特許第6880911号(P6880911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880911端子台及びその製造方法、並びに、樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880911
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】端子台及びその製造方法、並びに、樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01R 9/16 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   H01R9/16 101
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-63334(P2017-63334)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-166076(P2018-166076A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】上尾 義明
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−032669(JP,A)
【文献】 実開昭50−031488(JP,U)
【文献】 特開平05−116146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 9/00
H01R 9/16
H01R 9/22−9/24
C08K 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電端子と、当該導電端子を保持する保持部材と、を備え、
前記保持部材が、前記導電端子に接していると共に、熱硬化性樹脂の硬化物と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する、端子台(但し、フェノール樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する端子台であって、前記ガラスパウダーが、とがった角をもった不定形であり、その組成が、平均粒径45〜75μmのものが70〜90重量%である、端子台を除く)
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂を含む、請求項1に記載の端子台。
【請求項3】
導電端子と、当該導電端子を保持する保持部材と、を備える端子台の製造方法であって、
熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する樹脂組成物が前記導電端子に接した状態で前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて前記保持部材を得る硬化工程を備える、端子台の製造方法(但し、フェノール樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する端子台の製造方法であって、前記ガラスパウダーが、とがった角をもった不定形であり、その組成が、平均粒径45〜75μmのものが70〜90重量%である、端子台の製造方法を除く)
【請求項4】
前記硬化工程の前に、前記導電端子が収容された金型に前記樹脂組成物を充填する工程を更に備える、請求項3に記載の端子台の製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂を含む、請求項3又は4に記載の端子台の製造方法。
【請求項6】
導電端子を保持する保持部材を備えた端子台の前記保持部材を形成するための樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する、樹脂組成物(但し、フェノール樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する樹脂組成物であって、前記ガラスパウダーが、とがった角をもった不定形であり、その組成が、平均粒径45〜75μmのものが70〜90重量%である、樹脂組成物を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子台及びその製造方法、並びに、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種電気機器において、導電端子を介して導電部材同士を電気的に接続するための部材として、導電端子を備えた端子台が用いられている。例えば、端子台は、自動車等の各種車両のパワーコントロールユニットにおいて用いられている(例えば、下記特許文献1及び2参照)。端子台は、導電端子を保持する保持部材を備えている。保持部材の構成材料としては、樹脂材料を用いことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/081097号
【特許文献2】特開2013−230055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気機器の部材間の隙間を介して水分が電気機器の内部に侵入すると、電気機器の不具合が生じる場合がある。そのため、端子台に対しては、導電端子と保持部材との間に隙間が生じることが抑制され、導電端子と保持部材との間の密閉性が高いことが求められる。
【0005】
