(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について説明する。
本発明の光学ガラスは、表層部に厚みが1μm以上の強化層を有し、屈折率(nd)が1.73〜2.10である。表層部に厚みが1μm以上の強化層を有するとは、光学ガラス表面から深さ1μm以上の領域が強化層で構成されることをいう。本発明の光学ガラスにおいて強化層および強化層以外の部分(該強化層以外の部分は強化層の厚さ(後述するDOL)よりもガラス内部の部分をいう。本発明ではガラス内部ともいう)はガラスで構成される。
【0015】
ここで、本発明の光学ガラスにおいて強化層の屈折率とガラス内部の屈折率とは厳密には異なるが、小数点以下第3位で数値が異なる程度であり、本発明において両者は実質的に同じとして扱う。したがって、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、1.73〜2.10の範囲にある。本発明の光学ガラスは屈折率がこのような高い範囲にあることで、撮像ガラスレンズに用いた場合等に、より小型で広い範囲を撮影することができる。屈折率(nd)は好ましくは、1.75以上、より好ましくは1.80以上である。また好ましくは2.05以下、より好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.90以下である。なお、本発明の光学ガラスにおいて屈折率(nd)が2.10を超えるとガラスが着色したものとなりやすくなる点で問題である。
【0016】
本発明の光学ガラスは、光学ガラスの前駆体となるガラスの表層部に所定の処理(強化処理ともいう)を施すことにより、光学ガラス前駆体の表面から1μm以上の所望の深さまでの領域に強化層を形成することで得られる。
【0017】
前記所定の処理の具体的な処理例としては、化学強化(イオン交換)、物理強化(風冷強化など)、イオン注入等が挙げられる。本発明の光学ガラスにおいて、前記化学強化処理されている光学ガラスを化学強化光学ガラスともいい、前記物理強化されている光学ガラスを物理強化光学ガラスともいい、前記イオン注入されている光学ガラスをイオン注入光学ガラスともいう。本発明の光学ガラスは、前記強化層が化学強化であることが好ましい。本発明の光学ガラスは、強化層を有することで、強度が向上した光学ガラスである。
【0018】
本発明の光学ガラスは、高屈折ガラスであり、強化層に圧縮応力が付与されていることにより、高強度、高硬度で、キズが付き難く、クラックが入り難い光学ガラスである。
【0019】
本発明の光学ガラスは、強化層の厚みが1μm以上であれば充分な強度を有する。強化層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。光学ガラスの屈折率変化を考慮すると、強化層の厚みは500μm以下が好ましい。強化層の厚みは、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下、最も好ましくは100μm以下である。
【0020】
なお、本発明の光学ガラスにおいて強化層の厚みは、圧縮応力層深さ(DOL;Depth of layer)として、例えば、表面応力計FSM−6000(折原製作所社製)で測定できる。
【0021】
本発明の光学ガラスは、表層部に厚みが1μm以上の強化層を有することで高い強度を有する。本発明の光学ガラスにおける強度の指標として、具体的には、光学ガラス表面のキズつき難さ(スクラッチ耐性)が挙げられる。本発明の光学ガラスにおいては、スクラッチ試験で測定されるスクラッチ耐性が200gf以上、さらに300gf以上であることが好ましく、500gf以上がより好ましく、1000gf以上がさらに好ましく、2000gf以上が特に好ましい。スクラッチ耐性が上記範囲にあれば、光学ガラス表面の傷耐性が極めて向上し、光学ガラスの強度が向上する。
【0022】
スクラッチ耐性の値は、例えば、以下の方法で求められる。厚さ1mmのガラス板を鏡面仕上げし強化処理を行なったサンプルについて、ヌープ圧子を取りつけたスクラッチ試験機(例えば、新東科学株式会社製、トライボギア22特型)を用い、サンプル表面にヌープ圧子を接触させ所定の荷重をかけて、スクラッチ速度10mm/secでヌープ圧子の長辺の方向に動かすスクラッチ試験を行う。チッピングが発生した荷重をスクラッチ耐性とする。チッピングの発生の有無の確認は、サンプル表面を200倍の顕微鏡で観察し、チッピングの発生の有無を確認する。
【0023】
さらに、本発明の光学ガラスにおける強度の指標として、ビッカース圧子を用いて圧痕を形成した際のクラックの発生率が50%となるビッカース圧子の荷重(該荷重を、クラックイニシエーションロード(CIL)という。)を用いることができる。
【0024】
CILはクラック耐性の指標であり、CILが大きいほどクラックの生じにくいことを示す。本発明の光学ガラスのCILは、ガラスの組成にもよるが、40gf以上が好ましく、60gf以上がより好ましく、100gf以上がさらに好ましい。
【0025】
CILの値は、例えば、以下の方法で求められる。両面を鏡面研磨した後に強化処理をした、厚さ2mmの板状の光学ガラスの表面に、ビッカース硬度試験機にて、ビッカース圧子を15秒間押し込んだ後にビッカース圧子をはずし、ビッカース圧子をはずした後の15秒後に圧痕付近を観測する。100gf、200gf、300gf、500gf、1000gf、2000gfのビッカース圧子の押し込み荷重に対して発生したクラック本数の平均値を荷重ごとに算出する。荷重とクラック本数との関係を、シグモイド関数を用いて回帰計算し、回帰計算結果から、クラック本数が2本となる荷重をガラスのCIL(gf)とすることができる。圧痕の4隅の全てから合計4本のクラックが発生する場合を発生率100%とする。
【0026】
また、本発明の光学ガラスにおいて強化層の圧縮応力(CS;Compressive stress)を光学ガラスの強度の指標とすることができる。圧縮応力は複屈折を利用して測定することができ、例えば、表面応力計FSM−6000(折原製作所社製)で測定される。強化層の圧縮応力は好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは150MPa以上である。
【0027】
本発明の光学ガラスは日本光学硝子工業会規格による「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」(JOGIS06−2008)に準拠して測定される耐水性(RW)が等級3以上であり、耐酸性(RA)が等級3以上であることが好ましい。なお、本発明の光学ガラスにおいては強化層のRW、RAとガラス内部のRW、RAとは厳密には異なるが、本発明においては等級が異なるほどの大きな差はないものとして、本発明において両者は実質的に同じとして扱う。
【0028】
RWは、具体的には、次のように測定される。直径が420〜600μmのガラス粉末について、100℃の純水80mL中に1時間浸漬したときの質量減少割合(%)を測定する。質量減少割合に応じて、所定の等級が付される。等級は数値の小さい方がRWの良好であることを示す。本発明の光学ガラスはRWが等級2以上であることがより好ましく、等級1が特に好ましい。
【0029】
RAは、具体的には、次のように測定される。直径が420〜600μmのガラス粉末について、100℃の0.01規定の硝酸水溶液80mL中に1時間浸漬した時の質量減少割合(%)を測定する。質量減少割合に応じて、所定の等級が付される。等級は数値の小さい方がRAの良好であることを示す。本発明の光学ガラスはRAが等級2以上であることがより好ましく、等級1が特に好ましい。
