(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880904
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/06 20060101AFI20210524BHJP
C10B 55/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
C10B57/06
C10B55/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-61969(P2017-61969)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162427(P2018-162427A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安楽 太介
(72)【発明者】
【氏名】平原 聡
【審査官】
三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−129064(JP,A)
【文献】
特開2016−183330(JP,A)
【文献】
特開2015−174934(JP,A)
【文献】
特開平09−100473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 1/00−57/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビトリニット最大平均反射率が0.5〜1.5%、最高流動度が2.0〜2.5log
−ddpmであるコークス製造用石炭と軟化開始温度が200〜300℃、流動温度範囲
が250〜350℃、揮発分が15〜23重量%である粘結材とを混合し、乾留するコー
クスの製造方法。
【請求項2】
前記コークス製造用原料炭と前記粘結材の合計量に対し、前記粘結材の含有量が0.5
〜10重量%である、請求項1に記載のコークスの製造方法。
【請求項3】
前記コークス製造用石炭中に、非微粘結炭が20〜80重量%含まれる、請求項1又は
2に記載のコークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度のコークスを歩留まり良く製造するコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄用のコークスは、高炉内において、還元剤、熱源、通気性を保つための支持材等として用いられている。この製鉄用コークスは、粘結炭や非微粘結炭等の石炭の粉砕物を配合してコークス炉に装入し、これをコークス炉内において高温で乾留することにより製造される。コークスは、製鉄時に高炉内で粉化すると、高炉内の通気性を悪化させるため、高い強度を有することが望ましい。このコークスの強度を上げる方法として、原料炭に各種粘結材を添加する方法が知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
この粘結材の代表的なものとして、コールタールピッチやアスファルトピッチ等(ASP)の固形状の成分が用いられている。特に、粘結材として用いられるコールタールピッチは、コールタールを加熱、固形化して製造される。このコールタールはコークスの乾留時に発生し、タールデカンターにてコールタールとコールタールスラッジとに分離される。そして、コールタールのみがコールタールピッチを製造するための次工程に送られ、粘結材であるコールタールピッチが製造される。
【0004】
これに対し、粘結炭に比べて粘結性の劣る微粘結炭や非粘結炭(以下、これらを総称して「非微粘結炭」という。)は、粘結炭に比べて埋蔵量が豊富かつ安価に入手することができる。このため、コークスの強度を維持しながら非微粘結炭をより多く配合する検討が従来から行われてきた。これらの中でも、コークス原料として粘結材を添加する方法は、非微粘結炭をより多く使用することが可能となるばかりでなく、コークスの製造過程において、原料炭の流動性を補填する効果と共炭素化反応による光学的異方性組織構造の展開効果(非特許文献3)により、コークス強度を高めることが可能な方法であるため有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「石炭科学と工業」木村秀雄、藤井修治著 三共出版社出版P315〜P319
【非特許文献2】「粘結剤添加法による高炉用コークスの反応後強度」コークスサーキュラー1981年S112
【非特許文献3】「炭素化工学の基礎」大谷杉郎、真田雄三著 オーム社出版P222〜P226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1〜3に記載のコールタール由来の粘結材は、コークス強度を向上させることはできるものの、揮発分が多く、多量に配合するとコークス歩留まりが低下し、コークス製造における歩留りが低下するという問題があった。また、コークスを製造する過程において、揮発分が増加するとコークス炉からコークスを押し出す際に問題となるコークス炉壁へのカーボン付着が増加するという懸念があった。更には、粘結材の軟化点が低いため夏期に屋外で保管すると、粒子が溶融して粒子同士が固結してしまうため、ベルトコンベアーで搬送するために、粉砕する必要があるなどの多大な労力を要していた。また、従来の粘結材は、揮発分を低下させると流動性が無くなり、コークス強度を高めることができなかった。
【0007】