また、保持部材における熱的特性の配向差が大きいと、保持部材に熱応力が負荷された場合に、相対的に熱的特性の劣る箇所を起点に保持部材が破損しやすい。そのため、端子台に対しては、保持部材における熱的特性の配向差を低減することが求められる。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することが可能であると共に、優れた密閉性を有する端子台及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記端子台を得るために用いられる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来、端子台における保持部材の構成材料として熱可塑性樹脂が用いられる傾向がある。これに対し、本発明者は、保持部材の構成材料として熱可塑性樹脂を用いると、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性を得ることが難しいことを見出した。そして、本発明者は、保持部材の構成材料として熱硬化性樹脂を用いると、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性を得ることが可能であることを見出した。
【0008】
また、本発明者は、保持部材の構成材料としてガラス繊維を用いると、保持部材の機械的特性(例えば機械的強度)を向上させやすいものの、ガラス繊維のアスペクト比が大きいことにより、保持部材における熱的特性の配向差が大きくなる傾向があることを見出した。そして、本発明者は、保持部材の構成材料としてガラス繊維に加えてガラスパウダーを用いると、保持部材における熱的特性の配向差を低減することが可能であることを見出した。
【0009】
本発明に係る端子台は、導電端子と、当該導電端子を保持する保持部材と、を備え、前記保持部材が、前記導電端子に接していると共に、熱硬化性樹脂の硬化物と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する。ガラス繊維は、アスペクト比(長径/短径)が10以上のフィラーである。ガラスパウダーは、アスペクト比(長径/短径)が10未満のフィラーである。
【0010】
本発明に係る端子台によれば、導電端子に接している保持部材が、熱硬化性樹脂の硬化物を含有することにより、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性(シール性)と接着力を得ることができる。熱硬化性樹脂を用いることにより、導電端子に対する保持部材の密着性が向上するため、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力が得られると推測される。
【0011】
また、本発明に係る端子台によれば、保持部材が、ガラス繊維に加えてガラスパウダーを含有することにより、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することができる。これにより、保持部材に熱応力が負荷された場合であっても、相対的に熱的特性の劣る箇所を起点に保持部材が破損することを抑制しやすい。アスペクト比がガラス繊維よりも小さいガラスパウダーを用いることにより、保持部材における熱的特性の配向差を低減しやすいと推測される。
【0012】
ところで、導電端子と保持部材との間の密閉性を高める方法として、導電端子における保持部材との接触面を粗面化する方法、シール部材(例えばOリング)を用いる方法等が挙げられる。一方、本発明に係る端子台によれば、これらの方法を用いることなく、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性を得ることができる。
【0013】
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂を含むことが好ましい。この場合、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力を容易に得ることができる。
【0014】
本発明に係る端子台の製造方法は、導電端子と、当該導電端子を保持する保持部材と、を備える端子台の製造方法であって、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する樹脂組成物が前記導電端子に接した状態で前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて前記保持部材を得る硬化工程を備える。
【0015】
本発明に係る端子台の製造方法によれば、熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物が導電端子に接した状態で前記樹脂組成物を熱硬化させて保持部材を得ることにより、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性(シール性)と接着力を得ることができる。
【0016】
また、本発明に係る端子台の製造方法によれば、ガラス繊維と、ガラスパウダーとを含有する樹脂組成物が導電端子に接した状態で前記樹脂組成物を熱硬化させて保持部材を得ることにより、ガラス繊維に加えてガラスパウダーを含有する保持部材を得ることが可能であり、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することができる。これにより、保持部材に熱応力が負荷された場合であっても、相対的に熱的特性の劣る箇所を起点に保持部材が破損することを抑制しやすい。
【0017】
本発明に係る端子台の製造方法は、前記硬化工程の前に、前記導電端子が収容された金型に前記樹脂組成物を充填する工程を更に備えていてもよい。この場合、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力を容易に得ることができる。
