特許第6880778号(P6880778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880778
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】フルフラールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/50 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   C07D307/50
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-13341(P2017-13341)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-118945(P2018-118945A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】井澤 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 葉裕
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 賢
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−214086(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002397(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/066541(WO,A1)
【文献】 特開2015−180615(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/133540(WO,A1)
【文献】 特開2012−149008(JP,A)
【文献】 特開2016−088892(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103012335(CN,A)
【文献】 特開2016−101564(JP,A)
【文献】 Cai, Chiliu et al.,Conversion of Cellulose to 5-Hydroxymethylfurfural using Inorganic Acidic Catalysts in the Presence of Pressurized Water Steam,BioResources ,2017年,12(1),pp. 1201-1215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D307/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非可食バイオマス資源を原料として、溶媒の存在下、触媒を用いて反応槽中で反応させて糖液を得、該糖液を該反応槽中で反応させてフルフラールを製造する方法において、該反応槽内の反応液中のアルカリ金属濃度がアルカリ金属原子換算で1重量ppm以上0.3重量%未満で、リン濃度がリン原子換算で1重量ppm以上0.5重量%未満であり、前記触媒が、pKa3以上4.6以下の有機酸である、フルフラールの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属が、カリウムである、請求項1に記載のフルフラールの製造方法。
【請求項3】
前記リンがリン酸塩である、請求項1又は2記載のフルフラールの製造方法。
【請求項4】
前記反応液中の前記アルカリ金属濃度が10重量ppm以上0.2重量%未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルフラールの製造方法。
【請求項5】
前記有機酸が、乳酸、及び蟻酸のいずれか1種又は2種である、請求項1〜のいずれか1項に記載のフルフラールの製造方法。
【請求項6】
前記非可食バイオマス資源がバガスである、請求項1〜のいずれか1項に記載のフルフラールの製造方法。
【請求項7】
前記糖液を前記反応槽中で反応させてフルフラールを製造し、得られたフルフラールを含む反応液からフルフラールを回収するに当たり、有機溶媒を用いた2層分離を行い、該フルフラールを含む該有機溶媒層と前記アルカリ金属を含む水層とを分離することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のフルフラールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非可食バイオマス資源から得ることのできるフルフラールは、フルフリルアルコール、テトラヒドロフランの製造原料に用いることができ、それぞれフラン樹脂やPTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)といった植物由来のポリマー原料へ転換できる有用な化合物である。
【0003】
非可食バイオマス資源からフルフラールを製造するには、非可食バイオマス資源を溶媒中で触媒の存在下に反応させて、炭素数5の単糖(キシロース等)及び/または炭素数5の単糖を構成成分とする多糖(キシロオリゴ糖等)(以下、これらを「C5糖類」と称す。)を含む糖液を得、下記式に示すように、この糖液中の糖類を加水分解してキシロースとし、キシロースの異性化で生成したキシルロースを脱水反応させてフルフラールに変換する。反応溶媒には、通常水が使用される。
【0004】
【化1】
【0005】
非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する際のフルフラールの収率やフルフラール量(濃度)は、用いる非可食バイオマス資源によってある程度決められるが、従来法では、フルフラールを高収率で得ることができない場合があった。
【0006】
特許文献1には、糖類と水を含む水溶液中で、硫酸マグネシウムの存在下、糖類の脱水反応を行うフルフラール類の製造方法が提案されている。