【0030】
本発明の光学ガラスは、厚さ1mmのガラス板として作製されたときの、波長360nmにおける光の透過率(T
360)が50%以上であることが好ましい。T
360は、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。T
360は、例えば、厚さ1mmのガラス板について、分光光度計を用いて測定することができる。なお、本発明の光学ガラスにおいては、強化層のT
360とガラス内部のT
360は、ほぼ同じであり、同じものとして扱う。
【0031】
本発明の光学ガラスの形状は特に制限されない。用途に応じて、板状、円筒状、球面状等の形状が適宜選択される。光学ガラスの形状が板形状の場合、平板でも曲げ加工を施した曲板でもよい。
【0032】
本発明の光学ガラスにおいてガラスは、比重が4.0g/cm
3以下であることが好ましい。なお、本発明の光学ガラスにおいては、強化層の比重とガラス内部の比重とは、小数点以下第1位ではほぼ同等であり、同じものとして扱う。これにより、光学ガラスとした場合にクラックが発生しにくい。そのため、クラックを起点とする割れの生じにくい高強度の光学ガラスが得られる。比重は、3.7g/cm
3以下であることが好ましく、3.5g/cm
3以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の光学ガラスにおいてガラスは、ガラス転移点(Tg)が520℃以上600℃以下、失透温度が1300℃以下であるのが好ましい。本発明の光学ガラスにおいては強化層のTg並びに失透温度並びにT
360と、ガラス内部のTg並びに失透温度並びにT
360とは、ほぼ同等であり、同じものとして扱う。ガラスが、600℃以下の低いTgを有することで、例えば、ガラスレンズを製造効率の高い精密プレス成形(以下、単に「プレス成形」という。)によって生産する際の成形性が良好である。また、Tgは低すぎると強化層を有する光学ガラスにおいて圧縮応力の緩和が起きやすいため520℃以上であることが好ましい。ガラスのTgは、好ましくは540〜590℃である。Tgは、例えば熱膨張法により測定することができる。
【0034】
本発明において、ヤング率はガラス内部のヤング率をいう。ヤング率は、好ましくは85GPa以上、より好ましくは90GPa以上、さらに好ましくは95GPa以上、よりさらに好ましくは100GPa以上である。
【0035】
また、本発明の光学ガラスにおいてガラスの失透温度が1300℃以下であれば、プレス成形時におけるガラスの失透を充分に抑制でき、プレス成形性が良好である。ガラスの失透温度は、好ましくは1250℃以下、さらに好ましくは1200℃以下、特に好ましくは1100℃以下である。ここで、失透温度とは、加熱、溶融したガラスを自然放冷により冷却する際に、ガラス表面および内部に長辺または長径で1μm以上の結晶が認められない温度の最大値である。
【0036】
本発明の光学ガラスとしては、Nb
2O
5−SiO
2系ガラス(特には、Nb
2O
5−SiO
2−TiO
2系ガラス、Nb
2O
5−SiO
2−ZrO
2系ガラス等)、La
2O
3−B
2O
3系ガラス、BaO−SiO
2系ガラス等が挙げられる。なお、本明細書において、Nb
2O
5−SiO
2系ガラスとは、Nb
2O
5とSiO
2を必須成分とするガラスをいう。他の「…系ガラス」の表記についても同様の意味を有する。
【0037】
化学強化を行う観点から、ガラス内部は、アルカリ金属成分としてLi
2O、Na
2OおよびK
2Oを、酸化物基準の質量%表示で、以下の要件(i)、(ii)、(iii)の全てを満たすように含有することが好ましい。
(i)Li
2O+Na
2Oが5%以上である。
(ii)Li
2O+Na
2O+K
2Oが5%〜20%である。
(iii)Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)またはNa
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.20以上である。
【0038】
以下、各要件について説明する。
(要件(i))
一般にガラスにおけるイオン交換処理は、イオン半径の小さいアルカリイオンがイオン半径の大きいアルカリイオンに交換される処理である。アルカリイオンは、Li
+、Na
+、K
+の順にイオン半径が大きく、イオン交換処理においては、Li
+がNa
+またはK
+に交換されるか、Na
+がK
+に交換される。イオン交換処理を可能とするために、ガラス内部はLi
2OまたはNa
2Oを含有し、その合計含有量(Li
2O+Na
2O)は5%以上である。Li
2O+Na
2Oは7%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。また、失透およびTgの低下による化学強化ガラスにおける応力緩和を抑制する観点から、ガラス内部におけるLi
2O+Na
2Oは30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、さらに好ましくは20%以下である。
【0039】
(要件(ii))
ガラス内部において、アルカリ金属成分の合計含有量(Li
2O+Na
2O+K
2O)は5%〜20%である。Li
2O+Na
2O+K
2Oを5%以上とすることで、Tgを低くすることができる。Li
2O+Na
2O+K
2Oが20%を超えると粘度が低くなり易くプレス成形性が低下する。一方、Li
2O+Na
2O+K
2Oが5%未満では、粘度が低くなり易く、プレス成形性が低下する。Li
2O+Na
2O+K
2Oは、6%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましい。また、Li
2O+Na
2O+K
2Oは、17%以下が好ましく、14%以下がより好ましい。
【0040】
(要件(iii))
ガラス内部において、要件(iii)は、Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.20以上(以下、要件(iii−1)ともいう。)、またはNa
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.20以上(以下、要件(iii−2)ともいう。)である。要件(iii−1)および要件(iii−2)のいずれか一方を満たせばよく、両方を満たしてもよい。
【0041】
アルカリ金属成分のうちLi
2OおよびNa
2Oはガラスの強度を向上させる成分であり含有量を多くすることが望まれる成分である。しかし、Li
2Oの含有量が多いと失透し易くなるため、Li
2Oとともに失透抑制効果の高いK
2Oを所定の割合で含有させて、Li
2Oの増加による失透を抑制し、これにより、高い強度を確保するために要件(iii−1)を規定した。また、Na
2Oの含有量が多いとイオン交換速度が不十分になるため、Na
2Oとともにイオン交換特性向上効果の高いK
2Oを所定の割合で含有させて、Na
2Oの増加によるイオン交換不足を抑制し、これにより、高い強度を確保するために要件(iii−2)を規定した。
【0042】