【0018】
本発明に係る端子台の製造方法における前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂を含むことが好ましい。この場合、樹脂組成物の成形性(例えば歩留り)を向上させることができると共に、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力を容易に得ることができる。
【0019】
本発明に係る樹脂組成物は、導電端子を保持する保持部材を備えた端子台の前記保持部材を形成するための樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する。本発明に係る樹脂組成物を用いて保持部材を得ることにより、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性(シール性)と接着力を得ることができる。また、本発明に係る樹脂組成物を用いて保持部材を得ることにより、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することが可能であると共に、優れた密閉性と接着力を有する端子台及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、前記端子台を得るために用いられる樹脂組成物を提供することができる。保持部材における熱的特性の配向差が低減されていると、保持部材に熱応力が負荷された場合であっても、相対的に熱的特性の劣る箇所を起点に保持部材が破損することを抑制しやすい。
【0021】
例えば、本発明によれば、保持部材における熱膨張係数の配向差を低減することが可能であり、保持部材における熱膨張係数の最大値と最小値との差を低減することができる。この場合、保持部材に熱応力が負荷された場合に、相対的に熱膨張係数の大きい箇所を起点に保持部材が破損することを抑制しやすい。
【0022】
本発明によれば、端子台又はその製造への樹脂組成物の応用を提供することができる。本発明によれば、導電端子を保持する保持部材又はその製造への樹脂組成物の応用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る端子台を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る端子台を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る端子台を模式的に示す分解斜視図である。
図4】実施例における密閉性の評価方法を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0026】
<端子台、電気機器及び樹脂組成物>
本実施形態に係る端子台(端子構造体)は、導電端子と、当該導電端子を保持する保持部材と、を備える。保持部材は、導電端子に接していると共に、熱硬化性樹脂の硬化物と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する樹脂部材である。保持部材としては、絶縁性を有する絶縁部材を用いることができる。
【0027】
本実施形態に係る端子台によれば、導電端子に接している保持部材が熱硬化性樹脂の硬化物を含有することにより、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性(シール性)と接着力を得ることができる。熱硬化性樹脂を用いることにより、導電端子に対する保持部材の密着性が向上するため、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力が得られると推測される。
【0028】
また、本実施形態に係る端子台によれば、保持部材が、ガラス繊維に加えてガラスパウダーを含有することにより、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性(熱膨張係数等)の配向差を低減することができる。これにより、保持部材に熱応力が負荷された場合であっても、相対的に熱的特性の劣る箇所を起点に保持部材が破損することを抑制しやすい。アスペクト比がガラス繊維よりも小さいガラスパウダーを用いることにより、保持部材における熱的特性の配向差を低減しやすいと推測される。
【0029】
本実施形態に係る電気機器は、本実施形態に係る端子台を備えている。本実施形態に係る電気機器としては、パワーコントロールユニット、電気ボックス(密閉を要する電気ボックス。例えば、外部端子を有する電気ボックス)等が挙げられる。
【0030】
導電端子の構成材料としては、金属材料、炭素材料等が挙げられる。金属材料としては、SUS304(ステンレス鋼)、SCM435(クロムモリブデン鋼)、S45C(炭素鋼)、C1020(無酸素銅)A6101(アルミ合金)C2600(黄銅)等が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る端子台によれば、導電端子における保持部材との接触面を粗面化する方法、シール部材(例えばOリング)を用いる方法等を用いることなく、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力を得ることができる。また、本実施形態に係る端子台では、導電端子と保持部材との間の更に優れた密閉性と接着力を得る観点から、導電端子における保持部材との接触面が粗面化されていてもよく、端子台がシール部材(例えばOリング)を備えていてもよい。
【0032】
