(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880209
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/244 20060101AFI20210524BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20210524BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/147 B
H01J37/28 B
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-544101(P2019-544101)
(86)(22)【出願日】2017年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2017035499
(87)【国際公開番号】WO2019064496
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2020年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森下 英郎
(72)【発明者】
【氏名】揚村 寿英
【審査官】
関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−138611(JP,A)
【文献】
特開2014−123565(JP,A)
【文献】
特表2010−519698(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/092642(WO,A1)
【文献】
特開2000−133194(JP,A)
【文献】
国際公開第1999/046798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J37/00−37/02
37/05
37/09−37/18
37/21
37/24−37/244
37/252−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射電子線を発生する電子源と、前記照射電子線を試料上に集束させる対物レンズとを有する電子光学系と、
前記電子光学系の光軸外に配置され、前記照射電子線が前記試料に照射されることにより発生する信号電子を検出する検出器と、
前記信号電子を前記検出器に導く偏向場を形成する偏向電極と、
前記偏向場よりも前記電子源側に配置され、前記照射電子線を通過させる開口部を有する円盤状電極と、
前記偏向場よりも前記試料側に前記光軸に沿って配置される第1及び第2の制御電極とを有し、
前記試料及び前記対物レンズは基準電位とされ、
前記円盤状電極には前記基準電位よりも低い電位が印加され、前記第1及び前記第2の制御電極にはそれぞれ互いに異なる前記基準電位よりも高い電位が印加される走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の制御電極は、前記第1の制御電極よりも前記偏向電極側に配置され、
前記第2の制御電極に印加される電位は、前記第1の制御電極に印加される電位よりも高電位である走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1の制御電極は、前記試料より放出された前記信号電子を前記対物レンズに導くよう前記信号電子の軌道を制御し、
前記第2の制御電極は、前記対物レンズのポールピースを通過した前記信号電子の軌道を制御する走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1及び前記第2の制御電極に印加される電圧は、前記照射電子線の加速電圧よりも1桁以上小さい電圧である走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1において、
前記偏向場は、互いに対向して配置される第1の偏向電極とメッシュ状の第2の偏向電極とにより形成され、
前記第2の偏向電極は前記検出器側に配置され、前記第1の偏向電極よりも高電位とされる走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1において、
前記偏向場は、互いに対向して配置される第1の偏向電極と中空状の第2の偏向電極とにより形成され、
前記第2の偏向電極は前記検出器側に配置され、前記第1の偏向電極よりも高電位とされる走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1において、
前記偏向場と前記検出器との間に配置されるレンズ電極と、
前記レンズ電極と前記検出器との間に配置される減速電界フィルタとを有する走査電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1において、
