【実施例】
【0036】
[熱収縮性改善前のポリプロピレン系微多孔膜の製造]
原料として、日本ポリプロ社製「ノバテックEA7AD」を使用した。これはMFR(JIS K6758(230℃、21.18N)に準拠して測定)が1.50g/10分、融点が158℃のポリプロピレンである。
【0037】
(工程1)上記原料ポリプロピレンを200℃で溶融混練し、単軸押出機を用いてTダイから押出し、厚さ23μmの原反フィルムを製造した。
【0038】
(工程2)上記原反フィルムを145℃で熱処理した。
【0039】
(工程3)工程2を経た原反フィルムを25℃で押出方向(MD)に1.06倍に冷延伸した。
【0040】
(工程4)工程3を経た延伸フィルムを130℃で押出方向(MD)に3.2倍に温延伸した。
【0041】
(工程5)工程4を経た延伸フィルムの長さが工程4の終了時の0.9倍になるように145℃で弛緩させた。
[参考例1]
こうして熱収縮性改善前の最終厚みが19.4μmのポリプロピレン系微多孔膜が得られた。このポリプロピレン系微多孔膜を参考例1として以下の観点で評価した。結果を表1に示す。
【0042】
(熱収縮率)
ポリプロピレン系微多孔膜から、押出方向70mm×幅方向70mmの正方形片をサンプル片として切り出す。このサンプル片に対し押出方向(MD)、幅方向(TD)に5cmの標線を引く。次にサンプル片に引いた押出方向の標線の長さLMD(t0)(mm)をノギスで小数点以下2桁まで測定する。次に、上記試験片を内部温度がt℃に保たれた恒温槽(トミー精工社製オートクレーブ)内で2時間加熱したあと、室温23℃に30分放置する。上記t℃における加熱処理の後の試験片について、押出方向の標線の長さLMD(2)(mm)を加熱前の測定と同様の要領で測定する。
【0043】
測定値を用い、以下の式(1)によりt℃における試験片の熱収縮率を算出する。加熱温度tを105℃、130℃、250℃に設定し、それぞれの熱収縮率S(t)(t=105℃、130℃、250℃)を求める。表1に示す値は、算出した熱収縮率:S(t)(%)の小数点以下1位の桁を四捨五入して得られた整数値である。
【0044】
【数5】
【0045】
(空孔率)
ポリプロピレン系微多孔膜から、押出方向120mm×幅方向50mmのサンプル片を切り出す。このサンプルについて以下の式(2)により空孔率(%)を算出する。
【0046】
【数6】
【0047】
(通気度)
一定容積(100mL)の空気が微多孔膜を通過する時間(秒)を通気度と呼ぶ。ポリプロピレン系微多孔膜から得られた押出方向120mm×幅方向50mmのサンプル片について、ガーレー試験機によりJIS P8117に準拠した方法で、23℃±2℃の温度下、50%±5%の湿度下の通気度を測定する。
【0048】
(押出方向(MD)の引張強度)
ポリプロピレン系微多孔膜から、押出方向120mm×幅方向10mmの5枚のサンプル片を切り出す。100℃恒温槽中で、島津製作所製引張試験機(オートグラフ AGS−X)を用いて、サンプル片1枚を押出方向に引張した。引張条件は、初期チャック間距離:50mm、引張速度:50mm/分、引張方向:サンプル片押出(MD)方向とする。サンプル片が破断した時点での引張力(N)を押出方向の破断荷重(N)として測定する。以下の式(3)にしたがってサンプル片の押出方向(MD)の引張強度:TS
MD(MPa)を算出した。5枚のサンプルのTS
MD(MPa)の平均値を表1に示す。
【0049】
【数7】
【0050】
(幅方向(TD)の引張強度)
ポリプロピレン系微多孔膜から、押出方向50mm×幅方向120mmの5枚のサンプル片を切り出す。100℃恒温槽中で、島津製作所製引張試験機(オートグラフAGS−X)を用いて、サンプル片1枚を幅方向に引張した。引張条件は、初期チャック間距離:50mm、引張速度:50mm/分、引張方向:サンプル片幅(TD)方向、最大引張力:10N/mm
2(フィルム断面積あたりの引張力)とする。サンプル片が破断した時点での引張力(N)を幅方向の破断荷重(N)として測定する。以下の式(4)にしたがってサンプル片の幅方向(TD)の引張強度:TS
