特許第6880086号(P6880086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880086全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法及び全固体リチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880086
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法及び全固体リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20210524BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210524BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210524BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210524BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M10/0562
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-8087(P2019-8087)
(22)【出願日】2019年1月21日
(65)【公開番号】特開2020-119679(P2020-119679A)
(43)【公開日】2020年8月6日
【審査請求日】2019年6月4日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川橋 保大
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−029828(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/061654(WO,A1)
【文献】 特開2010−070431(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115547(WO,A1)
【文献】 特開2011−124086(JP,A)
【文献】 特開2019−160572(JP,A)
【文献】 特開2015−026455(JP,A)
【文献】 特開2012−256435(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182665(WO,A1)
【文献】 特開2011−181193(JP,A)
【文献】 特開2000−058053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/50 − 4/525
H01M 10/05 − 10/052
H01M 10/0562
C01G 51/00 − 51/12
C01G 53/00 − 53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がLiaNixCoyMn1-x-y2
(式中、0.98≦a≦1.05、0.9≦x≦1.0、0≦y≦0.10である。)
で表され、平均粒径D50が1.0〜5.0μmであり、残留アルカリ量が0.48〜2.0質量%であり、硫酸根の量が100〜6000wtppmである全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質。
【請求項2】
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、前記反応液中のpHを10.5〜11.5、アンモニウムイオン濃度を5〜25g/L、液温を40〜65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む、
組成式が複合水酸化物であるNixCoyMn1-x-y(OH)2
(式中、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)
で表される全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法により製造された前駆体を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me)とリチウムの原子数との比(Li/Me)が0.98〜1.05となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、
前記リチウム混合物を酸素雰囲気中、450〜520℃で2〜15時間焼成した後、さらに680〜850℃で2〜15時間焼成する工程と、
を含む、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体の平均粒径D50が1.0〜5.0μmである請求項2に記載の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体の硫酸根の量が100〜6000wtppmである請求項2または3に記載の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を備えた全固体リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法及び全固体リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレべリング用といった大型用途におけるリチウム二次電池についても、高エネルギー密度、電池特性向上が求められている。
【0003】
ただ、リチウムイオン電池の場合は、電解液は有機化合物が大半であり、たとえ難燃性の化合物を用いたとしても火災に至る危険性が全くなくなるとは言いきれない。こうした液系リチウムイオン電池の代替候補として、電解質を固体とした全固体リチウムイオン電池が近年注目を集めている。
【0004】
また、非水系電解質二次電池の正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)で代表されるリチウムコバルト複合酸化物とともに、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)で代表されるリチウムニッケル複合酸化物、マンガン酸リチウム(LiMnO2)で代表されるリチウムマンガン複合酸化物等が広く用いられている。
【0005】
ところで、コバルト酸リチウムは、埋蔵量が少ないため高価であり、かつ供給不安定で価格の変動も大きいコバルトを主成分として含有しているという問題点があった。このため、比較的安価なニッケルまたはマンガンを主成分として含有するリチウムニッケル複合酸化物またはリチウムマンガン複合酸化物がコストの観点から注目されている(特許文献1〜3)。しかしながら、マンガン酸リチウムについては、熱安定性ではコバルト酸リチウムに比べて優れているものの、充放電容量が他の材料に比べ非常に小さく、かつ寿命を示す充放電サイクル特性も非常に短いことから、電池としての実用上の課題が多い。一方、ニッケル酸リチウムは、コバルト酸リチウムよりも大きな充放電容量を示すことから、安価で高エネルギー密度の電池を製造することができる正極活物質として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/115544号
【特許文献2】特開2011−124086号公報
