(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナフタレン、硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方、及び粗軽油成分を含む、コークス炉ガス及び熱分解炉ガスのうち少なくともいずれか一方を含有する原料ガスから硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一つを回収する方法であり、
当該原料ガス中に含まれるナフタレンを吸収塔(1)において吸収油に吸収する吸収工程〔1〕、
吸収塔(1)から硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方を含有するガスを吸収塔(2)に供給し、吸収液に吸収する吸収工程〔2〕、
硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一方を吸収した吸収液を吸収塔(2)から蒸留塔(1)に供給して蒸留することにより、当該硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方を回収する回収工程〔1〕、
硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方を回収後の吸収液を、熱交換器(A)及び熱交換器(B)を介して冷却した後、再び吸収塔(2)へ供給する冷却工程〔1〕、
吸収塔(2)から粗軽油成分を含有するガスを吸収塔(3)に供給し、吸収油に吸収する吸収工程〔3〕、
粗軽油成分を吸収した吸収油を吸収塔(3)から蒸留塔(2)に供給して蒸留することにより、当該粗軽油成分を回収する回収工程〔2〕、
粗軽油成分を回収後の吸収油を、熱交換器(C)を介して冷却した後、再び吸収塔(1)及び吸収塔(3)へ供給する冷却工程〔2〕を有し、かつ
蒸留塔(2)から抜き出した吸収油中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量を35重量%以下とする、
ガス中の硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一つの回収方法。
【背景技術】
【0002】
石炭をコークス炉で乾留してコークスを製造する際に発生するコークス炉ガスや、石炭を熱分解炉で熱分解する際に発生する熱分解炉ガス(以下、これらを総称して「コークス炉ガス等」という場合がある。)の主成分は水素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素などであるが、これらの主成分の他に、タール分やアンモニア、硫化水素、メタン以外の炭化水素ガス、粗軽油成分、シアン化水素、その他多数の成分が含まれている。コークス炉ガス等は、コークス炉や石炭熱分解炉から高温状態で発生するため、先ずは冷却され、その後、上記の成分を各々分離して回収する。コークス炉ガス等から回収された各成分は、燃料や各種原料として活用されている。中でも、コークス炉ガス等から回収される粗軽油成分には、石油系由来の軽油成分と比較してベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物(芳香族化合物成分)を多量に含有しているため、各種原料等として利用価値が高い。
【0003】
コークス炉ガス等からの硫黄化合物及び窒素化合物の回収には様々な方法が採用されているが、代表的な方法として、コークス炉ガス等を吸収塔で吸収液と接触させて、コークス炉ガス等に含有する硫黄化合物及び窒素化合物のうちの少なくとも一方を吸収液中に吸収させ、この吸収液を蒸留塔で蒸留することによって吸収液からこれらの成分を分離回収し、分離回収した後の吸収液を吸収塔に循環する方法が挙げられる(
図1参照)。
【0004】
上記の方法において、コークス炉ガス等から硫黄化合物及び窒素化合物のうちの少なくとも一方を効率良く回収するためには、吸収塔において硫黄化合物及び窒素化合物のうちの少なくとも一方を吸収液中に多量に吸収させるとともに、蒸留塔において効率良く分離することが好ましい。そのためには、吸収塔に導かれる吸収液の温度を低下させ、単位吸収液量に吸収させる硫黄化合物及び窒素化合物のうちの少なくとも一方の量を上げる必要がある。一方、上述の通り、吸収液は循環して使用されるため、蒸留塔において高温状態で排出された吸収液は冷却器を用いて冷却する必要がある。従って、硫黄化合物及び窒素化合物のうちの少なくとも一方を効率良く回収するためには、蒸留塔から排出された吸収液をより低温に冷却して吸収塔へ供給することが好ましい。
【0005】
また、コークス炉ガス等のナフタレンの回収には、代表的な方法として、コークス炉ガス等を吸収塔で吸収油と接触させて、コークス炉ガス等に含有するナフタレンを吸収油中に吸収させ、この吸収油を蒸留塔で蒸留することによって吸収油からナフタレンを分離回収し、分離回収した後の吸収油を吸収塔に循環する方法が挙げられる(
図2参照)。
【0006】
さらに、コークス炉ガス等の粗軽油成分の回収には、代表的な方法として、コークス炉ガス等を吸収塔で吸収油と接触させて、コークス炉ガス等に含有する粗軽油成分を吸収油中に吸収させ、この吸収油を蒸留塔で蒸留することによって吸収油から粗軽油成分を分離回収し、分離回収した後の吸収油を吸収塔に循環する方法が挙げられる(