TD(MPa)を算出した。5枚のサンプルのTS
TD(MPa)の平均値を表1に示す。
【0051】
【数8】
【0052】
(押出方向(MD)の引張伸度)
ポリプロピレン系微多孔膜から、押出方向120mm×幅方向10mmの5枚のサンプル片を切り出す。100℃恒温槽中で、島津製作所製引張試験機(オートグラフ AGS−X)を用いて、サンプル片1枚を押出方向に引張した。引張条件は、初期チャック間距離:50mm、引張速度:50mm/分、引張方向:サンプル片の押出(MD)方向、とする。初期時から破断時までのサンプル片の押出方向の伸び(mm)を測定した。以下の式(5)にしたがってサンプル片の押出方向(MD)の引張伸度:TE
MD(%)を算出した。5枚のサンプルのTE
MD(%)の平均値を表1に示す。
【0053】
【数9】
【0054】
(幅方向(TD)の引張伸度)
ポリプロピレン系微多孔膜から、押出方向50mm×幅方向120mmの5枚のサンプル片を切り出す。100℃恒温槽中で、島津製作所製引張試験機(オートグラフ AGS−X)を用いて、サンプル片1枚を幅方向に引張した。引張条件は、初期チャック間距離:50mm、引張速度:50mm/分、引張方向:サンプル片の幅(TD)方向、とする。初期時から破断時までのサンプル片の幅方向の長さを測定した。以下の式(6)にしたがってサンプル片の幅方向(TD)の引張伸度:TE
TD(%)を算出した。5枚のサンプルのTE
TD(%)の平均値を表1に示す。
【0055】
【数10】
【0056】
(突刺強度)
突刺強度の指標として、ポリプロピレン系微多孔膜表面に直径1mmの先端が球面形状の針を侵入速度100mm/分で突刺したときに針に働く最大荷重を(gf)を測定した。この最大荷重が大きいほどポリプロピレン系微多孔膜の突刺強度が高いと評価される。
【0057】
[実施例1〜7]
工程6として、上記ポリプロピレン系微多孔膜を、表1に示す加熱温度に維持されたロールで巻き取りながら搬送することによって加熱した。その押出方向(MD)の長さが表1に示す割合(長さ減少分(%))で加熱前に比べて短くなるように加熱ロールの回転速度を調節した。加熱処理を終えたポリプロピレン系微多孔膜を自然冷却した(工程7)。こうして、工程6の前後で押出方向の長さが適当な割合で減じたポリプロピレン系微多孔膜が得られた。これらを参考例1と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1〜3]
上記工程6に替えて、フィルム長さが変化しない熱処理を行なった。すなわち、上記ポリプロピレン系微多孔膜を、表1に示す加熱温度に維持されたロールで巻き取りながら搬送することによって加熱した。その押出方向(MD)の長さが加熱前と同じ(長さ減少割合が0%)になるように加熱ロールの回転速度を調節した。加熱処理を終えたポリプロピレン系微多孔膜を参考例1と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例では熱収縮率が極めて低いポリプロピレン系微多孔膜が得られた。実施例で得られたポリプロピレン系微多孔膜の空孔率は40%以上であり、セパレータ材としての機能が期待できる。実施例で得られたポリプロピレン系微多孔膜の通気度、引張強度、引張伸度は熱処理前と同等か、あるいは熱処理前より改善されている。このように、本発明の熱収縮性の改善方法を用いた実施例では、低熱収縮性を示し、しかも他の性能も優れたポリプロピレン系微多孔膜が得られた。
【0061】
これに対して比較例では実施例ほどにはポリプロピレン系微多孔膜の熱収縮性が改善されていない。しかも比較例で得られたポリプロピレン系微多孔膜は引張特性と突刺強度が劣る。
【0062】
このように、適度な温度域で適度な引張力の下で加熱処理を行う本発明の方法により、熱収縮性で問題のあったポリプロピレン系微多孔膜が改質され、セパレータ材としてより適した性質を示すようになった。