特許第6879686号(P6879686)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879686
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20210524BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20210524BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20210524BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20210524BHJP
【FI】
   C01B32/05
   H01G11/32
   !H01M4/88 C
   !H01M8/10 101
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-143694(P2016-143694)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-12627(P2018-12627A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】田所 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】藤高 俊久
(72)【発明者】
【氏名】西岡 徳真
(72)【発明者】
【氏名】林田 広幸
(72)【発明者】
【氏名】水内 和彦
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−056833(JP,A)
【文献】 特開2012−082105(JP,A)
【文献】 特開2005−220500(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129597(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/17
H01M 4/88
H01M 4/96
H01G 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチリドの分解によって得られると炭素とを含む複合材料を、減圧雰囲気下にて、1200℃以上2300℃以下の温度で処理し、前記複合材料から前記の少なくとも一部を気化させ、除去する除去工程を有し、
前記除去工程において、1.0Pa以上、300Pa以下の減圧雰囲気下で処理が行われる、多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程において、外部雰囲気との気体の流通が制限された内部空間を有する容器中に前記複合材料が配置された状態で、処理が行われる、請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記容器は、当該容器の内部空間と当該容器の外部雰囲気との間のガス透過率が、10mL/kPa・min以上5000mL/kPa・min以下である、請求項2に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記容器の少なくとも一部は、多孔質材料で形成されている、請求項2または3に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記容器の前記多孔質材料で形成された部分の面積は、該容器を構成する壁部の面積に対し、1.0%以上100%以下である、請求項4に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質材料は、炭素材料である、請求項4または5に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項7】
前記除去工程において、除去された気体状態の前記が、冷却されて液体状態または固体状態で回収される、請求項1〜のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項8】
前記除去工程の前に、前記アセチリドを加熱することにより分解させ、前記複合材料を得る分解工程を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記が除去された状態の前記複合材料を、熱処理し、前記多孔質炭素材料を得る熱処理工程を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの利用効率に優れ、環境負荷の小さい発電装置として、固体高分子形燃料電池の研究が盛んに行われている。一般的な固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性電解質膜を挟んでその両面側にアノードとカソードとなる触媒層が配置され、また、これらを挟んでその外側にガス拡散層が配置され、さらにその外側にセパレータ層が配置された基本構造を有している。
【0003】
上述した触媒層には、担体に触媒作用を有する金属粒子を担持させた触媒金属粒子担持材料が用いられている。担体には、形状、大きさ、組成、構造、使用環境での化学的安定性、熱的安定性、耐久性、担持する金属粒子との親和性、気液原料との接触効率等の特性が求められる。特に、高表面積を有する担体が求められている。そして、担体としては、具体的には、シリカ、アルミナや活性炭が広く用いられている。
【0004】
触媒金属粒子は、微粒子状で多孔質物質(担体)表面に分散しており、触媒反応は、金属触媒表面で行われる。このため反応効率を高めるためには、反応原料の触媒金属表面への拡散性が良いことと、反応して生じた生成物が触媒金属表面から速やかに拡散除去されることが非常に好ましい。
【0005】
活性炭は、電気伝導性を有し、且つ化学的安定性に優れるが、酸化雰囲気では酸化による消耗が起こる。また活性炭は熱的にも不安定であり、担持された金属触媒の触媒活性を高めるために、担持された金属触媒を処理する温度は活性炭の熱安定領域以下に制約される。活性炭は直径が2nm以下のミクロ孔が主体で、細孔内に分散した触媒金属への反応原料の拡散性は必ずしも良いとは言えない。
【0006】
シリカ、アルミナは、耐酸化性、耐熱性に優れるが絶縁物であり、電子移動が起こる触媒系では使用が困難である。細孔内の触媒金属への反応原料の拡散性や反応生成物の拡散性については、活性炭と同様必ずしも良くない。
