(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚さ25〜60μmの長尺のポリビニルアルコール系フィルムであって、厚さD(μm)と、そのフィルムの水分率が9重量%である状態の長さ方向(MD方向)の引っ張り弾性率X(MPa)とが、下記式(1)を満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
0.9≦X/D≦1.3 ・・・(1)
長さ方向(MD方向)の上記引っ張り弾性率X(MPa)と、上記フィルムの水分率が9重量%である状態の幅方向(TD方向)の引っ張り弾性率Y(MPa)とが、下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
0.9≦Y/X≦1.1 ・・・(2)
長さ方向(MD方向)の屈折率をnx、幅方向(TD方向)の屈折率をny、厚さ方向の屈折率をnz、厚さをD(μm)としたときに、下記式(3)で算出される厚さ方向の位相差Rth(nm)が、80〜140nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×1000×D ・・・(3)
ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を連続キャスト法により製膜する製膜工程と、その製膜したフィルムを乾燥させる乾燥工程と、その乾燥させたフィルムを熱処理する熱処理工程とを備えた、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、上記乾燥工程における、上記製膜したフィルムを乾燥させる温度が100℃以上であり、上記熱処理工程が、上記乾燥させたフィルムを、50℃以下に冷却後、60〜99℃で加熱する工程であることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献の手法をもってしても偏光膜製造時のポリビニルアルコール系フィルムの延伸性を改良するには不充分である。
【0009】
上記特許文献1の開示技術は、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する時の流れ方向(MD方向)への延伸度合い(引っ張り具合)を特定したものであるが、乾燥条件や熱処理条件も考慮しなければ、ポリビニルアルコール系フィルムの延伸性は充分に改良されない。
【0010】
上記特許文献2の開示技術では、製膜後のフィルムを均一に乾燥できるものの、引っ張り弾性率を制御できず、偏光膜製造時のポリビニルアルコール系フィルムの延伸性は充分に改良されない。
【0011】
上記特許文献3の開示技術では、フィルムの膜厚を均一にできるものの、引っ張り弾性率は制御できず、偏光膜製造時のポリビニルアルコール系フィルムの延伸性は充分に改良されない。
【0012】
上記特許文献4の開示技術では、フィルムの面内位相差を低減できるものの、引っ張り弾性率の制御、および偏光膜製造時のポリビニルアルコール系フィルムの延伸性の改良の点で改善の余地がある。また、本開示技術の製造方法では、乾燥(70℃)や熱処理(120℃)後のフィルムを、一旦50℃以下に冷却し、ロールフィルムに巻き取る前に、再度50〜100℃で加熱することを特徴としているが、加熱工程が煩雑であり、生産性の点で改善の余地がある。
【0013】
上記特許文献5の開示技術では、ポリビニルアルコール系フィルムの引っ張り伸度を安定化できるものの、引っ張り弾性率そのものは制御されておらず、偏光膜製造時のポリビニルアルコール系フィルムの延伸性は充分に改良されない。また上記特許文献5の実施例は75μmのポリビニルアルコール系フィルムしか記載されておらず、近年の薄型化の要望に対応できない。
【0014】
上記特許文献6の開示技術では、延伸張力を低減できるものの、適度な引っ張り弾性率が無ければ偏光度は向上せず、かつ安定化しないため、偏光膜製造時の延伸性が改良されたとは言い難い。一般的に、低分子量のポリビニルアルコール系樹脂や低ケン化度のポリビニルアルコール系樹脂から得られる偏光膜は、偏光度が低い。これは、かかるポリビニルアルコール系樹脂よりなるポリビニルアルコール系フィルムでは、適度な延伸張力が発生しないために、ヨウ素や二色性色素が安定した配向状態を保てないためである。単純に伸びるだけでは偏光膜製造時の延伸性は改善されず、近年の高偏光度の要望に対応するためには、高分子量で高ケン化度なポリビニルアルコール系樹脂より得られ、かつ適度な引っ張り弾性率を有するポリビニルアルコール系フィルムが必要である。上記特許文献6の比較例に電磁波照射しない場合のポリビニルアルコール系フィルムの引っ張り弾性率(27MPa)が記載されているが、かかる引っ張り弾性率でも充分な偏光度は得られず、かつ安定化しない傾向にあり、特に、高温高湿等の信頼性試験において偏光度が低下する傾向にあった。また、上記特許文献6の実施例は60μmのポリビニルアルコール系フィルムしか記載されておらず、近年の薄型化の要望に対応するためには、更なる改善が望まれている。
【0015】
そこで、本発明は、このような背景下において、偏光膜製造時の延伸性に優れるポリビニルアルコール系フィルムであって、高い偏光度を有しかつ色ムラの少ない偏光膜を得ることができるポリビニルアルコール系フィルム、特に薄型偏光膜の製造時にも破断が生じないポリビニルアルコール系フィルム、およびその製造方法、ならびにそのポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