図3参照)。
【0007】
上記の通り、コークス炉ガス等に含有する硫黄化合物及び窒素化合物のうちの少なくとも一方とナフタレン及び粗軽油成分を回収するためには、各吸収塔が並ぶことが好ましい。しかしながら、コークス炉ガス等を吸収塔で吸収油と接触させた後の吸収塔に向かうナフタレン除去ガスには、吸収油が一部含有しているため、吸収塔でコークス炉ガス等と接触した吸収液中には吸収油が含まれてしまう。吸収油には、様々な成分が溶存しているため、吸収油を含んだ吸収液の温度を下げ過ぎると、これらの溶存成分が冷却器や配管の内壁で析出する。吸収液中から溶存成分が冷却器や配管の内壁等に析出することは、冷却能力の低下や通液・通ガス抵抗の増加を生じることとなり、延いては冷却器や配管の閉塞にもつながるため問題であった。
【0008】
従来、冷却器出口の吸収液を冷却し過ぎないように冷媒量と温度を調整しておき、冷却器に閉塞を生じた際には、閉塞した冷却器を開放洗浄する必要があった。しかし冷却器を開放洗浄するためには多大な労力を要することから、吸収液をより低温に冷却しつつ、溶存成分の析出を防止する方法が望まれている。
【0009】
吸収液中の溶存成分が冷却器等に析出することを防止する手段としては、コークス炉ガス等(ナフタレン除去ガス)中に含まれる吸収油の組成を変える方法が望ましく、吸収油の析出開始温度を下げるように吸収油の組成を変える方法が開示されている(特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。
【0025】
本発明は、ナフタレン、硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方、及び粗軽油成分を含む、コークス炉ガス及び熱分解炉ガスのうち少なくともいずれか一方を含有する原料ガスから硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一つを回収する方法であり、当該原料ガス中に含まれるナフタレンを吸収塔(1)において吸収油に吸収する吸収工程〔1〕、吸収塔(1)から硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方を含有するガスを吸収塔(2)に供給し、吸収液に吸収する吸収工程〔2〕、硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一方を吸収した吸収液を吸収塔(2)から蒸留塔(1)に供給して蒸留することにより、当該硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方を回収する回収工程〔1〕、硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方を回収後の吸収液を、熱交換器(A)及び熱交換器(B)を介して冷却した後、再び吸収塔(2)へ供給する冷却工程〔1〕、吸収塔(2)から粗軽油成分を含有するガスを吸収塔(3)に供給し、吸収油に吸収する吸収工程〔3〕、粗軽油成分を吸収した吸収油を吸収塔(3)から蒸留塔(2)に供給して蒸留することにより、当該粗軽油成分を回収する回収工程〔2〕、粗軽油成分を回収後の吸収油を、熱交換器(C)を介して冷却した後、再び吸収塔(1)及び吸収塔(3)へ供給する冷却工程〔2〕を有し、かつ蒸留塔(2)から抜き出した吸収油中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量を35重量%以下とする、ガス中の硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一つの回収方法である(以下、「本発明の回収方法」と称することがある。)。なお、本発明において、コークス炉ガスと熱分解炉ガスを総称して「コークス炉ガス等」という場合がある。以下に、本発明について詳細に説明する。
【0026】
また、以下において本発明の回収方法について、
図4及び
図5を例示して説明することがあるが、これらの図におけるa、b及びcは以下のガスの流れを示すものである。
a:コークス炉ガスからナフタレンを除去したガス
b:aのガスから硫黄化合物及び窒素化合物の少なくとも一方を除去したガス
c:bのガスから粗軽油成分を除去したガス
【0027】
[1.原料ガス]
本発明では、コークス炉ガス及び熱分解炉ガスのうち少なくともいずれかを含有する原料ガスを用いる。これらのガスはナフタレン、硫黄化合物及び窒素化合物の少なくともいずれか一方、及び粗軽油成分を含むものである。
【0028】
<コークス炉ガス>
本発明において、「コークス炉ガス」とは、石炭からコークスを製造する際にコークス炉内から発生するガスを意味する。具体的には、コークス炉ガスは、石炭を600℃以上の温度で加熱乾留してコークスを製造する際に発生するガスで、一般的な組成として、水素10〜70体積%、メタン20〜70体積%、メタン以外の炭化水素(エチレン等のオレフィン類など)1〜15体積%、一酸化炭素4〜9体積%、二酸化炭素1〜6体積%、窒素1〜13体積%、酸素0〜0.5体積%、硫化水素等の硫黄化合物0.3〜1.5体積%、アンモニア等の窒素化合物0.3〜1.8体積%、ナフタレン0.01〜0.05体積%、ベンゾール類0.1〜1.8体積%、およびその他の石炭由来の微量成分を含んでいる。
