特許第6881294号(P6881294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881294
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】カルパイン活性検出蛍光プローブ
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/062 20060101AFI20210524BHJP
   C07K 5/083 20060101ALI20210524BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/52 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C07K5/062ZNA
   C07K5/083
   C12Q1/37
   A61K49/00
   G01N33/50 X
   G01N33/58 Z
   G01N33/52 Z
   G01N33/68
   G01N21/78 C
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-502539(P2017-502539)
(86)(22)【出願日】2016年2月29日
(86)【国際出願番号】JP2016056030
(87)【国際公開番号】WO2016137004
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-39502(P2015-39502)
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業・研究加速課題「光機能性プローブによるin vivo微小がん検出プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰照
(72)【発明者】
【氏名】永代 友理
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】中澤 徹
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/099780(WO,A2)
【文献】 国際公開第2014/136780(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/180181(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/095450(WO,A1)
【文献】 LIU, L. et al.,International journal of cancer,2009年,Vol.125, No.12,p.2757-2766
【文献】 O'BRIEN, M. et al.,Light up your calpain acctivity カルパインの活性生物発光アッセイ,Prometech Journal,2005年,No.18,p.3-6,<http://www.promega.co.jp/jp/prometec_J/pdf/pj18/PJ-No18-02.pdf>
【文献】 HINMAN, J. D. et al.,Journal of neurochemistry,2004年,Vol.89, No.2,p.430-441
【文献】 ROSSER, B. G. et al.,The Journal of Biological Chemistry,1993年,Vol.268, No.31,p.23593-23600
【文献】 FUJII, T. et al.,Bioconjugate Chemistry,2014年,Vol.25, No.10,p.1838-1846
【文献】 SAKABE, M. et al.,Journal of the American Chemical Society,2013年,Vol.135,p.409-414
【文献】 RYU, M. et al.,Journal of Neuroscience Research,2012年,Vol.90,p.802-815
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12Q
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】
(式中、Rは水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の同一又は異なる置換基を示し;
、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示し;
及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し;
XはC−Cアルキレン基を示し;
10はカルパインとの接触により切断される一価の置換基を示し、
10の当該一価の置換基は、Leu−Leu−Tyr又はLeu−Metの配列を有するオリゴペプチド残基からなり(これら配列の右端のアミノ酸がキサンテン骨格に結合したNH基と直接結合している)、
前記オリゴペプチド残基のN末端は保護されていてもよい。)
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
10の前記一価の置換基が、以下の式(1)又は(2)で表される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
以下の式(3)で表される化合物又はその塩。
【請求項4】
以下の式(4)で表される化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含む蛍光プローブ。
【請求項6】
カルパインの測定方法であって、下記の工程:(a)請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩とカルパインとを接触させる工程、及び(b)上記工程(a)で生成したカルパインと接触後の化合物の蛍光強度を測定する工程を含む方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含む、網膜疾患の診断薬。
【請求項8】
前記網膜疾患が、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿病に伴う網膜神経障害又は網膜血管閉塞性疾患である、請求項7に記載の診断薬。
【請求項9】