しかるに、本発明者らはかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、厚さと流れ方向(長さ方向、MD方向)の引っ張り弾性率との関係に着目し、その比を特定範囲に制御したポリビニルアルコール系フィルムが、偏光膜製造時の延伸性に優れ、薄型偏光膜を歩留りよく製造できるものであることを突き止めた。そして、かかるポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜は、高い偏光度を有し、かつ色ムラの少ない偏光膜となることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明の第1の要旨は、厚さ25〜60μmの長尺のポリビニルアルコール系フィルムであって、厚さD(μm)と、そのフィルムの水分率が9重量%である状態の長さ方向(MD方向)の引っ張り弾性率X(MPa)とが、下記式(1)を満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムである。
0.9≦X/D≦1.3 ・・・(1)
なお、引っ張り弾性率は、ヤング率や引っ張り弾性係数とも呼ばれる。
【0018】
また、本発明の第2の要旨は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を連続キャスト法により製膜する製膜工程と、その製膜したフィルムを乾燥させる乾燥工程と、その乾燥させたフィルムを熱処理する熱処理工程とを備えた、上記第1の要旨のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、上記乾燥工程における、上記製膜したフィルムを乾燥させる温度が100℃以上であり、上記熱処理工程が、上記乾燥させたフィルムを、50℃以下に冷却後、60〜99℃で加熱することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法である。
【0019】
そして、本発明の第3の要旨は、上記第1の要旨のポリビニルアルコール系フィルムが用いられていることを特徴とする偏光膜である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の要旨のポリビニルアルコール系フィルムは、厚さD(25〜60μm)と、そのフィルムの水分率が9重量%である状態の長さ方向(MD方向)の引っ張り弾性率X(MPa)とが、上記式(1)を満足するため、偏光膜製造時の延伸性に優れ、薄型の偏光膜を製造する場合に破断が生じないようにすることができるという効果を奏する。
【0021】
特に、長さ方向(MD方向)の上記引っ張り弾性率X(MPa)と、上記フィルムの水分率が9重量%である状態の幅方向(TD方向)の引っ張り弾性率Y(MPa)とが、下記式(2)を満足する場合には、偏光膜を製造する際の延伸性向上を図ることができるという効果を奏する。
0.9≦Y/X≦1.1 ・・・(2)
【0022】
また、長さ方向(MD方向)の引っ張り強度Fが、80MPa以上である場合には、薄型の偏光膜を製造する際の破断を防止することができるという効果を奏する。
【0023】
さらに、長さ方向(MD方向)の屈折率をnx、幅方向(TD方向)の屈折率をny、厚さ方向の屈折率をnz、厚さをD(μm)としたときに、下記式(3)で算出される厚さ方向の位相差Rth(nm)が、80〜140nmである場合には、厚さ方向の膨潤性を適正化することができるとともに、偏光膜を製造する際の延伸性を適正化することができるという効果を奏する。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×1000×D ・・・(3)
【0024】
そして、幅4m以上、長さ4km以上である場合には、生産性の向上を図ることができるという効果を奏する。
【0025】
本発明の第2の要旨の、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法は、特定の乾燥工程および熱処理工程を備えているため、偏光膜製造時の延伸性および耐破断性に優れた上記第1の要旨のポリビニルアルコール系フィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明の第3の要旨の偏光膜は、上記第1の要旨のポリビニルアルコール系フィルムが用いられているため、高い偏光度を示し、かつ色ムラの少ないものとすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、厚さDが25〜60μmの長尺のものであり、その厚さD(μm)と、そのフィルムの水分率が9重量%である状態で測定した長さ方向(MD方向)の引っ張り弾性率X(MPa)とが、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
0.9≦X/D≦1.3 ・・・(1)
【0028】
そして、上記ポリビニルアルコール系フィルムは、その長さ方向(流れ方向、MD方向)に搬送されながら、膨潤工程および延伸工程等を経て、偏光膜に形成される。ここで、上記ポリビニルアルコール系フィルムが特定の厚みD(25〜60μm)であり、かつ上記式(1)を満たすため、上記ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜製造時の延伸性に優れ、薄型の偏光膜を製造する場合でも破断が生じない。そして、得られた偏光膜は、高い偏光度を示し、かつ色ムラの少ないものとなる。
【0029】
上記ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜製造時の延伸性向上の点で下記式(1')を満たすことが更に好ましく、特に好ましくは、更なる延伸性向上の点で下記式(1'')を満たすことである。