【0029】
本発明の回収方法に用いるコークス炉ガスは、コークス炉から排出された上記組成のガスをそのまま用いることもできるが、前処理したコークス炉ガスを用いることが好ましい。具体的には、上記の成分のうち硫化水素等の硫黄化合物、アンモニア等の窒素化合物、及びベンゾール類等を低減させるための精製処理を行ったコークス炉ガスを用いることが好ましい。
【0030】
前処理は、例えば、脱硫触媒としての作用を併せ持つ脱酸素反応用触媒であるNi−Mo系、Co−Mo系等の触媒を用いて行うことができる。これらの触媒を使用する場合、コークス炉ガス中の水素による水素添加により脱酸素及び脱硫が行われる。前処理は常法に従って行なえばよく、例えば反応器入口温度200〜350℃程度、反応器内圧力0.5〜5.0MPaG程度、反応器出口温度100〜450℃程度の条件下に処理を行なえばよい。また、例えば、コークス炉ガスを吸着脱硫器に送り、ZnOによる吸着脱硫を行ってもよい。前処理を施されたコークス炉ガスの各成分の濃度は、一般に、硫化水素等の硫黄化合物0.001〜0.2%、アンモニア等の窒素化合物0.01〜0.2%、ベンゾール類0.02〜0.3%に低減され、これら以外の成分の濃度は精製処理前後で実質的に変化しない。
【0031】
本発明の回収方法に用いるコークス炉ガスの組成は限定されないが、通常、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、窒素等を主成分とするとともに、硫黄化合物、窒素化合物、粗軽油成分を含有する。
【0032】
本発明の回収方法に用いるコークス炉ガス中の粗軽油成分の含有割合は限定されないが、通常1〜10000体積ppmである。コークス炉ガス中の粗軽油成分の含有割合が前記範囲内にあると、吸収工程において粗軽油成分を吸収油に効率良く吸収させることができる傾向にあるため好ましい。コークス炉ガス中の粗軽油成分の含有割合の下限は、上記と同様の理由により、好ましくは10体積ppm以上、より好ましくは100体積ppm以上、更に好ましくは500体積ppm以上、特に好ましくは1000体積ppm以上である。また、コークス炉ガス中の粗軽油成分の含有割合の上限は、上記と同様の理由により、好ましくは9000体積ppm以下、より好ましくは8000体積ppm以下である。
【0033】
特に、有用成分をより効率的に回収するという本発明の特徴の観点から、コークス炉ガス中に含有するベンゼン、トルエン、キシレンの合計含有割合は、1〜10000体積ppmであることが好ましい。また、これらの合計含有割合の下限は、好ましくは10体積ppm以上、より好ましくは100体積ppm以上、更に好ましくは500体積ppm以上、特に好ましくは1000体積ppm以上であり、上限は、好ましくは8000体積ppm以下である。
【0034】
本発明の回収方法に用いる原料ガスは、コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの何れであってもよいが、少なくともコークス炉ガスを含有していることが好ましい。原料ガス中におけるコークス炉ガスの含有割合は限定されないが、通常1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは50体積%以上、更に好ましくは70体積%以上、特に好ましくは85体積%以上である。コークス炉ガスの含有割合の上限は限定されず、100体積%でもよい。
【0035】
<熱分解炉ガス>
本発明において、「熱分解炉ガス」とは、石炭を熱分解炉で熱分解する際に発生するガスを意味する。本発明に用いる熱分解炉ガスの組成は限定されないが、通常、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、窒素等を主成分とするとともに、硫黄化合物、窒素化合物、粗軽油成分を含有する。
【0036】
本発明の回収方法に用いる熱分解炉ガス中の粗軽油成分の含有割合は限定されないが、通常1〜10000体積ppmである。熱分解炉ガス中の粗軽油成分の含有割合が前記範囲内にあると、吸収搭において粗軽油成分を吸収油に効率良く吸収させることができる傾向にあるため好ましい。また、好ましい含有割合の下限及び上限は、前記したコークス炉ガスと同様である。特に、有用成分をより効率的に回収するという本発明の特徴の観点から、熱分解炉ガス中に含有するベンゼン、トルエン、キシレンの合計含有割合は、1〜9000体積ppmであることが好ましい。また、好ましい合計含有割合の下限及び上限は、前記したコークス炉ガスと同様である。
【0037】
本発明の回収方法では、原料ガスとしてコークス炉ガス及び熱分解炉ガスを併用してもよい。コークス炉ガス及び熱分解炉ガスを併用する場合においても、両者を混合した原料ガス中の粗軽油成分の含有割合は1〜10000体積ppmであることが好ましい。
【0038】
なお、本発明におけるコークス炉ガス及び熱分解炉ガスは、必ずしも完全なガス状態で形成されている必要は無く、粉塵、ヒューム、煙、ミスト等のエアロゾルであってもよく、ガス中にこれらの状態のものを含有していてもよい。更には、ガスが凝集又は凝固することによって形成された液状又は固体状のものも包含する。
