特許第6881292号(P6881292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6881292-再結合ライフタイムの制御方法 図000003
  • 特許6881292-再結合ライフタイムの制御方法 図000004
  • 特許6881292-再結合ライフタイムの制御方法 図000005
  • 特許6881292-再結合ライフタイムの制御方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881292
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】再結合ライフタイムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/322 20060101AFI20210524BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20210524BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20210524BHJP
   C30B 13/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   H01L21/322 L
   H01L21/66 M
   H01L29/78 655A
   H01L29/78 652T
   C30B29/06 501A
   C30B13/00
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-254431(P2017-254431)
(22)【出願日】2017年12月28日
(65)【公開番号】特開2019-121657(P2019-121657A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−127192(JP,A)
【文献】 特開2015−198166(JP,A)
【文献】 特開2002−110687(JP,A)
【文献】 特開2010−003899(JP,A)
【文献】 特開2008−103673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/322
H01L 21/66
H01L 29/12
H01L 29/739
H01L 29/78
C30B 13/00
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊帯溶融法(FZ法)により育成された窒素添加のシリコン単結晶からシリコン単結晶基板を準備する準備工程と、
該準備したシリコン単結晶基板に熱処理を施す熱処理工程Aと、
該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板に粒子線を照射する粒子線照射工程と、
該粒子線照射工程後の前記シリコン単結晶基板を熱処理する熱処理工程Bと
を行うことで、シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムを制御する再結合ライフタイムの制御方法であって、
前記準備工程で準備された前記シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて、前記熱処理工程Aにおいて、前記熱処理によって前記シリコン単結晶基板中の窒素を外方拡散させることにより前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnを調整するときに前記準備工程で準備されたシリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma未満の場合は、前記熱処理工程Aにおいて、該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnが2×1014atoms/cm未満となるように前記熱処理を施して窒素を外方拡散させ、前記準備工程で準備されたシリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma以上の場合は、前記熱処理工程Aにおいて、該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnが2×1015atoms/cm未満となるように前記熱処理を施して窒素を外方拡散させ、
その後、窒素濃度Cnが調整された前記シリコン単結晶基板に対し、前記粒子線照射工程を行うことを特徴とする再結合ライフタイムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶基板におけるキャリアの再結合ライフタイムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transister:IGBT)やダイオード等のパワーデバイスにおいては、シリコン基板中にキャリアの再結合中心となる欠陥を意図的に導入して、キャリアの再結合ライフタイムを短く制御することによって、スイッチング速度を高速化し、結果的にスイッチング損失を低減させる技術が従来から用いられている。
【0003】
再結合ライフタイムを制御する方法として、金や白金などの重金属不純物を基板中に拡散させる方法と、電子線、プロトン、ヘリウムイオンなどの荷電粒子線(粒子線と呼ぶ場合もある)を照射する方法がある。重金属不純物を拡散させる方法では、その濃度や深さ方向の分布、面内均一性などの制御が難しいことから、近年では、荷電粒子線照射が用いられることが多くなっている(特許文献1〜3参照)。荷電粒子線を照射する場合は、複数種の、再結合中心となる欠陥が室温付近で導入され、その中には熱的に不安定な欠陥種も存在するため、荷電粒子線の照射後に更に熱処理(回復熱処理と呼ぶ場合もある)を施すことで、熱的に不安定な欠陥を消滅させたり、欠陥濃度を調整することにより、再結合ライフタイムの目標の値が得られるようにする。
【0004】
例えば、特許文献3では、ダイオードの逆回復時間を短縮するために、電子線照射による結晶欠陥を残留させる熱処理条件にて熱処理し、キャリアの再結合ライフタイムを0.1〜1(μsec)程度としてもよいことが記載されている。また、特許文献3には、この場合の熱処理条件を、例えば、熱処理温度を350℃以上380℃未満、熱処理時間を0.5時間から2時間程度とするとよいことが記載されている。また、特許文献4では、熱処理温度が400℃以上であれば、プロトンを照射したウェーハのライフタイムは10μs前後であり、ダイオードの順電圧、逆回復損失等の制御の点から望ましいことが記載されている。
【0005】
パワーデバイスにおけるスイッチング損失と定常損失とはトレードオフの関係にあることから、全体の損失を低減するためには、再結合ライフタイムの厳密な制御が必要となる。
【0006】
また、パワーデバイスの耐圧特性には、シリコン基板の抵抗率ばらつきの原因となるシリコン単結晶基板中の酸素ドナーの形成が問題になるため、高性能のデバイスには、酸素をほとんど含まないFZ(Floating Zone)シリコン単結晶基板やCZ法に磁場を印加したMCZ法で極低酸素濃度としたシリコン単結晶基板が多く用いられる。
【0007】
このとき、FZシリコン単結晶基板では、結晶育成時の炉内での放電防止、結晶育成時に導入される結晶欠陥の低減、ウェーハ強度の向上のために、結晶育成時に窒素が添加される場合が多い(特許文献5)。育成された単結晶に導入される窒素の濃度は、結晶育成時の雰囲気ガスの調整により制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−135509号公報
【特許文献2】特開2000−200792号公報
【特許文献3】国際公開第2013/100155号
【特許文献4】国際公開第2007/055352号
【特許文献5】特開2017−122033号公報
【特許文献6】特開2015−198166号公報
【特許文献7】特開2016−127192号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】清井他,第61回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,19p−F9−14.