1.0≦X/D≦1.2 ・・・(1')
1.0≦X/D≦1.1 ・・・(1'')
【0030】
本発明における引っ張り弾性率とは、JIS K7127:1999に準じて、20℃65%RHの環境下で測定される値である。
前述した通り、偏光膜製造においてポリビニルアルコール系フィルムは膨潤後に延伸されるが、膨潤後の引っ張り弾性率を、正確に安定して測定することは困難である。本発明においては、一般的に偏光膜製造に供されるポリビニルアルコール系フィルムの水分率が数%であることを鑑み、調湿により制御しやすい水分率9重量%における引っ張り弾性率を指標とする。調湿の手法は特に限定されないが、例えば、製造直後の比較的乾燥したポリビニルアルコール系フィルムを、20℃65%RHの環境下で数時間〜数十時間調湿することにより、上記環境での平衡水分率に近い9重量%で水分率を安定化することができる。
【0031】
なお、本発明において、上記「水分率9重量%」とは、「水分率が9.0重量%±0.5重量%の範囲内」を含む意味であり、その範囲内では、引っ張り弾性率は殆ど変わらない。また、本発明においては、測定された水分率に基づいて引っ張り弾性率を計算で補正することは、高分子の結晶状態や配向状態による外乱因子が大きいため行わない。
【0032】
本発明における水分率とは、ポリビニルアルコール系フィルムを、乾燥機により、105℃の雰囲気温度で16時間乾燥した前後の重量から算出される値であり、乾燥前の重量をA、乾燥後の重量をBとしたときに下記式で算出される。
水分率(重量%)=100×(A−B)/A
なお、ポリビニルアルコール系フィルム中の水分率は、環境湿度に依存した平衡水分率に変化していくため、水分率が9重量%に調湿された試験片は、速やかに引っ張り弾性率の測定に供される。
【0033】
本発明においては、水分率が9重量%である状態の長さ方向(MD方向)の引っ張り弾性率Xの面内ふれΔX(MPa)、および水分率が9重量%である状態の幅方向(TD方向)の引っ張り弾性率Y(MPa)の面内ふれΔY(MPa)は、10MPa以下であることが好ましく、特に好ましくは5MPa以下、更に好ましくは3MPa以下である。かかる面内ふれΔXおよび面内ふれΔYが大きすぎると、偏光膜製造時に延伸ムラが生じ、偏光膜に色ムラが発生する傾向がある。
【0034】
ここで、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法について説明する。すなわち、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を連続キャスト法により製膜する製膜工程(A)と、その製膜したフィルムを乾燥させる乾燥工程(B)と、その乾燥させたフィルムを熱処理する熱処理工程(C)とを備えたポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、上記乾燥工程(B)における、上記製膜したフィルムを乾燥させる温度が100℃以上であり、上記熱処理工程(C)が、上記乾燥させたフィルムを、50℃以下に冷却後、60〜99℃で加熱することを特徴とする。
【0035】
〔製膜工程(A)〕
まず、上記製膜工程(A)について詳しく説明する。
【0036】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、すなわち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等があげられる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0037】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、10万〜30万であることが好ましく、特に好ましくは11万〜28万、更に好ましくは12万〜26万である。かかる重量平均分子量が小さすぎると偏光膜の偏光度が低下する傾向があり、大きすぎるとポリビニルアルコール系フィルムの偏光膜製造時の延伸が困難となる傾向がある。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0039】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。かかる平均ケン化度が小さすぎると偏光膜の偏光度が低下する傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるものである。
【0040】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂として、変性種、変性量、重量平均分子量、平均ケン化度等の異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0041】
そして、上記ポリビニルアルコール系樹脂を、水等の溶剤を用いて洗浄し、遠心分離機等を用いて脱水して、含水率50重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキとすることが好ましい。含水率が大きすぎると、所望する水溶液濃度にすることが難しくなる傾向がある。
かかるポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを温水や熱水に溶解して、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製する。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の調製方法は、特に限定されず、例えば、加熱された多軸押出機を用いて調製してもよく、また、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解缶に、前述したポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを投入し、缶中に水蒸気を吹き込んで、溶解および所望濃度の水溶液を調製することもできる。
