(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケルまたはニッケル化合物が、Ni粉、あるいはNiO粉から選ばれる1種以上の粉末であり、その平均粒径(d50)が1μm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石微粉末の製造方法。
希土類−鉄−窒素系合金粉末が、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、および還元剤の混合物を加熱して、希土類元素を遷移金属に還元拡散させる工程と、得られた合金を冷却後に窒化処理する工程と、窒化生成物を水中に投入して湿式処理する工程を経て製造されることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−窒素系磁石微粉末の製造方法。
微粉砕工程の後、希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を真空雰囲気中、100℃〜200℃で処理し加熱乾燥する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の希土類−鉄−窒素系磁石微粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の希土類−鉄−窒素系磁石微粉末の製造方法を詳細に説明する。本発明において希土類−鉄−窒素系磁石微粉末は、合金粉末製造工程、微粉砕工程、乾燥工程の3工程を含む方法で製造される。以下、各工程について、処理の順に説明する。
【0018】
1.合金粉末製造工程
本発明において、希土類−鉄−窒素系合金粉末は、希土類元素と鉄と窒素を主成分としており、製造方法によって特に限定されず、粉末焼結法、鋳造法、還元拡散法等によることができる。中でも本発明では安価に製造できるという観点から、還元拡散法によることが望ましい。
【0019】
還元拡散法によって希土類−鉄−窒素系合金粉末を製造する工程は、還元拡散による希土類−鉄系合金の合成、該合金の窒化処理、窒化生成物の湿式処理、得られる粗粉末の乾燥処理を含んでいる。
【0020】
(a)還元拡散
まず、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、および還元剤を配合し、原料混合物を調製する。必要により、その他の原料粉末を配合しても良い。
【0021】
本発明に用いられる希土類酸化物粉末としては、例えばSm、GdおよびCeから選ばれる少なくとも1種の元素、あるいはPr、Nd、DyおよびYbから選ばれる1種の元素を含むものが好ましい。特にSm、Pr、Ndの酸化物を用いると磁石の磁気特性が極めて高くなる。このうち、本発明では耐熱性、耐候性に優れる磁石粉末が得られることから、Smの酸化物が好適である。粒径によって制限されないが、粒度分布が比較的揃っているものを用いることが好ましく、例えば、5μm〜80μmの粒径であることがより好ましい。
【0022】
希土類元素の含有量は、希土類−鉄系合金に対して14質量%〜27質量%であることが磁気特性の点で望ましい。好ましいのは15質量%〜25質量%である。
【0023】
遷移金属粉末としては、鉄、コバルト、マンガンなどが挙げられるが磁気特性上、鉄が好ましい。鉄は、還元拡散後に行われる窒化処理や湿式処理の容易性を考慮した粒度分布とするのが望ましい。例えば、10μm〜100μmの粒径であることが好ましく、20μm〜80μmがより好ましい。原料として用いる遷移金属粉末は、一般にアトマイズ法、電解法などにより製造される。
【0024】
還元剤としては、LiおよびCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Rb、Cs、Mg、SrまたはBaから選ばれる少なくとも一種類からなるアルカリ金属またはアルカリ土類金属元素が使用できる。なお、取扱いの安全性とコストの点から金属LiまたはCaが好ましく、特にCaが好ましい。
【0025】
上記希土類酸化物粉末に鉄を混合し、希土類酸化物粉末を還元するのに十分な量の上記還元剤を添加・混合した後、この混合物をArなどの不活性ガス中にて、還元剤が溶融する温度以上、かつ、目的とする希土類−鉄系合金が溶融しない温度まで上昇させて加熱焼成する。これにより、上記希土類酸化物を希土類元素に還元するとともに、還元時の発熱温度を用いて、希土類元素が遷移金属に拡散した希土類−鉄系合金を合成することができる。
【0026】
加熱処理は、Caの融点が838℃なので、1100℃〜1200℃の温度範囲とし、3時間〜10時間かけて加熱する。なお使用する設備は、ガスをフローできる構造、かつ1100℃〜1200℃で加熱できる材質の処理炉であれば特に制限されない。
【0027】
(b)窒化処理
次に、この希土類−鉄系合金を室温まで冷却する。還元拡散法で得られた希土類−鉄系合金を含む反応生成物は、原料粉末の焼成で粗大化しているが、窒化効率を上げるために、通常106μm程度以下の比較的小さな粒子にすることが望ましい。