この特許文献1の方法では、硫酸マグネシウムを存在させることで、フルフラールを温和な条件で製造できるとされており、用いる硫酸マグネシウムの量は、100重量部の水に対して3〜30重量部、好ましくは10〜25重量部とされている。即ち、マグネシウム濃度としては、水100重量部に対して0.6〜6重量部、好ましくは2〜5重量部であり、特許文献1の実施例では、D−グルコース25mg、硫酸水溶液1mL(約1000mg)、硫酸マグネシウム50mg(マグネシウム量は10mg)の反応液(反応液中のマグネシウム濃度は0.9重量%)で反応を行っている。
ただし、特許文献1に記載の方法は、グルコース、マンノース、ガラクトース、セロビオース、サッカロース、マルトース、及びセルロースからなる群より選択される少なくとも1種の糖類と、水と、硫酸、リン酸、及び塩酸から選択される無機酸とを含む水溶液中で、硫酸マグネシウムの存在下、糖類の脱水反応を行ってフルフラール類を製造する方法であって、非可食バイオマス資源を原料とするとの記載はなく、また、製造されるフルフラール類とは5−ヒドロキシメチルフルフラールを主体とする。
【0007】
また、特許文献2には、糖類、鉱酸、水及び有機溶媒の存在下、金属ハロゲン化物を添加するフルフラールの製造方法が提案されている。この特許文献2の実施例では、コーンコブ25重量%、硫酸0.15mol/L、塩化ナトリウム1重量%の条件で反応を行っている。ただし、特許文献2に記載の方法は、有機酸の使用や金属ハロゲン化物以外の金属塩に関する記載はなく、多量の硫酸と金属ハロゲン化物を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/002397号
【特許文献2】国際公開第2013/066541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来法では、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する際に、フルフラールを高収率で安定的に製造することができないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する際に、フルフラールを高収率で安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来法において、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する際に、フルフラールを高収率で安定的に製造することができないのは、副反応や高沸物の生成によるフルフラールの選択率、収率の低下、更には高沸物に起因する反応槽やその後段のフルフラール精製のための蒸留塔等の機器類の汚れや固着物によるトラブルといった非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する際に特有の課題が存在すること、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する反応槽内の反応液中のアルカリ金属及びリン濃度を所定の濃度範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[8]に存する。
【0012】
[1] 非可食バイオマス資源を原料として、溶媒の存在下、触媒を用いて反応槽中で反応させて糖液を得、該糖液を該反応槽中で反応させてフルフラールを製造する方法において、該反応槽内の反応液中のアルカリ金属濃度がアルカリ金属原子換算で1重量ppm以上0.3重量%未満で、リン濃度がリン原子換算で1重量ppm以上0.5重量%未満である、フルフラールの製造方法。
[2] 前記アルカリ金属が、カリウムである、[1]に記載のフルフラールの製造方法。
[3] 前記リンがリン酸塩である、[1]又は[2]に記載のフルフラールの製造方法。
[4] 前記反応液中の前記アルカリ金属濃度が10重量ppm以上0.2重量%未満である、[1]〜[3]のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。
[5] 前記触媒が、pKa3以上5以下の有機酸である、[1]〜[4]のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。
[6] 前記有機酸が、酢酸、乳酸、及び蟻酸のいずれか1種又は2種以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。
[7] 前記非可食バイオマス資源がバガスである、[1]〜[6]のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。
[8] 前記糖液を前記反応槽中で反応させてフルフラールを製造し、得られたフルフラールを含む反応液からフルフラールを回収するに当たり、有機溶媒を用いた2層分離を行い、該フルフラールを含む該有機溶媒層と前記アルカリ金属を含む水層とを分離することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のフルフラールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフルフラールの製造方法によれば、非可食バイオマス資源から糖液を得、この糖液からフルフラールを製造する反応槽内の反応液中のアルカリ金属及びリン濃度を所定の範囲内とすることにより、フルフラールを高収率で安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
本発明のフルフラールの製造方法は、非可食バイオマス資源を原料として、溶媒の存在下、触媒を用いて反応槽中で反応させて糖液を得、該糖液を該反応槽中で反応させてフルフラールを製造する方法において、該反応槽内の反応液が金属塩を含み、該反応液中のアルカリ金属濃度をアルカリ金属原子換算で1重量ppm以上0.3重量%未満、リン濃度をリン原子換算で1重量ppm以上0.5重量%未満とするものである。
【0016】
