特許第6878912号(P6878912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6878912
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】二酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/50 20170101AFI20210524BHJP
【FI】
   C01B32/50
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-11855(P2017-11855)
(22)【出願日】2017年1月26日
(65)【公開番号】特開2018-118881(P2018-118881A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 顕史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 正寿
(72)【発明者】
【氏名】高野 清光
(72)【発明者】
【氏名】石原 典雄
【審査官】 中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−105114(JP,A)
【文献】 特開2010−017617(JP,A)
【文献】 特開2000−068211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/50
B01D 53/34−53/96
F23N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン分解炉、及びこのエチレン分解炉から排出される排ガスを回収、排出するための排ガス設備を有するエチレンプラントから排出される排ガスを用いて二酸化炭素を製造する二酸化炭素の製造方法において、
上記排ガス設備と上記二酸化炭素を製造する二酸化炭素製造設備とは排ガス取り出し配管により連結され、この排ガス取り出し配管の一方の端部は、上記排ガス設備の内部に挿入され、
上記排ガス取り出し配管を流れる上記排ガスの量の減少が生じたとき、その減少開始から減少終了までの時間をt1秒、
上記排ガス設備の内部に挿入された上記排ガス取り出し配管の一方の端部の開口部のある部分の排ガスの流れ方向を基準としたとき、この排ガス取り出し配管の一方の端部の開口部の向く方向をθrad(0≦θ≦π)、
上記排ガス取り出し配管を流れる上記排ガスの量が減少するときに生じる圧力変動波が前記エチレン分解炉に到達する時間をt2秒、
上記排ガス取り出し配管を流れる上記排ガスの速度低下により生じる運動エネルギー減少量をΔU(J)、
としたとき、下記の式(1)を満たすことにより、上記二酸化炭素製造設備の不調により生じる圧力変動幅を15Pa以下に抑制することを特徴とする二酸化炭素の製造方法。
(−5.39923)×t1+(2.472132)×θ+(−117.342)×t2+(0.416792)×ΔU+91.99513≦15 …(1)
【請求項2】
上記エチレン分解炉は、−35PaG以上−15PaG未満で運転されることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の製造方法に関し、詳しくは、微負圧下で運転されるエチレンプラントの排ガスを原料とする二酸化炭素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、溶接用シールドガス、鋳物製造用ガス、食品用封入ガス、パージガス、清涼飲料、ドライアイス等、種々の分野で使用されている。そして、この二酸化炭素は、アンモニア製造工程で副生する二酸化炭素を主に使用してきた。
しかし、アンモニアの需給バランスの関係から、アンモニア製造工場の停止等が生じており、新たな二酸化炭素の供給源が必要となっている。そのような新たな供給源として、大量の化石燃料を使用する火力発電所等の動力発生設備として使用されるボイラーやガスタービン等の産業設備や、分解炉において、エタン、プロパン、ナフサ、ガスオイル等の広範囲な炭化水素原料を無触媒下にて高温短時間で熱分解して、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンおよびベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物を生成し、これを分離精製するエチレンプラント等が検討される。
【0003】
上記のボイラーやガスタービン等の産業設備から生じる排ガス中の二酸化炭素を利用する技術は、環境対策としての二酸化炭素固定化を念頭においており、その適用対象は発生量の多い発電所などのボイラータービン設備を中心に検討されている技術で、排出された二酸化炭素を含有する排ガスの一部若しくは全量を抜き出して二酸化炭素回収設備に送る技術である(特許文献1)。
【0004】
また、上記のエチレンプラントは、熱分解工程と分離精製工程とを有する。熱分解工程で原料炭化水素と水蒸気を混合し、これをエチレン分解炉内の反応管に導入してバーナーによって管の外部から加熱する工程であり、エチレン等の反応生成物が得られる。次に熱交換器によって得られた反応生成物は急冷され、分離精製工程に送られ、各成分に分離される。この急冷時、凝縮されなかったガス成分は排ガスとして、外部に排出される。この排ガスには原料炭化水素の完全燃焼物である二酸化炭素が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−17617号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gato et.al.(2005):”Dynamic behavior of high-pressure natural gas flow in pipelines”,Int. J. Heat and Fluid flow,Vol26,817-825
