(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ノニオン水溶性高分子(A)が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドン(PVP)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルカプロラクタム由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、ポリN−ビニルホルムアミドおよびポリN−ビニルホルムアミド由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の表面処理組成物。
前記ノニオン水溶性高分子(A)が、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
前記ポリビニルアルコール(PVA)または前記ポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体のけん化度が、60%以上である、請求項4に記載の表面処理組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、炭素原子のみ、または炭素原子と窒素原子とからなる主鎖を有するノニオン水溶性高分子(A)と;炭素原子のみからなる主鎖と、当該炭素原子のみからなる主鎖に結合している、スルホン酸基もしくはその塩を有する基またはカルボキシル基もしくはその塩を有する基を有する側鎖とを有するアニオン水溶性高分子(B)と;を含有し、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含む、研磨済研磨対象物の表面処理に用いられる、pHが9.0未満である、表面処理組成物である。
【0012】
かかる構成によって、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合のいずれをも有する研磨済研磨対象物表面のディフェクトを十分に除去することで研磨済研磨対象物の表面を処理できる。
【0013】
なお、本発明に係る組成物は、研磨済研磨対象物(基板)に残留する不純物(ディフェクト)を除去するが、その観点では、当該研磨済研磨対象物(基板)表面の表面状態を変化(処理)させると言える。そのため、当該組成物を「表面処理組成物」と称する。
【0014】
(CMP工程)
上記のように、本発明に係る表面処理組成物は、CMP工程後に使用される。
【0015】
ここで、CMP工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても、複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、あるいは、1次研磨工程後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程がある。また、CMP工程に使用される研磨用組成物としては、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合のいずれをも有する研磨対象物を適切に研磨するための、公知の研磨用組成物を適宜使用することができ、例えば、コロイダルシリカ等の砥粒や、PVPなどの水溶性高分子を含むもの等を好ましく用いることができる。また、研磨装置としても、一般的な研磨装置を使用することができ、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしても、ポリウレタンなどが好適である。
【0016】
このように、研磨対象物に対してCMP工程を施すことによって研磨済研磨対象物を作製する。
【0017】
(研磨済研磨対象物)
CMP工程が施される対象である「研磨対象物」は、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とをいずれも含む。よって、CMP工程が施された「研磨済研磨対象物」も、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含む。また、残留する不純物を除去することによって表面処理される「表面処理対象物」も、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含む。
【0018】
ここで、ケイ素−ケイ素結合を有する研磨対象物(研磨済研磨対象物)としては、ポリシリコン、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金等が挙げられる。ケイ素−窒素結合を有する研磨対象物(研磨済研磨対象物)としては、窒化ケイ素膜、SiCN(炭窒化ケイ素)等が挙げられる。
【0019】
補足すると、「ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とをいずれも含む研磨済研磨対象物」とは、研磨済研磨対象物であって、当該研磨済研磨対象物において、ある領域は「ケイ素−ケイ素結合」を含み、別の領域は「窒素−ケイ素結合」を含んでいるとの意味である。
【0020】
本発明の表面処理組成物によれば、従来では成し得なかった、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とをいずれも含む研磨済研磨対象物表面のディフェクトを十分に除去することができる。
【0021】
(表面処理組成物)
(ノニオン水溶性高分子(A))
本発明の表面処理組成物は、炭素原子のみ、または炭素原子と窒素原子とからなる主鎖を有するノニオン水溶性高分子(A)を含む。ここで「主鎖」とは、高分子を構成する鎖式化合物の主要な鎖を意味する。本発明のノニオン水溶性高分子(A)の主鎖は、炭素原子のみ、または炭素原子と窒素原子とからなる。かかる実施形態によれば、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0022】
また、本発明の好ましい実施形態において、前記ノニオン水溶性高分子(A)は、下記式(1):