なお、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する方法は、非可食バイオマス資源からC5糖類を含む糖液を得る糖液製造工程と、この糖液中のC5糖類の脱水反応でフルフラールを得るフルフラール製造工程とがあるが、本発明においては、糖液製造工程とフルフラール製造工程は一つの反応器内で行ってもよく、それぞれ別の反応器内で行ってもよい。
【0017】
本発明のフルフラールの製造方法では、反応槽内の反応液のアルカリ金属含有量をアルカリ金属原子換算で1重量ppm以上0.3重量%未満とするが、この反応液のアルカリ金属濃度は、糖液製造工程からフルフラール製造工程にわたって、1重量ppm以上0.3重量%未満に維持されることが好ましい。
同様に、本発明のフルフラールの製造方法では、反応槽内の反応液のリン含有量をリン原子換算で濃度を1重量ppm以上0.5重量%未満とするが、この反応液のリン濃度は、糖液製造工程からフルフラール製造工程にわたって、1重量ppm以上0.5重量%未満に維持されることが好ましい。
【0018】
なお、ここで、「反応液」とは、反応槽内に存在する液をさし、通常、後述の原料となる非可食バイオマス資源、反応溶媒、触媒及び生成物の合計である。
【0019】
<非可食バイオマス資源>
本発明で用いる非可食バイオマス資源は、糖類を構成成分とする多糖類含んでいれば特に限定されないが、具体的には、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ミスカンサス、ケナフ、コーンストーバー、コーンコブ、ビートパルプ、パーム空果房、稲わら、麦わら、米ぬか、樹木、木材、植物油カス、ササ、タケ、パルプ類、古紙、食品廃棄物、水産物残渣、家畜廃棄物等が挙げられる。また、砂糖の製造工程で発生する糖蜜から砂糖を回収した後に残る廃糖蜜も非可食バイオマス原料として使用可能である。この中で、原料入手性とコストの観点からバガス、コーンストーバー、コーンコブ、稲わらが好ましく、バガス、コーンコブがより好ましく、バガスが特に好ましい。非可食バイオマス資源は、可食バイオマス資源と異なり、食用用途と競合せず、また通常であれば廃棄、焼却処理されるものが多いため、安定的な供給、資源の有効利用が図れる点で好ましい。
【0020】
これらの非可食バイオマス資源はそのまま使用することもできるし、酸処理や水熱処理等の前処理を行ってから使用することもできる。また、これらの非可食バイオマス資源は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、非可食バイオマス資源は固形物の状態で反応器に供給してもよいし、水等の溶媒と混合してスラリー状態にして供給しても構わない。
【0021】
非可食バイオマスの重量平均径は、取り扱い性と反応効率の面から、粒の最も長い部分の長さとして、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上が特に好ましい。また、50mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましく、10mm以下が特に好ましい。
【0022】
<C5糖類>
本発明で製造される糖液中のC5糖類は、非可食バイオマス資源由来であって、脱水反応によりフルフラールを製造することができるものであればよく、特に限定されない。
【0023】
炭素数5の単糖類(ペントース)としては、具体的にはリボース、リキソース、キシロース、アラビノース、デオキシリボース、キシルロース、リブロース等が挙げられる。これらの単糖の中でも、自然界、植物の構成成分となっていることから豊富に存在し、原料の入手容易性と収率の観点からキシロース、アラビノースが好ましく、キシロースがより好ましい。
【0024】
上記の炭素数5の単糖類を構成成分として有する多糖類としては、具体的には、キシロビオース、アラビノビオース等の2糖類;キシロトリオース、アラビノトリオース等の3糖類、上記2糖類や3糖類を含むキシロオリゴ糖、アラビノオリゴ糖等のオリゴ糖類、キシラン、アラバン、ヘミセルロースの多糖類が挙げられる。これらの多糖類の中でも、収率の観点からキシロオリゴ糖、キシラン、ヘミセルロースが好ましく、なかでもキシロオリゴ糖が特に好ましい。ここで、キシロオリゴ糖とは、2糖類、3糖類を主成分とし、更に4〜6糖類を含むものである。
【0025】
非可食バイオマス資源から得られる糖液中には、これらの単糖類と多糖類の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
また、糖液中には、C5糖類とは炭素数の異なるグルコースなどの単糖やグルカンなどの多糖が共存していてもよい。
【0026】
<糖液の製造反応>
非可食バイオマス資源から上記のC5糖類を含む糖液を製造する反応は、非可食バイオマス資源中のヘミセルロース分を加水分解反応して溶液に可溶なC5糖類を生成させる反応である。この反応は、C5糖類の生産性向上、得られるC5糖類の純度向上の観点から、反応溶媒及び触媒を用いて行われる。
【0027】
以下に、この糖液の製造反応について説明する。
【0028】
(非可食バイオマス濃度)
非可食バイオマス資源からの糖液の製造反応において、溶液中に含まれる非可食バイオマスの濃度は特に限定されないが、溶媒に対する非可食バイオマスの割合が0.1〜200重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜40重量%であり、さらに好ましくは10〜30重量%である。なお、ここで、「溶液」とは、後述の反応溶媒、非可食バイオマス原料及び触媒を含む反応溶液をさす。溶媒に対する非可食バイオマスの割合が上記下限値以上であると、反応後に溶媒の分離に必要なエネルギーが低くなる傾向があり、更には、反応系の容量を低減して装置設備の建設費も低減できる傾向にある。溶媒に対する非可食バイオマスの割合が上記上限値以下であると、副反応を抑制でき、C5糖類、更にはフルフラールの収率が高くなる傾向があり好ましい。
【0029】
(触媒)