【0039】
コークス炉ガス及び熱分解炉ガス中のガス組成及び粗軽油成分の含有割合は、何れもガスクロマトグラフィー装置により測定することができる。
【0040】
<その他の原料>
本発明の回収方法では、コークス炉ガス又は熱分解炉ガスとともに任意の原料を併用することができる(以下、コークス炉ガス、熱分解炉ガス以外の原料を「その他の原料」という場合がある)。その他の原料は、気体であっても固体又は液体であってもよいが、コークス炉ガス又は熱分解炉ガスと混合した状態で気体であることが好ましい(前述で示した状態を含む。)。
【0041】
[2.吸収工程〔1〕]
本発明の回収方法は、前記原料ガス中に含まれるナフタレンを吸収塔(1)において吸収油に吸収する吸収工程〔1〕を有する。
【0042】
<吸収塔(1)>
原料ガスから吸収油にナフタレンを吸収する方法は限定されないが、通常、吸収塔にて行われる。吸収塔(1)に装入される原料ガスの温度は限定されないが、通常10〜50℃である。また、吸収塔(1)に装入される吸収油の温度は限定されないが、当該原料ガスの水分凝縮を避けるため、通常は30〜50℃程度である。
【0043】
本発明において「吸収塔(1)」とは、塔内の上部から下部に向けて吸収油が装入されるとともに、下部から上部に向けて原料ガスが装入され、塔内で吸収液と原料ガスが接触することにより、原料ガス中に含まれるナフタレンが吸収液中に移相させるものである。吸収塔内での吸収液の装入方法は限定されないが、スプレー散布する方式であることが好ましい。
【0044】
<吸収油>
本発明の回収方法において用いる吸収油は限定されないが、具体的には、コールタール蒸留分留油、ディーゼル油、B重油等が挙げられる。これらの中でも、コークスプラントから入手できる簡便さから、コールタール蒸留分留油が好ましい。「コールタール蒸留分留油」とは、コールタールを蒸留して得られる油であって、蒸留塔のボトム以外から得られる油である。具体的には、カルボル油、ナフタレン油、アントラセン油、クレオソート油等が挙げられる。
【0045】
なお、本発明の回収方法において吸収油は循環して使用されるため、系内の吸収油は上記の吸収油中に粗軽油成分由来の物質が溶存した状態で存在する。換言すれば、吸収油は、上記に例示した油を由来とする場合であっても、実質的には前記の粗軽油成分として挙げた化合物の混合物として構成されている。すなわち、本発明の通りに吸収工程、回収工程等の各工程が循環されることにより、実質的には粗軽油成分自身が吸収油となり、その組成比を変動させて循環している。
【0046】
[3.吸収工程〔2〕]
本発明の回収方法は、前記吸収工程〔1〕の後、吸収塔(1)から硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つを含有するガスを吸収塔(2)に供給し、吸収液に吸収する吸収工程〔2〕を有する。
【0047】
<硫黄化合物及び窒素化合物>
本発明において硫黄化合物及び窒素化合物は特に制限されないが、具体的には、原料ガスから吸収液に吸収可能な成分を意味し、少なくとも、硫化水素、チオフェン、硫化カルボニル、チオシアン、二硫化炭素、アンモニア、シアン化水素から選択されるいずれかの成分を含有するものであることが好ましい。通常、硫黄化合物及び窒素化合物には、更に水硫化アンモニウム、二硫化酸素、亜硫酸、硫酸、亜硝酸、硝酸等を含有する。なお、硫黄化合物及び窒素化合物は単一の化合物であってもよいが、通常は複数の化合物の混合物である。
【0048】
後述する吸収工程に導入する原料ガスとしては、当該原料ガス中に含まれる全硫黄化合物及び窒素化合物中の硫化水素、アンモニアの合計含有割合が5体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。全硫黄化合物及び窒素化合物中、硫化水素、アンモニアの合計含有割合の上限は限定されず、100体積%でもよいが、通常90体積%以下である。
【0049】
<吸収塔(2)>
原料ガスから吸収液に硫黄化合物及び窒素化合物を吸収する方法は限定されないが、通常、吸収塔にて行われる。たとえば、原料ガスから硫黄化合物を吸収する方法には、硫化水素を酸化金属と反応させて固定する乾式脱硫法の他に、いわゆるレドックス系触媒又はアンモニア水を用いる湿式脱硫法が知られている。また、原料ガス中の硫黄化合物及び窒素化合物のうち、原料ガスから窒素化合物を吸収する方法には、たとえばアンモニアを水に吸収させる他に、アンモニアを硫酸水溶液又はリン酸水溶液に吸収させる脱安法が知られている。以上のように、吸収液の種類を適宜変更することにより、硫黄化合物と窒素化合物のそれぞれを吸収することが可能であり、これらは同一の吸収塔において吸収液を入れ替えて実施することもできる。さらに、硫黄化合物及び窒素化合物を同時に吸収することのできる吸収液としては水が挙げられる。吸収塔とは、塔内の上部から下部に向けて吸収液が装入されるとともに、下部から上部に向けて原料ガスが装入され、塔内で吸収液と原料ガスが接触することにより、原料ガス中に含まれる硫黄化合物及び窒素化合物が吸収液中に移相させるものである。吸収塔内での吸収液の装入方法は限定されないが、スプレー散布する方式であることが好ましい。