【0024】
で示される構成単位を含み、Xが、下記:
【0026】
で示され、R
1〜R
6は、それぞれ独立して、水素原子または−Jであり、−Jが、水酸基、
【0028】
で示され、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素原子または−Eであり、−Eが、下記式:
【0030】
で示され、前記構成単位が、−Jおよび−Eの少なくとも一方を含む。
【0031】
かような表面処理組成物が、本発明の所期の効果を奏するメカニズムは以下のとおりと推測される。無論、本発明の保護範囲がかかるメカニズムに制限されない。すなわち、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合のいずれをも有する研磨済研磨対象物は一般的に水素原子が表面に存在するため水の接触角が高い。これに対し、かかる実施形態のノニオン水溶性高分子(A)を用いることによって、当該ノニオン水溶性高分子(A)が濡れ剤として働き、研磨済研磨対象物表面における水の接触角を低くする。そのことによって不純物を除去し易くするものと推測される。なお、本明細書中、*は結合位置を表す。
【0032】
本形態の(1)において、Xが、下記:
【0034】
であり、R
1〜R
4の少なくとも一つが−Jであり、−Jが、水酸基であることが好ましい。
【0035】
また、本形態の(2)において、Xが、下記:
【0037】
であり、R
1〜R
4の少なくとも一つが−Jであり、−Jが、
【0040】
また、本形態の(3)において、Xが、下記:
【0042】
で示され、R
1、R
2、R
5およびR
6の少なくとも一つが、水素原子であり、R
8は、−Eであり、−Eが、下記式:
【0045】
中でも、本発明の所期の効果を奏する観点から、本形態の(1)および本形態の(2)が好ましく、本形態の(1)がより好ましい。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、前記ノニオン水溶性高分子(A)が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドン(PVP)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルカプロラクタム由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、ポリN−ビニルホルムアミドおよびポリN−ビニルホルムアミド由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0047】
なお、前記ノニオン水溶性高分子(A)が、共重合体である場合、その形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、前記ノニオン水溶性高分子(A)が、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体、あるいは、ポリビニルピロリドン(PVP)またはポリビニルピロリドン(PVP)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体であることが好ましく、前記ノニオン水溶性高分子(A)が、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体であることがより好ましい。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0049】
また、本発明の好ましい実施形態において、前記ポリビニルアルコール(PVA)または前記ポリビニルアルコール(PVA)由来の構成単位を構造の一部に含む共重合体のけん化度が、60%以上である。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。また、本発明の好ましい実施形態において、けん化度が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0050】
本発明において、ノニオン水溶性高分子(A)の重量平均分子量は、ディフェクトを十分に除去する観点から、800以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、4,000以上であることがさらに好ましく、6,000以上であることがよりさらに好ましく、8,000以上であることがよりさらに好ましい。また、ディフェクトを十分に除去する観点から、80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましく、45,000以下であることがさらに好ましく、30,000以下であることがよりさらに好ましく、20,000以下であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって分子量が既知のポリスチレンを基準物質として測定する。
【0051】
ノニオン水溶性高分子(A)の含有量は、ディフェクトを十分に除去する観点から、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.08質量%以上であることがさらに好ましい。また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.2質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0052】
(アニオン水溶性高分子(B))
本発明の表面処理組成物は、アニオン水溶性高分子(B)を含み、前記アニオン水溶性高分子(B)は、炭素原子のみからなる主鎖と、側鎖とを含み、当該側鎖は、前記炭素原子のみからなる主鎖に結合し、かつ、スルホン酸基もしくはその塩の基またはカルボキシル基もしくはその塩の基を有する。かような表面処理組成物が、本発明の所期の効果を奏するメカニズムは以下のとおりと推測される。無論、本発明の保護範囲がかかるメカニズムに制限されない。すなわち、アニオン水溶性高分子(B)は分散剤として機能し、研磨済研磨対象物に残留する不純物を除去するものと推測される。なお、「側鎖」とは、「主鎖」から枝分かれしている鎖を言う。
