉱装置の概略図である。
図2】第1の実施の形態の揚鉱装置における海上側装置の概略図である。
図3】第1の実施の形態の揚鉱装置における集鉱法方を説明する図である。
図4】本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置の概略図である。
図5】参考例で使用した実験装置の概略図である。
図6】参考例の経過時間と沈降量の関係を示す図である。
図7】参考例の経過時間と沈降速度の関係を示す図である。
図8】参考例の沈降状況を示す写真である。
図9】参考例の沈降状況を示す写真である。
図10】参考例の沈降状況を示す写真である。
図11】参考例の沈降状況を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の第1の実施の形態における揚鉱方法及び揚鉱装置について、図1を参照して説明する。第1の実施の形態における揚鉱方法における管路は環状(ループ)のものである。すなわち、本例の揚鉱方法は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法である。
【0017】
この方法を実施する揚鉱装置10は、海上より海底に達する下降管1と、海底から海上に達する上昇管2を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路11と、環状の管路11内に充填されるキャリア物質3と、キャリア物質3を循環させる圧送ポンプ4と、管路11の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口5と、管路11の海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6を有する。なお、海上側の施設は、通常、揚鉱船や揚鉱フロートなどのプラットフォーム8に設置される(図2参照)。
【0018】
環状(ループ)の管路としては、可撓性を有していてもよい管であり、例えば、一般的な配管が挙げられる。環状の管路において、上昇管の下端と下降管の下端は、連結され連続した管であればよく、上昇管2と下降管1がそれぞれ独立の別管で、接続管で接続されたものの他、二重管であってもよい。二重管の場合、内管が上昇管、外管が下降管であるか、又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる。また、別管の上昇管2と下降管1は互の内側面が溶着された一体ものであってもよい。管の内径としては、キャリア物質に有価物質Xを含む場合、その有価物質Xである粒状体の最大径の2倍以上であるものが、管内閉塞を防止し、輸送・運搬の効率を高めることができる点で好ましい。
【0019】
環状の管路11内に充填されるキャリア物質3は、海水より粘性が高い粘性流動物質である。キャリア物質3とは、海底有価物質を運搬・輸送する輸送媒体のことである。粘性流動物質は、5℃の粘度(JIS Z8803)が、1,000mPa・s以上が好ましく、特に好ましくは2,000mPa・s以上、更に好ましくは3,000mPa・s以上である。粘性流動物質の5℃の粘度が上記範囲内であれば、揚鉱装置10が一時停止した場合、キャリア物質3内の有価物質の沈降を抑制でき、再稼働の際、圧送ポンプにかかる負荷を許容範囲とすることができる。5℃の粘度としたのは、海水温度が海水表面から数十m以下の深度においては、概ね5℃と安定しており、下降管及び上昇管のほとんどは、5℃の環境下に晒されるためである。すなわち、本発明における沈降抑制能は、5℃のキャリア物質中における静置状態における海底有価物質の沈降を抑制する能力を言う。なお、海水より粘性が高いとは、海水の5℃における粘度より高い粘度を有するという意味である。海水の5℃の粘度は最大で2.0mPa・sであり、一般には、海水の粘度は温度が5℃〜25℃の範囲で0.5mPa・sから2.0mPa・sであり、キャリア物質として使用しても、十分な掃流力が得られない。
【0020】
キャリア物質の5℃の粘度が、1,000mPa・s以上であれば、最大径が50mm、比重が3.0程度の海底有価物質を、上昇流により運搬する際、下方に移動又は沈殿することを抑制することができ、管路に沿って閉塞しないで、水平方向にも輸送、運搬できる。また、上記の粘度範囲であれば、静置状態におけるキャリア物質中の有価物質(最大径20mm程度)の平均沈降速度が7.0m/h以下、特に1.0m/h以下とすることができる。揚鉱装置稼働中、種々の理由による停止状態となり、再稼働する場合がある。通常、1時間以内に再稼働することを仮定すると、平均沈降速度7.0m/hは、有価物質が7.0m沈降することになる。この程度の沈降であれば、再稼働で大部分の有価物質が上昇流に乗ることができる。