前記緑内障が正常眼圧緑内障である、請求項8に記載の診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルパインの活性を検出することができる緑色蛍光プローブに関する。また、本発明は、当該蛍光プローブを用いた網膜疾患の診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、日本において成人の中途失明原因第一位の疾患であり、40歳以上の平均有病率は約5%である。緑内障の定義は、「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる、目の機能的構造的異常を特徴とする疾患」である(非特許文献1)。分類としては、I)原発緑内障、II)続発緑内障、III)発達緑内障、に大きく分類されており、I)原発緑内障は、更に細かく、1)緑内障原発開放隅角緑内障(広義)(A:原発開放隅角緑内障、B:正常眼圧緑内障)、2)原発閉塞隅角緑内障(A:原発閉塞隅角緑内障、B:プラトー虹彩緑内障)、3)混合型緑内障、に分類されている(非特許文献1)。
【0003】
緑内障に多く見られる所見の一つとして眼圧上昇があるが、日本においては、緑内障の発生進行過程において眼圧が常に正常値に留まる、正常眼圧緑内障が全緑内障患者の約70%を占めている。これはアジアにおいて顕著にみられる傾向である。しかし、現在の緑内障に対する確実な治療法は、眼圧を下降することのみであり、眼圧以外の因子に対する治療法が模索されている。
緑内障のいずれの病型においても、進行性の網膜神経節細胞(RGC)の消失とそれに対応した視野異常が特徴的である。近年、RGCの消失はカルパイン(calpain)活性に影響されることが示唆されており、正常眼圧緑内障の病態モデル動物にカルパイン阻害薬を投与することで、RGCの消失が減少すると報告されている(非特許文献2)。
また、網膜色素変性症(RP)、加齢黄斑変性(AMD)及び糖尿網膜症に伴う網膜神経障害においてもカルパインの関与が示唆されている(非特許文献3〜6)。
また、虚血性疾患である網膜静脈閉塞症及び網膜動脈閉塞症等の網膜血管閉塞性疾患においてもカルパインの活性化が関与すると考えられている(非特許文献7及び8)。
【0004】
カルパインは、Ca2+依存的に働くシステインプロテアーゼである。中枢神経系で普遍的に発現しており、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患に関わっている。網膜においてはRGCと神経線維層で発現しており(非特許文献9〜11)、カルパインの活性化は、軸索切断後の網膜移植片のGCL(神経節細胞層)やラットの緑内障モデルで確認されている(非特許文献12〜13)。カルパインは間接的にアポトーシス経路を誘導し、結果としてRGCの消失につながる。
上記の観点から、カルパイン活性を病態動物でリアルタイムに観察できるようにすることにより、
(1)カルパイン活性が、いつ、どこで、どのように網膜疾患の病態に関与しているのか解明する、
(2)(1)が分かることにより、網膜疾患の進行具合や、治療介入のタイミングの判断に用いる、
ことが可能になると考えられる。
【0005】
これまでに報告されているカルパインのプローブとして、
(A)カルパインの基質となるペプチドに蛍光タンパクドメインを結合させた、タンパク質ベースのプローブ(非特許文献14)
(B)クマリンにジペプチドを結合させたプローブ(非特許文献15)
が報告されているが、生細胞でのイメージングにおいては、遺伝子導入に頼らず、また、励起光にUV光を用いなくてよいカルパイン活性検出蛍光プローブの開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本緑内障学会HP(http://www.ryokunaisho.jp/)
【非特許文献2】M. Ryu, M.Yasuda, D. Shi, A. Y. Shanab, R. Watanabe, N. Himori, K. Omodaka, Y. Yokoyama, J. Takano, T. Saido, T. Nakazawa, J Neurosci Res. 2012, 90, 802-815.
【非特許文献3】Eye (2014) 28, 85-92
【非特許文献4】Biochimica et Biophysica Acta 1822 (2012) 1783-1795
【非特許文献5】PLOS ONE August 2013, Volume 8, Issue 8, e71650
【非特許文献6】Neurobiology of Disease 48 (2012) 556-567
【非特許文献7】Retinal ischemia: Mechanisms of damage and potential therapeutic strategies. Osborne NN, Casson RJ, Wood JP, Chidlow G, Graham M, Melena J. Prog Retin Eye Res. 2004 Jan;23(1):91-147.
【非特許文献8】Degeneration and dysfunction of retinal neurons in acute ocular hypertensive rats: Involvement of calpains. Suzuki R, Oka T, Tamada Y, Shearer TR, Azuma M. J Ocul Pharmacol Ther. 2014 Jun;30(5):419-28.
【非特許文献9】K. Blomgren, J. O. Karlsson, Neurosci. Lett. 1990, 112, 179-183.
【非特許文献10】H. Persson, S. Kawashima, J. O. Karlsson, Brain Res. 1993, 611, 272-278.
【非特許文献11】M. Azuma, T. R. Shearer, Surv. Ophthalmol. 2008, 53, 150-163.
【非特許文献12】D. P. McKernan, M. B. Guerin, O’Brien, C. J., T. G. Cotter, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 2007, 48, 5420-5430.
【非特許文献13】W. Huang, J. B. Fileta, I. Rawe, J. Qu, C. L. Grosskreutz, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 2010, 51, 3049-3054.
【非特許文献14】P. W. Vanderklish, L. A. Krushel, B. H. Holst, J. A. Gally, K. L. Crossin, G. M. Edelman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2000, 97, 2253-2258.
