(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、ボンド磁石は、磁石粉末、有機樹脂等のバインダ成分、及び強化剤、可塑剤、滑剤等の添加剤等から成る複合ペレットを、射出成形、圧縮成形又は押出成形することにより製造される。特に、ポリアミド樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダとし、さらに射出成形法を用いて製造される磁石は、寸法精度が高い、後加工が必要ない、複雑な形状が簡単に得られる、金属や樹脂等との一体成形により接着の必要がない、など焼結磁石にはない多くの利点があり、エアコン室外機ファンモータなどの動力用や車載バルブの回転角度検出センサなどのセンサ用など幅広い用途で使われている。近年は、車両の軽量化や電動化に伴いモータ、センサの車両搭載数は年々増加傾向にあり、磁力が強い希土類ボンド磁石の使用も増えている。
【0003】
ボンド磁石には、粒子内で磁化方向がランダムな方向の等方性磁石粉を用いた等方性ボンド磁石と、粒子内で磁化方向が揃った異方性磁石粉を用いた異方性ボンド磁石がある。 等方性ボンド磁石は、形状作成時に磁化方向を揃える必要がなく容易に形状を成形でき、表面磁束密度等の所望の磁束密度波形は形状や着磁ヨークの工夫で得られる。しかし、等方性ボンド磁石は異方性ボンド磁石に比べて磁力が低く、モータでは小型化、高トルク化、高効率化など、センサでは小型化、広ギャップ化、高精度化等の阻害要因となっていた。
前記阻害要因を解決する手段として、等方性ボンド磁石よりも磁力の強い異方性ボンド磁石の使用が検討される。しかし、異方性ボンド磁石は、形状成形時に磁化方向を揃える必要がある。
【0004】
異方性ボンド磁石の磁化方向を揃えるには、形状成形時に磁場を加える必要があり、特に希土類異方性ボンド磁石では強い配向磁場が要求される。強い配向磁場を実現する手段としては例えば特許文献1〜3に記載のものが既に知られている。
特許文献1には、成形する磁石の1極に対して磁化方向が対称の一対、すなわち2個の永久磁石からなる配向用磁石を環状に配置したプラスチック極配向磁石の成形用金型が開示されている。
特許文献2には、成形する希土類異方性ボンド磁石の1極に対して2個の配向用磁石とこれらの配向用磁石間に1個の磁性材からなる配向ヨークとを環状に配置した異方性ボンド磁石の成形用金型が開示されている。
特許文献3には、成形すべき極異方性円筒状磁石の材料を含むコンパウンドが充填される円筒状キャビティと、円筒状キャビティの内周側又は外周側に設けられ、磁石材料を磁気的に配向させる配向用磁界発生部と、円筒状キャビティの外周側又は内周側に設けられ、円筒状キャビティ内の磁束を調整する強磁性体より成る円筒状補助ヨークと、円筒状補助ヨークの円筒状キャビティ側の内周面又は外周面に設けられ、円筒状キャビティ内の磁束を調整する非磁性材料より成るスペーサと、を備えるモータ用極異方性円筒状磁石成形用金型が開示されている。
【0005】
この種の成形用金型では、成形すべき異方性ボンド磁石に対して強い配向磁場を与えることとその配向方向を制御することが要求される。
特に、センサでは更なる小型・高精度化に加えて、信頼性、耐久性を向上するために磁石とセンサの間に少々の異物があっても動作するように広ギャップ化が要求されている。
近年のセンサには、信号処理用のICがセンサ信号の直線性補正、温度補完などを行いセンサ素子に要求される特性が緩和されているものもある。しかし、これらは高価なICを用いるために一部用途に限られている。
安価にセンサの精度を上げるには、一般的に、入力に対する出力の関係を直線にすればよい。磁気センサでは、検出磁場に対する電気出力を直線にすることを指す。このためには、信号源となる磁石の表面磁束密度が、回転変位や直線変位に対して直線であればよく、すなわち、三角波に近づけることが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載の成形用金型にあっては、強い配向磁場とその配向方向を緻密に制御することは難しい。
特許文献1は成形する磁石の1極に対して2個の配向用磁石を使用し、当該配向用磁石の磁化の方向が互いに向かい合う方向に傾くように設定することで極配向の理想的な磁束密度波形を得ることが示されている。
成形するボンド磁石の磁石粉がフェライト磁石粉の場合は、飽和磁化が0.2T程度と低く、金型内でボンド磁石の形状を形成する空間(キャビティ)に溶融したボンド磁石材料が充填されていてもキャビティの磁束密度分布は充填前と大差はない。
一方、成形するボンド磁石の磁石粉が希土類磁石粉の場合、飽和磁化は異方性Sm−Fe−N微粉末が0.7T以上、異方性Nd−Fe−B微粉末が0.8T以上と高い。飽和磁化が高いとキャビティ内のボンド磁石材料に磁束が集中するためキャビティの磁束密度分布はボンド磁石材料を充填する前と異なってくる。したがって、特許文献1に記載の配向構成では、成形する異方性ボンド磁石に対し理想的な三角波状の磁束密度波形を得ることができない場合が生じる懸念がある。
【0008】
特許文献2は成形する磁石の1極に対して2個の対向する配向用磁石と、当該配向用磁石の間に磁性材(配向ヨーク)を配置した希土類異方性ボンド磁石の成形用金型が示されている。特許文献2の配向構成は、配向磁場を強くするためには有効である。しかし、特許文献2の
図5Cと
図6Cではキャビティの両端部で磁束の方向が異なり、キャビティ内の磁化の配向方向を制御できているとは言えない。
【0009】
これに対し、特許文献3に記載の成形用金型の配向構成は、強い配向磁場と配向を制御する上では有用で、特に磁力の強いNd−Fe−B系ボンド磁石材料やSm−Fe−N系ボンド磁石材料においては優れた配向構成である。前記Nd−Fe−B系ボンド磁石材料やSm−Fe−N系ボンド磁石材料はフェライト系材料に比べて高価で比重が大きいことから、できるだけ使用量を減らし重量とコストを削減する要求が高く、例えば環状磁石では薄肉化が求められる。磁石が薄肉になると、より磁化配向の制御が難しくなり、特許文献3の構成でも、成形する異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形として三角波状の要求波形を実現することが困難な場合が生じている。
【0010】
本発明が解決しようとする技術的課題は、異方性ボンド磁石に対して強い配向磁場で表面磁束密度波形を所望の三角波状に調整可能な成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記技術的課題を解決すべく更に鋭意研究し、試行錯誤の結果、以下に示す構成にて強い配向磁場とその配向方向を制御するための磁化配向用を備えた成形用金型構成を見出し、高い磁化配向度と磁化方向が制御された異方性ボンド磁石の成形を実現した。
すなわち、本発明の第1の技術的特徴は、成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物が充填可能な空洞部を区画する金型枠材と、前記空洞部に充填された組成物に面した部位に設けられ、成形すべき