【0028】
粒径が106μm程度以下の粒子を得る方法は、特に制限されず、ハンマーミルやジョークラッシャーを用いて粉砕することができる。あるいは、希土類合金は水素吸蔵合金であることから、還元拡散された反応生成物を水素雰囲気で保持することで水素崩壊させて粉末状にしても良い。その際、室温で行うか50℃程度まで加熱してもよく、常圧でも加圧しても構わない。
【0029】
窒化処理雰囲気は、窒素またはアンモニアを含む雰囲気であり、アンモニアは水素と混合して用いることが好ましい。アンモニアと水素との混合比は、特に限定されないが、10〜70:30〜90、好ましくは30〜60:40〜70とする。この範囲を外れ、アンモニアが少なすぎると窒化の効率が低下する。
【0030】
窒化処理は、300℃〜500℃、好ましくは400℃〜450℃の温度で行う。300℃未満では窒化反応に時間がかり、500℃を超えると組成が変化して磁気特性が著しく低下することがある。窒化に要する時間は、処理重量にもよるが5時間〜10時間である。なお、反応装置は静置式を使用できるが、均一な窒化処理を行うためには、ロータリーキルン式処理装置を用いるのが好適である。
【0031】
(c)湿式処理
窒化処理して得た窒化生成物は、還元剤がCaの場合、希土類−鉄−窒素系合金とCaOからなるインゴットであるため、次に、窒化生成物からCaOを除去する湿式処理を行なう。
【0032】
具体的には窒化生成物を水中に投入し、希土類−鉄−窒素系合金とCa(OH)
2の浮遊物に分離し、希土類−鉄−窒素系合金とCa(OH)
2の比重差を利用し、希土類−鉄−窒素系合金を得る。具体的には、Ca(OH)
2を含む上澄み液を除去し、さらに水を加え、再びCa(OH)
2を含む上澄みを除去する。この注水と除去のデカンテーションを繰り返し行い、Ca(OH)
2を除去することで希土類−鉄−窒素系合金を得る。
【0033】
この際、Ca(OH)
2の除去効率を上げるために、塩酸や酢酸、硫酸等の無機酸を用い酸洗処理を行っても良い。この場合、水中のpHをモニタリングし7以下、好ましくは5〜6の間で必要時間保持するのが好ましい。保持時間は、処理重量にもよるが概ね1時間〜2時間を目安とする。なお過剰な酸洗処理は、希土類−鉄−窒素系合金の表面をエッチングしてしまい、磁気特性の低下を起こすことがあるので注意が必要である。
【0034】
(d)乾燥
最後に、希土類−鉄−窒素系合金を乾粉として得るため、湿式処理生成物を50℃〜200℃で加熱する。効率を上げるため真空雰囲気下で実施するのが好ましい。この場合、処理装置内の内圧を終点判定に用いるのが良い。処理後は室温まで冷却して処理装置より取り出せば、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得ることができる。
【0035】
2.微粉砕工程
湿式処理後、希土類−鉄−窒素系合金粉末は、粉砕装置で粉砕する。その際に、本発明では、粉砕装置内に有機溶剤を装入し、表面処理剤としてリン酸化合物、およびニッケルまたはニッケル化合物を添加して、希土類−鉄−窒素系合金粉末を表面処理する。
【0036】
すなわち、還元拡散法などで得られた希土類−鉄−窒素系合金粉末は、粉砕装置にリン酸化合物およびニッケルを有機溶剤で溶解した粉砕溶媒に投入し微粉砕する。
粉砕装置としては、固体を取り扱う化学工業全般に用いられ、所望の粒径に粉砕できるものであれば特に制限はなく、例えばアトライター、ビーズミル、媒体撹拌ミル等の攪拌機を用いることができる。中でも粒子径を均一にしやすい点で媒体撹拌ミルが好適である。媒体撹拌ミルを用いる場合、粉砕媒体には、ステンレスやセラミックなど種々の材質のものが使用可能であるが、コストや粉砕効率の観点からSUSやSUJ2製のボールが好適である。
【0037】
有機溶剤としては、特に制限はなく、2−プロパノール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族類などが挙げられるが、コスト、安全性等の観点からエタノールや2−プロパノールが好適である。
【0038】
リン酸化合物としては、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等が挙げられるが、コストの面からオルトリン酸(以下、単にリン酸ともいう)が好ましい。リン酸化合物の添加量は、得られる微粉末の粒径や表面積に依存するので一概に規定できないものの、粉砕する合金粉末に対して0.1mol/kg〜0.2mol/kgの範囲とする。0.1mol/kg未満では、膜が十分に形成されず、また0.2mol/kgを超えると、磁力に寄与しないリン被覆部分が過大に増えるため、磁気特性が低下するので好ましくない。好ましいのは0.12mol/kg〜0.18mol/kgの範囲である。
【0039】