【0050】
<吸収液>
吸収塔に装入される原料ガスの温度は限定されないが、通常20〜50℃である。
吸収塔に装入される吸収液の温度は限定されないが、後述する冷却工程における熱交換器の閉塞を生じない程度の温度に制御する必要があるため、通常は30〜95℃程度である。この温度が低いほど、原料ガス中の粗軽油成分の吸収効率が高まる。本発明では、吸収液中に溶存している成分の割合を制御することにより、吸収塔に装入される吸収液の温度を30℃以下、更には25℃以下、特には20℃以下とすることができる。たとえば、硫黄化合物及び窒素化合物のうち硫黄化合物を吸収し、吸収塔から排出される吸収液中に含有される硫化水素、シアン化水素の合計含有割合は、通常0.2重量%以上である。
【0051】
[4.回収工程〔1〕]
本発明の回収方法は、前記吸収工程〔2〕の後、硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つを吸収した吸収液を吸収塔(2)から蒸留塔(1)で蒸留することにより、当該硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つを回収する回収工程〔1〕を有する。
【0052】
<蒸留塔(1)>
吸収液から硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つの成分を回収する棚段塔、充填塔又は泡鐘塔である蒸留塔(1)を有する。
【0053】
蒸留塔に装入される硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つを吸収させた吸収液の温度は限定されないが、通常100〜200℃である。なお、硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つを吸収して吸収塔から排出された吸収液の温度は通常15〜50℃であるが、これをそのまま蒸留塔に装入すると蒸留に要する熱エネルギーが多大になるため、予め上記の温度まで昇温して蒸留塔に装入することが好ましい。
【0054】
[5.冷却工程〔1〕]
本発明の回収方法は、前記回収工程〔1〕の後、硫黄化合物及び窒素化合物のうち少なくとも一つを回収後の吸収液を、熱交換器(A)及び熱交換器(B)を介して冷却した後、再び吸収塔(2)へ供給する冷却工程〔1〕を有する。
【0055】
<熱交換器(A)>
熱交換器(A)は前記吸収塔(2)から前記蒸留塔(1)へ移送する吸収液を冷媒とするものであることが好ましく、熱交換器(A)は、エネルギー消費量を低減させるために、前記吸収塔(2)から前記蒸留塔(1)へ移送する吸収液を冷媒とし、また、前記蒸留塔(1)から前記吸収塔(2)へ移送する吸収液を熱媒とする、冷媒と熱媒を直交させるものであることが好ましい。
【0056】
吸収塔(2)から排出された吸収液の温度は通常15℃〜50℃であるが、これをそのまま蒸留塔(1)に装入すると蒸留に要する熱エネルギーが多大になるため、予め100〜200℃の温度まで昇温して蒸留塔に装入することが好ましい。また、蒸留塔(1)から排出された吸収液の温度は通常100〜200℃であるが、これをそのまま吸収塔(2)に装入すると硫黄化合物及び窒素化合物の吸収効率が低下するため、予め50〜150℃の温度まで降温しておくことが好ましい。
【0057】
<熱交換器(B)>
吸収塔(2)において硫黄化合物及び窒素化合物を効率よく回収するには、吸収塔に導かれる吸収液の温度を低下させ、単位吸収液量に吸収させる硫黄化合物及び窒素化合物の量を上げる必要があるため、熱交換器(B)を設ける。熱交換器(B)は上記熱交換器(A)に対して直列に設けられ、熱交換器(A)よりも吸収塔(2)に近い位置に備えられることが好ましい。
【0058】
熱交換器(A)から排出された吸収液の温度は通常50〜150℃であるが、これをそのまま吸収塔(2)に装入すると硫黄化合物及び窒素化合物の吸収効率が低下するため、予め20〜100℃の温度まで降温しておくことが好ましい。また、熱交換器(B)の冷媒は限定されないが、通常水である。
【0059】
[6.吸収工程〔3〕]
本発明の回収方法は、前記冷却工程〔1〕の後、吸収塔(2)から粗軽油成分を含有するガスを吸収塔(3)に供給し、吸収油に吸収する吸収工程〔3〕を有する。
【0060】
<粗軽油成分>
本発明において「粗軽油成分」とは、広義には、一般に軽質油(軽油)と呼ばれるものが包含されるが、具体的には、原料ガスから吸収油に吸収可能な成分を意味し、少なくともベンゼン、トルエン及びキシレンから選択される少なくともいずれか一つの成分を含有するものであることが好ましい。通常、粗軽油成分には、更にスチレン、ベンゾフラン、インデン、ナフタレン、メチルナフタレン、ビフェニレン、アセナフテン、ビフェニル、エチルナフタレン、ジメチルナフタレン、フルオレン、ジベンゾフラン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン等を含有する。なお、粗軽油成分は単一の化合物であってもよいが、通常は複数の化合物の混合物である。
【0061】