【非特許文献15】M. Niapour, S. Berger, Cytometry A. 2007, 71, 475-485.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞内のカルパイン活性を高感度に検出する蛍光プローブを提供することを目的とする。
また、本発明は、当該蛍光プローブを用いて、カルパイン活性をリアルタイムにモニタリングし、眼科領域におけるカルパインの活性化を介して進行する網膜神経障害の病態解明、臨床診断、治療効果判定を可能とする網膜疾患の診断薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討したところ、HMRGを基本骨格として、カルパインの基質となるペプチド鎖をアミド結合させることにより、細胞内でカルパインと酵素反応した時に蛍光が上昇する蛍光プローブを提供することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、
[1]下記の一般式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の同一又は異なる置換基を示し;
、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示し;
及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し;
XはC−Cアルキレン基を示し;
10はカルパインとの接触により切断される一価の置換基を示す)
で表される化合物又はその塩。
[2]R10が、オリゴペプチド残基を含む一価の置換基である、[1]に記載の化合物又はその塩。
[3]オリゴペプチド残基を含む一価の置換基が、以下の式(1)又は(2)で表される、[2]に記載の化合物又はその塩。



[4]以下の式(3)で表される化合物又はその塩。


[5]以下の式(4)で表される化合物又はその塩。


[6][1]〜[5]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含む蛍光プローブ。
[7]カルパインの測定方法であって、下記の工程:(a)請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物又はその塩とカルパインとを接触させる工程、及び(b)上記工程(a)で生成したカルパインと接触後の化合物の蛍光強度を測定する工程を含む方法。
[8][1]〜[5]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含む、網膜疾患の診断薬。
[9]前記網膜疾患が、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿病に伴う網膜神経障害又は網膜血管閉塞性疾患である、[8]に記載の診断薬。
[10]前記緑内障が正常眼圧緑内障である、[9]に記載の診断薬。
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化合物を用いることにより、緑色波長領域でカルパイン活性を検出でき、光安定性に優れ、カルパインとの反応で生成する蛍光物質の量子収率が高く、明るい蛍光プローブを提供することができる。
また、本発明の化合物を用いることにより、生細胞におけるカルパイン活性をリアルタイムにモニタリングし、眼科領域におけるカルパインの活性化を介して進行する網膜神経障害(例えば、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿網膜症に伴う網膜神経障害及び網膜血管閉塞性疾患等の網膜疾患)の病態解明、臨床診断、治療効果判定を可能とする網膜疾患の診断薬を提供することができる。特に、本発明の化合物は、フルオレセインとほぼ同じ波長の緑色蛍光を発することから、眼科領域で既に汎用されているフルオレセイン蛍光眼底造影検査機器で観察可能であり、実臨床へすぐに適用可能である
従って、本発明は、生細胞におけるカルパイン活性のモニタリングのツールとして、眼科領域におけるカルパインの活性化を介して進行する網膜神経障害の病態解明に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1a】Ac−LLY−HMRGのカルパイン添加による吸収および蛍光スペクトルの変化(カルパイン1を使用)
図1b】Ac−LLY−HMRGのカルパイン添加による吸収および蛍光スペクトルの変化(カルパイン2を使用)
図2a】Ac−LM−HMRGのカルパイン添加による吸収および蛍光スペクトルの変化(カルパイン1を使用)
図2b】Ac−LM−HMRGのカルパイン添加による吸収および蛍光スペクトルの変化(カルパイン2を使用)
図3】Ac−LLY−HMRGを用いた生細胞イメージング
図4a】Ac−LM−HMRGを用いた生細胞イメージング(ALLN未添加)
図4b】Ac−LM−HMRGを用いた生細胞イメージング(ALLNを1μM添加)
図4c】Ac−LM−HMRGを用いた生細胞イメージング(ALLNを2μM添加)
図4d】Ac−LM−HMRGを用いた生細胞イメージング(ALLNを5μM添加)
図5a】NMDA投与群のAc−LM−HMRG投与前の眼底撮影像
図5b】NMDA投与群のAc−LM−HMRG投与30分後の眼底撮影像
図5c】NMDA投与群のAc−LM−HMRG投与60分後の眼底撮影像
図5d】NMDA投与群のAc−LM−HMRG投与90分後の眼底撮影像
図6a】PBS投与群のAc−LM−HMRG投与前の眼底撮影像
図6b】PBS投与群のAc−LM−HMRG投与30分後の眼底撮影像
図6c】PBS投与群のAc−LM−HMRG投与60分後の眼底撮影像
図6d】PBS投与群のAc−LM−HMRG投与90分後の眼底撮影像
