特許第6879303号(P6879303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6879303異なる二種類の構造単位を有する芳香族ポリケトン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879303
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】異なる二種類の構造単位を有する芳香族ポリケトン
(51)【国際特許分類】
   C08G 67/00 20060101AFI20210524BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20210524BHJP
   C09D 173/00 20060101ALI20210524BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20210524BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C08G67/00
   C08L73/00
   C09D173/00
   G02B5/30
   G02F1/1335
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-522419(P2018-522419)
(86)(22)【出願日】2017年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2017019807
(87)【国際公開番号】WO2017212952
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2020年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-116086(P2016-116086)
(32)【優先日】2016年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】有馬 菜々子
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恵子
(72)【発明者】
【氏名】前山 勝也
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−053194(JP,A)
【文献】 特開2000−290365(JP,A)
【文献】 特開昭57−080339(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/125660(WO,A1)
【文献】 特開2017−132917(JP,A)
【文献】 TAKEUCHI, Daisuke et al.,Synthesis of Polyketones Containing Substituted Six-Membered Rings via Pd-Catalyzed Copolymerization,Macromolecules,2015年 8月28日,pp.6745-6749,Volume 48, Issue 18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00− 67/04
C08G 61/00− 61/12
C08L 73/00
C09D 173/00
G02B 5/30
G02F 1/1335
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I−1)で表される構造単位と、下記一般式(I−2)で表される構造単位とを含む、重合体。
【化1】


〔一般式(I−1)中、Xは芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基を示し、Yは脂環と、Yに隣り合うカルボニル基に含まれる炭素原子と前記脂環とを連結する炭素数1〜10のアルキレン基と、を含む炭素数5〜50の2価の基を示し、mは3〜1000の整数を示す。〕
【化2】


〔一般式(I−2)中、X’は芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基を示し、Y’はY’に隣りあうカルボニル基に含まれる炭素原子と直接結合する脂環を含む炭素数3〜50の2価の基を示し、nは3〜1000の整数を示す。〕
【請求項2】
前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、X及びX’の炭素数はそれぞれ独立に12〜50である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、X及びX’は、それぞれ独立に下記一般式(II−1)、下記一般式(II−2)及び下記一般式(II−3)からなる群より選択される少なくとも一種で示される基である、請求項1又は請求項2に記載の重合体。
【化3】


〔一般式(II−1)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。〕
【化4】


〔一般式(II−2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Zは酸素原子又は下記一般式(III’−1)〜(III’−7)で示される2価の基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。〕
【化5】


〔一般式(III’−1)〜(III’−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を示し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を示す。〕
【化6】


〔一般式(II−3)中、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。nはそれぞれ独立に、0〜4の整数を示す。〕