【非特許文献2】湊他,第4回パワーデバイス用シリコンおよび関連半導体材料に関する研究会 p.77.
【非特許文献3】K.Takano et al.,Proceeding of the 27th International Symposium on Power Semiconductor Devices & IC’s,2015,p.129.
【非特許文献4】杉山他,シリコンテクノロジーNo.87,p.6.
【非特許文献5】杉江他,シリコンテクノロジーNo.148,p.11.
【非特許文献6】N.Inoue et al.,Physica B 401−402(2007),p.477.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、粒子線照射の条件や、粒子線照射後の熱処理の条件を同じにしても、デバイス特性がばらつくという問題があった(非特許文献1〜3)。再結合ライフタイムのばらつきは、デバイス特性のばらつきに直接影響するので、再結合ライフタイムのばらつきを改善することが極めて重要な課題である。特に近年では、半導体デバイスの高性能化に伴い、再結合ライフタイムを高精度で制御し、そのばらつきをできる限り小さくする必要がある。
【0011】
再結合ライフタイムのばらつき要因として、シリコン基板自体に含まれる何らか物質が要因として疑われており、特に炭素や酸素の不純物の影響が懸念されている。
【0012】
特に、電子線やヘリウムイオンなどの粒子線をシリコン基板に照射することでキャリアの再結合ライフタイムを制御するパワーデバイスでは、0.05ppma以下の極微量の炭素がデバイス特性に悪影響を及ぼすことが指摘されている(非特許文献4〜6参照)。このことから、シリコン単結晶基板に含まれる炭素をできる限り低減することが重要であると考えられている。
【0013】
また、非特許文献1では、同じ再結合ライフタイム制御を行った場合でも、スイッチング損失にウェーハ依存が発生することがある問題を指摘し、電子線照射により生成する主要な欠陥(CsI、CiCs、又はCiOi)のうち、CiOiのみ活性化エネルギーにウェーハ依存があり、酸素濃度が高い場合に活性化が高くなる傾向があるため、酸素不純物がウェーハ依存の要因になると考えられる、としている(但し、Cs:置換型炭素、Ci:格子間型炭素、Oi:格子間型酸素、I:格子間シリコンである)。
しかしながら、再結合ライフタイムのばらつきに対しては、これらの炭素や酸素の不純物が主要因であるか否か、実際には明らかになっていない。
【0014】
特許文献6では、再結合ライフタイムの制御方法として、CZシリコン単結晶基板のドーパント濃度、或いは、ドーパント濃度と酸素濃度の両方を調整することにより、再結合ライフタイムを高精度で制御することができ、FZシリコン単結晶基板と同等の再結合ライフタイムを得ることが可能となる制御方法が記載されている。
しかしながら、特許文献6では、窒素添加FZシリコン単結晶基板における再結合ライフタイムのばらつき要因や制御方法が明らかではないという問題があった。
【0015】
また、特許文献7では、シリコン基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを小さくでき、再結合ライフタイムを高精度で制御できるシリコン基板の選別方法が記載されている。この方法では、粒子線照射工程後の再結合ライフタイムLT0と回復熱処理後の再結合ライフタイムLT1の比(LT1/LT0)が基準値LT2以下の場合に合格と判定する。
【0016】
しかしながら、特許文献7に記載されたシリコン基板の選別方法では、特許文献7の図7に示されているように、酸素濃度が0.4ppma以下となるようなFZシリコン単結晶基板は、不合格となる確率が極めて高いという問題があった。また、酸素濃度が0.4ppma以下となるようなFZシリコン単結晶基板でも、再結合ライフタイムのばらつきを小さくできる有効な技術がなかった。
【0017】
本発明は、前述のような問題に鑑みてなされたもので、キャリアの再結合ライフタイムを制御するパワーデバイスの製造工程において、窒素添加FZシリコン単結晶基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを確実に小さくでき、再結合ライフタイムを高精度で制御できる再結合ライフタイムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明は、浮遊帯溶融法(FZ法)により育成された窒素添加のシリコン単結晶からシリコン単結晶基板を準備する準備工程と、該準備したシリコン単結晶基板に熱処理を施す熱処理工程Aと、該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板に粒子線を照射する粒子線照射工程と、該粒子線照射工程後の前記シリコン単結晶基板を熱処理する熱処理工程Bとを行うことで、シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムを制御する再結合ライフタイムの制御方法であって、
前記準備工程で準備された前記シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて、前記熱処理工程Aにおいて、前記熱処理によって前記シリコン単結晶基板中の窒素を外方拡散させることにより前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnを調整し、その後、窒素濃度Cnが調整された前記シリコン単結晶基板に対し、前記粒子線照射工程を行うことを特徴とする再結合ライフタイムの制御方法を提供する。