リン酸化合物の添加方法は、加熱乾燥工程前であれば特に制限されず、通常、微粉砕処理開始時に必要量を全量添加するが、微粉砕処理中に少量ずつ複数回に分けても良い。ただし、粉砕で生じた新生面を酸化から保護する必要があるので、常に粉砕溶媒中にリン酸が存在しなければならない。よってpH管理するのが望ましく、例えば粉砕中のpHは7以下、さらに好ましくは3〜7で維持できるようリン酸化合物の添加を行なうのが好ましい。
【0040】
磁石粉末の耐候性を向上させるには、リン酸化合物の添加量を増やし、リン酸被膜を厚くする方法が考えられる。しかし、リン酸化合物の量を増やすと、高温高湿試験における耐候性は向上するが、初期の磁気特性が低下してしまう。この磁気特性の初期の低下は、希土類−鉄−窒素系磁石粉末の水素含有量が増加し磁気異方性を低下させることによる。
【0041】
そのため本発明では、リン酸化合物とともに、表面処理剤として、粉砕溶媒にニッケルを添加する。磁石粉末がサマリウム−鉄−窒素系磁石合金粉の場合、酸性域のpHでリン酸化合物を含む粉砕溶媒により粉砕すると、粉砕と同時に溶液中にFeが溶けだしてくる。このとき粉砕溶媒にニッケルが存在するので、磁石粉末からFeが溶け出すと同時に粉末表面をNiが一部覆うようになる。
【0042】
ニッケルとしては、金属ニッケル(Ni)が挙げられるほか、磁石粉末の表面でニッケル元素として存在できればよいため、ニッケル化合物、例えば、NiOなどの酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケルも挙げられる。好ましいのは、取り扱いやすく表面処理効果の高いNi粉あるいはNiO粉である。
【0043】
また、ニッケルの添加量は、投入する合金粉末に対し、ニッケル換算で1質量%〜5質量%とする。1質量%未満だと耐候性向上効果が小さく、また5質量%を超えても、耐候性向上効果に大きな変化はみられないので、コスト面で好ましくない。この範囲であれば、高温高湿度において1000時間以上晒されても磁気特性の著しい低下がないという耐候性が得られ、1.5質量%〜5質量%とすればより効果が高くなり、2質量%〜5質量%とすれば更に効果が高くなる。
【0044】
ニッケルの物理的形態としては、処理する希土類−鉄−窒素系合金粉末との混合性を考慮すると、ロッド状、薄片状のものよりは粉末状のものが良い。ニッケルは、粉砕機で磁石合金粉と一緒に粉砕されてしまうため、特に粒径に制限はない。平均粒子径(d50)は、原料の希土類−鉄−窒素系合金粉末の種類や大きさにも関係するので一概に規定できないが、1μm〜50μmが好ましく、3μm〜40μmがより好ましく、5μm〜30μmが更に好ましくい。
【0045】
またニッケルは、粉砕装置である媒体撹拌ミルを用いた粉砕中に投入されればよく、添加時期によって制限されず、例えば粉砕開始時に必要量を全量添加しても良いし、少量ずつ複数回に分けても良い。なお、ニッケルを添加してからの粉砕時間は、粉砕装置の種類、磁石粉末の量などに関係するので規定しにくいが、例えば1時間〜5時間とすることができる。
【0046】
3.加熱乾燥工程
本発明では、上記のように、希土類−鉄−窒素系磁石合金の粗粉末を粉砕する間に、リン酸化合物とニッケルで表面処理をした後、磁石微粉末(粉砕スラリ)を加熱乾燥させ、被膜を表面に均一に定着させる。すなわち、微粉砕工程にて得られた金属微粉末含有スラリは、必要によりろ過や遠心分離などで有機溶媒などを除去した後、乾燥装置に供給し、特定雰囲気下、特定温度に加熱し乾燥させる。
【0047】
加熱乾燥雰囲気は、雰囲気ガス中に酸素が多量に含まれていると、微粉末の磁石が燃焼する恐れがあり、また、乾燥効率向上のため真空雰囲気で行うのが好ましい。
【0048】
加熱温度は、特に限定されないが、100℃〜200℃が好ましく、より好ましいのは130℃〜160℃である。100℃未満では乾燥が十分に進まず、安定な表面被膜の形成が阻害されることがあり、また、溶媒除去に時間がかかり生産性が低下することがあり、また200℃を超えると微粉末表面が熱的ダメージを受けるため極端な磁気特性低下が起きることがある。従って、磁気特性を保持するためには、上記範囲内で加熱乾燥を行うことが重要である。
【0049】
加熱乾燥時間は、使用する乾燥機の大きさ、真空ポンプの排気量、磁石微粉末の処理量によるので一概に規定できないが、加熱乾燥処理の終点判定は、乾燥機の内圧をモニタリングするのが良い。乾燥中は有機溶媒が揮発するため一時的に内圧が正圧側に変化するが、十分有機溶媒が除去されると、内圧は負圧側に改善される。
加熱乾燥時間は、2時間〜10時間を目安とし、3時間〜8時間とするのが好ましい。2時間未満だと均一な加熱乾燥が不十分となり、また10時間を超えると酸化劣化が起きやすいためである。乾燥装置(乾燥機)は、特に限定されるわけではなく、スラリを撹拌しながら減圧加熱する方式の撹拌式乾燥機、静置式の電気炉などが挙げられるが、スラリを均一に加熱乾燥するため、撹拌機構のある乾燥機が好ましい。
【0050】
加熱乾燥終了後、室温程度まで乾燥機内で冷却し、N