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の設備からの排出ガスには硫黄分やその他重金属成分などの不純物が含有されているため、回収された二酸化炭素を食品用途に活用するのは困難である。
【0008】
これに対し、上記のエチレンプラントからの排出ガス中には、硫黄分やその他重金属成分などの不純物は含まれておらず、これから回収された二酸化炭素を食品用途に活用することが可能である。
ところで、上記のエチレンプラントの分解炉は、発電所ボイラーとは対照的に−35PaG〜−15PaGの微負圧の条件にて運転されることが多い。そして、万が一、エチレンプラントから二酸化炭素を含む排ガスを回収している際、その二酸化炭素回収設備に不調が生じた場合、排ガスの回収速度に変化が生じ、その結果、圧力変動による衝撃波、すなわち圧力変動波が発生する事が知られている(非特許文献1)。その圧力変動波がエチレンプラントのエチレン分解炉に伝播すると、分解炉の圧力が変動し、場合によっては、陽圧に転じるおそれがあり、分解炉の安定運転に支障を与える可能性がある。
【0009】
そこで、この発明は、エチレンプラントから二酸化炭素を含む排ガスを回収して純度の高い二酸化炭素を製造する際、その二酸化炭素製造設備に不調が生じたことにより発生した衝撃波がエチレンプラントのエチレン分解炉に伝播して、エチレン分解炉内が陽圧になるのを抑制し、エチレン分解炉の安定運転を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが検討を行った結果、特定の条件を満たす排ガス設備、二酸化炭素製造設備及び排ガス取り出し配管を設けることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1]エチレン分解炉、及びこのエチレン分解炉から排出される排ガスを回収、排出するための排ガス設備を有するエチレンプラントから排出される排ガスを用いて二酸化炭素を製造する二酸化炭素の製造方法において、上記排ガス設備と上記二酸化炭素を製造する二酸化炭素製造設備とは排ガス取り出し配管により連結され、この排ガス取り出し配管の一方の端部は、上記排ガス設備の内部に挿入され、上記排ガス取り出し配管を流れる上記排ガスの量の減少が生じたとき、その減少開始から減少終了までの時間をt1秒、上記排ガス設備の内部に挿入された上記排ガス取り出し配管の一方の端部の開口部のある部分の排ガスの流れ方向を基準としたとき、この排ガス取り出し配管の一方の端部の開口部の向く方向をθrad(0≦θ≦π)、上記排ガス取り出し配管を流れる上記排ガスの量が減少するときに生じる圧力変動波が前記エチレン分解炉に到達する時間をt2秒、上記排ガス取り出し配管を流れる上記排ガスの速度低下により生じる運動エネルギー減少量をΔU(J)、としたとき、下記の式(1)を満たすことにより、上記二酸化炭素製造設備の不調により生じる圧力変動幅を15Pa以下に抑制することを特徴とする二酸化炭素の製造方法。
(−5.39923)×t1+(2.472132)×θ+(−117.342)×t2+(0.416792)×ΔU+91.99513≦15 …(1)
[2]上記エチレン分解炉は、−35PaG以上−15PaG未満で運転されることを特徴とする[1]に記載の二酸化炭素の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、式(1)の条件を満たすように、排ガス設備、二酸化炭素製造設備及び排ガス取り出し配管を設けるので、二酸化炭素製造設備の不調により生じる圧力変動波による圧力変動幅を15Pa以内に抑えることができるので、エチレン分解炉を微負圧の状態に保持することができ、エチレン分解炉の安定運転を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)(b)(c)この発明に係るエチレン分解炉、排ガス設備、及び排ガス取り出し配管との関係を示す模式図
図2】この発明に係る二酸化炭素製造設備の模式図
図3】この発明にかかる排ガス設備と排ガス取り出し配管の一方の端部との関係を示す模式図
図4】排ガス取り出し配管を流れる排ガスの速度低下の例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る
【0015】
この発明は、エチレン分解炉、及びこのエチレン分解炉から排出される排ガスを回収、排出するための排ガス設備を有するエチレンプラントの排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素の製造方法である。
【0016】
エチレン分解炉10は、飽和炭化水素、主としてエタン、プロパン、ブタン、LNG(液化天然ガス)、ナフサ又はガス油等を原料として、分解炉内で温度500〜875℃、圧力−35PaG〜−15PaGの範囲で運転される。分解ガスは必要に応じ冷却器により冷却され、排ガス設備11へ送られる。
【0017】
上記の排ガス設備11は、図1(a)に示すように、複数のエチレン分解炉10で発生する二酸化炭素を有する排ガスを回収する分解炉ダクト12、各分解炉ダクト12を連結する連結ダクト13、連結ダクト13内の排ガスを集める集約ダクト14、この集約ダクト14に集められた排ガスを外方に排出する排ガス煙突15から構成される。