【0007】
このような問題を踏まえ、特許文献1には、高い気孔性を保持しつつ、化学的に安定で、電気伝導性を有し、過酷な使用環境においても耐久性に優れ、かつ、反応原料および反応生成物の拡散性にも優れた触媒担体用炭素材料を提供することを目的として、炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれした三次元構造を有する樹状の炭素メソポーラス構造体からなる触媒担体用炭素材料が提案されている。
【0008】
特許文献1によれば、上記触媒担体用炭素材料は、以下のようにして得られる。まず、銀アセチリドを形成するとともに銀アセチリドを偏析させ、金属銀粒子を内包した金属内包樹状ナノ構造物を得る。次いで、金属内包樹状ナノ構造物を加熱することにより爆発的な相分離反応を生じさせ、内包された銀を噴出させ、表面および内部に多数の噴出孔が形成された炭素上の樹状ナノ構造物(以下、「カーボンナノデンドライト」ともいう)を得る。
【0009】
この状態のカーボンナノデンドライトは、その表面に残存した銀(粒子)を有しているので、これらの銀や不安定な炭素成分を除去する。この場合、通常、特に硝酸水溶液を用いた溶解洗浄処理を施す。
【0010】
続いてこのカーボンナノデンドライトに対し、加熱処理を行って、触媒担体用炭素材料を得る。
【0011】
また、特許文献1においては、触媒担体用炭素材料が、電気二重層キャパシター用活性炭電極、リチウム空気二次電空気極として有効であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2014/129597号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、本発明者らは、特許文献1に記載の方法においては、噴出した銀粒子を除去するために硝酸水溶液を用いて溶解洗浄処理を施すが、一度の溶解洗浄処理では銀粒子を十分に除去することができないことを見出した。また、加熱した濃硝酸を用いて、複数回溶解洗浄処理を行った場合であっても、銀粒子を十分に除去することは困難であった。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、銀と炭素とを含む複合材料から銀を除去可能であり、当該複合材料から触媒担体材料やキャパシター材料等に適した多孔質炭素材料を生産することが可能な、新規かつ改良された多孔質炭素材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討した結果、複合材料の炭素中に銀が包埋されており、このような包埋された銀が様々な除去処理においても除去できないのではないかと推測した。
【0016】
この包埋された銀の除去を検討する中で、本発明者らは、複合材料中の炭素の加熱時における挙動に着目した。複合材料中の炭素は、一定の温度以上で構造変化を開始し、温度が上昇するにつれ、結晶化(黒鉛化)する。本発明者らは、複合材料の炭素の構造変化が起こると、包埋された銀が、炭素の表面に露出するのではないかと推測した。
【0017】
しかしながら、従来のような硝酸処理において炭素の構造変化が生じる温度まで加熱することは困難である。また、温度が高い状態で結晶化が過度に進行すると、炭素中の細孔が潰れてしまう。この場合、得られる多孔質炭素材料が触媒担体やキャパシター材料として適する物性を有しない可能性がある。
【0018】
本発明者らは、このような検討に基づいて、さらに検討を重ね、銀と炭素とを含む複合材料を減圧下にて加熱することにより、銀を複合材料から効率よく除去できることを見出した。そして、一定以上の温度であれば、炭素の熱による構造変化によって細孔中に包埋された金属粒子を細孔表面に露出させることができ、露出した金属粒子を揮発させることにより除去できることを見出した。さらに、加熱温度が一定以下であれば、炭素中の細孔が潰れることを抑制できることをも見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき更なる検討を行った結果、以下に示す本発明に想到した。
上記のような知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0019】
(1) アセチリドの分解によって得られると炭素とを含む複合材料を、減圧雰囲気下にて、1200℃以上2300℃以下の温度で処理し、前記複合材料から前記の少なくとも一部を気化させ、除去する除去工程を有し、
前記除去工程において、1.0Pa以上、300Pa以下の減圧雰囲気下で処理が行われる、多孔質炭素材料の製造方法。
(2) 前記除去工程において、外部雰囲気との気体の流通が制限された内部空間を有する容器中に前記複合材料が配置された状態で、処理が行われる、(1)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(3) 前記容器は、当該容器の内部空間と当該容器の外部雰囲気との間のガス透過率が、10mL/kPa・min以上5000mL/kPa・min以下である、(2)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(4) 前記容器の少なくとも一部は、多孔質材料で形成されている、(2)または(3)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(5) 前記容器の前記多孔質材料で形成された部分の面積は、該容器を構成する壁部の面積に対し、1.0%以上100%以下である、(4)に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(6) 前記多孔質材料は、炭素材料である、(4)または(5)に記載の多孔質炭素材料の製造方法
(7) 前記除去工程において、除去された気体状態の前記が、冷却されて液体状態または固体状態で回収される、(1)〜(6)のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(8) 前記除去工程の前に、前記アセチリドを加熱することにより分解させ、前記複合材料を得る分解工程を有する、(1)〜(7)のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(9) さらに、前記が除去された状態の前記複合材料を、熱処理し、前記多孔質炭素材料を得る熱処理工程を有する、(1)〜(8)のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、多孔質炭素材料を効率よく生産することが可能な、新規かつ改良された多孔質炭素材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