前記偏向場と前記検出器との間に配置されるレンズ電極と、
前記レンズ電極と前記検出器との間に配置されるエネルギーアナライザとを有する走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、
前記試料は前記対物レンズの磁場内に配置される走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項において、
前記電子光学系は減速法を適用しない走査電子顕微鏡。
【請求項11】
照射電子線を発生する電子源と、前記照射電子線を試料上に集束させる対物レンズとを有する電子光学系と、
前記電子光学系の光軸外に配置され、前記照射電子線が前記試料に照射されることにより発生する信号電子を検出する検出器と、
前記信号電子を前記検出器に導く偏向場を形成する偏向電極と、
前記偏向場よりも前記電子源側に配置され、前記照射電子線を通過させる開口部を有する円盤状電極と、
前記偏向場よりも前記試料側に前記光軸に沿って配置される制御電極と、
前記偏向場と前記検出器との間に配置されるレンズ電極と、
前記レンズ電極と前記検出器との間に配置される減速電界フィルタまたはエネルギーアナライザとを有し、
前記試料及び前記対物レンズは基準電位とされ、
前記円盤状電極には、前記基準電位よりも低い電位が印加され、前記制御電極には前記基準電位よりも高い電位が印加され、
前記制御電極に印加される電圧は、前記照射電子線の加速電圧よりも1桁以上小さい電圧である走査電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項11において、
前記偏向場は、互いに対向して配置される第1の偏向電極とメッシュ状または中空状の第2の偏向電極とにより形成され、
前記第2の偏向電極は前記検出器側に配置され、前記第1の偏向電極よりも高電位とされる走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項11または請求項12において、
前記試料は前記対物レンズの磁場内に配置される走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項11または請求項12において、
前記電子光学系は減速法を適用しない走査電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電子に対する検出エネルギーの選別性能を有する走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
試料上に収束させた電子線を照射、走査した際に各照射位置で発生する信号電子を検出し、各点の信号強度を照射電子線の走査信号と同期して表示することで、試料表面の走査領域の二次元画像を得る走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下「SEM」という)が広く知られている。
【0003】
SEMで主要な検出対象となる信号電子は、そのエネルギーが数十eV以下の二次電子(Secondary Electron、以下「SE」という)、およびSEよりも高エネルギーかつ試料への照射エネルギー以下のエネルギーを持つ後方散乱電子(Backscattered Electron、以下「BSE」という)に分類される。一般的な試料に対し、エネルギーE
0の照射電子線を照射した際に発生するSEとBSEのエネルギー分布の例を
図1に示す。エネルギー分布3の信号電子がSE、エネルギー分布4の信号電子がBSEである。信号電子の発生量は照射エネルギーと入射電流量に依存するが、一般的にBSEよりもSEの方が多い。
【0004】
試料表面で発生するSEは、表面電位や表面凹凸形状に依存して発生量が変化する。このため、SEを選別して検出すると試料表面の電位や凹凸に関するコントラストが得られる。一方でBSEの発生量は電子線照射位置の原子番号や密度、結晶方位に依存する。このため、BSEを選別して検出すると試料表面の組成や結晶方位に関するコントラストが得られる。このように、SEとBSEとでは異なる試料情報を持つため、SEとBSEとを別々に検出することにより同一視野でコントラストの異なるSEM像が得られる。この必要性から近年、異なるエネルギー帯に含まれる信号電子を別々に検出できるように、複数の検出器を搭載したSEMが各装置メーカよりリリースされている。
【0005】
SEとBSEとは発生時のエネルギーが異なるため、検出器に到達するまでの軌道の違いや検出時のエネルギー感度の違いを利用することで、両者を別々に検出することができる。BSEを選別して検出する場合は、BSEよりも発生量の多いSEを検出しないようにするため、信号電子の軌道上にBSEよりも低エネルギーのSEを遮蔽する電位障壁が設けられる。実用的にはメッシュ電極で構成された減速電界方式のエネルギーフィルタを搭載した検出器でフィルタ電圧を変えることによって、エネルギーフィルタを通過するBSEのエネルギー閾値を制御してBSEの検出エネルギー帯を制御できる。この機能によって、SEM観察を通じて従来よりも豊富な試料情報を取得可能となる。
