特許第6881391号(P6881391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6881391焼結用複合酸化物粉末の製造方法及び透明セラミックスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881391
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】焼結用複合酸化物粉末の製造方法及び透明セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20210524BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20210524BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C04B35/50
   C04B35/44
   C04B35/626
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-99587(P2018-99587)
(22)【出願日】2018年5月24日
(65)【公開番号】特開2019-202916(P2019-202916A)
(43)【公開日】2019年11月28日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵多
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/033618(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/066909(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/186656(WO,A1)
【文献】 特開2012−206935(JP,A)
【文献】 特開2015−212209(JP,A)
【文献】 特開2013−079195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/44
C04B 35/50
C01F 17/00−17/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)テルビウムイオン、(b)イットリウムイオン及びランタノイド希土類イオン(ただし、テルビウムイオンを除く)の群から選ばれる少なくとも1種のその他の希土類イオン、(c)アルミニウムイオン及び(d)スカンジウムイオンを含む水溶液を共沈用水溶液に添加し液温50℃以下で撹拌して、上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を共沈させた状態とし、その共沈物をろ別、加熱脱水した後、1000℃以上1300℃以下で焼成して下記式(1)で表されるガーネット型複合酸化物からなる粉末を得る焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、Rはイットリウム及びランタノイド希土類元素(ただし、テルビウムを除く)の群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦x<0.45、0<y<0.1、0.5<1−x−y<0.95、0.004<z<0.2である。)
【請求項2】
上記(b)成分がイットリウムイオン及び/又はルテチウムイオンである請求項1記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項3】
上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を含む水溶液は無機酸水溶液であり、上記共沈用水溶液は炭酸塩水溶液である請求項1又は2記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項4】
上記(a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液及び(d)成分を含む水溶液を別個に調製し、これらを混合した後、この混合水溶液を共沈用水溶液に添加する請求項1〜3のいずれか1項記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項5】
上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を含む水溶液を共沈用水溶液に添加した後、この液を液温20℃以上50℃以下に保持した状態で12時間以上撹拌して、該(a)、(b)、(c)及び(d)成分の共沈物の粒子を成長させる請求項1〜4のいずれか1項記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法により製造されたガーネット型複合酸化物粉末を用いて成形体を成形した後、該成形体を焼結し、次いで加圧焼結することを特徴とする透明セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用複合酸化物粉末の製造方法及び透明セラミックスの製造方法に関し、より詳細には、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適なテルビウムなどの希土類元素を含むガーネット型透明セラミックスからなる磁気光学材料として用いるための焼結用複合酸化物粉末の製造方法及び透明セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザーの高出力化に伴い、ファイバーレーザーを用いたレーザー加工が台頭し始めている。レーザー加工を安定に行うためには、外部からの光を除去し、発振状態を乱れさせないようにする必要がある。特にファイバー端面で光が反射すると、レーザー光源まで反射光が到達し、結果として大きく発振を乱れさせてしまう。そのため、通常のファイバーレーザーには、ファイバーとファイバーをつなぐ境界にアイソレータと呼ばれる部品を装着することで、反射光を完全に抑制している。