【0043】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の一般的に使用される可塑剤や、ノニオン性、アニオン性、およびカチオン性の少なくとも一つの界面活性剤を含有させることが、ポリビニルアルコール系フィルムの製膜性の点で好ましい。
【0044】
上記可塑剤として好ましいものは、グリセリンであり、その可塑剤の、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液における含有量は、1〜20重量%であることが好ましい。
上記界面活性剤として好ましいものは、ポリオキシエチレンアルキルアミン、高級脂肪酸アルカノールアミドであり、その界面活性剤の、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液における含有量は、0.01〜1重量%であることが好ましい。
【0045】
このようにして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂濃度は、15〜60重量%であることが好ましく、特に好ましくは17〜55重量%、更に好ましくは20〜50重量%である。かかる水溶液の樹脂濃度が低すぎると乾燥負荷が大きくなるため生産能力が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができにくくなる傾向がある。
【0046】
次に、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡やベントを有する多軸押出機による脱泡等の方法があげられる。ベントを有する多軸押出機としては、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0047】
脱泡処理ののち、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、回転するキャストドラム上に吐出および流延されて、連続キャスト法により製膜される。
【0048】
T型スリットダイ出口のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度は、80〜100℃であることが好ましく、特に好ましくは85〜98℃である。かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0049】
かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度は、吐出時に50〜200Pa・sであることが好ましく、特に好ましくは70〜150Pa・sである。かかる水溶液の粘度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると流延が困難となる傾向がある。
【0050】
T型スリットダイからキャストドラムに吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出速度は、0.5〜5m/分であることが好ましく、特に好ましくは0.6〜4m/分、更に好ましくは0.7〜3m/分である。かかる吐出速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると流延が困難となる傾向がある。
【0051】
かかるキャストドラムの直径は、好ましくは2〜5m、特に好ましくは2.4〜4.5m、更に好ましくは2.8〜4mである。かかる直径が小さすぎると乾燥長が不足し速度が出にくい傾向があり、大きすぎると輸送性が低下する傾向がある。
【0052】
かかるキャストドラムの幅は、好ましくは4m以上であり、特に好ましくは4.5m以上、更に好ましくは5m以上、殊に好ましくは5〜6mである。キャストドラムの幅が小さすぎると生産性が低下する傾向がある。
【0053】
かかるキャストドラムの回転速度は、3〜50m/分であることが好ましく、特に好ましくは4〜40m/分、更に好ましくは5〜35m/分である。かかる回転速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると脱水が不充分となる傾向がある。
【0054】
かかるキャストドラムの表面温度は、40〜99℃であることが好ましく、特に好ましくは50〜95℃である。かかる表面温度が低すぎると脱水不良となる傾向があり、高すぎると発泡してしまう傾向がある。
【0055】
かくして、前記製膜工程(A)が行なわれ、製膜されたフィルムはキャストドラムから剥離される。
【0056】
〔乾燥工程(B)〕
次いで、前記乾燥工程(B)について詳しく説明する。この乾燥工程(B)は、上記製膜されたフィルムを加熱して乾燥する工程である。
【0057】
キャストドラムから剥離されたフィルム(上記製膜されたフィルム)は、ニップロール等を用いて流れ方向(MD方向)に搬送され、そのフィルムの表面と裏面とを複数の熱ロールに交互に接触させることにより乾燥される。熱ロールは、例えば、表面をハードクロムメッキ処理または鏡面処理した、直径0.2〜2mのロールであり、通常2〜30本、好ましくは10〜25本を用いて乾燥を行うことが好ましい。
【0058】
