特許第6880571号(P6880571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880571磁性粒子を用いた水溶液中の微生物の回収方法および回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880571
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】磁性粒子を用いた水溶液中の微生物の回収方法および回収装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20210524BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20210524BHJP
   C12N 1/12 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   C12N1/00 Z
   C12M1/12
   !C12N1/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-101531(P2016-101531)
(22)【出願日】2016年5月20日
(65)【公開番号】特開2017-205085(P2017-205085A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 徳幸
(72)【発明者】
【氏名】謝 小毛
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 恵一
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0152376(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/027871(WO,A1)
【文献】 特開2016−059281(JP,A)
【文献】 特開2014−100121(JP,A)
【文献】 特開2005−082538(JP,A)
【文献】 特表2006−511935(JP,A)
【文献】 特表平03−505163(JP,A)
【文献】 特表2012−503766(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/016528(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/123781(WO,A1)
【文献】 日本化学雑誌第86巻第8号第817−813頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−5/28
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)微生物含有水溶液中で吸着または取り込みにより微生物を含有する磁性粒子を調製する工程と、
(2)前記工程(1)で調製した磁性粒子を磁気分離または濾過する工程とを含み、
前記工程(1)において、前記微生物含有水溶液中に水溶性鉄塩を添加して微生物を含有する磁性粒子が調製され、かつ
前記水溶性鉄塩が、塩化第一鉄と塩化第二鉄との混合物である、
水溶液中の微生物を回収する方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、微生物含有水溶液中にアルカリを添加して中和する請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、前記微生物含有水溶液中に高分子凝集剤を添加して、前記磁性粒子を濾過または磁気分離を行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物が、高度不飽和脂肪酸、天然色素、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、アルコール類、水素、糖質、脂質、タンパク質、脂肪酸、有機酸および炭化水素から選ばれる1つ以上の物質を生産する微細藻類である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記微細藻類が炭化水素を生産する微細藻類であって、該微細藻類がオーランチオキトリウム、ボトリオコッカス・ブラウニイ、シュードコリシスチス・エリプソイディアおよびシキゾリウムから選ばれる少なくとも1の藻類またはこれら藻類の変異株もしくは遺伝子組み換え株である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
