(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6879906
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】電気アークガスヒータのための電力供給装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-517735(P2017-517735)
(86)(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公表番号】特表2017-530683(P2017-530683A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】EP2015072084
(87)【国際公開番号】WO2016050627
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2018年8月1日
(31)【優先権主張番号】14187236.6
(32)【優先日】2014年10月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・オステルメイエル
(72)【発明者】
【氏名】イエルーン・ヘーレンス
【審査官】
白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−092081(JP,A)
【文献】
特開平08−137559(JP,A)
【文献】
YONGSUG SUH; YONGJOONG LEE; KHEIR J; ET AL,A STUDY ON MEDIUM VOLTAGE POWER CONVERSION SYSTEM FOR PLASMA TORCH,POWER ELECTRONICS SPECIALISTS CONFERENCE,米国,IEEE,2008年 6月15日,PAGE(S):437 - 443,URL,http://ieeexplore.ieee.org/document/4591968/?reload=true
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00〜 3/44
H05B 7/00〜 7/22
H05H 1/00〜1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマトーチ(9)を駆動するためのDC電力供給装置であって、
- 電位U
0を提供するAC/DC整流器(1)と、
- スイッチング周波数f
sを有するDC/DCスイッチングコンバータと、
- 待ち時間τを有する電流制御ループと、
を具備し、
前記AC/DC整流器(1)は、前記DC/DCスイッチングコンバータに電気的に結合され、
前記DC/DCスイッチングコンバータは、チョッパ(2)、安定インダクタ(3)、及びダイオード(4)を具備するスイッチドモードバックコンバータであり、
前記安定インダクタ(3)は、
前記プラズマトーチ(9)に電気的に結合され、
センサ(5)は、瞬間的なトーチ電流を測定するように構成され、
電流調節器(7)は、前記瞬間的なトーチ電流と設定点値(6)との比較に基づいて、前記チョッパ(2)により提供されるパルス幅を変調し、
前記DC/DCスイッチングコンバータは、インダクタンスLを有する前記安定インダクタ(3)を備えることにより、
前記プラズマトーチ(9)の電極上の電気アーク基部の遊走を強化し、
前記インダクタンスLが、
【数1】
および
【数2】
であることを特徴とする、DC電力供給装置。
【請求項2】
U0>3000Vであることを特徴とする、請求項1に記載のDC電力供給装置。
【請求項3】
前記プラズマトーチに配送される電力が、1から10MWの間であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のDC電力供給装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のDC電力供給装置と、プラズマトーチ(9)と、を具備し、前記DC電力供給装置は、前記プラズマトーチ(9)と電気的に結合されているアセンブリ。
【請求項5】
前記プラズマトーチが、中空電極を有する非移行型セグメント化プラズマトーチであることを特徴とする、請求項4に記載のアセンブリ。
【請求項6】
請求項1に記載のDC電力供給装置を使用してプラズマトーチ(9)を動作させる方法であって、前記プラズマトーチ(9)が、500A RMSを超える電流を供給され、前記電流が、DC成分およびAC成分を含み、前記AC成分が、50Aから前記DC成分の20%の間のピーク間振幅を有することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマトーチのような電気アークガスヒータに適したDC電力供給装置に関する。それはより詳しくは、トーチに給電するために使用されるスイッチドモードDC/DCコンバータにおけるインダクタの寸法決定に関する。
