【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0031】
[合成実施例1]
以下のスキーム1により、本発明の化合物1(Ac−LLY−HMRG)を合成した。
【0032】
スキーム1:本発明の化合物1(Ac−LLY−HMRG)の合成方法
【0033】
(1)leucoHMRGの合成
Rhodamin110 362mg(0.986mmol、1eq.)と硫酸400μL(7.504mmol、7.6eq.)をメタノール40mLに溶かし80°Cで終夜撹拌した。反応溶媒を減圧除去し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。得られた固体を水及びメタノールで抽出した。有機層の溶媒を除去し、固体を得た。続いて、THF60mLに溶かし、氷冷下でLAH 247.8mg(6.53mmol、6.6eq.)を加え、アルゴン雰囲気下にて0°Cで終夜撹拌した。メタノールでクエンチ後、ジクロロメタンを50mL、ロッシェル塩水溶液を100mL加え、終夜撹拌した。反応混合物に水を加え、ジクロロメタンで抽出して食塩水で洗い、有機層に硫酸ナトリウム加えてろ過した後に、溶媒を除去し固体を得た。固体をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ジクロロメタン/メタノール=97/3)目的化合物(64mg、21%)を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO): δ 7.36-7.34 (m, 1H), 7.12-7.10 (m, 2H), 6.96-6.94 (m, 1H), 6.59 (d, 2H, J = 8.2 Hz), 6.24 (d, 2H, J = 2.2 Hz), 6.16 (dd, 2H, J = 8.2 Hz, 2.2 Hz), 5.29 (s, 1H), 5.19 (t, 1H, J = 4.9 Hz), 5.07 (s, 4H), 4.54 (d, 2H, J = 4.9 Hz). HRMS (ESI
+) Calcd for [M+Na]
+, 341.12605, Found, 341.12576 (-0.29 mmu).
【0034】
(2)Ac−LLY−HMRG(本発明の化合物1)の合成
Leuco−HMRG6.3mg(0.0198mmol、2eq.)をジメチルスルホキシド(DMSO)0.2mLに溶かし、Ac−Leu−Leu−Tyr(OtBu)−OH5mg(0.0099mmol、1eq.)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)5.7mg(0.0150mmol、1.5eq.)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)5μL(0.0287mmol、2.9eq.)を加え、アルゴン雰囲気下にて70°Cで2時間撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出して食塩水で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に溶媒を減圧留去した。残査8.0mg(0.0099mmol、1eq.)とクロラニル6.6mg(0.0268mmol、2.7eq.)をジクロルメタン溶液に溶解し、30分間室温で撹拌した。続いてチオアニソール58μL(0.495mmol、50eq.)、トリフルオロ酢酸(TFA)2mlを加え7時間撹拌し、ショートカラムで粗精製した。次に、HPLCを用いて精製を行い(eluent A(99%H
2O(0.1%TFA)/1%CH
3CN) and eluent B(99%CH
3CN、1%H
2O)(A/B=90/10 to 10/90 20min))目的化合物(1.4mg、19%(in 2 steps))を得た。
HRMS (ESI
+) Calcd for [M+H]
+, 748.37048, Found, 748.36998 (-0.5 mmu).
【0035】
[合成実施例2]
以下のスキーム2により、本発明の化合物2(Ac−LM−HMRG)を合成した。
【0036】
スキーム2:本発明の化合物2(Ac−LM−HMRG)の合成方法
【0037】
(1)Ac−LM−leucoHMRGの合成
Leuco−HMRG10.6mg(0.033mmol、2eq.)をジメチルスルホキシド(DMSO)0.3mLに溶かし、Ac−Leu−Met−OH5mg(0.016mmol、1eq.)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)9.5mg(0.025mmol、1.5eq.)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)8.6μL(0.049mmol、3eq.)を加え、アルゴン雰囲気下にて70°Cで90分間撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出して食塩水で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ジクロルメタン/メタノール=91/9)目的化合物(8.1mg、82%)を得た。
HRMS (ESI
+) Calcd for [M+Na]
+, 627.26116, Found, 627.25978 (-1.4 mmu).
【0038】
(2)Ac−LM−HMRG(本発明の化合物2)の合成
Ac−LM−leucoHMRG8.1mg(0.0134mmol、1eq.)とクロラニル9.2mg(0.0374mmol、2.8eq.)をジクロルメタン溶液に溶解し、30分間室温で撹拌した。ショートカラムで粗精製した後、HPLCを用いて精製を行い(eluent A(99%H
2O(0.1%TFA)/1%CH
3CN) and eluent B(99%CH
3CN、1%H
2O)(A/B=75/25 to 25/75 30min))目的化合物(1.3mg、13%(in 2 steps))を得た。
HRMS (ESI
+) Calcd for [M+H]
+, 603.26357, Found, 603.26343 (-0.13 mmu).