乾燥温度(上記製膜されたフィルムを乾燥させる温度)は、好ましくは100℃以上、特に好ましくは100〜120℃、更に好ましくは100〜115℃、殊に好ましくは100〜110℃である。かかる乾燥温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎるとうねり等の外観不良を招く傾向がある。なお、本発明における乾燥温度は、複数本用いられる熱ロールの中で最も高温な熱ロールの表面温度を意味する。
【0059】
乾燥時間は、特に限定されないが、通常、1〜60秒間、好ましくは2〜50秒間、特に好ましくは3〜40秒間、更に好ましくは4〜30秒間である。乾燥時間が短すぎると乾燥不良となる傾向が有り、長すぎるとうねり等の外観不良を招く傾向がある。なお、本発明における乾燥時間は、最も高温な熱ロールと上記製膜されたフィルムとの接触時間を意味するものであり、かかる最も高温な熱ロールが複数本ある場合は、それら熱ロールとの接触時間の積算値である。
【0060】
乾燥後のフィルムの水分率は、10重量%以下が好ましく、特に好ましくは1〜9重量%、更に好ましくは2〜8重量%、殊に好ましくは3〜7重量%、より好ましくは4〜6重量%である。かかる水分率が高すぎると、最終的に得られるポリビニルアルコール系フィルムが乾燥不良となる傾向がある。
【0061】
〔熱処理工程(C)〕
次いで、前記熱処理工程(C)について詳しく説明する。この熱処理工程(C)は、上記乾燥されたフィルムを熱処理する工程である。かかる熱処理工程は、一般的には、必要に応じてなされる任意の工程であるが、本発明においては、引っ張り弾性率の制御のために必須の工程となる。すなわち、この熱処理工程(C)は、上記乾燥工程(B)において100℃以上で乾燥されたフィルムを、一旦50℃以下(上記乾燥されたフィルム自体の温度)に冷却し、再度、60〜99℃で加熱することにより、引っ張り弾性率を所望の範囲とし、偏光膜製造時の延伸性を向上させる。
【0062】
上記冷却方法としては、例えば、放置して自然に冷却させる自然冷却や、冷風を吹き付ける方法等があげられる。
【0063】
上記加熱方法としては、例えば、フローティングドライヤーで熱風を吹き付ける方法や、熱ロールに接触させる方法等があげられるが、本発明においては、引っ張り弾性率の安定化の点で、フローティングドライヤーを用いる方法が好ましい。
【0064】
加熱温度は、65〜95℃が好ましく、特に好ましくは70〜90℃、更に好ましくは70〜80℃である。かかる加熱温度が低すぎると、引っ張り弾性率が低下する傾向があり、高すぎると引っ張り弾性率が増大する傾向がある。なお、本発明における加熱温度は、上記加熱方法が上記フローティングドライヤーで熱風を吹き付ける方法である場合は、その熱風の温度を意味し、上記加熱方法が上記熱ロールに接触させる方法である場合は、その熱ロールの表面温度を意味する。
【0065】
加熱時間は、特に限定されないが、フローティングドライヤーを用いる場合、10〜120秒間が好ましく、特に好ましくは20〜90秒間、更に好ましくは30〜60秒間である。かかる加熱時間が短すぎると、引っ張り弾性率のふれが増大する傾向があり、長すぎると、生産性が低下する傾向がある。
【0066】
加熱後のフィルムの水分率は、5重量%以下が好ましく、特に好ましくは0.1〜4重量%、更に好ましくは0.2〜3重量%、殊に好ましくは0.3〜2.5重量%である。かかる水分率が高すぎると、最終的に得られるポリビニルアルコール系フィルムが乾燥不良となる傾向がある。
【0067】
上記のように、乾燥工程(B)と熱処理工程(C)について説明したが、本発明の製造方法は、両者の温度バランスが重要であり、乾燥工程(B)での乾燥温度が、水の沸点である100℃以上であることが好ましく、かかる温度領域の中でも比較的低い温度を選択することがより好ましく、更には、熱処理工程(C)での加熱温度が、水の沸点である100℃未満であることが特に好ましいものである。
【0068】
〔ポリビニルアルコール系フィルム〕
上記乾燥工程(B)および上記熱処理工程(C)を経て、流れ方向(MD方向)に長い本発明のポリビニルアルコール系フィルムが得られる。このポリビニルアルコール系フィルムは、その両端をスリットされ、芯管にロール状に巻き取られる。
【0069】
かくして得られる本発明のポリビニルアルコール系フィルムの幅は、生産性向上の点で4m以上であることが好ましく、より好ましくは、破断回避の点で4〜6mである。
【0070】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの長さは、生産性向上の点で4km以上であることが好ましく、より好ましくは、偏光膜ひいては液晶画面の大面積化への対応の点で5km以上、更に好ましくは、輸送重量の点で5〜50kmである。
【0071】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの厚さDは、先に述べたように、25〜60μmであるが、偏光膜の薄型化の点で、好ましくは30〜55μmであり、特に好ましくは35〜50μmである。かかるポリビニルアルコール系フィルムの厚さは、原料であるポリビニルアルコール系樹脂水溶液中の樹脂濃度、その原料のキャスト型への吐出量(吐出速度)、製膜されたフィルムの延伸倍率等により調整される。
【0072】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、長さ方向(MD方向)の上記引っ張り弾性率X(MPa)と、上記ポリビニルアルコール系フィルムの水分率が9重量%である状態の幅方向(TD方向)の引っ張り弾性率Y(MPa)とが、偏光膜製造時の延伸性向上の点で、下記式(2)を満足することが好ましい。
0.9≦Y/X≦1.1 ・・・(2)
【0073】