<多孔質炭素材料の製造方法>
まず、本発明の一実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法について説明する。本実施形態に係る多孔質材料の製造方法は、金属アセチリドを得る金属アセチリド形成工程と、金属アセチリドを加熱することにより分解させ、複合材料を得る分解工程と、複合材料を、減圧雰囲気下にて、1200℃以上2300℃以下の温度で処理し、複合材料から金属の少なくとも一部を気化させ、除去する除去工程と、金属が除去された状態の複合材料を、熱処理し、多孔質炭素材料を得る熱処理工程と、を有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0023】
(金属アセチリド形成工程)
本工程においては、まず、イオン化した金属の水溶液(「金属水溶液」という)に対しアセチレン系ガスを接触させることにより、金属アセチリドを生成させる。
【0024】
なお、本明細書において、「金属アセチリド」とは、金属原子とアセチレン系化合物とが結合した化合物であり、式(1)、または式(2)で表される化合物を指すものとする。
式(1) M-C≡C-M
式(2) M-C≡C-R
上記式(1)および式(2)中、Rは、H、フェニル基またはアルキル基であり、Mは、金属原子である。
【0025】
また、アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖または分岐状のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
【0026】
なお、アセチレン系ガスは、ガス状のアセチレン系化合物である。上記より、本明細書において、アセチレン系化合物は、一般式「H−C≡C−R」として表すことができる。式中のRは、上述した通りの定義である。
【0027】
金属水溶液に含まれる金属、すなわち金属アセチリドの金属としては、特に限定されないが、金、銀、銅等が挙げられる。これらの金属は、好適に金属アセチリドを形成可能である。金属は、好ましくは、銀または銅である。銀または銅を用いた場合、得られる多孔質炭素材料においてナノメートルサイズの細孔を形成しやすく、固体高分子形燃料電池の触媒担体やキャパシターの電極に適している。また、銀または銅を用いた場合、結晶体として、立体構造を形成しやすい。
【0028】
また、金属水溶液中おける金属は、好ましくは金属塩または金属錯体の溶解物(金属イオン)として存在する。このような金属塩、金属錯体としては、例えば、硝酸銀(I)、硝酸銅(II)、塩化銅(I)、塩化銀(I)等が挙げられる。
【0029】
また、金属水溶液中における上記金属の含有量は、金属種や溶液のpHに依存するが、例えば銀アセチリドの場合であれば、0.1質量%以上30.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以上25.0質量%以下である。これにより、十分な量および濃度の金属アセチリドを得ることができるとともに、未反応の金属塩の量を低減させることができる。
【0030】
また、金属水溶液は、好ましくはアンモニアを含む。金属水溶液がアンモニアを適量含むことにより、上記金属の金属アセチリドへの化学変化を安定的に進行させることができる。
【0031】
金属水溶液に対するアセチレン系ガスの接触方法は、特に限定されないが、例えば、金属水溶液にアセチレン系ガスを通過させる、より具体的は金属水溶液にアセチレン系ガスを吹き込む方法が挙げられる。
【0032】
また、金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時における金属水溶液の温度は、特に限定されないが、例えば凝固点以上沸点以下、より具体的には室温とすることができる。
【0033】
また、金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時において、金属水溶液を撹拌することが好ましい。これにより、アセチレン系ガスと金属との接触の接触頻度が増加する結果、効率よく金属アセチリドが生成する。撹拌は、一般的な撹拌翼を用いて行ってもよいし、マグネットスターラー等の撹拌子を用いておこなってもよい。
【0034】
また、金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時間は、特に限定されず、金属水溶液中の金属が十分に金属アセチリドに変換されるまで行うことができる。金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時間は、例えば、1分以上1000分以下である。
【0035】
以上により金属アセチリドが得られる。このような金属アセチリドは、通常、金属水溶液中に不溶であるため、沈降している。例えば、銀アセチリドは、白色の嵩高い沈降物として得られる。この沈殿物は、例えば濾過して金属水溶液の液体成分から分離し、次の分解工程に供することができる。濾紙、メンブレンフィルターによる濾過、上澄み溶液の除去など、分離のプロセスは特に限定されない。
【0036】
(分解工程)
次に、得られた金属アセチリドを加熱することにより分解させ、複合材料を得る。金属アセチリドを加熱することにより、金属アセチリドがナノスケールにて爆発し、金属相と炭素相とに相分離し、その際、金属はナノサイズの粒子を形成し、または反応熱によりガス化して表面部分に噴出する。炭素相は、アセチレン分子等のアセチレン系化合物が3個集まってベンゼン環を形成しやすいために、芳香族性の高い構造を有する。また、銀がナノ粒子を形成するため、銀を除去した炭素相は、多孔質の構造体となる。
【0037】
金属アセチリドの加熱は、例えば、以下のように行うことができる。濾過して得られた金属アセチリドの沈殿物を、減圧雰囲気下で例えば40℃以上100℃以下で加熱する。これにより、金属アセチリド中に残存した反応溶液中の溶媒を除去することができ、爆発の熱エネルギーが溶媒の気相への相転移の顕熱に費やされることを防ぎ、金属アセチリドの分解を効率化することができる。猶、この温度では、金属アセチリドは分解しない。
