(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、T型スリットダイから、回転するキャストドラム上に吐出及び流涎して製膜し、キャストドラムから剥離して得られる含水率が13重量%以上で幅が5〜6mのフィルムを、下記条件(1)を満たす複数本の金属加熱ロールの外周部に順次接触させながら搬送して乾燥させること、
及び前記第2金属加熱ロール群の前記少なくとも1本の金属加熱ロールの幅をBa、当該金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの幅をAaとしたとき、下記条件(2)を満足し、かつ前記フィルムの両端部が前記金属加熱ロールより外側に配置されていることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
条件(1):複数本の金属加熱ロールは、含水率が13重量%以上のフィルムを乾燥させる第1金属加熱ロール群と、含水率が7重量%以上13重量%未満のフィルムを乾燥させる第2金属加熱ロール群と、含水率が7重量%未満のフィルムを乾燥させる第3金属加熱ロール群とから成り、
第2金属加熱ロール群の少なくとも1本の金属加熱ロールは、金属加熱ロールの幅が当該金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの幅より小さく設定され、
第2金属加熱ロール群の残りの金属加熱ロールと第1及び第3金属加熱ロール群の金属加熱ロールは、金属加熱ロールの幅が当該金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの幅より大きく設定されている。
条件(2):0.999×Aa≧Ba≧0.98×Aa
前記少なくとも1本の金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの含水率が9〜12重量%の時に、前記少なくとも1本の金属加熱ロールの幅Baが、上記条件(2)を満足することを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
第2金属加熱ロール群の前記少なくとも1本の金属加熱ロールの直径が、0.3〜1mであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
製造されたポリビニルアルコール系フィルムの端部の幅方向へのうねり幅が、2cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
製造されたポリビニルアルコール系フィルムの中央部の位相差をRc(nm)、周辺部の位相差をRe(nm)とした場合に、下記数式(1)を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
|Rc(nm)−Re(nm)|≦20nm ・・・(1)
製造されたポリビニルアルコール系フィルムを平坦な定盤上に設置した時に、端部のうき量の最大値が、2mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、T型スリットダイから、回転するキャストドラム上に吐出及び流涎して製膜し、キャストドラムから剥離して得られる含水率が13重量%以上で幅が5m以上のフィルムを、所定の条件を満たす複数本の金属加熱ロールの外周部に順次接触させながら搬送して乾燥させることによりポリビニルアルコール系フィルムが製造される。
所定の条件とは、以下のとおりである。
条件(1):複数本の金属加熱ロールは、含水率が13重量%以上のフィルムを乾燥させる第1金属加熱ロール群と、含水率が7重量%以上13重量%未満のフィルムを乾燥させる第2金属加熱ロール群と、含水率が7重量%未満のフィルムを乾燥させる第3金属加熱ロール群とから成り、
第2金属加熱ロール群の少なくとも1本の金属加熱ロールは、金属加熱ロールの幅が当該金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの幅より小さく設定され、
第2金属加熱ロール群の残りの金属加熱ロールと第1及び第3金属加熱ロール群の金属加熱ロールは、金属加熱ロールの幅が当該金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの幅より大きく設定されている。
【0013】
上記条件(1)を満たす複数本の金属加熱ロールにおいては、
図1に示すように、含水率が7重量%以上13重量%未満のフィルムを乾燥させる第2金属加熱ロール群の少なくとも1本の金属加熱ロールRaの幅Baが乾燥させるフィルムFaの幅Aaより小さく設定され(
図1(a)参照)、他の金属加熱ロールRbの幅Bbは乾燥させるフィルムFbの幅Abより大きく設定されている(
図1(b)参照)。
ここで、他の金属加熱ロールとは、第1金属加熱ロール群の金属加熱ロールと、第3金属加熱ロール群の金属加熱ロールと、第2金属加熱ロール群において前記少なくとも1本の金属加熱ロールを除いた残りの金属加熱ロールを意味する。なお、第2金属加熱ロール群に含まれる金属加熱ロールが1本だけの場合は、第2金属加熱ロール群における残りの金属加熱ロールは0本となる。
【0014】
製造されるフィルムは、帯状(長尺状)であり、その長辺方向(長さ方向)に搬送されており、短辺方向が幅方向である。したがって、フィルムの搬送方向に直交する方向が幅方向である。
図1においては、紙面に対して垂直方向がフィルムの搬送方向であり、左右方向が幅方向である。
【0015】
一般的に、金属加熱ロールの幅は、フィルムの含水率に依らず、乾燥させるフィルムの幅よりも長く設定されるので、フィルムの両端部は金属加熱ロールに密着している。しかし、乾燥により含水率が低下し、フィルムが幅方向に収縮すると、フィルム両端部が金属加熱ロールから剥離する剥離現象が発生し易く、かかる剥離部分に面内位相差ムラが生じやすい。また、剥離現象は一定に起こるわけでは無く、不規則に剥離部分と密着部分が混在することになるため、フィルム端部はうねり易く、かつ不規則に浮きが生じる傾向にある。
【0016】