図7a】NMDA投与群 網膜進展標本のFG染色像
図7b】NMDA投与群 網膜進展標本のHMRG染色像
図7c】NMDA投与群 網膜進展標本のSytox(登録商標)Orange染色像
図8a】PBS投与群 網膜進展標本のFG染色像
図8b】PBS投与群 網膜進展標本のHMRG染色像
図8c】PBS投与群 網膜進展標本のSytox(登録商標)Orange染色像
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、アルキル基は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば炭素数1〜6個程度、好ましくは炭素数1〜4個程度である。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルキルオキシ基やアラルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0013】
また、本明細書において、アリール基は単環性アリール基又は縮合多環性アルール基のいずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含んでいてもよい。本明細書において、アリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む他の置換基(例えばアリールオキシ基やアラルキル基など)のアリール部分についても同様である。
【0014】
本発明の1つの実施態様は、下記の一般式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の同一又は異なる置換基を示し;
、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示し;
及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し;
XはC−Cアルキレン基を示し;
10はカルパインとの接触により切断される一価の置換基を示す)
で表される化合物又はその塩である。
【0015】
は水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の置換基を示す。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。ベンゼン環上に2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。Rとしては水素原子が好ましい。
【0016】
、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示す。R及びRが水素原子であることが好ましい。また、R、R、R、及びRが水素原子であることも好ましい。R、R、R、R、R、及びRがいずれも水素原子であることがさらに好ましい。
【0017】
及びRはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。R及びRがともにアルキル基を示す場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。例えば、R及びRの両者が水素原子である場合、及びRがアルキル基であり、かつRが水素原子である場合が好ましく、R及びRの両者が水素原子である場合がさらに好ましい。
【0018】
XはC−Cアルキレン基を示す。アルキレン基は直鎖状アルキレン基又は分枝鎖状アルキレン基のいずれであってもよい。例えば、メチレン基(−CH−)、エチレン基(−CH−CH−)、プロピレン基(−CH−CH−CH−)のほか、分枝鎖状アルキレン基として−CH(CH)−、−CH−CH(CH)−、−CH(CHCH)−なども使用することができる。これらのうち、メチレン基又はエチレン基が好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0019】
一般式(I)において、R10は、カルパインとの接触により切断される一価の置換基を示す。カルパインとの接触により切断される一価の置換基としては、好ましくは、オリゴペプチド残基を含む一価の置換基である。
【0020】
オリゴペプチド残基を含む一価の置換基としては、好ましくは、Leu−Leu−Tyr、Leu−Met、Leu−Leu−Val−Tyr、Thr−Pro−Leu−Leu、Thr−Pro−Leu−Lys、Thr−Pro−Leu−Phe、Leu−Tyrの配列を有するオリゴペプチド残基(配列の右端のアミノ酸がキサンテン骨格に結合したNH基と直接結合している)を含む一価の置換基である。
オリゴペプチド残基を含む一価の置換基のN末端は保護されていてもよく、保護基としては、アセチル基、グルタリル基、スクシニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基などが挙げられるが、これら以外の置換基を用いてもよい。
【0021】
本発明の一つの実施態様において、オリゴペプチド残基を含む一価の置換基は、以下の式(1)又は(2)で表される。

【0022】
本発明の一つの好ましい実施態様は、以下の式(3)又は(4)で表される化合物又はその塩である。

【0023】
本発明における上記一般式(I)、式(3)及び式(4)で表される化合物の塩としては、塩基付加塩、酸付加塩、アミノ酸塩などを挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩などの有機アミン塩を挙げることができ、酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。アミノ酸塩としてはグリシン塩などを例示することができる。もっとも、本発明の化合物の塩はこれらに限定されることはない。