2やArなどの不活性ガスをフローしながら取り出すのが良い。これは酸化劣化による磁気特性低下を抑制するためである。
【0051】
以上により、表面がニッケルとリン酸で被覆された希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得ることができる。その具体的な表面構造は、磁石微粉末のほぼ全体にリン酸の被膜が均一に形成された状態にあり、被膜内にはニッケルとリン酸に由来する微量の水素が包含されている。
そのため、得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末は、80℃相対湿度90%雰囲気にて1000時間まで暴露して測定される耐候性試験において、保磁力(iHc)が、900kA/m以上、かつ残留磁束密度(Br)が1.25T以上という優れた磁気特性を有している。
【0052】
4.希土類−鉄−窒素系磁石微粉末の成形
本発明により製造された希土類−鉄−窒素系磁石微粉末は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして配合することでボンド磁石となり、高い圧縮力を加えることで圧密磁石となるように成形することができる。
【0053】
(1)ボンド磁石
ボンド磁石用の樹脂バインダーは、磁石粉末の結合材として働く成分であり、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、硬化反応型シリコーンゴムなどの熱硬化性樹脂が使用できるが、特に熱可塑性樹脂が好ましい。
【0054】
熱可塑性樹脂は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で、溶融粘度や分子量が低いものが望ましい。また、熱可塑性樹脂の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等、特に限定されないが、磁石粉と均一に混合される点で、パウダー状が望ましい。
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石粉100質量部に対して、通常5質量部〜100質量部、好ましくは5質量部〜50質量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5質量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなったり、流動性が低下したりして磁石の成形が困難となり、一方、100質量部を超えると、所望の磁気特性が得られないことがある。
【0055】
熱硬化性樹脂であれば、その取扱い性、ポットライフの面から2液型が有利であり、2液を混合後は、常温から200℃までの温度で硬化しうるものが好ましい。その反応機構は、一般的な付加重合型でも縮重合型であってもよい。また、必要に応じて過酸化物等の架橋反応型モノマーやオリゴマーを添加しても差し支えない。
これらは、反応可能な状態にあれば、重合度や分子量に制約されないが、硬化剤や他の添加剤等との最終混合状態で、ASTM100型レオメーターで測定した150℃における動的粘度が500Pa・s以下、好ましくは400Pa・s以下、特に好ましくは、100Pa・s〜300Pa・sである。動的粘度が500Pa・sを超えると、成形時に著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き、成形困難になるので好ましくない。一方、動的粘度が小さくなりすぎると、磁石粉末と樹脂バインダーが成形時に分離しやすくなるため、0.5Pa・s以上であることが望ましい。
【0056】
樹脂バインダーは、磁石合金粉100質量部に対して、3質量部〜50質量部の割合で添加される。添加量は7質量部〜30質量部、さらには、10質量部〜20質量部がより好ましい。3質量部未満では、著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて、成形困難になり、一方、50質量部を超えると、所望の磁気特性が得られないので好ましくない。
樹脂バインダーには、滑剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤等を添加できる。
【0057】
混合方法は、特に限定されず、例えば、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、或いはバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機が使用できる。
【0058】
次いで、上記のボンド磁石用組成物は、熱可塑性樹脂の場合、その溶融温度で加熱溶融した後、所望の形状を有する磁石に成形される。その際、成形法としては、従来からプラスチック成形加工等に利用されている射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法等の各種成形法が挙げられるが、これらの中では、特に射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、及び射出プレス成形法が好ましい。
