特許第6878821号(P6878821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6878821-KFI型ゼオライト及びその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878821
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】KFI型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20210524BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20210524BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20210524BHJP
   B01J 20/18 20060101ALN20210524BHJP
   B01J 20/30 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   C01B39/48
   B01J29/70 M
   B01J37/10
   !B01J20/18 A
   !B01J20/30
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-202153(P2016-202153)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-62450(P2018-62450A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高光 泰之
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特許第2637765(JP,B2)
【文献】 特表平06−504516(JP,A)
【文献】 特開2016−060660(JP,A)
【文献】 特公昭42−002048(JP,B1)
【文献】 特開昭58−181723(JP,A)
【文献】 特開昭61−254256(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0089494(US,A1)
【文献】 特開昭54−099799(JP,A)
【文献】 特表2004−533386(JP,A)
【文献】 FISCHER, R. X. et al.,Zeolites,NL,1986年,Vol.6,pp.378-387
【文献】 VONGVORADIT, P. et al.,Procedia Engineering,2012年,Vol.32,pp.198-204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 39/54
B01J 20/18
B01J 21/00 − 38/74
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナに対するシリカのモル比が8.5以上15以下であり、比表面積が400m/g以上であることを特徴とするKFI型ゼオライト。
【請求項2】
アルミナに対するシリカのモル比が11以下である請求項1に記載のKFI型ゼオライト。
【請求項3】
比表面積が1000m/g以下である請求項1又は2のいずれかに記載のKFI型ゼオライト。
【請求項4】
有機構造指向剤源、シリカ源、アルミナ源、カリウム源及び水を含む組成物を結晶化する結晶化工程、を有し、有機構造指向剤としてトリエチルアミン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン及びトリエチルブチルアンモニウムカチオンからなる群の少なくとも1種を使用し、前記組成物が結晶性アルミノシリケート又は非晶質アルミノシリケートの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記有機構造指向剤が、トリエチルアミン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン及びテトラエチルアンモニウムカチオンらなる群の少なくとも1種である請求項4に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項6】
前記カリウム源が酸化カリウム、炭酸カリウム又は水酸化カリウムからなる群の少なくとも1種である請求項4又は5に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記組成物のシリカに対するカリウムのモル比が1.0以下である請求項4乃至のいずれか一項に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
前記組成物がFAU型ゼオライトを含む請求項乃至7のいずれか一項に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
前記組成物がストロンチウム源を含む請求項6乃至8のいずれか一項に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項10】
前記組成物が1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロ−オクタデカンを含む請求項6乃至9のいずれか一項に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はKFI型ゼオライト、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