【0003】
アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。このとき、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで、偏光子と検光子の偏波面を前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は検光子位置から45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると、偏光子位置における戻り光の偏波面は偏光子の偏波面に対して45度−(−45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光は遮断する光アイソレータとして機能する。
【0004】
ファラデー回転子として従来から存在する材料として、例えばガーネット系のTb3Ga512(特許第4878343号公報(特許文献1))やTb3Al512(特許第3642063号公報(特許文献2))、C型希土類系の(TbxRe(1-x)23(特許第5704097号公報(特許文献3))がある。これらの材料には共通して、レーザーとして用いられる1064nmで光吸収が少なく、かつ大きなベルデ定数(磁気光学定数)を有するテルビウムが含有されている。
【0005】
ただし、各種磁気光学材料には、それぞれ下記のような問題を抱えている。ガーネット系であるTb3Ga512(TGG)は、結晶中に含まれるテルビウムの量が少ないために、ベルデ定数が小さく、ファラデー回転子を長くする必要があり、ビーム品質が悪くなりやすい。一方、同じガーネット系のTb3Al512(TAG)は、ガリウムよりもイオン半径の小さいアルミニウムを使用しているため、結晶中に含まれるテルビウム量が多くなり、ファラデー回転子を短くすることができる。しかし、TAGは分解溶融型結晶であるため、結晶成長時の固液界面においてまずペロブスカイト相が最初に生成され、その後にTAG相が生成されるという制約がある。つまりTAG結晶のガーネット相とペロブスカイト相は常に混在した状態でしか結晶育成することができず、良質で大サイズのTAG結晶育成は実現していない。最後にC型希土類系の(TbxRe(1-x)23は、他の材料と比較してもテルビウムの含有量を増やすことができ、アイソレータの短尺化に貢献するが、一方で高価数テルビウムが発生しやすく、光吸収がガーネット系材料と比較しても大きい。光吸収が多いと、例えば100W以上の高出力レーザーを挿入した際、吸収した光エネルギーによってアイソレータ自体が大きく発熱し、結果的にレーザー品質を悪化させてしまう、という問題がある。
【0006】
現在、最も一般的に用いられているファラデー回転子はTGGであるが、そのTGGもベルデ定数が小さいために改良が求められている。そのTGGに代わるものとしてTAGが期待されているが、前述の分解溶融により、TAG結晶育成は困難であった。そこで、TAG結晶に近い物質を作ることを目的に、TAGセラミックス(国際公開第2017/033618号(特許文献4))やTb3Sc2Al312(TSAG)結晶(特許第5935764号公報(特許文献5))が例示されている。しかし、前者のTAGセラミックスは、分解溶融温度以下で製造できるためにある程度の異相を制御できるが、組成ずれ等により完全に異相の発生を抑えることが難しく、光学用途に使用するにはまだ散乱が多い状態である。また後者のTSAGは、Scを添加することで分解溶融を抑制し、さらに微妙な組成ずれまで補正することができる。そのため、結晶の育成を容易にしているが、高価なScを多量に使用しているためコストがかかり、実用化にまでは至っていない。
【0007】
また最近になって、TAGセラミックスのテルビウムの一部をイットリウムに置き換えたYTAGセラミックスが開示されている(非特許文献1)。
不安定なTAGのテルビウムの一部をイットリウムに置き換えたことで構造安定化が実現し、TGG結晶の性能を凌ぐ可能性のあるファラデー回転子が既に公知となっている。なお、イットリウムに置換することによりテルビウムの含有量が下がり、ベルデ定数がTAGセラミックスと比較すると低くなるが、TAGセラミックスは元々TGGセラミックスよりも1.5倍のベルデ定数を有するため、YTAGセラミックスはTGG結晶と比較して同程度あるいは少し大きなベルデ定数を有することになり、アイソレータ材料としては不利にならない。更に、TAGセラミックスにおけるテルビウムの一部をイットリウムに置換することで、テルビウムの吸収に由来する光損失を抑えることができ、結果的にTAGセラミックスよりも高出力用のファイバーレーザー用アイソレータ材料として使用できる可能性がある。しかし、YTAGセラミックスは未だ構造安定化には不十分であり、高品質な透明セラミックスが歩留まり良く製造できない限り、実用化は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4878343号公報