【0021】
キャリア物質の5℃の粘度が、2,000mPa・s以上であれば、静置状態におけるキャリア物質中の有価物質(最大径32mm程度)の平均沈降速度が1.0m/h以下とすることができる。従って、この数値範囲の場合、上記の5℃の粘度が1,300mPa・s以上の場合の作用効果と同等の作用効果を奏する他、揚鉱装置稼働中、種々の理由による1時間停止状態の場合、水平配管内において、有価物質粉砕物が配管の管底に着くことはなく、水平配管においても、再稼働後、循環流に同伴させることができる。
【0022】
キャリア物質の5℃の粘度が、3,000mPa・s以上であれば、静置状態におけるキャリア物質中の有価物質(最大径40mm程度)の沈降量を8.0cm以下、好ましくは1.0cm以下とすることができ、更に、キャリア物質中の有価物質の平均沈降速度が1.0m/h以下、好ましくは0.5m/h以下とすることができる。従って、この数値範囲の場合、揚鉱装置の長時間停止状態であっても、水平配管内において、有価物質が配管の管底に着くことはなく、水平配管においても、再稼働後、循環流に同伴させることができる。このように、静置下、キャリア物質中の有価物質の沈降が抑制されるほど、圧送ポンプへの負担が低減できる。なお、キャリア物質の5℃の粘度の上限値は、10万mPa・sである。これ以上粘度が高くなると固体に近くなり、現実的に圧送が困難となる。
【0023】
増粘剤と称される高分子水溶液の場合、キャリア物質の5℃の粘度が1,000mPa・sのものは、25℃の粘度が1,000mPa・sであり、キャリア物質の5℃の粘度が2,000mPa・sのものは、25℃の粘度が2,000mPa・sであり、キャリア物質の5℃の粘度が2,500mPa・sのものは、25℃の粘度が2,500mPa・sである。このような高分子水溶液における粘度は、5℃と25℃において、ほとんど変わらないものであった。粘度5℃の粘度及び25℃の粘度は、5℃又は25℃の雰囲気下、振動式音叉型粘度計(JIS Z8803)で測定することができる。
【0024】
キャリア物質である粘性流動物質は、水系、油系及びエマルジョン系であってもよいが、水系及びエマルジョン系が好ましく、特に高分子溶液等の水系が、安価で、取り扱いにおいて都合がよい点で好ましい。高分子溶液は、懸濁液を含む。高分子溶液における高分子は、天然物又は合成物いずれも使用できる。事故によりキャリア物質が漏洩した時の周辺海域への環境影響を考慮すると天然物が好適であるが、合成物は少ない配合量で流動化物を得ることができる利点がある。また、エマルジョン系としては、油又は水と乳化剤の混合物であるマヨネーズが挙げられる。
【0025】
高分子溶液における高分子としては、一般に増粘剤、吸水剤と称されるものが使用でき、例えば、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、ガム類、ペクチン、アルギン酸金属塩、アルギン酸エステル等が挙げられる。ガム類としては、グアーガム、キンサンタンガム、ジェランガム、ダイユータンガム等が挙げられる。また、アルギン酸金属塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。これらの化合物は、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
高分子溶液は、水と高分子の混合物であるが、高分子濃度は、5℃の粘度が好ましくは1,300mPa・s以上となる配合量であり、例えば、0.05重量%〜5重量%、好ましくは、0.1重量%〜3重量%である。高分子溶液には、安定剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0027】
このような、キャリア物質3は、粘性流動物質であるため、輸送・運搬したい粒状又は粉状の海底有価物の相対的な位置を保持した状態で管内を流動する性質を有する。すなわち、循環状態及び静置状態において、キャリア物質3は、粒状又は粉状の海底有価物質(沈降物質)の沈降抑制能に優れ、且つ流動性を有する。
【0028】
海底有価物質としては、深さ数百から数千メートルの海底9に存在するマンガンクラスト(コバルトリッチクラストを含む)、マンガンノジュール、硫化物鉱床(熱水鉱床)、レアアース泥又はメタンハイドレードYから採取される粒状又は粉状の鉱石Xが挙げられる。粒状又は粉状の鉱石Xは0.75mm以上、50mm以下の粗粒であってもよく、粒子密度が3g/cm以上の高密度なものであってもよい。
【0029】