【0006】
同様の検出機能はSEに対しても有効であると考えられる。SEは表面電位や表面凹凸に関する試料情報を担うため、SEの検出エネルギー帯を制御することにより従来よりも表面電位や表面凹凸に関するコントラストが強調されたSEM像が得られると期待されるが、現状でそのようなエネルギー選別検出技術は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−186689号公報
【特許文献2】特開平8−138611号公報
【特許文献3】特表2003−532256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
BSEの選別検出やBSEの検出エネルギー帯の制御には、低エネルギーの信号電子を遮蔽するための電位障壁を信号電子の軌道上に設ければ良いのに対し、SEを選別検出する場合、低エネルギー電子のみを検出する検出系を構築するだけでは不十分である。この理由は、照射電子線と同程度のエネルギーを持つ電子が周囲の構造物にぶつかることによって、SEと同程度のエネルギーを持つ電子が試料上以外でも生成されるためである。
【0009】
SEMでSEを検出する場合、シンチレータ、ライトガイド、光電子増倍管により構成されたET(Everhart & Thornley)型の検出器が一般的に使用される。ET型検出器の感受面は金属蒸着されたシンチレータ(蛍光体)で構成され、金属蒸着面に+10 kV程度の正電位が印加される。試料上でエネルギー数eVで生成されたSEは約10 keVに加速され、シンチレータ面に衝突して光子を発生し、発生した光子が光電子増倍管によって電気信号として検出される。このため、試料上で発生したBSEがET型検出器の感受面周囲の構造物にぶつかって生成された低エネルギーの電子は、試料上で発生したSEと区別されずに一緒に検出されてしまう。このため、試料上で発生したBSEが直接的には検出されない検出器配置となっていても、BSE に起因して生成される低エネルギー電子がSEと混合して検出されてしまう場合がある。
【0010】
試料に磁界漏洩するセミインレンズ型対物レンズを搭載したSEMについて、試料上で生成されたSEの軌道の模式図を
図2に、BSEが周囲の構造物にぶつかって発生する低エネルギー電子の軌道の模式図を
図3に示す。いずれの場合も、SEは互いに対向配置された偏向電極24及び偏向電極25により形成される偏向場26に導かれる。偏向場26はSEを軸外検出器13に向けて導き、メッシュ状の偏向電極24を通過したSEが検出器13により検出される。
【0011】
図2、
図3に示す光学系においては、試料14、対物レンズ12の磁路、屋根電極23は基準電位(接地電位)とされている。
図2に示されるように、試料上で生成されたSE3は正電位が印加される制御電極27により加速されて偏向場26に導かれる。一方、
図3に示されるようにBSEが制御電極27や屋根電極23に衝突することによりSE6が発生し、SE6も同様に偏向場26に導かれることにより、検出器13により検出される。検出器13ではSE3とSE6とを区別することはできない。このような検出挙動は、磁場漏洩型の対物レンズを通過したSEを検出するTTL方式の検出系を適用したSEMで、高分解能が得られる短い作動距離(Working Distance、以下「WD」という)での観察条件において特に顕著となる。以上の理由により、SEのエネルギー選別検出を行う場合には、BSEに起因して励起される信号電子が混入しないように検出系を構成する必要がある。
【0012】
一般的に電子線が試料や周囲の構造物に衝突して発生する低エネルギー電子は、
図4に示すように、励起過程によってSE
13、SE
25、SE
36に分類される。照射電子線の照射位置の近傍で励起されるSEはSE
1と呼ばれる。また、BSE4が試料から放出される際に試料表面近傍で励起されるSEはSE
2、対物レンズ12のポールピースなど、試料以外の構造物にBSE4が衝突して励起される低エネルギー電子はSE
3と呼ばれる。SE
2とSE
3は共にBSEに起因して発生するため、これらを検出するとSEのコントラストは得られず、BSEのコントラストが得られる。SE
1、SE
2、SE
3をエネルギーによって識別することはできないため、SE
1の検出エネルギーを制御するためには、SE
2とSE
3の検出量を抑制した上で、SE
1が選別検出されるようエネルギー制御する必要がある。本実施例では原理的にSE
1との区別が難しいSE
2の混合検出は許容するものして、試料上以外の位置で発生するSE
3の検出量を抑制するものとする。
【0013】
後に詳しく説明するが、本実施例においてはSEの軌道を制御する目的で、信号電子の軌道上に設けられた電極(円盤状電極)に対して試料電位とは異なる電位を設定している。この点において共通する構成を有する先行技術文献として、特許文献1、特許文献2が見いだされた。