KFI型ゼオライトは三次元8員環細孔を有するゼオライトであり、これは天然には存在せず人工的に合成されたゼオライトである。
【0003】
KFI型ゼオライトは触媒として使用することができ、例えば、ZK−5は炭化水素のクラッキング触媒として使用されている。また、これまで種々のKIF型ゼオライトの製造方法が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、1,4−ジメチル−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、アルミン酸ソーダ、シリカゲル及び水の混合物を結晶化することでKFI型ゼオライトが得られたこと、及び、得られたKFI型ゼオライトのSiO/Al比が3.5〜5.1であることが開示されている。
【0005】
非特許文献2には1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロ−オクタデカン(以下、「18−クラウン−6」又は「18c6」とする。)、水酸化カリウム、硝酸ストロンチウム、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム及び水の混合物を結晶化することでKFI型ゼオライトが得られたこと、及び、得られたKFI型ゼオライトのSi/Al比が3.5〜4.0、すなわちSiO/Al比が7.0〜8.0であることが開示されている。
【0006】
非特許文献3には、コロイダルシリカ、水酸化カリウム、硝酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム及び水の混合物を結晶化することでKFI型ゼオライトが得られたこと、及び、得られたKFI型ゼオライトのSi/Al比が3.3〜4.1、すなわちSiO/Al比が6.6〜8.2であることが開示されている。
【0007】
特許文献1には、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、水酸化ストロンチウム、コロイダルシリカ、酸化バリウム及び水を原料としてKFI型ゼオライトが得られたこと、及び、得られたKFI型ゼオライトのSiO/Al比が7.1及び8.4であることが開示されている。
【0008】
非特許文献4には、水酸化アルミニウム、コロイダルシリカであるLS−30、水酸化カリウム、及び水酸化セシウムを結晶化することでKFI型ゼオライトが得られること、及び、得られたKFI型ゼオライトの組成が(NHCs1.50.003Al22.5Si73.5192であること、すなわち、SiO/Al比が6.53であることが開示されている。さらに、得られたKFI型ゼオライトを水蒸気雰囲気で加熱処理することによって骨格のアルミニウムを骨格外へ外し、SiO/Al比を高くすることが開示されている。上記加熱処理後のKFI型ゼオライトの骨格中のSiO/Al比は12.8及び22とされているが、実際のSiO/Al比は6.53であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4994249号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Inorganic Chemistry 第5巻、第9号、1539−1541頁(1966年)
【非特許文献2】Zeolites、第17巻、328−333頁(1996年)
【非特許文献3】Microporous and Mesoporous Materials、第22巻、409−418頁(1998年)
【非特許文献4】Zeolites、第6巻、378−387頁(1986年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献4では、結晶化後のKFI型ゼオライトを加熱処理して骨格のSiO/Al比を高くするものであるが、水蒸気雰囲気での加熱処理はKFI型ゼオライトの細孔容積の減少やゼオライト骨格構造の崩壊を伴い、SiO/Al比の高くする効果は実質的に得られない。
【0012】
このように、これまで報告されたKFI型ゼオライトはSiO/Al比が低く、耐熱性が低かった。
【0013】
これらの課題に鑑み、本発明は従来のKFI型ゼオライトと比べ、より高い耐熱性が期待できるKFI型ゼオライトを提供することを目的とする。更に、そのKFI型ゼオライトの製造方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、高温雰囲気で使用される触媒について検討した。その結果、結晶化のSiO/Al比を高くすることでKFI型ゼオライトが高温雰囲気で使用される触媒及び吸着剤に必要な耐熱性を有することを見出し、また、従来のKFI型ゼオライトよりもSiO/Al比の高いKFI型ゼオライトの製造方法を見出した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] アルミナに対するシリカのモル比が8.5以上であることを特徴とするKFI型ゼオライト。
[2] アルミナに対するシリカのモル比が9.0以上15.0以下である上記[1]に記載のKFI型ゼオライト。
[3] 比表面積が400m/g以上である上記[1]又は[2]のいずれかに記載のKFI型ゼオライト。