環状の管路11には、キャリア物質3を循環させるポンプ4を有する。ポンプ4は圧送ポンプであり、管路系内であれば、設置場所は特に制限されない。また、ポンプ4は、環状の管路系内に設置されるため、海底の搬入口5と、海上の回収口6とに大きな高低差があったとしても、ポンプ4には管内壁の摩擦損失と流れの乱れによるエネルギー損失以外の負荷が生じないため、キャリア物質3又は海底有価物含有のキャリア物質3を、効率的に長距離圧送することが可能となる。
【0030】
環状の管路11には、管路11の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口5を有する。搬入口5は、公知の集鉱機から採取される粒状又は粉状の鉱石が、搬入される場所である。搬入口5としては、二重扉又は回転扉を設けることが、管路に充填されたキャリア物質3の漏れを防止できる点で好ましい。図3は搬入口5に設置された回転扉5aを示したものである。回転扉5aは、回転軸51を中心に有する側面視が十字(クロス)形状のドアパネル52を有し、搬入口5近傍において回動自在に設置されている。搬入口5周りには、十字(クロス)形状の中、I字形状部分のドアパネルが密に接触する部分円弧形状の上部ケーシング55と部分円弧形状の下部ケーシング53を有している。また、符号54は、下部ケーシング53の上端から斜め上方に延びる板状体であり、搬入口を拡げて鉱石Xの搬入を容易にしている。回転扉5aによれば、ドアパネル52が回転中、管路11と外部は常に遮断されており、管路11内の圧力を保持したまま、鉱石Xを管路11内に搬入することができる。
【0031】
また、環状の管路11には、管路11の海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6を有する。回収口6には、搬入口5と同様に、二重扉又は回転扉を設けてもよい。また、回収口6には、図2に示すような海上側の装置6aを設置してもよい。すなわち、海上側の装置6aは、圧送ポンプ4、分離槽61、粉砕装置62、選鉱装置63及び調整槽64を有する。分離槽61は、分離槽の側面に上昇管2が接続され、分離槽の上端は調整槽64の上端と接続され、分離槽の下端は粉砕装置62に接続されている。すなわち、分離槽61は、重力沈降分離法を採用するものであり、分離槽の下端から有価物質Xを含むキャリア物質3を回収し、分離槽の上端から有価物質Xを含まないキャリア物質3を循環させる。粉砕装置62は、キャリア物質3中の有価物質Xを粉砕するものであり、公知の砕石装置が使用できる。選鉱装置63は、粉砕された有価物質Xを不要鉱物Xと有用鉱物Xに分離するものであり、公知の選鉱装置が使用できる。なお、図2に示す海上側の装置6aにおいて、粉砕装置62、選鉱装置63及び調整槽64は任意の構成要素であり、設置を省略してもよい。
【0032】
次に、図1の揚鉱装置10を使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。先ず、図1の揚鉱装置10において、圧送ポンプ4を稼働させる。これにより、環状の管路11内をキャリア物質3が循環する。次いで、不図示の集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底のマンガンクラストYから粒状又は粉状の鉱石Xを採取し、これを管路11の搬入口5から管路11内に搬入する。搬入口5から搬入された粒状又は粉状の鉱石Xは、循環するキャリア物質3と同伴して、上昇管2内を上昇運搬される。採取された粒状又は粉状の鉱石Xは、キャリア物質3が粘性流動物質であるため、粗粒物であっても、また高密度粒子であっても、粒状又は粉状の鉱石Xの相対的な位置を保持した状態で管内11を流動すると共に、キャリア物質3から沈降することなく、輸送・運搬される。海上に運搬された鉱石Xは、搬出口6からキャリア物質3共に、分離槽61に導入され、分離槽61で分離されて、鉱石Xを含むキャリア物質3と、鉱石Xを含まないキャリア物質3に分離され、鉱石Xを含むキャリア物質3は、粉砕装置62に導入されて粉砕され、粉砕された有価物質Xは、更に選鉱装置63に導入され、不要鉱物Xと有用鉱物Xに分離される。一方、分離槽61で分離された鉱石Xを含まないキャリア物質3は、調整装置64に送られ、組成調整されて下降管1に送られる。組成調整されたキャリア物質は、再び下降管1を通り循環する。粉砕装置62及び選鉱装置63で回収された残ったキャリア物質は、調整装置64又は下降管1に戻してもよい。
【0033】