要件(i)、(ii)および要件(iii−1)を満たせば、化学強化後のクラック耐性、スクラッチ耐性が向上し、機械的特性が良好なガラスとなる。Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、0.30以上が好ましく、0.40以上がより好ましく、0.50以上が最も好ましい。一方、Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が大きすぎると、粘度が低くなり易く、プレス成形性が低下する。Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がよりさらに好ましく、0.7以下が特に好ましく、0.6以下が最も好ましい。
【0043】
要件(i)、(ii)および要件(iii−2)を満たせば、化学強化後のクラック耐性、スクラッチ耐性が向上し、機械的特性が良好なガラスとなる。Na
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、0.30以上が好ましく、0.40以上がより好ましく、0.50以上が最も好ましい。一方、Na
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が大きすぎると、イオン交換速度が低下する。Na
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がよりさらに好ましい。
【0044】
イオン交換処理を可能とするためにアルカリ金属成分の含有量が上記要件(i)、(ii)、(iii)を全て満足するとともに、高い屈折率を確保するために、本発明の光学ガラスは、Nb
2O
5−SiO
2系ガラスまたはLa
2O
3−B
2O
3系ガラスであることが好ましい。
【0045】
本発明の光学ガラスがNb
2O
5−SiO
2系ガラスである場合、ガラス内部の組成として、具体的には、アルカリ金属成分の含有量が上記要件(i)、(ii)、(iii)を全て満足し、酸化物基準の質量%表示で、
Nb
2O
5: 20%〜75%、
SiO
2: 10%〜50%、
TiO
2: 0%〜20%、
ZrO
2: 0%〜20%、
Li
2O: 0%〜20%、
Na
2O: 0%〜20%、
K
2O: 0%〜10%、
BaO: 0%〜20%、
ZnO: 0%〜15%、好ましくは0%〜10%
Ln
2O
3: 0〜50%、
La
2O
3: 0%〜50%、
Y
2O
3: 0%〜20%、
P
2O
5: 0%〜20%、
B
2O
3: 0%〜20%、
を含有する組成(該組成のガラスを以下、「第1のガラス」という。)が挙げられる。
【0046】
本発明の光学ガラスがLa
2O
3−B
2O
3系ガラスである場合、ガラス内部の組成として、具体的には、アルカリ金属成分の含有量が上記要件(i)、(ii)、(iii)を全て満足し、酸化物基準の質量%表示で、
La
2O
3: 10%〜70%、
B
2O
3: 10%〜40%、
Nb
2O
5: 0%以上20%未満、
SiO
2: 0%〜30%、
TiO
2: 0%〜20%、
ZrO
2: 0%〜20%、
Li
2O: 0%〜20%、
Na
2O: 0%〜20%、
K
2O: 0%〜10%、
CaO: 0%〜20%、
BaO: 0%〜20%、
ZnO: 0%〜40%、
Ln
2O
3: 10〜70%、
P
2O
5: 0%〜20%、
を含有する組成(該組成のガラスを以下、「第2のガラス」という。)が挙げられる。
【0047】
以下に、第1のガラスおよび第2のガラスにについて説明する。なお、本発明の光学ガラスは、上記した特性を有する限り、第1のガラスおよび第2のガラスの組成に限定されない。また、第1のガラスおよび第2のガラスにおいて、「実質的に含有しない」とは、不可避不純物を除き含有しないことを意味する。不可避不純物の含有量は、本発明において0.1%以下である。
【0048】
<第1のガラス>
以下、第1のガラスにおける組成について説明する。
Nb
2O
5は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの分散を大きくする成分である。Nb
2O
5の含有割合は、20%以上75%以下である。Nb
2O
5の含有割合が20%以上であることで、高い屈折率を得ることができる。Nb
2O
5の含有割合は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、45%以上がさらに好ましい。また、Nb
2O
5は、多すぎると失透し易くなる。そのため、Nb
2O
5の含有割合は、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。
【0049】
SiO
2は、ガラス形成成分であり、ガラスに高い強度とクラック耐性を付与し、ガラスの安定性および化学的耐久性を向上させる成分である。SiO
2の含有割合は、10%以上50%以下である。SiO
2の含有割合が10%以上であることで、クラック耐性を向上させることができる。一方、SiO
2の含有割合が50%以下であることで、高い屈折率を得ることができる。SiO
2の含有割合は、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、28%以上がさらに好ましい。SiO
2の含有割合は、45%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0050】
TiO
2は、任意成分であり、ガラスの屈折率を高め、ガラスの分散を大きくする成分である。また、第1のガラスはTiO
2を含有することでクラック耐性を向上できる。一方、TiO
2は多すぎると着色しやすく、また、透過率が低下するため、その含有割合は、20%以下である。第1のガラスがTiO
2を含有する場合、その含有割合は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましい。また、TiO
2の含有割合は、6%以下が好ましく、5.5%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0051】
ZrO
2は、任意成分であり、ガラスの屈折率を高め、ガラスの化学的耐久性を高める成分である。第1のガラスは、ZrO
2を含有することで、クラック耐性を向上させることができる。一方、ZrO
2が多すぎると、失透しやすくなるため、含有割合は、20%以下である。第1のガラスがZrO
2を含有する場合、その含有割合は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。ZrO
2の含有割合は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。
【0052】
Li
2Oは、ガラスの強度を向上させるとともに、低いTgを確保し、ガラスの溶融性を向上させる成分である。Li
2Oの含有割合は20%以下である。Li
2Oを含有することで、クラック耐性(CIL)を向上させることができる。一方、Li
2Oは、多すぎると失透し易くなる。Li
2Oの含有割合は、2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。また、Li
2Oの含有割合は、15%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0053】
Na
2Oは、失透を抑制し、Tgを低くする成分である。Na
2Oの含有割合は20%以下である。Na
2Oは、多すぎると、強度およびクラック耐性が低下し易い。Na
2Oの含有割合は、1.5%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましい。また、Na
