(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、ボンド磁石は、磁石粉末、有機樹脂等のバインダ成分、及び強化剤、可塑剤、滑剤等の添加剤等から成る複合ペレットを、射出成形、圧縮成形又は押出成形することにより製造される。特に、ポリアミド樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダとし、さらに射出成形法を用いて製造される磁石は、寸法精度が高く後加工が必要ない、複雑な形状が簡単に形成できる、金属や樹脂等との一体成形により接着の必要がない、など焼結磁石にはない多くの利点があり、エアコン室外機ファンモータなどの動力用や車載バルブの回転角度検出センサなどのセンサ用など幅広い用途で使われている。
【0003】
ボンド磁石には、粒子内で磁化方向がランダムな方向の等方性磁石粉を用いた等方性ボンド磁石と、粒子内で磁化方向が揃った異方性磁石粉を用いた異方性ボンド磁石がある。異方性ボンド磁石は等方性ボンド磁石と比較して高い残留磁束密度が得られやすいが、製造時に金型内に磁気回路を設置して、磁石粉末の磁化方向をそろえる必要がある。
ここで、異方性ボンド磁石の磁石粉末の磁化方向をそろえるためには、成形時に金型内に電磁石や永久磁石により磁場を発生させる必要がある。
【0004】
そして、異方性ボンド磁石を多極着磁して使用する際に表面磁束密度波形の形状を考慮する場合には、金型内に永久磁石を配置して磁場を発生させる方が、波形の形状制御が容易であり好ましい。しかし、永久磁石とボンド磁石とが直接触れるような構造は、ボンド磁石が金型からの取り出しにくくなる、ボンド磁石にバリが多く発生する、永久磁石の摩耗が激しくなり金型の寿命が短くなるなどの問題が発生する。
この問題を回避する手段としては、例えば特許文献1に示すように、永久磁石とボンド磁石が直接触れないように、別の部材であるスリーブを用いて永久磁石とボンド磁石が成形される空間とを隔てる構造が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、配向用の永久磁石と成形すべきボンド磁石との距離が大きくなるとボンド磁石を配向するための磁場が低下する。したがって、スリーブの厚さはできるだけ薄くすることが求められる。
また、強磁性材料で作製されたスリーブは、スリーブ内で磁気回路を形成してボンド磁石の配向磁場を低下する懸念があるため、スリーブの材質については、非磁性であることが好ましい。
したがって、スリーブとしては、得られるボンド磁石の表面磁束密度波形の形状を制御するために、薄く、非磁性体であることが望ましい。ここで、非磁性体の鋼材はSUS304や日立金属株式会社製のHPM75などがある。しかし、これらの材料は、ボンド磁石成形用金型の部品材料としては硬度、強度が低いため、摩耗や変形などの問題を発生して金型の寿命を短くする懸念がある。また、セラミックスや超硬合金の一部も同じく非磁性体であり、高い耐摩耗性と強度を有するが、これらは靱性が低いため、薄くすると容易に割れが発生する懸念がある。加えて、加工性が悪い、価格が高いなどにより、金型の作成費用を押し上げ、ボンド磁石の製造コストが増加する要因の一つとなっていた。
【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、異方性ボンド磁石を成形するに際し、異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を安定的に形成可能な耐久性に優れた成形用金型及びこれを用いた製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、仕切り部材の材質として、磁性材ではあるが、飽和磁束密度が低い鋼材に注目し、実験の結果、飽和磁束密度が1.35(T)以下のマルテンサイト系ステンレスを使用することで、成形された異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を安定的に形成することが可能であること、つまり、表面磁束密度波形が大きく変化しないことを確認した。更に、本発明者らは、これらのマルテンサイト系ステンレスのロックウェル硬さHRCが50以上であるため、成形時の仕切り部材の変形や摩耗が一般の磁性を有する金型材と同等であることと、仕切り部材が非磁性の超鋼合金を使用したときよりも安価に作製できることを確認した。
このように、本発明者らは、前述した知見に基づいて以下に示す本発明を案出するに至ったのである。
【0009】
本発明の第1の技術的特徴は、成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物が充填可能な空洞部を区画する金型枠材と、前記空洞部に充填された組成物に面した部位に設けられ、成形すべきボンド磁石の複数の各磁極に対向して配置され、前記空洞部内の組成物の磁石材料を磁気的に配向させる