【0053】
塩(特には、カウンターカチオン)としては、特に制限されないが、アンモニウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。
【0054】
スルホン酸基もしくはその塩の基、または、カルボキシル基もしくはその塩の基は、側鎖として、前記炭素原子のみからなる主鎖に直接結合されていてもよいし、他の結合基を介して、前記炭素原子のみからなる主鎖に結合されていてもよい。前記結合基としては、炭素数6〜24個のアリーレン基や、二価の酸アミドなどが挙げられる。なお、炭素数6〜24個のアリーレン基としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが好適である。
【0055】
本発明の好ましい実施形態において、前記アニオン水溶性高分子(B)が、下記式(2):
【0057】
で示される構成単位を含み、R
9は、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、水素原子、−COOR
12もしくは−Gであり、ただし、R
10およびR
11が、同時に水素原子になることはなく、−Gは、以下:
【0059】
であり、R
12、R
13およびR
15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基またはカウンターカチオンであり、R
14は、二価の基である。かかる実施形態によれば、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0060】
ここで、炭素数1〜12のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、イコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリーペンチル基、イソヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソデシル基が挙げられる。
【0061】
また、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基としては、前記炭素数1〜12のアルキル基の少なくとも1つの水素原子が水酸基に置換されているものが挙げられる。
【0062】
また、二価の基としては、炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜24個のアリーレン基などが挙げられる。炭素数1〜12のアルキレン基は、上記炭素数1〜12のアルキル基の水素を1つ取り除いた2価の置換基である。また、炭素数6〜24個のアリーレン基としては、フェニレン基や、ナフタレンジイル基等が好適である。
【0063】
また、カウンターカチオンとしては、アンモニウムイオンや、ナトリウムイオンなどが挙げられる。
【0064】
本形態の(1)においては、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11が、それぞれ、−COOR
12、水素原子であり、R
12が、水素原子またはカウンターカチオンである。この際、特に、pHが7.0未満であることが好ましく、5.0未満であることがより好ましい。
【0065】
また、本形態の(2)においては、前記アニオン水溶性高分子(B)は、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11が、それぞれ、−COOR
12、水素原子であり、R
12が、水素原子またはカウンターカチオンである構成単位と;R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11が、いずれも、−COOR
12であり、R
12が、水素原子またはカウンターカチオンである構成単位と;を含む。この際、無水物の形態になってもよい。
【0066】
また、本形態の(3)においては、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11が、いずれも、−COOR
12であり、R
12が、水素原子またはカウンターカチオンである。
【0067】
また、本形態の(4)においては、前記アニオン水溶性高分子(B)は、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11が、それぞれ、−COOR
12、水素原子であり、R
12が、水素原子またはカウンターカチオンである構成単位と;R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11の少なくとも一方が、−COOR
12であり、R
12が、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基である構成単位と;を含む。
【0068】
また、本形態の(5)においては、前記アニオン水溶性高分子(B)は、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11の少なくとも一方が−COOR
12であり、R
12が、水素原子またはカウンターカチオンである構成単位と;R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11の少なくとも一方が−Gであり、−Gが、
【0070】
であり、R
14は、二価の基であり、R
15は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基またはカウンターカチオンである。
【0071】
また、本形態の(6)において、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11の少なくとも一方が−Gであり、−Gは、以下:
【0073】
であり、R