【0019】
このように、FZ法により育成された窒素添加のシリコン単結晶から準備されたシリコン単結晶基板(窒素添加FZシリコン単結晶基板)の酸素濃度Coに応じて、熱処理工程Aにより、粒子線照射工程前の段階でシリコン単結晶基板の窒素濃度Cnを調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきを確実に小さくすることができる。
【0020】
またこのとき、前記準備工程で準備されたシリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma未満の場合は、前記熱処理工程Aにおいて、該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnが2×1014atoms/cm未満となるように前記熱処理を施して窒素を外方拡散させ、前記準備工程で準備されたシリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma以上の場合は、前記熱処理工程Aにおいて、該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnが2×1015atoms/cm未満となるように前記熱処理を施して窒素を外方拡散させ、その後、前記粒子線照射工程を行うことが好ましい。
【0021】
このように、シリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma未満の場合は、熱処理工程Aにおいて、熱処理工程A後(粒子線照射工程の前)にシリコン単結晶基板の窒素濃度Cnが2×1014atoms/cm未満となるように調整すれば、また、シリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma以上の場合は、熱処理工程Aにおいて、熱処理工程A後(粒子線照射工程の前)にシリコン単結晶基板の窒素濃度Cnが2×1015atoms/cm未満となるように調整すれば、シリコン単結晶基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきをより確実に小さくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の再結合ライフタイムの制御方法であれば、粒子線照射工程の前に、窒素添加FZシリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じてシリコン単結晶基板の窒素濃度を調整することにより、再結合ライフタイムを高精度で制御することができるので、シリコン単結晶基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきを確実に小さくすることができる。また、シリコン単結晶基板を準備した後の熱処理工程により、粒子線照射工程前のシリコン単結晶基板の窒素濃度を調整するので、シリコン単結晶育成時において、炉内の放電防止や結晶欠陥発生の抑制などに必要な窒素の濃度を低減させる必要がなく、シリコン単結晶の生産性や品質の悪化を避けることができる。また本発明は、窒素添加FZシリコン基板の再結合ライフタイムを制御するにあたり、シリコン単結晶育成時の窒素濃度が異なる場合でも再結合ライフタイムを高精度で制御することができるので、特に窒素添加FZシリコン基板をパワーデバイス用に使用する際に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のシリコン単結晶基板の再結合ライフタイムの制御方法を示すフロー図である。
図2】実験例において測定した再結合ライフタイムLTと熱処理工程Bの熱処理時間との関係を示したグラフである。
図3】実験例において測定した酸素濃度が0.1ppma以上の場合(FZ−A、FZ−B)の、再結合ライフタイムLTと熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のバルク窒素濃度との関係を示したグラフである。
図4】実験例において測定した酸素濃度が0.1ppma未満の場合(FZ−C、FZ−D)の、再結合ライフタイムLTと熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のバルク窒素濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
上記のように、従来技術では、粒子線照射の条件と粒子線照射後の熱処理の条件を調整することによってキャリアの再結合ライフタイムを制御しており、この場合、シリコン単結晶基板に起因する何らかの要因で、再結合ライフタイムのばらつきが生じるという問題があった。
【0026】
本発明者は鋭意検討を重ねたところ、シリコン単結晶基板に粒子線照射とその後の熱処理を施した場合の再結合ライフタイムは、従来のばらつき要因と考えられていた炭素濃度がほぼ同じ場合でも、再結合ライフタイムがばらつき、シリコン単結晶基板の窒素濃度に強く依存することを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
すなわち、MCZ法で製造したシリコン単結晶は窒素を添加して製造する必要がないため、窒素による再結合ライフタイムのばらつきの問題はないが、FZ法では窒素を添加してシリコン単結晶を製造する必要があり、これがFZシリコン単結晶基板の再結合ライフタイムのばらつきの原因となっていること、更には、酸素濃度に応じて、再結合ライフタイムの窒素濃度依存性が異なることを見出した。そして、このFZ法で製造したシリコン単結晶基板特有の問題を解決することで本発明を完成させた。