【背景技術】
【0002】
電気アークガスヒータは、実質的に任意の種類のガスを極高温に加熱するための強力なツールである。例えば「Electric Arcs and Arc Gas Heaters」、E. Pfender、Chapter 5、Gaseous Electronicsにおいて、そのようなデバイスのために今日利用できる多くの記述がある。多数の工業的応用において、プラズマ状態に加熱されたガスの高い可能性が、認識されている。例は、粉末噴霧および塗装、ナノサイズの粉末の製作、抽出冶金、航空宇宙工学、その他である。
【0003】
プラズマトーチとしてもまた知られている、電気アークガスヒータにおいては、ガスは、投入口を通って流入式チャンバに入れられ、その中で電気アークが、維持される。ガスは、極高温まで熱くなり、プラズマとして取出し口を通って放出される。
【0004】
アークは、ガス流入式チャンバ内に両方とも位置する、アノードおよびカソードに接続される電力供給装置によって発生され、持続される。アークは、チャンバ内に閉じ込められたままであり、したがって非移行型と言われる。そのようなアークガスヒータの例は、米国特許第4,543,470号において示される。
【0005】
高出力動作を達成することは、高いアーク電圧および電流の組み合わせを暗示する。高電圧動作は、アークを長くすることによって達成可能である。より長いアークは、電極間の渦流安定化のかつ電気的に絶縁されたゾーンを通るようにアークを強制することによって得ることができる。この種のガスヒータは、「セグメント化された」または「制約された」と呼ばれる。現在の実施によると、電極腐食(erosion)が、過剰になることもあるので、最大許容電流は、制限される。
【0006】
非移行型アークは、ほとんどの場合直流(DC)を供給され、交流(AC)を使用することは実際、ACサイクルの各ゼロ交差におけるアークの反復中断に起因してより不安定な動作につながる。
【0007】
電気アークは、アーク電圧が、アーク電流の増加とともに減少する、特有のU-I(電圧-電流)特性を有する。これは、DC電力供給装置に対して調節の課題をもたらす負性微分抵抗に対応する。これらの課題は、「Electrical And Mechanical Technology of Plasma Generation and Control」、P. Mogensen and J. Thornblom、Chapter 6、Plasma Technology in Metallurgical Processingにおいて詳しく述べられている。
【0008】
DC電圧源と直列の安定抵抗器が、理論的にはアークの動作点を安定化するために使用されることもあり得るが、抵抗器における抵抗損は、過剰になる。
【0009】
この問題に対する第1の解決策は、トーチと直列の安定インダクタとシリコン制御整流器を組み合わせることであった。インダクタの役割は、調節器の連続的作用間の負荷への電流を安定させることである。整流器は、負荷を通る一定の電流を維持するように制御される。しかしながら、電子調節の待ち時間は、スイッチング周波数が、電源周波数の小さい倍数(典型的には6または12)であり、それ故に数百Hzに制限されるので、重要である。その結果、大きいインダクタンスが、必要とされる。
【0010】
上記の原理によるプラズマトーチ動作のための数メガワットDC電力供給装置を設計しようとする理論的試みは、「A study on medium voltage power conversion system for plasma torch」、Y. Suh、Power Electronics Specialists Conference、IEEE、2008年において与えられている。この中で、インダクタのサイズは、整流ユニットのスイッチング周波数に反比例することが認識されている。
【0011】
より近代的な手法は、スイッチングDC/DCコンバータが後に続く整流ユニットを備える最新式のDC電力供給装置の使用である。そのような切り替え装置は、メガワット範囲内の高電力のために設計されるときでさえ、2kHzなどの比較的より高い周波数において動作することができる。DC/DCコンバータは、定電流供給装置として振る舞うように調節される。このために、パルス幅変調チョッパが、使用され、パルス幅は、瞬間的なトーチ電流を設定点値と比較するフィードバックコントローラによって連続的に適合される。DC/DCコンバータはまた、チョッパパルスとグリッドとの間の分離も提供し、シリコン制御整流器に典型的な力率およびグリッド汚染の問題の大部分を解決する。
【0012】
この種の実現は、例えば米国特許第5,349,605号において例示される。
【0013】