【請求項4】
前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、Y及びY’の炭素数はそれぞれ独立に6〜50である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項5】
前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、Y及びY’に含まれる脂環の構造は、それぞれ独立にシクロヘキサン骨格、デカヒドロナフタレン骨格、アダマンタン骨格、ノルボルナン骨格及びビシクロ[2.2.2]オクタン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項6】
前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、Y及びY’は、それぞれ独立に下記一般式(III−1)〜(III−5)からなる群より選択される少なくとも1種の脂環を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の重合体。
【化7】
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の重合体を含む、組成物。
【請求項8】
さらに溶剤を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の重合体を含む、膜。
【請求項10】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられる請求項9に記載の膜と、を有する膜付基材。
【請求項11】
請求項9に記載の膜又は請求項10に記載の膜付基材を有する、光学素子。
【請求項12】
請求項9に記載の膜又は請求項10に記載の膜付基材を有する、画像表示装置。
【請求項13】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の重合体を含む、被覆材料。
【請求項14】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の重合体を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる二種類の構造単位を有する芳香族ポリケトンに関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖に芳香環とカルボニル基を有する重合体(芳香族ポリケトン)は、優れた耐熱性と機械特性を有しており、エンジニアリングプラスチックとして利用されている(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照)。なかでも主鎖に脂環構造を有する脂環式のポリケトンは、耐熱性に優れると共に透明性にも優れ、光学部品への適用が期待されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
樹脂材料を光学部品に応用する場合には、無機材料では得られない特性を発揮できることが望ましく、そのような特性としては、例えば、軽量性及び柔軟性が挙げられる。軽量性を活かした適用例としては、ポータブルデバイスのガラス代替材及びコート材が挙げられ、柔軟さを活かした適用例としては、フレキシブルディスプレイ等が挙げられる。なかでも、フレキシブルディスプレイへの樹脂材料の適用は、近年特に注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−7730号公報
【特許文献2】特開2005−272728号公報
【特許文献3】特開2013−53194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献に記載されている芳香族ポリケトンから形成される膜は、透明性と耐熱性に優れる一方、柔軟性に改善の余地がある。従って、優れた透明性と耐熱性を維持しつつ、良好な柔軟性を有する芳香族ポリケトンの開発が望まれている。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みなされたものであり、透明性、耐熱性及び柔軟性に優れる重合体、並びにこれを用いる組成物、膜、膜付基材、光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>下記一般式(I−1)で表される構造単位と、下記一般式(I−2)で表される構造単位とを含む、重合体。
【0008】
【化1】
【0009】
〔一般式(I−1)中、Xは芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基を示し、Yは脂環と、Yに隣り合うカルボニル基に含まれる炭素原子と前記脂環とを連結する炭素数1〜10のアルキレン基と、を含む炭素数5〜50の2価の基を示し、mは3〜1000の整数を示す。〕
【0010】
【化2】
【0011】
〔一般式(I−2)中、X’は芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基を示し、Y’はY’に隣りあうカルボニル基に含まれる炭素原子と直接結合する脂環を含む炭素数3〜50の2価の基を示し、nは3〜1000の整数を示す。〕
<2>前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、X及びX’の炭素数はそれぞれ独立に12〜50である、<1>に記載の重合体。
<3>前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、X及びX’は、それぞれ独立に下記一般式(II−1)、下記一般式(II−2)及び下記一般式(II−3)からなる群より選択される少なくとも一種で示される基である、<1>又は<2>に記載の重合体。
【0012】
【化3】
【0013】
〔一般式(II−1)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。〕