【0028】
即ち、本発明は、浮遊帯溶融法(FZ法)により育成された窒素添加のシリコン単結晶からシリコン単結晶基板を準備する準備工程と、該準備したシリコン単結晶基板に熱処理を施す熱処理工程Aと、該熱処理工程A後の前記シリコン単結晶基板に粒子線を照射する粒子線照射工程と、該粒子線照射工程後の前記シリコン単結晶基板を熱処理する熱処理工程Bとを行うことで、シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムを制御する再結合ライフタイムの制御方法であって、
前記準備工程で準備された前記シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて、前記熱処理工程Aにおいて、前記熱処理によって前記シリコン単結晶基板中の窒素を外方拡散させることにより前記シリコン単結晶基板の窒素濃度Cnを調整し、その後、窒素濃度Cnが調整された前記シリコン単結晶基板に対し、前記粒子線照射工程を行うことを特徴とする再結合ライフタイムの制御方法である。
【0029】
以下、図1を参照し、本発明の再結合ライフタイムの制御方法を説明する。
まず、FZ法により育成された窒素添加のシリコン単結晶からシリコン単結晶基板を準備する(図1のS1)。ここで用意するシリコン単結晶基板の仕様(直径、厚み、抵抗率など)は、本発明において特に限定されない。例えば、半導体デバイス側からの要求に沿った仕様とすることができる。
【0030】
また、このシリコン単結晶基板を用意する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、シリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出し、切断ダメージを取り除くためにシリコンウェーハに化学的エッチング処理を行った後、化学的機械的研磨を行うことによりシリコン単結晶基板を用意できる。
【0031】
次に、シリコン単結晶基板に熱処理を施す熱処理工程Aを行う(図1のS2)。
この熱処理工程Aにおいて、準備工程で準備されたシリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて、シリコン単結晶基板中の窒素を外方拡散させることにより、粒子線照射工程の前にシリコン単結晶基板の窒素濃度を調整する。
【0032】
熱処理工程Aの条件は、準備工程で準備された前記シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて決定され、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma未満の場合には、熱処理工程A後の窒素濃度Cnが2×1014atoms/cm未満となるように決定することが好ましい。また、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coが0.1ppma以上の場合には、熱処理工程A後の窒素濃度Cnが2×1015atoms/cm未満となるように決定することが好ましい。
【0033】
FZ法により育成された窒素添加のシリコン単結晶から準備されたシリコン単結晶基板の酸素濃度Coの上限は特に限定されないが、例えば1ppma未満とすることができる。
【0034】
何れの酸素濃度Coの場合も、窒素濃度Cnの下限は限定されない。ここで、熱処理工程A後の窒素濃度は、再結合ライフタイムを調整する領域における窒素濃度である。半導体デバイスの製造工程において、粒子線照射工程の前に、研削等によりシリコン単結晶基板を薄板化した場合には、薄板化された後の再結合ライフタイムを調整する領域における窒素濃度である。
【0035】
また、熱処理工程Aは、1回の熱処理工程に限定されるものではなく、複数回の熱処理工程を行っても良い。半導体デバイスの製造工程の前に行っても良いし、半導体デバイスの製造工程中に行っても良い。また、半導体デバイスの製造工程の前と製造工程中の熱処理工程の組合せにより行っても良い。
【0036】
熱処理工程Aにおいて重要なことは、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて、シリコン単結晶基板中の窒素を外方拡散させることにより、粒子線照射工程前のシリコン単結晶基板の窒素濃度Cnを調整すること、特には、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coと粒子線照射工程前のシリコン単結晶基板の窒素濃度Cnとの関係が前記の条件を満たすようにすることである。
【0037】
このようにすることで、窒素添加FZシリコン単結晶基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを確実に小さくでき、再結合ライフタイムを高精度で制御できる。一方、粒子線照射工程前の窒素濃度の調整を考えずに、シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに関係なく同一条件で熱処理を施すと、窒素添加FZシリコン単結晶基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきが大きくなる場合が生じる。
【0038】