かかる剥離現象を回避するには、剥離が起きる時点で、フィルム端部を金属加熱ロールより外側に配置すればよい。すなわち、剥離現象が起きる金属加熱ロールを、フィルム幅より少し短くすることで、剥離現象そのものを回避することができる。かかる配置は、フィルムの一方の端部だけでも効果が有るが、両端部においてなされることが好まし
く、本発明においてはフィルムの両端部が金属加熱ロールより外側に配置されている。当然のことながら、フィルム端部が金属加熱ロールより大きく外側に配置されると、フィルム端部の垂れにより、ポリビニルアルコール系フィルムに反りや浮きが生じることになり、好ましくない。
【0017】
本発明においては、第2金属加熱ロール群の前記少なくとも1本の金属加熱ロールRaの幅Baが、下記条件(2)を満足す
る。ここで、Aaは、金属加熱ロールRaで乾燥させるフィルムFaの幅である。
条件(2):0.999×Aa≧Ba≧0.98×Aa
【0018】
また、幅Baが下記条件(2a)を満足することが特に好ましい。
条件(2a):0.998×Aa≧Ba≧0.985×Aa
さらに、幅Baが下記条件(2b)を満足することが更に好ましい。
条件(2b):0.997×Aa≧Ba≧0.99×Aa
金属加熱ロールの幅Baが大きすぎると剥離回避が困難となる傾向にあり、小さすぎるとフィルム端部に反りや浮きが生じる傾向にある。
【0019】
なお、金属加熱ロール端面とフィルム端面との距離W(
図1(a)参照)は、左右同じでも異なっていてもよい。左右同じ場合の例としては、フィルム幅5000mm、金属加熱ロール幅4980mmの時に、一方の端部ではフィルムが金属加熱ロール端面から10mm突出し、他方の端部でもフィルムが金属加熱ロール端面から10mm突出するなどの配置が挙げられる。
【0020】
本発明において、第2金属加熱ロール群の前記少なくとも1本の金属加熱ロールで乾燥させるフィルムの含水率が9〜12重量%の時に、前記少なくとも1本の金属加熱ロールの幅Baが、上記条件(2)を満足することが、剥離回避の点で好ましい。より好ましくは上記条件(2a)を、特に好ましくは上記条件(2b)を満足することである。
【0021】
金属加熱ロールの本数は、3〜30本が好ましく、特に好ましくは5〜27本、更に好ましくは6〜25本、殊に好ましくは7〜20本である。金属加熱ロールの本数が少なすぎると乾燥不足になる傾向にあり、多すぎると設備負荷が増大する傾向にある。
【0022】
各金属加熱ロールとフィルムの接触長は、0.2〜2mであることが好ましく、特に好ましくは0.3〜1.5m、更に好ましくは0.4〜1mである。接触長が短すぎるとフィルムの乾燥が不充分となる傾向にあり、長すぎると面内位相差が増大する傾向にある。
【0023】
金属加熱ロールの温度については、第1金属加熱ロール群の金属加熱ロールについては、少なくとも1本の金属加熱ロールの温度が80℃以上であることが好ましく、特に好ましくは80〜120℃、更に好ましくは90〜110℃である。第1金属加熱ロール群の金属加熱ロールの温度が全て80℃未満では、フィルムが乾燥不足になる傾向にある。また、他の金属加熱ロール、すなわち第1金属加熱ロール群のうち温度が80℃以上ではない金属加熱ロール、第2金属加熱ロール群及び第3金属加熱ロール群の金属加熱ロールについては、すべての金属加熱ロールの温度が80℃未満であることが好ましく、特に好ましくは40℃以上80℃未満、更に好ましくは50〜70℃である。これら金属加熱ロールの温度が80℃以上では、冷却効率に劣る傾向にある。
【0024】
第2金属加熱ロール群の前記少なくとも1本の金属加熱ロールの直径は、0.2〜1mであることが好ましく、特に好ましくは0.35〜0.9m、更に好ましくは0.4〜0.85mである。かかる金属加熱ロールの直径が小さすぎると、フィルムの搬送性が低下する傾向があり、大きすぎると設備負荷が増大する傾向にある。
【0025】
キャストドラムから剥離したフィルムは、連続的に配列されている複数本の金属加熱ロールの外周部に順次接触しながら搬送されて乾燥される。このとき、フィルムの一方面(表面)と他方面(裏面)とが交互に金属加熱ロールに接触しながら搬送されて乾燥されることが好ましい。
【0026】
以下に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法についてより具体的に説明する。
上述したように、本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、T型スリットダイから、回転するキャストドラム上に吐出及び流涎して製膜し、キャストドラムから剥離して得られる含水率が13重量%以上で幅が5m以上のフィルムを、上述した所定の条件を満たす複数本の金属加熱ロールの外周部に順次接触させながら搬送して乾燥させることによりポリビニルアルコール系フィルムが製造される。
【0027】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、即ち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等が挙げられる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0028】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は10万〜30万であることが好ましく、特に好ましくは11万〜28万、更に好ましくは12万〜26万である。
かかる重量平均分子量が小さすぎるとポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られにくい傾向があり、大きすぎるとポリビニルアルコール系樹脂フィルムを偏光膜とする場合に延伸が困難となる傾向がある。
なお、本発明におけるポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。かかる平均ケン化度が小さすぎるとポリビニルアルコール系樹脂を偏光膜とする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