【0014】
【化4】
【0015】
〔一般式(II−2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Zは酸素原子又は下記一般式(III’−1)〜(III’−7)で示される2価の基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。〕
【0016】
【化5】
【0017】
〔一般式(III’−1)〜(III’−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を示し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を示す。〕
【0018】
【化6】
【0019】
〔一般式(II−3)中、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。nはそれぞれ独立に、0〜4の整数を示す。〕
<4>前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、Y及びY’の炭素数はそれぞれ独立に6〜50である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の重合体。
<5>前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、Y及びY’に含まれる脂環の構造は、それぞれ独立にシクロヘキサン骨格、デカヒドロナフタレン骨格、アダマンタン骨格、ノルボルナン骨格及びビシクロ[2.2.2]オクタン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の重合体。
<6>前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、Y及びY’は、それぞれ独立に下記一般式(III−1)〜(III−5)からなる群より選択される少なくとも1種の脂環を含む、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の重合体。
【0020】
【化7】
【0021】
<7><1>〜<6>のいずれか1項に記載の重合体を含む、組成物。
<8>さらに溶剤を含む、<7>に記載の組成物。
<9><1>〜<6>のいずれか1項に記載の重合体を含む、膜。
<10>基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられる<9>に記載の膜と、を有する膜付基材。
<11><9>に記載の膜又は<10>に記載の膜付基材を有する、光学素子。
<12><9>に記載の膜又は<10>に記載の膜付基材を有する、画像表示装置。
<13><1>〜<6>のいずれか1項に記載の重合体を含む、被覆材料。
<14><1>〜<6>のいずれか1項に記載の重合体を含む、成形体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、透明性、耐熱性及び柔軟性に優れる重合体、並びにこれを用いる組成物、膜、膜付基材、光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0024】
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本明細書において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本明細書において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本明細書において「透明性」とは、可視光の透過性、少なくとも波長400nmの可視光の透過性が80%以上(膜厚1μm換算)であることを意味する。
本明細書において「耐熱性」とは、重合体を含む部材において、Tgが少なくとも185℃より高いことを意味する。
【0025】
<重合体>
本実施形態の重合体は、下記一般式(I−1)で表される構造単位と、下記一般式(I−2)で表される構造単位とを含む。
【0026】
【化8】
【0027】
〔一般式(I−1)中、Xは芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基を示し、Yは脂環と、Yに隣り合うカルボニル基に含まれる炭素原子と前記脂環とを連結する炭素数1〜10のアルキレン基と、を含む炭素数5〜50の2価の基を示し、mは3〜1000の整数を示す。複数のXは同一であっても異なっていてもよく、複数のYは同一であっても異なっていてもよい。〕
【0028】
【化9】
【0029】
〔一般式(I−2)中、X’は芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基を示し、Y’はY’に隣りあうカルボニル基に含まれる炭素原子と直接結合する脂環を含む炭素数3〜50の2価の基を示し、nは3〜1000の整数を示す。複数のX’は同一であっても異なっていてもよく、複数のY’は同一であっても異なっていてもよい。〕
【0030】
本実施形態の重合体は上記構造を有することで、透明性、耐熱性及び柔軟性に優れる膜及び成形体を形成することができる。その理由は明らかではないが、分子鎖中に芳香環と脂環を含むことで透明性に優れ、一部の脂環が隣接するカルボニル基中の炭素原子とアルキレン基を介して結合していることで柔軟性に優れ、一部の脂環が隣接するカルボニル中の炭素原子と直接結合していることで耐熱性に優れていると考えられる。
本実施形態の重合体において、一般式(I−1)で表される構造単位中のX及びYと、一般式(I−2)で表される構造単位中のX’及びY’とは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