2Oの含有割合は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましい。
【0054】
K
2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分であるとともに、失透を抑制する成分である。K
2Oの含有割合は10%以下である。K
2Oは、多すぎると、強度およびクラック耐性が低下し易い。K
2Oの含有割合は、0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。また、K
2Oの含有割合は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0055】
第1のガラスにおける、アルカリ金属成分(Li
2O、Na
2O、K
2O)の含有割合の関係は上記のとおりである。第1のガラスにおいて、強度を高める観点から、アルカリ金属成分の含有量は、Li
2O>Na
2O>K
2Oであることが好ましい。また、同様に強度を高める観点から、Li
+/Na
+は質量比で1.2以上であることが好ましい。
【0056】
ZnOは、任意成分であり、ガラスの強度やクラック耐性などの機械的特性を向上させる成分である。一方、ZnOの量が多いと失透し易くなるため、その含有割合は15%以下である。ZnOの含有割合は、13%以下、さらに10%以下、さらに8%以下が好ましく、6%以下、さらに5%以下がより好ましく、4%以下、さらに3%以下、さらに1%以下が特に好ましい。ZnOは、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0057】
P
2O
5は、任意成分である。P
2O
5は、Tgを低くする成分であり、アッベ数を調整するための成分であるが、P
2O
5の量が多いとクラック耐性が低下し易い。そのため、P
2O
5の含有割合は、20%以下である。P
2O
5は、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。P
2O
5は、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0058】
B
2O
3は、任意成分である。B
2O
3は、Tgを低くし、ガラスの強度やクラック耐性などの機械的特性を向上させる成分であるが、B
2O
3の量が多いと屈折率が低下し易い。そのため、B
2O
3の含有割合は20%以下である。B
2O
3の含有割合は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。B
2O
3は、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0059】
La
2O
3は、任意成分である。La
2O
3は、ガラスの屈折率を向上させる成分であるが、La
2O
3の量が多すぎると機械的特性が低下する。そのため、La
2O
3が含有される場合には、その含有割合は50%以下である。La
2O
3の含有割合は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。La
2O
3は、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0060】
BaOは、任意成分である。BaOは、失透を抑制する成分であるが、BaOの量が多いと、クラック耐性が低下し易い。そのため、BaOが含有される場合には、その含有割合は20%以下である。BaOの含有割合は、4%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。BaOは、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0061】
CaOは、任意成分である。CaOは、失透を抑制する成分であるが、CaOの量が多いと、クラック耐性が低下し易い。そのため、CaOが含有される場合には、その含有割合は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。CaOは、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0062】
Y
2O
3は、任意成分である。Y
2O
3は、ガラスの屈折率を向上させ、また、強度およびクラック耐性を向上させる成分である。一方、Y
2O
3の量が多いとガラスの分散が低下し、また失透し易くなる。そのため、Y
2O
3が含有される場合には、その含有割合は20%以下である。Y
2O
3の含有割合は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0063】
Gd
2O
3は、任意成分である。Gd
2O
3は、ガラスの屈折率を向上させ、また、強度およびクラック耐性を向上させる成分である。一方、Gd
2O
3の量が多いとガラスの分散が低下し、また失透し易くなる。そのため、Gd
2O
3は、実質的に含有されないことが好ましい。
【0064】
Ln
2O
3(LnはY、La、Gd、Yb、およびLuからなる群より選択される1種以上である。)は、ガラスの屈折率を向上させる。一方、Ln
2O
3の量が多くなると、ガラスの分散が低下し、また失透し易くなる。そのため、Ln
2O
3は、合計で50%以下であり、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下、さらに5%以下、さらに3%以下が好ましく、1%以下が特に好ましく、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0065】
Al
2O
3は、任意成分である。Al
2O
3は、化学的耐久性を向上させる成分であるが、Al
2O
3が多くなると、ガラスが失透し易くなる。そのため、Al
2O
3は、実質的に含有されないことが好ましい。
【0066】
WO
3は、任意成分である。WO
3は、少量含有されることでガラスの失透が抑制されるが、WO
3の量が多すぎると、かえってガラスが失透し易くなる。そのため、WO
3は、10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましく、1%以下がさらに好ましく、実質的に含有されないことが好ましい。
【0067】
Bi
2O
3は、任意成分である。Bi
2O
3は、ガラスの屈折率を上げ、Tgを低くし、ガラスの失透を低減する成分である。一方、Bi
2O
3の量が多くなると、ガラスが着色し易くなる。そのため、Bi
2O
3は、実質的に含有されないことが好ましい。
【0068】
MgOは、任意成分である。MgOは、ガラスの溶融性を向上させ、失透を抑制し、ガラスのアッベ数や屈折率等の光学恒数を調整する成分である。一方、MgOの量が多くなると、かえって失透を促進してしまう。そのため、MgOは、実質的に含有されないことが好ましい。
【0069】
SrOは、任意成分である。SrOは、ガラスの溶融性を向上させ、失透を抑制し、ガラスの光学恒数を調整する成分である。一方、SrOの量が多くなると、かえって失透を促進してしまう。そのため、SrOは、実質的に含有されないことが好ましい。
【0070】
As
2O
3は、有害な化学物質であるため、近年使用を控える傾向にあり、環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、実質的に含有されないことが好ましい。