【0038】
次いで、形成された金属内包ナノ構造物を、例えば150℃以上で加熱する。上述したような比較的高い温度まで金属アセチリドを加熱することにより、金属アセチリドがナノスケールで爆発して分解し、金属と炭素が各々ナノ構造物を形成する。これにより、金属と、炭素とを含む複合材料が得られる。なお、同複合材料の炭素相の部分の基本構造は、前述のようにアセチレン系化合物による多環芳香族形成により、主として数層のグラフェンにより構成される。また、同複合材料においては、金属が爆発過程においてナノスケールの金属粒子を形成するため金属粒子を除去した炭素材料は、比表面積が大きく、また多孔性に富んでいる。
【0039】
(除去工程)
次に、得られた複合材料を、減圧雰囲気下にて、1200℃以上2300℃以下の温度で処理し、複合材料から金属の少なくとも一部を気化させ、除去する。
【0040】
このような処理を行うことにより、複合材料から金属が効率よくかつ十分に除去される。すなわち、上記範囲の温度において金属の蒸気圧は比較的高いため、表面に露出した金属は、容易に気化され、複合材料から除去される。一方で、上記温度範囲内においては、複合材料の主成分である炭素材料は熱による構造変化、具体的には、グラフェン同士の結合によるグラフェンサイズの巨大化、グラフェンの積層構造の発達などの構造変化を生じており、その構造が変形する結果、複合材料内に内包された金属も、複合材料表面に露出する。この結果、加熱前に複合材料に内包されていた金属も、気化可能となり、複合材料から除去される。なお、複合材料から金属が除去されることから、金属除去後の同材料は、本質的に炭素からなる炭素材料となる。しかしながら、本願明細書では、説明の便宜を考慮して、金属除去後の同材料についても「複合材料」という。
【0041】
そして、本工程を採用することにより、従来の硝酸による洗浄処理のように、金属が十分に除去しきれないといった問題を防止することができる。
【0042】
さらに、複合材料を加熱することにより、複合材料は炭素化、結晶化する。この場合において、複合材料中に存在する金属は、炭化現象や、炭素化して得られるグラファイトの結晶化について、触媒作用を発揮する。そして、本工程において複合材料中のグラファイトの結晶化が進行する結果、最終的に得られる多孔質炭素材料の結晶性を高くすることができる。但し、加熱温度が過度に高すぎないため、複合材料の炭素中での構造変化は最小限に適度に抑制され、炭素中の細孔が潰れることが抑制される。
【0043】
また、本工程における温度は、上述したように、1200℃以上2300℃以下である。本工程における温度が上記下限値未満の場合、金属の蒸気圧が十分に高くならず、金属の除去効率が十分なものとならない。また、炭素材料の構造変化が十分に生じない結果、金属が複合材料の表面に十分には露出せず、金属が複合材料から十分に除去されない。一方で、本工程における温度が上記上限値を超えると、複合材料中の炭素の構造変化が過度に生じる結果、炭素中の細孔が不本意に潰れてしまう。この結果、得られる多孔質炭素材料の比表面積が低下し、多孔質炭素材料としての機能が低下し、例えば、触媒担体の機能が低下する、キャパシターの容量が低下する。すなわち、得られる多孔質炭素材料が触媒担体やキャパシターとして適しなくなる。
【0044】
また、本工程における温度は、上述した範囲内であればよいが、金属の除去性、複合材料の炭素化および結晶化の効率ならびに細孔の保持を考慮すると、好ましくは1300℃以上2300℃以下であり、より好ましくは1400℃以上2200℃以下である。なお、上記温度が1600℃以下の場合、結晶化よりも含酸素官能基および芳香族の末端水素の脱離といった炭素化が金属により優先的に触媒される。また、上記温度が1800℃以上であると、グラフェンサイズの増加および積層構造の発達といった結晶化が金属により優先的に触媒される。
【0045】
また、本工程における周囲雰囲気の圧力は、特に限定されないが、本工程においては、例えば0.1Pa以上10000Pa以下、好ましくは1Pa以上5000Pa以下、さらに好ましくは1Pa以上、1000Pa以下の減圧雰囲気下で処理が行われる。雰囲気の圧力を低く保つことにより効率よく金属を除去することができる。
【0046】
また、本工程における処理時間は、特に限定されないが、例えば10分以上100時間以下、好ましくは30分以上10時間以下である。これにより、十分に金属を除去できるとともに、不本意な過度の炭素化、結晶化を防止し、最終的に得られる多孔質炭素材料の品質をより容易に管理できる。
【0047】
また、本工程においては、外部雰囲気との気体の流通が制限された内部空間を有する容器内で、複合材料を処理することが好ましい。これにより、複合材料から急激に金属が気化して除去されることが防止される。この結果、金属による上記触媒作用をより効果的に享受することができ、複合材料の結晶化をより効率よく促進することができる。一方で、多孔質材料で形成された容器は、通気可能であることから、金属は本工程において最終的に容器外に排出されて複合材料から除去される。
【0048】
このような容器は、より具体的には、容器の内部空間と当該容器の外部雰囲気との間のガス透過率が、例えば、10mL/kPa・min以上5000mL/kPa・min以下、好ましくは15mL/kPa・min以上4000mL/kPa・min以下、より好ましくは20mL/kPa・min以上3000mL/kPa・min以下であることができる。ガス透過率が上記範囲内であることにより、気化した金属を適度に容器の内部空間に留めることができ、金属による上記触媒作用をより効果的に享受することができる。また、ガス透過率が上記下限値以上であることにより、金属の除去に必要な時間を十分に短くすることができる。
【0049】
このような容器としては、特に限定されないが、例えば、壁面に孔やスリットを有する容器、部材間(例えば蓋および容器本体間)に所定の隙間を有する容器、少なくとも一部が多孔質材料で形成された容器等が挙げられる。
【0050】
上述した中でも、少なくとも一部が多孔質材料で形成された容器が好ましい。この場合、上述した容器は、少なくとも一部が多孔質材料で形成されるものであればよいが、容器を構成する壁部の面積に対し、多孔質材料の部分の面積が1.0%以上100%以下、好ましくは5.0以上90%以下が多孔質材料で構成される。1.0%よりも小さいと、容器の構造によっては局所的にガス排出が起こるため、金属除去に時間がかかる、若しくは、除去できない虞がある。