異方性ボンド磁石の複数の各磁極に対向して配置され、前記空洞部内の組成物の磁石材料を磁気的に配向させる配向用磁石と、を備え、前記配向用磁石は、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極中心に対向して配置される強磁性材からなる配向磁性体と、前記配向磁性体を挟んで対称的に配置される対構成の永久磁石と、を含み、前記対構成の永久磁石は、
前記各磁極中心を通る垂線からなる基準線に対して非直交状態の異なる磁場の配向方向を有し、前記各磁極の表面磁束密度波形が三角波に近似する波形になるように、前記配向磁性体を経由して
前記各磁極に作用する配向磁場を形成することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
【0012】
本発明の第2の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記各磁極の表面磁束密度波形としての三角波に近似する波形は、隣接するN極とS極との間の表面磁束密度の変化領域のうち予め決められたゼロクロス点を含む前後領域が正弦波曲線よりも直線に近い直線性を有することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第3の技術的特徴は、第1又は第2の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記対構成の永久磁石は、その磁場の配向方向を、成形すべき異方性ボンド磁石表面の
前記各磁極中心を通る垂線からなる基準線に対して対称的に設定したことを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第4の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記空洞部内の組成物と前記配向用磁石とを仕切る仕切り部材を備えることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第5の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記金型枠材は円環状又は円弧状空洞部を区画し、当該円環状空洞部の外周側又は内周側に前記配向用磁石を設置することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第6の技術的特徴は、第1又は第2の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべきボンド磁石は、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と樹脂との混合物からなるボンド磁石であることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第7の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべきボンド磁石は、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と熱可塑性樹脂との混合物からなり、射出成形若しくは押出成形にて成形されることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第8の技術的特徴は、第5の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石は、隣接する磁極の着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域
±90度を100%にした場合に±10%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を前記角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算したところ、表面磁束密度波形が±0.5%F.S.以下の直線性を有する三角波状であり、前記対構成の永久磁石の磁化方向は、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の中心と前記各磁極中心とを結ぶ基準線に対して±90度の角度範囲内で交差し、前記配向磁性体がN極に磁化される場合には前記配向磁性体に向かう周方向成分と、前記配向磁性体の前記磁極に面する側と反対側に向かう径方向成分
とを有する一方、前記配向磁性体がS極に磁化される場合には前記配向磁性体から離れる側に向かう周方向成分と、前記配向磁性体の前記磁極に面する側に向かう径方向成分とを有することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第9の技術的特徴は、第5の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石は、隣接する磁極の着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域
±90度を100%にした場合に±30%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を前記角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算したところ、表面磁束密度波形が±3.0%F.S.以下の直線性を有する三角波状であり、前記対構成の永久磁石の磁化方向は、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の中心と前記各磁極中心とを結ぶ基準線に対して±90度の角度範囲内で交差し、前記配向磁性体がN極に磁化される場合には前記配向磁性体に向かう周方向成分と、前記配向磁性体の前記磁極に面する側と反対側に向かう径方向成分
とを有する一方、前記配向磁性体がS極に磁化される場合には前記配向磁性体から離れる側に向かう周方向成分と、前記配向磁性体の前記磁極に面する側に向かう径方向成分
とを有することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第10の技術的特徴は、第5の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石は、隣接する磁極の着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域
±90度を100%にした場合に±50%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を前記角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算したところ、表面磁束密度波形が±5.0%F.S.以下の直線性を有する三角波状であり、前記対構成の永久磁石の磁化方向は、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の中心と前記各磁極中心とを結ぶ基準線に対して±90度の角度範囲内で交差し、前記配向磁性体がN極に磁化される場合には前記配向磁性体に向かう周方向成分と、前記配向磁性体の前記磁極に面する側と反対側に向かう径方向成分
とを有する一方、前記配向磁性体がS極に磁化される場合には前記配向磁性体から離れる側に向かう周方向成分と、前記配向磁性体の前記磁極に面する側に向かう径方向成分