【0071】
さらに第1のガラスには、Sb
2O
3およびSnO
2のうちの少なくとも一種が含有されることが好ましい。これらは必須の成分ではないが、屈折率特性の調整、溶融性の向上、着色の抑制、透過率の向上、清澄、化学的耐久性の向上などの目的で添加することができる。これらの成分を含有させる場合、含有割合は合計で、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。
【0072】
さらに第1のガラスには、Fが含有されることが好ましい。Fは必須ではないが、溶解性の向上、透過率の向上、清澄性向上などの目的で添加することができる。Fを含有させる場合、含有割合は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0073】
第1のガラスにおいては、アルカリ金属成分の合計含有量(Li
2O+Na
2O+K
2O)が多いと、Tgが低くなるが、屈折率が低下し易い。そこで、屈折率を向上させる成分であるNb
2O
5、La
2O
3およびBaOのうち、強度の向上に寄与するNb
2O
5を、La
2O
3およびBaOの合計に対して所定の量以上含有させることでTgを低くしつつ、屈折率をより高くすることができる。そのため、Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO)は30%以上であることが好ましい。一方、Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO)は、多くなりすぎると、比重が大きくなるため、75%以下であることが好ましい。比重を小さくし、高屈折率を得る点から、Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO)は、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0074】
第1のガラスにおいては、酸化物基準の質量%による値で、(Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO))×Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が20以上であることが好ましい。上記したように(Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO))は、高屈折率かつ高強度を得るための指標であり、(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、Tgを下げるための指標である。(Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO))×Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が20以上であれば、高屈折率かつ高強度であり、Tgのより低い光学ガラスを得ることができる。(Nb
2O
5−(La
2O
3+BaO))×Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、25以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましい。
【0075】
第1のガラスである場合、CILは後述する化学強化処理条件1〜4のいずれかにおいて、100gf以上であり、150gf以上が好ましく、200gf以上がより好ましい。
【0076】
<第2のガラス>
以下、第2のガラスにおける組成について説明する。
La
2O
3は、ガラスの屈折率を向上させる必須成分であるが、La
2O
3の量が多すぎると機械的特性が低下する。La
2O
3の含有割合は10%以上70%以下である。La
2O
3の含有割合を10%以上とすることで高い屈折率およびアッベ数を得ることができる。La
2O
3の含有割合は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。La
2O
3の含有割合は、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、45%以下がさらに好ましい。
【0077】
B
2O
3は、Tgを低くし、ガラスの強度やクラック耐性などの機械的特性を向上させる必須成分であるが、B
2O
3の量が多いと屈折率が低下し易い。B
2O
3の含有割合は10%以上40%以下である。B
2O
3の含有割合は13%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。B
2O
3の含有割合は、35%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。
【0078】
Nb
2O
5は、任意成分であり、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの分散を大きくする成分である。Nb
2O
5は、多すぎると失透し易くなるため、その含有割合は20%未満である。第2のガラスがNb
2O
5を含有する場合、その含有割合は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましい。また、Nb
2O
5の含有割合は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0079】
SiO
2は、任意成分であり、ガラスに高い強度とクラック耐性を付与し、ガラスの安定性および化学的耐久性を向上させる成分である。SiO
2は多すぎると屈折率の低下を招くため、その含有割合は30%以下である。第2のガラスがSiO
2を含有する場合、その含有割合は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。SiO
2の含有割合は、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0080】
TiO
2は、任意成分であり、ガラスの屈折率を高め、ガラスの分散を大きくする成分である。また、第2のガラスはTiO
2を含有することでクラック耐性を向上できる。一方、TiO
2は多すぎると着色しやすく、また、透過率が低下するため、その含有割合は、20%以下である。第2のガラスがTiO
2を含有する場合、その含有割合は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。また、TiO
2の含有割合は、15%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0081】
ZrO
2は、任意成分であり、ガラスの屈折率を高め、ガラスの化学的耐久性を高める成分である。第2のガラスは、ZrO
2を含有することで、クラック耐性を向上させることができる。一方、ZrO
2が多すぎると、失透しやすくなるため、含有割合は、20%以下である。第2のガラスがZrO
2を含有する場合、その含有割合は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。ZrO
2の含有割合は、15%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0082】
P
2O
5は、任意成分である。P
2O
5は、Tgを低くする成分であり、アッベ数を調整するための成分であるが、P