微生物を含有する磁性粒子を調製する槽を備え、かつ、該槽に該磁性粒子を自動的に濾過または磁気分離を行うための機能が配備された、請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物含有水溶液中の微生物の回収を行うための回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の微生物を回収する方法及びそれに用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを用いた液体燃料、健康食品、医薬品、香粧品または動物性飼料等の製造は、持続的な経済発展に不可欠な技術である。例えば、光合成により炭化水素を生産する微生物の一種である微細藻類は潜在的生産能力の高さから期待が大きく、微細藻類を培養することで、炭化水素化合物などのバイオマスを産生させる様々な研究が既に行われている。
【0003】
微細藻類を用いてのバイオマスの生産には、効率的な微細藻類の培養方法、微細藻類の回収方法、更にはオイル等のバイオマスの抽出方法が開発されておらず、コストが高いという問題点がある。その最大の原因の一つが、微細藻類の効率的な回収方法がないことである。
【0004】
具体的には、微細藻類は通常、液中に浮遊しながら生育するため、微細藻類をバイオマスとして利用するためには、非常に希薄な濃度の微細藻類を大量の液中から回収しなければならない。加えて、微細藻類の生育のためには光エネルギーが必要であるが、十分な光の照射を確保するためには液中に存在する微細藻類の濃度を過度に高くすることが出来ない。
【0005】
結果として、液中に浮遊する微細藻類を回収するには、多量の水をろ過する必要があった。また、微細藻類のサイズは一般的に小さく、ろ過も容易ではなかった。このような問題を解決するための回収方法の検討として、沈殿剤を用いる方法、遠心分離機を用いる方法、微細藻類をより大型の生物の餌とした後に、該大型の生物を回収する方法などが試みられたものの、いずれの方法も根本的な解決には至っていない。
【0006】
また、生活排水等による水域内への栄養塩の供給と蓄積が要因として起こる富栄養価により、湖沼等の閉鎖性水域では、アオコ等の藻類の異常増殖が発生する。このような藻類の異常増殖により、水道の取水、水産、農業または観光の場としての水環境の利用への障害が生じる。このため、異常増殖した微細藻類を効率的に回収する浄化技術が必要とされている。
【0007】
これまでに、水中の微細藻類等の非磁性物質に対し磁性を付し、磁性フロックを形成させ、その後に、磁気分離装置で水中から微細藻類を分離回収する磁気分離方法が開発されている(非特許文献1)。この磁気分離法は、高磁場を利用することで高速分離処理が可能で、装置もコンパクトになること、物理的に処理するために化学薬剤を要しないこと等の利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】渡部恒雄、「新しい磁気分離工学の創成を目指して」、分離技術、Vol.32、No.5、pp.274−279(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1の技術では、非磁性物質に対し磁性を付与し、磁性フロックを形成させるための工程において時間および手間を要し、さらにはマグネタイトと磁性フロックの形成しやすさが藻類の形態によって異なり、微細藻類の種類によって回収率が変化するため、実用化しにくいという問題点がある。
【0010】
したがって、本発明は、微細藻類などの微生物を水溶液中から効率的、簡便かつ低コストで回収する方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、水溶液中の微生物を均一系で短時間に回収する方法を見出した。すなわち、本発明は下記の構成により達成されるものである。
【0012】
[1]以下の工程(1)および(2)を含む、水溶液中の微生物を回収する方法。
(1)微生物含有水溶液中で吸着または取り込みにより微生物を含有する磁性粒子を調製する工程
(2)工程(1)で調製した磁性粒子を磁気分離または濾過する工程
[2]前記工程(1)において、微生物含有水溶液中に水溶性鉄塩を添加して微生物を含有する磁性粒子を調製する、[1]に記載の方法。
[3]前記工程(1)において、微生物含有水溶液中にアルカリを添加して中和する[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記水溶性鉄塩が、塩化鉄、硫酸鉄又は硝酸鉄である、[2]または[3]に記載の方法。
[5]前記水溶性鉄塩が、塩化第一鉄と塩化第二鉄との混合物である、[4]に記載の方法。
[6]前記工程(2)において、前記微生物含有水溶液中に高分子凝集剤を添加して、前記磁性微粒子を濾過または磁気分離を行う、[1]〜[5]のいずれか1に記載の方法。