少なくとも永久磁石を含む配向用磁石と、前記空洞部内の組成物と前記配向用磁石との間を仕切る仕切り部材と、を備え、前記仕切り部材は、飽和磁束密度Jsが1.35(T)以下で、ロックウェル硬さHRCが50以上である磁性材であることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
【0010】
本発明の第2の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記金型枠材は円環状空洞部を区画し、当該円環状空洞部の外周側又は内周側に前記配向用磁石を設置すると共に、当該配向用磁石の空洞部側に円環状の前記仕切り部材を設置することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第3の技術的特徴は、第1又は第2の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記仕切り部材は2mm以下の厚さを有することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第4の技術的特徴は、第1又は第2の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記配向用磁石のうち前記仕切り部材が設置された側とは反対側に磁性材又は非磁性材からなる保持部材が設置され、前記配向用磁石が前記仕切り部材と前記保持部材との間に保持されていることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第5の技術的特徴は、第1又は第2の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべきボンド磁石は、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と樹脂との混合物からなるボンド磁石であることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第6の技術的特徴は、第1又は第2の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべきボンド磁石は、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と熱可塑性樹脂との混合物からなり、射出成形若しくは押出成形にて成形されることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第7の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記仕切り部材はマルテンサイト系ステンレスであることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
【0011】
本発明の第
8の技術的特徴は、第1乃至第
7の
技術的特徴のいずれか
を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型を用いて異方性ボンド磁石を製造するに際し、前記成形用金型の空洞部に成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物を充填する充填工程と、前記充填工程後において前記成形用金型の配向用磁石にて前記空洞部に充填された組成物を磁気的に配向させるように成形する成形工程と、前記成形工程にて成形された異方性ボンド磁石を冷却して前記成形用金型から取り出す取出工程と、を含むことを特徴とする異方性ボンド磁石の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の技術的特徴によれば、異方性ボンド磁石を成形するに際し、異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を安定的に形成可能な耐久性に優れた成形用金型を提供することができる。
本発明の第2の技術的特徴によれば、円環状の異方性ボンド磁石を成形するに際し、当該ボンド磁石の表面磁束密度波形を安定的に形成でき、耐久性に優れた成形用金型を提供することができる。
本発明の第3の技術的特徴によれば、本構成を有さない態様に比べて、配向用磁石からの磁場を空洞部内の組成物に作用させ易くすることができる。
本発明の第4の技術的特徴によれば、本構成を有さない態様に比べて、配向用磁石からの磁場を無駄なく空洞部内の組成物へ作用させることができる。
本発明の第5の技術的特徴によれば、磁力が高く、かつ保磁力の高い異方性ボンド磁石を成形することができる。