とを有することを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
本発明の第11の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型において、前記配向用磁石は保持部材に保持されて配向ホルダとして構成され、当該配向ホルダは前記金型枠材に着脱可能に装着されることを特徴とする異方性ボンド磁石の成形用金型である。
【0013】
本発明の第12の技術的特徴は、第1乃至第11の技術的特徴のいずれかを備えた異方性ボンド磁石の成形用金型を用いて異方性ボンド磁石を製造するに際し、前記成形用金型の空洞部に成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物を充填する充填工程と、前記充填工程後において前記成形用金型の配向用磁石にて前記空洞部に充填された組成物を磁気的に配向させると共に所定の形状に成形する配向・成形工程と、前記配向・成形工程にて成形された異方性ボンド磁石を冷却して前記成形用金型から取り出す取出工程と、を含むことを特徴とする異方性ボンド磁石の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の技術的特徴によれば、異方性ボンド磁石を成形するに際し、異方性ボンド磁石に対して強い配向磁場で表面磁束密度波形を所望の三角波状に調整可能な成形用金型を提供することができる。
本発明の第2の技術的特徴によれば、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極の表面磁束密度分布波形につき、所望の評価し易い成形用金型を提供することができる。
本発明の第3の技術的特徴によれば、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極中心に対して対称的な配向磁場を作用させることができる。
本発明の第4の技術的特徴によれば、仕切り部材を用いない態様に比べて、成形された異方性ボンド磁石の外観を良好に保ち、かつ、成形品を金型から取り出しやすい。
本発明の第5の技術的特徴によれば、円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石を成形するに際し、異方性ボンド磁石に対して強い配向磁場で表面磁束密度波形を所望の形状に調整可能な成形用金型を提供することができる。
本発明の第6の技術的特徴によれば、磁力が高く、かつ保磁力の高い異方性ボンド磁石を成形することができる。
本発明の第7の技術的特徴によれば、磁力、保磁力が高く、かつ複雑形状で寸法精度の良い異方性ボンド磁石を成形することができる。
本発明の第8の技術的特徴によれば、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形の直線性を、隣接する磁極間の表面磁束密度の変化領域のうちゼロクロス点を含む±10%以内の角度範囲内で評価し、かつ、複数の永久磁石の磁場の配向方向を工夫することで、表面磁束密度波形を所望の三角波状に調整することができる。
本発明の第9の技術的特徴によれば、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形の直線性を、隣接する磁極間の表面磁束密度の変化領域のうちゼロクロス点を含む±30%以内の角度範囲内で評価し、かつ、複数の永久磁石の磁場の配向方向を工夫することで、表面磁束密度波形を所望の三角波状に調整することができる。
本発明の第10の技術的特徴によれば、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形の直線性を、隣接する磁極間の表面磁束密度の変化領域のうちゼロクロス点を含む±50%以内の角度範囲内で評価し、かつ、複数の永久磁石の磁場の配向方向を工夫することで、表面磁束密度波形を所望の三角波状に調整することができる。
本発明の第11の技術的特徴によれば、配向用磁石を簡単に組み込むことが可能な異方性ボンド磁石の成形用金型を提供することができる。
本発明の第12の技術的特徴によれば、異方性ボンド磁石に対して強い配向磁場で表面磁束密度波形を所望の三角波状に調整可能な成形用金型を利用し、磁力が高い高品質の異方性ボンド磁石を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
◎実施の形態の概要
図1(a)は本発明が適用された異方性ボンド磁石の成形用金型の実施の形態の概要を示す。
同図において、異方性ボンド磁石の成形用金型1は、成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmが充填可能な空洞部3を区画する金型枠材2と、空洞部3に充填された組成物Cmに面した部位に設けられ、成形すべき異方性ボンド磁石の複数の各磁極Mpに対向して配置され、空洞部3内の組成物Cmの磁石材料を磁気的に配向させる配向用磁石4と、を備え、配向用磁石4は、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極Mp中心に対向して配置される強磁性材からなる配向磁性体5と、配向磁性体5を挟んで対称的に配置される対構成の永久磁石6と、を含み、対構成の永久磁石6(具体的には6a,6b又は6c,6d)は、
各磁極Mp中心を通る垂線からなる基準線に対して非直交状態の異なる磁場の配向方向を有し、各磁極Mpの表面磁束密度波形が三角波に近似する波形になるように、配向磁性体5を経由して
各磁極Mpに作用する配向磁場Hを形成するものである。
【0017】
このような技術的手段において、本発明の成形用金型1は各種形状の異方性ボンド磁石を成形するのに適用できるが、例えば成形された異方性ボンド磁石を用いたセンサは、小型・広ギャップ・高精度のセンサとして広い用途で使われる。
本例において、成形用金型1としては、金型枠材2と配向用磁石4とを少なくとも備えていればよい。
金型枠材2は、成形すべき異方性ボンド磁石の形状に対応した空洞部3を区画するものであればよく、空洞部3としては円環状、円柱状、平板状など適宜選定して差し支えない。ここで、金型枠材2としては、例えば異方性ボンド磁石が円環状である場合には、円環状の空洞部3を内側、外側から区画する内枠材と外枠材(例えば
図1(a)中の保持部材9に相当)とが用いられ、また、異方性ボンド磁石の形状が円柱状の場合には、円柱状の空洞部3を外側から区画する外枠材が用いられ、内側から区画する内枠材は不要であり、また、金型内に別の部品を挿入して成形する、いわゆるインサート成形や一体成形と呼ばれる成形の場合も内枠材が不要となることがある。
【0018】
また、配向用磁石4としては、成形すべき異方性ボンド磁石の複数の各磁極Mpに対向して配置され、各磁極Mpに対して磁場を作用させるために、強磁性材からなる配向磁性体5と対構成の永久磁石6とを組み合わせた態様が用いられる。
本例では、対構成の永久磁石6は夫々単一のものを用いてもよいが、これに限られず、複数に分割したもの(例えば2個ずつ)を用いるようにしてもよい。