この排ガス設備11によって、エチレン分解炉10で発生した二酸化炭素を含む排ガスは回収され、煙突より外方に排出される。
【0018】
この排ガス設備11に回収された排ガスの一部又は全部を抜き出し、その抜き出された排ガスに含まれる二酸化炭素の少なくとも一部を回収し、純度の高い二酸化炭素を製造するため、図2に示すような二酸化炭素製造設備21が設けられる。
【0019】
この二酸化炭素製造設備21は、特に限定されないが、上記排ガス設備11から排ガスの一部又は全部を抜き出す排ガス取り出し配管22、この排ガス取り出し配管22で抜き出された排ガスを水で洗浄する水洗塔23、水洗塔23で水洗された排ガスを吸引するブロア24、吸引された排ガスから二酸化炭素を吸収する吸収塔25、二酸化炭素を吸収した吸収液を処理、精製する処理設備(図示せず)等を有する設備である。このブロア24は、1つだけ設けてもよいが、ブロア24の不調や故障により、二酸化炭素製造設備21全体が停止するのを防止するため、複数、すなわち少なくとも2つを並列に設けることが好ましい。
【0020】
上記の通り、排ガス設備11と二酸化炭素製造設備21とは、上記排ガス取り出し配管22により連結される。この排ガス取り出し配管22の一方の端部は、上記排ガス設備11の内部に挿入され、他方の端部は、例えば水洗塔23に接続される。
【0021】
上記排ガス取り出し配管22の一方の端部を挿入する上記排ガス設備11の位置は、図1(a)に示すような集約ダクト14の1つの面、図1(b)示すような排ガス煙突15の下端面、図1(c)示すような、排ガス煙突15の上端開口部等があげられる。
そして、上記排ガス取り出し配管22の一方の端部は、上記の位置から上記排ガス設備11内部に挿入され、後記する条件の下、この端部が配置される。
【0022】
この上記排ガス取り出し配管22の一方の端部に設けられる開口部22aは、例えば図3に示すように、当該端部の端面又は側面に設けられる。具体的には、排ガス設備11に挿入された排ガス取り出し配管22を、その排ガス設備11内を流れる排ガスの流れ方向に屈曲させ、排ガス取り出し配管22の端部の開口部22aを、上記排ガスの流れ方向を基準として、図3に示すように、所定の角度(θrad、0≦θ≦π)を傾けて向くように形成することが好ましい。この角度θは、具体的には、上記排ガスの流れ方向と開口部22aが形成される面と垂直方向との間になす角度とする。なお、この角度については、後記する。
なお、この角度θは、上記排ガスの流れ方向を0radとし、排ガス取り出し配管22が排ガス設備11の壁面に最も近い側の面と反対側の面に、上記排ガスの流れ方向に対して90°(=π/2rad)の角度を持って形成された開口部22aの角度を90°(=π/2rad)とする。同様に、排ガス取り出し配管22が排ガス設備11の壁面に最も近い側の面に、上記排ガスの流れ方向に対して90°(=π/2rad)の角度を持って形成された開口部22aの角度についても90°(=π/2rad)とする。
【0023】
本願発明において、二酸化炭素製造設備21の不調により、エチレン分解炉10に生じる圧力変動幅を15Pa以下に抑制するため、下記の式(1)を満たすことが必要となる。
(−5.39923)×t1+(2.472132)×θ+(−117.342)×t2+(0.416792)×ΔU+91.99513≦15 …(1)
【0024】
なお、式(1)中、t1(秒)は、上記排ガス取り出し配管22を流れる上記排ガスの量の減少が生じたとき、その減少開始から減少終了までの時間を示す。
t1(秒)は、計画的に二酸化炭素製造設備21を停止させるときにも適用されるが、定数の符号がマイナスであり、短時間に上記排ガス取り出し配管22を流れる上記排ガスの量の減少が生じる場合、具体的には、ブロア24の1つ又は複数の停止又は不調、それ以外の二酸化炭素製造設備21の不調等による上記排ガス量の減少、二酸化炭素製造設備21の緊急停止等により、短時間に上記排ガス量の減少が生じた場合に、式(1)の結果に大きな影響を与えることとなる。
【0025】
θ(rad)は上記した角度を示す。
θは、上記したように、開口部22aの角度であり、一般的には、他の条件によっては、上記排ガスの流れ方向と反対方向であってもよいが、上記排ガスの流れ方向、すなわち、エチレン分解炉に向かう方向と反対方向に設けられるのがより好ましい。より好ましい範囲は、0〜90°(=π/2rad)となる。なお、270°(=3π/2rad)〜0°(360°)は、排ガス設備11の壁面に開口部22aが向くことになるが0°〜90°(=π/2rad)の場合と同様の効果が得られると考えられる。即ち本発明では0〜180°と360〜180°とを区別せず、排ガス取り出し配管の一方の端部の開口部の向く方向をθrad(0≦θ≦π)とした。
【0026】
t2(秒)は、上記排ガス取り出し配管22を流れる排ガスの量が減少するときに生じる圧力変動波が前記エチレン分解炉に到達する時間を示す。
t2(秒)は、圧力変動波がエチレン分解炉に到達する時間であるが、圧力変動波は気体中を伝播するので、音波とほぼ同様の速度を有する。このため、この時間t2は、実質上、分解炉10から二酸化炭素製造設備21までの距離、すなわち、排ガス取り出し配管22の長さ、及び排ガス取り出し配管22の一方の端部の開口部から分解炉10までの最短経路の距離の合計値で決定される。
【0027】
ΔU(J)は、上記排ガス取り出し配管22を流れる上記排ガスの速度低下により生じる運動エネルギー減少量を示す。