本第1の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、環状の管路内をキャリア物質である粘性流動物質が循環するため、鉛直方向及び水平方向にも輸送、運搬でき、有価物質である粗粒な粒状体や高密度な粒状体の揚鉱ができ、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。特に、揚鉱装置は何らかの理由により、循環を停止する場合がある。この場合、キャリア物質は粘性流動物質であるため、キャリア物質中の有価物質の沈降は抑制され、ほとんどの有価物質は、キャリア物質中に保持されたままである。従って、揚鉱装置の1時間程度の停止状態であれば、水平配管内において、すべての有価物質が配管の管底に着くことはなく、水平配管においても、再稼働後、循環流に同伴させることができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法について、図4を参照して説明する。図4の揚鉱装置において、図1の揚鉱装置と同一の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。すなわち、図4の揚鉱装置10aにおいて、図1の揚鉱装置10と異なる点は、管路11aを、下降管1aと上昇管2aを海底側で連結し、海上側で連結しないU字状とした点、上昇管2aと下降管1a間に、キャリア物質の組成を調整する調整装置64aを設けた点、下降管1aの長さを上昇管2aの長さより大とし、上昇管2aに満たされたキャリア物質のヘッドより、下降管1aに満たされたキャリア物質のヘッドを大とした点である。
【0035】
すなわち、図4の揚鉱装置10aは、下降管1aと上昇管2aを海底側で連結したU字状の管路11aと、U字状の管路11a内に充填されるキャリア物質3と、管路の海底側に設けられた海底有価物質Xを搬入する搬入口5と、管路11aの海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6と、キャリア物質3の組成を調整する調整装置64aと、を有し、下降管1aの長さを上昇管2aの長さより大とし、上昇管2aに満たされたキャリア物質のヘッドより、下降管1aに満たされたキャリア物質のヘッドを大としたものである。戻り配管22の一端は、海上側の上昇管2aに接続され、他端は、下降管1aの上端に接続せず、流入可能となるように望んでいる。本例のキャリア物質3は、第1の実施の形態における揚鉱装置10のキャリア物質3と同様である。なお、戻り配管22に設置されるポンプ4aは、戻りキャリア物質を下降管1aへ戻すポンプであり、圧送ポンプとは異なる。
【0036】
揚鉱装置10aにおいて、海上側で鉱石を回収するための装置は、図2と同様のものが使用できる。この場合、分離槽61の上端と図4の調整装置64aと接続してもよい。すなわち、分離槽61の上端から回収されるキャリア物質3は、図4の調整装置64aに流入させてもよい。
【0037】
また、図4の揚鉱装置10aの戻り管22には、調整装置64aが設置されている。調整装置64aは、下降管1aに供給するキャリア物質3の組成や量を調整する。すなわち、下降管1aに供給されるキャリア物質3に対して、新たに追加補給したり、キャリア物質中の一部の成分の補給などを行う。なお、この調整は、調整装置64aの手前において、キャリア物質を採取、分析しその結果を基に行うか、あるいは集積された事前データを基に行われる。調整装置64aにより組成調整されたキャリア物質は、下降管1aに戻され、循環使用される。
【0038】
揚鉱装置10aにおいて、下降管1aの長さを上昇管2aの長さより大とし、上昇管2aに満たされたキャリア物質のヘッドよりH分、下降管1aに満たされたキャリア物質のヘッドを大としたものである。ヘッド差Hは、海上の揚鉱船上に組まれた櫓の高さに相当し、通常数十mは採れる。これにより、通常循環時、U字状の管路内の圧送ポンプ4は不要となる。従って、圧送ポンプ4は、管路内閉塞等の非常時にのみ使用すればよいことになる。
【0039】
次に、図4の揚鉱装置10aを使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。図4の揚鉱装置10aのU字状の管路11a内には、キャリア物質3が充填されている。先ず、圧送ポンプ4aを稼働させる。これにより、U字状の管路11a内をキャリア物質3が循環する。次いで、不図示の集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底のマンガンクラストYから粒状又は粉状の鉱石Xを採取し、これを管路11の搬入口5から管路11a内に搬入する。搬入口5から搬入された粒状又は粉状の鉱石Xは、循環するキャリア物質3と同伴して、上昇管2a内を上昇運搬される。すなわち、キャリア物質3の粘性抵抗により、採取された粒状又は粉状の鉱石Xは、粗粒物であっても、また高密度粒子であっても、粒状又は粉状の鉱石Xの相対的な位置を保持した状態で管内11を流動すると共に、キャリア物質3から沈降することなく、輸送・運搬される。上昇管2aの上端開口から取り出された鉱石X含有のキャリア物質3は、図2の揚鉱装置10の海上側の装置6aに送られ、鉱石Xとキャリア物質3に分離回収される。回収されたキャリア物質3は、調整装置64aにより、組成調整された後、戻り管22を通り、下降管1aに戻される。下降管1aは、上昇管2aのヘッドよりH分高いため、圧送ポンプ4aを稼働させなくとも、管路内のキャリア物質3は循環する。