【0031】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂として、変性種、変性量、重量平均分子量、平均ケン化度などの異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0032】
かかるポリビニルアルコール系樹脂を用いて、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を製造する。まず、ポリビニルアルコール系樹脂を、水を用いて洗浄し、遠心分離機などを用いて脱水して、含水率50重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキとすることが好ましい。かかるウェットケーキの含水率が高すぎると、所望する水溶液濃度に調整することが困難となる傾向がある。
かかるポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを温水や熱水に溶解して、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製する。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の調製方法は、特に限定されず、例えば、加熱された多軸押出機を用いて調製してもよく、また、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解缶に、前述したポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを投入し、缶中に水蒸気を吹き込んで溶解して、所望濃度の水溶液を調製することもできる。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、必要に応じて、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどの一般的に使用される可塑剤や、ノニオン性、アニオン性、及び/またはカチオン性の界面活性剤を含有させることが、製膜性の点から好ましい。
【0035】
このようにして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂濃度は、15〜60重量%であることが好ましく、特に好ましくは17〜55重量%、更に好ましくは20〜50重量%である。
かかる樹脂濃度が低すぎると乾燥負荷が大きくなるため生産能力に劣る傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができ難くなる傾向がある。
【0036】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、この水溶液を回転するキャストドラム上に吐出及び流延して、キャスト法により製膜、乾燥することで、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを連続的に製造することができ、例えば、以下の工程により製造することができる。
(A)キャスト法によりフィルムを製膜する工程。
(B)製膜されたフィルムを加熱して乾燥する工程。
(C)乾燥されたフィルムの両端部をスリットした後、ロールに巻き取る工程。
【0037】
以下、前記工程(A)について説明する。
工程(A)において、まず、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、通常、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡やベントを有する多軸押出機による脱泡などの方法が挙げられる。ベントを有する多軸押出機としては、通常は、ベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0038】
脱泡処理の後、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、回転するキャストドラム上に吐出及び流延されて、キャスト法により製膜される。
【0039】
T型スリットダイ出口のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度は、80〜100℃であることが好ましく、特に好ましくは85〜98℃である。
かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0040】
かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度は、吐出時に50〜200Pa・sであることが好ましく、特に好ましくは70〜150Pa・sである。
かかる水溶液の粘度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると流涎が困難となる傾向がある。
【0041】
T型スリットダイからキャストドラムに吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出速度は、0.2〜5m/分であることが好ましく、特に好ましくは0.4〜4m/分、更に好ましくは0.6〜3m/分である。
かかる吐出速度が遅すぎると生産性に劣る傾向があり、速すぎると流涎が困難となる傾向がある。
【0042】
かかるキャストドラムの直径は、好ましくは2〜5m、特に好ましくは2.5〜4.5m、更に好ましくは3〜4mである。
かかる直径が小さすぎると乾燥長が不足し速度が出にくい傾向があり、大きすぎると輸送性に劣る傾向がある。
【0043】
かかるキャストドラムの幅は、好ましくは5m以上であり、特に好ましくは5.5m以上、更に好ましくは6m以上である。キャストドラムの幅が小さすぎると生産性に劣る傾向がある。
【0044】
キャストドラムの回転速度は、3〜50m/分であることが好ましく、特に好ましくは4〜40m/分、更に好ましくは5〜35m/分である。
かかる回転速度が遅すぎると生産性に劣る傾向があり、速すぎると乾燥が不十分となる傾向がある。