また、対構成の永久磁石6は配向磁性体5を経由して各磁極Mpに作用させる配向磁場Hを与えるものであり、夫々の磁場の配向方向を異ならせ、成形すべき異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を三角波状、言い換えれば三角波に近似する波形に調整するものであればよい。ここで使用する永久磁石6としては磁場の配向方向を異ならせる必要があることから、異方性磁石であることが好ましい。
更に、本例では、磁極Mp中心に対向した部位には強磁性材からなる配向磁性体5が設置されており、この配向磁性体5は対構成の永久磁石6による配向磁場Hを集中させて各磁極Mpに与えるものであるが、表面磁束密度波形を三角波状に調整する上で必須であり、配向磁性体5の代わりに永久磁石を設置した態様では、磁極Mp中心に対向する永久磁石による配向磁場の影響が強すぎ、表面磁束密度波形を三角波状に調整することが困難であることが確認されている。
【0019】
次に、本実施の形態に係る異方性ボンド磁石の成形用金型1の代表的態様又は好ましい態様について説明する。
先ず、三角波状に近似する波形の代表的態様としては、隣接するN極とS極との間の表面磁束密度の変化領域のうち予め決められたゼロクロス点を含む前後領域が正弦波曲線よりも直線に近い直線性を有する態様が挙げられる。本例は、三角波に近似する波形の定義として、予め決められたゼロクロス点(N,Sが入れ替わる点)を含む前後領域が直線性を有していればよい態様である。ここでいう直線性は、N極、S極の表面磁束密度波形の変曲点(最大点、最小点)近傍では評価し難いので、本例では、ゼロクロス点を含む前後領域(変曲点から離れた所定の中間領域)につき、少なくとも正弦波曲線に比べて直線に近ければ直線性を満たすこととした。
また、対構成の永久磁石6の好ましい態様としては、その磁場の配向方向を、成形すべき異方性ボンド磁石表面の各磁極Mp中心を通る垂線からなる基準線mに対して対称的に設定した態様が挙げられる。本例は、対構成の永久磁石6の磁場の配向方向を各磁極Mp中心の基準線mを挟んで対称配置することで、各磁極Mpの配向磁場を磁極Mp中心に対して対称的な分布に作製する上で有効である。ここで、基準線mは異方性ボンド磁石表面の各磁極Mp中心を通る垂線であり、磁極Mp表面が曲面であれば法線に相当する。
【0020】
更に、成形用金型1の好ましい態様としては、空洞部3内の組成物Cmと配向用磁石4とを仕切る仕切り部材8を備える態様が挙げられる。本例の仕切り部材8は、空洞部3内の組成物Cmと配向用磁石4とを仕切る機能部材である。このような仕切り部材8を用いると、配向用磁石4が組成物Cmと直接触れないため、成形された磁石の外観が良くなるほか、成形された磁石が取り出しやすく、配向用磁石4等の摩耗を防ぎ金型のメンテナンスを容易にする等の効果を奏する。また、仕切り部材8は磁性材、非磁性材のいずれでもよいが、配向用磁石4による配向磁場を不必要に弱めないように厚さの選定に留意する必要がある。特に磁性材を用いる場合には配向用磁石4による配向磁場に大きく影響するため、材質の選定に留意する必要がある。
【0021】
また、円環状の異方性ボンド磁石を成形する場合に用いられる成形用金型1の代表的態様としては、金型枠材2は円環状又は円弧状空洞部3を区画し、当該円環状空洞部3の外周側又は内周側に配向用磁石4を設置する態様が挙げられる。本例は、円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の外周面又は内周面に複数の磁極Mpを具備するように当該ボンド磁石を成形する上で必要な金型構成を示す。
また、ボンド磁石の代表的態様としては、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と樹脂との混合物からなるボンド磁石である態様が挙げられる。本例は、異方性Sm−Fe−N微粉末や異方性Nd−Fe−B微粉末等の希土類異方性磁石粉体を1種類以上と樹脂との混合物からなる。希土類異方性磁石粉体は、磁石の保磁力及び磁力を高める上で有効であり、配向磁場を強くでき、しかも、その配向方向を制御することで所望のボンド磁石が得られる。
更に、本例の異方性ボンド磁石の成形用金型1は、成形する磁石粉体に流動性があればその成形方法を問わず適用可能な構成であるが、成形されるボンド磁石の好ましい態様としては、1種類以上の希土類異方性磁石粉体と熱可塑性樹脂との混合物からなり、射出成形若しくは押出成形にて成形される態様が挙げられる。本例は、異方性ボンド磁石を製造する上で、成形精度の高い射出成形若しくは押出成形にて異方性ボンド磁石を成形することができる。
【0022】
また、成形する円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の着磁後の表面磁束密度波形は、例えば要求されるセンサ特性に対して適宜選定するようにすればよい。
このとき、円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の成形用金型1の好ましい態様としては、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石は、隣接する磁極Mpの着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域
±90度を100%にした場合に±10%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を前記角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算したところ、表面磁束密度波形が±0.5%F.S.(Full Scaleの略)以下の直線性を有する三角波状であり、対構成の永久磁石6(6a,6b又は6c,6d)の磁化方向は、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の中心と各磁極Mp中心とを結ぶ基準線mに対して±90度の角度範囲内で交差し、配向磁性体5がN極に磁化される場合には配向磁性体5に向かう周方向成分と、配向磁性体5の磁極Mpに面する側と反対側に向かう径方向成分
とを有する一方、配向磁性体5がS極に磁化される場合には配向磁性体5から離れる側に向かう周方向成分と、配向磁性体5の磁極Mpに面する側に向かう径方向成分とを有する態様が挙げられる。
異方性ボンド磁石をセンサ用途に使用する際には、センサ用途に使用可能な範囲を特定することが必要になり、代表的な特定条件としては、「角度範囲」と、「その角度範囲の直線性(リニア特性)」とが挙げられる。
本例は、三角波に近似する波形の直線性の評価範囲を、隣接する磁極Mp間の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む
前後領域±10%以内の角度範囲内で行い、対構成の永久磁石6の磁場の配向方向を特定したものである。
【0023】
前述した例は、直線性の評価範囲としてゼロクロス点を含む前後領域
±10%以内の角度範囲内で行っているが、これに限られるものではなく、表面磁束密度の変曲点(最大点、最小点)での評価を除くように、ゼロクロス点を含む前後領域±θ%(例えば±30%,±50%)以内の角度範囲の領域を要求波形に応じて適宜選定して差し支えない。
例えばゼロクロス点を含む前後領域