非可食バイオマス資源からの糖液の製造反応で用いられる触媒は、非可食バイオマスからC5糖類を製造可能な触媒であればよく、特に限定されないが、硫酸、燐酸、硝酸、塩酸等の無機酸、カルボン酸、スルホン酸等の有機酸、ヘテロポリ酸といった酸触媒が挙げられる。これらの中でも、安定性、腐食性、廃棄物処理、単価の観点から有機酸が好ましく、特にカルボン酸が好ましい。
【0030】
カルボン酸の具体例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、レブリン酸、乳酸等の脂肪族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アコニット酸、イタコン酸、オキサロ酢酸、フマル酸、マレイン酸、cis−1,2−シクロペンタンジカルボン酸、trans−1,2−シクロペンタンジカルボン酸、cis−1,3−シクロペンタンジカルボン酸、trans−1,3−シクロペンタンジカルボン酸、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、trans−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、cis−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、trans−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、cis−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、クエン酸等の脂肪族トリカルボン酸;安息香酸、ナフタレンカルボン酸等の芳香族カルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、メロファン酸、プレニト酸、ピロメリト酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリト酸等の芳香族ポリカルボン酸;フランカルボン酸、フランジカルボン酸等の複素環カルボン酸;が挙げられる。また、これらの酸の少なくとも一部を中和した塩も用いることができる。
これらの中でも非可食バイオマスから得られる酸である蟻酸、酢酸、乳酸、レブリン酸が好ましく、とりわけ蟻酸、酢酸、乳酸が好ましい。
【0031】
特にC5糖類の収率の観点から、上記のカルボン酸の中でも酸解離定数pKaが3以上5以下、特に3.0以上4.6以下であるものが好ましい。ここで酸解離定数pKaとは、解離段が1の場合の数値とする。すなわち、2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸の場合、2個以上のカルボキシル基のうち少なくとも1個の水素イオンが脱離する場合の酸解離定数pKaを意味する。例えば、カルボキシル基を2個有するコハク酸では、通常、pKaは解離段が1の4.19と解離段が2の5.48となるが、本明細書では解離段が1の4.19をコハク酸のpKaとする。
【0032】
上記のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
スルホン酸の具体例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。また、これらの酸の少なくとも一部を中和した塩も用いることができる。
上記のスルホン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ヘテロポリ酸の具体例としては、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸、ケイバナドモリブデン酸等が挙げられる。また、これらの酸の少なくとも一部を中和した塩も用いることができる。
上記のヘテロポリ酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、上記カルボン酸、スルホン酸、ヘテロポリ酸は、2種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。また、触媒はプロセス内で分離してリサイクル使用することが好ましい。
【0036】
糖液製造反応において用いる触媒の量は、触媒の種類や反応条件等に基づき適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、好ましくは溶液量に対し0.01〜50重量%であり、より好ましくは0.5〜30重量%であり、特に好ましくは1〜20重量%である。触媒量が上記下限値以上であると、反応速度が速くなりC5糖類の生産性が向上する傾向がある。触媒量が上記上限値以下であると、副反応が抑えられてC5糖類の選択率が向上する傾向があり好ましい。
【0037】
(反応溶媒)
非可食バイオマス資源からの糖液の製造反応において用いる反応溶媒は、水、或いは、水と有機溶媒との混合溶媒である。即ち、水のみで反応を行うことが可能であるが、有機溶媒を添加して反応を行うこともできる。有機溶媒を用いる場合均一混合溶媒で反応を行うことができるが、水相と有機相の2相系となる有機溶媒も用いることができる。用いる有機溶媒の量は本発明の趣旨を損ねない限り、特に限定されないが、水に対して10〜5000重量%であることが好ましく、特に10〜1000重量%であることが好ましい。
【0038】