【0014】
特許文献1は減速電界形成手段を備えた走査電子顕微鏡において高効率にBSEを選択的に検出することを目的とする。両者を区別して検出するために、多くのSEが飛来する領域と多くのBSEが飛来する領域とで変換電極(検出電極)を分割している。二次電子、反射電子双方による画像を取得するときには、変換電極内周部に接地電位か負電位を印加し、変換電極外周部は接地電位とする。一方、反射電子のみによる画像を取得するときには、変換電極内周部に正電位を印加し、変換電極外周部は接地電位とする。しかしながら、二次電子のみによる画像の取得についての記述はない。
【0015】
また、特許文献2では、対物レンズを光軸方向に貫通するように配置された筒状の電極(ライナチューブ)に約10kVの高電位を設定することで、対物レンズと試料の間に電界を形成するブースティング法を適用した荷電粒子線装置が開示されている。特許文献2記載の装置では、ライナチューブを通過した2次電子を軸外空間に配置された検出器に導くために、対物レンズの上部空間に下向きの蓋状の補助電極を設け、検出器の2次入射口は補助電極により覆われ、かつ補助電極には試料よりも低い電位を設定している。特許文献2では、BSEについては記述されておらず、したがって本発明の課題に関連する記述もないが、特許文献2の装置でも、実際には高エネルギーのBSEは補助電極の上面に衝突し、BSE起因の2次電子が発生されることになる。
【0016】
なお、SEのエネルギー制御手段としてSEMにエネルギーアナライザを搭載することができる。エネルギーアナライザを用いることで、特定のエネルギー帯に含まれるSEのみを検出することができる。一般的にエネルギーアナライザは、特定の試料とエネルギーアナライザの配置に対し最適化された電極電圧を印加する必要があり、最適化された配置以外では所望のエネルギー選別検出ができない。このようなエネルギーアナライザをSEMの対物レンズよりも電子源側に搭載し、高い空間分解能と高い検出スループットを両立する構成が特許文献3に開示されている。
【0017】
特許文献3では対物レンズを通過したSEをエネルギー選別して検出することにより、短WDに設定でき高分解能観察が可能になる。具体的には対物レンズ上部に設けた偏向場によって、光軸上を進行するSEを軸外偏向してアナライザに導く構成となっている。特許文献3においても、特許文献1と同様に対物レンズと試料の間に減速電界(約2kV)を形成する構成である。このため、対物レンズに対し試料を傾斜して観察する場合や、対物レンズに対向するように試料を配置した時に電界分布の軸対称性が損なわれるような表面凹凸の大きい試料を観察する場合には適用することが難しく、観察対象に対する制約が大きい。
【0018】
本発明では、減速法を適用しない走査電子顕微鏡において、BSEに起因して励起されるSE
3の検出量を抑制し、試料上で発生したSE
1に対するエネルギー選別検出機能を備えた走査電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一実施の形態である走査電子顕微鏡は、照射電子線を発生する電子源と、照射電子線を試料上に集束させる対物レンズとを有する電子光学系と、電子光学系の光軸外に配置され、照射電子線が試料に照射されることにより発生する信号電子を検出する検出器と、信号電子を検出器に導く偏向場を形成する偏向電極と、偏向場よりも電子源側に配置され、照射電子線を通過させる開口部を有する円盤状電極と、偏向場よりも試料側に光軸に沿って配置される制御電極とを有し、試料及び対物レンズは基準電位とされ、円盤状電極には基準電位よりも低い電位が印加され、制御電極には基準電位よりも高い電位が印加される。
【0020】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0021】
BSEに起因して励起されるSE
3が検出器方向に偏向されにくくなることで、試料上で発生するSE
1を選別して検出器に導くことができ、SE
1の検出エネルギー帯を制御可能な検出系を搭載した走査電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一般的な信号電子のエネルギー分布を示す図である。
【
図2】SEMにおいてSEを検出する場合の課題を説明するための図である。
【
図3】SEMにおいてSEを検出する場合の課題を説明するための図である。
【
図4】発生過程ごとに分類した低エネルギー電子の定義を説明する図である。
【
図5A】SE
13が検出器に到達するまでの軌道(模式図)を示す図である。
【
図5B】偏向場を形成する電極配置を説明する図である。
【
図5C】偏向場を形成する電極配置を説明する図である。
【
図5D】偏向場を形成する電極配置を説明する図である。
【
図6】屋根電極上で発生したSE
36の軌道(模式図)を示す図である。
【
図7】制御電極上で発生したSE
36の軌道(模式図)を示す図である。
【
図9】試料を傾けた場合におけるSE