後述する吸収塔に導入する原料ガスとしては、当該原料ガス中に含まれる全粗軽油成分中のベンゼン、トルエン及びキシレンの合計含有割合が10体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。全粗軽油成分中のベンゼン、トルエン、キシレンの合計含有割合の上限は限定されず、100体積%でもよいが、通常90体積%以下である。
【0062】
<吸収塔(3)>
原料ガスから吸収油に粗軽油成分を吸収する方法は限定されないが、通常、吸収塔にて行われる。吸収塔(3)に装入される原料ガスの温度は限定されないが、通常20〜50℃である。また、吸収塔(3)に装入される吸収油の温度は限定されないが、当該原料ガスの水分凝縮を避けるため、通常は25〜50℃程度である。吸収塔(3)は、塔内の上部から下部に向けて吸収油が装入されるとともに、下部から上部に向けて原料ガスが装入され、塔内で吸収油と原料ガスが接触することにより、原料ガス中に含まれる粗軽油成分が吸収油中に移相させるものであるであることが好ましい。吸収塔(3)内での吸収油の装入方法は限定されないが、スプレー散布する方式であることが好ましい。
【0063】
[7.回収工程〔2〕]
本発明の回収方法は、前記吸収工程〔3〕の後、粗軽油成分を吸収した吸収油を吸収塔(3)から蒸留塔(2)に供給して蒸留することにより、当該粗軽油成分を回収する回収工程〔2〕を有する。
【0064】
<蒸留塔(2)>
蒸留塔(2)は、吸収液からナフタレン及び粗軽油成分を回収する棚段塔、充填塔又は泡鐘塔である蒸留塔(1)を有するものであることが好ましい。
【0065】
蒸留塔(2)に装入されるナフタレン及び粗軽油成分を吸収させた吸収油の温度は限定されないが、通常100〜200℃である。なお、ナフタレンを吸収して吸収塔(1)から排出された吸収油の温度は通常15〜50℃であり、粗軽油成分を吸収して吸収塔(3)から排出された吸収油の温度は通常15〜50℃であるが、これをそのまま蒸留塔に装入すると蒸留に要する熱エネルギーが多大になるため、予め蒸気の温度まで昇温して蒸留塔に装入することが好ましい。
【0066】
本発明では、原料ガスとは異なるラインから吸収塔(1)にジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量が35重量%以下である吸収油を供給する。
【0067】
本発明では、蒸留塔(2)から抜き出した吸収油中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量を35重量%以下とすることにより、熱交換器(C)において、冷却温度を下げたとしても吸収液中に溶存している物質が析出することを抑制することができる。この観点から、ジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量は、好ましくは33重量%以下である。以下、ジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量を「特定物質の含有割合」ということがある。
【0068】
一方、特定物質の含有割合が35重量%を超える場合は、仮に吸収油中の他の成分(ジベンゾフラン及びフルオレン以外の成分)の含有割合を低減させたとしても、十分に溶存成分の析出を抑制することができない。例えば、ジベンゾフラン(融点:81℃)よりも高融点であるアセナフテン(融点:92℃)は、吸収油中に多量に含有しているにも関わらず、その含有量を有意に低下させたとしても、特定物質の含有割合が上記範囲でない場合は十分に溶存成分の析出を抑制することができない。
【0069】
本発明では、吸収油中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量を上記の範囲とすることにより、熱交換器(C)による吸収液の冷却温度を後述する範囲まで下げることができる。
【0070】
従来、蒸留塔における蒸留で粗軽油成分を回収した後の吸収油中には、冷却すると固化・析出する様な物質が溶存していることは知られていた。また、吸収油の析出開始温度を下げるように吸収油の組成を変えるという考えも見られた。しかしながら、固化・析出を防止するためには如何なる成分の析出を抑制すべきか、という観点から溶存物質に着目した検討はなされていなかった。通常であれば、最も多く溶存している物質を極力減らす、或いは、より融点の低い物質を減らすということが、析出を抑制する方策として有効であると考えられるが、本発明者らが検討した結果、意外にも、上記のような考えでは十分な析出抑制効果が発揮できないことを見出し、本発明に到達したものである。
【0071】
すなわち、特定物質の含有割合を所定値以下とすれば、より融点の高い化合物が溶存していたとしても析出を抑制し得ることが見出された。また、吸収油中に特定物質が存在していたとしても、その含有割合が所定値以下であれば、吸収油を冷却しても析出を抑制し得ることが見出された。
【0072】
通常、吸収油中の特定物質の含有割合は35重量%以上である。これに対し、本発明における特定物質の含有割合は上記した通りであり、その差は、少ない場合で数重量%に過ぎない。一般に、固化や析出を防止するためには、その原因となる物質を大幅に低減させなければ防止効果は発揮しないと考えられている。このため、上記した程度の含有割合の低減に過ぎないのであれば、吸収油からの析出開始温度を大幅に低下させることは困難であるように考えられるが、本発明では、対象物質を特定して低減させることにより、予期せぬ程の改良効果が発現することを見出すことができた。