[7]前記微生物が、高度不飽和脂肪酸、天然色素、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、アルコール類、水素、糖質、脂質、タンパク質、脂肪酸、有機酸および炭化水素から選ばれる1つ以上の物質を生産する微細藻類である、[1]〜[6]のいずれか1に記載の方法。
[8]前記微細藻類が炭化水素を生産する微細藻類であって、該微細藻類がオーランチオキトリウム、ボトリオコッカス・ブラウニイ、シュードコリシスチス・エリプソイディアおよびシキゾリウムから選ばれる少なくとも1の藻類またはこれら藻類の変異株もしくは遺伝子組み換え株である、[7]に記載の方法。
[9]微生物を含有する磁性粒子を調製する槽を備え、かつ、該槽に該磁性粒子を自動的に濾過または磁気分離を行うための機能が配備された、[1]〜[8]のいずれか1に記載の微生物含有水溶液中の微生物の回収を行うための回収装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、微生物含有水溶液中で磁性粒子を調製することにより、均一系で迅速且つ効率的に微生物を取り込んだ磁性粒子を製造することができる。このようにして得られた微生物含有磁性粒子を濾過または磁気分離することで、簡便且つ効率的に水溶液中から微生物を分離、回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、回収前の試料を示す図である。(回収前)
図2図2は、回収後の試料を示す図である。(比較例1)
図3図3は、回収後の試料を示す図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水溶液中の微生物の回収方法は、以下の工程(1)および(2)を含む、水溶液中の微生物を回収する方法である。
(1)微生物含有水溶液中で吸着または取り込みにより微生物を含有する磁性粒子を調製する工程
(2)工程(1)で調製した磁性粒子を磁気分離または濾過する工程
以下、各工程について説明する。
【0016】
工程(1)
工程(1)は、微生物含有水溶液中で吸着または取り込みにより微生物を含有する磁性粒子を調製する工程である。本明細書において、「微生物を含有する磁性粒子」とは、微生物を吸着または取り込んだ磁性粒子をいう。微生物としては、高度不飽和脂肪酸、天然色素、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、アルコール類、水素、糖質、脂質、タンパク質、脂肪酸、有機酸および炭化水素から選ばれる1つ以上の物質を生産する微細藻類、細菌または菌類がより好ましく、該物質を生産する微細藻類がさらに好ましい。
【0017】
具体的には、微生物としては、例えば、天然物の色素の一種であるアスタキサンチン生産能を有する微細藻類[例えば、ヘマトコッカス藻(Haematococus pluvialis)、クロレラ・ゾフィンギエンシス(Chlorella zofigiensis)、クロロコックム属(Chlorococcum sp.)、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)、モノラフィディウム属(Monoraphidium sp.)など]、高度不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)またはEPA(エイコサペンタエン酸)の生産能を有する微細藻類[例えば、ピンギオクリシス属(Pinguichrysis sp.)、パブロバ属(Pavlova sp.)、フェダクチラム・トリコヌタム(Pheodactylum tricornutum)、ナノクロロプシス・オーシャニック(Nannochloropsis oceanic)など]が挙げられ、特に、炭化水素を生産する微細藻類[例えば、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)、クロレラ属(Chlorella sp.)、シリンドロテカ属(Cylindrotheca sp.)、ドナリエラ・プリモレクタ(Dunaliella primolecta)、イソクリシス属(Isochrysis sp.)、ナンノクロリシス属(Nannochloris sp.)、ナンノクロプシス属(Nannochloropsis sp.)、ネクロリス・オレオアブンダンス(Neochloris oleoabundans)、ニッチア属(Nitzschia sp.)、フェオダクチラム・トリコヌタム(Phaeodactylum tricornutum)、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)、テトラセルミス・スエシカ(Tetraselmis suecica)、シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)およびマイクロシスティス属(Microcystis sp.)など]が好ましく、より好ましくは該微細藻類がオーランチオキトリウム、ボトリオコッカス・ブラウニイ、シュードコリシスティス・エリプソイディアおよびシキゾリウムから選ばれる少なくとも1の微細藻類またはこれら微細藻類の変異株もしくは遺伝子組み換え株である。