本実施形態の重合体において、前記一般式(I−1)で表される構造単位と前記一般式(I−2)で表される構造単位の含まれる割合は特に限定されない。耐熱性の観点からは、(I−1)で表される構造単位の数mと(I−2)で表される構造単位の数nの比は、m:n=5:95〜95:5であることが好ましく、耐熱性及び透明性の観点からは、m:n=5:95〜80:20であることがより好ましく、耐熱性及び溶剤への溶解性の観点からは、m:n=5:95〜70:30であることがさらに好ましい。溶剤への溶解性が良好であると、重合体の分子量が大きくても溶剤に充分に溶解し、柔軟性に優れる膜が形成される傾向にある。
【0032】
前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、X及びX’の炭素数は、それぞれ独立に12〜50であることが耐熱性の観点から好ましく、12〜30であることが透明性の観点から好ましい。また、X及びX’はそれぞれ独立に2個以上の芳香環を含むことが好ましく、2個以上のベンゼン環を含むことがより好ましい。
【0033】
耐熱性及び透明性の観点からは、前記一般式(I−1)及び前記一般式(I−2)において、X及びX’は、それぞれ独立に下記一般式(II−1)、下記一般式(II−2)及び下記一般式(II−3)からなる群より選択される少なくとも一種で示される基であることが好ましい。
【0034】
【化10】
【0035】
一般式(II−1)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。また、波線部は結合部位を示し、以降も同様である。
【0036】
耐熱性の観点から、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、反応制御の観点から、置換基を有していてもよい炭素数1〜5の炭化水素基であることがより好ましい。
【0037】
で示される炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、これらの炭化水素基の組み合わせ等が挙げられる。
で示される炭化水素基が置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。なお、Rで示される炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数を含めないものとする。
【0038】
で示される飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、neo−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−イコサニル基、n−トリアコンタニル基等が挙げられる。
【0039】
で示される不飽和脂肪族炭化水素基としては、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
【0040】
で示される脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等のシクロアルキル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。
【0041】
一般式(II−1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、反応制御の観点から、置換基を有していてもよい炭素数1〜5の炭化水素基であることがより好ましい。Rで示される炭化水素基としては、Rで示される炭化水素基として例示したものと同様のものが挙げられる。mは、0〜2の整数であることが好ましい。
【0042】
で示される炭化水素基が置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。なお、Rで示される炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数を含めないものとする。
【0043】
【化11】
【0044】
一般式(II−2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Zは酸素原子又は下記一般式(III’−1)〜(III’−7)で示される2価の基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。一般式(II−2)中のR、R及びmのそれぞれの詳細は、一般式(II−1)中のR、R及びmの詳細と同様である。
【0045】
【化12】
【0046】
一般式(III’−1)〜(III’−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を示し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を示す。
【0047】
一般式(III’−1)におけるR及びRは、耐熱性の観点から、置換基を有していてもよい炭素数1〜5の炭化水素基であることが好ましい。R及びRで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、一般式(II−1)中のRで例示した炭素数1〜30の炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、R及びRが有し得る置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。
【0048】
一般式(III’−2)及び(III’−3)におけるnは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
一般式(III’−4)、(III’−5)及び(III’−7)におけるpは、それぞれ独立に、0〜2の整数を示し、0又は1であることが好ましい。
【0049】
一般式(II−2)中のR、R、及びmのそれぞれの詳細は、一般式(II−1)中のR、R、及びmと同様である。
【0050】
及びRで示される炭化水素基が置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。なお、R及びRで示される炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数を含めないものとする。