±90度を100%にした場合に±30%以内の角度範囲で直線性を評価する態様としては、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石は、隣接する磁極Mpの着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域±30%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算したところ、表面磁束密度波形が±3.0%F.S.以下の直線性を有する三角波状であり、対構成の永久磁石6(6a,6b又は6c,6d)の磁化方向は、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の中心と各磁極Mp中心とを結ぶ基準線mに対して±90度の角度範囲内で交差し、配向磁性体5がN極に磁化される場合には配向磁性体5に向かう周方向成分と、配向磁性体5の磁極Mpに面する側と反対側に向かう径方向成分
とを有する一方、配向磁性体5がS極に磁化される場合には配向磁性体5から離れる側に向かう周方向成分と、配向磁性体5の磁極Mpに面する側に向かう径方向成分
とを有する態様が挙げられる。本例は、三角波に近似する波形の直線性の評価範囲を、隣接する磁極Mp間の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域±30%以内の角度範囲内で行い、対構成の永久磁石6(6a,6b又は6c,6d)の磁場の配向方向を特定したものである。
【0024】
また、ゼロクロス点を含む前後領域±50%以内の角度範囲で直線性を評価する態様としては、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石は、隣接する磁極Mpの着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域
±90度を100%にした場合に±50%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算したところ、表面磁束密度波形が±5.0%F.S.以下の直線性を有する三角波状であり、対構成の永久磁石6(6a,6b又は6c,6d)の磁化方向は、成形すべき円環状又は円弧状の異方性ボンド磁石の中心と各磁極Mp中心とを結ぶ基準線mに対して±90度の角度範囲内で交差し、配向磁性体5がN極に磁化される場合には配向磁性体5に向かう周方向成分と、配向磁性体5の磁極Mpに面する側と反対側に向かう径方向成分
とを有する一方、配向磁性体5がS極に磁化される場合には配向磁性体5から離れる側に向かう周方向成分と、配向磁性体5の磁極Mpに面する側に向かう径方向成分
とを有する態様が挙げられる。本例は、三角波に近似する波形の直線性の評価範囲を、隣接する磁極Mp間の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点を含む前後領域±50%以内の角度範囲内で行い、対構成の永久磁石6(6a,6b又は6c,6d)の磁場の配向方向を特定したものである。
【0025】
更に、異方性ボンド磁石の成形用金型1の好ましい態様としては、配向用磁石4は保持部材9(本例では仕切り部材8を含む)に保持されて配向ホルダ7として構成され、当該配向ホルダ7は金型枠材2(本例では円環状空洞部3の内側を区画する内枠材に相当)に着脱可能に装着される態様が挙げられる。本例は、保持部材9に配向用磁石4(配向磁性体5と対構成の永久磁石6との組合せ態様)が予め組み込まれた配向ホルダ7を、金型枠材2に着脱可能に装着する態様である。
ここで、保持部材9は配向用磁石4を保持するものを広く含むものであり、
図1(a)に示す態様では、配向用磁石4の外周側を保持するものを指し示しているが、これだけではなく、配向用磁石4の内周側を保持する仕切り部材8も保持部材9として機能するものである。また、本例では、保持部材9は金型枠材2の外枠材としても機能するものであるが、保持部材9は金型枠材2の外枠材とは別部材のものであってもよい。
【0026】
また、異方性ボンド磁石の製造方法としては、
図1(a)(b)に示すように、前述した異方性ボンド磁石の成形用金型1を用いて異方性ボンド磁石を製造するに際し、成形用金型1の空洞部3に成形すべき異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmを充填する充填工程と、充填工程後において成形用金型1の配向用磁石4にて空洞部3に充填された組成物Cmを磁気的に配向させると共に所定の形状に成形する配向・成形工程と、配向・成形工程にて成形された異方性ボンド磁石を冷却して成形用金型1から取り出す取出工程と、を含むものが挙げられる。本例は、成形材料の充填工程、配向・成形工程及び取出工程を有するものであればよく、配向・成形工程としては、射出成形、押出成形などが含まれる。
【0027】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
◎実施の形態1
−異方性ボンド磁石の製造装置−
図2は実施の形態1に係る異方性ボンド磁石の製造装置の全体構成を示す。
同図において、異方性ボンド磁石の製造装置は、射出成形にて異方性ボンド磁石を製造する射出成形機であって、異方性ボンド磁石を成形する成形用金型(以下金型と略記する)30と、異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmを金型30内に射出注入する射出ユニット20とを備えている。
ここで、磁石の材料としては、フェライト系、Sm−Co系、Sm−Fe−N系、Nd−Fe−B系等及び/若しくはそれらの混合系から適宜選択することが可能であるが、各材料の飽和磁化に留意することが必要である。すなわち、例えばフェライト系材料で成形した磁石は所望の表面磁束密度波形が得られても、同じ金型で例えばSm−Fe−N系材料で成形した磁石は表面磁束密度波形が異なる場合がある。本例では、磁石の材料を含む組成物Cmとして、例えば異方性Sm−Fe−N微粉末や異方性Nd−Fe−B微粉末等の希土類異方性磁石粉体を1種類以上と熱可塑性樹脂との混合物を使用したものとする。
<射出ユニット>
本例では、射出ユニット20は、磁石材料を含む組成物Cmをホッパ22からシリンダ21内に投入し、シリンダ21内に投入された組成物Cmをヒータ23にて加熱溶融すると共に、シリンダ21内で進退可能なスクリューロッド24で溶融した組成物Cmをシリンダ21の射出口25側に所定量貯めた後、金型30内に射出するものである。
【0028】
<金型>
本例では、金型30は、
図2及び
図3(a)に示すように、固定金型31と可動金型32とを有し、両者間に成形すべき異方性ボンド磁石の形状に対応した空洞部(本例では円環状空洞部)41を確保するようにしたものである。
ここで、固定金型31は所定箇所に固定側取付板33で射出成形機に取り付けられ、射出ユニット20の射出口25に連通し且つ空洞部41に通じる供給経路26を有している。
また、可動金型32は図示外の型締めユニットにて矢印方向に進退可能な可動側取付板34に取り付けられており、型締めユニットの進退で固定金型31と可動金型32とは図示外の位置合わせ機構により、位置合わせされるようになっている。尚、本例では、固定金型31と可動金型32との境界面が金型分割面PLとして機能するようになっている。