熱処理工程Aは、シリコン単結晶基板中の窒素を外方拡散させることができ、かつ、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて決められた条件であれば、如何なる条件でも構わないが、特に、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coと粒子線照射工程前のシリコン単結晶基板の窒素濃度Cnとの関係が、前記の条件を満たすような熱処理条件とすることが好ましい。例えば、1回の熱処理で行う場合は、温度を1050℃以上として、時間を2時間以上として、シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて決定することができる。熱処理工程Aにおける熱処理の温度が高いほど窒素の拡散速度が速くなるので効率的である。熱処理工程Aの温度が高く時間が長いほど、シリコン単結晶基板の窒素濃度は減少する。
【0039】
本発明において、熱処理工程A後のシリコン単結晶基板の窒素濃度の下限は限定されないので、熱処理工程Aの熱処理温度および時間の上限は限定されない。生産性やコスト、スリップ転位発生の防止など他の品質を考慮して決めることができる。
【0040】
特許文献6や特許文献7では、再結合ライフタイムを測定する測定工程において、表面再結合を抑制するために酸化膜パシベーションを用いる場合は、粒子線照射工程の前にシリコン単結晶基板の表面に酸化膜を形成することができると記載されている。また、酸化膜は、酸化性雰囲気の熱処理により形成することができ、酸化膜形成熱処理の条件は、例えば、温度を900℃以上1100℃以下、時間を10分以上60分以下とすることができると記載されている。さらに、酸化膜パシベーションを用いず、熱処理を伴わないケミカルパシベーションを用いることができると記載されている。
【0041】
特許文献6や特許文献7に記載された酸化膜パシベーション用の酸化膜形成熱処理においても、シリコン単結晶基板中の窒素は外方拡散する。しかしながら、これらの熱処理条件は、シリコン単結晶基板の酸素濃度Coに応じて決定されたものではなく、特許文献6や特許文献7に記載された酸化膜形成熱処理の条件では、本発明における熱処理工程Aの目的を達成するには不十分な場合があり、結果的にシリコン単結晶基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくできない場合が生じる。
【0042】
本来、再結合ライフタイムを厳密に制御するためには、粒子線照射を行う段階でのシリコン単結晶基板の酸素濃度と窒素濃度との関係が重要である。但し、シリコン単結晶基板中の酸素は拡散速度が遅いため、熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のバルク酸素濃度は、準備工程で準備した段階での初期の酸素濃度とほとんど変わらない。そのことから、本発明では、準備工程で準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度Coは熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のシリコン単結晶基板の酸素濃度Coと同じとして扱ってよい。
【0043】
次に、熱処理工程A後のシリコン単結晶基板に対して、粒子線を照射する粒子線照射工程(図1のS3)と、粒子線照射工程後に熱処理を施す熱処理工程B(図1のS4)を行う。
【0044】
ここで行う粒子線照射工程と熱処理工程Bの条件は、本発明において特に限定されない。半導体デバイス側からの要求を満たすように決定することができ、例えば、粒子線照射工程では、粒子線として電子線を、1×1014〜3×1015/cmの線量で、0.5〜2MeVの加速電圧で照射することができる。また、プロトンやヘリウムイオンを照射することもできる。
【0045】
熱処理工程Bは、粒子線照射工程で生成された再結合中心の一部を消滅させ、再結合ライフタイムを回復させるための熱処理工程であり、例えば、温度を300〜400℃、時間を10〜60分、雰囲気を窒素、酸素、あるいは水素などとすることができる。
【0046】
以上のような、本発明の再結合ライフタイムの制御方法であれば、再結合ライフタイムを高精度で制御することができ、シリコン単結晶基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを確実に小さくすることができる。
【0047】
本発明において、再結合ライフタイムを高精度で制御し、シリコン単結晶基板に起因するライフタイムのばらつきを確実に小さくするために、上述のような再結合ライフタイムの制御方法を用いる理由は、以下のような実験により得られた知見による。
【0048】
(実験例)
FZ法により育成された、複数の窒素添加のシリコン単結晶からシリコン単結晶基板(FZ基板と呼ぶ場合もある)を用意した。また、比較のため、MCZ法により育成された窒素無添加のシリコン単結晶からシリコン単結晶基板(MCZ基板と呼ぶ場合もある)を用意した。何れのシリコン単結晶基板も、直径は200mm、結晶面方位は(100)、厚みは720〜730μm、導電型はn型(リン添加)、抵抗率は63〜71Ω・cmである。
【0049】
各々のシリコン単結晶基板の酸素濃度、炭素濃度、および窒素濃度は、下表の通りである。酸素濃度は赤外吸収法により測定し(換算係数:JEIDA)、炭素濃度および窒素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。表に示した各々の濃度は、シリコン単結晶基板を用意した段階(熱処理工程Aの前)の濃度である(初期濃度と呼ぶ場合もある)。
【0050】
【表1】
【0051】