【0040】
本第2の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、圧送ポンプ4aを稼働させなくとも、環状の管路内をキャリア物質が循環するため、鉛直方向及び水平方向にも輸送、運搬でき、粗粒な粒状体や高密度な粒状体の揚鉱ができ、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。また、揚鉱装置の停止状態におけるキャリア物質の有価物質に対する沈降抑制能は、第1の実施の形態における揚鉱装置の場合と同様である。
【0041】
本発明は、上記実施の形態例に限定されず、種々の変形を採ることができる。すなわち、第1の実施の形態の揚鉱装置10において、分離槽61は、上記実施の形態例に限定されず、メッシュ状の分離網を使用してもよい。また、第2の実施の形態の揚鉱装置10aにおいて、上昇管2aと下降管1aの長さを同じとしてもよい。すなわち、上昇管2aと下降管1aのヘッド差は、ゼロであってもよい。この場合、圧送ポンプを管路に設置し、この圧送ポンプでキャリア物質を循環することになる。また、本発明において、環状及びU字状の管路に対し、公知の振動装置により振動を与えてもよい。これにより、キャリア物質の流動を高めることができる。また、管路内を循環するキャリア物質中に、公知のマイクロバブル発生装置からマイクロバブルを管路の下から混入させてもよい。このエアリフト効果により、キャリア物質の上昇輸送が促進される。
【0042】
参考例1(沈降抑制能確認試験その1)
図5に示す試験装置を使用し、各種キャリア物質の模擬有価物質に対する沈降抑制能を評価した。以下、キャリア物質を「試料」とも称し、模擬有価物質を「沈降物質」とも称する。
【0043】
<模擬有価物質(沈降物質)>
直径20mm、直径32mm及び直径40mmの3種のアルミニウム製の握り玉を使用した。沈降抑制能確認試験では、図5に示すように、握り玉の表面から中心に至る孔を形成し、この孔の開口部にステンレス製のボルト頭を取りつけ、ボルト頭に接着剤で測定用のプラスチック棒を取り付けた。握り玉とボルト頭でなる模擬有価物質は、直径20mmのものが比重3.187、直径32mmのものが比重3.056、直径40mmのものが比重3.131であった。この模擬有価物質は、海底有価物質の鉱石Xと同等若しくはそれ以上の大きさと比重を有するものであった。
【0044】
<キャリア物質>
濃度が1.0重量%(試料1)、1.5重量%(試料2)、2.5重量%(試料3)、2.8重量%(試料4)の4種類の高分子水溶液を作製した。4種類の試料について、振動式音叉型粘度計(JIS Z8803)を使用して、5℃と25℃の粘度(mPa・s)を計測した。その結果を表1に示す。なお、高分子はカルボキシメチルセルロース(CMC)架橋体である。
【0045】
<試験装置>
試験容器として、内径205mm、高さ150mmの円筒状のポリプロピレン製容器を使用した。蓋部の中央に、プラスチック棒の直径よりやや大の貫通穴を形成した。また、蓋部の貫通穴の近傍に、沈降量を測定する長尺状のスケール(縦目盛りmm)を起立状に固定した。
【0046】
<試験方法>
海底温度に相当する5℃の雰囲気下で行った。先ず、試料を試験容器の容器深さ140mm(l)まで満たした。次いで、蓋部の中央の貫通穴に蓋部の裏側からプラスチック棒の先端を通し、試験容器に蓋部を取り付けた。この際、沈降物質を手で押し、試料の液面直下に埋没させた。すなわち、沈降物質は、試料中に埋没しているものの、上端は液面すれすれの位置とした。この状態を試験開始とした。沈下量の初期値としてプラスチック棒の先端の位置の目盛りを計測した。その後、経過時間と共に、プラスチック棒の先端の位置の目盛りを計測し、経過時間と沈降量の関係を測定した。経過時間は最大2時間の観察を行った。その結果を表1に示し、経過時間と沈降量(沈下量)の関係を図6に示し、経過時間と沈降速度の関係を図7に示し、写真を図8図11に示した。なお、試験は、試料1では、模擬有価物質の直径20mm(図中、「1-1」)、直径32mm(図中、「1-2」)、試料2では、模擬有価物質の直径20mm(図中、「2-1」)、直径32mm(図中、「2-2」)、試料3では、模擬有価物質の直径20mm(図中、「3-1」)、直径32mm(図中、「3-2」)、直径40mm(図中、「3-3」)、試料4では、模擬有価物質の直径32mm(図中、「4-2」)、直径40mm(図中、「4-3」)についてそれぞれ行った。表中「-」は試験せずを意味する。