[4] 有機構造指向剤としてエチル基を3以上含むアミン類を使用することを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
[5] 前記有機構造指向剤が、トリエチルアミン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン及びトリエチルブチルアンモニウムカチオンからなる群の少なくとも1種である上記[4]に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
[6] 上記[4]又は[5]の製造方法であって、有機構造指向剤源、シリカ源、アルミナ源、カリウム源及び水を含む組成物を結晶化する結晶化工程、を有するKFI型ゼオライトの製造方法。
[7] 前記組成物が結晶性アルミノシリケート又は非晶質アルミノシリケートの少なくともいずれかを含む上記「6」に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
[8] 前記組成物がFAU型ゼオライトを含む上記[6]又は[7]に記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
[9] 前記組成物がストロンチウム源を含む上記[6]乃至[8]のいずれかに記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
[10] 前記組成物が1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロ−オクタデカンを含む上記[6]乃至[9]のいずれかに記載のKFI型ゼオライトの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は従来のKFI型ゼオライトと比べ、より高い耐熱性が期待できるKFI型ゼオライトを提供することができる。更に、そのKFI型ゼオライトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1のKFI型ゼオライトのXRDパターン
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のKFIゼオライトについて詳細に説明する。
【0019】
本発明はKFI構造を有するゼオライトに係る。KFI構造は、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)でKFIとして規定されている構造である。これらの構造は、Collection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition(2007)に記載の粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)パターン、又は、IZAの構造委員会のホームページhttp://www.iza−struture.org/databases/のZeolite Framework Typesに記載のXRDパターンのいずれかと比較することで、これを同定することができる。
【0020】
本発明のKFI型ゼオライトは、アルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO/Al比」ともいう。)が8.5以上、更には9.0以上、また更には10を超える。SiO/Al比が8.5以上であることで、触媒等の用途における実用的な耐熱性を有する。一方、本発明のKFI型ゼオライトのSiO/Al比は36以下となる。更にSiO/Al比は15以下であれば、本発明のKFI型ゼオライトが触媒として十分な量の酸点を有する。SiO/Al比は8.5以上36以下であり、9以上15以下、更には10を超え15以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のKFI型ゼオライトにおいて、比表面積は400m/g以上、更には430m/g以上、また更には500m/g以上である。比表面積が400m/g以上であれば、触媒反応や吸着反応が促進されやすくなる。本発明のKFI型ゼオライトは、比表面積は1000m/g以下、更には800m/g以下、また更には650m/g以下であればよい。
【0022】
本発明のKFI型ゼオライトにおいて、平均結晶径は0.5μm以上、更には1.0μm以上である。平均結晶径が0.5μm以上であれば、触媒等として実用的な耐熱性を有する。平均結晶径は10μm以下、更には6μm以下であれば、実用的な触媒性能を有する触媒とすることができる。
【0023】
本発明における結晶径とは、一次粒子の粒径であり、電子顕微鏡で観察される独立した最小単位の粒子の直径である。平均結晶径は、電子顕微鏡で無作為に抽出した30個以上の一次粒子の結晶径を相加平均した値である。そのため、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の直径である二次粒子径や平均二次粒子径と、結晶径や平均結晶径とは異なる。
【0024】
次に、本発明のKFI型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0025】
本発明の製造方法は、有機構造指向剤としてエチル基を3以上含むアミン類を使用することを特徴とするKFI型ゼオライトの製造方法である。有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)を使用することでSiO/Al比が8.5以上のKFI型ゼオライトを結晶化することができる。