そして、可動金型32は、可動側取付板34に固定された可動側型板35の円柱状凹所35a内に各種金型部品を組み込んで構成されている。本例では、円柱状凹所35aの中央には円環状空洞部41の内側を区画する金型枠材としての内枠コア40が設けられると共に、円柱状凹所35aの内枠コア40の外側には環状の配向ホルダ50が着脱可能に装着され、内枠コア40と配向ホルダ50との間に円環状空洞部41が確保されるようになっている。
【0029】
−配向ホルダ−
本実施の形態において、配向ホルダ50は、
図3(a)(b)に示すように、円環状空洞部41の外周に沿って設置される複数の配向用磁石42と、これら複数の配向用磁石42の内周側を保持して円環状空洞部41との間を仕切る仕切り部材としての円環状スリーブ43と、円柱状凹所35aの周面に沿って設けられ、複数の配向用磁石42の外周側を保持する円環状の保持外枠44と、を備えている。
本例では、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石は外周部に予め決められた間隔毎に複数(n個:
図3ではn=16)の磁極Mpを具備するものであり、配向用磁石42は、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石のn個の各磁極Mpに対向してn個設置されている。ここで、配向用磁石42は、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極Mpに所定の表面磁束密度波形を形成するための磁場Hを与えるように構成されている。
【0030】
<配向用磁石>
本例において、配向用磁石42は、
図3(a)(b)に示すように、対応する磁極Mp中心に対向して配置される強磁性材からなる配向磁性体としての配向ヨーク45と、当該配向ヨーク45を挟んで対称的に配置される対構成の永久磁石46(具体的には46a,46b又は46c,46d)と、を備えている。
特に、本例では、成形すべき異方性ボンド磁石が円環状であることから、円環状に配列される各配向用磁石42は部分円環を構成することになる。そして、部分円環の内周長が外周長よりも短い寸法関係になることから、各配向用磁石42を構成する各要素(配向ヨーク45、対構成の永久磁石46(46a,46b又は46c,46d))も夫々内周長が外周長よりも短い部分円環を構成することで相互に接触配置されている。このとき、配向ヨーク45、永久磁石46の周方向長さが略同等であると仮定すれば、各配向用磁石42の設置角度は約360°/16=22.5°であるから、配向ヨーク45、対構成の永久磁石46はスリーブ43の外周面のうち略7.5°の角度範囲に対向して設置されている。
【0031】
本例において、対構成の永久磁石46は、特に材質を問わないが、成形すべき異方性ボンド磁石の磁極数が多い場合には、例えばSm−Co焼結磁石に比べて強度が高く、ワイヤカット等で精度の良い加工が可能な例えばNd−Fe−B焼結磁石を用いることが好ましい。この種のNd−Fe−B焼結磁石は、短辺が1mm程度であれば加工、着磁後の組立が割れ・欠けなく行えることから、各磁極Mpあたり多くの数に分割して配置することは磁石の表面磁束密度の波形を所望の波形にする上で有用である。よって、対構成の永久磁石46(46a,46b又は46c,46d)は夫々単数で使用することが一般的であるが、全部若しくは一部を複数に分割して使用することも可能である。但し、各磁極Mpあたりの磁石数が増加すると、その分、コストアップにつながるので、留意することが必要である。
【0032】
更に、本例では、例えば配向用磁石42(1)は配向ヨーク45をN極に磁化するものであり、対構成の永久磁石46(46a,46b)は、
図3(b)に示すように、内枠コア40の中心Oと成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極Mp中心とを結んだ基準線mに対して±90度の角度範囲内の予め決められた角度α,βで交差する磁化方向の配向磁場Ha,Hbを有しており、夫々の配向磁場Ha,Hbは配向ヨーク45に向かう周方向成分と、配向ヨーク45の磁極Mpに面する側と反対側に向かう径方向成分とを有している。但し、磁場の配向方向については、基準線mに対して時計回り方向の角度を+、反時計回り方向の角度を−としており、本例では、−90≦α<0、0<β≦90である。
また、配向用磁石42(2)は配向ヨーク45をS極に磁化するものであり、対構成の永久磁石46(46c,46d)は、
図3(b)に示すように、内枠コア40の中心Oと成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極Mp中心とを結んだ基準線mに対して±90度の角度範囲内の予め決められた角度γ,δで交差する磁化方向の配向磁場Hc,Hdを有しており、夫々の配向磁場Hc,Hdは配向ヨーク45から離れる側に向かう周方向成分と、配向ヨーク45の磁極Mpに面する側に向かう径方向成分とを有している。但し、磁場の配向方向については、基準線mに対して時計回り方向の角度を+、反時計回り方向の角度を−としており、本例では、−90≦γ<0、0<δ≦90である。
【0033】
ここで、対構成の永久磁石46の配向磁場の大きさ及び配向方向は、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を三角波に近似する波形にするという観点から適宜選定されるものであればよく、|α|≠|β|、|γ|≠|δ|、|Ha|≠|Hb|、|Hc|≠|Hd|でもよいが、本例では、基準線mを挟んで対称的な配向磁場を形成するという観点から、|α|=|β|=|γ|=|δ|、|Ha|=|Hb|=|Hc|=|Hd|を満たすように選定されている。
本例において、三角波に近似する波形としては、
図4(a)に示すように、成形すべき異方性ボンド磁石の隣接する磁極Mp(N極、S極)間の表面磁束密度の変化領域のうち、予め決められたゼロクロス点(N,Sが入れ替わる点)を含む前後領域が正弦波曲線よりも直線に近い直線性を有する態様が選定される。
本例において、直線性の評価基準としては適宜選定可能であるが、例えば以下のような評価基準が挙げられる。
【0034】
図4(a)に示すように、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形につき、隣接する磁極Mpの着磁後の表面磁束密度の変化領域のうち、ゼロクロス点Cを含む前後領域±θ%以内の角度範囲内で、各位置の表面磁束密度と理想直線から算出される表面磁束密度との差を前記角度範囲内の最大、最小の表面磁束密度差|ΔB|(
図4(a)中|Bmax−Bmin|に相当)で除算することで得られる直線性の指標を用いて演算し、
図4(b)に示すように、表面磁束密度波形が予め決められた閾値±TH以下の直線性を有する三角波状であるか否かを評価すればよい。
ここで、直線性の評価範囲としては「ゼロクロス点Cを含む±θ%以内の角度範囲内」であることを要する。これは、表面磁束密度の変曲点(最大点、最小点)付近では直線性を確保しにくく、変曲点から離れたゼロクロス点を含む前後領域で直線性を確保し易いことによる。
そして、θとしては適宜選定して差し支えなく、例えば「10」、「30」、「50」が選定され、例えば下記(1)〜(3)に示すように、θの角度範囲の広さに応じて直線性を評価する閾値±THが選定されている。