【0073】
蒸留塔(2)から抜き出した吸収油中の特定物質の含有割合を測定する方法としては、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)が挙げられる。通常、クロロホルム等を溶剤とし、この溶剤に吸収油を溶解・分散させたものを試料として用いる。得られたデータには、標準物質、溶剤のピークとともに、吸収油に溶存している物質のピークが検出される。本発明において特定物質の含有割合は、吸収油の全量を基準として算出される。
【0074】
吸収油中の特定物質の含有割合を、上記規定の範囲内とするための手段は限定されず、蒸留、吸収、吸着、濾過分離等を適宜用いることによって達成することができるが、特に、以下の除去工程を設け、その条件を好ましいものとすることによって達成することができる。
【0075】
[8.冷却工程〔2〕]
本発明の回収方法は、前記回収工程〔2〕の後、好ましくは前記除去工程の後、粗軽油成分を回収後の吸収油を、熱交換器(C)を介して冷却した後、再び吸収塔(1)及び吸収塔(3)へ供給する冷却工程〔2〕を有する。
【0076】
<熱交換器(C)>
エネルギー消費量を低減させるため、また、ナフタレン及び粗軽油成分を効率よく回収するために、前記吸収塔(1)及び吸収塔(3)から前記蒸留塔(2)へ移送する吸収油を冷媒とする、また前記蒸留塔(2)から前記吸収塔(1)及び吸収塔(3)へ移送する吸収油を熱媒とする、冷媒と熱媒を直交させる熱交換器(C)を設ける。
【0077】
吸収塔(1)及び吸収塔(3)から排出された吸収油の温度は通常15℃〜50℃であるが、これをそのまま蒸留塔(2)に装入すると蒸留に要する熱エネルギーが多大になるため、予め100〜200℃の温度まで昇温して蒸留塔に装入することが好ましい。
【0078】
また、蒸留塔(1)から排出された吸収液の温度は通常100〜200℃であるが、これをそのまま吸収塔(1)及び吸収塔(3)に装入するとナフタレン及び粗軽油成分の吸収効率が低下するため、予め15〜50℃の温度まで降温しておくことが好ましい。
【0079】
[9.除去工程]
本発明の回収方法は、前記蒸留塔(2)から吸収油を抜出、該吸収油を蒸留塔(3)にてピッチ成分を除去する除去工程を有することが好ましい(
図5参照)。なお、本発明において蒸留塔(3)としては、たとえば棚段塔、充填塔又は泡鐘塔等が挙げられる。
【0080】
前記蒸留塔(2)から排出された吸収油は、ベンゼン、トルエン、キシレンの含有割合は低減している一方、ジベンゾフラン、フルオレン、アセナフテン、フェナントレン等の重質成分が含まれている。蒸留塔(3)では、吸収油中からこれらの成分を分離し、除去することができる。
【0081】
上述の通り「除去工程」には、通常、蒸留塔(2)から抜き出された吸収油の一部が導入されるが、それと共に、残部は熱交換器(C)を経て吸収塔(1)に供給されることが好ましい。
【0082】
<蒸留塔(3)>
本発明において、「ピッチ成分」とは蒸留塔(3)による蒸留によって、残留するジベンゾフラン及びフルオレンを含む重質油成分であって、全ピッチ成分中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有割合が30重量%以上であるものをいう。全ピッチ成分中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有割合が好ましくは50重量%以上であり、一方、これらの合計含有割合の上限は制限されないが、通常90重量%以下である。たとえばピッチ成分は、燃料として用いることもできるが、種々の原料として利用することができる。具体的には、ピッチコークス、クレオソート油等としての利用が可能である。
【0083】
蒸留塔(3)によってピッチ成分の除去を行う場合の詳細な条件について説明するが、他の方法を採用する場合も、適宜変更して実施することができる。蒸留塔(2)から排出され、蒸留塔(3)に装入される吸収油の温度は限定されないが、通常150〜180℃である。また、蒸留塔(3)の塔頂温度は限定されず、除去するピッチ成分の組成等によって適宜設定されるが、好ましくは100〜200℃であり、より好ましくは150〜195℃である。更に、蒸留塔(3)から排出される、ピッチ成分を除去した吸収油中の粗軽油成分の含有割合は通常37〜32重量%である。蒸留塔(3)により蒸留を行い、発生した蒸気は蒸留塔(2)に供給されることが好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
<コークス炉ガス組成の分析>
分析対象のガスを、ガスクロマトグラフィー(東亜ディーケーケー社製、2000−EX−2)を用いて分析した。
【0086】
<吸収油と吸収液中の有機成分組成の分析>
分析対象の液をクロロホルムに溶解し、GC−MS(アジレント社製、7890GC−5975MSD&島津製作所 GC−2014)を用いて分析した。
分析は、シリンジで一定容量をGC−MS装置に注入し、得られた成分と内部標準(エチルフェノール)のピーク面積から、検量線より各成分の組成を算出した。
【0087】