【特許文献3】国際公開第2015/008582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムニッケル複合酸化物の熱的安定性を改善させる方法として、焼成後のニッケル酸リチウムを水洗する技術が開発されている。焼成後のニッケル酸リチウムを水洗すれば、非水系電解質二次電池に採用した場合に、高容量で熱安定性や高温環境下での保存特性に優れた正極活物質が得られるとされている。しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物におけるニッケルの一部を他の物質と置換する場合、多量の元素置換(言い換えればニッケル比率を低くした状態)を行うと、熱安定性は高くなるものの、電池容量の低下が生じる。
【0008】
一方、電池容量の低下を防ぐために、少量の元素置換(言い換えればニッケル比率を高くした状態)を行った場合には、熱安定性が十分に改善されない。しかも、ニッケル比率が高くなれば、焼成時にカチオンミキシングを生じやすく合成が困難であるという問題点もある。したがって、ニッケルの一部を他の物質と置換したリチウムニッケル複合酸化物は種々開発されているものの、非水系電解質二次電池における高容量化や高出力化の要求に十分に対応しているとはいえない。
【0009】
そこで、本発明の実施形態は、全固体リチウムイオン電池に用いたときに優れた電池特性が得られる全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は一実施形態において、組成式がLiaNixCoyMn1-x-y2(式中、0.98≦a≦1.05、0.9≦x≦1.0、0≦y≦0.10である。)で表され、平均粒径D50が1.0〜5.0μmであり、残留アルカリ量が0.48〜2.0質量%であり、硫酸根の量が100〜6000wtppmである全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質である。
【0011】
本発明は、別の一実施形態において、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、前記反応液中のpHを10.5〜11.5、アンモニウムイオン濃度を5〜25g/L、液温を40〜65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む、組成式が複合水酸化物であるNixCoyMn1-x-y(OH)2(式中、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)で表される全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法である。
【0012】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、別の一実施形態において、前記前駆体の平均粒径D50が1.0〜5.0μmである。
【0013】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、更に別の一実施形態において、前記前駆体の硫酸根の量が100〜6000wtppmである。
【0014】
本発明は、更に別の一実施形態において、本発明の実施形態に係る前駆体の製造方法により製造された前駆体を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me)とリチウムの原子数との比(Li/Me)が0.98〜1.05となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、前記リチウム混合物を酸素雰囲気中、450〜520℃で2〜15時間焼成した後、さらに680〜850℃で2〜15時間焼成する工程とを含む全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法である。
【0015】
本発明は、更に別の一実施形態において、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を備えた全固体リチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、全固体リチウムイオン電池に用いたときに優れた電池特性が得られる全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の構成)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質は、組成式がLiaNixCoyMn1-x-y2(式中、0.98≦a≦1.05、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)で表される。
【0018】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質において、Liの組成が0.98未満では、リチウム量が不足して安定した結晶構造を保持しにくく、1.05を超えると当該正極活物質を用いて作製した全固体リチウムイオン電池の放電容量が低くなるおそれがある。
【0019】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の平均粒径D50は1.0〜5.0μmに制御されている。このような構成によれば、固体電解質と正極活物質との接触面積が大きくなり、正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が良好となる。当該平均粒径D50は1.5μm以上であってもよく、2.5μm以上であってもよい。また、当該平均粒径D50は3.5μm以下であってもよく、4.5μm以下であってもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質に含有される残留アルカリ量は0.3〜2.0質量%である。このような構成によれば、全固体リチウムイオン電池に用いたときに、ニオブ酸リチウム等との緩衝層を介した正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が向上し、優れた電池容量及び電池容量維持率が得られる。当該残留アルカリ量は1.5質量%以下であるのがより好ましく、0.7質量%以下であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質は硫酸根の量が100〜6000wtppmに制御されている。このような構成によれば、全固体リチウムイオン電池に用いたときに、ニオブ酸リチウム等との緩衝層を介した正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が向上し、優れた電池容量及び電池容量維持率が得られる。当該硫酸根の量は、200〜5000wtppmであるのがより好ましく、300〜3000wtppmであるのがより好ましい。
【0022】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体は、組成式が複合水酸化物であるNixCoyMn1-x-y(OH)2(式中、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)で表される。前駆体の平均粒径D50は1.0〜5.0μmであるのが好ましい。また、前駆体の硫酸根の量は100〜6000wtppmであるのが好ましい。
【0023】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、反応液中のpHを10.5〜11.5、アンモニウムイオン濃度を5〜25g/L、液温を40〜65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む。