【0051】
【化13】
【0052】
一般式(II−3)中、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。nはそれぞれ独立に、0〜4の整数を示す。
【0053】
耐熱性の観点から、Rとしては、置換基を有していてもよい炭素数1〜5の炭化水素基が好ましい。Rで示される炭化水素基としては、一般式(II−1)中のRで示される炭化水素基が挙げられる。nは、0〜2の整数であることが好ましい。
【0054】
で示される炭化水素基が置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。なお、Rで示される炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数を含めないものとする。
【0055】
前記一般式(I−1)において、Yは脂環と、Yに隣り合うカルボニル基に含まれる炭素原子と前記脂環とを連結する炭素数1〜10のアルキレン基と、を含む炭素数5〜50の2価の基を示す。前記一般式(I−2)において、Y’はY’に隣り合うカルボニル基に含まれる炭素原子と直接結合している脂環を含む炭素数3〜50の2価の基を示す。耐熱性の観点から、Y及びY’の炭素数は、それぞれ独立に6〜50であることが好ましい。
【0056】
前記一般式(I−1)において、脂環とYに隣接するカルボニル基に含まれる炭素原子とを連結する炭素数1〜10のアルキレン基は、それぞれ独立にメチレン基又はエチレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。
【0057】
Y及びY’に含まれる脂環の構造としては、シクロプロパン骨格、シクロブタン骨格、シクロペンタン骨格、シクロヘキサン骨格、シクロヘプタン骨格、シクロオクタン骨格、キュバン骨格、ノルボルナン骨格、トリシクロ[5.2.1.0]デカン骨格、アダマンタン骨格、ジアダマンタン骨格、ビシクロ[2.2.2]オクタン骨格、デカヒドロナフタレン骨格等が挙げられる。
【0058】
耐熱性及び透明性の観点から、Y及びY’に含まれる脂環の構造は、シクロヘキサン骨格、デカヒドロナフタレン骨格、アダマンタン骨格、ノルボルナン骨格及びビシクロ[2.2.2]オクタン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0059】
耐熱性の観点から、Y及びY’は、それぞれ独立に下記式(III−1)〜下記式(III−5)からなる群より選択される少なくとも1種の脂環を含む2価の基であることがより好ましい。
【0060】
【化14】
【0061】
式(III−4)で表される脂環を含む2価の基としては、例えば、下記式(III−4−1)、(III−4−2)及び(III−4−3)で表される脂環を含む2価の基が挙げられる。
【0062】
【化15】
【0063】
本実施形態の重合体の分子量は特に制限されず、用途等に応じて選択できる。耐熱性の観点からは、本実施形態の重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましい。
【0064】
溶剤に対する溶解性の観点からは、本実施形態の重合体の重量平均分子量(Mw)は、350000以下であることが好ましく、300000以下であることがより好ましい。
また、数平均分子量(Mn)は、200000以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましい。
【0065】
本実施形態の重合体の分子量(Mw及びMn)は、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、GPC法によって測定し、標準ポリスチレン換算にて求められる値である。
・装置名:Ecosec HLC−8320GPC(東ソー株式会社)
・カラム:TSKgel Supermultipore HZ−M(東ソー株式会社)・検出器:UV検出器とRI検出器を併用
・流速:0.4ml/min
【0066】
(重合体の製造方法)
本実施形態の重合体を製造する方法は、特に制限されない。例えば、芳香環を含む化合物(以下、芳香族モノマとも称する)と、下記一般式(IV−1)で表される化合物(以下、ジカルボン酸モノマAとも称する)と、下記一般式(IV−2)で表される化合物(以下、ジカルボン酸モノマBとも称する)と、を酸性媒体中で反応させる工程(以下、反応工程とも称する)を含む方法により製造してもよい。
【0067】
【化16】
【0068】
【化17】
【0069】
一般式(IV−1)及び一般式(IV−2)において、Y及びY’の詳細は、前記一般式(I−1)及び一般式(I−2)におけるY及びY’の詳細と同様である。
【0070】
耐熱性及び透明性の観点から、芳香族モノマは、下記一般式(V−1)、下記一般式(V−2)及び下記一般式(V−3)からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0071】
【化18】
【0072】
一般式(V−1)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。
【0073】
一般式(V−1)中のR、R及びmの詳細は、一般式(II−1)中のR、R及びmの詳細と同様である。
【0074】
【化19】
【0075】
一般式(V−2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Zは酸素原子又は下記一般式(III’−1)〜(III’−7)で示される2価の基を示す。mはそれぞれ独立に、0〜3の整数を示す。
【0076】
【化20】
【0077】
一般式(III’−1)〜一般式(III’−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を示し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を示す。一般式(III’−1)〜一般式(III’−7)におけるR、R、R、R、m、n、及びpのそれぞれの詳細は、一般式(II−2)における一般式(III’−1)〜一般式(III’−7)におけるR、R、R、R、m、n、及びpとそれぞれ同様である。