【0018】
微生物含有水溶液としては、例えば、河川水、湖沼水、井戸水、水道原水、地下水、下水、廃水および公園の水等の環境中に存在する水試料、並びに微細藻類、細菌または菌類の培養液等が挙げられる。なお、水溶性物を含有する水溶液は必要に応じて、油水分離、濾過またはpH調整等の前処理を行ってもよい。
【0019】
本発明では、微生物含有水溶液中で磁性粒子を調製することによって、磁性粒子の調製過程において、磁性粒子中に微生物を吸着又は取り込んだ、微生物を含有する磁性粒子を調製することができれば、いかなる調製方法であってもよい。
【0020】
微生物を含有する磁性粒子の調製方法としては、例えば、微生物含有水溶液において、水溶性鉄塩を添加することにより、水溶液中で微生物を含有する磁性粒子を調製することができる。かかる磁性粒子の調製過程において、微生物と反応しつつ水溶性鉄塩が反応して、微生物を含有する磁性粒子が得られるものと推定され、かつ、かかる調製工程を経ることにより、微生物が非常に効率よく、かつ短時間で磁性粒子に吸着ないし取り込まれる。
【0021】
水溶性鉄塩としては、塩化鉄、硫酸鉄または硝酸鉄が利用できる。水溶性鉄塩としては、それぞれの2価及び3価の水溶性鉄塩の混合物が好ましく、特に、塩化第一鉄と塩化第二鉄との混合物が好ましい。微生物含有水溶液中への水溶性鉄塩の添加量は、塩化第二鉄は塩化第一鉄に対して2倍量であることが好ましく、より好ましくは1.23倍量である。
【0022】
更に、磁性粒子を効率よく調製するために、水溶液中にアルカリを添加して中和することが好ましい。アルカリを水溶液中に添加する時期は限定的ではないが、磁性粒子を製造するための原料化合物を水溶液中に添加した後であることが好ましい。アルカリは、磁性粒子の形成を助けるものであれば特に限定されないが、例えば、経済性および取扱性の観点から、水酸化ナトリウム、アンモニア水および尿素等が挙げられる。磁性粒子を調製するpHは8以上が好ましく、より好ましくは10以上である。また、撹拌することにより、磁性粒子の調製にかかる時間を短縮することができるため好ましい。
【0023】
磁性粒子としては、例えば、マグネタイト、酸化ニッケル、フェライト、コバルト鉄酸化物、バリウムフェライト、炭素鋼、タングステン鋼、KS鋼、希土類コバルト磁石およびヘマタイト等の磁性粒子が挙げられる。
【0024】
磁性粒子の濾過または磁気分離が可能であれば特に限定されないが、回収効率の観点から、磁性粒子の粒径は1〜10μmに調製することが好ましく、3〜7μmであることがより好ましい。
【0025】
工程(2)
工程(2)は、工程(1)で調製した磁性粒子を磁気分離または濾過する工程である。工程(1)で調製した磁性粒子は、そのままでも沈殿凝集し、分離することができるが、濾過または磁気分離をすることにより、迅速に且つ効率的に磁性粒子を回収することができる。磁気分離は、永久磁石、電磁石、超伝導磁石または磁気カラムなどの従来公知の方法を用いることができる。
【0026】
磁気粒子の濾過は、工業用濾紙、メンブランフィルタ、中空フィルタ、カートリッジフィルタ、ガラス濾紙または濾過板などの公知のフィルタを用いて、従来公知の方法により行うことができる。フィルタの孔径は特に限定的ではないが、濾過速度の向上、目詰まり防止の点で、0.2μm以上であることが好ましい。上限は特に限定的でないが、生成した磁性微粒子の濾過時の回収漏れを防ぐ点で、1μm以下であることが好ましい。
【0027】
更に、磁気分離または濾過の速度を速めるために、磁性粒子の調製後、高分子凝集剤を添加してもよい。高分子凝集剤は生成した磁性粒子を凝集できる凝集剤であれば特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸などのポリアニオン性高分子凝集剤が挙げられる。
【0028】
本発明の方法を適用できる微生物含有水溶液の微生物の濃度は特に限定的ではないが、1000ppm〜1ppmの微生物濃度の微生物含有水溶液に幅広く適用できる。なお、本発明において、微生物濃度(ppm)は、質量濃度[(微生物の質量)/(水溶液の体積)]を示す。
【0029】