ΔUは、排ガス取り出し配管22を流れる排ガスの速度低下により生じる運動エネルギー減少量である。排ガス取り出し配管22を流れる排ガスの質量は、単位体積当たりの質量が一定なので、排ガス取り出し配管22の径が定まると一定化するので、定数に組み込むことができる。このため、例えば、図4に示すように、速度がv1からv2に低下したとすると、ΔUは、((v1)−(v2))の定数倍となる。
【0028】
なお、低下した速度v2は、二酸化炭素製造設備21が停止した場合は、v2=0となる。また、複数あるブロア24のいくつかが停止した等、二酸化炭素製造設備21が停止しないものの不調が生じた場合は、v2>0となる。
【0029】
上記したt1、θ、t2およびΔUの係数は、これらの条件を変更した場合におけるエチレン分解炉での圧力変動幅のデータを再現できるように決定した係数である。この係数が正の場合には当該変数を増加させるとともに圧力変動幅が増加し、逆にこの係数が負の場合は当該変数を増加させるとともに圧力変動幅が減少する事を示している。
このため、上記式(1)の「(−5.39923)×t1+(2.472132)×θ+(−117.342)×t2+(0.416792)×ΔU+91.99513」の値が15以下というのは、エチレン分解炉における圧力変動幅が15Pa以下であることを意味する。
【0030】
したがって、この式(1)のうち、t1及びΔUは、二酸化炭素製造設備21の不調の程度により変化するので、t2及びθ、すなわち、エチレン分解炉から二酸化炭素製造設備21までの距離及び開口部22aの角度を適正化することにより、t1及びΔUの変化が生じても、圧力変動幅を15Pa以下にすることができる。
【0031】
ところで、上記の式(1)は、t1、t2、θ、ΔUを含む各種ファクターを設定し、エチレン分解炉における圧力変動幅(ΔP)を流体解析により計算し、この結果を再現する統計回帰モデルを構築することによって導き出した式である。この流体解析による計算方法については、後記の実施例の欄において示す。
【0032】
この発明においては、圧力変動幅を15Pa以下に抑えることができる。本願のエチレン分解炉は、−35PaG以上−15PaG未満の微負圧条件下で運転されるが、二酸化炭素製造設備の不調により圧力変動が生じても、負圧の状態を維持でき、エチレン分解炉の安定運転を確保することができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
下記の実施例及び比較例においては、数値流体力学(CFD)のソフトを用いて圧力変動値を計算した。
【0034】
<式(1)を用いて、圧力変動値を算出する方法>
[数値流体力学(CFD)ソフト]
数値流体力学(CFD)は、対象事例が関わる流体及びその他の物理現象を詳細に計算するエンジニアリング手法である。そして、CFDソフトでは、エチレン分解炉出口から二酸化炭素製造設備入口までのダクトおよび煙突の形状、内部構造物を3次元で実物どおりにモデル化する事ができ、内部のガスの流れや圧力分布などを詳細に求めることが出来る。また計算は定常計算および非定常計算のいずれにも適用可能であり、エチレン分解炉から二酸化炭素製造設備まで通常運転されている場合には定常計算を行い、二酸化炭素製造設備に不調が生じた後の設備内の圧力変動を求める際には非定常計算を行うことにより、エチレン分解炉に伝播する圧力波の大きさを求めることができ、圧力変動幅を求めることができる。
・使用ソフト…ANSYS CFX(ANSYS社製、ver16.2)
この流体解析ソフトを用いた計算手順は、以下のとおりである。
1)分解炉ダクト12の入口条件として分解炉発生ガス量を設定。
2)排ガス取出し配管22の出口における流量を設定。
3)排ガス取出し配管22の出口において、所定時間経過後に、流量が所定量まで低下するように変更。
4)分解炉ダクト12の入口における圧力変動値を計算。
【0035】
(実施例1)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(10万Nm/hr、23%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が3秒間で10万Nm/hr(ガス線速15.7m/sec)から5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)に変化した場合におけるエチレン分解炉への圧力影響を15Pa以内に抑えるため、排ガス取出し口(排ガス取出し配管の開口部。以下同様)をエチレン分解炉からの距離が333m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.96sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と0°(=3.14radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は10Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(10万Nm/hr,ガス線速15.7m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、3秒後に5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は10Paとなり、15Pa以内であることから、エチレンプラントへの影響が無い事が分かった。
【0036】