インダクタの役割は、トーチの安定した動作を確保するのに最も重要である。上述の「Electrical And Mechanical Technology of Plasma Generation and Control」、P. Mogensen and J. Thornblom、Chapter 6、Plasma Technology in Metallurgical Processingにおいて述べられるように、出力インダクタンスのサイズは、3つの主要因、すなわち、(1)電気アークの点火後の電流増加率を制御ループが対処できるものに制限すること、(2)電力供給装置においてスイッチングデバイスによって生成される電流リップルを低減するために平滑効果を提供すること、および(3)プラズマトーチの起動中に中断のない電流を提供することによって決定される。
【0014】
安定インダクタのサイズが、特定の電力供給装置トポロジーがプラズマトーチ内の電気アークを安定させることができるか否かを決定するが、特定の設置に適したインダクタンスを導出するために従来技術において利用できる参考文献はない。実際には、「十分に大きい」インダクタが、教示され、それは実際のところ、これらのインダクタが、一般に設計が複雑過ぎることを意味する。しかしながら、そのようなインダクタは、プラズマ発生器が、数千アンペアにおいて動作することもあるので、数メガワットDC電力供給装置の投資の実質的部分を担う。インダクタのコストは実際、インダクタンスおよび最大電流とともに増減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,543,470号
【特許文献2】米国特許第5,349,605号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「Electric Arcs and Arc Gas Heaters」、E. Pfender、Chapter 5、Gaseous Electronics
【非特許文献2】「Electrical And Mechanical Technology of Plasma Generation and Control」、P. Mogensen and J. Thornblom、Chapter 6、Plasma Technology in Metallurgical Processing
【非特許文献3】「A study on medium voltage power conversion system for plasma torch」、Y. Suh、Power Electronics Specialists Conference、IEEE、2008年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によると、インダクタンスは好ましくは、ある範囲内で選択されるべきである。下限は、電流フィードバックループの安定性基準を満たすために必要とされる。上限は、ある最小電流リップルの必要性によって決定される。このリップルは、アークの長さをわずかに周期的に変える傾向があり、それによって電極上の腐食ゾーンを広げるので、望ましい。摩耗のこの広がりは、より高い電流動作を可能にする。
【0018】
従来のDC/DC PSU設計ルールに反して、必要とされる最小インダクタンスは、この場合、最小電流および電力供給装置を連続モードに保ちたいという要望によっては決められない。工業用トーチは実際、比較的高い電流だけの制限された範囲内で機能することを意図される。
【0019】
本発明は、特に非移行型電気アークガスヒータを駆動するためのDC電力供給装置に関し、電位U
0を提供するAC/DC整流器と、スイッチング周波数f
sを有するDC/DCスイッチングコンバータと、待ち時間τを有する電流制御ループと、インダクタンスLを有する安定インダクタとを備え、インダクタンスLが、
【0020】
【数1】
【0021】
および
【0022】
【数2】
【0023】
のようになることを特徴とする。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、非移行型電気アークガスヒータを動作させる方法に関し、ヒータが、500A RMSを超える電流を供給され、電流が、DC成分およびAC成分を含み、AC成分が、50AとDC成分の20%との間、好ましくは50AとDC成分の10%との間のピーク間振幅を有することを特徴とする。
【0025】
DC/DCコンバータは好ましくは、バック(buck)コンバータである。
【0026】
工業的応用に関しては、AC/DC整流器によって配送(delivered)される電位U
0は、好ましくは3000Vを上回るべきであり、負荷に配送される電力は、1から10MWの間であるべきである。そのような電力供給装置は特に、中空電極を有する非移行型セグメント化プラズマトーチに電力を供給するために適合される。
【0027】
U
0によって、AC/DC整流器の負荷時出力電圧(ボルト単位で)が、意味される。この電圧は、すべての条件において電気アークを持続するのに十分な電位を提供するために十分高くすべきであるが、それはまた、安定インダクタの最小必要サイズを増加させる。
【0028】
スイッチング周波数f