【0024】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、このように反応液中のpH、アンモニウムイオン濃度、液温を一定の範囲内に制御しながら晶析反応させることを特徴としており、当該方法によって低アルカリ量であり、硫酸根の量が低減され、平均粒径D50が1.0〜5.0μmである前駆体を作製することができる。このため、結晶性の高い前駆体が得られ、当該前駆体を用いることで、焼成後の正極活物質が洗浄をしなくても残留アルカリが少なく、電池化学特性も良好となる。
【0025】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法においては、上述のように反応液中のpH、アンモニウムイオン濃度、液温を一定の範囲内に制御しながら晶析反応させるが、そのためには、例えば、(1)ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の混合水溶液、(2)アンモニア水、(3)アルカリ金属の塩基性水溶液の3つの原料を、反応槽に同時に少量ずつ連続供給して反応させる。一例を具体的に挙げると、10Lの反応槽に(1)ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の混合水溶液を0.60L/h、(2)アンモニア水を0.40L/h、(3)水酸化ナトリウムの水溶液を0.35L/hで同時に連続供給して晶析反応させてもよい。このように3つの原料を、反応槽に同時に少量ずつ連続供給して反応させることで、反応槽中の反応液のpHとアンモニア濃度の変動が良好に抑制され、反応液中のpHを10.5〜11.5、アンモニウムイオン濃度を5〜25g/Lに制御しやすくなる。
【0026】
上記(3)のアルカリ金属の塩基性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸塩等の水溶液であってもよい。また、当該炭酸塩の水溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液などの炭酸基の塩を用いた水溶液が挙げられる。
【0027】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法において、反応液中のpHを10.5〜11.5に制御しながら晶析反応を行うが、pHが10.5未満であると反応液中のニッケル溶解度が高くなり、生成する前駆体のNi比率が低下して、調整した金属塩の組成比から逸脱するおそれがある。またpHが11.5を超えると、生成する前駆体の粒径が小さくなり過ぎて、正極活物質の粉体密度が低下し、体積当たりのエネルギー密度が低下するおそれがある。反応液中のpHは10.7以上であってもよく、10.9以上であってもよく、11.3以下であってもよく、11.1以下であってもよい。
【0028】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法において、反応液中のアンモニウムイオン濃度を5〜25g/Lに制御しながら晶析反応を行うが、このような構成によれば、生成する前駆体を使用して作製した全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の残留アルカリ量を0.3〜2.0質量%に制御することができる。反応液中のアンモニウムイオン濃度は10〜22g/Lであることが好ましく、15〜20g/Lであることが更により好ましい。
【0029】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法において、反応液の液温を40〜65℃に制御しながら晶析反応を行うが、液温が40℃未満であると生成する前駆体の粒径が大きくなり過ぎて、正極活物質にした際に、固体電解質との接触面積が不十分となるので抵抗が大きくなる。その結果、充放電時のリチウムの移動が阻害されレート特性が低下するおそれがあり、65℃を超えると装置に不具合が生じるおそれやエネルギーコストの面で不利となるおそれがある。反応液の液温は45℃以上であってもよく、50℃以上であってもよい。また、反応液の温度は55℃以下であってもよい。
【0030】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法は、上述の方法で製造された前駆体を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me)とリチウムの原子数との比(Li/Me)が0.98〜1.05となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、リチウム混合物を酸素雰囲気中、450〜520℃で2〜15時間焼成した後、さらに680〜850℃で2〜15時間焼成する工程とを含む。当該リチウム混合物を680℃未満で焼成すると前駆体とリチウム化合物が十分に反応しないという問題が生じるおそれがあり、850℃超で焼成すると結晶構造からの酸素の脱離という問題が生じるおそれがある。
【0031】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法によれば、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、反応液中のpHを10.5〜11.5、アンモニウムイオン濃度を5〜25g/L、液温を40〜65℃に制御しながら晶析反応を行うことで前駆体を作製しているため、結晶性が高く、焼成時に良好に反応する遷移金属の前駆体を作製することができる。そして、これをリチウム源とLi/(Ni+Co+Mn)=0.98〜1.05のモル比で混合して450〜520℃で2〜15時間焼成した後、さらに680〜850℃で2〜15時間焼成することで、焼成後の正極活物質を洗浄しなくても、残留アルカリ量が低く、硫酸根の量も少ない全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を製造することができる。
【0032】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を備えた全固体リチウムイオン電池)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を用いて正極層を形成し、固体電解質層、当該正極層及び負極層を備えた全固体リチウムイオン電池を作製することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
以下に示す通り、試験例A1〜A11及び試験例B1〜B6にてそれぞれ酸化物系正極活物質前駆体及び酸化物系正極活物質を作製し、その平均粒径D50、残留アルカリ量、硫酸根の含有量を測定し、さらに当該正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池の電池特性を測定した。また、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)及びイオンクロマトグラフ法により、正極活物質のLi、Ni、Mn、Coの含有量を測定した。その分析結果から、当該正極活物質をLiaNixCoyMn1-x-yの金属組成で表した場合のa、x、yを求めた。その結果、後述の表1の正極活物質作製条件で示す組成と同様であることを確認した。なお、表1のLi/Me比は上記式中のaに対応する。
【0035】
−平均粒径D50−
酸化物系正極活物質の平均粒径D50は、Microtrac製MT3300EXIIにより測定した。
【0036】
−残留アルカリ量−
残留アルカリ量は、それぞれ生成した正極活物質の粉末1gを純水50mL中に分散し、10分間撹拌してろ過した後、ろ液10mLと純水15mLとの混合液を0.1NのHClで電位差測定して求めた。