前記有機溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、テトラヒドロフラン等の炭素数4〜20のエーテル類;1−プロパノール、2−プロパノール等の炭素数3〜20のアルコール類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソドデカンなどの炭素数3〜12の飽和脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、1−メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、その他、スルホラン、イソソルビド、イソソルビドジメチルエーテル、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、水と均一混合溶媒となる水性溶媒または前述の酸触媒が溶解しにくい非極性溶媒であることが好ましい。このうち、2相系で反応を行う場合は、後述の2層分離におけるフルフラールの抽出効率および水への有機溶媒の溶解量低減の観点から、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、1−メチルナフタレン、シクロヘキサン、イソドデカン等の炭化水素溶媒や、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランが好ましく、特にトルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、1−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素溶媒が特に好ましい。
【0040】
上記有機溶媒は溶媒の回収、再利用を考慮すると単一溶媒のほうが好ましいが、2種類以上を用いても構わない。
【0041】
(反応液中のアルカリ金属濃度)
本発明のフルフラールの製造方法においては、反応液中のアルカリ金属濃度をアルカリ金属原子換算で1重量ppm以上0.3重量%未満とする。反応液中のアルカリ金属濃度が上記下限値以上であると、非可食バイオマス原料の加水分解とC5糖類の脱水によるフルフラール生成が促進される傾向にあり、フルフラールの収率を高めることができる。反応液中のアルカリ金属濃度が上記上限値以下であると、副反応を抑制し、高沸物の生成によるフルフラールの選択率、収率の低下、更には高沸物に起因する反応槽やその後段のフルフラール精製のための蒸留塔等の機器類の汚れや固着物によるトラブル等を防止して、フルフラールの製造、更には精製を安定に行って、フルフラールを高収率で得ることができるようになる。反応液中のアルカリ金属原子換算のアルカリ金属濃度は好ましくは10重量ppm以上0.2重量%未満、より好ましくは100重量ppm以上0.15重量%未満であり、特に好ましくは200重量ppm以上0.10重量%未満である。
【0042】
反応液に含まれるアルカリ金属としては、具体的にはナトリウム、カリウム、リチウムが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
アルカリ金属の形態に特に制限はないが、好ましくはアルカリ金属塩である。アルカリ金属塩としては例えば硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物がある。好ましくは硫酸塩、リン酸塩であり、特に好ましくはリン酸塩である。
【0043】
反応液中のアルカリ金属濃度を上記範囲内とする方法には特に制限はないが、アルカリ金属は、非可食バイオマス資源中に含まれて反応液内に持ち込まれる場合が多いことから、非可食バイオマス資源を糖液の製造に供するに先立ち、予め熱水処理、アルカリ処理、酸処理等で非可食バイオマス資源中のアルカリ金属量を低減しておく方法が挙げられる。具体的には、非可食バイオマス資源を高温の蒸気や熱水に接触させた後、固形残渣を糖液の製造に供する方法が挙げられる。
その他、反応後のアルカリ金属を含む溶媒をリサイクルする量を制御したり、アルカリ金属を反応液中に添加したり、アルカリ金属含有量の異なる非可食バイオマス資源の混合比率を制御したりすることによっても、反応液中のアルカリ金属濃度を上記範囲内とすることができる。
【0044】
(反応液中のリン濃度)
本発明のフルフラールの製造方法においては、反応液中のリン濃度をリン原子換算で1重量ppm以上0.5重量%未満とする。反応液中のリン濃度が上記下限値以上であると、非可食バイオマス原料の加水分解とC5糖類の脱水によるフルフラール生成が促進される傾向にあり、フルフラールの収率を高めることができる。反応液中のリン濃度が上記上限値以下であると、副反応を抑制し、高沸物の生成によるフルフラールの選択率、収率の低下、更には高沸物に起因する反応槽やその後段のフルフラール精製のための蒸留塔等の機器類の汚れや固着物によるトラブル等を防止して、フルフラールの製造、更には精製を安定に行って、フルフラールを高収率で得ることができるようになる。反応液中のリン原子換算のリン濃度は好ましくは10重量ppm以上0.4重量%未満、より好ましくは100重量ppm以上0.3重量%未満であり、特に好ましくは200重量ppm以上0.25重量%未満である。
【0045】
反応液に含まれるリンの形態に特に制限はないが、好ましくはリン酸塩であり、特に好ましくはアルカリ金属のリン酸塩である。
【0046】
反応液中のリン濃度を上記範囲内とする方法には特に制限はないが、リンは、非可食バイオマス資源中に含まれて反応液内に持ち込まれる場合が多いことから、非可食バイオマス資源を糖液の製造に供するに先立ち、予め熱水処理、アルカリ処理、酸処理等で非可食バイオマス資源中のリン量を低減しておく方法が挙げられる。具体的には、非可食バイオマス資源を高温の蒸気や熱水に接触させた後、固形残渣を糖液の製造に供する方法が挙げられる。
その他、反応後のリンを含む溶媒をリサイクルする量を制御したり、リン化合物を反応液中に添加したり、リン含有量の異なる非可食バイオマス資源の混合比率を制御したりすることによっても、反応液中のリン濃度を上記範囲内とすることができる。
【0047】
(反応液中の金属塩濃度)
本発明のフルフラールの製造方法においては、反応液中の金属塩濃度を10重量ppm以上0.5重量%未満とすることが好ましい。反応液中の金属塩濃度が上記下限値以上であると、非可食バイオマス原料の加水分解とC5糖類の脱水によるフルフラール生成が促進される傾向にあり、フルフラールの収率を高めることができる。反応液中の金属塩濃度が上記上限値以下であると、副反応を抑制し、高沸物の生成によるフルフラールの選択率、収率の低下、更には高沸物に起因する反応槽やその後段のフルフラール精製のための蒸留塔等の機器類の汚れや固着物によるトラブル等を防止して、フルフラールの製造、更には精製を安定に行って、フルフラールを高収率で得ることができるようになる。反応液中の金属塩濃度はより好ましくは50重量ppm以上0.48重量%未満、より好ましくは100重量ppm以上0.46重量%未満であり、特に好ましくは200重量ppm以上0.45重量%未満である。