2O
5の量が多いとクラック耐性が低下し易い。そのため、P
2O
5の含有割合は、20%以下である。第2のガラスがP
2O
5を含有する場合、その含有割合は、0.2%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。P
2O
5の含有割合は、15%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、10%以下、さらに5%以下、さらに3%以下、1%以下がさらに好ましい。
【0083】
第2のガラスはアルカリ金属成分(Li
2O、Na
2O、K
2O)を含有する。第2のガラスにおける、アルカリ金属成分(Li
2O、Na
2O、K
2O)の含有割合およびその関係は上記第1のガラスの場合と、好ましい態様を含めて同様にできる。
【0084】
CaOは、任意成分である。CaOは、失透を抑制する成分であるが、CaOの量が多いと、クラック耐性が低下し易い。そのため、CaOの含有割合は20%以下である。第2のガラスがCaOを含有する場合、その含有割合は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。CaOの含有割合は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。クラック耐性を特に考慮する場合は、さらに3%以下、さらに1%以下が好ましい。
【0085】
BaOは、任意成分である。BaOは、失透を抑制する成分であるが、BaOの量が多いと、クラック耐性が低下し易い。そのため、BaOの含有割合は20%以下である。第2のガラスがBaOを含有する場合、その含有割合は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。BaOの含有割合は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。クラック耐性を特に考慮する場合は、さらに3%以下、さらに1%以下が好ましい。
【0086】
ZnOは、任意成分であり、ガラスの強度やクラック耐性などの機械的特性を向上させる成分である。一方、ZnOの量が多いと失透し易くなるため、その含有割合は40%以下である。第2のガラスがZnOを含有する場合、その含有割合は、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。BaOの含有割合は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。失透特性を特に考慮する場合は、さらに10%以下、さらに5%以下、さらに3%以下、さらに1%以下が好ましい。
【0087】
第2のガラスは、第1のガラスと同様にY
2O
3、Gd
2O
3を任意成分として含有してよい。第2のガラスにおいて、Ln
2O
3(LnはY、La、Gd、Yb、およびLuからなる群より選択される1種以上である。)は、ガラスの屈折率を向上させる必須成分である。一方、Ln
2O
3の量が多くなると、ガラスの分散が低下し、また失透し易くなる。Ln
2O
3の含有割合は上記La
2O
3の含有割合と好ましい態様を含めて同様にできる。
【0088】
第2のガラスにおいては、Ln
2O
3に対するアルカリ金属成分の合計含有量の割合を示す、(Li
2O+Na
2O+K
2O)/Ln
2O
3が0.2以上であることが好ましい。該割合が0.2以上であることで十分なイオン交換特性を得ることが可能である。(Li
2O+Na
2O+K
2O)/Ln
2O
3は0.3以上がより好ましい。また、十分な高さの歪点を得る観点から(Li
2O+Na
2O+K
2O)/Ln
2O
3は1.0以下が好ましい。
【0089】
Al
2O
3は、任意成分である。Al
2O
3は、化学的耐久性を向上させる成分であるが、Al
2O
3が多くなると、ガラスが失透し易くなる。そのため、Al
2O
3は、実質的に含有されないことが好ましい。
【0090】
As
2O
3は、有害な化学物質であるため、近年使用を控える傾向にあり、環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、実質的に含有されないことが好ましい。
【0091】
第2のガラスは、上記成分以外にWO
3、Bi
2O
3、MgO、SrO、Sb
2O
3、SnO
2、F等の成分を、第1のガラスと同様に含有してもよい。これら成分の含有割合は好ましい態様を含めて第1のガラスと同様にできる。
【0092】
第2のガラスである場合、CILは後述する化学強化処理条件1〜4のいずれかにおいて、40gf以上であり、50gf以上が好ましく、60gf以上がより好ましい。
【0093】
本発明の光学ガラスは、例えば以下の工程A及び工程Bを含む方法により製造できる。
【0094】
工程A(光学ガラス前駆体の作製工程)
光学ガラス前駆体は、例えば、得られるガラスの組成が酸化物基準の質量%表示で上記の組成となるようにガラス原料を準備し、通常の方法により、該ガラス原料を溶融し冷却することで得られる。なお、通常、溶融後、所望の形状に成形して冷却が行われる。さらに、冷却時には異なる形状としたものをさらに成形加工して所望の形状としてもよい。成形方法は、光学ガラス前駆体の用途、形状等により適宜選択される。
【0095】
例えば、レンズ等の光学部材を作製する場合には、上記所定のガラス組成となるように原料を秤量し、均一に混合する。作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝またはアルミナ坩堝に投入して粗溶融する。その後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝またはイリジウム坩堝に入れて1200〜1400℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、脱泡、撹拌などにより均質化して泡切れ等を行った後、金型に鋳込んで徐冷することにより、光学ガラス前駆体や、さらに成形加工がされて光学ガラス前駆体とされるプリフォームが作製される。
【0096】
上記で作製されたプリフォームに対しては、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、光学ガラス前駆体を作製することができる。すなわち、上記ガラス原料の溶融、冷却によりモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行って光学ガラス前駆体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行って光学ガラス前駆体を作製したりすることができる。なお、光学ガラス前駆体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0097】
工程B(光学ガラス前駆体表層部を処理して厚み1μm以上の強化層を形成する工程)
上記で作製した光学ガラス前駆体の表層部の処理の種類としては、上記のとおり、化学強化(イオン交換)、物理強化(風冷強化など)、イオン注入等が挙げられる。以下に、本発明において好ましい処理であるイオン交換処理、すなわち化学強化処理の例を説明する。
【0098】
化学強化処理は、従来公知の方法によって行うことができる。具体的には、光学ガラス前駆体中のアルカリ金属イオンに比べて大きなイオン半径を有するアルカリ金属イオンを含むアルカリ金属塩の融液に、浸漬などによって光学ガラス前駆体を接触させる。これにより、光学ガラス前駆体の表層部のみで小さなイオン半径の金属イオンが大きなイオン半径の金属イオンと置換され、表層部に圧縮応力が付与された本発明の光学ガラスが得られる。