【0037】
−硫酸根の含有量−
正極活物質の硫酸根の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)により測定した。
【0038】
−電池特性−
以下、全固体電池セルの作製はアルゴン雰囲気下のグローブボックス内にて行った。試験例A1〜A11、試験例B1〜B6で得られた酸化物系正極活物質をそれぞれLiOC25とNb(OC255にて被覆した後に、酸素雰囲気にて400℃で1時間焼成し、ニオブ酸リチウムのアモルファス層にて表面を被覆した正極材活物質を作製した。
次に、当該表面を被覆した正極材活物質75mgと硫化物固体電解質材料Li3PS425mgとを混合し、正極合材を得た。
また、硫化物固体電解質材料Li3PS480mgを、ペレット成形機を用いて5MPaの圧力でプレスし、固体電解質層を形成した。当該固体電解質層の上に正極合材10mgを投入し、30MPaの圧力でプレスして合材層を作製した。
次に、得られた固体電解質層と正極活物質層との合材層の上下を裏返し、固体電解質層側に、SUS板にLi箔(5mm径×厚み0.1mm)を貼り合わせたものを設け、20MPaの圧力でプレスしてLi負極層とした。これによって、正極活物質層、固体電解質層及びLi負極層がこの順で積層された積層体を作製した。
次に、当該積層体をSUS304製の電池試験セルに入れて拘束圧をかけて全固体二次電池とし、25℃電池初期特性(充電容量、放電容量、充放電特性)を測定した。なお、充放電条件は、充電条件:CC/CV 4.2V,0.1C、放電条件:CC 0.05C,3.0Vまでである。
【0039】
(試験例A1)
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの1.5moL/L水溶液をそれぞれ作製し、各水溶液を所定量秤量して、Ni:Co:Mn=80:10:10となるように混合溶液を調整して、撹拌翼を容器内部に設置した反応槽へ送液した。
次に、撹拌翼を稼働させながら、反応槽内の混合液のpHを11.3、アンモニウムイオン濃度15g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は60℃となるようにウォータージャケットで保温した。
また、反応で生成する共沈物の酸化を防止するために反応槽へ窒素ガスを導入した。反応槽へ導入するガスはヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどの酸化を促進しないガスであれば、上記の窒素ガスに限らず使用することができる。
共沈した沈殿物を吸引・濾過した後、純水で水洗して、120℃、12時間の乾燥をした。このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子の組成:Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2、平均粒径D50、硫酸根の量を測定した。
次に、複合水酸化物粒子のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム(Li)原子数との比(Li/Me)が1.01となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で500℃で4時間焼成した後、さらに800℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0040】
(試験例A2)
試験例A2は、試験例A1におけるNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が0.98とした以外、試験例A1と同様の条件でリチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を作製した。
【0041】
(試験例A3)
試験例A3は、試験例A1における反応槽内の混合液のpHを11.5、アンモニウムイオン濃度22g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は50℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.01となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で500℃で4時間焼成した後、さらに800℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0042】
(試験例A4)
試験例A4は、試験例A1における反応槽内の混合液のpHを10.8、アンモニウムイオン濃度9g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は50℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.03となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で500℃で4時間焼成した後、さらに760℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0043】
(試験例A5)
試験例A5は、試験例A1における共沈反応の各水溶液の混合割合を、Ni:Co:Mn=0.80:0:0.20となるように調整し、反応槽内の混合液のpHを11.5、アンモニウムイオン濃度25g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は60℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.0Mn0.20(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.02となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で520℃で4時間焼成した後、さらに850℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0044】
(試験例A6)
試験例A6は、試験例A5におけるNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.0Mn0.20(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.05となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で450℃で4時間焼成した後、さらに850℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0045】
(試験例A7)
試験例A7は、試験例A5における反応槽内の混合液の温度は65℃となるようにウォータージャケットで保温した以外、試験例A5と同様の条件でNi−Co−Mn複合水酸化物粒子を作製した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.0Mn0.20(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.01となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で450℃で4時間焼成した後、さらに820℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0046】
(試験例A8)