【0051】
また、上記容器の多孔質材料で形成された部分(壁部)の厚さは、特に限定されないが、例えば0.1mm以上50.0mm以下、好ましくは0.2mm以上10.0mm以下、より好ましくは0.2mm以上5.0mm以下である。これにより、急激な金属の気化を防止しつつ、効率よく金属を除去することができ、且つ、容器の機械的強度を維持することができる。
【0052】
容器を構成する材料としては、処理温度において化学的に変質しない、特に、内部の収容する金属・炭素材料の複合物と化学的に反応しない、かつ、物理的に変形・溶融しなければ、特に限定されない。例えば、炭素材料、より具体的には炭素繊維や不純物が少ない高純度化したいわゆる黒鉛材料等、炭化ケイ素、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、マグネシア等が挙げられる。容器を構成する材料は、好ましくは炭素材料、より好ましくは少なくとも2000℃以上の熱履歴を受けた炭素材料や黒鉛材料である。これにより、被処理材である複合材料(金属・炭素)が、容器の材料に由来する不純物により汚染されることを回避することが可能となる。
【0053】
また、容器の少なくとも一部が多孔質材料で形成されている場合、多孔質炭素材料は、例えば、上述した材料を使用でき、好ましくは炭素材料である。
【0054】
また、多孔質材料で形成された容器の具体例としては、上記の多孔質材料で容器全体が構成されたるつぼ、容器の一部に上記の多孔質材料を用い、他の部分は黒鉛製の材料で構成されたるつぼ等が挙げられる。
【0055】
なお、本工程は、真空ポンプ等の排気装置を備えた加熱炉において上記処理を行うことができる。
【0056】
また、気化して加熱炉より排出される金属を回収してもよい。具体的には、排気装置と加熱炉との間に、金属回収部が配置されてもよい。金属回収部は、気化されて加熱炉内から排出された金属を冷却し、金属を凝縮、さらには凝固させることにより、液体状態または固体状態の金属を回収可能に構成されている。これにより、金属を金属アセチリドの形成のために再利用することが可能となる。また、このようにして回収される金属は、比較的純度が高いため、再利用が容易である。
【0057】
(熱処理工程)
次に、金属が除去された状態の複合材料を、必要に応じて熱処理し、結晶性を高めた多孔質炭素材料を得てもよい。本工程で行われる熱処理により多孔質炭素材料の結晶を発達させることができ、この結果、多孔質炭素材料の結晶性を調節、制御することができる。多孔質炭素材料が、例えば固体高分子形燃料電池の電極の触媒担体として使用される場合には、当該多孔質炭素材料は、比較的高温例えば80℃程度の、pH1以下の強酸性かつ、1.3V vs SHEの高電位の環境下に暴露される。このような環境下では、多孔質炭素材料中の炭素が酸化消耗しやすい。したがって、多孔質炭素材料を触媒担体として使用する場合には、本工程において結晶性を高めておくことが重要である。
【0058】
ところで、多孔質炭素材料中の細孔や、多孔質炭素材料の比表面積は、触媒の担持量に大きく影響を与える要因であり、多孔質炭素材料の細孔が多く、比表面積が大きいことが一般に好ましい。しかしながら、一般に、多孔質炭素材料を熱処理すると結晶が発達する一方で、多孔質炭素材料中の細孔が潰れ、同材料の比表面積が低下する。
【0059】
しかしながら、本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法では、上述した除去工程において複合材料中の炭素の結晶性を高めることができる。したがって、本工程における熱処理の条件を比較的温和にすることができ、細孔、比表面積の減少を抑制することができる。あるいは、同一条件の熱処理の場合、従来の多孔質炭素材料と比較して、本実施形態に係る方法により製造された多孔質炭素材料は、同一比表面積でより高い結晶性を有する。すなわち、従来よりも高い次元で、多孔質炭素材料の比表面積、細孔量と、結晶性とを両立することが可能となる。
【0060】
本工程における熱処理の温度は、特に限定されないが、例えば1400℃以上2300℃以下、好ましくは1500℃以上2200℃以下、より好ましくは1600℃以上2200℃以下である。これにより、多孔質炭素材料の結晶性を十分に高めることができる。
【0061】
また、本工程における熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば10分以上20時間以下、好ましくは0.5時間以上15時間以下、より好ましくは1.0時間以上10時間以下である。これにより、多孔質炭素材料の結晶性を十分に高めつつ、多孔質炭素材料の比表面積、細孔量の減少を抑制することができる。
【0062】
また、熱処理は、特に限定されないが、例えば減圧雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で行うことができる。不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等を用いることができる。
【0063】
なお、本工程は、一般的な加熱炉を用いて行うことができる。また、本工程は、除去工程から引き続き行われてもよい。
【0064】
また、本工程は、多孔質炭素材料の目的とする物性を考慮して、省略することができる。本工程が省略された場合、除去工程後の複合材料を多孔質炭素材料として得ることができる。
【0065】
以上説明した本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法では、上述したような除去工程を採用することにより、銀等の金属成分を効率よく、十分に除去できる。したがって、本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法では、多孔質炭素材料を効率よく生産することが可能である。
【0066】
また、上述したように除去工程において、複合材料中に存在する金属が、炭化現象や、炭素化して得られるグラファイトの結晶化について、触媒作用を発揮することにより、最終的に得られる多孔質炭素材料の結晶性を高くすることができる。この結果、本実施形態に係る方法により製造された多孔質炭素材料は、従来よりも高い次元で、多孔質炭素材料の比表面積、細孔量と、結晶性とを両立することが可能となる。