(実施例2)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(10万Nm/hr、23%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が3秒間で10万Nm/hr(ガス線速15.7m/sec)から5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)に変化した場合におけるエチレン分解炉への圧力影響を15Pa以内に抑えるため、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が321m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.93sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と90°(=1.57radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は9Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(10万Nm/hr,ガス線速15.7m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、3秒後に5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は10Paとなり、15Pa以内であることから、エチレンプラントへの影響が無い事が分かった。
【0037】
(実施例3)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(10万Nm/hr、23%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が1秒間で10万Nm/hr(ガス線速15.7m/sec)から5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)に変化した場合におけるエチレン分解炉への圧力影響を15Pa以内に抑えるため、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が333m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.96sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と0°(=0radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は13Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(10万Nm/hr,ガス線速15.7m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、1秒後に5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は12Paとなり、15Pa以内であることから、エチレンプラントへの影響が無い事が分かった。
【0038】
(実施例4)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(10万Nm/hr、23%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が3秒間で10万Nm/hr(ガス線速15.7m/sec)から5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)に変化した場合におけるエチレン分解炉への圧力影響を15Pa以内に抑えるため、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が333m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.96sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と0°(=0radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は2Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(10万Nm/hr,ガス線速15.7m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、3秒後に5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は2Paとなり、15Pa以内であることから、エチレンプラントへの影響が無い事が分かった。
【0039】
(実施例5)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(8万Nm/hr、18%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が2秒間で8万Nm/hr(ガス線速12.6m/sec)から4万Nm/hr(ガス線速6.3m/sec)に変化した場合におけるエチレン分解炉への圧力影響を15Pa以内に抑えるため、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が333m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.92sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と90°(=1.57radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は2Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(8万Nm/hr,ガス線速12.6m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、2秒後に4万Nm/hr(ガス線速6.3m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は3Paとなり、15Pa以内であることから、エチレンプラントへの影響が無い事が分かった。