本発明の第6の技術的特徴によれば、磁力が高く、かつ保磁力の高い異方性ボンド磁石を成形することができる。
本発明の第7の技術的特徴によれば、異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を安定的に形成可能な耐久性に優れた成形用金型を、仕切り部材が非磁性の超硬合金を使用したときよりも安価に提供することができる。
本発明の第
8の技術的特徴によれば
、異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を安定的に形成可能な耐久性に優れた成形用金型を利用し、磁力が高い高品質の異方性ボンド磁石を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
◎実施の形態の概要
図1(a)は本発明が適用された異方性ボンド磁石の成形用金型の実施の形態の概要を示す。
同図において、異方性ボンド磁石の成形用金型1は、成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmが充填可能な空洞部3を区画する金型枠材2と、空洞部3に充填された組成物Cmに面した部位に設けられ、成形すべきボンド磁石の複数の各磁極Mpに対向して配置され、空洞部3内の組成物Cmの磁石材料を磁気的に配向させる
少なくとも永久磁石を含む配向用磁石4と、空洞部3内の組成物Cmと配向用磁石4との間を仕切る仕切り部材5と、を備え、仕切り部材5は、飽和磁束密度Jsが1.35(T)以下で、ロックウェル硬さHRCが50以上である磁性材である。
【0015】
このような技術的手段において、空洞部3としては円環状、円柱状、板状など適宜選定して差し支えなく、金型枠材2は、成形すべき異方性ボンド磁石の形状に対応して適宜選択される。ここで、金型枠材2としては、例えば異方性ボンド磁石が円環状である場合には、円環状の空洞部3を内側、外側から区画する内枠材と外枠材とが用いられ、また、異方性ボンド磁石の形状が円柱状の場合には、円柱状の空洞部3を外側から区画する外枠材が用いられ、内側から区画する内枠材は不要であり、また、金型内に別の部品を挿入して成形する、いわゆるインサート成形や一体成形と呼ばれる成形の場合も内枠材が不要となることがある。
また、配向用磁石4としては、成形すべき異方性ボンド磁石の複数の各磁極Mpに対向して配置され、各磁極Mpに対して磁場を作用させる一若しくは複数の永久磁石が代表的である。尚、配向用磁石4としては、少なくとも永久磁石を含んでいればよく、永久磁石以外の磁性材(例えば磁力増幅用のヨーク)等を組み合わせて使用しても差し支えない。
更に、仕切り部材5は空洞部3内の組成物Cmと配向用磁石4とを仕切る機能部材である。このような仕切り部材5を用いると、配向磁場の大きさが下がるために本来は好ましくないが、配向用磁石4が組成物Cmと直接触れないため、成形された磁石の外観が良くなるほか、成形された磁石が取り出しやすく、配向用磁石4等の摩耗を防ぐことができる。
尚、成形頻度が増すと、成形時に発生するバリなどにより、金型枠材2や仕切り部材5の表面に傷が付き、成形された磁石の外観に影響を及ぼすため、これらの部材は一般的には消耗品として定期的に交換される。
本例では、仕切り部材5は磁性材であるが、飽和磁束密度Jsが1.35(T)以下、ロックウェル硬さHRCが50以上であることを要する。ここで、Jsが規定値を超える場合には、仕切り部材5が隣接する配向用磁石4との間の磁気回路として作用してしまい、空洞部3内の組成物Cmの磁石材料に対して作用する磁場が弱くなってしまう。また、HRCが
規定値未満である場合には、成形用金型1から異方性ボンド磁石を取り出す際に仕切り部材5が摩耗し易く、異方性ボンド磁石の表面性が損なわれ易い。
【0016】
次に、本実施の形態に係る異方性ボンド磁石の成形用金型1の代表的態様又は好ましい態様について説明する。
例えば、円環状の異方性ボンド磁石を成形する場合には、金型枠材2は円環状空洞部3を区画し、当該円環状空洞部3の外周側又は内周側に配向用磁石4を設置すると共に、当該配向用磁石4の空洞部3側に円環状の仕切り部材5を設置するようにすればよい。本例は、円環状の異方性ボンド磁石の外周面又は内周面に複数の磁極を具備するように当該ボンド磁石を成形する上で必要な金型構成を示す。
【0017】
また、仕切り部材5の好ましい態様としては、2mm以下の厚さを有する態様が挙げられる。本例は、仕切り部材5の厚さが2mm以下の薄さであれば、配向用磁石4からの磁場が空洞部3内の組成物Cmに作用し易い点で好ましい。また、仕切り部材5の剛性を確保するという観点からすれば、厚さが0.3mm以上であることが好ましく、さらには0.5mm以上1.2mm以下がより好ましい。