【0078】
【化21】
【0079】
一般式(V−3)中、Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を示す。nはそれぞれ独立に、0〜4の整数を示す。
【0080】
一般式(V−3)中のR及びnの詳細は、一般式(II−3)中のR及びnの詳細と同様である。
【0081】
上記方法に用いる酸性媒体は、特に限定されない。本明細書において「酸性媒体」とは、酸性物質(ブレンステッド酸又はルイス酸)を含む媒体を意味し、酸性物質は有機酸であっても無機酸であってもよい。酸性媒体は、反応条件下で液状であることが好ましい。
例えば、塩化アルミニウムの有機溶媒溶液、トリフルオロアルカンスルホン酸の有機溶媒溶液、ポリリン酸、五酸化二リンと有機スルホン酸との混合物等を用いることができる。
反応性と扱いやすさの観点から、酸性媒体には五酸化二リンと有機スルホン酸との混合物を用いることが好ましく、更に、有機スルホン酸としてはメタンスルホン酸が好ましい。
酸性媒体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0082】
酸性媒体として五酸化二リンと有機スルホン酸の混合物を用いる場合、五酸化二リンと有機スルホン酸との混合比は、混合比の制御及び反応性の観点から、質量比(五酸化二リン:有機スルホン酸)が1:5〜1:20であることが好ましく、1:5〜1:10であることがより好ましい。
【0083】
芳香族モノマ、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBの合計量に対する酸性媒体の配合量は、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBを溶解し得る量であれば特に限定されず、触媒量から溶媒量までの範囲で用いることができる。反応性と扱いやすさの観点から、ジカルボン酸モノマAとジカルボン酸モノマBの合計1質量部に対して5質量部〜100質量部の範囲が好ましい。
【0084】
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBとの縮合反応における反応の温度は、反応生成物の着色及び副反応を抑制する観点からは10℃〜100℃であることが好ましく、反応速度を上げて生産性を向上する観点からは20℃〜100℃であることがより好ましい。
【0085】
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBとの縮合反応における反応の雰囲気は特に限定されず、閉鎖系であっても開放系であってもよい。水分の存在による酸性媒体の反応性の低下を抑制する観点からは、乾燥空気又は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気が好ましい。想定外の副反応を防ぐ観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気がより好ましい。
【0086】
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBとを反応させる際は、これらを含む酸性媒体を撹拌することで、反応を促進してもよい。撹拌の方法は特に限定されず、マグネチックスターラ、メカニカルスターラ等を用いる一般的な方法により行うことができる。
【0087】
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBとを反応させる時間は、反応温度、目標とする重合体の分子量、反応に用いるモノマの種類等によって調節できる。分子量が充分に大きい重合体を得る観点からは、反応時間は1時間〜120時間程度であることが好ましく、生産性の観点からは、1時間〜72時間であることがより好ましい。
【0088】
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBとを反応させる際の圧力は特に限定されず、常圧下、加圧下、又は減圧下のいずれで行ってもよい。コストの観点から、常圧下で反応を行うことが好ましい。
【0089】
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマA及びジカルボン酸モノマBとを反応させた後、重合体を取り出す方法は特に制限されない。例えば、反応液(反応生成物を含む酸性触媒)と、反応生成物である重合体の貧溶媒とを接触させて重合体を析出させ、不純物を貧溶媒層に抽出し、析出した重合体を濾過、デカンテーション、遠心分離等の方法で反応液から分離して取り出すことができる。さらにこの後、分離した重合体を再度重合体の良溶媒に溶解させ、再び重合体の貧溶媒と接触させて重合体を析出させ、不純物を貧溶媒層に抽出し、析出した重合体を濾過、デカンテーション、遠心分離等の方法で液体から分離する工程を繰り返してもよい。
【0090】
目的の重合体を濾過、デカンテーション、遠心分離等の方法で液体から分離して得たとき、重合体に溶媒が残存している場合がある。そのため、必要に応じて重合体を乾燥してもよい。乾燥の方法は特に限定されず、真空乾燥、加熱真空乾燥、自然乾燥、熱風乾燥、加熱乾燥、高周波乾燥、除湿式乾燥等の方法で行うことができる。
【0091】
<組成物>
本実施形態の組成物は、本実施形態の重合体を含む。組成物の状態は特に制限されず、組成物の用途等に応じて選択できる。例えば、ワニス、スラリー、混合粉末等が挙げられる。本実施形態の組成物は、本実施形態の重合体に加えてその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、溶媒、添加剤、架橋剤等が挙げられる。
【0092】
添加剤としては、接着助剤、界面活性剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0093】