【0040】
(実施例6)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(10万Nm/hr、23%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が3秒間で10万Nm/hr(ガス線速15.7m/sec)から5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)に変化した場合におけるエチレン分解炉への圧力影響を15Pa以内に抑えるため、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が333m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.89sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と90°(=1.57radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は14Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(10万Nm/hr,ガス線速15.7m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、3秒後に5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は13Paとなり、15Pa以内であることから、エチレンプラントへの影響が無い事が分かった。
【0041】
(比較例1)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(14万Nm/hr、32%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が1秒間で14万Nm/hr(ガス線速22.0m/sec)から7万Nm/hr(ガス線速11.0m/sec)に変化した場合において、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が115m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.33 sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と90°(=1.57radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は132Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(14万Nm/hr,ガス線速22.0m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、1秒後に7万Nm/hr(ガス線速11.0m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は141Paとなり、エチレンプラントへの影響がある事が分かった。
【0042】
(比較例2)
エチレン分解炉(総排ガス量44万Nm/hr)の一部排ガス(10万Nm/hr、23%相当)を排ガス取出し配管から抜出す設備(取出し配管は直径1.5mの円形配管)において、排ガス送り出し設備(例えばブロワー)の送り出し量が3秒間で10万Nm/hr(ガス線速15.7m/sec)から5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)に変化した場合において、排ガス取出し口をエチレン分解炉からの距離が285m(音速347m/secと仮定すると伝播時間=0.82sec)、排ガス取出し配管の向きはガスの流れ方向と90°(=1.57radian)の角度をなすように設置した。この場合における式(1)の計算値は22Paとなった。本条件において、流体解析ソフト(CFX ver16.2)を用いてエチレン分解炉における圧力変動値を計算した。流体解析ソフトを用いた計算は以下手順で行った。
1)分解炉入口条件として分解炉発生ガス量を設定(44万Nm/hr)
2)排ガス取出し配管出口における流量を設定(10万Nm/hr,ガス線速15.7m/sec)
3)排ガス取出し配管出口において、3秒後に5万Nm/hr(ガス線速7.9m/sec)まで低下するように変更
4)分解炉入口における圧力変動値を計算
その結果、エチレン分解炉における圧力変動は23Paとなり、エチレンプラントへの影響がある事が分かった。
【0043】
なお、下記表1に、実施例及び比較例の結果をまとめて示す。
【表1】
【符号の説明】
【0044】
10 エチレン分解炉
11 排ガス設備
12 分解炉ダクト
13 連結ダクト
14 集約ダクト
15 排ガス煙突
21 二酸化炭素製造設備
22 排ガス取り出し配管
22a 開口部
23 水洗塔
24 ブロア
25 吸収塔
図1
図2
図3
図4