【0045】
キャストドラムの表面温度は、40〜99℃であることが好ましく、特に好ましくは60〜95℃である。
かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると発泡してしまう傾向がある。
【0046】
本発明では、キャストドラムから剥離して得られるフィルムの幅が5
〜6mである。幅が短すぎると、偏光膜の幅広化が困難になる傾向にある。なお、フィルムの幅は、好ましくは5.1〜6m、特に好ましくは5.2〜5.8m、更に好ましくは5.3〜5.7mである。
このようにして含水率が13重量%以上で幅が5m以上のフィルムが得られる。
【0047】
次いで、前記工程(B)について説明する。工程(B)は、製膜されたフィルムを加熱して乾燥する工程である。
【0048】
キャストドラムで製膜されたフィルムの乾燥は、フィルムの表面と裏面とを、上述の条件(1)を満たす複数本の金属加熱ロールの外周部に交互に接触させながら搬送させることにより行なわれる。金属加熱ロールの表面温度の詳細は、前述したとおりである。
【0049】
本発明においては、金属加熱ロールによる乾燥後、フィルムに熱処理を行ってもよい。熱処理については、60〜150℃で行われることが好ましく、特には80〜130℃が好ましい。熱処理温度が低すぎると、ポリビニルアルコール系フィルムの耐水性が不足したり、位相差のふれの原因となる傾向があり、高すぎると偏光膜製造時の延伸性が低下する傾向がある。かかる熱処理方法としては、例えば、フローティングドライヤーにて行う方法、乾燥後一旦常温程度まで冷却した後に再度高温の金属加熱ロールに接触させる方法や、赤外線ランプを用いてフィルムの両面に近赤外線を照射する方法等が挙げられるが、これらの中でも、均一に熱処理できる点で、フローティングドライヤーにて行う方法が好ましい。
【0050】
金属加熱ロールによる乾燥後、必要に応じて熱処理が行われたフィルムは、前記工程(C)を経て製品となる。工程(C)は、フィルムの両端部をスリットして、ロールに巻き取る工程である。
【0051】
一般的に、ポリビニルアルコール系フィルムは、両端部をスリット(切断)して出荷される。スリットは、ロールに巻き取る前に行ってもよいし、一旦ロールに巻き取り、出荷後に再度巻き出して行ってもよい。本発明の目的の1つとして、ポリビニルアルコール系フィルムの幅広化が挙げられる。かかる幅広化のためには、スリットにより生じる廃棄部分の低減も有効な手法である。かかる観点から、スリット幅は10cm以下が好ましく、特に好ましくは5cm以下、更に好ましくは3cm以下である。
なお、本発明の製造方法によるポリビニルアルコール系フィルムであって、幅方向の両端部がスリット(切断)されていないポリビニルアルコール系フィルムを、以下では「ポリビニルアルコール系フィルム(スリット無し)」ともいう。
【0052】
このようにして本発明の製造方法によるポリビニルアルコール系フィルムが得られる。このポリビニルアルコール系フィルムの厚さは、偏光膜の薄型化の点で、60μm以下が好ましい。特に好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下である。かかる厚さは、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度、T型スリットダイのリップ開度、水溶液の吐出速度、キャストドラムの速度などを制御することで調節できる。
【0053】
また、ポリビニルアルコール系フィルムの長さは、生産性の点から4km以上であることが好ましく、特に好ましくは偏光フィルムの大面積化の点で4.5km以上、更に好ましくは輸送重量の点から4.5〜15kmである。
【0054】
本発明の製造方法によるポリビニルアルコール系フィルム(スリット無し)は、平坦な定盤上に設置した時に、フィルム端部の幅方向へのうねり幅が、2cm以下であることが好ましく、特に好ましくは1.5cm以下、更に好ましくは1cm以下である。うねり幅が大きすぎると、偏光フィルム製造工程において巻きしわや端部折れといった現象が発生する傾向にある。
【0055】
本発明の製造方法によるポリビニルアルコール系フィルム(スリット無し)は、均質性の点で、フィルムの幅方向中央部の位相差をRc(nm)、周辺部(端部より10cmの位置とする)の位相差をRe(nm)とした場合に、下記数式(1)を満足することが好ましい。
|Rc(nm)−Re(nm)|≦20nm ・・・(1)
特に好ましくは下記数式(2)、更に好ましくは下記数式(3)を満足することである。
|Rc(nm)−Re(nm)|≦15nm ・・・(2)
|Rc(nm)−Re(nm)|≦10nm ・・・(3)
【0056】
また、本発明の製造方法によるポリビニルアルコール系フィルム(スリット無し)は、フィルムを平坦な定盤上に設置した時に、端部のうき量の最大値が、2mm以下であることが好ましく、特に好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1mm以下である。端部のうき量の最大値が大きすぎると、巻き取ることが困難になり、かつ偏光フィルム製造工程において巻きしわや端部折れといった現象が発生するため、製造歩留りが低下し、製品の幅広化が困難となる傾向がある。
【0057】
本発明の製造方法により製造されたポリビニルアルコール系フィルムは、フィルム端部まで均質性に優れ、偏光膜の原反として好ましく用いられる。以下、本発明の偏光膜の製造方法を説明する。
【0058】
本発明の偏光膜は、通常、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、ロールから巻き出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥などの工程を経て製造される。