13は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基またはカウンターカチオンである。
【0074】
また、本形態の(7)において、R
9が、水素原子またはメチル基であり、R
10およびR
11の少なくとも一方が−Gであり、−Gが、
【0076】
であり、R
14は、二価の基であり、R
15は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基またはカウンターカチオンである。
【0077】
中でも、本発明の所期の効果を奏する観点から、本形態の(1)または(2)が好ましく、本形態の(1)がより好ましい。この際、上記のように、特に、pHが7.0未満であることが好ましく、5.0未満であることがより好ましい。
【0078】
また、本発明の好ましい実施形態において、前記アニオン水溶性高分子(B)におけるR
10およびR
11の少なくとも一方が、−Gであり、−Gが、以下:
【0080】
であり、R
13は上記と同じであり、当該アニオン水溶性高分子(B)の重量平均分子量が、10万以上である。かかる実施形態によれば、本発明の所期の効果を効率よく奏することができる。
【0081】
本発明において、アニオン水溶性高分子(B)の重量平均分子量は、ディフェクトを十分に除去する観点から、400以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましく、2,500以上であることがよりさらに好ましい。また、8,000以上であってもよいし、10,000以上であってもよいし、30,000以上であってもよいし、50,000以上であってもよいし、80,000以上であってもよいし、100,000以上であってもよい。また、ディフェクトを十分に除去する観点から、1,000,000以下であることが好ましく、900,000以下であることがより好ましく、300,000以下であってもよいし、150,000以下であってもよいし、80,000以下であってもよい。また、本発明の所期の効果をより効率的に得るために、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、10,000以下がよりさらに好ましく、8,000以下が特に好ましい。
【0082】
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって分子量が既知のポリスチレンを基準物質として測定する。
【0083】
アニオン水溶性高分子(B)の含有量は、ディフェクトを十分に除去する観点から、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.2質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0084】
(pH)
本発明の表面処理組成物は、pHが9.0未満である。pHが9.0以上であると、本発明の所期の効果を奏することができない。なお、pHの値は、実施例の方法で測定された値を採用するものとする。
【0085】
本発明の表面処理組成物は、pHが9.0未満であれば特に制限されないが、好ましくは8.0未満であり、より好ましくは7.0未満であり、さらに好ましくは6.0未満であり、4.0未満であってもよいし、3.5未満であってもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、表面処理組成物のpHは、7.0未満である。また、本発明の表面処理組成物のpHは、1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。
【0086】
pHを調整する場合は、pH調整剤を用いることが好ましい。かかるpH調整剤としては、公知の酸、塩基、またはそれらの塩を使用することができる。
【0087】
pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、2−メチル酪酸、ヘキサン酸、3,3−ジメチル−酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。pH調整剤として無機酸を使用した場合、特に硫酸、硝酸、リン酸等が研磨速度向上の観点から特に好ましく、pH調整剤として有機酸を使用した場合、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、およびイタコン酸等が好ましい。
【0088】
pH調整剤として使用できる塩基としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、アンモニウム溶液、水酸化第四アンモニウム等の有機塩基、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、第2族元素の水酸化物、ヒスチジン等のアミノ酸、アンモニア等が挙げられる。
【0089】
これらpH調整剤の中でも、pH調整の容易性、不純物をより低減する観点から、硝酸、アンモニウム溶液、ヒスチジン等のアミノ酸がより好ましい。
【0090】
pH調整剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0091】
(分散媒)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、通常、分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0092】
水は、表面処理対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。
【0093】
(他の添加剤)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、不純物の原因となるため、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、防腐剤、溶存ガス、還元剤、酸化剤等が挙げられる。
【0094】