更に好ましくは、偏光膜製造時の延伸性向上の点で、下記式(2')を満たすことであり、特に好ましくは、更なる延伸性向上の点で下記式(2'')を満たすことである。
0.95≦Y/X≦1.09 ・・・(2')
1.0≦Y/X≦1.08 ・・・(2'')
【0074】
かかるY/Xの値が小さすぎると、偏光膜製造時の流れ方向(MD方向)の延伸性が低下する傾向にあり、大きすぎると延伸性が安定化しない傾向がある。
【0075】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、水分率が9重量%である状態の長さ方向(MD方向)の引っ張り強度F(MPa)が、80MPa以上であることが好ましく、特に好ましくは90MPa以上、更に好ましくは100MPa以上である。かかる引っ張り強度F(MPa)が小さすぎると、薄型の偏光膜製造時に破断が生じやすい傾向がある。なお、引っ張り強度F(MPa)の上限値は通常200MPaである。
【0076】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、長さ方向(MD方向)の屈折率をnx、幅方向(TD方向)の屈折率をny、厚さ方向の屈折率をnz、厚さをD(μm)としたときに、下記式(3)で算出される厚さ方向の位相差Rth(nm)が、80〜140nmであることが好ましく、特に好ましくは85〜130nm、更に好ましくは90〜120nm、殊に好ましくは95〜110nmである。
かかる厚さ方向の位相差Rth(nm)が小さすぎると、厚さ方向の膨潤性が低下する傾向があり、大きすぎても、高分子鎖の面配向が強いため、偏光膜製造時の延伸性が低下する傾向がある。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×1000×D ・・・(3)
【0077】
なお、上記実施の形態では、キャスト型としてキャストドラム(ドラム型ロール)を用いた場合を例にとって、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する方法を説明したが、キャスト型としてキャストベルトや樹脂フィルムを用いて製造することも可能である。
【0078】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、延伸性に優れるため、偏光膜用の原反として特に好ましく用いられる。
【0079】
ここで、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜の製造方法について説明する。
【0080】
〔偏光膜の製造方法〕
本発明の偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、ロールから繰り出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て製造される。
【0081】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラ等を防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。上記処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10〜45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1〜10分間程度である。
【0082】
染色工程は、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1〜100g/Lが適当である。染色時間は30〜500秒間程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。
【0083】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度10〜100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30〜70℃程度、処理時間は0.1〜20分間程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0084】
延伸工程は、一軸方向〔流れ方向(MD方向)〕に3〜10倍、好ましくは3.5〜6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸〔幅方向(TD方向)の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸〕を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、30〜170℃が好ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一回のみならず、偏光膜製造工程において複数回実施してもよい。
【0085】
本発明においては、前述した通り、かかる延伸工程における延伸張力が適切な範囲である必要がある。すなわち、延伸張力が大きすぎる場合は、所定の延伸倍率まで延伸できず、充分に二色性染料が配向しないため、偏光度が向上しない傾向がある。逆に、延伸張力が小さ過ぎる場合は、所定の延伸倍率まで延伸しても、二色性染料の配向が安定せず、偏光膜に色ムラが発生する傾向がある。
なお、一般的に、偏光膜製造工程において、延伸張力は厚さごとに設定されるため、好ましい範囲を一般化するのは困難であるが、同じ厚さでの比較においては、延伸張力を1割以上低減することが好ましく、特に好ましくは2〜4割低減することである。