以上のように従来の粘結材は、揮発分を低下させると流動性が低下してしまい粘結材としての機能を十分に発揮できずに、コークス強度を上げることができなかった。即ち、揮発分が低く且つ流動性を持つ粘結材を製造することは不可能であった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とするものであり、高強度のコークスを歩留り良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来は高揮発分な粘結材を添加して高強度なコークスを製造していたのに対して、低揮発分で高い流動性を有する粘結材を使用することにより、高強度なコークスを製造する方法を見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は以下の[1]〜[3]に存する。
【0010】
[1]ビトリニット最大平均反射率が0.7〜1.5%、最高流動度が2.0〜2.5log−ddpmであるコークス製造用石炭と軟化開始温度が200〜300℃、流動温度範囲が250〜350℃、揮発分が15〜25重量%である粘結材とを混合し、乾留するコークスの製造方法。
【0011】
[2]前記コークス製造用原料炭と前記粘結材の合計量に対し、前記粘結材の含有量が0.5〜10重量%である、[1]に記載のコークスの製造方法。
【0012】
[3]前記コークス製造用石炭中に、非微粘結炭が20〜80重量%含まれる、[1]又は[2]に記載のコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高強度のコークスを歩留まりが良く製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。なお、以下で用いる用語については、特に明示したもの以外はJIS M0104(1984)に基づくものとする。
【0015】
〔コークスの製造方法〕
本発明のコークスの製造方法は、ビトリニット最大平均反射率が0.5〜1.5、最高流動度が2.0〜2.5log−ddpmであるコークス製造用石炭と軟化開始温度が200〜300℃、流動温度範囲が250〜350℃、揮発分が15〜25重量%である粘結材とを混合し、乾留することを特徴とする。本発明のコークスの製造方法によれば、強度に優れたコークスを歩留り良く製造することができる。これは、揮発分が低い領域であるためにコークスの歩留りが良好になるものであり、また、コークス製造用原料炭と比較して粘結材の軟化開始温度が低い領域であり、かつ流動温度範囲の幅が広いため、コークス製造用原料炭の溶融温度範囲全体において粘結材が溶融状態にあり、コークス製造用原料全体としての粘結性が増強されることに起因すると考えられる。
【0016】
[コークス製造用石炭]
本発明の製造方法に用いるコークス製造用石炭は、ビトリニット最大平均反射率が0.5〜1.5、最高流動度が2.0〜2.5log−ddpmである石炭であれば、一般的にコークスの製造に用いられる石炭をいずれも使用することができる。コークス製造石炭
としては、通常、最高流動度により粘結炭、微粘結炭、非粘結炭に区別されるが、これらのいずれを用いることもできる。また、これらの複数種を適宜組み合わせて用いることもできる。例えば、粘結炭と非微粘結炭を組み合わせて用いる場合、これらの合計量に対し、非微粘結炭の含有量が20〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは30〜75重量%であり、より好ましくは40〜70重量%である。
【0017】
本発明に用いるコークス製造用石炭のビトリニット最大平均反射率は、0.5〜1.5%であり、好ましくは1.0%以上であり、一方、好ましくは1.3%以下である。コークス製造用石炭の軟化開始温度が上記範囲であることにより高強度なコークスの製造が可能となる。なお、ビトリニット最大平均反射率はJIS M8816で規定される方法(反射率測定方法)により測定することができる。
【0018】
本発明に用いるコークス製造用石炭の最高流動度は、2.0〜2.5log−ddpmであり、好ましくは2.1log−ddpm以上であり、一方、好ましくは2.4log−ddpm以下である。コークス製造用石炭の軟化開始温度が上記下限以上であることにより、原料炭が溶融、膨張し接着することで高強度なコークスの製造が可能であり、一方、上記上限以下であることによりコークス炉内における原料炭の極端な溶融、膨張を抑えることで、設備負荷の小さいコークス製造が可能である。なお、コークス製造用石炭の最高流動度とは、石炭の流動性を評価する指標の一つであり、これにより石炭のコークス化性を評価することができる。最高流動度はJIS M8801で規定される方法(ギーセラープラストメーター法)で測定することができる。なお、上述の数値範囲は本測定法で得られた数値を常用対数で換算した値(単位:log−ddpm(Log Dial Division Per Minute))である。
【0019】
[粘結材]
粘結材は通常、粘結性を有し、高温で溶融する、芳香族性に富む縮合環構造が発達した高分子化合物の総称であるが、本発明に用いる粘結材は、軟化開始温度、流動温度範囲及び揮発分が特定の範囲であれば特に制限されない。本発明に用いる粘結材では、溶融する温度の指標として軟化開始温度及び流動温度範囲を用いる。
【0020】