【特許文献2】特許第3642063号公報
【特許文献3】特許第5704097号公報
【特許文献4】国際公開第2017/033618号
【特許文献5】特許第5935764号公報
【0009】
【非特許文献1】Yan Lin Aung,Akio Ikesue, Development of optical grade (TbxY1-x)3Al5O12 ceramics as Faraday rotator material, J.Am.Ceram.Soc.,(2017),100(9),4081−4087
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情を鑑みなされたもので、テルビウム、イットリウム及びランタノイド希土類(ただし、テルビウムを除く)の群から選ばれる少なくとも1種のその他の希土類元素、アルミニウム及びスカンジウムの4種類の構成元素がすべて均一に分布したガーネット型希土類複合酸化物粉末を共沈方式で合成する焼結用複合酸化物粉末の製造方法、更にその製造方法で製造された粉末を用いた透明セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは従来より持ち合わせている透明セラミックス技術を利用し、上記YTAGセラミックスの改良に着手し、YTAGセラミックスの骨格の一部をScに置き換えることにより結晶構造をより安定化させ、透明セラミックスとして品質が向上することを見出した。またこのとき、そのSc量は少量であるため、コストの面でも特に問題とならなかった。
しかしながら、従来のような各種酸化物を混ぜ合わせ、固相反応で製造したYTAGセラミックスは、仮焼時にその後に行うボールミル粉砕などでは粉砕しきらない硬い粉が発生し、そのままでは成型時に成形体内部に粗大空洞が形成されてしまう問題が発生した。また、その問題を回避するため硬い粉を除去すると収率が下がってしまい生産性という観点から好ましくないという別の問題が発生した。
本発明者らがこれらの問題について調査したところ、このような硬い粒子はこれまでの透明セラミックス製造上では見られず、Tbを含むアルミニウムガーネット(YTAGを含むTAG)に特有の問題であることが判明した。また、その問題はTb酸化物を含む原料粉からガーネットへ固相反応する際に密度変化が生じていることが原因であることを見出し、更にTbを含むアルミニウムガーネット系のセラミックス製造においては、目的の組成のセラミックスを固相反応で製造するのではなく、既にガーネット化が完了している原料粉末を用いて製造することが好ましいことが分かった。また、ガーネット化した目的組成のセラミックス原料粉末を得るためには粉砕法のようなトップダウン法ではなく、ビルドアップ式に粒子を合成することが重要であり、更にこれにより上記のように問題となる硬い粉の発生を完全に抑制できることもわかった。本発明者らは、これらの知見を基に更なる改良を進めて本発明を成すに至った。
【0012】
即ち本発明は、下記の焼結用複合酸化物粉末の製造方法及び透明セラミックスの製造方法である。
1.
(a)テルビウムイオン、(b)イットリウムイオン及びランタノイド希土類イオン(ただし、テルビウムイオンを除く)の群から選ばれる少なくとも1種のその他の希土類イオン、(c)アルミニウムイオン及び(d)スカンジウムイオンを含む水溶液を共沈用水溶液に添加し液温50℃以下で撹拌して、上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を共沈させた状態とし、その共沈物をろ別、加熱脱水した後、1000℃以上1300℃以下で焼成して下記式(1)で表されるガーネット型複合酸化物からなる粉末を得る焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、Rはイットリウム及びランタノイド希土類元素(ただし、テルビウムを除く)の群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦x<0.45、0<y<0.1、0.5<1−x−y<0.95、0.004<z<0.2である。)
2.
上記(b)成分がイットリウムイオン及び/又はルテチウムイオンである1記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
3.
上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を含む水溶液は無機酸水溶液であり、上記共沈用水溶液は炭酸塩水溶液である1又は2記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
4.
上記(a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液及び(d)成分を含む水溶液を別個に調製し、これらを混合した後、この混合水溶液を共沈用水溶液に添加する1〜3のいずれかに記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
5.
上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を含む水溶液を共沈用水溶液に添加した後、この液を液温20℃以上50℃以下に保持した状態で12時間以上撹拌して、該(a)、(b)、(c)及び(d)成分の共沈物の粒子を成長させる1〜4のいずれかに記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法。
6.