【0086】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行われ、そのポリビニルアルコール系フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1〜80g/L程度である。洗浄処理時の温度は、通常、5〜50℃、好ましくは10〜45℃である。処理時間は、通常、1〜300秒間、好ましくは10〜240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0087】
乾燥工程は、例えば、上記ポリビニルアルコール系フィルムを大気中で40〜80℃で1〜10分間乾燥することが行われる。
【0088】
かくして、本発明の偏光膜が得られる。本発明の偏光膜の偏光度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H
11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H
1)より、下記式にしたがって算出される。
偏光度=〔(H
11−H
1)/(H
11+H
1)〕
1/2
【0089】
さらに、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上、より好ましくは43%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0090】
本発明の偏光膜は、偏光度に優れ、色ムラの無い偏光板を製造するのに好適である。
ここで、本発明の偏光膜を用いた偏光板の製造方法について説明する。
【0091】
〔偏光板の製造方法〕
上記偏光板は、本発明の偏光膜の片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合することにより、作製される。保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド等のフィルムまたはシートがあげられる。
【0092】
貼合方法は、公知の手法で行われるが、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜、保護フィルム、あるいはその両方に、均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射することで行われる。
【0093】
また、偏光膜の片面または両面に、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、硬化して硬化層を形成し、偏光板とすることもできる。このようにすると、上記硬化層が上記保護フィルムの代わりとなり、薄膜化を図ることができる。
【0094】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜や偏光板は、偏光性能に優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
そして、以下の実施例および比較例におけるポリビニルアルコール系フィルムの特性(水分率、引っ張り弾性率、引っ張り強度、厚さの方向の位相差、延伸張力)と偏光膜の特性(偏光度、単体透過率、色ムラ)の測定および評価を以下のようにして行った。
【0097】
<測定条件>
〔水分率(重量%)〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムから100mm×100mmの試験片を切り出し、初期の重量A(g)と、乾燥機により105℃の雰囲気温度で16時間乾燥した後の重量B(g)から、下記式により水分率(重量%)を算出した。
水分率(重量%)=100×(A−B)/A
【0098】
〔引っ張り弾性率(MPa)、引っ張り強度F(MPa)〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムから120mm×15mmの試験片を切り出し、20℃65%RHの恒温恒湿器中で水分率が9.0重量%±0.5重量%となるよう調湿した後、島津製作所社製「精密万能試験機、オートグラフ(AG−IS)」を用いて、JIS K7127:1999(引っ張り速度1000mm/分、チャック間距離50mm)に準じて、20℃65%RHの環境下で、長さ方向(MD方向)の引っ張り弾性率X(MPa)と幅方向(TD方向)の引っ張り弾性率Y(MPa)を測定した。また長さ方向(MD方向)については引っ張り強度F(MPa)を測定した。
【0099】
〔厚さの方向の位相差Rth(nm)〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムの幅方向(TD方向)の中央部と両端部(フィルム端から10cm内側とする)から、長さ4cm×幅4cmの試験片を切り出し、リターデーション測定装置(「KOBRA−WR」王子計測機器社製)を用いて、590nmにおける、厚さ方向の位相差Rth(nm)を測定した。
<Rthの測定条件>
入射角:50°
傾斜中心軸:遅相軸
平均屈折率:アッベ屈折率計を用いて測定した数値
【0100】
〔延伸張力(N)〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、長さ(MD方向)50mm×幅(TD方向)35mmの試験片を切り出し、チャック間距離が20mmとなるように長さ方向(MD方向)の両端部を幅35mmのチャックで挟んだ後、30℃の温水中に240秒間浸漬しつつ、長さ方向(MD方向)に1.7倍(34mm)に延伸し、次いで30℃の染色液中にて長さ方向(MD方向)1.6倍(54.4mm)に延伸し、最後に50℃のホウ酸液中にて長さ方向(MD方向)2.1倍(114.2mm)に延伸した時の張力(N)をばねばかりで測定した。使用した染色液とホウ酸液の組成は下記のとおりである。