更に、成形用金型1の好ましい態様としては、配向用磁石4のうち仕切り部材5が設置された側とは反対側に保持部材6が設置され、配向用磁石4が仕切り部材5と保持部材6との間に保持されている態様が挙げられる。本例では、保持部材6は、仕切り部材5との間で配向用磁石4を保持する機能部材であり、保持部材6の材質(磁性材又は非磁性材)は形成する配向用磁石4の磁気回路により適時選択される。尚、保持部材6としては、金型枠材2の外枠材の一部を利用してもよいし、金型枠材2とは別部材を用いるようにしてもよい。
【0018】
また、成形すべきボンド磁石の代表的態様としては、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と樹脂との混合物からなるボンド磁石が挙げられる。本例は、異方性サマリウム鉄窒素微粉末や異方性Nd−Fe−B微粉末等の希土類異方性磁石粉体を1種類以上と樹脂との混合物から成る。希土類異方性磁石粉体は、磁石の磁力と保磁力を高める上で有効である反面、磁石を成形する際の配向磁場を強くする必要がある。
更に、成形すべきボンド磁石の好ましい態様としては、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と熱可塑性樹脂との混合物からなり、射出成形若しくは押出成形にて成形される態様が挙げられる。本例は、異方性ボンド磁石を製造する上で、成形精度の高い射出成形若しくは押出成形にて異方性ボンド磁石を成形するものであり、更には形状自由度が高い射出成形にて成形するものである。
【0019】
また、異方性ボンド磁石の製造方法としては、
図1(a)(b)
に示すように、前述した異方性ボンド磁石の成形用金型1を用いて異方性ボンド磁石を製造するに際し、成形用金型1の空洞部3に成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmを充填する充填工程と、充填工程において成形用金型1の配向用磁石4にて空洞部3に充填された組成物Cmを磁気的に配向させると共に所定の形状に成形する成形工程と、成形工程にて成形された異方性ボンド磁石
を冷却して成形用金型1から取り出す取出工程と、を含むものが挙げられる。本例は、成形材料の充填工程、成形工程及び取出工程を有するものであればよく、成形工程としては、射出成形、押出成形などが含まれる。
【0020】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
◎実施の形態1
−異方性ボンド磁石の製造装置−
図2は実施の形態1に係る異方性ボンド磁石の製造装置の全体構成を示す。
同図において、異方性ボンド磁石の製造装置は、射出成形にて異方性ボンド磁石を製造する射出成形機であって、異方性ボンド磁石を成形する成形用金型(以下金型と略記する)30と、異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cm(例えば異方性サマリウム鉄窒素微粉末や異方性Nd−Fe−B微粉末等の希土類異方性磁石粉体を1種類以上と熱可塑性樹脂との混合物を使用)を金型30内に射出注入する射出ユニット20とを備えている。
<射出ユニット>
本例では、射出ユニット20は、磁石材料を含む組成物Cmをホッパ22からシリンダ21内に投入し、シリンダ21内に投入された組成物Cmをヒータ23にて加熱溶融すると共に、シリンダ内21で進退可能なスクリューロッド24で溶融した組成物Cmをシリンダ21の射出口25側に所定量貯めた後、金型30内に射出するものである。
【0021】
<金型>
本例では、金型30は、
図2及び
図3(a)に示すように、固定金型31と可動金型32とを有し、両者間に成形すべき異方性ボンド磁石の形状に対応した空洞部(本例では円環状空洞部)41を確保するようにしたものである。
ここで、固定金型31は所定箇所に固定側取付板33で射出成型機に取り付けられ、射出ユニット20の射出口25に連通し且つ空洞部41に通じる供給経路26を有している。
また、可動金型32は図示外の型締めユニットにて矢印方向に進退可能な可動側取付板34に取り付けられており、型締めユニットの進退で固定金型31と可動金型32とは図示外の位置合わせ機構により、位置合わせされるようになっている。尚、本例では、固定金型31と可動金型32との境界面が金型分割面PLとして機能するようになっている。
そして、可動金型32は、可動側取付板34に固定された可動側型板35の円柱状凹所35a内に各種金型部品を組み込んで構成されている。本例では、円柱状凹所35aの中央には円環状空洞部41の内側を区画する非磁性材からなる金型枠材としての円柱状の内枠コア40が設けられると共に、円柱状凹所35aの周面には金型枠材としての円筒状の外枠44が設けられている。
【0022】
更に、可動金型32には円環状空洞部41の外周に沿って複数の配向用磁石42が設置されている。本例では、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石は外周部に予め決められた角度間隔毎に複数(n個:
図3ではn=12)の磁極Mpを具備するものであり、配向用磁石42は、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石のn個の各磁極Mpに対向してn個(具体的には42(1)〜42(n))設置されている。ここで、配向用磁石42は、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極Mpに所定の表面磁束密度波形を形成するための磁場を与えるように一若しくは複数の永久磁石を用いて構成されている。配向用磁石42の構成例としては、例えば複数(本例では3個)の永久磁石45〜47を用い、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石の磁極Mpの径方向に一致する磁場方向(図中白抜きの矢印で示す)の永久磁石45を対応する磁極Mpに対向配置し、これを挟むように磁場補強用の永久磁石46,47(本例では永久磁石45の磁場方向に対して所定角度(
図3では45°)傾斜した磁場方向を具備)を配置したものが挙げられる。
【0023】
また、本実施の形態では、空洞部41内の組成物Cmと配向用磁石42との間には仕切り部材としての円環状スリーブ43が設置されており、配向用磁石42はスリーブ43と円筒状の外枠44との間に挟まれた状態で保持されている。
特に、本例では、スリーブ43は磁性材で構成されているが、磁性材としては、飽和磁束密度Jsが1.35(T)以下で、ロックウェル硬さHRCが50以上(例えば50〜60)である材料が選定されている。
ここで、飽和磁束密度Jsの測定法としては、例えば東栄工業株式会社製のB−H(J−H)カーブトレーサや振動試料型磁力計(VSM)で測定される方法が採用される。
更に、スリーブ43の厚さtは0.3〜2.0mmまでの薄いものが選定されている。このように、薄いスリーブ43を用いることで、
図3(b)にA
1で示すように、配向用磁石42からの磁場が空洞部41内の磁石材料である組成物41に対して効率的に作用し、
図3(b)にA
2で示すように、配向磁場以外に作用する磁場を低減することが可能である。
更にまた、本例では、配向用磁石42の配向磁場をより空洞部41内の組成物Cmに作用させる上で、配向用磁石42の空洞部41とは反対側の背面に位置する外枠44を磁気回路として使用できるように、可動金型32のうち外枠44部分を磁性材で構成することが好ましい。
【0024】
次に、本実施の形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法について説明する。
先ず、図示外の型締めユニットにより金型30を締めた状態にセットし、この後、射出ユニット20により異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmを金型30の空洞部41に射出注入して保圧する。この状態で、金型30の空洞部41に充填された組成物Cmには配向用磁石42による配向磁場が作用し、空洞部41内では異方性ボンド磁石の各磁極Mpの配向が揃えられ、異方性ボンド磁石が成形される。この後、異方性ボンド磁石を冷却、固化させた後、図示外の型締めユニットにて金型30を開き、金型30から異方性ボンド磁石の成形品を取り出すようにすればよい。
このような製造過程で得られた異方性ボンド磁石の成形品については、後述する実施例で示すように、表面磁束密度波形を安定的に形成でき、かつ、金型30から異方性ボンド磁石を取り出す際に成形品の表面性は良好に保たれると共に、スリーブ43面の損傷度合は長期に亘ってほとんどないことが確認された。
また、フェライト系異方性ボンド磁石では金型から取り出した成形品を別途着磁することなく、そのまま使用されることがあるが、希土類異方性磁石粉体を用いたボンド磁石(希土類異方性ボンド磁石)では、取り出し後の成形品を着磁装置にて別途着磁した方がばらつきが少ない、強い磁力の磁石を得ることができる。
【0025】
本実施の形態では、円環状の異方性ボンド磁石の外周面に多数の磁極を配列したものを例に挙げているが、これに限られるものではなく、例えば円環状の異方性ボンド磁石の内周面に多数の磁極を配列する態様や、板状の異方性ボンド磁石に多数の磁極を配列する態様については、例えば以下の変形の形態1,2に示すような金型30を構築するようにすればよい。
◎変形の形態1
本例に係る金型30は、円環状の異方性ボンド磁石の内周面に多数の磁極を配列する態様に適用されるものであり、