熱硬化性樹脂は、混合時の剪断発熱等によって硬化が進まないよう、剪断力が弱く、かつ冷却機能を有する混合機を使用することが好ましい。混合により組成物が塊状化するので、これを射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、圧延成形法、或いはトランスファー成形法等により成形する。
【0059】
こうして得られたボンド磁石は、実用上重要な高温環境下で磁石粉末のリン酸塩被膜に欠陥部が生じにくく、表面にニッケルが存在することで磁気特性も良好である。従来は、サマリウム−鉄−窒素系合金磁石のような核発生型の保磁力発現機構を示す磁石合金粉末の場合、一部に欠陥領域が生じると著しく保磁力が低下する問題があったが、本発明によれば、このような問題点が完全に克服される。
【0060】
(2)圧密磁石
本発明により得られた磁石粉を用いて、圧密磁石を製造する方法は、特に限定されず、高い圧縮力がかけられ、見かけ密度を真密度の85%以上としうる方法であればよい。見かけ密度が85%未満では磁気特性が低く、また、磁石粉の劣化要因である酸素や水分の経路となるオープンポアによって耐候性が低下する。
【0061】
なお、本発明によって得られた希土類−鉄−窒素系磁石合金粉から圧密磁石を製造する場合には、実用上重要な高温環境下でリン酸塩被膜に欠陥部が生じにくく、表面にニッケルが存在することで耐候性だけでなく磁気特性、特に磁石の保磁力が改善される。圧密化するとき、希土類−鉄−窒素系化合物の分解や脱窒素を防止するとともに、粒子間にニッケルと非磁性体のリン酸塩被膜が均一に存在するため保磁力の低下を防ぐことができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお実施例および比較例に用いた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末の磁気特性の評価方法は以下の通りである。
【0063】
(評価方法)
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を80℃相対湿度90%雰囲気にて1000時間まで暴露し、適宜サンプリングした微粉末の磁気特性(保磁力および残留磁束密度)を振動試料型磁力計(以下、VSM)にて常温で測定し、耐候性を評価した。高温高湿試験開始から1000時間後の磁気特性の低下率が7%以下であれば、高耐候性の希土類−鉄−窒素系磁石粉末が得られたと判断した。
【0064】
(実施例1)
[希土類−鉄−窒素系合金粉末製造工程]
希土類酸化物粉末Sm
2O
3:355g、遷移金属粉末Fe:1000g、還元剤Ca:140gを配合し、原料混合物を作製した。その後、上記混合物を1150℃、6時間加熱し、還元拡散処理を行った。加熱処理後は室温まで冷却した。
続いて、得られた希土類−鉄系合金をNH
3ガス:1.5L/min、H
2ガス:1L/minのフロー雰囲気下、400℃、600分保持し窒化処理を行った。その後、得られた希土類−鉄−窒素系合金およびCaOからなるインゴットを水中に投入し、併せて酢酸を投入してpH6を90分保持した。次に、水洗浄を繰り返し行い、溶かしたCa成分を除去し、得られた生成物を真空乾燥機で、真空下、60℃で乾燥機の内圧がマイナス側に触れるまで加熱し、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得た。
[微粉砕工程]
得られた希土類−鉄−窒素系合金は、湿式ボールミル装置(媒体撹拌ミル)を用いて粉砕した。粉砕室に希土類−鉄−窒素系合金粉末1000g、粉砕溶媒としてエタノール1500g、粉砕初期に表面処理剤としてリン酸を17g(0.15mol/kg)、およびレーザー回折散乱法を用いて測定した平均粒径(d50)が10μmのNi粉を10g(処理する希土類−鉄−窒素系合金に対しNi:1.0質量%)入れ、密封して2時間粉砕し、希土類−鉄−窒素系合金スラリを得た。
[加熱乾燥工程]
得られた希土類−鉄−窒素系合金スラリを真空乾燥機に入れ、真空ポンプで乾燥機内を負圧に保ったまま、ヒーターにて乾燥機内を150℃で6時間保持し加熱乾燥した。加熱乾燥後、乾燥機内温度が室温に達したのち、Arガスを1L/minフローしながら希土類−鉄−窒素系微粉末を取り出した。
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末について、温度80℃、湿度90%の高温高湿試験により耐候性を評価した。高温高湿試験開始0時間を初期とし、96時間後、1000時間後にVSM測定を行った。結果を表1および
図1に示す。
1000時間の高温高湿試験の結果、磁気特性の低下率はBr=1.5%、iHc=2.7%であり、高温高湿試験における耐候性が高いことが分かる。
【0065】
(実施例2)