【0099】
(混合溶融塩)
化学強化処理に用いるアルカリ金属塩の融液としては、例えば、以下に説明する組成の混合溶融塩を用いることができる。なお、特に断らない限り各成分の含有量は混合溶融塩全量に対する質量百分率で表示する。
【0100】
(1)硝酸リチウム
硝酸リチウムは、6%超では、光学ガラス前駆体中のNaやKがLiとの交換を促進され、強化されにくくなるおそれがある。また、光学ガラス前駆体の表層部が圧縮層ではなく引張り層になり、光学ガラス前駆体よりも強度が小さくなるおそれがある。そのため、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。
【0101】
(2)硝酸ナトリウム
硝酸ナトリウムは、Liを含有している光学ガラス前駆体、例えば、上記ガラスからなる光学ガラス前駆体を化学強化する場合は、混合溶融塩中でのNa
+が光学ガラス前駆体中のLiとイオン交換されることにより主たる強化が発現されるための成分であり、必須である。混合溶融塩における硝酸ナトリウムの含有量は28%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。Liを含有しない光学ガラス前駆体の化学強化を行う場合は、多く入りすぎていると、圧縮応力が十分にならない。そのため、30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0102】
(3)硝酸カリウム
硝酸カリウムは、混合溶融塩中でのK
+がガラス中のLiやNaとイオン交換される速度が前記LiとNaのイオン交換に比べ遅いため、主たる強化イオンではないが、凝固点降下により、混合溶融塩の融点を下げ、かつ硝酸リチウムのように、含有量を多くしすぎると強化されにくくなるということがないため必須である。混合溶融塩における硝酸カリウムの含有量は10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。Liが含有されている光学ガラス前駆体を化学強化する場合は、90%以下、もしくは80%以下が好ましい。
【0103】
光学ガラス前駆体の化学強化処理に用いる混合溶融塩は本質的に上記成分からなるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、たとえば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび硫酸バリウム等のアルカリ硫酸塩、アルカリ塩化塩、アルカリ土類硫酸塩、並びにアルカリ土類塩化塩などが挙げられる。
【0104】
これらのその他の成分の混合溶融塩における含有量は合量で5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。当該範囲内であれば、その他の成分は、溶融混合塩の溶解中における揮散を防ぐ効果がある。また、5%超では化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる。
【0105】
光学ガラス前駆体の化学強化処理に用いる混合溶融塩の融点は300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。混合溶融塩の融点が300℃より大きいと、化学強化処理後に得られた光学ガラスを引き上げる際、付着した溶融塩が凝固して光学ガラスの表面に応力を発生させ、後述するガラスの平坦度、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)を大きくするおそれがある。また、強化の温度が高いと強化中にガラスが変形するリスクも高くなる。
【0106】
(化学強化処理の条件)
化学強化処理は、光学ガラス前駆体を混合溶融塩に浸漬し、該光学ガラス前駆体の表層部に圧縮応力を付与して光学ガラスとする処理である。化学強化処理の処理条件は、得られる光学ガラスにおいて強化層の厚みが1μm以上となる条件であれば特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択することができる。
【0107】
(1)混合溶融塩の加熱温度および浸漬時間
混合溶融塩の加熱温度および光学ガラス前駆体を混合溶融塩に浸漬する時間は、長くなると光学ガラス前駆体が熱による粘弾性変形をしやすくなるため、短い方が好ましい。LiとNaが主たる交換種である場合は、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下、よりさらに好ましくは30分以下がよい。NaとKを交換する場合は、10時間以下、より好ましくは8時間以下、さらに好ましくは6時間以下、よりさらに好ましくは4時間以下である。
【0108】
また、混合溶融塩の加熱温度の上限は、光学ガラス前駆体を構成するガラスの(Tg−100)℃未満であることが好ましい。(Tg−100)℃よりも高いと、応力緩和により、イオン交換は生じても光学ガラス前駆体に十分な強化が入らずに、本発明の光学ガラスが得られないおそれがある。
【0109】
(2)光学ガラス前駆体の予熱温度
光学ガラス前駆体を混合溶融塩に浸漬する前に、光学ガラス前駆体の温度が混合溶融塩の融点以上の温度となるように、光学ガラス前駆体を予熱しておくことが好ましい。これは、混合溶融塩に浸漬する際の光学ガラス前駆体の表面における溶融塩の凝固を防ぎ、イオン交換速度の低下や、圧縮応力が付与された表層部のガラス面内分布が不均一になることを抑制するためである。
【0110】
光学ガラス前駆体の予熱温度は400℃未満であることが好ましく、350℃以下がより好ましい。予熱温度が400℃以上では、予熱時に受ける残留応力の影響や、光学ガラス前駆体を載置するサンプルホルダーとの接触箇所などにおけるガラス面内温度の不均一により、光学ガラス前駆体の形状が変化してしまうおそれがある。
【0111】
(3)光学ガラスの冷却
光学ガラス前駆体を例えば混合溶融塩に浸漬することで、光学ガラス前駆体に圧縮応力が付与された強化層が形成された本発明の光学ガラスが得られる。光学ガラスは通常、混合溶融塩から引き上げられ徐冷される。
【0112】
なお、上記において徐冷のかわりに、混合溶融塩から引き上げた光学ガラスを30秒から2分待機させて、光学ガラスの温度が300℃以下になった後に、光学ガラスを冷媒に接触させて急冷することが好ましい。光学ガラスの冷却速度は、100℃/分以上が好ましい。また、4000℃/分以下が好ましく、3000℃/分以下がより好ましい。
【0113】
光学ガラスの冷却速度が100℃/分未満であると、冷却過程においても光学ガラス上に付着した溶融塩によって、その接触箇所のみイオン交換が進行し、圧縮応力が付与された強化層のガラス面内分布が不均一になるため、得られる光学ガラスの平坦度、算術平均うねり(Wa)が大きくなるおそれがある。
【0114】
また、光学ガラスの冷却速度が4000℃/分超であると算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が大きくなるおそれがある。また、待機を経ずに冷媒と接触させて急冷するとヒートショックにより光学ガラスが割れる可能性がある。さらに、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が大きくなるおそれがある。
【0115】