13が検出器に到達するまでの軌道(模式図)を示す図である。
【
図10】エネルギー選別のためにエネルギーアナライザを搭載したSEMの例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
SEMは、主に、試料14に対し照射電子線を照射するための電子源21、照射電子線の径を制限するためのアパーチャ、照射電子線を試料上に集束させるコンデンサレンズや対物レンズなどの電子レンズ、照射電子線を試料上で走査するための偏向器22、SEやBSEなどの信号電子を検出するための検出器13、信号電子を検出器13の方向に導くための偏向場26、試料14を置いて移動させ観察領域を決めるための試料台およびその機構、SEM像の表示装置、SEM全体を制御するコントローラ、真空排気設備などを有している。
図5Aは試料14から放出されたSE
13が検出器13に到達するまでの軌道(模式図)を中心に示している。
図6は試料14から放出されたBSE4により屋根電極23上で発生したSE
36の軌道(模式図)を中心に示している。
図7は試料14から放出されたBSE4により制御電極28上で発生したSE
36の軌道(模式図)を中心に示している。
【0025】
電子源21の構成は、冷陰極電界放出型、ショットキー放出型、熱電子放出型など、SEMで通常利用されている各種電子銃、およびそれに類似する構成を持つ電子銃は全て該当し、これらの中から所望とする観察性能に応じて適切な電子銃が選択される。
【0026】
SEMでは収束した照射電子線を試料上で走査するために偏向器22が搭載される。偏向器22の配置は電子光学系の光軸11に沿った位置であれば任意の位置で構わない。しかし、信号電子の軌道が偏向器22の偏向作用によって乱される悪影響を回避したい場合には、検出対象となる信号電子2の軌道外に偏向領域を構成する方が好ましい。この観点から、
図5Aに示すように、偏向器22は屋根電極23よりも電子源側に配置される構成が望ましい。
【0027】
対物レンズ12の通過に伴いレンズ磁場によって収束されたSEを光軸11の軸外に設置された検出器13に効率良く導くため、対物レンズ12は試料14の周囲に磁場漏洩する方式であることが望ましい。低エネルギーであるSEを漏洩磁場の作用により光軸11に沿って引き上げることができるためである。
図5Aでは、セミインレンズ型の対物レンズ12を示しており、セミインレンズ型の対物レンズ12は比較的大きな試料14に対し低レンズ収差を実現できる点で優位である。セミインレンズ型以外の磁場漏洩型の対物レンズ12として、透過電子顕微鏡と同様に狭い磁路のギャップ内に比較的小さい試料を配置する磁路インレンズ型の他、セミインレンズ型対物レンズの下磁路部分を試料室として構成することで比較的大きな試料14に対し磁路直下の空間を広く利用できる特徴を持つシングルポールレンズ型の対物レンズとしても構わない。インレンズ型、シングルポールレンズ型、およびこれに類似する方式のいずれの対物レンズについても、電子線が照射される試料が対物レンズの形成する磁場内に配置されるため、セミインレンズの場合と同様の効果が得られる。
【0028】
また、対物レンズ12の磁路と試料14は同電位とし、リターディング法やブースティング法などの減速光学系は適用されない構成とする。減速光学系が適用されている場合、試料14を載置するステージに傾きがあったり、試料14の表面凹凸が大きかったりすると、試料14にかかる電界分布の軸対称性が損なわれ、以下に説明する信号電子の軌道が、これに起因して大きく変わってしまうためである。逆に言えば、減速光学系を適用しないことにより、試料の傾斜観察や凹凸の大きい試料の観察にも対応できることで、幅広い試料に対してSE
1に基づく観察が行える。また、以下の説明では対物レンズ12の磁路や試料14は接地電位として説明するが、試料14の電位を基準電位として各電極の電位差が同じであれば電位を変えても電子軌道が保存される。このため、対物レンズ12の磁路や試料14の電位は接地電位に限定されるものではない。
【0029】
対物レンズ12の軸上磁場の最大強度位置よりも電子源側に、光軸外に搭載された検出器13に信号電子を導くための偏向場26が光軸11と直交する方向に印加される。照射電子線が進行する光軸上からSE
13を光軸外に分離する目的で光軸上に偏向場26を設ける場合、磁界偏向場よりも電界偏向場の方が効果的である。これは、減速光学系を適用しない光学系においてはBSEのエネルギーが照射電子線と同程度であるのに対して、SEのエネルギーは数eVと両者の間でかなりのエネルギー差が生じているところ、エネルギー差に起因する偏向感度の違いは、磁場偏向場よりも電界偏向場の方が大きい。このため、偏向場26は電界偏向場とした方が、より選択的にSEを検出器13に導くことができるためである。
【0030】
図5Aに示した偏向場26を形成する電極配置につき、
図5Bを用いて説明する。断面