[実施例1]
室炉式のコークス炉にて石炭を乾留することにより、コークスを製造した。コークス製造の際に排出された原料ガス(コークス炉ガス)の組成を分析した結果を表−1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
原料ガスから硫黄化合物を回収する装置として
図5に示す装置を設けて運転した。
【0090】
吸収塔(1)へ装入される原料ガスの温度は30℃、吸収油の温度は40℃であり、吸収塔(1)から排出された吸収油の温度は35℃であった。また、吸収塔(3)へ装入される原料ガスの温度は31℃、吸収油の温度は26℃であり、吸収塔(3)から排出された吸収油の温度は28℃であった。これら吸収油(「RO油」という)を、蒸留塔(2)から吸収塔(1)及び(3)へ循環される高温状態の吸収油との熱交換を行って180℃に昇温して蒸留塔(2)へ装入した。
【0091】
蒸留塔(2)では、塔頂温度を98℃として塔頂から粗軽油成分を回収し、下部より吸収油(「AO油」という)を排出した。AO油は蒸留塔からの排出時点で180℃であったが、前述のRO油との熱交換を行うことによって冷却して吸収塔(1)及び吸収塔(3)へ循環した。
【0092】
蒸留塔(2)から排出されたAO油は熱交換器(C)に移送する前の一部を蒸留塔(3)に供給し、塔底温度を185℃として塔頂部より蒸留したガスを蒸留塔(2)に循環させ、塔底からピッチ成分(「ピッチ油」という)を回収した。
【0093】
また、吸収塔(2)へ装入される原料ガスの温度は33℃、吸収液の温度は20℃であった。吸収塔(2)から排出した吸収液の温度は28℃であった。これを、蒸留塔(1)から吸収塔(2)へ循環される高温状態の吸収液との熱交換を熱交換器(A)にて行い125℃に昇温して蒸留塔(1)へ装入した。
【0094】
蒸留塔(1)では、塔頂から硫黄化合物を回収し、下部より吸収液を排出した。吸収液は蒸留塔(1)からの排出時点で130℃であったが、先ず前述の吸収液との熱交換を熱交換器(A)にて行うことによって冷却した後、更に水を冷媒とする熱交換器(B)によって20℃に冷却して吸収塔へ循環した。
【0095】
吸収塔(1)に循環されたAO油はコークス炉ガスと共に吸収塔(2)に飛沫同伴し、該AO油は吸収塔(2)の塔底部から排出され、熱交換器(A)及び熱交換器(B)を経由した後に該吸収塔(2)に循環させた。
【0096】
以上の運転が定常状態となった時点で、RO油、AO油、ピッチ油、吸収液を採取し、その組成を分析した結果を表−2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
表−2の通り、蒸留塔(2)から排出され、吸収塔(1)に導入されるAO油中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量は、30.98重量%であった。
また、吸収塔(1)から同伴される吸収油を含んだ吸収液中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量は、18.93重量%であった。
【0099】
[比較例1]
原料ガスから粗軽油成分を回収する装置として
図5に示す装置を設け、蒸留塔(3)を運転せずに装置を稼働させたこと以外は実施例1と同様の条件で実施した。
【0100】
上記の運転が定常状態となった時点で、RO油、AO油、吸収液を採取し、その組成を分析した結果を表−3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
表−3の通り、蒸留塔(2)から排出され、吸収塔(1)に導入されるAO油中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量は、36.27重量%であった。また、吸収塔(1)から同伴される吸収油を含んだ吸収液中のジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量は、26.89重量%であった。
【0103】
表−4に実施例1及び比較例1のAO油及び吸収液の分析結果を示す。
【0104】
【表4】
【0105】
蒸留塔(2)の塔底部より排出された油(AO油)を分析したところ、ジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量は、実施例1では30.99重量%、比較例1では36.27重量%であった。実施例1及び比較例1のそれぞれのAO油について、冷却した際の析出状況を確認すると、比較例1のAO液は約21〜26℃程度で析出が開始する油であったが、実施例のAO油は18℃以下に冷却しても析出しない油とすることができた。
【0106】
吸収塔(1)から飛沫同伴され、吸収塔(2)の塔底部より排出された液(吸収液)の有機成分を分析したところ、ジベンゾフラン及びフルオレンの含有量は、実施例1では、18.93重量%、比較例1では、26.89重量%であった。これにより、蒸留塔(3)を用いた実施例1では蒸留塔(3)を使用しなかった比較例1よりもジベンゾフラン及びフルオレンの合計含有量が少なく、熱交換器による冷却をより低い温度にすることが可能であることがわかる。よって、熱交換器(B)では吸収液をより低い温度に冷却することができる。