【0024】
一般式(I)で表される化合物は、置換基の種類に応じて1個または2個以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。また、一般式(I)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、エタノール、アセトン、イソプロパノールなどの溶媒を例示することができる。
【0025】
本発明により提供される一般式(I)、式(3)又は式(4)で表される化合物又はその塩を含む蛍光プローブは、カルパインとの接触によりR10置換基又はオリゴペプチド残基を含む一価の置換基が切断されて吸収波長が長波長にシフトした化合物(上記一般式(I)においてR10が水素原子になった化合物に相当する)を生成することができ、カルパインの測定のための蛍光プローブとして好適に用いることができる。
【0026】
上記した蛍光プローブを用いるカルパインの測定は、当業者に周知の方法に準じて行うことができるので、研究のための試薬としての使用のほか動物や人の診断のための試薬として使用することも出来る。例えば、上記した蛍光プローブを用いることにより、試験管中で測定対象物質の濃度や量を測定することが可能になり、あるいは生細胞や生体に取り込ませてバイオイメージングの手技により画像化して測定することができる。代表的な例として、下記の工程:(a)カルパインと接触することで切断される一価の置換基を有する一般式(I)で表される化合物又はその塩とカルパインとを接触させる工程、及び(b)上記工程(a)で生成したカルパインと接触後の前記化合物の蛍光強度を測定する工程を含む方法をあげることができる。
【0027】
本発明の蛍光プローブの使用方法は特に限定されないが、例えば、単離精製した酵素、および細胞溶解液中に含まれるカルパインの活性測定や、生細胞内でのカルパイン活性の測定、長波長という光学特性を活かした生体組織中でのがんバイオマーカーとなる酵素の活性測定等が挙げられる。
【0028】
本発明のもう一つの態様は、本発明の化合物及び塩を含む、網膜疾患の診断薬である。
本発明のもう一つの態様は、本発明の化合物及び塩を含む、眼科領域におけるカルパインの活性化を介して進行する網膜神経障害の診断薬である。
また、本発明の更なる態様は、本発明の化合物及び塩を含む、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿病に伴う網膜神経障害又は網膜血管閉塞性疾患(網膜静脈閉塞症及び網膜動脈閉塞症)の診断薬である。
また、本発明の更なる態様は、本発明の化合物及び塩を含む、緑内障の診断薬である。
また、本発明の一つの側面は、本発明の化合物及び塩を含む、正常眼圧緑内障の診断薬である。
【0029】
本発明の化合物及び塩は、緑色波長領域でカルパイン活性を検出でき、光安定性に優れていることから、眼科領域で使用することにより、カルパインの活性化を介して進行する網膜神経障害、例えば、緑内障(特に、正常眼圧緑内障)、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿病に伴う網膜神経障害及び網膜血管閉塞性疾患等の網膜疾患の病態解明、臨床診断、治療効果の判定を可能とするものである。
また、本発明の化合物はフルオレセインとほぼ同じ波長の緑色蛍光を発することから、眼科領域で既に汎用されているフルオレセイン蛍光眼底造影検査機器で観察可能であり、実臨床へすぐに適用可能であるという利点を有する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0031】
[合成実施例1]
以下のスキーム1により、本発明の化合物1(Ac−LLY−HMRG)を合成した。
【0032】
スキーム1:本発明の化合物1(Ac−LLY−HMRG)の合成方法

【0033】
(1)leucoHMRGの合成
Rhodamin110 362mg(0.986mmol、1eq.)と硫酸400μL(7.504mmol、7.6eq.)をメタノール40mLに溶かし80°Cで終夜撹拌した。反応溶媒を減圧除去し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。得られた固体を水及びメタノールで抽出した。有機層の溶媒を除去し、固体を得た。続いて、THF60mLに溶かし、氷冷下でLAH 247.8mg(6.53mmol、6.6eq.)を加え、アルゴン雰囲気下にて0°Cで終夜撹拌した。メタノールでクエンチ後、ジクロロメタンを50mL、ロッシェル塩水溶液を100mL加え、終夜撹拌した。反応混合物に水を加え、ジクロロメタンで抽出して食塩水で洗い、有機層に硫酸ナトリウム加えてろ過した後に、溶媒を除去し固体を得た。固体をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ジクロロメタン/メタノール=97/3)目的化合物(64mg、21%)を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO): δ 7.36-7.34 (m, 1H), 7.12-7.10 (m, 2H), 6.96-6.94 (m, 1H), 6.59 (d, 2H, J = 8.2 Hz), 6.24 (d, 2H, J = 2.2 Hz), 6.16 (dd, 2H, J = 8.2 Hz, 2.2 Hz), 5.29 (s, 1H), 5.19 (t, 1H, J = 4.9 Hz), 5.07 (s, 4H), 4.54 (d, 2H, J = 4.9 Hz). HRMS (ESI+) Calcd for [M+Na]+, 341.12605, Found, 341.12576 (-0.29 mmu).