図50に示すA線、B線、C線に沿った平面図をA平面51、B平面52、C平面53として示す。偏向場26を形成する屋根電極23、偏向電極24,25は保持部材20により保持されている。A平面51に示されるように、屋根電極23は照射電子線を通すための開口を有する円盤形状をしている。偏向電極24,25は軸外検出器13が配置される方向とそれと対向する方向に配置され、検出器13側に設置される偏向電極(メッシュ状電極)24が対向する偏向電極25よりも高電位となるように電圧が印加される。このとき、図に示すような等電位線30が形成される。
【0031】
図5Bの電極構成は一例であり、別の例を
図5C,
図5Dに示す。
図5Bのようなメッシュ状の電極を使わずに、検出器側の偏向電極24を中空状の偏向電極とし、より高電位の偏向電極25の周囲から漏洩する電場を利用して同等の偏向作用を得ることも可能である。
図5Cは断面
図60に示すA線、B線、C線に沿った平面図をA平面61、B平面62、C平面63として示すものであり、偏向電極25に対向するように中空状の偏向電極24が設けられた例である。このとき、図に示すような等電位線30が形成される。また、
図5Dは断面
図70に示すA線、B線、C線に沿った平面図をA平面71、B平面72、C平面73として示すものであり、偏向場26と検出系との間に中空状の偏向電極24が設けられた例である。このとき、図に示すような等電位線30が形成される。
【0032】
これらはいずれも偏向場26を電界偏向場として偏向場26を形成したものであるが、電界偏向場の印加領域に対して磁界偏向場が、電界偏向場と磁界偏向場が互いに光軸に対し直交する方向に印加される、所謂Wienフィルタの構成としてもよい。
【0033】
偏向場26の印加領域よりも電子源側には、照射電子線の通過孔を備えた円盤形状の屋根電極23が配置される。屋根電極23は試料14よりも低電位に設定される。本実施例のように、試料14が接地電位となっている場合、屋根電極23は負電位に設定される。屋根電極23に印加される電圧は偏向場26を印加する領域の電極形状に依存するが、典型的には試料14が接地電位(0V)となっている場合は、SE
13に対する電位障壁を設定するために、屋根電極23の電位V23は-10〜-30V程度に設定される構成が望ましい。試料14を接地電位(0 V)、屋根電極23の電位をV
roof V(<0V)とした場合、接地電位の試料上で生成したSE
13に対し、電荷素量eとしてエネルギー|eV
roof|以下のSE
13は屋根電極23に到達することができず、試料側に追い返される。
【0034】
一方、
図6に示されるように、電極電位V
roof Vの屋根電極23にBSE4が衝突して生成されたSE
36は、屋根電極23に負電位が印加されていることに起因して、接地電位とされた試料14で発生されたSE
13より|eV
roof|だけ大きなエネルギーを持つ。このため、エネルギーの高いSE
36は偏向場26によっては検出器13の方向には偏向されにくくなる。偏向場26を通り抜けたSE
36は、後述する試料側に設けられた制御電極28,29の電極電位によって捕捉される。このため、SE
13は軸外検出器13の方向に偏向される一方で、屋根電極23で生成されるSE
36は軸外検出器13では検出されにくい構成となる。
【0035】
偏向場26の印加領域よりも試料側には、信号電子の軌道を制御するための軸対称な筒状の電極28,29が対物レンズ12の磁路内壁に沿って配置される。本実施例では試料側に制御電極L29、電子源側に制御電極U28が配置される構成について示す。制御電極L29および制御電極U28は共に試料14よりも高電位に設定される。本実施例のように、試料14が接地電位となっている場合、制御電極L29および制御電極U28はともに正電位に設定される。
【0036】
制御電極L29と制御電極U28とは別々の役割を担う。
図5Aに示すように、制御電極L29は対物レンズ12の先端開口より僅かに電界漏洩させることによって、試料上で幅広い角度方向に放出されたSE
13を捕集して対物レンズ12の方向に導く役割を担う。これに対して、制御電極U28は、制御電極U28と偏向場26の間の領域にSE
13に対して適切な電界レンズ場を形成し、対物レンズ12のポールピースを通過したSE
13に対して偏向場26の印加領域の近傍でクロスオーバを形成する。加えて、
図6に示すように、屋根電極23上で生成され負電圧によって加速されて飛来するSE
36は制御電極U28の配置領域で捕捉する。また、
図7に示すように、制御電極L29にBSE4が衝突して生成されたSE
36は制御電極L29に正電圧が印加されていることにより低エネルギーとされ、偏向場26に達する前に制御電極U28の配置領域で捕捉される。
【0037】
照射電子線を試料14上に収束するために、対物レンズ12のレンズ磁界強度は試料14の位置(WD)や照射電圧に依存して変化する。このため、制御電極L29と制御電極U28とに異なる電圧を印加できるように構成することで、様々な収束条件に対して各制御電極の最適電圧を設定することができる。
【0038】
図6及び
図7に示した挙動に基づき、検出器13によるSE