導電端子における保持部材との接触面を粗面化する場合、接触面の少なくとも一部が粗面化されていればよく、接触面の全面が粗面化されていてもよい。導電端子における保持部材との接触面は、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力が容易に且つ安価に得られる観点から、ローレット加工面(ローレット加工が施された面)であってもよい。
【0033】
導電端子の30〜80℃における熱膨張係数(線膨張係数)は、例えば、10×10−6〜12×10−6/Kである。保持部材の30〜80℃における熱膨張係数(線膨張係数。樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数)は、導電端子(例えば金属端子)に対する熱膨張係数の差を低減し、温度変化に伴う端子台の破損を抑制しやすい観点から、13×10−6〜17×10−6/Kであることが好ましい。保持部材の熱膨張係数は、保持部材の構成材料により調整することができる。
【0034】
保持部材における熱膨張係数の配向差(保持部材における局所的な熱膨張係数の差)を更に低減する観点から、保持部材における熱膨張係数の最大値と最小値との差が小さいことが好ましい。この場合、保持部材に熱応力が負荷された場合であっても、熱膨張係数の大きい箇所を起点に保持部材が破損することを抑制しやすい。保持部材における熱膨張係数の最大値と最小値との差は、保持部材の構成材料として、等方的な形状(例えば球状)を有する材料(例えばガラスパウダー)を用いることで低減させることができる。
【0035】
保持部材に含まれる熱硬化性樹脂の硬化物における熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力が容易に得られる観点から、フェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0036】
フェノール樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、フェノールトリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0037】
エポキシ樹脂としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニル型エポキシ樹脂、テトラフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、ブタンジオール由来の骨格を有するエポキシ樹脂、ペンタジオール由来の骨格を有するエポキシ樹脂、ヘキサンジオール由来の骨格を有するエポキシ樹脂、ヘプタンジオール由来の骨格を有するエポキシ樹脂、オクタンジオール由来の骨格を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、フェノール樹脂に該当する樹脂を除く。
【0038】
保持部材は、ガラス繊維及びガラスパウダー以外の充填材を含有することができる。ガラス繊維及びガラスパウダー以外の充填材としては、タルク、マイカ、アラミド繊維等が挙げられる。
【0039】
保持部材は、熱硬化性樹脂及び充填材以外の成分として添加剤を含有することができる。添加剤としては、硬化剤、着色剤、離型剤等が挙げられる。
【0040】
図1〜3を用いて端子台の一例を説明する。図1は、端子台の斜視図である。図2は、端子台の断面図である。図3は、端子台の分解斜視図である。図1〜3に示されるように、端子台1は、導電端子10と、導電端子10を保持する保持部材20と、シール部材30と、を備える。保持部材20は、導電端子10に接していると共に、熱硬化性樹脂の硬化物と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する。
【0041】
導電端子10は、本体部12と、第1突起部14と、第2突起部16と、を有している。本体部12、第1突起部14及び第2突起部16は、一体化されている。本体部12は、円筒状である。本体部12の外周面12aは、保持部材20と接触する接触面である。当該外周面12aの全面は、粗面化されており、例えば、ローレット加工面である。第1突起部14及び第2突起部16は、円筒状であり、本体部12よりも小さい径を有している。第1突起部14は、本体部12の一端側から突出している。第2突起部16は、円筒状であり、本体部12の他端側から突出している。
【0042】
保持部材20は、本体部22と、張り出し部24と、を有している。本体部22及び張り出し部24は、一体化されており、熱硬化性樹脂の硬化物から形成されている。
【0043】
本体部22は、円筒状である。本体部22の内部には、本体部22の軸方向(長手方向)に沿って貫通孔が形成されている。当該貫通孔内に導電端子10の本体部12が配置され、保持部材20の本体部22における貫通孔の内面と、導電端子10における本体部12の外周面12aとが接触している。
【0044】
張り出し部24は、円環板状であり、本体部22の中心軸と同軸に配置されている。張り出し部24は、張り出し部24の主面が本体部22の軸方向と直交するように本体部22の外周側に配置されている。張り出し部24の主面には、シール部材30を配置するための円環状の凹部が形成されている。張り出し部24の厚さ方向に張り出し部24を貫通する3つの貫通孔24aが等間隔に張り出し部24に形成されている。貫通孔24aは、端子台1を他部材に固定するためのねじ穴として用いることができる。
【0045】
シール部材30は、例えばOリングである。シール部材30を用いることにより、端子台1を他部材に固定する際に密閉性を更に高めることができる。シール部材30は、張り出し部24の主面に形成された凹部に配置されている。
【0046】