【0034】
(2)Ac−LLY−HMRG(本発明の化合物1)の合成
Leuco−HMRG6.3mg(0.0198mmol、2eq.)をジメチルスルホキシド(DMSO)0.2mLに溶かし、Ac−Leu−Leu−Tyr(OtBu)−OH5mg(0.0099mmol、1eq.)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)5.7mg(0.0150mmol、1.5eq.)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)5μL(0.0287mmol、2.9eq.)を加え、アルゴン雰囲気下にて70°Cで2時間撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出して食塩水で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に溶媒を減圧留去した。残査8.0mg(0.0099mmol、1eq.)とクロラニル6.6mg(0.0268mmol、2.7eq.)をジクロルメタン溶液に溶解し、30分間室温で撹拌した。続いてチオアニソール58μL(0.495mmol、50eq.)、トリフルオロ酢酸(TFA)2mlを加え7時間撹拌し、ショートカラムで粗精製した。次に、HPLCを用いて精製を行い(eluent A(99%HO(0.1%TFA)/1%CHCN) and eluent B(99%CHCN、1%HO)(A/B=90/10 to 10/90 20min))目的化合物(1.4mg、19%(in 2 steps))を得た。
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 748.37048, Found, 748.36998 (-0.5 mmu).
【0035】
[合成実施例2]
以下のスキーム2により、本発明の化合物2(Ac−LM−HMRG)を合成した。
【0036】
スキーム2:本発明の化合物2(Ac−LM−HMRG)の合成方法

【0037】
(1)Ac−LM−leucoHMRGの合成
Leuco−HMRG10.6mg(0.033mmol、2eq.)をジメチルスルホキシド(DMSO)0.3mLに溶かし、Ac−Leu−Met−OH5mg(0.016mmol、1eq.)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)9.5mg(0.025mmol、1.5eq.)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)8.6μL(0.049mmol、3eq.)を加え、アルゴン雰囲気下にて70°Cで90分間撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出して食塩水で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ジクロルメタン/メタノール=91/9)目的化合物(8.1mg、82%)を得た。
HRMS (ESI+) Calcd for [M+Na]+, 627.26116, Found, 627.25978 (-1.4 mmu).
【0038】
(2)Ac−LM−HMRG(本発明の化合物2)の合成
Ac−LM−leucoHMRG8.1mg(0.0134mmol、1eq.)とクロラニル9.2mg(0.0374mmol、2.8eq.)をジクロルメタン溶液に溶解し、30分間室温で撹拌した。ショートカラムで粗精製した後、HPLCを用いて精製を行い(eluent A(99%HO(0.1%TFA)/1%CHCN) and eluent B(99%CHCN、1%HO)(A/B=75/25 to 25/75 30min))目的化合物(1.3mg、13%(in 2 steps))を得た。
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 603.26357, Found, 603.26343 (-0.13 mmu).