1〜5のいずれかに記載の焼結用複合酸化物粉末の製造方法により製造されたガーネット型複合酸化物粉末を用いて成形体を成形した後、該成形体を焼結し、次いで加圧焼結することを特徴とする透明セラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テルビウム、イットリウム及びランタノイド希土類(ただし、テルビウムを除く)の群から選ばれる少なくとも1種のその他の希土類元素、アルミニウム及びスカンジウムの4種類の構成元素がすべて均一に分布した焼結用ガーネット型複合酸化物粉末を提供することができ、その粉末を成形し、焼結することにより均一な透明性を有するガーネット型透明セラミックスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る焼結用複合酸化物粉末の製造手順例を示すフローチャートである。
図2】本発明で製造した透明セラミックスをファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[焼結用複合酸化物粉末の製造方法]
以下に、本発明に係る焼結用複合酸化物粉末の製造方法について説明する。
本発明に係る焼結用複合酸化物粉末の製造方法は、(a)テルビウムイオン、(b)イットリウムイオン及びランタノイド希土類イオン(ただし、テルビウムイオンを除く)の群から選ばれる少なくとも1種のその他の希土類イオン、(c)アルミニウムイオン及び(d)スカンジウムイオンを含む水溶液を共沈用水溶液に添加し液温50℃以下で撹拌して、上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分を共沈させた状態とし、その共沈物をろ別、加熱脱水した後、1000℃以上1300℃以下で焼成して下記式(1)で表されるガーネット型複合酸化物からなる粉末を得ることを特徴とするものである。
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、Rはイットリウム及びランタノイド希土類元素(ただし、テルビウムを除く)の群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦x<0.45、0<y<0.1、0.5<1−x−y<0.95、0.004<z<0.2である。)
【0016】
(組成)
本発明で対象とする焼結用複合酸化物(ガーネット型希土類複合酸化物)の組成は、上記式(1)で表されるものである。なお、式(1)で表されるガーネット結晶構造においてTbが配位する側、即ち式(1)の前半の括弧内に入る側をAサイト、Alが配位する側、即ち式(1)の後半の括弧内に入る側をBサイトと称する。
【0017】
式(1)のAサイトにおいて、Tbは、鉄(Fe)を除く常磁性元素群の中で最大のベルデ定数を有する材料であり、ファイバーレーザーで使用する1064nm領域で吸収が存在しないため、この波長域の光アイソレータ用材料に用いるには最も適している元素である。ただし、Tbは空気中の酸素と容易に反応し、高価数Tbが発生する。この高価数Tbは吸光性を有するため、できる限り排除することが望ましい。この高価数Tbを排除するには、高価数Tbが発生しない結晶構造、つまりガーネット構造を採用することが最も好ましい。
【0018】
式(1)のAサイトにおいて、Rはイットリウム及びランタニド希土類元素(ただし、テルビウム(Tb)を除く)からなる群から選ばれる少なくとも1種のその他の希土類元素であり、具体的には、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。このうち、Rは、Y、Ce、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましく、使用波長帯に吸収が存在しないという観点から、Y及び/又はLuであることがより好ましく、Y又はLuであることが更に好ましい。
【0019】