【0048】
反応液に含まれる金属塩としては、アルカリ金属塩が挙げられ、具体的には、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物が挙げられるが、好ましくは硫酸塩、リン酸塩であり、より好ましくはアルカリ金属のリン酸塩、特に好ましくはリン酸カリウムである。
【0049】
反応液中の金属塩濃度を上記範囲内とする方法には特に制限はないが、金属塩は、非可食バイオマス資源中に含まれて反応液内に持ち込まれる場合が多いことから、非可食バイオマス資源を糖液の製造に供するに先立ち、予め熱水処理、アルカリ処理、酸処理等で非可食バイオマス資源中の金属塩量を低減しておく方法が挙げられる。具体的には、非可食バイオマス資源を高温の蒸気や熱水に接触させた後、固形残渣を糖液の製造に供する方法が挙げられる。
その他、反応後の金属塩を含む溶媒をリサイクルする量を制御したり、金属塩を反応液中に添加したり、金属塩含有量の異なる非可食バイオマス資源の混合比率を制御したりすることによっても、反応液中の金属塩濃度を上記範囲内とすることができる。
【0050】
(反応条件)
糖液製造反応の反応温度は特に限定されないが、具体的には100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上であって、250℃以下であることが好ましく、より好ましくは230℃以下である。反応温度が上記下限値以上であると、反応の進行が速くなる傾向があり、C5糖類製造の生産性が向上する。反応温度が上記上限値以下であると、C5糖類の逐次反応や分解を抑制し、C5糖類の収率を向上させる傾向があるため好ましい。
【0051】
加熱方法は特に限定されないが、熱交換器で反応液を昇温する方法、蒸気を反応液に直接導入する方法、反応後に分離した溶媒をリサイクルするなどして温度の高いプロセス内の液を用いて加熱する方法などが好ましく、熱エネルギーを効率的に用いる観点から温度の高いプロセス内の液を用いて加熱する方法が特に好ましい。
【0052】
糖液製造反応の反応時間は、原料や触媒の使用量、種類、反応温度により異なるが、具体的には0.02時間以上が好ましく、より好ましくは0.1時間以上、特に好ましくは0.2時間以上であって、5時間以下が好ましく、より好ましくは2時間以下、特に好ましくは1時間以下である。反応時間が上記下限値以上である場合には、反応の進行を促進し、C5糖類の収率が向上する傾向があり、反応時間が上記上限値以下であると、C5糖類の分解や逐次反応を抑制し、C5糖類の収率を向上させる傾向があるため好ましい。
【0053】
反応圧力は、反応温度によって好ましい範囲が変化するが、0.1〜5.0MPaGが好ましく、0.5〜3.0MPaGがより好ましく、1.0〜2.5MPaGが特に好ましい。
【0054】
(反応形式)
糖液製造反応の反応形式は特に限定されず、バッチ式でも半回分式でも連続式でもよく、これらを組み合わせた反応形式でもよい。生産性向上の観点からは、半回分式反応および連続式反応が好ましく、操作の簡易さの観点からはバッチ式反応が好ましい。また、固液接触の観点では回転式の反応器が好ましい。反応器は1器で行ってもよいし、複数系列を組み合わせてもよい。
【0055】
(固液分離)
糖液の製造反応後、反応液から非可食バイオマス資源の反応残渣を分離する固液分離方法は特に限定されないが、フィルタープレス、ベルトフィルター、スクリュープレス、ロールプレス、コンベヤードライヤー、オリバーフィルター、プレコートフィルター、ディスクフィルター、ベルトプレス、ギナ遠心分離装置、回転加圧脱水装置、多重円盤脱水装置、中空糸膜濾過装置、クロスフロー型遠心濾過脱水装置などを好ましく用いることができ、フィルタープレス、ベルトフィルター、ロールプレスがより好ましく、ロールプレスが特に好ましい。固液分離は糖液製造後に行ってもよいし、脱水反応によるフルフラール製造後に行ってもよいし、糖液やフルフラールの製造途中に行ってもよい。
【0056】
<フルフラール製造反応>
本発明で行われるフルフラール製造反応は、上記の糖液製造反応で得られた糖液中のC5糖類を、触媒の存在下で脱水反応させて、フルフラールを生成させる反応である。この脱水反応は、フルフラールの生産性向上、得られるフルフラールの純度向上の観点から、反応溶媒及び触媒を用いて行うことが好ましい。
【0057】
(糖液のC5糖類濃度)
上述の本発明のフルフラール製造原料用糖液の製造方法に従って製造され、フルフラール製造のための脱水反応に供されるフルフラール製造原料用糖液中のC5糖類の濃度は特に限定されないが、糖液中のC5糖類の割合で0.1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜30重量%であり、さらに好ましくは4〜10重量%である。糖液中のC5糖類の含有量が、上記下限値以上であると、脱水反応後、フルフラールと溶媒との分離に必要なエネルギーが低くなる傾向があり、更には反応系の容量が小さくなり、建設費も低減できる傾向にある。C5糖類濃度が上記上限値以下であると、副反応を抑制でき、フルフラールの収率が高くなる傾向があり好ましい。
【0058】
(触媒)
本発明のフルフラール製造反応で用いられる触媒は、C5糖類からフルフラールを製造可能な酸触媒であれば、特に限定されず、前述の非可食バイオマス資源からの糖液製造反応で用いられる触媒と同様のものを用いることができ、好ましい触媒についても前述の非可食バイオマス資源からの糖液の製造反応におけると同様である。
【0059】
フルフラール製造反応において用いる触媒の量は、触媒の種類や反応条件等に基づき適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、好ましくは溶液量に対し0.01〜50重量%であり、より好ましくは0.5〜30重量%であり、特に好ましくは1〜20重量%である。なお、ここで、「溶液」とは、後述の反応溶媒、C5糖類及び触媒を含む反応溶液をさす。触媒量が前記下限値以上であると、反応速度が速くなりフルフラールの生産性が向上する傾向がある。また、フルフラールは酸性条件下において重合する性質を有するため、触媒量が前述の上限値以下であると、副反応が抑えられてフルフラールの選択率が向上する傾向があり好ましい。