【0039】
カルパインプローブ(Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRG)の機能機序
カルパインの基質であるアミノ酸を、HMRGのキサンテン環の一方のアミノ基にアミド結合でつなげたプローブ(Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRG)から、カルパインによってアミノ酸が切り出されると、HMRGに変化する。このように反応前後で閉環構造から開環構造へと変化することで、無吸収・無蛍光から強蛍光性へと大きく変化する(スキーム3)。
【0040】
スキーム3 カルパインプローブの作用機序
【0041】
[実施例1]
Ac−LLY−HMRG及びAc−LM−HMRGの光学特性の測定
pH2の0.2Mリン酸ナトリウムバッファー中でAc−LLY−HMRG及びAc−LM−HMRGの光化学特性を測定した。下記の表1に酵素反応生成物であるHMRGの光化学特性と共に示す。
【表1】
【0042】
[実施例2]
Ac−LLY−HMRGの蛍光プローブとしての評価(カルパインを用いたin vitro酵素アッセイ)
上記の方法で合成・設計したプローブを用いて、以下の条件でTRISバッファー中でカルパイン酵素添加アッセイを行った。その結果、酵素反応によりAc−LLY−HMRGの吸収および蛍光強度が2倍ほど上昇し、カルパインプローブとして機能することが確認された。結果を
図1a(カルパイン1を使用)及び
図1b(カルパイン2を使用)に示す。
【0043】
(実験条件)
プローブのDMSO溶液(1mM)のうち3μLを3mLの50mMTRIS buffer(pH7.4)(カルパイン1では5μMのCaCl
2、カルパイン2では500μMのCaCl
2を含有)に溶かし(最終プローブ濃度:1μM)、カルパイン(カルパイン1は2.4 units、カルパイン2は3.8 units)を加え、25℃で酵素反応を行った。励起波長は495nm、蛍光波長は524nmであった。
(酵素)
カルパイン1:calpain−1 from human erythrocytes(Cat. No.208713)
カルパイン2:calpain−2 from porcine kidney(Cat. No.208715)
【0044】
[実施例3]
Ac−LM−HMRGの蛍光プローブとしての評価(カルパインを用いたin vitro酵素アッセイ)
上記の方法で合成・設計したプローブを用いてTRISバッファー中でカルパイン酵素添加アッセイを行った。その結果、カルパイン2では酵素反応によりAc−LM−HMRGの吸収および蛍光強度が4倍ほど上昇し、カルパインプローブとして機能することが確認された。結果を
図2a(カルパイン1を使用)及び
図2b(カルパイン2を使用)に示す。
【0045】
(実験条件)
プローブのDMSO溶液(1mM)のうち3μLを3mLの50mMTRIS buffer(pH7.4)(カルパイン1では5μMのCaCl
2、カルパイン2では500μMのCaCl
2を含有)に溶かし(最終プローブ濃度:1μM)、カルパイン(カルパイン1は24 units、カルパイン2は38 units)を加え、25℃で酵素反応を行った。励起波長は495nm、蛍光波長は524nmであった。
(酵素)
カルパイン1:calpain−1 from human erythrocytes(Cat. No. 208713)
カルパイン2:calpain−2 from porcine kidney (Cat. No. 208715)
【0046】
[実施例4]
Ac−LLY−HMRGを用いた生細胞イメージング
Ac−LLY−HMRGを用いて、以下の手順によりHeLa細胞内におけるカルパイン活性の可視化を行った。
(実験手順)
(a)FBS(BD pharmingen stain buffer)を含有していないDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)を用いて、Hela細胞を37℃で1時間培養し、更に、10μMのAc−LLY−HMRGで30分間培養した。その後、共焦点顕微鏡を用いて蛍光像及び透過像を撮影した。
その結果を
図3に示す(
図3の左側は蛍光像で、右側は透過像である)。図中のスケールバーは50μmである。
図3で示すように、Ac−LLY−HMRGを添加することにより、HeLa細胞内のカルパイン活性をモニターすることができる。
【0047】
[実施例5]
Ac−LM−HMRGを用いた生細胞イメージング
Ac−LM−HMRGを用いて、以下の手順によりHeLa細胞内におけるカルパイン活性の可視化を行った。
(実験手順)
(a)FBS(BD pharmingen stain buffer)を含有していないDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、(b)1μM ALLN(カルパイン選択的阻害剤)を含有するDMEM(FBS(−))、(c)2μM ALLNを含有するDMEM(FBS(−))、(d)5μM ALLNを含有するDMEM(FBS(−))、を用いて、Hela細胞を37℃で1時間培養し、更に、10μMのAc−LM−HMRGで30分間培養した。その後、共焦点顕微鏡を用いて蛍光像及び透過像を撮影した。その結果を