【0039】
カルパインプローブ(Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRG)の機能機序
カルパインの基質であるアミノ酸を、HMRGのキサンテン環の一方のアミノ基にアミド結合でつなげたプローブ(Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRG)から、カルパインによってアミノ酸が切り出されると、HMRGに変化する。このように反応前後で閉環構造から開環構造へと変化することで、無吸収・無蛍光から強蛍光性へと大きく変化する(スキーム3)。
【0040】
スキーム3 カルパインプローブの作用機序

【0041】
[実施例1]
Ac−LLY−HMRG及びAc−LM−HMRGの光学特性の測定
pH2の0.2Mリン酸ナトリウムバッファー中でAc−LLY−HMRG及びAc−LM−HMRGの光化学特性を測定した。下記の表1に酵素反応生成物であるHMRGの光化学特性と共に示す。
【表1】

【0042】
[実施例2]
Ac−LLY−HMRGの蛍光プローブとしての評価(カルパインを用いたin vitro酵素アッセイ)
上記の方法で合成・設計したプローブを用いて、以下の条件でTRISバッファー中でカルパイン酵素添加アッセイを行った。その結果、酵素反応によりAc−LLY−HMRGの吸収および蛍光強度が2倍ほど上昇し、カルパインプローブとして機能することが確認された。結果を図1a(カルパイン1を使用)及び図1b(カルパイン2を使用)に示す。
【0043】
(実験条件)
プローブのDMSO溶液(1mM)のうち3μLを3mLの50mMTRIS buffer(pH7.4)(カルパイン1では5μMのCaCl、カルパイン2では500μMのCaClを含有)に溶かし(最終プローブ濃度:1μM)、カルパイン(カルパイン1は2.4 units、カルパイン2は3.8 units)を加え、25℃で酵素反応を行った。励起波長は495nm、蛍光波長は524nmであった。
(酵素)
カルパイン1:calpain−1 from human erythrocytes(Cat. No.208713)
カルパイン2:calpain−2 from porcine kidney(Cat. No.208715)
【0044】
[実施例3]
Ac−LM−HMRGの蛍光プローブとしての評価(カルパインを用いたin vitro酵素アッセイ)
上記の方法で合成・設計したプローブを用いてTRISバッファー中でカルパイン酵素添加アッセイを行った。その結果、カルパイン2では酵素反応によりAc−LM−HMRGの吸収および蛍光強度が4倍ほど上昇し、カルパインプローブとして機能することが確認された。結果を図2a(カルパイン1を使用)及び図2b(カルパイン2を使用)に示す。
【0045】
(実験条件)
プローブのDMSO溶液(1mM)のうち3μLを3mLの50mMTRIS buffer(pH7.4)(カルパイン1では5μMのCaCl、カルパイン2では500μMのCaClを含有)に溶かし(最終プローブ濃度:1μM)、カルパイン(カルパイン1は24 units、カルパイン2は38 units)を加え、25℃で酵素反応を行った。励起波長は495nm、蛍光波長は524nmであった。
(酵素)
カルパイン1:calpain−1 from human erythrocytes(Cat. No. 208713)
カルパイン2:calpain−2 from porcine kidney (Cat. No. 208715)
【0046】
[実施例4]
Ac−LLY−HMRGを用いた生細胞イメージング
Ac−LLY−HMRGを用いて、以下の手順によりHeLa細胞内におけるカルパイン活性の可視化を行った。
(実験手順)
(a)FBS(BD pharmingen stain buffer)を含有していないDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)を用いて、Hela細胞を37℃で1時間培養し、更に、10μMのAc−LLY−HMRGで30分間培養した。その後、共焦点顕微鏡を用いて蛍光像及び透過像を撮影した。
その結果を図3に示す(図3の左側は蛍光像で、右側は透過像である)。図中のスケールバーは50μmである。
図3で示すように、Ac−LLY−HMRGを添加することにより、HeLa細胞内のカルパイン活性をモニターすることができる。
【0047】
[実施例5]
Ac−LM−HMRGを用いた生細胞イメージング
Ac−LM−HMRGを用いて、以下の手順によりHeLa細胞内におけるカルパイン活性の可視化を行った。
(実験手順)
(a)FBS(BD pharmingen stain buffer)を含有していないDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、(b)1μM ALLN(カルパイン選択的阻害剤)を含有するDMEM(FBS(−))、(c)2μM ALLNを含有するDMEM(FBS(−))、(d)5μM ALLNを含有するDMEM(FBS(−))、を用いて、Hela細胞を37℃で1時間培養し、更に、10μMのAc−LM−HMRGで30分間培養した。その後、共焦点顕微鏡を用いて蛍光像及び透過像を撮影した。その結果を図4a〜図4dに示す(各図の左側は蛍光像で、右側は透過像である)。図中のスケールバーは50μmである。