酸素濃度が0.1ppma以上のFZ基板(FZ−A、FZ−B)は、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものである。また、酸素濃度が0.1ppma未満のFZ基板(FZ−C、FZ−D)は、通常の多結晶シリコンインゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものである。
【0052】
次に、用意したシリコン単結晶基板に熱処理を施した(熱処理工程A)。熱処理条件(温度/時間)は、1000℃/1時間、1050℃/1時間、1050℃/2時間、1050℃/4時間、1150℃/1時間、1150℃/2時間、1150℃/4時間とし、雰囲気は酸素とした。但し、MCZ基板に関しては、窒素無添加であることから、1000℃/1時間の条件のみ行った。熱処理工程Aの何れの熱処理条件においても、900℃に保持された炉内にシリコン単結晶基板を挿入し、900℃から各温度まで5℃/分の速度で昇温し、各温度で各時間保持した後、各温度から900℃まで−3℃/分の速度で降温し、炉内からシリコン単結晶基板を取り出した。
【0053】
次に、熱処理工程A後のシリコン単結晶基板に電子線を照射した(粒子線照射工程)。このとき、電子線の照射線量は1×1015/cmとし、電子線の加速電圧は2MVとした。
【0054】
また、前記電子線照射を行ったシリコン単結晶基板と同時に熱処理工程Aを行った別のシリコン単結晶基板において、表面側から厚みのおよそ半分(約360μm)まで研磨して除去した後、SIMSにより窒素濃度を測定することで、熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のバルク窒素濃度(基板の厚み方向中央付近の窒素濃度)を求めた。
【0055】
次に、電子線照射したシリコン単結晶基板に回復熱処理を施した(熱処理工程B)。熱処理の温度は360℃とし、雰囲気は窒素、時間は0〜45分の範囲で振った。その後、再結合ライフタイム(LT)を測定した。
【0056】
再結合ライフタイムの測定には、マイクロ波光導電減衰法(Microwave Photo Conductive Decay method:μ−PCD法)を用いた。このμ―PCD法では、先ずシリコン単結晶のバンドギャップよりも大きなエネルギーの光パルスを照射し、シリコン単結晶基板中に過剰キャリアを発生させる。発生した過剰キャリアによりウェーハの導電率が増加するが、その後、時間経過に伴い過剰キャリアが再結合によって消滅することで導電率が減少する。この変化を反射マイクロ波パワーの時間変化(過剰キャリア減衰曲線)として検出し、解析することにより再結合ライフタイムを求めることができる。
【0057】
再結合ライフタイムは、過剰キャリアの濃度が、再結合により1/e(=0.368)に減衰するまでの時間として定義される(JEIDA−53−1997“シリコンウェーハの反射マイクロ波光導電減衰法による再結合ライフタイム測定方法”)。本実験では、反射マイクロ波パワーが光パルス照射時の1/eに減衰するまでの時間(1/eライフタイム)を再結合ライフタイムとして求めた。測定装置は市販されているものを用いた。
【0058】
再結合ライフタイムLTと熱処理工程Bの熱処理時間との関係を図2に示す。熱処理工程Aの条件(温度/時間)は、図2(a)が1000℃/1時間、図2(b)が1050℃/1時間、図2(c)が1050℃/2時間、図2(d)が1050℃/4時間、図2(e)が1150℃/1時間、図2(f)が1150℃/2時間、図2(g)が1150℃/4時間である。図2におけるシンボルの違いはシリコン単結晶基板の違いを示しており、○はFZ−A、△はFZ−B、□はFZ−C、◇はFZ−D、*はMCZの場合を示している。
【0059】
図2から、熱処理工程Aの条件が1000℃/1時間の場合[図2(a)]、熱処理工程Bの熱処理時間に対するLTの変化がシリコン単結晶基板の違いにより大きく異なることがわかる。これは、電子線照射とその後の回復熱処理の条件が同じでも、シリコン単結晶基板に起因してLTが大きくばらつくことを示している。また、熱処理工程Aの前のFZ基板の窒素濃度が高く酸素濃度が低いほど、熱処理工程Bの熱処理時間に対するLTの変化量が大きくなることがわかる。これは、FZ基板の炭素濃度がほぼ同じでも、窒素濃度や酸素濃度によってLTが大きくばらつくことを示しており、FZ基板においては、窒素濃度および酸素濃度がLTばらつきの主要因であることを示している。さらに、熱処理工程Aの熱処理温度が高く熱処理時間が長くなるに従って、熱処理工程Bの熱処理時間に対するLTの変化が小さくなり、FZ基板の違いによるLTのばらつきが極めて小さくなるとともに、FZ基板と窒素無添加のMCZ基板の違いによるLTの差も極めて小さくなることがわかる。
【0060】
次に、酸素濃度が0.1ppma以上のFZ基板(FZ−A、FZ−B)の場合について、再結合ライフタイムLTと熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のバルク窒素濃度との関係を図3に示す。熱処理工程Bの条件(温度/時間)は、(a)が熱処理なし、(b)が360℃/15分、(c)が360℃/30分、(d)が360℃/45分である。図3におけるシンボルの違いはFZ基板の違いを示しており、○はFZ−A、△はFZ−Bの場合を示している。また、比較のため、窒素無添加MCZ基板の場合を*で示した。図3において、バルク窒素濃度が検出下限(4×1013atoms/cm)以下であった場合は、バルク窒素濃度を便宜上2×1013atoms/cmとしてプロットした。
【0061】