【0026】
エチル基を3以上含むアミン類として、エチル基を3以上含む三級アミン又は四級アンモニウムカチオンの少なくともいずれかを挙げることができる。
【0027】
好ましいSDAとして、トリエチルアミン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン及びトリエチルブチルアンモニウムカチオンからなる群の少なくとも1種を挙げることができ、トリエチルアミン(以下、「TriEA」ともいう。)、トリエチルメチルアンモニウムカチオン(以下、「TEMA」ともいう。)及びテトラエチルアンモニウムカチオン(以下、「TEA」ともいう。)からなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法は、SDAとしてエチル基を3以上含むアミン類を使用する製造方法であって、シリカ源、アルミナ源、SDA源、カリウム源及び水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化する結晶化工程、を有する製造方法であることが好ましい。
【0029】
シリカ源はケイ素(Si)を含む化合物であればよく、シリカゾル、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降法シリカ、無定形ケイ酸、結晶性アルミノシリケート及び非晶質アルミノシリケートからなる群の少なくとも1種であることが好ましく、結晶性アルミノシリケート又は無定形アルミノシリケートの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0030】
アルミナ源はアルミニウム(Al)を含む化合物であればよく、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、結晶性アルミノシリケート、非晶質アルミノシリケート、金属アルミニウム、及びアルミニウムアルコキシドからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
さらに、シリカ源又はアルミナ源は、結晶性アルミノシリケート又は非晶質アルミノシリケートの少なくともいずれかを含むことが好ましい。KFI型ゼオライトを結晶化する際、結晶化に先立ちアルミニウムを溶解させることで結晶化が進行しやすくなる。結晶性アルミノシリケート又は非晶質アルミノシリケートを用いることでアルミニウムの溶解操作が不要になるため、製造工程が簡略化できる。シリカ源又はアルミナ源としての結晶性アルミノシリケートはFAU型ゼオライトであることが特に好ましい。
【0032】
SDA源はエチル基を3以上含むアミン類又はその塩であればよく、塩としてハロゲン化物又は水酸化物の少なくともいずれか、更にはフッ化物、塩化物、臭化物及び水酸化物からなる群の少なくとも1種、また更には水酸化物であることがより好ましい。SDAがTEAである場合を例に挙げると、SDA源は、テトラエチルアンモニウム塩化物(以下、「TEACl」ともいう。)、テトラエチルアンモニウム臭化物(以下、「TEABr」ともいう。)及びテトラエチルアンモニウム水酸化物(以下、「TEAOH」ともいう。)からなる群の少なくとも1種、更にはTEAOHであることが挙げられる。
【0033】
カリウム源はカリウムを含む化合物であればよく、酸化カリウム、炭酸カリウム又は水酸化カリウムからなる群の少なくとも1種、更には水酸化カリウムを挙げることができる。シリカ源及びアルミナ源がカリウムを含む場合、当該カリウムもカリウム源としてみなすことができる。
【0034】
原料組成物に含まれる水としては、例えば、純水を使用することができる。なお、原料組成物の各原料(水を除く)は、水溶液として使用することもできる。
【0035】
原料組成物は、ストロンチウム源を含んでいることが好ましい。ストロンチウム源はストロンチウム(Sr)を含む化合物であればよく、ストロンチウムの塩化物、臭化物、水酸化物、酸化物、炭酸塩及び硝酸塩からなる群の少なくとも1種、更には硝酸塩であることが好ましい。
【0036】
原料組成物はクラウンエーテルを含んでいることが好ましい。原料組成物がクラウンエーテルを含むことでKFI型ゼオライトの結晶化がより促進される。好ましいクラウンエーテルとして18−クラウン−6を挙げることができる。
【0037】
結晶化工程において、原料組成物に種晶を混合してもよい。これにより結晶化が促進される。種晶としてKFI型ゼオライトを挙げることができる。
【0038】
結晶化工程における種晶は、以下の式から求められる含有量として、0重量%以上30重量%以下、更には0重量%以上1重量%以下であることが好ましく、種晶を含有する場合の種晶含有量は0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0039】
種晶含有量(重量%)=(WAl(seed)+WSi(seed))×100/(WAl+WSi
上記式において、WAlは原料組成物のAlをAlに換算した重量、WSiは原料組成物中のSiをSiOに換算した重量、WAl(seed)は種晶中のAlをAlに換算した重量、及び、WSi(seed)は種晶中のSiをSiOに換算した重量である。
【0040】
原料組成物のアルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)は10以上、更には13以上であることが好ましい。一方、原料組成物のSiO/Al比は50以下、更には35以下であればよい。好ましいSiO/Al比としては、10以上50以下、更に13以上30以下を挙げることができる。