また、式(1)のBサイトにおいて、Alはガーネット構造を有する酸化物中で安定に存在できる3価のイオンの中で最小のイオン半径を有する材料であり、Tb含有の常磁性ガーネット型酸化物の格子定数を最も小さくすることのできる元素である。Tbの含有量を変えることなくガーネット構造の格子定数を小さくすることができると、単位長さ当りのベルデ定数を大きくすることができるため好ましい。実際TAGセラミックスのベルデ定数はTGGのそれの1.25〜1.5倍に向上する。そのためテルビウムイオンの一部を上記Rのイオンで置換することでテルビウムの相対濃度を低下させた場合でも、単位長さ当りのベルデ定数をTGG同等、ないしは若干下回る程度にとどめることが可能となるため、本発明においては好適な構成元素である。
【0020】
ここで、構成元素がTb、R(その他の希土類)及びAlだけの複合酸化物では微妙な秤量誤差によってガーネット構造を有さない場合があり、光学用途に使用可能な透明セラミックスを安定に製造することが難しい。そこで、本発明では構成元素としてスカンジウム(Sc)を添加することにより微妙な秤量誤差による組成ずれを解消する。Scは、ガーネット構造を有する酸化物中でAサイトにも、Bサイトにも固溶することができる中間的なイオン半径を有する材料であり、Tb及びRからなる希土類元素とAlとの配合比が秤量時のばらつきによって化学量論比からずれた場合に、ちょうど化学量論比に合うように、そしてこれにより結晶子の生成エネルギーを最小にするように、自らAサイト(Tb及びRからなる希土類サイト)とBサイト(アルミニウムサイト)への分配比を調整して固溶することのできるバッファ材料である。また、アルミナ異相のガーネット母相に対する存在割合を1ppm以下に制限し、かつ、ペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合を1ppm以下に制限することのできる元素であり、本発明においては不可欠の元素である。
【0021】
式(1)中、xの範囲は0.05≦x<0.45であり、0.1≦x≦0.4が好ましく、0.2≦x≦0.35がより好ましい。xがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。更に光学顕微鏡観察で150μm×150μmの視野におけるペロブスカイト型の異相(典型的なサイズが直径1μm〜1.5μmで、薄茶色に着色して見える粒状のもの)の存在量が1個以下になるため好ましい。このときのペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合は1ppm以下となっている。同様にxが上記の範囲にあると、セラミックス焼結体中に残存する気孔(典型的なサイズが直径0.5μm〜2.0μmで、HIP処理した場合球状の空隙となるもの)量が、光学顕微鏡観察で150μm×150μmの視野における存在量1個以下になるため好ましい。このときの気孔のガーネット母相に対する存在割合は1ppm以下となっている。
【0022】
xが0.05未満の場合、RでTbの一部を置換する効果が得られず実質TAGを作製する条件と変わらなくなり、そのため低散乱、低吸収の高品質なセラミック焼結体を安定製造することが困難となるため好ましくない。また、xが0.45以上の場合、波長1064nmでのベルデ定数が30rad/(T・m)未満となるため好ましくない。更にTbの相対濃度が過剰に薄まると、波長1064nmのレーザー光を45度回転させるのに必要な全長が25mmを超えて長くなり、製造が難しくなるため好ましくない。
【0023】
式(1)中、yの範囲は0<y<0.1であり、0<y<0.08が好ましく、0.002≦y≦0.07がより好ましく、0.003≦y≦0.06が更に好ましい。yがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。更に光学顕微鏡観察で150μm×150μmの視野におけるペロブスカイト型の異相(典型的なサイズが直径1μm〜1.5μmで、薄茶色に着色して見える粒状のもの)の存在量が1個以下になるため好ましい。このときのペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合は1ppm以下となっている。
【0024】
y=0の場合、ペロブスカイト型の異相が析出するリスクが高まるため好ましくない。また、yが0.1以上の場合、ペロブスカイト型異相の析出抑制効果は飽和して変わらない中、Tbの一部をRで置換することに加えて、更にScでもTbの一部を置換してしまい、結果的にTbの固溶濃度が不必要に低下してしまうため、ベルデ定数が小さくなり好ましくない。また、Scは原料代が高額なため、Scを不必要に過剰ドープすることは製造コスト上からも好ましくない。