【0067】
<多孔質炭素材料>
次に、上述した本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法により得られる多孔質炭素材料(以下、単に「多孔質炭素材料」ともいう)について説明する。
上記方法により製造された多孔質炭素材料は、金属アセチリドの嵩高い沈殿物を原料とし、金属を噴出させることにより、形成されている。したがって、多孔質炭素材料は、噴出孔(メソポア)を多孔質材料内部まで均質に多数有する多孔質体である。多孔質炭素材料は、このようなメソポアの存在により、比較的大きな比表面積を有し、その細孔表面上に例えば触媒等を担持することができる。
【0068】
また、多孔質炭素材料のその微視的な構造は、金属アセチリドの種類、すなわち金属アセチリドの形成に用いられた金属の種類によって異なり得る。
【0069】
例えば、金属が銀である場合、すなわち、多孔質炭素材料が銀アセチリド由来の場合、多孔質炭素材料は、炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれした三次元構造を有する樹状の炭素メソポーラス構造体を有している。より具体的には、炭素メソポーラス構造体は、棒状体または環状体が3次元的に延在するとともに相互に結合してネットワークを構成し、いわゆるデンドライト状の3次元的な構造を有している。
【0070】
さらに、上記環状体は、製造方法等に起因して、一般には、グラフェンからなる表皮と、その内部に含まれる複数のグラフェン小包等の炭素粒とから構成される。ここで、「グラフェン」とは、炭素原子が六角形の網状に配列したものであって、単層の黒鉛に相当する。
【0071】
上記の炭素メソポーラス構造体は、製造方法に起因して、例えば樹状部分の長さが150nm以下となる。また、樹状部分の直径が、例えば150nm以下となる。すなわち、炭素メソポーラス構造体は、極めて微細な大きさの樹状構造物である。なお、樹状部分の長さの下限値および直径の下限値は、例えば50nmおよび20nmである。
【0072】
上記炭素メソポーラス構造体は、上述のような樹状部分を有するため、それ自体高い比表面積を有する。したがって、水素などの任意のガスを十分に吸蔵することができ、気体分子吸蔵体として十分に機能することができる。また、触媒担持用担体としても十分に機能することができる。
【0073】
また、例えば、金属が銅である場合、より具体的には、多孔質炭素材料が銅メチルアセチリド由来の場合、多孔質炭素材料は、多数のミクロンオーダーの孔がランダムに形成され、棒状体および/または板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造(モノリス)を有している。そして棒状体および板状体中には、肺胞状の細孔が形成されている。さらに、細孔を画定するグラフェン多層膜壁の任意の層が枝分かれを繰り返すことにより、隣接する細孔同士は互いに連通している。
【0074】
多孔質炭素材料のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、200m/g以上1500m/g以下、好ましくは250m/g以上1500m/g以下、より好ましくは300m/g以上1500m/g以下である。固体高分子型燃料電池等における触媒担体や、キャパシターの電極材料としては、多孔質炭素材料の比表面積が比較的大きいことが要求される。このような観点から、多孔質炭素材料のBET比表面積が200m/g以上であると、多孔質炭素材料が固体高分子型燃料電池等における触媒担体や、キャパシターの電極材料として適しているといえる。一方で、BET比表面積が1500m/gを超えると、製造条件によっては十分な結晶性を有することが困難な場合がある。
【0075】
また、多孔質炭素材料は、直径2nm以上10nm以下の領域(メソ孔領域)に、例えば、0.2mL/g以上1.5mL/g以下、好ましくは0.25mL/g以上1.4mL/g以下の容積の積算細孔容積を有している。メソ孔領域の積算細孔容積が0.2mL/g以上であると、平均的な細孔サイズが十分に大きいため、例えば、触媒担体に適用した場合、触媒金属粒子を細孔内に担持した際、細孔と触媒粒子の間の空隙が十分に大きく存在し、反応に関与する分子が細孔内を拡散する時間を比較的短くできる。この結果、多孔質炭素材料を用いた触媒担体の触媒作用の特性を優れたものとすることができる。また、2〜10nmのメソ孔領域の積算細孔容積が1.5mL/g以下であると、炭素担体としての骨格を十分に肉厚にすることができ、触媒を担持するために必要な攪拌等における当該骨格の破壊が防止される。
【0076】
また、多孔質炭素材料の細孔径(直径)2nm未満の細孔の容積(ミクロ孔容積という)V<2は、特に限定されないが、例えば0.15mL/g以上0.80mL/g以下であり、好ましくは、0.20mL/g以上0.70mL/g以下である。ミクロ孔容積V<2が0.80mL/g以下であると、例えば、多孔質炭素材料を触媒担体に適用した場合にミクロ孔が水を吸収・保持する作用を適度に有することから、触媒層の過剰な水分を除去することができる。そのため、固体高分子形燃料電池の大電流運転時には、大量に生成する水が触媒層中に溜まることを防止でき、いわゆるフラッディング現象の発生を防止し、出力電圧の低下を防止することができる。また、ミクロ孔容積V<2が0.15mL/g以上であると、ミクロ孔内に蓄えられる水分量を十分なものとすることができ、燃料電池の運転に必要な水分を触媒層に蓄えること比較的容易となり、出力電圧の低下を防止できる。
【0077】
なお、メソ孔、ミクロ孔などの多孔体の細孔ごとの容積の算出は、通例に従い、窒素ガス吸着脱離測定により得られる液体窒素温度における窒素ガスの吸着等温線の解析により求めたものである。具体的には、上記メソ孔領域については、Dollimore−Heal法で解析した細孔径(直径)が2〜10nmの積算細孔容積を用いることができる。
【0078】