なお、本発明の表面処理組成物は、研磨顆粒(砥粒)を含まないことが好ましい。
【0095】
(表面処理組成物の製造方法)
なお、本発明においては、炭素原子のみ、または炭素原子と窒素原子とからなる主鎖を有するノニオン水溶性高分子(A)と;炭素原子のみからなる主鎖と、当該炭素原子のみからなる主鎖に結合している、スルホン酸基もしくはその塩を有する基またはカルボキシル基もしくはその塩を有する基を有する側鎖とを有するアニオン水溶性高分子(B)と;を混合させること、および、pHを9.0未満とすることを有する、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含む、研磨済研磨対象物の表面処理に用いられる、表面処理組成物の製造方法が提供される。
【0096】
上記の表面処理組成物の製造方法は、特に制限されないが、表面処理組成物を構成する各成分、および必要に応じて他の成分を、分散媒で攪拌混合することにより得ることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10〜40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0097】
(研磨済研磨対象物の表面処理方法)
上記のように、本発明の表面処理組成物を用いて、研磨済研磨対象物の表面から不純物を除去することによって、当該研磨済研磨対象物(基板)表面の表面状態を変化させる。その方法を「表面処理方法」と称する。よって、本発明においては、上記表面処理組成物を用いて、研磨済研磨対象物の表面処理を行うことを有する、研磨済研磨対象物の表面処理方法も提供される。
【0098】
表面処理方法は、上記表面処理組成物を用いる以外は、一般的な方法を用いることができる。例えば、研磨済研磨対象物(以下、「表面処理対象物」とも称する)を、表面処理組成物中に浸漬させる方法や、さらに超音波処理を行う方法、あるいは、表面処理対象物を、パッドを用いて回転処理しながら表面処理組成物を掛け流す方法などが挙げられる。パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。
【0099】
表面処理装置としては、研磨済研磨対象物等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、パッドを貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を援用することができる。
【0100】
ここで、パッドを用いて回転処理しながら表面処理組成物を掛け流す方法の場合の処理条件にも特に制限はなく、例えば、研磨済研磨対象物と、パッドとの圧力は、0.5〜10psiが好ましい。ヘッド回転数は、10〜100rpmが好ましい。また、定盤回転数は、10〜100rpmが好ましい。掛け流しの供給量に制限はないが、表面処理対象物の表面が表面処理組成物で覆われていることが好ましく、例えば、10〜5000ml/分である。また、表面処理時間も特に制限されないが、5〜180秒間であることが好ましい。
【0101】
このような範囲であれば、不純物をより良好に除去することが可能である。
【0102】
表面処理の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0103】
(水洗工程)
本発明においては、水による水洗工程を、本発明の表面処理方法の前、後またはその両方において行ってもよい。
【0104】
例えば、表面処理を行った面を、ブラシ(例えば、ポリビニルアルコール製)を使用して、純水を使って、回転数10〜200rpmで、10〜120秒間水洗を行うことができる。その後、回転数100〜2000rpmで、10〜120秒間、表面処理を行った研磨済研磨対象物を回転させることによって乾燥することができる。
【0105】
(半導体基板の製造方法)
本発明において、CMP工程が施される対象である研磨対象物は、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含むが、好ましくは、半導体基板として供されることを意図している。CMP工程後の研磨済研磨対象物の表面には、不純物が残留するが、本発明の表面処理組成物で、研磨済研磨対象物表面のディフェクトを十分に除去して半導体基板を製造することによって、半導体の電気特性に悪影響を与えることなく、デバイスの信頼性を向上させることができる。
【0106】
すなわち、本発明においては、上記表面処理方法によって、研磨済研磨対象物の表面を処理することを有する、半導体基板の製造方法も提供される。CMP工程後である研磨された研磨対象物(研磨済研磨対象物)の表面を上記表面処理方法によって処理することによって、不純物を有意に低減させた半導体基板を製造することができ、ひいては、半導体の電気特性の悪影響を抑制し、デバイスの信頼性を向上することができる。
【0107】
なお、本発明は、炭素原子のみ、または炭素原子と窒素原子とからなる主鎖を有するノニオン水溶性高分子(A)と;炭素原子のみからなる主鎖と、当該炭素原子のみからなる主鎖に結合している、スルホン酸基もしくはその塩を有する基またはカルボキシル基もしくはその塩を有する基を有する側鎖とを有するアニオン水溶性高分子(B)と;を含有し、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含む、研磨済研磨対象物の表面処理に用いられる、pHが9.0未満である、表面処理組成物であり、ケイ素−ケイ素結合と、窒素−ケイ素結合とを含む、研磨済研磨対象物の表面処理に好適に用いられる。その意味では、本発明の表面処理組成物は、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合の少なくとも一方を含む研磨済研磨対象物の表面処理にも好適に用いられる。よって、本願では、炭素原子のみ、または炭素原子と窒素原子とからなる主鎖を有するノニオン水溶性高分子(A)と;炭素原子のみからなる主鎖と、当該炭素原子のみからなる主鎖に結合している、スルホン酸基もしくはその塩を有する基またはカルボキシル基もしくはその塩を有する基を有する側鎖とを有するアニオン水溶性高分子(B)と;を含有し、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合の少なくとも一方を含む、研磨済研磨対象物の表面処理に用いられる、pHが9.0未満である、表面処理組成物も提供される。当該表面処理組成物の具体的な説明は、上記で行ったものを適用することができる。