図3から、酸素濃度が0.1ppma以上の場合は、熱処理工程Bの熱処理時間が長くなると[図3(c)、図3(d)]、バルク窒素濃度とともにLTが長くなるが、バルク窒素濃度が2×1015atoms/cm以下であれば、LTはバルク窒素濃度に依存しないことがわかる。すなわち、酸素濃度が0.1ppma以上の場合は、熱処理工程Aにより、粒子線照射工程前にバルク窒素濃度を2×1015atoms/cm以下に調整することにより、FZ基板の違いによるLTのばらつきが極めて小さくなるとともに、FZ基板と窒素無添加のMCZ基板の違いによるLTの差も極めて小さくできることがわかる。
【0062】
次に、酸素濃度が0.1ppma未満の場合(FZ−C、FZ−D)について、再結合ライフタイムLTと熱処理工程A後(粒子線照射工程前)のバルク窒素濃度との関係を図4に示す。熱処理工程Bの条件(温度/時間)は、(a)が熱処理なし、(b)が360℃/15分、(c)が360℃/30分、(d)が360℃/45分である。図4におけるシンボルの違いはFZ基板の違いを示しており、□はFZ−C、◇はFZ−Dの場合を示している。また、比較のため、窒素無添加MCZ基板の場合を*で示した。図4において、バルク窒素濃度が検出下限(4×1013atoms/cm)以下であった場合は便宜上2×1013atoms/cmとしてプロットした。
【0063】
図4から、酸素濃度が0.1ppma未満の場合は、熱処理工程Bの熱処理時間が長くなるほどLTのバルク窒素濃度依存性が強くなるが、バルク窒素濃度が2×1014atoms/cm以下であれば、LTはバルク窒素濃度にほとんど依存しないことがわかる。すなわち、酸素濃度が0.1ppma未満の場合は、熱処理工程Aにより、粒子線照射工程前にバルク窒素濃度を2×1014atoms/cm以下に調整することにより、FZ基板の違いによるLTのばらつきが極めて小さくなるとともに、FZ基板と窒素無添加のMCZ基板の違いによるLTの差も極めて小さくできることがわかる。
【0064】
さらに、図3図4の結果を併せると、酸素濃度が0.3ppm以下の場合、熱処理工程Aにより、粒子線照射工程前の段階でFZ基板のバルク窒素濃度を2×1014atoms/cm以下に調整すれば、FZシリコン単結晶の結晶育成時の原料の違いや窒素濃度の違い、さらにはFZ法と窒素無添加のMCZ法の違いにかかわらず、再結合ライフタイムを高精度で制御することができることがわかる。
【0065】
以上のように、再結合ライフタイムを制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度に応じて、粒子線照射工程前にシリコン単結晶基板の窒素濃度を調整すれば、再結合ライフタイムを高精度で制御することができるので、シリコン単結晶基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきを確実に小さくすることができる。また、シリコン単結晶基板を準備した後の熱処理工程Aにより、粒子線照射工程前のシリコン単結晶基板の窒素濃度を調整するので、シリコン単結晶育成時において、炉内の放電防止や結晶欠陥発生の抑制などに必要な窒素の濃度を低減させる必要がなく、シリコン単結晶の生産性や品質の悪化を避けることができる。
【0066】
上記のように、電子線照射とその後の熱処理を施した場合の再結合ライフタイムが窒素濃度に依存する理由は、以下のように考えられる。
【0067】
シリコン基板に対して、高エネルギーの粒子線を照射すると、格子位置のシリコン原子が弾き出されて、格子間シリコン(以下、Iと称する)とその抜け殻である空孔(以下、Vと称する)が生成される。過剰に生成されたIやVは、単体では不安定なため、再結合したり(V+I→0)、I同士やV同士がクラスタリングしたり、シリコン基板中に含まれる軽元素不純物と反応して複合体を形成する。そして、IやVのクラスターや、IやVと軽元素不純物の複合体は、シリコンのバンドギャップ中に深い準位を形成して、キャリアの再結合中心として働き、再結合ライフタイムを低下させる。
【0068】
空孔Vに関連する欠陥として、Vと置換型リンPsが反応してVPが形成される(V+Ps→VP)ことが知られている。また、Vと格子間酸素Oiが反応してVOが形成され(V+Oi→VO)、更に、VとVOが反応してVO(V+VO→VO)が形成される場合もある。また、V同士が反応してVVも形成される(V+V→VV)。窒素が存在する場合には、VとNが反応してVNも形成されることになる(V+N→VN)。VとP、O、あるいはNとの反応はそれぞれ競合するため、窒素濃度が高い場合にVNが形成されやすくなるとすると、Vが関連した他の複合体が形成されにくくなる可能性がある。
【0069】
一方、格子間シリコンIが関連する欠陥として、Iと置換型ボロンBsが反応して格子間ボロンBiが形成され(I+Bs→Bi)、更に、BiとOiが反応してBiOiが形成される(Bi+Oi→BiOi)ことが知られている。また、炭素が存在する場合、Iと置換型炭素Csが反応して格子間炭素Ciが形成され(I+Cs→Ci)、更に、CiとOi、CiとCsが反応してCiOi、CiCsが形成される(Ci+Oi→CiOi、Ci+Cs→CiCs)。また、I同士が反応してIクラスターも形成される(I+I+…→In)。窒素が存在する場合には、VとNが反応することにより、VとIの再結合が抑制され、その結果として、Iが関連した複合体が形成されやすくなる可能性がある。
【0070】
IやVと軽元素不純物との反応は、それぞれの絶対濃度と濃度バランスに依存するため、極めて複雑であり、どの複合体が優勢になるか推定することは難しい。更に熱処理が施された場合には、複合体の消滅や形態変化が起こるため、更に複雑になる。
【0071】