本発明に用いる粘結材の種類は上記の各物性を満たすものであれば、特に制限されないが、原油由来、石炭由来、バイオマス由来等のいずれを用いることもできる。また、これらを1種のみで用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明に用いる粘結材の軟化開始温度は、200〜300℃であり、好ましくは210℃以上であり、一方、上限は通常、240℃以下である。粘結材の軟化開始温度が上記下限以上であることにより、粘結材を屋外で貯蔵する際に溶融して固結することなく取扱が用意である。
【0022】
本発明に用いる粘結材の流動温度範囲は、250〜350℃であり、好ましくは260℃以上であり、より好ましくは270℃以上であり、一方、好ましくは340℃以下であり、より好ましくは330℃以下である。粘結材の流動温度範囲が上記下限以上であることにより、原料炭が溶融している温度範囲である30〜110℃において、粘結材も溶融し、お互いに溶け合うことでコークス強度が向上する効果があり、一方、上記上限以下であることにより、原料炭が固化する温度で、粘結材も固化することで、コークス強度を支配するコークスの気孔構造が均質な状態となり、高強度なコークスが得られる。
【0023】
なお、粘結材の軟化開始温度及び流動温度範囲はJIS M8801で規定される方法(ギーセラープラストメーター法)により測定することができる。
【0024】
本発明に用いる粘結材の揮発分は、15〜25重量%であり、好ましくは17重量%以上であり、一方、好ましくは23重量%以下である。粘結材の揮発分が上記下限以上であることにより、原料炭が溶融、膨張することで高強度なコークスがえられる、一方、上記上限以下であることにより、コークス炉内における原料炭の極端な溶融、膨張を抑えることで、設備負荷の小さいコークス製造が可能である。なお、粘結材の揮発分とは、試料を900℃で7分間加熱したときの減量の試料に対する重量百分率を求め、これから同時に定量した水分を減じたものであり、JIS M8812で規定される方法(揮発分定量方法)で測定することができる。
【0025】
なお、粘結材は通常、コールタールを原料として用い、軽質な油分を除去した後、加熱、固形化して製造することができる。ここで、軽質な油分を除去する方法としては、通常、蒸留を挙げることができる。軽質な油分を除去した後の加熱条件は、通常、280〜320℃であり、また、固形化の方法は特に制限されないが、水中で冷却する方法等を挙げることができる。
【0026】
[乾留]
本発明の製造方法において、前述のコークス製造用石炭と粘結炭とを混合し、乾留することにより、目的とするコークスを得ることができる。
【0027】
コークスを製造する際には、前述のコークス製造用原料炭と粘結材とを用い、所望の組成に配合し、これを公知のコークス炉に装入して乾留すればよい。また、乾留の条件としては、通常、900〜1250℃、好ましくは1000〜1200℃の温度で通常、15〜20時間で行われる。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例について以下に示す。なお、以下の実施例は本発明の効果を確認するための例であり、本発明はこの例に限定されるものではない。本発明は本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0029】
[コークス製造用石炭]
・コークス製造用石炭(粘結炭40重量%と非微粘結炭60重量%との混合物)
ビトリニット最大平均反射率:0.9%
最高流動度:2.24log−ddpm
【0030】
[粘結材]
・粘結材A(実施例用)
軟化開始温度:277℃
流動温度範囲:273℃
揮発分:22.0重量%
・粘結材a(比較例用)
軟化開始温度:373℃
流動温度範囲:146℃
揮発分:12.0重量%
・粘結材b(比較例用)
軟化開始温度:219℃(リング・アンド・ボール法による測定値(ギーセラー流動
度計では測定不能))
流動温度範囲:>300℃
揮発分:49.2重量%
【0031】
[コークスの冷間強度試験(ドラムインデックス(DI))]
JIS K2151に準拠し、冷間強度試験を行った。コークスのうち粒径25mm以上のものを採取し、採取したコークス10kgを、内径150cm、長さ150cmの円筒状ステンレス製ドラムに充填した。このドラムを、円筒の軸回りに15rpmで150回転した後、粒径15mm以上のコークスの残留率(重量%)を測定し、コークス強度の尺度とした(間隙15mmの篩を使用)。粒径15mm以上の成型炭の残留率が高いほど、コークスの強度が高いことを意味する。
【0032】
[コークス歩留りの評価方法]
原料炭の重量を秤量し、コークス炉に装入して乾留した後、得られたコークスの重量を秤量した。得たコークス重量を原料炭の重量で割り返した値をコークス歩留まりとした。
【0033】
(実施例1)
原料として、コークス製造用石炭95重量%と粘結材A5重量%を配合し、コークス炉にて900℃で乾留し、コークスを得た。得られたコークスについて、コークス強度を測定した。結果を表−1に示す。
【0034】
(比較例1〜3)
表−1に示すように原料の種類を変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表−1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
粘結材を使用しなかった比較例1と、粘結材aを使用した比較例2とを対比するとコークス強度が同等であり、粘結材を配合してもコークス強度を向上させることができなかったことがわかる。また、比較例1と、粘結材bを使用した比較例3とを対比するとコークス強度は向上したものの、歩留まりが悪かった。一方、実施例1と比較例1とを対比すると、コークス強度が向上すると共に、歩留まりも良好であることがわかる。