【実施例】
【0108】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0109】
<研磨済研磨対象物の準備>
研磨対象物として、12インチのポリシリコンウェハ(厚さ:20×10
3Å)および12インチの窒化ケイ素ウェハ(厚さ:3×10
3Å)を準備し、これら研磨対象物をそれぞれ下記の研磨用スラリーAで下記の研磨条件で研磨することによって、それぞれの研磨済研磨対象物を得た。
【0110】
(スラリーA)
各原料を、混合温度:約25℃、混合時間:約10分で、純水中で混合することによって、砥粒(コロイダルシリカ;平均一次粒子径:35nm 平均二次粒子径:70nm)2質量%と、PVP0.1質量%とを含む、スラリーAを得た。
【0111】
(研磨条件)
研磨装置:荏原製作所製 FREX 300E
研磨パッド:Dow IC1010
ヘッド回転数:91rpm
研磨定盤回転数:90rpm
研磨済研磨対象物と、研磨パッドとの圧力:2psi
研磨用組成物供給量:300ml/分
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨時間:1分。
【0112】
<実施例1>
(表面処理組成物の調製)
成分1として表1に示されるPVA(成分(A))と、成分2として表1に示されるポリ(メタクリル酸ナトリウム塩)(成分(B))と、pH調整剤として硝酸と、を表1に示される組成となるように、純水中で混合することによって、表面処理組成物を調製した(混合温度:約25℃、混合時間:約3分)。なお、実施例、比較例で用いた「PVA」のけん化度は、95%以上であった。
【0113】
pHは、pHメータ(堀場製作所社製 型番:LAQUA)により確認した(液温:25℃)。
【0114】
重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した値を採用する。
【0115】
(表面処理工程)
上記で準備した各研磨済研磨対象物を、上記で調製した表面処理組成物を用いて、下記表面処理条件によって、表面処理を行った。
【0116】
(表面処理条件)
表面処理装置:荏原製作所製 FREX 300E
研磨パッド:Dow IC1010
ヘッド回転数:61rpm
定盤回転数:60rpm
研磨済研磨対象物と、研磨パッドとの圧力:1psi
表面処理組成物供給量:300ml/分
表面処理組成物の供給:掛け流し
表面処理時間:1分。
【0117】
(水洗工程)
表面処理を行った面を、ポリビニルアルコール製ブラシを使用して、純水を使って、回転数100rpmで、50秒間水洗を行った。その後、回転数1500rpmで60秒間、表面処理を行った研磨済研磨対象物を回転させることによって乾燥を行った。
【0118】
(ディフェクト数の評価)
表面処理を行い、水洗を行った後の研磨済研磨対象物である12インチウェハ全面におけるディフェクト(ポリシリコンウェハについては0.23μm以上のもの、窒化ケイ素ウェハについては、0.16μm以上のもの)の数を、KLA TENCOR社製SP−1を使用することによって評価した。
【0119】
具体的には、LPD(large particle distribution)値を、暗視野測定(Dark−field composited oblique channel)にて行った。結果を表1に示す。
【0120】
LPD値が高いほど悪いディフェクト性能を示すが、ポリシリコンウェハにおけるディフェクトの数が360個以下であり、かつ、窒化ケイ素ウェハにおけるディフェクトの数が820個以下であれば、ディフェクトの数が十分少ない、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合を有する、研磨済研磨対象物として、半導体基板に供することができると判断できる。
【0121】
なお、実施例においては、ポリシリコンウェハおよび窒化ケイ素ウェハのそれぞれを用いて評価を行ったが、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合のいずれをも有する研磨済研磨対象物を用いる場合も、同様の評価結果が得られると想定できる。
【0122】
<その他の実施例および比較例>
実施例1と同様に、表1に示される成分と、場合によってpH調整剤とを混合することによって、表面処理組成物を調製した。その後、上記と同様の方法で、表面処理、水洗を行い、評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
(考察)
本発明の表面処理組成物であれば、ポリシリコンウェハにおけるディフェクトの数が360個以下であり、かつ、窒化ケイ素ウェハにおけるディフェクトの数が820個以下であるため、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合のいずれをも有する研磨済研磨対象物表面のディフェクトを十分に除去することが示唆される。これに対し、比較例の組成物を用いると、ポリシリコンウェハにおけるディフェクトの数が360個超であったり、窒化ケイ素ウェハにおけるディフェクトの数が820個超であったりして、ケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合のいずれをも有する研磨済研磨対象物表面のディフェクトを十分に除去することができないことが示唆される。
【0129】
なお、本出願は、2016年9月21日に出願された、日本国特許出願第2016−184768号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。