また、本発明の方法における、微生物を含有する磁性粒子の調製工程及び濾過または磁気分離工程のそれぞれの温度及び処理時間も特に限定的ではないが、温度は好ましくは20〜100℃であり、より好ましくは50℃〜70℃である。
【0030】
また、適用する微生物含有水溶液の濃度、磁気分離に使用する磁石の磁力、濾過に使用するフィルタの性能にもよるが、本発明の方法を適用することにより、磁性粒子の調製工程は5分以内、好ましくは2〜3分程度と、従来の方法に比して大幅に時間を短縮することができ、濾過または磁気分離工程と併せても、好ましくは20分以内、より好ましくは10〜20分程度で微生物を分離・回収することができる。
【0031】
微生物含有水溶液を磁性粒子調製槽に導入した後、磁性粒子を生成させるために、上記温度の範囲とする操作は、金属塩及びアルカリを添加する前でもよく、金属塩及びアルカリを添加する間でもよく、金属塩及びアルカリを添加した後でもよい。
【0032】
生成した磁性粒子を含む反応液は、遠心分離等の分離操作によっても分離が可能であるが、濾過または磁気分離を用いることにより迅速かつ効率的な分離回収が可能となる。磁気分離の操作は、永久磁石、電磁石または超伝導磁石等の磁力を用いて、磁性粒子を反応液から分離する既知の方法、装置を用いることができる。
【0033】
また、微生物の回収効率は97〜99.9%であり、従来の処理効率よりも優れた微生物処理効率を達成することができる。また、回収される沈殿物も微生物の濃度により変化するが、水溶性鉄塩を使用した磁性粒子の使用量と比して微増程度であり、従来の方法と比較して格段に回収効率を向上することができる。
【0034】
また、本発明の方法によれば、磁性粒子調製槽に高濃度の微生物含有水溶液を導入し、上記方法に従い微生物を含有する磁性粒子を調製した後、該槽に自動的に磁性粒子を濾過または磁気分離するための機能を配備することにより、微生物を含有する磁性粒子を効率よく、かつ自動的に回収し、廃棄することができる。更に、該磁性粒子を回収した後の水溶液を上記磁性粒子の調製工程に再利用するように、処理装置を設計することが好ましい。
【0035】
具体的には、例えば、生成した磁性粒子を含む反応液を磁性粒子調製槽の外部に設置した磁石により磁集し、調製槽内に保持させ、反応液を排出させた後、磁石を取り除き磁性粒子を回収する方法、磁石を調製槽中に設置し、その表面に磁性粒子を磁収させた後、反応液と分離し、磁集した磁性粒子を磁石の表面から掻き落して回収する方法、磁場中に設置した磁性体カラムに反応液を通して、磁性体カラム内に磁性粒子を磁集した後、磁場を除き磁性粒子を回収する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
なお、オーランチオキトリウムの濃度の測定は、株式会社島津製作所社製UV−1700PharmaSpecを用いて、測定波長403nmで測定した。また、本実施例で使用した水は、ミリポア社製純水製造装置「Elix UV 35」によって精製された導電率14.7MΩcmの精製水である。
【0038】
<実施例1>
60mlのサンプル瓶にオーランチオキトリウム培養液(濃度0.03wt%、pH:9.97、高砂熱学工業(株)より入手)を25mlと塩化第二鉄・六水和物水溶液(濃度17.3w/v%)を0.312ml添加し、続いて塩化第一鉄・四水和物水溶液(濃度6.4w/v%)0.624ml添加し、室温で回転数300rpmにて2分攪拌した。攪拌を継続しながら8w/v%水酸化ナトリウム水溶液を5.5ml添加し、ウォーターバス中の液温が60℃に到達後、2分間攪拌を継続した。その後、攪拌を停止し、生成した磁性粒子と一緒にオーランチオキトリウムを4000Gのネオジウム磁石にて回収した。磁性粒子回収後の上清を採取し、透過率を測定した結果、100%であった。また、回収前の透過率は11.0%であった。
【0039】
<比較例1>
60mlの三口フラスコにオーランチオキトリウム培養液(濃度0.03wt%、pH:9.97、高砂熱学工業(株)より入手)を25mlと磁性粒子を0.05g添加し、室温で回転数300rpmにて2分攪拌した。その後、攪拌を停止し、生成した磁性粒子と一緒にオーランチオキトリウムを4000Gのネオジウム磁石にて回収した。磁性粒子回収後の上清を採取し、透過率を測定した結果、60.4%であった。また、回収前の透過率は11.0%であった。
【0040】
回収前の試料、回収後の比較例1の試料および回収後の実施例1を観察した結果を図1図3にそれぞれ示す。図1図3に示すように、実施例1では、比較例1に対し、高効率でオーランチオキトリウムが回収できたことが目視によっても確認された。
【0041】
上記の結果から、本発明の方法によれば、水溶液中から微生物を効率的かつ簡便に回収できることがわかった。
図1
図2
図3