(1)θが「±10%以内の角度範囲内」の条件では、閾値THは「±0.5%F.S.以下」が選定される。
(2)θが「±30%以内の角度範囲内」の条件では、閾値THは「±3.0%F.S.以下」が選定される。
(3)θが「±50%以内の角度範囲内」の条件では、閾値THは「±5.0%F.S.以下」が選定される。
【0035】
次に、本実施の形態で用いられる配向用磁石42による配向磁場について説明する。
図3(a)(b)に示すように、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極Mpには、対構成の永久磁石46(46a,46b又は46c,46d)からの配向磁場Ha,Hb又はHc,Hdが配向ヨーク45を経由して与えられる。このため、円環状空洞部41に充填された組成物Cmの各磁極Mpには対構成の永久磁石46(46a,46b又は46c,46d)からの配向磁場Ha,Hb又はHc,Hdが配向ヨーク45に集中した状態で作用すると共に、各配向磁場Ha〜Hdの強さ及びその配向方向により異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形が三角波状に調整される。このため、各磁極Mpには強い配向磁場H(Ha,Hb又はHc,Hdの合成磁場)がその配向方向を制御した状態で与えられる。
尚、特許文献3には、成形すべき異方性ボンド磁石の各磁極に対向した配向用磁石の面が円環状空洞部とは同心でない曲面を有しており、円環状空洞部と配向用磁石との間の距離が変化することから、配向用磁石による配向磁場の配向を制御することは可能かも知れないが、スリーブの肉厚に加えて、スリーブと配向用磁石との間に隙間が形成されてしまう分、円環状空洞部への配向磁場の強度が低下してしまい、成形する異方性ボンド磁石の配向度の低下につながる懸念がある。配向度が低下した磁石では、材料の特性を十分に発揮することができず、特に、強い配向磁場が必要な希土類異方性ボンド磁石ではこの問題が顕著に現れる傾向が見られる。
【0036】
更に、本例では、円環状空洞部41と配向用磁石42との間にスリーブ43が設置されている。仮に、スリーブ43を設置しない場合には、円環状空洞部41の外周面に沿って配向用磁石42の面が配置されることから、配向用磁石42の摩耗や成形するボンド磁石の寸法精度の低下を招く虞れがある。
この点、本例では、スリーブ43の存在により円環状空洞部41に充填される組成物Cmが配向用磁石42に直接接触する事態は防止される。
このとき、スリーブ43の厚さや材質の選定は、円環状空洞部41内に生ずる成形圧力条件や配向用磁石42による配向磁場等を考慮して決めるようにすればよい。また、スリーブ43としては、非磁性材若しくは磁性材のいずれをも使用することが可能であるが、スリーブ43の厚さが厚くなると、配向用磁石42と成形すべきボンド磁石との距離が大きくなり、その分、配向用磁石42による配向磁場が低下する。
このため、本例では、スリーブ43として、厚さが0.3〜1.5mm程度の薄い非磁性材若しくは磁性材で作製されたものが用いられる。スリーブ43の厚さが1.5mm以下の薄さであれば、配向用磁石42からの磁場が円環状空洞部41内の組成物Cmに作用し易く、スリーブ43の剛性を確保するという観点からすれば、厚さが0.3mm以上であることが好ましい。
ここで、スリーブ43の材質としては非磁性材で作製する態様では、硬度、強度、加工性を考慮して、例えば非磁性鋼材、セラミックス、超硬合金等の中から適宜選定するようにすればよく、また、磁性材で作製する態様では、配向用磁石42による配向磁場が各磁極Mpに作用する上で部材が持つ磁気特性は大きく影響を及ぼすため、スリーブ43の材質の選定には十分に注意を払う必要があり、例えば飽和磁束密度が1.35(T)以下で、ロックウェル硬さが50以上である材料が好ましい。尚、飽和磁束密度の測定法としては、例えば東栄工業株式会社製のB−H(J−H)カーブトレーサや振動試料型磁力計(VSM)で測定する方法が挙げられる。
【0037】
また、保持外枠44の材質は配向用磁石42の外周側を保持するものであれば、スリーブ43ほど硬度を必要としないので、金型枠材として一般的に使用される材料が選定されている。このとき、保持外枠44として、非磁性材若しくは磁性材のいずれを用いてもよく、磁性材を用いる場合には、配向用磁石42の外周側からの磁場漏れを有効に防止することができ、保持外枠44において磁気回路が形成されることから、配向用磁石42をより有効に機能させることが可能である。
【0038】
次に、本実施の形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法について説明する。
先ず、図示外の型締めユニットにより金型30を締めた状態にセットし、この後、射出ユニット20により異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmを金型30の空洞部41に射出注入して保圧する。この状態で、金型30の空洞部41に充填された組成物Cmには配向用磁石42による配向磁場が作用し、空洞部41内では異方性ボンド磁石の各磁極Mpの配向が揃えられ、異方性ボンド磁石が成形される。この後、異方性ボンド磁石を冷却、固化させた後、図示外の型締めユニットにて金型30を開き、金型30から異方性ボンド磁石の成形品を取り出すようにすればよい。
このような製造過程で得られた異方性ボンド磁石の成形品については、後述する実施例で示すように、表面磁束密度波形を安定的に形成でき、かつ、金型30から異方性ボンド磁石を取り出す際に成形品の表面性は良好に保たれる。
尚、成形頻度が増すと、成形時に発生するバリ等により、内枠コア40やスリーブ43の表面に傷が付き、成形されたボンド磁石の外観に影響を及ぼすため、これらの部材は一般的には消耗品として定期的に交換される。
また、フェライト系異方性ボンド磁石では金型30から取り出した成形品を別途着磁することなく、そのまま使用されることがあるが、希土類異方性磁石粉体を用いたボンド磁石(希土類異方性ボンド磁石)では、取り出し後の成形品を着磁装置にて別途着磁した方がばらつきが少ない、強い磁力の磁石を得ることができる。
【0039】
前述した実施の形態1では、円環状の異方性ボンド磁石の外周面に複数の磁極Mpを配列したものを例に挙げているが、これに限られるものではなく、以下の変形の形態1,2に示すような金型30を構築するようにしてもよい。
◎変形の形態1
本例に係る金型30は、実施の形態1と異なり、円環状の異方性ボンド磁石の内周面に複数の磁極Mp(本例ではn=8)を配列する態様に適用されるものであり、
図5(a)に示すように、異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmが充填される円環状空洞部41を有し、円環状空洞部41の外周面に沿って外枠49を設けると共に、円環状空洞部41の内周面に沿って複数の配向用磁石42を配設し、円環状空洞部41と配向用磁石42との間にはスリーブ43を設置し、更に、配向用磁石42としては、実施の形態1と同様な構成(配向ヨーク45及び対構成の永久磁石46(46a,46b又は46c,46dとの組み合わせ態様)を採用し、更に、配向用磁石42の内側にはバックヨークとしての円柱状のコア48を設置したものである。