粉砕時のNi粉投入量を50g(処理する希土類−鉄−窒素系合金に対しNi:5質量%)にした以外は実施例1と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得た。
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末について、磁気特性を測定し耐候性評価を行った。
結果を表1および
図1に示す。1000時間後の磁気特性の低下率はBr=0.5%、iHc=6.1%であり、高温高湿試験における耐候性が高いことが分かる。
【0066】
(実施例3,4)
粉砕時のリン酸投入量を0.12mol/kg、あるいは0.18mol/kgにした以外は実施例1と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得た。
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末について、磁気特性を測定し耐候性評価を行った。
結果を表1および
図1に示す。1000時間後の磁気特性の低下率は、実施例3で、Br=4.5%、iHc=7.8%であり、実施例4で、Br=2.3%、iHc=2.5%であった。いずれも実施例1には及ばないが実施例2と同等レベルであり、高温高湿試験における耐候性が高いことが分かる。
【0067】
(比較例1)
粉砕時のNi粉を無添加(投入量:0g)にした以外は、実施例1と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得た。
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末について、温度80℃、湿度90%の高温高湿試験により耐候性を評価した。高温高湿試験開始0時間を初期とし、96時間後、1000時間後にVSM測定を行った。
結果を表1および
図1に示す。1000時間後の磁気特性の低下率はBr=21.3%、iHc=79.7%であった。Ni粉を添加せずに、リン酸のみの添加では、耐候性が著しく低下することが分かる。
【0068】
(比較例2)
粉砕時のNi粉投入量を5g(処理する希土類−鉄−窒素系合金に対しNi:0.5質量%)にした以外は実施例1と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得た。
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末について、磁気特性を測定し耐候性評価を行った。高温高湿試験開始0時間を初期とし、200時間後、1000時間後にVSM測定を行った。
結果を表1、
図1に示す。1000時間後の低下率はBr=8.9%、iHc=23.6%であった。これはNi添加量が1質量%より少なかったため、実施例1よりも耐候性が低下したものと考えられる。
【0069】
(比較例3)
粉砕時のNi粉を無添加(投入量:0g)、リン酸投入量34g(0.3mol/kg)にした以外は、実施例1と同様に微粉砕、加熱を行い希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得た。
得られた希土類−鉄−窒素系磁石微粉末について、磁気特性を測定し耐候性評価を行った。
結果を表1および
図1に示す。リン酸量をさらに増やした結果、磁気特性の初期値が低くなった。これは、希土類−鉄−窒素系磁石粉末中の水素含有量が増加し、磁気異方性が低下したことによるもの考えられる。また、1000時間後の低下率はBr=0.7%、iHc=8.5%であり、保磁力iHcが7%以上低下することが分かる。
【0070】
(実施例5)
粉砕時のリン酸投入量を0.15mol/kg、および平均粒径(d50)が3μmのNiO粉を13g(処理する希土類−鉄−窒素系合金に対しNi:1質量%)にした以外は実施例1と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類-鉄-窒素系磁石微粉を得た。
結果を表1および
図2に示す。1000時間後の磁気特性の低下率はBr=1.5%、iHc=3.4%であり、高温高湿試験における耐候性が高いことが分かる。
【0071】
(実施例6)
粉砕時のリン酸投入量を0.18mol/kgにした以外は実施例5と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類-鉄-窒素系磁石微粉を得た。
結果を表1および
図2に示す。1000時間後の磁気特性の低下率はBr=1.5%、iHc=4.2%であり、高温高湿試験における耐候性が高いことが分かる。
【0072】
(実施例7)
NiO粉を65g(処理する希土類−鉄−窒素系合金に対しNi:5質量%)にした以外は実施例5と同様に微粉砕、加熱乾燥を行い、希土類-鉄-窒素系磁石微粉を得た。
結果を表1および
図2に示す。1000時間後の磁気特性の低下率はBr=1.5%、iHc=6.6%であり、高温高湿試験における耐候性が高いことが分かる。
【0073】
【表1】