また、多孔質炭素材料の結晶性の程度は、例えば、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅により推測することができる。多孔質炭素材料のラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅は、特に限定されないが、例えば、45〜75cm−1、好ましくは、50〜70cm−1である。これにより、Gバンドの半値幅が上記上限値以下であると、多孔質炭素材料は、十分に高い結晶性を有することができ、例えば固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いた際には、炭素の酸化消耗が防止される。Gバンドの半値幅が上記下限値以上であると、多孔質炭素材料は過度に結晶化して細孔が潰れることが防止されている。すなわち、多孔質炭素材料のGバンドの半値幅が上記範囲内にあると、多孔質炭素材料が固体高分子型燃料電池等における触媒担体や、キャパシターの電極材料として適しているといえる。
【0079】
以上説明した多孔質炭素材料は、比較的高い比表面積および結晶性を有し、例えば、触媒担持用担体、特に、固体高分子形燃料の電極における触媒担持用担体や、キャパシター材料、具体的にはキャパシターの電極材料、特に電気二重層キャパシター用活性炭電極、リチウム空気二次電空気極として適している。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例を示しながら、本発明の実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0081】
1.銀アセチリドを用いた多孔質炭素材料の製造(例1〜39)
(i)銀アセチリド形成工程
硝酸銀を15〜20質量%の濃度で含む1.0〜5.0質量%アンモニア水溶液をフラスコに用意し、アルゴンや乾燥窒素などの不活性ガスで残留酸素を除去した後に、溶液を攪拌すると共に超音波振動子を液体に浸して振動を与えながら、アセチレンガスを150mLの溶液に対し25mL/minの流速で約4分間吹き付けた。これによって、溶液中に銀アセチリドの固形物が生じ沈殿を始めた。次いで、沈殿物をメンブレンフィルターで濾過し、ろ過の際に、沈殿物をメタノールで洗浄して若干のメタノールを加え、沈殿物中にメタノールを含浸させた。
【0082】
(ii)銀アセチリド分解工程
メタノールを含浸させた状態の沈殿物を径6mm程度の試験管にそれぞれ50mgずつ入れ、これを真空加熱容器に入れて60℃〜80℃の温度で12時間加熱しメタノールを除去した後に連続して160℃〜200℃の温度まで急速に加熱し、20分加熱を実施した。ここで、試験管の中ではナノスケールの爆発反応が起こり、内包された銀が噴出し、表面及び内部に多数の噴出孔を形成する。これにより、銀内包ナノ構造物としての銀と炭素とを含む複合材料を得た。
【0083】
(iii)除去工程
次に、以下に従い、得られた複合材料について、銀を除去した。
上記(ii)銀アセチリドの分解工程により得られた銀と炭素を含む複合材料25gを計量して黒鉛製のるつぼに入れ、アルゴン雰囲気で3000℃まで昇温可能なタンマン炉内で、アルゴンガスに置換後に圧力を表1、表2に示す所定の圧力まで減圧し、表1、表2に示す所定の温度まで15℃/分で昇温した。そして、所定の温度に達した後、表1、表2に示す時間当該温度を維持して、銀の除去を行った。これにより、多孔質炭素材料を得た。
【0084】
なお、用いたるつぼは直方体形状であり、そのうちの一面がスライド式の蓋を形成していた。この蓋の材質や厚みを変える、または、蓋なしにすることで、るつぼ内のガスがるつぼ外へ拡散する速さ(以下、ガス透過率と称する)を制御した。黒鉛材質は、超高密度グレードで、具体的には新日本テクノカーボン社製のIGS−895を用いた。
【0085】
蓋の部分の多孔質材料には、黒鉛材料としては、低密度で且つ骨材である黒鉛粒子径が大きめのものを押し出し成型して密度が高くならないものを選定した。具体的には新日本テクノカーボン社製のGR102を用いた。更に、GR102製の多孔質部材を1500℃で1時間、3時間、8時間、COガス流通下でいわゆる賦活処理により細孔を拡大し、ガス透過係数を大きくした。その多孔質部材を表1、表2中、各々「GR-CO-1」、「GR-CO-3」、「GR-CO-8」と表記する。また、より高いガス透過性を持つ材料として、炭素繊維から成るカーボンペーパー(東レ社製トレカTGPH-60)を用いた。カーボンペーパーは、非常にガス透過性が高いため、細孔を潰してガス透過性を低下させた。具体的には、室温で液状のフェノール樹脂(DIC社製含浸加工用フェノール樹脂TD-669K)にペーパーを含浸し、10℃毎分の速度でAr雰囲気中で、1800℃まで加熱した。この操作を数回繰り返した。表1、表2中、TGPH-120を単に「TGP」と表記し、TGPにフェノールを含浸し1800℃で炭化したものを「TGP-1」、含侵回数がN回のものを「TGP-N」と表記した。
【0086】
(iv)熱処理工程
また、例17、18の多孔質炭素材料については、さらに、複合材料をアルゴン流通下、表1に示す温度で2時間処理した。
【0087】
(ガス透過率の測定)
容器のガス透過率の測定には、いわゆるガーレー試験機(東洋精機社製、製品名「ガーレ式デンソメーター」)を用い、100mLの空気が被検体を透過するのに要する時間を測定し、その時間から、単位時間、単位差圧、単位面積当たりのガス透過率(ISO透気度に相当)を算出した。
なお、ガス透過性の低い場合、すなわち、ガーレ式試験機における測定時間が1000秒を超える場合には、試験における印加圧力を高めて、ガス透過速度を高めて測定した。
【0088】
以上説明した除去工程における「温度」、「圧力」、「容器全体のガス透過率」などを、表1、表2にまとめて示した。
【0089】
2.銅メチルアセチリドを用いた多孔質炭素材料の製造(例40〜44)
(i)銅メチルアセチリド形成工程
塩化第一銅を0.01質量%の濃度で含む5.5質量%アンモニア水溶液をフラスコに用意し、これを激しく攪拌しながら窒素ガスで10%に希釈したメチルアセチレンガスを1Lの溶液に対し200mL/minの流速で約120分間、吹き付けた。これによって、溶液中に銅メチルアセチリドの固形物が生じ沈殿を始めた。次いで、生じた沈殿物をメンブレンフィルターで濾過した。メンブレンフィルター上の沈殿物はさらに洗浄する目的で、数回メタノールを用いて濾過した。
【0090】
(ii)銅メチルアセチリド分解工程