架橋剤としては、多官能エポキシ化合物、多官能アクリル化合物、多官能オキセタン化合物、複数のヒドロキシ基を有する化合物、複数のヒドロキシメチル基を有する化合物、複数のアルコキシメチル基を有する化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0094】
溶媒としては、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸ベンジル、エトキシエチルプロピオネート、3−メチルメトキシプロピオネート、N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリルアミド、テトラメチレンスルホン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、ジイソプロピルベンゼン、ヘキシルベンゼン、アニソール、ジグライム、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0095】
<膜及び膜付基材>
本実施形態の膜は、本実施形態の重合体を含む。本実施形態の膜は、芳香族モノマと、単一種類の脂環式ジカルボン酸モノマと、を重合して得られる重合体を含む膜よりも柔軟に優れ、かつ耐熱性にも優れている。
【0096】
本実施形態の膜の製造方法は、特に限定されない。例えば、溶媒を含む本実施形態の組成物を基材の表面に付与して組成物層を形成し、必要に応じて乾燥して組成物層から溶媒を除去することで、本実施形態の膜を製造することができる。製造した膜は、基材から分離せずに膜付基材として用いても、基材から分離して用いてもよい。
組成物を基材に付与する方法は特に制限されず、浸漬法、スプレー法、スクリーン印刷法、バーコート法、スピンコート法等が挙げられる。組成物層を乾燥する方法は特に制限されず、ホットプレート、オーブン等を用いて加熱する方法、自然乾燥などが挙げられる。
【0097】
必要に応じて、乾燥した本実施形態の重合体の膜を更に熱処理してもよい。熱処理の方法は特に限定されず、箱型乾燥機、熱風式コンベアー型乾燥機、石英チューブ炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール、縦型拡散炉、赤外線硬化炉、電子線硬化炉、マイクロ波硬化炉等のオーブンを用いて行なうことができる。また、熱処理工程における雰囲気条件としては、大気中又は窒素等の不活性雰囲気中のいずれを選択することもできる。
【0098】
本実施形態の膜付基材は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられる本実施形態の膜と、を有する。本実施形態の膜付基材は、基材の一方の面に膜を有していても、両面に膜を有していてもよい。また、基材上に形成される膜は、一層でも、二層以上が積層された複数層構造であってもよい。
【0099】
基材の種類は、特に制限されない。例えば、ガラス基板、半導体基板、金属酸化物絶縁体基板(例えば、酸化チタン基板及び酸化ケイ素基板)、窒化ケイ素基板等の無機基板、及びトリアセチルセルロース、ポリイミド、ポリカルボナート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン樹脂等の樹脂基板が挙げられる。基材は透明であっても、透明でなくてもよい。基材の形状は特に限定されず、板状、フィルム状等が挙げられる。
【0100】
<光学素子及び画像表示装置>
本実施形態の光学素子及び画像表示装置は、それぞれ、本実施形態の膜又は膜付基材を有する。
【0101】
光学素子及び画像表示装置は、例えば、本実施形態の膜が形成された基材の基材側を、粘着剤、接着剤等を介してLCD(液晶ディスプレイ)、ELD(エレクトロルミネッセンスディスプレイ)等に用いられている部材に貼り合せることにより、得ることができる。
【0102】
本実施形態の光学素子は、偏光板等として、液晶表示装置等の各種画像表示装置に好ましく用いることができる。画像表示装置は、本実施形態の膜を用いる以外は、従来の画像表示装置と同様の構成であってよい。画像表示装置が液晶表示装置である場合は、液晶セル、偏光板等の光学素子、及び必要に応じ照明システム(バックライト等)等の各構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むことなどにより製造できる。液晶セルのタイプは特に制限されず、TN型、STN型、π型等を使用できる。
【0103】
画像表示装置の用途は、特に制限されない。例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター等の介護機器、医療用モニター等の医療機器などが挙げられる。
【0104】
<被覆材料>
本実施形態の被覆材料は、本実施形態の重合体を含む。被覆材料で被覆される対象は特に制限されず、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、各種ディスプレイ、窓ガラス、車載ガラス、カメラレンズなどが挙げられる。被覆材料を用いて被覆を形成する方法は特に制限されず、例えば、膜状の被覆材料をラミネート等の方法で被覆対象に接着することで被覆を形成してもよく、液状の被覆材料を被覆対象に塗布してから乾燥させて被覆を形成してもよい。
【0105】
<成形体>
本実施形態の成形体は、本実施形態の重合体を含む。成形体の製造方法は特に制限されず、当該技術分野で既知の方法を用いることができる。例えば、押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、FRP(Fiber Reinforced Plastic)成形法、積層成形法、注型法、粉末成形法、溶液流延法、真空成形法、圧空成形法、押出複合成形法、延伸成形法、発泡成形法などが挙げられる。
【0106】