図4aで示すように、Ac−LLY−HMRGを添加することにより、HeLa細胞内のカルパイン活性をモニターすることができる。また、図4b〜4dで示すように、カルパイン選択的阻害剤であるALLNの添加により細胞内の蛍光強度は低下し、ALLNの添加濃度が増大に伴い蛍光強度が低下した。
【0048】
上記の実施例で例証したように、本発明により、カルパインをターゲットとした新たな蛍光プローブを提供することができる。具体的には、実施例2〜3で示した通り、Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRGはカルパインと反応することで、蛍光強度が上昇することが分かった。また、両者を細胞に適用した結果、Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRGともに蛍光強度上昇を示した。また、実施例5の阻害剤添加実験から、Ac−LM−HMRGの蛍光上昇が低下したことから、Ac−LM−HMRGは細胞内カルパイン活性を特異的に蛍光検出できることが示された。
【0049】
[実施例6]
ラットNMDA障害モデルを用いたAc−LM−HMRGの評価
(実験手順)
SDラットにネンブタールを用いて全身麻酔を行った。眼内にN‐メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)(10mM、2μL)、またはPBSを眼内に投与した。4時間後にケタミン・キサラジン混合液で再度麻酔を行い、眼内にAc−LM−HMRG(2mM、2μL)を投与した。その後、F10(ニデック社共焦点生体顕微鏡)で眼底を撮影した。
その結果を図5a〜図5d及び図6a〜図6dに示す。図5及び図6中、矢印で示す箇所は、HMRGで染色された神経細胞を示す。
図5aで示すように、Ac−LM−HMRG投与前には明らかなシグナルを認めていない。しかし、図5b〜図5dで示すように、NMDAを投与したラット(NMDA投与群)では、Ac−LM−HMRGを投与して30分後、60分後、90分後には明らかに神経細胞が染色された。一方、PBSを投与したラット(PBS投与群)では、Ac−LM−HMRG投与前にシグナルを認められず(図6a)、30分後(図6b)、60分後(図6c)、90分後(図6d)にはごくわずかに神経細胞が染色された。
ラットNMDA障害モデルは、網膜疾患モデルと考えられていることから、本発明の蛍光プローブは、網膜疾患の診断に有用であると考えられる。
【0050】
[実施例7]
マウスNMDA障害モデル網膜進展標本を用いたAc−LM−HMRGの評価
(実験手順)
マウスNMDA障害モデルは網膜伸展標本で検討を行った。まず、マウス オス BL6/Jに上丘から逆行性蛍光染色トレーサーであるフルオロゴールド(FG)を注入して、網膜神経節細胞をラベルした(図7a及び図8a)。1週間後、ネンブタールで麻酔を行い、眼内にNMDA30mM 1μL(PBS溶解)またはPBS 1μLを硝子体に投与した。その2時間後に再度ケタミン・キサラジン混合液で麻酔を行い、眼内にAc−LM−HMRG(0.5mM、1μL、PBS溶解)を投与した。Ac−LM−HMRG投与の更に1時間後にSytox(登録商標)Orange(細胞死を起こした細胞を染色する目的、25μL、1μL,PBS溶解)(invitrogen社製)を硝子体投与した。その10分後に眼球摘出し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定を2時間行い、網膜進展標本を作製した。
その結果を図7a〜図7c及び図8a〜図8cに示す。
図7a〜図7cはNMDA投与群の網膜進展標本の写真を示す。図7aはNMDA投与群のFGによる染色像、図7bはAc−LM−HMRGによる染色像、図7cはSytox(登録商標)Orangeによる染色像を示す。図7b、図7cで示すように、NMDA投与群ではカルパインの活性化がAc−LM−HMRGで検出され、細胞死も検出された。図8a〜図8cはPBS投与群の網膜進展標本の写真を示す。図8aはPBS投与群のFGによる染色像、図8bはAc−LM−HMRGによる染色像、図8cはSytox(登録商標)Orangeによる染色像を示す。図8b及び図8cで示すように、PBS投与群では細胞死が起こっていないためAc−LM−HMRG及びSytox(登録商標)Orangeで染色像が認められなかった。
マウスNMDA障害モデルは、網膜疾患モデルと考えられていることから、本発明の蛍光プローブは、網膜疾患の診断に有用であると考えられる。
【0051】
本発明の蛍光プローブを緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿病に伴う網膜神経障害又は網膜血管閉塞性疾患等の網膜疾患の患者に適用することで、まず患者個人の眼底・網膜神経節細胞におけるカルパイン活性を迅速に知ることが出来るため、臨床診断・治療選択に大きな効果を発揮すると期待される。具体的には、カルパイン活性上昇が確認された患者には、カルパイン阻害薬の処方を実施するなど、本発明の蛍光プローブの医療上、産業上の利用価値、経済効果は極めて大きい。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図7c
図8a
図8b
図8c