図4(a)に示すように、異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmが充填される空洞部41を有し、空洞部41の外周面に沿って金型枠材としての円筒状の外枠49を設けると共に、空洞部41の内周面に沿って複数の配向用磁石42(例えば永久磁石45〜47で構成:本例では磁場補強用の永久磁石46,47の磁場方向は永久磁石45の磁場方向と略直交する磁場方向のものを採用)を配設し、空洞部41と配向用磁石42との間には、実施の形態1と同様な飽和磁束密度Js及びロックウェル硬さHRCの磁性材からなる仕切り部材としてのスリーブ43を設置し、更に、配向用磁石42の内側には非磁性材からなる金型枠材としての円柱状の内枠コア48を設置したものである。尚、本例では、外枠49は磁性材で構成してもよく、目的とする表面磁束密度波形の形状や成形する磁石の形状等により適宜選択される。
【0026】
◎変形の形態2
本例に係る金型は、板状の異方性ボンド磁石に多数の磁極を配列する態様に適用されるものであり、
図4(b)に示すように、異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmが充填される直線状の空洞部51を有し、空洞部51の長手方向に沿う一側には複数の配向用磁石52(例えば永久磁石55〜57で構成:本例では磁場補強用の永久磁石56,57の磁場方向は永久磁石55の磁場方向と略直交する磁場方向のものを採用)を配設し、この空洞部51と配向用磁石52(例えば52a〜52c)との間には実施の形態1と同様な飽和磁束密度Js及びロックウェル硬さHRCの磁性材からなる仕切り部材としての板状の仕切りプレート53を設置し、更に、空洞部51の長手方向に沿う他側には例えば磁性材からなる金型枠材としての対向部材54を設置したものである。
【実施例】
【0027】
◎実施例1
本実施例は実施の形態1に係る金型30を具現化したものである。
本実施例における金型は、外径24mm内径21mm長さ10mm外周着磁12極のボンド磁石を製造するためのものある。コアには非磁性材を用いて、配向用磁石42として、焼結磁石R25×R13×L12×10°(日立金属株式会社製NEOMAX(登録商標)−S45SH)を1磁極あたり3個(永久磁石45〜47に相当)使用した。焼結磁石の磁場配向の向きは、永久磁石45がボンド磁石の径方向と一致するようにし、永久磁石46,47は永久磁石45の磁場配向の向きに対して45°の傾きを持つようにした。成形に使用した材料は住友金属鉱山株式会社製Sm−Fe−N系ボンド磁石成形用ペレット(Wellmax(登録商標)−S3A12M)を使用した。
【0028】
そして、キャビティ(空洞部41)と配向用磁石42とを隔てるスリーブ43として、ボーラー・ウッデホルム株式会社製ELMAX(登録商標)の磁性材を使用し、スリーブ43の厚さtを0.7mmとした。本例で使用したスリーブ43の材料特性は、飽和磁束密度Jsが1.32Tであり、ロックウェル硬さHRCが60である。
本実施例において、得られたボンド磁石の表面磁束密度波形を
図5に示す。尚、表面磁束密度測定用のテスラメータープローブ表面には0.2mmの樹脂層がモールドされており、比較の波形として0.273Tの波高値を持つ正弦波を併記した。以下の比較例1,2においても同様である。
本実施例に係る金型30によれば、スリーブ43は磁性材であるが、飽和磁束密度Jsが1.32Tであり、通常の鋼材と比較すると磁場を通さないため、表面磁束密度波形が非磁性材と大きく変わらず、表面磁束密度波形をフーリエ変換した際に1次成分の波形の割合は98.5%であり、正弦波とほぼ一致していると言える。
更に、本実施例で使用したスリーブ43では、金型使用回数50000ショットを超えても、表面性は変化せず、寸法変化も確認できなかった。
【0029】
◎比較例1
比較例1は、仕切り部材のスリーブとして、実施例1のスリーブ43に代えて、非磁性材の日立金属株式会社製HPM75(ロックウェル硬さHRC35〜45の材質)を使用したものである。
本比較例において、得られたボンド磁石の表面磁束密度波形を
図6に示す。
同図によれば、表面磁束密度波形をフーリエ変換した際に1次成分の波形の割合は96.6%であり、正弦波とほぼ一致していると言える。
しかしながら、本比較例で使用したスリーブでは、金型使用回数8000ショットを超えたあたりから、成形されたボンド磁石の表面に縦方向のキズが目立ち、スリーブを交換する必要があった。
◎比較例2
比較例2は、仕切り部材のスリーブとして、実施例1のスリーブ43に代えて、磁性材の日立金属株式会社製YXR33(ロックウェル硬さHRC56の材質)を使用したものである。
本比較例において、得られたボンド磁石の表面磁束密度波形を
図7に示す。
同図によれば、飽和磁束密度Jsは1.85Tであり、磁場をよく通すため、表面磁束密度波形のピーク付近が大きく乱れている。そして、表面磁束密度波形をフーリエ変換した際に1次成分の波形の割合は77.8%であり、正弦波から大きくずれていると言える。