36の検出量が抑制される。制御電極U28および制御電極L29に印加される電圧は偏向場26を印加する領域の形状に依存するが、典型的には制御電極U28の印加電圧V28は+100V、制御電極L29の印加電圧V29は+5〜+50 Vに設定される構成が望ましい。このように制御電極に印加される電圧は、照射電子線の加速電圧に比べると、1桁〜2桁のオーダーで小さい値である。このため、この程度の正電位では減速光学系としては機能せず、それぞれSE
13の軌道制御、SE
36の捕捉といった機能を果たす。
【0039】
なお、信号電子の軌道を制御するための制御電極の数は、SE
13が所望の軌道となるように、SE
13の軌道上に電場を形成できれば良く、電極数は2つに限定されるものではない。通常、走査電子顕微鏡ではWDや照射電圧の設定値が可変となっているものが多いが、WDや照射電圧の設定範囲をある程度制限して使用する場合には、
図8に示すように、制御電極を1つの制御電極27とし、制御電極27に適切な電圧値を設定することで、SE
13の軌道制御、SE
36の捕捉といった効果を得ることができる。
【0040】
また、本実施例に示す構成は減速光学系を適用しないため、
図9に示すように、対物レンズ12と試料14が機械的に干渉しない範囲内で試料14を傾斜した配置とした場合も、照射電子線の収束条件に対する悪影響が小さい。すなわち、試料14の傾斜角度によらず、試料14がSEMの光軸に対して垂直に対向している場合と同程度のSE
13に対するエネルギー選別検出効果が得られる。
【0041】
以上の構成によって、SE
13が選択的に軸外検出器13の方向に偏向される構成を実現できる。次に、SE
13の検出エネルギーを制御する方法について説明する。
【0042】
図5Aに示すSEMは、レンズ電極31,32と検出器13の感受面との間に減速電界フィルタ33を搭載した検出系となっている。検出器13の方向に偏向されたSE
13は、レンズ電極31,32によって形成されたレンズ電界によって収束され、検出器13の方向に導かれる。レンズ電極電圧は、試料上で発生したSE
13に対して最適値を設定することによって、
図6および
図7に示すように、屋根電極23上や制御電極L29上で発生したSE
36は検出器13の感受面にはほとんど到達しないように構成することができる。一部、検出器13の感受面に到達するSE
36も存在するが、その量は僅かであり、SE
13の検出エネルギー選別には影響しない。また、減速電界フィルタ33は照射電子線の通過領域から離れた位置に配置されているため、フィルタ電圧を変えてSE
13の通過エネルギーを変えても、照射電子線の収束条件には影響しない。このため、フィルタ電圧を変えて信号量を計測することで、SE
13のエネルギースペクトルを取得することも可能である。このように検出器13の検出面に至るSEを実質的にSE
1とすることができるため、エネルギースペクトルを取得する意味がある。従来のように、SE
1やSE
3が混在した状態でのSEに対してエネルギースペクトルを取得しても適切な試料情報を得ることはできないのは前述した通りである。
【0043】
検出器13は半導体検出器、アバランシェダイオード、マイクロチャネルプレート、チャネルトロン、ET型検出器(シンチレーション型検出器)などが考えられ、これらの中から、検出感度、応答速度、カウントレートなど、所望とする観察性能に応じて適切な検出器が選択される。
【0044】
図10に分光検出系にエネルギーアナライザを搭載したSEMの例を示す。
図10に示したSEMは、
図5Aに示したSEMとはエネルギー選別手段が異なり、
図5Aに示した減速電界フィルタ33の搭載領域にSE
13に対するエネルギーアナライザ41を搭載している。減速電界フィルタ33を搭載した場合と比べて検出スループットの低下は回避できないが、高エネルギー分解能が得られる点で優位である。
図5Aの構成と同様に、エネルギーアナライザ41は照射電子線の通過領域から離れた位置に配置されているため、エネルギーアナライザを構成する電極43、44の電極電圧を変えても照射電子線の収束条件には一切影響しない。このため、エネルギーアナライザ41の電極電圧を変えることで通過エネルギーを変えながら信号量を計測することで、SE
13のエネルギースペクトルを取得することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…照射電子線、2…信号電子、3…二次電子(SE
1)、4…後方散乱電子(BSE)、5…低エネルギー電子(SE
2)、6…低エネルギー電子(SE
3)、11…光軸、12…対物レンズ、13…検出器、14…試料、15…照射電子線と試料との相互作用領域、21…電子源、22…偏向器、23…屋根電極、24…偏向電極、25…偏向電極、26…偏向場、27…制御電極、28…制御電極U、29…制御電極L、31…レンズ電極、32…レンズ電極、33…エネルギーフィルタ、41…エネルギーアナライザ、43…内側偏向電極、44…外側偏向電極。