sによって、負荷への電流を調節するために使用されるパルス幅変調チョッパの周波数(ヘルツ単位で)が、意味される。
【0029】
制御ループの待ち時間τによって、電流をサンプリングすることとその後の制御作用との間の時間間隔(秒単位で)が、意味される。デジタル調節器の場合、それは、電流のサンプリングおよび平均化、A/D変換時間、および制御ループ計算を含む。待ち時間は、DC/DC変換ユニットの一部であるパルス幅変調器によって課せられる遅延を含む。短い待ち時間は、一般に有益であり、より小さい安定インダクタンスの使用を可能にする。
【0030】
我々は、高出力非移行型非セグメント化電気アークガスヒータについて、安定インダクタは、
【0031】
【数3】
【0032】
を超えるインダクタンスL(ヘンリー単位で)を有すべきであることを見いだした。
【0033】
プラズマトーチ内部の電気アークは特に、約10から100μsの時間スケールについて不安定である。この時間スケール内では、電気アーク基部(root)は、電極表面上を確率的に移動する。変動する電流は、基部の遊走をさらに促進することになり、それ故に電極摩耗を広げ、電極寿命を増加させる。本発明によると、この効果を高めるために、チョッパ内で生成される電流リップルが、使用される。
【0034】
DC/DCスイッチングコンバータにおいては、リップルは、チョッパのデューティサイクルが50%に達するときに最大である。その特定の場合には、リップルは、
【0035】
【数4】
【0036】
として表すことができる。二次的効果を無視すると、リップルは、D(1-D)として変化し、Dは、チョッパパルスのデューティサイクルである。
【0037】
従来のよくフィルタ処理されたDCを使用すると、我々は、500Aを上回る平均電流において、電極摩耗が、工業目的にとって高くなり過ぎることを学んだ。他方で、電極腐食は、少なくとも50Aピーク間の電流リップルが、重ね合わされると、驚くほどよく広がる。これは、早過ぎる電極腐食を避けながら、500から2000Aの間の平均電流に達することを可能にする。これは、低リップルを有するきれいな一定の電流出力を配送するように設計される、古典的な電力供給装置と対照をなす。安定インダクタへの制約は、50%の典型的なデューティサイクルおよび少なくとも50Aのリップル電流を仮定すると、
【0038】
【数5】
【0039】
として決定されてもよい。この方程式は、実際20から80%の間のデューティサイクルについて、すなわち工業用高出力プラズマのための実用的動作条件の範囲にわたって有効なままである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明を例示する図であり、(1)U
0のDC電圧を生成するAC/DC整流器と、(2)周波数f
sにおいて動作するパルス幅変調チョッパと、(3)インダクタンスLを有する安定インダクタと、(4)バックコンバータトポロジーの一部のフライバックダイオードと、(5)瞬間的なトーチ電流を報告するセンサと、(6)所望のトーチ電流または設定点値と、(7)瞬間的なトーチ電流を設定点値と比較する電流調節器と、(8)調節器の出力に基づいてチョッパのパルス幅変調を駆動するユニットと、(9)プラズマトーチとが、示される。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次の例は、本発明による装置を例示する。4MW電力供給装置は、3000V(U
0)の公称負荷下の(under nominal load)電圧を配送する整流ユニットと、2kHz(f
s)において動作するIGBTスイッチングデバイスを装備したチョッパユニットとを備える。
【0042】
安定インダクタは、2.5MWの公称電力定格を有する電気アークヒータと直列に置かれる。負荷への電流は、ホールプローブを使用して測定され、その値は、PID調節器に供給される。1000Aの電流設定点が、選択され、それは、この特定のトーチについては、約1450Vの電位に対応する。それ故にチョッパのデューティサイクル(D)は、約48%である。
【0043】
デジタルPID調節器は、1msの遅延を誘起し、チョッパは、0.5msのさらなる平均遅延を追加する。それ故に1.5msの制御ループ待ち時間(τ)が、考えられる。本発明によると、3mHの最小インダクタンスが、制御ループの安定性を確保するために必要とされる。
【0044】
最大インダクタンスは、本発明によると7.5mHと計算される。これは実際、50Aの所望のピーク間電流リップルを確保する。
【0045】
電極の寿命および電力供給装置の堅牢性(robustness)を最大にするために、4mHの値が、この特定の設置のために選択される。
【符号の説明】
【0046】
1 AC/DC整流器
2 パルス幅変調チョッパ
3 安定インダクタ
4 フライバックダイオード
5 瞬間的なトーチ電流を報告するセンサ
6 所望のトーチ電流または設定点値
7 電流調節器
8 チョッパのパルス幅変調を駆動するユニット
9 プラズマトーチ