【0025】
式(1)中、1−x−yの範囲は0.5<1−x−y<0.95であり、0.55≦1−x−y<0.95が好ましく、0.6≦1−x−y<0.95がより好ましい。1−x−yがこの範囲にあると大きなベルデ定数を確保できると共に波長1064nmにおいて高い透明性が得られる。
【0026】
(1)式中、zの範囲は0.004<z<0.2であり、0.004<z<0.16が好ましく、0.01≦z≦0.15がより好ましく、0.03≦z≦0.15が更に好ましい。zがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相がXRD分析で検出されない。更に光学顕微鏡観察で150μm×150μmの視野におけるペロブスカイト型の異相(典型的なサイズが直径1μm〜1.5μmで、薄茶色に着色して見える粒状のもの)の存在量が1個以下になるため好ましい。このときのペロブスカイト型の異相のガーネット母相に対する存在割合は1ppm以下となっている。
【0027】
zが0.004以下の場合、ペロブスカイト型の異相が析出するリスクが高まるため好ましくない。またzが0.2以上の場合、ペロブスカイト型異相の析出抑制効果は飽和して変わらない中、zの値の増加に連動してyの値、すなわちScによるTbの置換割合も高まってしまうため、結果的にTbの固溶濃度が不必要に低下してしまうため、ベルデ定数が小さくなり好ましくない。更にまたScは原料代が高額なため、Scを不必要に過剰ドープすることは製造コスト上からも好ましくない。
【0028】
本発明の焼結用複合酸化物粉末の製造方法は、上記(a)、(b)、(c)、(d)成分の共沈物の調製、共沈物のろ別・洗浄、加熱乾燥(脱水)・粉砕、焼成処理の手順により、上記式(1)で表されるガーネット型複合酸化物粉末を作製するものである。詳細は以下の通りである。
【0029】
本発明に係る焼結用複合酸化物粉末の製造方法では、上記(a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液及び(d)成分を含む水溶液を一緒に共沈用水溶液に添加し、この液を撹拌して、(a)、(b)、(c)及び(d)成分を共沈させた状態とすることが好ましい。ここで、一緒に共沈用水溶液に添加するとは、対象の複数の水溶液を同時に共沈用水溶液に添加することをいい、好ましくは別個に調製した対象の複数の水溶液を混合してその混合水溶液を共沈用水溶液に添加(滴下)することをいう(以下、この明細書において同じ。)。
図1に、その具体的手順を示す。ここでは、その他の希土類(R)がイットリウムである場合を例にとり説明する。
【0030】
(S11) (a)Tbイオン、(b)Yイオン、(c)Alイオン、(d)Scイオンを含む無機酸水溶液(A液)を用意する。
詳しくは、まず(a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液及び(d)成分を含む水溶液をそれぞれ用意する。該(a)、(b)、(c)及び(d)成分を含む水溶液は、(a)、(b)、(c)、(d)成分を含む(即ち、イオンとして含む)ものであれば特に限定されないが、それぞれ無機酸水溶液であることが好ましい。
【0031】
ここで、(a)成分用の原材料としては、好ましくは純度99.9質量%以上、より好ましくは純度99.99質量%以上、更に好ましくは純度99.999質量%以上の粉末状のものが好ましい。このとき、原材料は溶解して水溶液とできるものであれば特に限定されず、例えば酸化テルビウム粉末(Tb23)又はTb47粉末、あるいは酸性水溶液に溶解し錯イオンを形成せず、テルビウムイオンとなるのであれば、テルビウムのフッ化物又は窒化物等の他の化合物の粉末でもよい。不純物イオンが反応又は焼成時に影響を与えることがあるため、酸化テルビウム粉末がより好ましい。
【0032】
(b)成分用の原材料としては、好ましくは純度99.9質量%以上、より好ましくは純度99.99質量%以上、更に好ましくは純度99.999質量%以上の粉末状のものが好ましい。このとき、原材料は溶解して水溶液とできるものであれば特に限定されず、例えば酸化イットリウム粉末(Y23)、あるいは酸性水溶液に溶解し錯イオンを形成せず、Yイオンとなるのであれば、Yのフッ化物又は窒化物等の他の化合物の粉末でもよい。不純物イオンが反応又は焼成時に影響を与えることがあるため、酸化イットリウム粉末がより好ましい。