【0047】
図8左写真が試料1-1であり、図8右写真が試料1-2であり、図9左写真が試料2-1であり、図9右写真が試料2-2であり、図10左写真が試料3-1であり、図10中写真が試料3-2であり、図10右写真が試料3-3であり、図11左写真が試料4-2であり、図11右写真が試料4-3である。
【0048】
【表1】
表中の*);「保持」は30分経過後、沈降量(沈下量)が1.0cm以下のものであり、沈降量(cm)で示した。また、「保持」以外は「着底」とし、着底までに要した時間(経過時間:T(分))と平均速度:v(m/h)で示した。以下の表において同様である。
【0049】
参考例2(沈降抑制能確認試験その2)
<模擬有価物質(沈降物質)>
直径40mmのアルミニウム製の握り玉に代えて、直径40mmのステンレス製の握り玉(比重7.86)を使用した以外は、参考例1と同様の握り玉を使用した。
【0050】
<各種キャリア物質>
濃度1.0%の高分子水溶液に代えて、濃度3.0%の高分子水溶液(試料5)を用いた以外は、参考例1の高分子溶液と同様の方法でキャリア物質を得た。その結果を試験5-3として表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
参考例3(沈降抑制能確認試験その3)
キャリア物質として、市販のマヨネーズ(試料6)を使用した以外は、参考例1と同様の方法で行った。その結果を表3に示す。その結果を試験6-3として表2に示す。
【表3】
【0053】
参考例1において、5℃の粘度が3,500mPa・s以上の試料3及び試料4は、キャリア物質中の模擬有価物質は、30分以上経過しても、ほとんど沈降していなかった。この場合、1時間停止後の揚鉱装置の稼働により、圧送ポンプにはほとんど負荷がかからず、設計通りの揚鉱が可能となる。また、参考例2において、5℃の粘度が11,500mPa・sの試料5は、比重が7.86と非常に重く、かつ直径が40mmという大粒径の模擬有価物質についても沈降抑制能が高かった。
【0054】
参考例1において、5℃の粘度が1,000mPa・sの試料1-2は、11秒で着底し、平均沈降速度は32.07m/hであった。この結果から、実際の揚鉱方法の場合、上昇管(数km長さ)の管底から数十m程度までの有価物質は、1時間の停止で、管底に着底するものの、上昇管の管底から数十mを超える高さに位置する有価物質は、キャリア物質中に保持されたままである。この場合、1時間の停止後の揚鉱装置の再稼働により、圧送ポンプに負荷がかかるものの、大部分の有価物質は、キャリア物質と同伴して上昇するため、揚鉱が可能となる。
【0055】
参考例3において、5℃の粘度が1,700mPa・sのエマルジョン系の試料6は、キャリア物質中の模擬有価物質は、30分以上経過しても、ほとんど沈降していなかった。従って、長時間停止後の揚鉱装置の稼働により、圧送ポンプにはほとんど負荷がかからず、設計通りの揚鉱が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状の有価物質を海上まで効率良く、輸送・運搬することができる。なお、揚程に関して、建築分野においては、4インチ管使用での生コンの圧送実績は、中継点なしの90m/h、12MPaの高圧圧送で、水平900m、鉛直200mmを達成しており、本発明の循環又はU字の管路であれば、鉛直1000mを超える揚程でも容易に圧送できる。また、種々のトラブルによる停止があっても、キャリア物質中の有価物質の沈降は抑制されており、再稼働に際しても、圧送ポンプにかかる負荷は許容範囲となり、再揚鉱が可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1、1a 下降管
2、2a 上昇管
3 キャリア物質
4、4a ポンプ
5 搬入口
6 回収口
7、7a 分離装置
8 海底
9 調整装置
10、10a 揚鉱装置
11 環状の管路
11a U字の管路
X 粒状の鉱石(海底有価物質)
Y 鉱床



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11