上述の実験例で示されたように、シリコン単結晶基板の窒素濃度が高くなると、高エネルギーの粒子線照射により熱的に不安定な複合体が形成されやすくなるため、その後の熱処理により複合体が消滅しやすくなり、熱処理後の再結合ライフタイムが高くなると考えられる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
(実施例)
図1に示すような、本発明の再結合ライフタイムの制御方法でシリコン単結晶基板の再結合ライフタイムの制御を行った。
【0074】
まず、準備工程において、酸素濃度と窒素濃度が異なる4水準のFZ基板(FZ−A、FZ−B、FZ−C、FZ−D)を用意した。酸素濃度は、FZ−Aが0.3ppma、FZ−Bが0.2ppma、FZ−C及びFZ−Dが0.1ppma未満であり、窒素濃度は、FZ−Aが3.9×1014atoms/cm、FZ−Bが3.1×1015atoms/cm、FZ−Cが3.6×1014atoms/cm、FZ−Dが2.3×1015atoms/cmである。
【0075】
次に、用意したFZ基板に熱処理を施した(熱処理工程A)。
酸素濃度が0.1ppma以上のFZ基板(FZ−A、FZ−B)においては、粒子線照射工程前にバルク窒素濃度が2×1015atoms/cm以下となるように、熱処理工程Aを行った。この場合、熱処理工程Aの温度は1050℃、時間は4時間、雰囲気は酸素とした。この熱処理では、900℃に保持された炉内にFZ基板を挿入し、900℃から1050℃まで5℃/分の速度で昇温し、1050℃で4時間保持した後、1050℃から900℃まで−3℃/分の速度で降温し、炉内からFZ基板を取り出した。
【0076】
また、酸素濃度が0.1ppma未満のFZ基板(FZ−C、FZ−D)においては、粒子線照射工程前にバルク窒素濃度が2×1014atoms/cm以下となるように、熱処理工程Aを行った。この場合、熱処理工程Aの温度は1150℃、時間は4時間、雰囲気は酸素とした。この熱処理では、900℃に保持された炉内にFZ基板を挿入し、900℃から1150℃まで5℃/分の速度で昇温し、1150℃で4時間保持した後、1150℃から900℃まで−3℃/分の速度で降温し、炉内からFZ基板を取り出した。
【0077】
次に、熱処理工程A後のFZ基板に電子線を照射した(粒子線照射工程)。このとき、電子線の照射線量は1×1015/cmとし、電子線の加速電圧は2MVとした。
【0078】
前記電子線照射を行ったFZ基板と同時に熱処理工程Aを行った別のFZ基板において、表面側から厚みのおよそ半分(約360μm)まで研磨して除去した後、SIMSによりバルク窒素濃度を測定した。その結果、酸素濃度が0.1ppma以上のFZ基板のバルク窒素濃度は、FZ−Aが検出下限(4×1013atoms/cm)以下、FZ−Bは9.1×1014atoms/cmとなり、バルク窒素濃度が2×1015atoms/cm以下の条件を満たしていることが確認できた。また、酸素濃度が0.1ppma未満のFZ基板のバルク窒素濃度は、FZ−C、FZ−Dともに検出下限(4×1013atoms/cm)以下となり、バルク窒素濃度が2×1014atoms/cm以下の条件を満たしていることが確認できた。
【0079】
次に、電子線照射したFZ基板に回復熱処理を施した(熱処理工程B)。回復熱処理の温度は360℃、時間は30分、雰囲気は窒素とした。
【0080】
次に、熱処理工程B後の再結合ライフタイム(LT)をμ−PCD法により測定した。その結果、FZ−Aが0.5μsec、FZ−Bが0.5μsec、FZ−Cが0.6μsecと、FZ−Dが0.6μsecとなり、FZ基板の違いによるLTのばらつきが極めて小さくなることが確認できた。
【0081】
(比較例)
シリコン単結晶基板の酸素濃度に応じて粒子線照射工程前の窒素濃度を調整しなかったこと以外、実施例と同様の条件でシリコン単結晶基板の再結合ライフタイムを制御した。
【0082】
まず、準備工程において、実施例と同じ4水準のFZ基板(FZ−A、FZ−B、FZ−C、FZ−D)を用意した。
【0083】
次に、用意したFZ基板に熱処理を施した(熱処理工程A’)。
この熱処理工程A’では、粒子線照射工程前の窒素濃度の調整を考えずに、何れのFZ基板も同じ条件で熱処理を施し、温度は1000℃、時間は1時間、雰囲気は酸素とした。この熱処理では、900℃に保持された炉内にFZ基板を挿入し、900℃から1000℃まで5℃/分の速度で昇温し、1000℃で1時間保持した後、1000℃から900℃まで−3℃/分の速度で降温し、炉内からFZ基板を取り出した。
【0084】
次に、実施例と同じ条件で、電子線照射(粒子線照射工程)を行い、回復熱処理(熱処理工程B)を行った。
【0085】
前記電子線照射を行ったFZ基板と同時に熱処理工程A’を行った別のFZ基板において、表面側から厚みのおよそ半分(約360μm)まで研磨して除去した後、SIMSによりバルク窒素濃度を測定した。その結果、FZ−Aが3.1×1014atoms/cm、FZ−Bは3.1×1015atoms/cm、FZ−Cが3.6×1014atoms/cm、FZ−Dは2.3×1015atoms/cmとなり、FZ−A以外のFZ基板では本発明における上記条件が満たされなかった。
【0086】
次に、熱処理工程B後の再結合ライフタイム(LT)をμ−PCD法により測定した。その結果、FZ−Aが0.6μsec、FZ−Bが0.8μsec、FZ−Cが1.1μsecと、FZ−Dが1.8μsecとなり、FZ基板の違いによるLTのばらつきが大きくなることが確認できた。
【0087】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4