【0033】
(c)成分用の原材料としては、好ましくは純度99.9質量%以上、より好ましくは純度99.99質量%以上、更に好ましくは純度99.999質量%以上の粉末状のものが好ましい。このとき、原材料は溶解して水溶液とできるものであれば特に限定されず、例えば硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムエトキシドなどが挙げられ、水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0034】
(d)成分用の原材料としては、好ましくは純度99.9質量%以上、より好ましくは純度99.99質量%以上、更に好ましくは純度99.999質量%以上の粉末状のものが好ましい。このとき、酸化スカンジウム粉末が好ましい。あるいは、酸性水溶液に溶解し錯イオンを形成せず、Scイオンとなるのであれば、Scのフッ化物又は窒化物等の他の化合物の粉末でもよい。不純物イオンが反応又は焼成時に影響を与えることがあるため、酸化スカンジウム粉末がより好ましい。
【0035】
これらの原材料を用いて、それぞれを所定の濃度となるように無機酸水溶液に溶解する。
使用する無機酸水溶液は、上記4成分用の原材料と錯イオンを形成させることなく溶解し、(a)〜(d)成分のイオンを含むようにできるものであれば特に制限はなく、強酸を添加した水溶液が好ましい。また、水溶液に含まれるカウンターイオン(即ち、陰イオン)については特に限定されず、硝酸イオン、硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、リン酸イオン等があり、その水溶液としては例えば5Nの硝酸水溶液、硫酸水溶液、塩酸水溶液等が挙げられる。このとき、4成分用の原材料それぞれを全て溶解する酸性水溶液が好ましく、硝酸溶液がより好ましい。硝酸溶液を用いると、焼成後の無機塩の残量が少ない。水溶液の濃度はそれぞれ1.5M以上3.0M以下が好ましい。
【0036】
なお、(a)、(b)、(c)、(d)成分をそれぞれ含む水溶液を調製する際の温度は特に限定されないが、例えば水酸化アルミニウムを溶解する場合、200℃以上の温度では脱水し、溶けにくい酸化アルミニウムを形成してしまうため好ましくない。その物質にあった温度条件で水溶液を作製することが好ましい。
【0037】
上記のようにして得られた(a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液及び(d)成分を含む水溶液を上記の式(1)の組成(モル比率)となるように正確に秤量し、充分に撹拌して混合し、(a)Tbイオン、(b)Yイオン、(c)Alイオン、(d)Scイオンを含む無機酸水溶液(A液)を得る。この比率がそのまま共沈法で得られる原料粉末における質量比(質量部)となる。
【0038】
あるいは、(a)成分用の原材料、(b)成分用の原材料、(c)成分用の原材料及び(d)成分用の原材料を上記式(1)の組成(モル比率)になるようにそれぞれ秤量し、次いでこれら原材料を混合した後、この混合粉末を無機酸水溶液に溶解し、又は各原材料を順次溶解し、(a)Tbイオン、(b)Yイオン、(c)Alイオン、(d)Scイオンを含む無機酸水溶液(A液)を得るようにしてもよい。
なお、再現性の観点から上記(a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液及び(d)成分を含む水溶液を別個に調製することが好ましい。
【0039】
各水溶液の濃度は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)、吸光度測定法、重量法により求めることができるが、最も簡便に再現性よく測定可能なICP−MS法により求めることが好ましい(ここまで、S11)。
【0040】