染色液:ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/L
ホウ酸液:ヨウ化カリウム30g/L、ホウ酸40g/L
【0101】
〔偏光度(%)、単体透過率(%)〕
得られた偏光膜の幅方向(TD方向)の中央部と両側端部(偏光膜の両側端の各端から10cm内側とする)から、長さ4cm×幅4cmの試験片を切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光社製:VAP7070)を用いて、偏光度(%)と単体透過率(%)を測定した。かかる測定を、偏光膜の流れ方向(MD方向)の中央部と先端部/終端部(偏光膜の先端および終端の各端から10m内側とする)について行った。
【0102】
〔色ムラ〕
得られた偏光膜の幅方向(TD方向)の中央部と両側端部(偏光膜の両側端の各端から10cm内側とする)から、長さ30cm×幅30cmの試験片を切り出し、クロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟んだのちに、表面照度14,000lxのライトボックスを用いて、透過モードで光学的な色ムラを観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○・・・色ムラなし
△・・・かすかに色ムラあり
×・・・色ムラあり
かかる評価を、偏光膜の流れ方向(MD方向)の中央部と先端部/終端部(偏光膜の先端および終端の各端から10m内側とする)について行った。
【0103】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの作製)
重量平均分子量142,000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂2,000kg、水5,000kg、可塑剤としてグリセリン220kgを入れ、撹拌しながら140℃まで昇温して、樹脂濃度25重量%に濃度調整を行い、均一に溶解したポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。次に上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、回転するキャストドラムに吐出(吐出速度2.5m/分)および流延して製膜した。その製膜したフィルムをキャストドラムから剥離し、そのフィルムの表面と裏面とを20本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥した。乾燥温度(最も高温の熱ロールの表面温度)は110℃であり、乾燥時間(最も高温の熱ロールとフィルムの接触時間の累計)は12秒間であった。これにより、水分率9重量%のフィルムを得た。次いで、上記乾燥させたフィルムを自然冷却することにより、そのフィルム自体の温度を一旦40℃にした後、フローティングドライヤーを用いて、上記フィルム両面から95℃の熱風を30秒間吹き付けて加熱し、水分率2重量%のポリビニルアルコール系フィルム(厚さ60μm、幅5m、長さ5km)を得た。最後に、そのポリビニルアルコール系フィルムの両端部をスリットして芯管にロール状に巻き取った。得られた上記ポリビニルアルコール系フィルムの特性を下記の表1に示す。
【0104】
(偏光膜の製造)
得られた上記ポリビニルアルコール系フィルムをロールから繰り出し、搬送ロールを用いて水平方向に搬送し、まず、水温30℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD方向)に1.7倍に延伸した。次に、ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる30℃の水溶液中に浸漬して染色しながら流れ方向(MD方向)に1.6倍に延伸し、ついでホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(50℃)に浸漬してホウ酸架橋しながら流れ方向(MD方向)に2.1倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、50℃で2分間乾燥して総延伸倍率5.8倍の偏光膜を得た。かかる製造中に破断は起きなかった。また、得られた偏光膜の特性を下記の表2に示す。
【0105】
<実施例2〜5、比較例1〜4>
下記の表1に示される条件で製造する以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルム、および偏光膜を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性を下記の表1に、得られた偏光膜の特性を下記の表2に示す。
なお、比較例3においては、実施例1と同様にして、偏光膜の製造を試みたが、ホウ酸架橋工程における延伸中に破断が生じた。表2の特性はかろうじて得られた偏光膜先端部の特性である。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
実施例1〜5のポリビニルアルコール系フィルムは、引っ張り弾性率/厚さ(X/D)の値が本発明の特定の範囲内であるため、偏光度が高く、色ムラのない偏光膜が得られているのに対し、比較例1〜4のポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜は、引っ張り弾性率/厚さ(X/D)が本発明の特定の範囲外であり、その結果、偏光度に劣り、色ムラがあることがわかる。
【0109】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。