【0060】
(反応溶媒)
フルフラール製造反応において用いる反応溶媒は、水、或いは水と有機溶媒との混合溶媒であることが好ましい。即ち、非可食バイオマス資源からの糖液製造反応におけると同様、水のみで反応を行うことが可能であるが、有機溶媒を添加して反応を行うこともできる。コスト優位性の観点からは、反応溶媒として水のみを用いることが好ましく、フルフラールの収率向上の観点からは、反応溶媒として水と有機溶媒とを用いることが好ましい。
【0061】
有機溶媒の添加によって均一混合溶媒で反応を行うことができるが、フルフラールの重合や分解反応を抑制し、フルフラールの収率が向上するため、水相と有機相の2相系となる有機溶媒を用いることが好ましい。用いる有機溶媒の量は本発明の趣旨を損ねない限り、特に限定されないが、水に対して10〜5000重量%であることが好ましく、特に10〜1000重量%であることが好ましい。
【0062】
用いる有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、非可食バイオマス資源からの糖液製造反応で用いる有機溶媒として前述したものをいずれも用いることができ、好適な有機溶媒についても同様である。
フルフラールの製造反応においても、有機溶媒は溶媒の回収、再利用を考慮すると単一溶媒のほうが好ましいが、2種類以上を用いても構わない。
【0063】
(反応液中のアルカリ金属、リン、金属塩濃度)
本発明のフルフラールの製造方法においては、前述の通り、非可食バイオマス資源の前処理等を行うことにより、反応液中のアルカリ金属濃度、リン濃度及び金属塩濃度を前述の糖液の製造反応におけると同様の範囲とする。
【0064】
(反応条件)
フルフラール製造反応の反応温度は特に限定されないが、具体的には100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上であって、250℃以下であることが好ましく、より好ましくは230℃以下である。反応温度が上記下限値以上であると、反応速度が速くなる傾向があり、フルフラールの生産性が向上する。反応温度が上記上限値以下であると、フルフラールや原料糖の分解、重合を抑制し、フルフラールの収率を向上させる傾向があるため好ましい。
【0065】
フルフラール製造反応の反応時間は、糖液組成や触媒の使用量、種類、反応温度により異なるが、具体的には0.02時間以上が好ましく、より好ましくは0.1時間以上、特に好ましくは0.5時間以上であって、5時間以下が好ましく、より好ましくは2時間以下である。反応時間が上記下限値以上である場合には、反応の進行を促進し、転化率が向上することによりフルフラール収率が向上する傾向があり、反応時間が上記上限値以下であると、フルフラールが分解や重合を起こすことを抑制し、フルフラールの収率を向上させる傾向があるため好ましい。
【0066】
反応圧力は、反応温度によって好ましい範囲が変化するが、0.1〜5.0MPaGが好ましく、0.5〜3.0MPaGがより好ましく、1.0〜2.5MPaGが特に好ましい。
【0067】
(反応形式)
フルフラール製造反応の反応形式は特に限定されず、バッチ式でも半回分式でも連続式でもよく、これらを組み合わせた反応形式でもよい。生産性向上の観点からは、半回分式反応および連続式反応が好ましく、操作の簡易さの観点からはバッチ式反応が好ましい。連続式反応では連続管型反応器や連続槽型反応器を用いることができる。また、反応生成物であるフルフラールを生産しながら蒸留する反応蒸留方式でも構わない。例えば、国際公開第2013/102027号に記載されているようにフルフラール製造反応器を反応蒸留形式としてフルフラールと水の混合物を連続的に抜き出す方法や国際公開第2012/115706号に記載されているように有機溶媒を用いてフルフラールを水相から連続抽出する方法などを用いることも出来る。反応蒸留方式の場合、減圧で実施しても常圧で実施してもいずれでも構わない。反応器は1器で行ってもよいし、複数系列を組み合わせてもよい。
【0068】
<フルフラールの回収>
上記のようにして、糖液中のC5糖類の脱水反応で得られたフルフラールを含む反応液(以下「粗フルフラール」と称す場合がある。)からフルフラールを回収するには、この粗フルフラールを、有機溶媒を用いて、フルフラールを含む有機溶媒層とアルカリ金属を含む水層とに2層分離した後、有機溶媒層に含まれるフルフラールを蒸留分離等で精製して製品のフルフラールを得ることが好ましい。
【0069】
2層分離によるフルフラールの抽出に用いる有機溶媒は、前述の通り、フルフラールの抽出効率、有機溶媒の水への低溶解量の観点からトルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、1−メチルナフタレン、シクロヘキサン、イソドデカン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランが好ましく、特にトルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、1−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素溶媒が特に好ましい。
【0070】
抽出溶媒の使用量は、粗フルフラールに対して10重量%以上500重量%以下、特に20重量%以上400重量%以下、とりわけ40重量%以上300重量%以下であることが好ましい。
抽出溶媒の使用量が上記下限値未満であるとフルフラールの抽出効率が低下するため経済的に不利となる。上記上限値を超えると、排水中への溶媒混入が増加し、溶媒そのものの損失であったり排水中の溶媒除去が必要となるためやはり経済的に不利である。
【0071】