【0041】
原料組成物のシリカに対するSDAのモル比(以下、「SDA/SiO比」ともいう。)は0.01以上、更には0.05以上であることが好ましい。SDA/SiO比が0.01以上であることで、SiO/Al比が高いKFI型ゼオライトが結晶化しやすくなる。SDA/SiO比は1.0以下、更には0.8以下、また更には0.5以下であっても、本発明のKFI型ゼオライトを結晶化することができる。
【0042】
原料組成物のシリカに対するカリウムのモル比(以下、「K/SiO比」ともいう。)は1.0以下、更には0.5以下であることが好ましい。K/SiO比が1.0以下であることで、KFI型ゼオライトの収率が高くなりやすい。K/SiO比は0.05以上、更には0.1以上であればよい。
【0043】
原料組成物中のシリカに対する水酸化物のモル比(以下、「OH/SiO比」ともいう。)は1.0以下、更には0.7以下であることが好ましい。OH/SiO比が低くなると収率が高くなりやすい。原料組成物のOH/SiO比は0.1以上、更には0.2以上であればよい。
【0044】
原料組成物が二種以上の水酸化物、また酸性の塩を含む場合、それぞれの水酸化物と塩について、シリカに対する水酸化物のモル比を算出し、水酸化物のモル比を合算し、酸性の塩のモル比に価数を乗じたものを減算することでOH/SiO比を算出することができる。
【0045】
原料組成物中のシリカに対する水のモル比(以下、「HO/SiO比」ともいう。)は100以下、更には50以下、また更には30以下であればよい。原料組成物に適度な流動性を付与するため、HO/SiO比は5以上、更には10以上であることが好ましい。
【0046】
原料組成物がストロンチウムを含有する場合、原料混合物のシリカに対するストロンチウムのモル比(以下、「Sr/SiO比」ともいう。)は0以上0.1以下を挙げることができる。
【0047】
原料組成物が18−クラウン−6を含有する場合、原料組成物のシリカに対する18−クラウン−6のモル比(以下、「18c6/SiO比」ともいう。)は0以上0.5以下であればよい。この範囲であれば、原料組成物の結晶化が進行しやすい。
【0048】
原料組成物の組成のモル比として特に好ましい範囲を以下に挙げることができる。
【0049】
10≦SiO/Al比≦50
0.01≦SDA/SiO比≦1
0.05≦K/SiO比≦1
0.1≦OH/SiO比≦1
5≦HO/SiO比≦100
0≦Sr/SiO比≦0.1
0≦18c6/SiO比≦0.5
結晶化工程では、原料組成物を水熱合成することにより、これを結晶化する。結晶化は、原料組成物を密閉容器に充填し、これを加熱すればよい。
【0050】
結晶化を促進する観点から、結晶化温度は80℃以上であればよい。結晶化温度が高いほど、結晶化が促進される。そのため、結晶化温度は100℃以上が好ましい。一方、原料組成物が結晶化すれば、必要以上に結晶化温度を高くする必要はない。そのため、結晶化温度は200℃以下とすることができ、更には165℃以下とすることができる。また、結晶化は原料組成物を攪拌した状態、又は静置した状態で行うことができる。
【0051】
以下に示す、洗浄工程、乾燥工程及び焼成工程を経ることにより、本発明のKFI型ゼオライトを触媒や吸着剤等として使用することができる。
【0052】
洗浄工程では、まず、結晶化後のKFI型ゼオライトと液相とを固液分離する。固液分離は、公知の方法を使用することができる。固液分離後、固相として得られるKFI型ゼオライトを純水で洗浄することができる。
【0053】
乾燥工程は、KFI型ゼオライトから水分を除去する。物理的な吸着水がKFI型ゼオライトからだ除去できれば乾燥工程の処理条件は任意であるが、KFI型ゼオライトを大気中、50℃以上150℃以下で2時間以上、静置することが例示できる。
【0054】
焼成工程は、KFI型ゼオライト内にある有機物を燃焼させて除去する。焼成工程の具体的な処理として、KFI型ゼオライトを、大気中、500℃以上900℃以下で静置することが例示できる。
【0055】
結晶化後のKFI型ゼオライトは、そのイオン交換サイト上にアルカリ金属イオン等の金属イオンを有する場合がある。イオン交換工程では、金属イオンをアンモニウムイオン(NH)や、プロトン(H)等の非金属カチオンにイオン交換する。アンモニウムイオンへのイオン交換の具体的な処理としては、KFI型ゼオライトを塩化アンモニウム水溶液に混合して、攪拌することが挙げられる。また、プロトンへのイオン交換の具体的な処理としては、KFI型ゼオライトをアンモニアでイオン交換した後、これを焼成することが挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
(結晶構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりである。
線源 :CuKα線(λ=1.5405Å)
測定範囲 :2θ=3°〜43°
【0058】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)で測定した。得られたSi、Alの測定値から、試料のSiO/Al比を求めた。
【0059】
(比表面積の測定)
試料の比表面積は、窒素吸着測定により算出した。窒素吸着測定には一般的な窒素吸着装置(装置名:OMNISORP360cx、ベックマンコールター社製)を用いた。試料を真空下300℃で2時間前処理し、液体窒素温度で窒素ガスを吸着させた。値の算出にはBET法を用い、P/P=0.01〜0.1のデータを全て用いて値を算出した。