試験例A8は、試験例A1における共沈反応の各水溶液の混合割合を、Ni:Co:Mn=0.90:0.07:0.03となるように調整し、反応槽内の混合液のpHを10.5、アンモニウムイオン濃度14g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は65℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.90Co0.07Mn0.03(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が0.98となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で500℃で4時間焼成した後、さらに740℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0047】
(試験例A9)
試験例A9は、試験例A8におけるNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.90Co0.07Mn0.03(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.00とした以外、試験例A8と同様の条件でリチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を作製した。
【0048】
(試験例A10)
試験例A10は、試験例A8における反応槽内の混合液のpHを11.0、アンモニウムイオン濃度5g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は65℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.90Co0.07Mn0.03(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.00となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で500℃で4時間焼成した後、さらに740℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0049】
(試験例A11)
試験例A11は、試験例A1における共沈反応の各水溶液の混合割合を、Ni:Co:Mn=1.00:0:0となるように調整し、反応槽内の混合液のpHを11.3、アンモニウムイオン濃度5g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は40℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni1.0Co0.0Mn0.0(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.00となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で520℃で4時間焼成した後、さらに680℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0050】
(試験例B1)
試験例B1は、試験例A1におけるNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.00となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で520℃で4時間焼成した後、さらに650℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0051】
(試験例B2)
試験例B2は、試験例A1におけるNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.10Mn0.10(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が0.96とした以外、試験例A1と同様の条件でリチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を作製した。
【0052】
(試験例B3)
試験例B3は、試験例A5における反応槽内の混合液のpHを11.7、アンモニウムイオン濃度27g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は60℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.0Mn0.20(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.01となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で520℃で4時間焼成した後、さらに850℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0053】
(試験例B4)
試験例B4は、試験例A6におけるNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.80Co0.0Mn0.20(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.07とした以外、試験例A6と同様の条件でリチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を作製した。
【0054】
(試験例B5)
試験例B5は、試験例A8における反応槽内の混合液のpHを10.3、アンモニウムイオン濃度20g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は65℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni0.90Co0.07Mn0.03(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.01となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で500℃で4時間焼成した後、さらに740℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0055】
(試験例B6)
試験例B6は、試験例A11における反応槽内の混合液のpHを11.3、アンモニウムイオン濃度3g/Lとなるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi−Co−Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は35℃となるようにウォータージャケットで保温した。
このようにして作製されたNi−Co−Mn複合水酸化物粒子(組成:Ni1.0Co0.0Mn0.0(OH)2)のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム原子数との比(Li/Me)が1.00となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で520℃で4時間焼成した後、さらに680℃で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0056】
上記試験例A1〜A11及び試験例B1〜B6に係る試験条件及び評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】