従って、反応槽中に含まれる有機溶媒量が上記下限値よりも少ない場合には、2層分離に際して、有機溶媒を添加して不足量を補うことが好ましい。なお、通常、脱水反応液中の有機溶媒量が上記上限値を超えることは殆どないが、上記上限値を超える場合は、有機溶媒を2層分離で除去するか、水を添加すればよい。
【0072】
この2層分離により、アルカリ金属は水層側に分配されるため、この水層を反応系に循環使用する場合は、反応液中のアルカリ金属、リン、金属塩濃度が前述の範囲内となるように、水層の循環水量を制御したり、循環する水層のアルカリ金属やリン、金属塩の除去処理を行ったり、適宜新水を補給したりしてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
なお、以下の実施例において、粗フルフラール中のフルフラール(FRL)量の分析はガスクロマトグラフィー(GC)により行い、内部標準法(内部標準物質としてジオキサンを使用)により算出した。
機器名:島津製作所社製ガスクロマトグラフィーGC2014
分離カラム:アジレント・テクノロジー DB−1
【0075】
また、糖液中の各糖の含有量は、液体クロマトグラフィー(LC)により以下の条件で分析した。
機器名:Waters Alliance 2690 東ソーCO−8010
分析カラム:Shodex Sugar KS−801 300mm×8.0mm + Shodex Sugar KS−802 300mm×8.0mm
移動相:水
検出器:RI
試料は水系のクロマトディスク(0.45μm)で濾過し、その濾液を測定に用いた。
【0076】
また、反応液中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属濃度は、誘導結合プラズマ発光分析計(サーモサイエンティフィック社製iCAP6500Duo、ペルチェ冷却有機溶媒導入システム)にて、有機溶媒直接導入法により分析を行って求めた。
【0077】
[実施例1]
<フルフラールの製造>
200mLミクロオートクレーブに、バガス(重量平均径1mm〜3mm)を16g、反応溶媒として脱塩水を61g、リン酸二水素カリウムを0.32g(カリウム原子濃度として0.11重量%、リン原子濃度として0.09重量%)、触媒として乳酸を2.4g入れて、容器を密閉した後、内部空間を窒素で置換した。内容物を撹拌しながら170℃まで昇温し、170℃、1.4MPaGで30分、加熱撹拌して反応を行った。
反応終了後、撹拌を維持しながら室温まで放冷し、オートクレーブ中の反応液を全量回収し、これを粗フルフラールとした。
【0078】
粗フルフラール中のFRL量を測定し、仕込バガス量(脱水反応に供したバガス量として換算)に対するフルフラールの重量割合(百分率)をバガスベースFRL収率として算出した。
また、このバガス中のC5糖量はバガス100gに対し0.18molであった。
【0079】
[実施例2]
実施例1におけるフルフラールの製造において、反応時間を60分としたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0080】
[実施例3]
実施例1におけるフルフラールの製造において、反応時間を90分としたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0081】
[実施例4]
実施例1におけるフルフラールの製造において、反応時間を120分としたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0082】
[実施例5]
実施例1におけるフルフラールの製造において、リン酸二水素カリウムを0.08g(カリウム濃度として0.03重量%、リン原子濃度として0.02重量%)としたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0083】
[比較例1]
実施例1におけるフルフラールの製造において、リン酸二水素カリウムの代わりに硫酸マグネシウムを4g(マグネシウム濃度として1.01重量%、リン原子濃度として0.0001重量%未満)加えたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0084】
[比較例2]
比較例1におけるフルフラールの製造において、硫酸マグネシウムを0.4g(マグネシウム濃度として0.1重量%、リン原子濃度として0.0001重量%未満)加えたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0085】
[比較例3]
実施例1におけるフルフラールの製造において、リン酸二水素カリウムの代わりに塩化カリウムを0.16g(カリウム濃度として0.11重量%、リン原子濃度として0.0001重量%未満)加えたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0086】
[比較例4]
実施例1におけるフルフラールの製造において、リン酸二水素カリウムを加えなかったこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0087】
[比較例5]
実施例1におけるフルフラールの製造において、リン酸二水素カリウムを2.1g(カリウム原子濃度として0.73重量%、リン原子濃度として0.82重量%)加えたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0088】
[比較例6]
実施例1におけるフルフラールの製造において、リン酸二水素カリウムの代わりにリン酸三カルシウムを0.21g(カリウム原子濃度として0.13重量%、リン原子濃度として0.05重量%)加えたこと以外は全て同様に実施した。結果を表1に示した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から、以下のことが言える。
すなわち、実施例1〜5と比較例1〜6の対比より、非可食バイオマス資源からフルフラールを製造する際に、反応液にアルカリ金属がアルカリ金属換算で1重量ppm以上0.3重量%未満、リンがリン原子換算で1重量ppm以上0.5重量%未満存在することでフルフラールを効率的に得ることができることが分かる。