【0059】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラなどを防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。当該処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10〜45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1〜10分間程度である。
【0060】
染色工程は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1〜100g/Lが適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。
【0061】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂などのホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度10〜100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30〜70℃程度、処理時間は0.1〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0062】
延伸工程は、一軸方向に3〜10倍、特には3.5〜6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、30〜170℃が好ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0063】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行われ、フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1〜80g/L程度でよい。洗浄処理時の温度は、通常、5〜50℃、好ましくは10〜45℃である。処理時間は、通常、1〜300秒間、好ましくは10〜240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0064】
乾燥工程は、大気中で40〜80℃で1〜10分間行えばよい。
【0065】
このようにして得られる偏光膜の偏光度は、好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99.8%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向にある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H
11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H
1)より、下記数式(4)にしたがって算出される。
〔(H
11−H
1)/(H
11+H
1)〕
1/2 ・・・(4)
【0066】
さらに、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0067】
かくして得られる本発明の偏光膜は、光学ムラがなく偏光性能の面内均一性に優れているため、高品位な偏光板を製造するのに好適である。
以下、本発明の偏光膜から偏光板を製造する方法について説明する。
【0068】
本発明の偏光膜は、その片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合されて偏光板となる。保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイドなどのフィルム又はシートが挙げられる。
【0069】
貼合方法は、公知の手法で行われ、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜、保護フィルム、あるいはその両方に均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射することで行われる。
【0070】
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その方面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、硬化して偏光板とすることもできる。
【0071】
本発明の偏光膜は、偏光性能の面内均一性にも優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパーなど)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
<測定条件>
(1)フィルムの含水率(%)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから10cm×10cmの試験片を切り出し、初期の重量(A)と、83℃の真空乾燥機で20分乾燥後の重量(B)から、下記数式(5)により含水率を算出した。
含水率(%)=100×(A−B)/A ・・・(5)
【0074】
(2)フィルム端部のうねり(cm)
得られたポリビニルアルコール系フィルム(スリット無し)を、長さ方向に100m巻き取りながら、両端部の幅方向へのうねり幅(cm)を目視で観察した。
【0075】
(3)面内位相差のムラ(nm)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、幅方向全福×長さ方向50mmの試験片を10枚切り出し、「KOBRA−WFD」(王子計測機器(株)製、測定波長590nm)を用いて、幅方向中央部の面内位相差Rcと、周辺部(端部より10cmの位置とする)の面内位相差Re(nm)を測定し、|Rc(nm)−Re(nm)|の最大値を面内位相差のムラとした。
【0076】
(4)端部の浮き量(mm)
得られたポリビニルアルコール系フィルム(スリット無し)の幅方向両端部から、フィルムの長さ方向1m×幅方向1mの試験片を切り出し、23℃50%RHの恒温恒湿室で、平坦な定盤上に1時間静置した後、隙間ゲージを用いて、長さ方向の端部の浮き量を測定し、最大値を端部のうき量(mm)とした。
【0077】