【0060】
(平均結晶径)
電子顕微鏡(装置名:JSM−6390LV、日立分光社製)を用いて一次粒子の結晶径及び形状を観察した。立方晶形状の結晶の1辺の長さ測定することで結晶径を求めた。平均結晶径は、30個以上の一次粒子を無作為に抽出し、個々の結晶径の測定値の平均から求めた。
【0061】
実施例1
FAU型ゼオライト(SiO/Al比=15)、TEAOH水溶液、水酸化カリウム、硝酸ストロンチウム及び18−クラウン−6を混合して、以下の組成を有する原料組成物を得た。
SiO/Al比 =15
TEA/SiO比 =0.1
K/SiO比 =0.36
OH/SiO比 =0.44
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0062】
得られた原料組成物を密閉容器内に充填し、この容器を静置した状態で150℃、5日間の条件で原料組成物を結晶化させた。結晶化後の原料組成物を固液分離し、純水で洗浄した後、110℃で乾燥して結晶化物を得、これを本実施例のゼオライトとした。
【0063】
本実施例のゼオライトはKFI型ゼオライトであり、SiO/Al比が11.0であった。平均結晶径は4.4μmであった。本実施例の原料組成物の主な組成を表1に示す。
【0064】
実施例2
TEAOH水溶液の代わりにトリエチルアミンを使用したこと、原料組成物を以下の組成としたこと、及び、結晶化時間を16日としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のゼオライトを得た。
SiO/Al比 =15
TriEA/SiO比 =0.3
K/SiO比 =0.46
OH/SiO比 =0.44
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0065】
本実施例のゼオライトはKFI型ゼオライトであり、SiO/Al比が9.2であった。平均結晶径は5.2μmであった。本実施例の原料組成物の主な組成を表1に示す。
【0066】
実施例3
FAU型ゼオライトとしてSiO/Al比が5.5のFAU型ゼオライトを使用したこと、コロイダルシリカを使用したこと、原料組成物を以下の組成としたこと、及び、結晶化時間を6日としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のゼオライトを得た。
SiO/Al比 =15
TEA/SiO比 =0.1
K/SiO比 =0.31
OH/SiO比 =0.39
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0067】
本実施例のゼオライトはKFI型ゼオライトであった。本実施例の原料組成物の主な組成を表1に示す。
【0068】
比較例1
TEAOH水溶液を使用しなかったこと、及び、原料組成物を以下の組成としたこと以外は、実施例1と同様の方法で本比較例のゼオライトを得た原料組成物を結晶化した。
SiO/Al比 =15
TEA/SiO比 =0
K/SiO比 =0.46
OH/SiO比 =0.44
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0069】
しかしながら、結晶化5日経過後においても原料組成物は全く結晶化せず、そのXRDパターンにおいて、KFI型ゼオライトの構造を示すピーク及び結晶性物質の存在を示すピークのいずれも確認ができなかった。これより、本比較例ではKFI型ゼオライトは結晶化しないことが確認できた。原料組成物の主な組成を表1に示した。
【0070】
比較例2
TEAOH水溶液の代わりにテトラメチルアンモニウム水酸化物水溶液を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で原料組成物を結晶化した。
【0071】
しかしながら、結晶化5日経過後においてOFF構造及びSOD構造を示すXRDピークが確認できたが、KFI型ゼオライトの構造を示すピークは確認ができなかった。これより、本比較例ではKFI型ゼオライトは結晶化しないことが確認できた。原料組成物の主な組成を表1に示した。
【0072】
比較例3
TEAOH水溶液の代わりにテトラプロピルアンモニウム水酸化物水溶液を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で原料組成物を結晶化した。
【0073】
しかしながら、結晶化5日経過後においてMFI構造を示すピークがわずかに確認されたが、KFI型ゼオライトの構造を示すピークは確認できなかった。これより、本比較例ではKFI型ゼオライトは結晶化しないことが確認できた。原料組成物の主な組成を表1に示した。
【0074】
比較例4
TEAOH水溶液の代わりにジエチルジメチルアンモニウム水酸化物水溶液を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で原料組成物を結晶化した。
【0075】
しかしながら、結晶化5日経過後においても原料組成物は全く結晶化せず、そのXRDパターンにおいて、KFI型ゼオライトの構造を示すピーク及び結晶性物質の存在を示すピークのいずれも確認ができなかった。これより、本比較例ではKFI型ゼオライトは結晶化しないことが確認できた。原料組成物の主な組成を表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例4