続いて、本実施形態に係る端子台の保持部材を得るために用いられる樹脂組成物として、本実施形態に係る樹脂組成物について説明する。本実施形態に係る樹脂組成物(端子台用の樹脂組成物)は、導電端子を保持する保持部材を備えた端子台の前記保持部材を形成するための樹脂組成物であり、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する。本実施形態に係る樹脂組成物を用いて保持部材を得ることにより、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性(シール性)と接着力を得ることができる。また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて保持部材を得ることにより、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することができる。本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物は、端子台の保持部材として用いることが可能であり、例えば、端子台の保持部材として用いられる樹脂成形体であってもよい。
【0047】
本実施形態に係る樹脂組成物における熱硬化性樹脂としては、保持部材に含まれる熱硬化性樹脂の硬化物における熱硬化性樹脂として上述した熱硬化性樹脂を用いることができる。樹脂組成物における熱硬化性樹脂は、樹脂組成物の成形性(例えば歩留り)が向上すると共に、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力が容易に得られる観点から、フェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0048】
熱硬化性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全量を基準として下記の範囲が好ましい。熱硬化性樹脂の含有量は、樹脂組成物の成形性(例えば歩留り)が向上する観点から、15質量%以上が好ましく、18質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。熱硬化性樹脂の含有量は、保持部材の機械的特性(例えば機械的強度)が更に向上する観点から、80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、50質量%未満が更に好ましく、40質量%以下が特に好ましい。これらの観点から、熱硬化性樹脂の含有量は、15〜80質量%が好ましい。
【0049】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ガラス繊維及びガラスパウダー以外の充填材を含有することができる。ガラス繊維及びガラスパウダー充填材としては、保持部材の充填材として上述した充填材を用いることができる。
【0050】
ガラス繊維及びガラスパウダーの合計量は、樹脂組成物を基準として下記の範囲が好ましい。ガラス繊維及びガラスパウダーの合計量は、保持部材の機械的特性(例えば機械的強度)が更に向上する観点から、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、50質量%を超えることが特に好ましく、60質量%以上が極めて好ましい。ガラス繊維及びガラスパウダーの合計量は、樹脂組成物の成形性(例えば歩留り)が向上する観点から、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、ガラス繊維及びガラスパウダーの合計量は、20〜85質量%が好ましい。
【0051】
ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物を基準として下記の範囲が好ましい。ガラス繊維の含有量は、保持部材の機械的特性(例えば機械的強度)が更に向上する観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物の成形性(例えば歩留り)が向上する観点から、85質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましく、50質量%未満が特に好ましい。これらの観点から、ガラス繊維の含有量は、20〜85質量%が好ましい。
【0052】
ガラスパウダーの含有量は、樹脂組成物を基準として下記の範囲が好ましい。ガラスパウダーの含有量は、保持部材における熱膨張係数の配向差(保持部材における局所的な熱膨張係数の差)を低減しやすい観点から、0質量%を超えることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。ガラスパウダーの含有量は、保持部材の機械的特性(例えば機械的強度)が更に向上する観点から、50質量%以下が好ましく、50質量%未満がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、ガラスパウダーの含有量は、0質量%を超え50質量%以下が好ましい。
【0053】
本実施形態に係る樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び充填材以外の成分として添加剤を含有することができる。添加剤としては、保持部材の添加剤として上述した添加剤を用いることができる。
【0054】
<端子台の製造方法>
本実施形態に係る端子台の製造方法は、導電端子と、当該導電端子を保持する保持部材と、を備える端子台の製造方法である。本実施形態に係る端子台の製造方法は、熱硬化性樹脂と、ガラス繊維と、ガラスパウダーと、を含有する樹脂組成物が導電端子に接した状態で熱硬化性樹脂を熱硬化させて保持部材を得る硬化工程を備える。この場合、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性(シール性)と接着力を得ることができる。また、ガラス繊維に加えてガラスパウダーを含有する保持部材を得ることが可能であり、導電端子を保持するための保持部材における熱的特性の配向差を低減することができる。本実施形態に係る端子台の製造方法における樹脂組成物としては、上述した樹脂組成物を用いることができる。