沈殿物をビーカーに入れ、これを更に容量の大きなビーカーに入れてこれにテフロン(登録商標)の板4枚を重ねて置いて蓋とした。なお、テフロンの板の厚みは、それぞれ10mmであった。また、テフロンの板には、ガス抜けのための小さな穴があけられており、テフロンの板を配置する際には、隣接するテフロンの板同士で穴が重ならないようにした。テフロンの板で蓋をしたビーカーをステンレス製真空容器に入れ、100Pa以下に減圧し。メタノールを除去した。次いで、ステンレス真空容器内に水素ガスを導入し、0.3気圧の圧力に保持した状態で、反応容器内を250℃まで30分程度かけて昇温させた。加熱開始後2〜3時間経過し圧力が急激に1気圧強まで上昇するのを確認した後に加熱を停止し冷却した。この加熱工程により銅メチルアセチリドが急速な分解反応を起こし、銅と炭素の相分離し、表面及び内部に多数の銅のナノ粒子を形成する。このようにして、ビーカー内部に銅内包ナノ構造物としての銅と炭素とを含む複合材料を得た。
【0091】
(iii)除去工程
次に、上記1と同様にして、得られた複合材料について、銅を除去した。なお、本工程の諸条件は例に応じて表3に示すように変更した。これにより、多孔質炭素材料を得た。
【0092】
3.銀アセチリドを用いた多孔質炭素材料の製造(例45〜49、酸処理による銀除去)
まず、上記1の(i)、(ii)と同様にして銀アセチリドを形成し、その後分解し、銀と炭素材料の複合材料を得た。
【0093】
次に、得られた銀と炭素材料の複合材料約20gを60質量%濃硝酸1500g中に浸漬し、60℃で24時間洗浄した。次いで、遠心分離機を用い、複合材料と濃硝酸とを分離した。複合材料に付着した硝酸を除去する目的で、分離した複合材料を再び純水に分散し、遠心分離機で複合材料(固体)を液体から分離した。この水洗操作を2回行うことにより、硝酸を除去した。次いで、140℃、空気中で複合材料を2時間処理することにより水分を除去し、複合材料の乾燥を行った。次に、最低限の結晶性を得るために、複合材料をアルゴン流通下1400℃で2時間処理した。
【0094】
また、例46〜48にかかる複合材料については表3に記載される条件で、加熱処理を行った。この加熱工程により、多孔質炭素材料の結晶性を高めた。以上により多孔質炭素材料を得た。
【0095】
4.評価
(i)金属残存量
得られた各例の多孔質炭素材料について、金属アセチリド由来の金属の含有量を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)により求めた。0.1mass%以下を「A」、0.1〜0.2mass%を「B」、0.2mass%〜0.5mass%を「C」、0.5mass%以上を「D」として、表記した。なお、A〜Cであれば、触媒担体やキャパシターとして、十分に使用可能である。
【0096】
(ii)製造時間
複合材料中の金属成分の除去工程における加熱時間と、該加熱時間とその温度までの昇温に要する時間を含めて製造時間とし、表1〜表3に記載した。
なお、従来の濃硝酸中で加熱して当該金属-炭素複合材料に含まれる金属を除去するのに要するプロセス時間は、少なくとも2回の硝酸処理を行った例45の除去工程に要した時間に対し、実施例、比較例の工程に費やした時間を比較した。1/8以下の除去時間であれば合格、1/10を超える除去時間であれば不合格とした。
【0097】
(iii)比表面積
各例の多孔質炭素材料について、各多孔質炭素材料を約30mg測り採り、150℃で真空乾燥した後、自動比表面積測定装置(カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン社製、Autosorb I−MP)を用いて、窒素ガスを用いたガス吸着法にて測定し、BET解析式に基づき比表面積を決定した。
【0098】
(iv)結晶性評価
各例の各多孔質炭素材料を約3mgを測り採り、これをレーザラマン分光光度計(日本分光(株)製、NRS−3100型)を用い、励起レーザー532nm、レーザーパワー10mW(試料照射パワー:1.1mW)、顕微配置:Backscattering、対物レンズ:×100、スポット径:1μm、露光時間:30sec、観測波数:2000−300cm−1、積算回数:6回の測定条件で測定した。測定で得られたラマンスペク卜ルから、G−バンド(1550−1600cm−1の範囲)の半値幅(ΔG)を算出した。
【0099】
結果を、製造条件とともに表1〜3に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
表1〜表3に示すように、実施例である例2〜8、10〜16、18〜45においては、得られた多孔質炭素材料から銀または銅が好適に除去されていた。また、例2〜8、10〜16、18〜45においては、得られた多孔質炭素材料は、固体高分子型燃料電池等における触媒担体や、キャパシターの電極材料として適した比表面積および結晶性を有していた。また、例2〜8、10〜16、18〜45においては、表1〜3の製造時間の欄にあるように、比較例である例46〜50と比較して極めて短時間で銀の除去が可能であり、これらの例に係る方法は、生産性が高かった。
【0104】
これに対し、表3に示すように、硝酸によって銀の除去を試みた例46〜50においては、銀の除去が不十分であった。
また、例1においては、除去工程時の除去温度が低い結果、銀の除去が十分にできなかった。さらに、得られた多孔質炭素材料は、固体高分子型燃料電池等における触媒担体や、キャパシターの電極材料として適した結晶性を有さなかった。これは、除去工程時において十分に銀による結晶化についての触媒効果が享受できなかったためと考えられる。
【0105】
さらに、例9においては、除去工程時の除去温度が過度に高い結果、得られる多孔質炭素材料の比表面積が低くなり、当該多孔質炭素材料は固体高分子型燃料電池等における触媒担体や、キャパシターの電極材料として適さないものとなっていた。これは、除去温度が過度に高い結果、多孔質炭素材料の細孔が潰れてしまったものと考えられる。
【0106】
また、例17においては、常圧下で除去工程を行ったため、銀を十分に多孔質炭素材料から除去できなかった。
【0107】
また、例13の製造行程において、加熱装置と減圧に用いる油回転式真空ポンプとの間に、ガラス製のいわゆるトラップを、金属の回収装置として設置し、該トラップを液体窒素で冷却した。その結果、製造処理後のトラップ内に蒸発した銀を析出させることができた。析出した銀の質量は、仕込んだ複合材料に含まれる銀の質量の95mass%以上が析出しており、充分な効率で回収することができた。また、析出した銀の純度は十分に高い純度を有していた。
【0108】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。