【0040】
◎変形の形態2
本例に係る金型30は、板状の異方性ボンド磁石に複数の磁極Mpを配列する態様に適用されるものであり、
図5(b)に示すように、異方性ボンド磁石の材料を含む組成物Cmが充填される直線状の空洞部51を有し、空洞部51の長手方向に沿う一側には複数の配向用磁石52を配設し、この空洞部51と配向用磁石52(例えば52(1)〜52(3))との間には仕切り部材としての仕切りプレート53を設置し、更に、空洞部51の長手方向に沿う他側には例えば非磁性材からなる対向部材54を設置したものである。
ここで、配向用磁石52としては、成形すべき平板状の異方性ボンド磁石の磁極Mpに対向して強磁性材からなる配向磁性体としての配向ヨーク55を配置し、この配向ヨーク55を挟んで対構成の永久磁石56(56a,56b又は56c,56d)を配置し、例えば実施の形態1と同様に、対構成の永久磁石56(56a,56b又は56c,56d)の配向磁場を適宜選定するようにすればよい。
【実施例】
【0041】
◎実施例1
本実施例は、実施の形態1に係る成形用金型30(
図3(a)(b))を用いて円環状の異方性ボンド磁石を製造したものである。
本例は、成形すべき円環状の異方性ボンド磁石の外周面に16極の磁極Mpを具備させるための成形用金型であって、成形する異方性ボンド磁石はセンサ用で、要求される表面磁束密度波形は三角波状で、ゼロクロス点を含む回転角度±3°において±3.0%F.S.の直線性を有するものである。
本例において、対構成の永久磁石46の材質は室温での保磁力が2T以上がよく、本実施例では日立金属株式会社製NEOMAX(登録商標)−45SHを用いた。対構成の永久磁石46のうち一方の永久磁石46a(又は46c)の磁場Ha(又はHc)の配向角度は−45°、他方の永久磁石46b(又は46d)の磁場Hb(又はHd)の配向角度は+45°である。また、配向ヨーク45及び内枠コア40は磁性を持つ一般鋼材のS45C、スリーブ43はボーラー・ウッデホルム株式会社製ELMAX(登録商標)を肉厚1.0mmとして用いた。保持外枠44は磁力、硬度、価格、入手性等を考慮して非磁性鋼の日立金属株式会社製HPM75とした。また、スリーブ43の材質を変更した場合は得られる成形した異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形が変わり、対構成の永久磁石46の配向角度や形状を再設計する必要が生じる場合がある。
更に、成形する異方性ボンド磁石は、射出成形法による成形とし、材料には住友金属鉱山株式会社製Sm−Fe−N系ボンド磁石成形用ペレット(商品名:Wellmax(登録商標)−S3A12M)を選択した。射出成形法の条件を、シリンダ温度が210〜260℃、金型温度が60〜80℃とし、外径40mm、内径31mm、高さ5mmで外周16極の異方性ボンド磁石を作製した。得られた異方性ボンド磁石を着磁後、磁石の高さ方向中央部の外周面の磁束密度をガウスメータのプローブを磁石外周面に接触し、磁石を回転して測定した。尚、ガウスメータのプローブの磁力感磁部は0.2mmの樹脂モールドが施されている。
成形された異方性ボンド磁石の表面磁束密度は、
図6(a)に示すように、三角波状波形で、この波形の−3°から+3°の直線性は
図6(b)に示すような±0.74%F.S.であった。尚、
図6(b)中の二点鎖線で囲む領域は直線性を評価するゼロクロス点を含む角度範囲と閾値とを示す。
【0042】
また、実施例1の性能を評価する上で、以下の比較例1,2について実施例1と同様に成形された異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形を調べたところ、比較例1,2に係る成形用金型では、実施例1に係る成形用金型で成形された異方性ボンド磁石の表面磁束密度波形として三角波状のものを得ることが困難であることが確認された。
◎比較例1
比較例1は、
図7(a)に示すように、実施例1と異なる配向用磁石42’を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型30’を示す。
同図において、配向用磁石42’は、実施例1の配向ヨーク45を永久磁石57(N極又はS極)に置き換え、これを挟むように対構成の永久磁石58(58a,58b又は58c,58d)を設置したものである。但し、対構成の永久磁石58の磁場の配向方向は実施の形態1とは異なり、永久磁石57の磁場方向に対し略直交するようになっている。尚、
図7(a)中、実施の形態1と同様の構成要素については実施の形態1と同様な符号を付し、ここではその説明を省略する。
そして、比較例1に係る異方性ボンド磁石の成形用金型30’を用い、実施例1と同じ条件で外周10極の異方性ボンド磁石を作製した。得られた異方性ボンド磁石を着磁後、磁石の高さ方向中央部の外周面の磁束密度をガウスメータのプローブを磁石外周面に接触し、磁石を回転して測定した。
【0043】
◎比較例2
比較例2は、
図7(b)に示すように、実施例1と異なる配向用磁石42”を備えた異方性ボンド磁石の成形用金型30”を示す。
同図において、配向用磁石42”は、実施例1と略同様な配向ヨーク45を備えているが、この配向ヨーク45を挟むように、比較例1と同様な対構成の永久磁石58(58a,58b又は58c,58d)を設置したものである。尚、
図7(b)中、実施の形態1と同様の構成要素については実施の形態1と同様な符号を付し、ここではその説明を省略する。
そして、比較例2に係る異方性ボンド磁石の成形用金型30”を用い、実施例1と同じ条件で外周10極の異方性ボンド磁石を作製した。得られた異方性ボンド磁石を着磁後、磁石の高さ方向中央部の外周面の磁束密度をガウスメータのプローブを磁石外周面に接触し、磁石を回転して測定した。
【0044】
◎実施例2
実施例2は、実施例1と略同様の成形用金型30で外周面に16極の磁極Mpを有する円環状の異方性ボンド磁石を作製した。本例では、要求される表面磁束密度波形は三角波状で、ゼロクロス点を含む回転角度±1°において±0.2%F.S.である。
本例は、実施例1と異なり、対構成の永久磁石46のうち一方の永久磁石46a(又は46c)の磁場Ha(又はHc)の配向角度は−60°、他方の永久磁石46b(又は46d)の磁場Hb(又はHd)の配向角度は+60°である。
実施例1と同様の方法にて成形した磁石の表面磁束密度を測定したところ、
図8(a)に示す三角波状波形で、この波形の−1°から+1°の直線性は
図8(b)に示すように±0.13%F.S.であった。
【0045】
◎実施例3
実施例3は、実施例1と同様の成形用金型30で外周面に16極の磁極Mpを有する円環状の異方性ボンド磁石を作製した。本例では、要求される表面磁束密度波形は三角波状で、ゼロクロス点を含む回転角度±5°において±1.0%F.S.である。
本例では、実施例1と同様に、対構成の永久磁石46のうち一方の永久磁石46a(又は46c)の磁場Ha(又はHc)の配向角度は−45°、他方の永久磁石46b(又は46d)の磁場Hb(又はHd)の配向角度は+45°である。
実施例1と同様の方法にて成形した磁石の表面磁束密度を測定したところ、成形した磁石の表面磁束密度は
図6(a)に示す三角波状波形で、この波形の−5°から+5°の直線性は
図9に示すような±0.81%F.S.であった。