本実施体の成形品は、必要に応じて所望の機能の付与、特性の改善、成形性の向上等のために、種々の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、摺動剤(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子等)、蛍光染料、無機系蛍光体(アルミン酸塩を母結晶とする蛍光体等)、帯電防止剤、結晶核剤、無機及び有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子等)、架橋剤、硬化剤、反応促進剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、フォトクロミック剤などが挙げられる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
(1)重合体の合成
表1及び表2に示すモノマを表1及び表2に示す量(mmol)でフラスコに入れ、五酸化二リンとメタンスルホン酸の混合液(質量比1:10)を30ml加え、窒素風船をつけて60℃で15時間撹拌した。反応後、反応液をメタノール500ml中に投じ、生成した析出物を濾取した。得られた固体を蒸留水とメタノールで洗浄した後、乾燥し、重合体(芳香族ポリケトン)を得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、GPC法によって測定し、標準ポリスチレン換算にて求めた。詳細は次のとおりである。
・装置名:Ecosec HLC−8320GPC(東ソー株式会社)
・カラム:TSKgel Supermultipore HZ−M(東ソー株式会社)・検出器:UV検出器とRI検出器を併用
・流速:0.4ml/min
【0109】
(2)透明性の評価
得られた重合体を、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)に濃度が20質量%となるように溶解し、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルター(孔径5μm)で濾過して、重合体の組成物(ワニス)を得た。このワニスを、バーコート法によりガラス基板の上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、膜付ガラス基板を作製した。この膜付ガラス基板を、窒素置換したイナートガスオーブンにて200℃で1時間熱処理した後、波長400nmにおける透過率を、紫外可視分光光度計(「U−3310 Spectrophotometer」日立ハイテク株式会社)を用いた紫外可視吸収スペクトル法によって測定した。膜の付いていないガラス基板をリファレンスとして、膜厚1μmに換算した透過率(%)を表1及び表2に示す。膜厚は、触針式段差計(「Dektak3 ST」、アルバック株式会社(Veeco))を用いて3点測定した値の算術平均値とした。
【0110】
(3)耐熱性の評価
透明性の評価に用いたものと同じワニスを、バーコート法によりポリイミド(カプトン)フィルムの上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、重合体の膜付ポリイミド基材を作製した。ポリイミド基材から膜を剥がし、窒素置換したイナートガスオーブンで、200℃で1時間熱処理した。その後、膜のガラス転移点を、動的粘弾性測定装置(「RSA−II」Rheometrics社)を用いた動的粘弾性測定法(引張りモード)によって測定した。得られたガラス転移点の値(℃)を表1及び表2に示す。表1及び表2において「×」は、膜が脆く動的粘弾性測定装置での測定が不可能であったことを示す。
【0111】
(4)柔軟性(耐屈曲性)の評価
耐熱性の評価のために作製したものと同じ膜付ポリイミド基材を用いて、マンドレル試験(円筒形マンドレル法)により柔軟性を評価した。試験は、JIS K5600−5−1:1999に従って行った。マンドレルの直径は25mmから3mmまで変化させ、クラックの発生の有無を目視で確認した。クラックが発生しないときのマンドレルの直径の最小値(mm)を表1及び表2に示す。マンドレルの直径の最小値が小さいほど、柔軟性に優れていると評価できる。
【0112】
実施例及び比較例で重合体の合成に使用したモノマの詳細は、下記のとおりである。
・芳香族モノマ
2,2’−ジメトキシビフェニル
・ジカルボン酸モノマA
1,3−アダマンタン二酢酸
・ジカルボン酸モノマB−1
cis−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
・ジカルボン酸モノマB−2
trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
・ジカルボン酸モノマB−3
cis−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の混合物(質量比でcis:trans=7:3)
・ジカルボン酸モノマB−4
デカリン−2,6−ジカルボン酸
・ジカルボン酸モノマB−5
1,3−アダマンタンジカルボン酸
・ジカルボン酸モノマB−6
2,5−ノルボルナンジカルボン酸と2,6−ノルボルナンジカルボン酸の混合物
・ジカルボン酸モノマB−7
trans−2,3−ノルボルナンジカルボン酸
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
表1及び表2に示すように、芳香族モノマと、2種のジカルボン酸モノマとを用いて合成した実施例の重合体から作製した膜は、いずれも良好な透明性を有していた。また、実施例の重合体から作製した膜は、芳香族モノマと、1種のジカルボン酸モノマを用いて合成した比較例の重合体から作製した膜に比べて柔軟性に優れていた。
芳香族モノマと、ジカルボン酸モノマとして1,3−アダマンタンジカルボン酸を用いて合成した参考例の重合体から作製した膜は、実施例と同等の柔軟性を有していたが、ガラス転移温度が実施例よりも低く、耐熱性に劣っていた。
【0116】
以上の結果より、本実施形態の重合体は、透明性、耐熱性及び柔軟性に優れていることがわかる。
日本国特許出願第2016−116086号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。