(5)偏光度(%)と単体光線透過率(%)
得られた偏光膜の幅方向中央部と両端部から、4cm×4cmの試験片を3枚切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光(株)製VAP7070)を用いて偏光度と単体透過率を測定した。
【0078】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの製造)
重量平均分子量142000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂1000部、水2000部、可塑剤としてグリセリン100部を入れ、撹拌しながら150℃まで昇温して、樹脂濃度25%に濃度調整を行い、均一に溶解したポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。次いで、該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する二軸押出機に供給して脱泡した後、T型スリットダイから、回転するキャストドラムに吐出(吐出速度2.5m/分)及び流延して、フィルム幅5500mmに製膜した。次いで、キャストドラムから含水率20%のフィルムを剥離し、フィルムの表面と裏面とを合計10本の金属加熱ロールに交互に接触させながら搬送して乾燥を行った。
10本の金属加熱ロールは、フィルムの搬送方向の最上流側に位置するものを第1金属加熱ロールとし、下流側に向かうに従って順番に第2金属加熱ロール、第3金属加熱ロール、…、第9金属加熱ロールとし、最下流側に位置するものを第10金属加熱ロールとする。本実施例では、第1〜4金属加熱ロールが第1金属加熱ロール群であり、第5〜7金属加熱ロールが第2金属加熱ロール群であり、第8〜10金属加熱ロールが第3金属加熱ロール群である。
第1〜5金属加熱ロールは、直径0.4m、幅6000mm、温度は70〜90℃である。第6金属加熱ロールは、直径0.4m、幅5400mm、温度は70℃である。第7〜10金属加熱ロールは、直径0.3m、幅6000mm、温度は50〜70℃である。剥離から乾燥までの含水率、フィルム幅は、表1のとおりである。
最後に120℃で熱処理を行い、両端部50mmをスリットして、幅5000mm、厚さ60μm、長さ5kmのポリビニルアルコール系フィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性を表2に示す。
【0079】
(偏光膜の製造)
得られたポリビニルアルコール系フィルムをロールから巻き出し、搬送ロールを用いて水平方向に搬送し、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら、流れ方向へ1.7倍に延伸した。次にヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる28℃の水溶液中に浸漬し染色しながら、流れ方向へ1.6倍に延伸した。次いで、ホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(55℃)に浸漬し、ホウ酸架橋しながら、流れ方向へ2.1倍に一軸延伸した。その後、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄行い、50℃で2分間乾燥して総延伸倍率5.7倍の偏光膜を得た。得られた偏光膜の偏光特性を表2に示す。
【0080】
<
参考例1>
実施例1において、フィルムの乾燥条件を表1に示すとおりに変更した以外は同様に行い、ポリビニルアルコール系フィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
更に、実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0081】
<実施例
2>
実施例1において、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液のキャストドラムへの吐出速度を1.3m/分に変えてフィルムの膜厚を表2に示すとおりに変更した以外は同様に行い、ポリビニルアルコール系フィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
更に、実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0082】
<比較例1>
実施例1において、フィルムの乾燥条件を表1に示すとおりに変更した以外は同様に行い、ポリビニルアルコール系フィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
更に、実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0083】
<比較例2>
実施例1において、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液のキャストドラムへの吐出速度を1.3m/分に変えてフィルムの膜厚を表2に示すとおりに変更し、またフィルムの乾燥条件を表1に示すとおりに変更した以外は同様に行い、ポリビニルアルコール系フィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
更に、実施例1と同様にして偏光膜を製造しようとしたが、偏光膜製造の搬送中に端部折れが発生して、偏光膜を製造できなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
実施例1
及び2から明らかなように、本発明の製造方法によるポリビニルアルコール系フィルムは、端部のうねり、面内位相差のムラ、端部の浮き量が小さく、偏光度ムラの少ない偏光膜が得られるのに対し、比較例1のポリビニルアルコール系フィルムは、端部のうねり、面内位相差のムラ、端部の浮き量が大きく、得られた偏光膜は、偏光度ムラが大きいものであることがわかる。また、比較例2の薄型ポリビニルアルコール系フィルムからは、偏光膜を製造できなかった。