FAU型ゼオライトとしてSiO/Al比が23のFAU型ゼオライトを使用したこと、及び、原料組成物を以下の組成としたこと、以外は実施例1と同様な方法で原料組成物を得た。
SiO/Al比 =23
TEA/SiO比 =0.1
K/SiO比 =0.46
OH/SiO比 =0.54
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0078】
得られた原料組成物に10重量%のKFI型ゼオライトを種晶として添加したこと、及び、110℃で7日間結晶化したこと以外は実施例1と同様な方法で結晶化物を得、これを本実施例のゼオライトとした。
【0079】
本実施例のゼオライトは、KFI型ゼオライトの単一相であり、SiO/Al比が9.7、空気雰囲気下、600℃で2時間焼成した後の比表面積は433m/gであった。平均結晶径は1.0μmであった。本実施例の原料組成物の主な組成を表2に、本実施例のゼオライトのXRDパターンを図1に示す。
【0080】
実施例5
FAU型ゼオライトとしてSiO/Al比が15のFAU型ゼオライトを使用したこと、FAU型ゼオライトに加えて非晶質アルミノシリケート(SiO/Al比=400)を使用したこと、及び、原料組成物を以下の組成としたこと、以外は実施例1と同様な方法で原料組成物を得た。
【0081】
SiO/Al比 =23
TEA/SiO比 =0.1
K/SiO比 =0.46
OH/SiO比 =0.54
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
得られた原料組成物に10重量%のKFI型ゼオライトを種晶として添加したこと、及び、110℃で5日間結晶化したこと以外は実施例1と同様な方法で結晶化物を得、これを本実施例のゼオライトとした。
【0082】
本実施例のゼオライトは、KFI型ゼオライトの単一相であり、SiO/Al比が8.5、空空気雰囲気下、600℃で2時間焼成した後の比表面積は582m/gであった。本実施例の原料組成物の主な組成を表2に示した。
【0083】
実施例6
110℃で67日間結晶化したこと以外は実施例5と同様な方法で結晶化物を得、これを本実施例のゼオライトとした。
【0084】
本実施例のゼオライトは、KFI型ゼオライトの単一相であり、SiO/Al比が10.6、空気雰囲気下、600℃で2時間焼成した後の比表面積は583m/gであった。平均結晶径は1.8μmであった。本実施例の原料組成物の主な組成を表2に示す。
【0085】
実施例7
原料組成物を以下の組成としたこと、及び、110℃で14日間結晶化したこと以外は実施例5と同様な方法で結晶化物を得、これを本実施例のゼオライトとした。
SiO/Al比 =30
TEA/SiO比 =0.1
K/SiO比 =0.46
OH/SiO比 =0.54
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0086】
本実施例のゼオライトは、KFI型ゼオライトの単一相であり、SiO/Al比が11であった。本実施例の原料組成物の主な組成を表2に示す。
【0087】
なお、本実施例において、結晶化開始から5日経過後の結晶化物を一部回収し、XRDパターンを確認した。その結果、結晶化5日後の結晶化物においてKFI型ゼオライトのピークが生成していることが確認できた。
【0088】
実施例8
FAU型ゼオライトの代わりに非晶質アルミノシリケート(SiO/Al比=20)を使用したこと、硝酸ストロンチウム及び18c6を使用しなかったこと、並びに、原料組成物を以下の組成としたこと、以外は実施例1と同様な方法で原料組成物を得た。
SiO/Al比 =20
TEA/SiO比 =0.4
K/SiO比 =0.2
OH/SiO比 =0.60
O/SiO比 =11
(Sr/SiO比 =0)
(18c6/SiO比 =0)
【0089】
得られた原料組成物に10重量%のKFI型ゼオライトを種晶として添加したこと、及び、130℃で4日間結晶化したこと以外は実施例1と同様な方法で結晶化物を得、これを本実施例のゼオライトとした。
【0090】
本実施例のゼオライトは、KFI型ゼオライトの単一相であり、SiO/Al比が9であった。本実施例の原料組成物の主な組成を表2に示す。
【0091】
比較例5
非特許文献2に準じてKFI型ゼオライトを製造した。すなわち、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム及び純水を混合した後、密閉容器に充填した。当該容器を静置した状態で110℃、12時間の加熱処理することにより混合溶液を得た。コロイダルシリカ、18−クラウン−6及び硝酸ストロンチウムを当該混合溶液に添加して以下の組成を有する原料組成物を得た。
SiO/Al比 =10
K/SiO比 =0.46
OH/SiO比 =0.44
O/SiO比 =22
Sr/SiO比 =0.01
18c6/SiO比 =0.1
【0092】
得られた原料組成物を密閉容器内に充填し、この容器を静置した状態で150℃、5日間の条件で原料組成物を結晶化させた。結晶化後の原料組成物を固液分離し、純水で洗浄した後、110℃で乾燥して本比較例のゼオライトを得た。
【0093】
本比較例のゼオライトはKFI型ゼオライトであり、SiO/Al比が7.7でり、大気中、600℃、2時間で熱処理後の比表面積は455m/gであった。本比較例の原料組成物の主な組成を表1に、本比較例のゼオライトの評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のKFI型ゼオライトは、触媒や吸着剤として優れた性能を示す。
図1