上記化学強化処理方法においては、化学強化処理工程後に、光学ガラスを再研磨しないことが好ましい。上記化学強化処理方法によれば、化学強化処理工程後に光学ガラスを再研磨しなくても、光学ガラスの形状が十分に安定しているためである。
【0116】
このようにして作製される光学ガラスは、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、車載用カメラに用いられる撮像レンズ等、過酷な環境に曝される用途に好適に用いられる。
【0117】
以上説明した本発明の光学ガラスは、過酷な環境に曝される車載用カメラに用いられる撮像レンズ等に好適な、高屈折率かつ高強度な光学ガラスである。本発明によれば、さらには、耐クラック性に優れ、成形性の良好な光学ガラスを得ることができる。
【実施例】
【0118】
表1〜6に示す化学組成(酸化物換算の質量%)となるように原料を秤量した。原料は、いずれも、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、水酸化物、メタリン酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定して使用した。
【0119】
秤量した原料を均一に混合し、内容積約300mLの白金坩堝内に入れて、約1400℃で約2時間溶融、清澄、撹拌後、1400℃で0.5時間保持し、およそ650℃に予熱した縦50mm×横100mmの長方形のモールドに鋳込み後、約0.5℃/分で徐冷して縦50mm×横100mm×厚み15mmのガラスを得た。
【0120】
上記で得られたガラスを約20mm×20mm×2mm(厚み)の大きさに板材に加工し、20mm×20mmの面を、CeO
2を用いて鏡面研磨を行い光学ガラス前駆体とした。次に以下の化学強化処理を行った。すなわち、Na対Kの質量比が1:0の硝酸塩(以下、「条件1」と示す。)、1:1の硝酸塩(以下、「条件2」と示す。)、3:1の硝酸塩(以下、「条件3」と示す。)を400℃に加熱し溶融した融液に、光学ガラス前駆体をそれぞれ30分浸漬し、化学強化処理を行って光学ガラスを得た。また、KNO
3溶融塩(以下、「条件4」と示す。)においても425℃の溶融塩中で光学ガラス前駆体を3時間の化学強化処理を行って光学ガラスを得た。得られた光学ガラスのサイズは、20mm×20mm×2mm(厚み)であった。
【0121】
[評価]
上記の光学ガラス前駆体を構成するガラスについて以下の方法で、ガラス転移点(Tg)、屈折率(nd)、比重、ヤング率(E)、失透温度、耐水性(RW)、耐酸性(RA)および波長360nmの光の透過率(T
360)を測定した。
また、上記光学ガラス前駆体を化学強化処理して得られた光学ガラスについて、クラックイニシエーションロード(CIL)、DOLおよびスクラッチ耐性を次のように測定した。
【0122】
Tg:直径5mm、長さ20mmの円柱状に加工したサンプルについて、熱機械分析装置(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TMA4000SA)で熱膨張法により5℃/分の昇温速度で測定した。
nd:サンプルのガラスを一辺が30mm、厚さが10mmの三角形状プリズムに加工し、屈折率計(Kalnew社製、機器名:KPR−2000)により測定した。
比重:サンプルの質量と、圧力101.325kPa(標準気圧)のもとにおける、それと同体積の4℃の純水の質量との比をSGとして表示し、JIS Z8807(1976、液中で秤量する測定方法)に準じて測定した。
【0123】
E:20mm×20mm×10mmのブロック状のサンプルについて、超音波精密板厚計(OLYMPAS社製、MODEL 38DL PLUS)を用いて測定を行った(単位:GPa)。
【0124】
失透温度:白金皿にサンプル約5gを入れ、それぞれ1000℃〜1400℃まで10℃刻みにて1時間保持したものを自然放冷により冷却した後、結晶析出の有無を顕微鏡により観察して、長辺または長径で1μm以上の結晶の認められない最高温度を失透温度とした。
【0125】
RW:JOGIS06−2008光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)に準拠して測定した。具体的には、光学ガラス前駆体をアルミナの乳鉢と乳棒により直径が420〜600μmのガラス粉末としたものについて、100℃の純水80mL中に1時間浸漬した時の質量減少割合(%)を測定した。質量減少割合が0.05(%)未満では等級1、0.05以上0.10(%)未満では等級2、0.10以上0.25(%)未満では等級3、0.25以上0.60(%)未満では等級4、0.60以上1.10(%)未満では等級5、1.10(%)以上では等級6とした。
【0126】
RA:JOGIS06−2008光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)に準拠して測定した。具体的には、光学ガラス前駆体をアルミナの乳鉢と乳棒により直径が420〜600μmのガラス粉末としたものについて、100℃の0.01規定の硝酸水溶液80mL中に1時間浸漬した時の質量減少割合(%)を測定した。質量減少割合が0.20(%)未満では等級1、0.20以上0.35(%)未満では等級2、0.35以上0.65(%)未満では等級3、0.65以上1.20(%)未満では等級4、1.20以上2.20(%)未満では等級5、2.20(%)以上では等級6とした。
【0127】
CIL:上述した方法で測定した。
DOL:光学ガラスにおける強化層の厚みであるDOL(μm)は、条件4にて化学強化を行い得られた光学ガラスについては表面応力計FSM−6000(折原製作所社製)を用いて測定した。また、条件1〜3で化学強化し得られた光学ガラスに関しては、幅方向に500μmの長さで切りだした測定サンプルについて、板厚の断面方向のリタデーションを用いて応力プロファイルをフォトニックラティス社製WPA−microを用いてDOL(μm)を測定した。
【0128】
スクラッチ耐性:上述した方法で測定した。
T
360:10mm×30mm×厚さ1mmのガラス板(強化層なし)について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 U−4100)にて波長360nmにおける光の透過率の測定を行った。
【0129】
結果をガラスの組成とあわせて表1〜6に示す。表1〜6において、例1〜48、53〜55は実施例、例49〜52は比較例である。表中の()内の数値は計算値を示し、空欄は未測定を意味する。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
上記各実施例の光学ガラスは、いずれも、屈折率(nd)が1.73以上と高屈折率である。また、例1〜46、53〜55の光学ガラスはスクラッチ耐性が200gf以上の高い強度を有する。そのため、過酷な環境に曝される車載用カメラに用いられる撮像レンズ等に好適である。また、本発明の光学ガラスは強度を保ちながらデバイスやレンズの広角化、高輝度化、高コンストラスト化、導光特性向上、または回折格子の高さを低く設計し加工を容易にすることができるため、アクションカメラ、ウェアラブルデバイス、導光板、プロジェクター付メガネ、ホログラム付導光板、ホログラム付ガラス、導波路リフレクターアレイプロジェクター、回折格子付ガラス、仮想現実拡張現実表示装置、HMDデバイス、ゴーグル型ディスプレイ、メガネ型ディスプレイ、虚像表示装置などへの使用にも適している。