図4a〜
図4dに示す(各図の左側は蛍光像で、右側は透過像である)。図中のスケールバーは50μmである。
図4aで示すように、Ac−LLY−HMRGを添加することにより、HeLa細胞内のカルパイン活性をモニターすることができる。また、
図4b〜4dで示すように、カルパイン選択的阻害剤であるALLNの添加により細胞内の蛍光強度は低下し、ALLNの添加濃度が増大に伴い蛍光強度が低下した。
【0048】
上記の実施例で例証したように、本発明により、カルパインをターゲットとした新たな蛍光プローブを提供することができる。具体的には、実施例2〜3で示した通り、Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRGはカルパインと反応することで、蛍光強度が上昇することが分かった。また、両者を細胞に適用した結果、Ac−LLY−HMRG、Ac−LM−HMRGともに蛍光強度上昇を示した。また、実施例5の阻害剤添加実験から、Ac−LM−HMRGの蛍光上昇が低下したことから、Ac−LM−HMRGは細胞内カルパイン活性を特異的に蛍光検出できることが示された。
【0049】
[実施例6]
ラットNMDA障害モデルを用いたAc−LM−HMRGの評価
(実験手順)
SDラットにネンブタールを用いて全身麻酔を行った。眼内にN‐メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)(10mM、2μL)、またはPBSを眼内に投与した。4時間後にケタミン・キサラジン混合液で再度麻酔を行い、眼内にAc−LM−HMRG(2mM、2μL)を投与した。その後、F10(ニデック社共焦点生体顕微鏡)で眼底を撮影した。
その結果を
図5a〜
図5d及び
図6a〜
図6dに示す。
図5及び
図6中、矢印で示す箇所は、HMRGで染色された神経細胞を示す。
図5aで示すように、Ac−LM−HMRG投与前には明らかなシグナルを認めていない。しかし、
図5b〜
図5dで示すように、NMDAを投与したラット(NMDA投与群)では、Ac−LM−HMRGを投与して30分後、60分後、90分後には明らかに神経細胞が染色された。一方、PBSを投与したラット(PBS投与群)では、Ac−LM−HMRG投与前にシグナルを認められず(
図6a)、30分後(
図6b)、60分後(
図6c)、90分後(
図6d)にはごくわずかに神経細胞が染色された。
ラットNMDA障害モデルは、網膜疾患モデルと考えられていることから、本発明の蛍光プローブは、網膜疾患の診断に有用であると考えられる。
【0050】
[実施例7]
マウスNMDA障害モデル網膜進展標本を用いたAc−LM−HMRGの評価
(実験手順)
マウスNMDA障害モデルは網膜伸展標本で検討を行った。まず、マウス オス BL6/Jに上丘から逆行性蛍光染色トレーサーであるフルオロゴールド(FG)を注入して、網膜神経節細胞をラベルした(
図7a及び
図8a)。1週間後、ネンブタールで麻酔を行い、眼内にNMDA30mM 1μL(PBS溶解)またはPBS 1μLを硝子体に投与した。その2時間後に再度ケタミン・キサラジン混合液で麻酔を行い、眼内にAc−LM−HMRG(0.5mM、1μL、PBS溶解)を投与した。Ac−LM−HMRG投与の更に1時間後にSytox(登録商標)Orange(細胞死を起こした細胞を染色する目的、25μL、1μL,PBS溶解)(invitrogen社製)を硝子体投与した。その10分後に眼球摘出し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定を2時間行い、網膜進展標本を作製した。
その結果を
図7a〜
図7c及び
図8a〜
図8cに示す。
図7a〜
図7cはNMDA投与群の網膜進展標本の写真を示す。
図7aはNMDA投与群のFGによる染色像、
図7bはAc−LM−HMRGによる染色像、
図7cはSytox(登録商標)Orangeによる染色像を示す。
図7b、
図7cで示すように、NMDA投与群ではカルパインの活性化がAc−LM−HMRGで検出され、細胞死も検出された。
図8a〜
図8cはPBS投与群の網膜進展標本の写真を示す。
図8aはPBS投与群のFGによる染色像、
図8bはAc−LM−HMRGによる染色像、
図8cはSytox(登録商標)Orangeによる染色像を示す。
図8b及び
図8cで示すように、PBS投与群では細胞死が起こっていないためAc−LM−HMRG及びSytox(登録商標)Orangeで染色像が認められなかった。
マウスNMDA障害モデルは、網膜疾患モデルと考えられていることから、本発明の蛍光プローブは、網膜疾患の診断に有用であると考えられる。
【0051】
本発明の蛍光プローブを緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、糖尿病に伴う網膜神経障害又は網膜血管閉塞性疾患等の網膜疾患の患者に適用することで、まず患者個人の眼底・網膜神経節細胞におけるカルパイン活性を迅速に知ることが出来るため、臨床診断・治療選択に大きな効果を発揮すると期待される。具体的には、カルパイン活性上昇が確認された患者には、カルパイン阻害薬の処方を実施するなど、本発明の蛍光プローブの医療上、産業上の利用価値、経済効果は極めて大きい。