【0055】
本実施形態に係る端子台の製造方法では、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させることにより保持部材を得ることができる。熱硬化性樹脂を熱硬化させるための加熱温度としては、例えば170〜190℃である。
【0056】
本実施形態に係る端子台の製造方法は、樹脂成形体の製造方法であってもよく、例えば、導電端子と保持部材との間の優れた密閉性と接着力が容易に得られる観点から、硬化工程の前に、導電端子が収容された金型に樹脂組成物を充填する樹脂充填工程を更に備えていてもよい。樹脂充填工程では、金型に樹脂組成物を充填することにより、樹脂組成物を導電端子に接触させる。
【0057】
成形方法としては、射出成形(インサート成形、射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形等)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形、フィラメントワインディング成形などを用いることができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。
【0059】
端子台において、保持部材における導電端子と接する部分が熱硬化性樹脂の硬化物を含んでいればよく、例えば、上述の端子台1は、保持部材20の本体部22が熱硬化性樹脂の硬化物を含有し、且つ、張り出し部24が熱硬化性樹脂の硬化物を含有していない構成を有していてもよい。
【0060】
端子台の保持部材の構成は、上述の端子台1のように、導電端子の周囲を覆う構成に限られず、保持部材が導電端子の周囲を覆うことなく、鉛直方向下側から保持部材が導電端子を支持する構成であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明の内容を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<樹脂材料の準備>
(実施例1)
日立化成株式会社製のCP−J−8700(商品名。ガラスパウダーを含有することなくフェノール樹脂及びガラス繊維を含有する組成物)と、ガラスパウダーとを混合して樹脂材料(樹脂組成物)を得た。
【0063】
(比較例1)
フェノール樹脂及びガラス繊維を含有する樹脂材料(樹脂組成物)として、日立化成株式会社製のCP−J−8700(商品名)を準備した。
【0064】
(比較例2)
樹脂材料として熱可塑性樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、DIC株式会社製、商品名:Z650)を用いた。
【0065】
<熱膨張係数の測定>
実施例1及び比較例1の前記樹脂材料の硬化物の熱膨張係数を測定した。まず、下記成形条件で前記樹脂材料を成形して硬化物(寸法:長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)を得た後、硬化物を切断して測定試料(寸法:長さ5mm×幅5mm×厚さ4mm)を得た。熱機械分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:TMA/SS6100)を用いて、温度範囲30〜80℃、荷重5gf、昇温速度10℃/分で前記測定試料の熱膨張係数を測定した。熱膨張係数の最大値、最小値及びこれらの差(最大値−最小値)を表1に示す。
[成形条件]
成形装置:射出成形機
シリンダー温度:80℃
金型温度:180℃
射出圧力:100MPa
硬化時間:60秒
【0066】
<端子台の作製>
図1〜3に示す形状の端子台1をインサート成形により作製した。SCM430(クロムモリブデン鋼)の端子(熱膨張係数:11×10−6/K)を用いた。端子を金型の内部に配置した後、金型の内部に前記樹脂材料を充填した。そして、前記樹脂材料を加熱することにより、端子を保持する保持部材を備える端子台を作製した。実施例1及び比較例1では、熱硬化性樹脂の硬化物を含有する保持部材が得られた。成形条件としては、下記条件を用いた。
[成形条件]
成形装置:射出成形機
シリンダー温度:80℃
金型温度:180℃
射出圧力:100MPa
硬化時間:30秒
【0067】
<密閉性の評価>
図4に示すように、端子台1を容器40の蓋42に取り付けた。3つのねじ44を用いて蓋42を容器40に固定し、3つのねじ45を用いて端子台1を蓋42に固定した。そして、蓋42に対して水を高圧(圧力:8MPa)で120秒間吹き付けた後、容器40の内部に浸水しているか否かを確認した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示されるように、実施例1では、熱膨張係数における最大値と最小値との差が小さく、保持部材における熱的特性の配向差が小さいことが確認された。また、実施例1では、浸水が確認されず、密閉性に優れていることが確認された。
【0070】
一方、比較例1では、熱膨張係数における最大値と最小値との差が実施例1と比較して大きく、保持部材における熱的特性の配向差が実施例1と比較して大きいことが確認された。また、比較例2では、浸水が確認され、密閉性に劣ることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1…端子台、10…導電端子、20…保持部材。
図1
図2
図3
図4