(S12) 次に、得られたA液を共沈用水溶液(B液)に添加する。ここで、共沈用水溶液は、(a)、(b)、(c)、(d)4成分のイオンを含む無機酸水溶液を添加して4成分のイオンを全て共沈させ、水洗、ろ別によって共沈物から除去可能で最終的に透明化可能な粒子が合成できる塩基性水溶液であれば特に制限はなく、例えば炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)、アンモニア水(NH4OH)、シュウ酸((COOH)2)、炭酸アンモニウム((NH42CO3)、シュウ酸アンモニウム等の水溶液が挙げられる。このうち、炭酸塩水溶液が好ましく、炭酸水素アンモニウム水溶液がより好ましい。共沈用水溶液に、硫酸アンモニウムなどの析出助剤を添加してもよい。
【0041】
なお、Scイオンは炭酸存在下では反応性が悪く、他の(a)〜(c)成分と均一に共沈しない場合がある。そのため共沈用水溶液に炭酸が含まれる場合には、(d)Scイオンを含む水溶液は他の(a)〜(c)成分を含む水溶液と同時に滴下する以外にも、(d)成分以外の(a)〜(c)成分を含む水溶液を滴下して反応開始後しばらく撹拌し、炭酸が完全に抜けきってから(d)成分を含む水溶液を滴下してもよい。(d)成分の水溶液を滴下するまでの撹拌時間は炭酸を完全に抜くという観点から1時間以上であることが好ましい。
【0042】
A液を添加(滴下)した後の液体(B+A液)のpHは5.6以上7.0未満が好ましく、5.8以上6.6未満がより好ましい。上記液体のpHが5.6未満では一旦析出した沈殿物が再溶解してしまい、収率が悪くなるおそれがある。また、pHが7.0以上では各成分の析出したもの(共沈物前駆体)の分散性が異なるようになり、均一な共沈物が得られない可能性がある。
【0043】
ここで、A液を共沈用水溶液に滴下することが好ましく、撹拌しながら滴下することがより好ましい。
【0044】
(S13) A液を共沈用水溶液(B液)に添加後、B+A液を撹拌する。A液を添加すると、(a)、(b)、(c)、(d)成分の共沈物である白色沈殿が生じるが、(a)、(b)、(c)、(d)成分の析出が不均一とならず、共沈物の粒子が成長するように充分な撹拌を行う。
【0045】
ここで、A液を添加した共沈用水溶液(B+A液)を液温50℃以下で、好ましくは20℃以上50℃以下、より好ましくは25℃以上50℃以下に加熱した水浴で保温し、ローターで200rpm以上の回転速度で撹拌するとよい。液温が50℃超の場合、共沈物の粒子が大きく成長し、焼結性が悪く、後の焼結工程で透明化しづらい粉末ができてしまう。液温20℃未満では共沈物の粒子が成長しない場合がある。
【0046】
また、撹拌(回転)速度に関しては200rpm以上あれば十分で、特に限定されない。A液を全量添加した後も撹拌を継続し、その撹拌時間は12時間以上が好ましい。撹拌時間が12時間より短いと共沈物の粒子が十分に成長せず、反応性が高すぎる微細な粉ができてしまい、焼結時の気泡排出が困難となる場合がある。
【0047】
(S14) 指定時間だけ撹拌した後、得られた共沈物をろ別して回収するために、濾過洗浄を行う。濾過洗浄の方法としては吸引濾過、加圧濾過から選択され、生産性等を考慮してどちらか一方を選択すればよい。
【0048】
共沈物の洗浄は、電気伝導度1μS/cm以下の超純水を用い、ろ液の電気伝導度が好ましくは20μS/cm以下、より好ましくは5μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返す。ろ液の電気伝導度が高いと回収した共沈物にNa等の軽金属やアンモニウムなどのイオンが残存しており、Na等の軽金属は焼結体の色中心(格子欠陥)の原因となったり、アンモニウムなどのイオンはその後の焼成工程において凝集の強い粉末ができる原因となるおそれがある。なお、Naは(c)Alイオンを含む水溶液に含まれていることが多く、Naを多く含むAl原料を用いた場合に、この洗浄は重要な処理となる。
【0049】
(S15) ろ液の電気伝導度が下がりきったら、共沈物を回収し、60℃以上の恒温乾燥機に24時間以上入れて、乾燥させる。
【0050】
(S16) 得られた洗浄、乾燥後の共沈物について焼成処理を行う。詳しくは、共沈物を、イットリア又はアルミナに代表される耐火物酸化物容器に入れ、酸素含有雰囲気中で1000℃以上1300℃以下に加熱して焼成を行う。焼成温度1000℃未満では得られる焼成粉末の結晶構造がガーネット構造とならず、1300℃超では焼成粉末の一次粒子が大きく成長しすぎてしまい、また凝集状態も強くなってしまうため、透明セラミックス用粉末としては向かなくなる。
【0051】
焼成時間は1時間以上行えばよく、そのときの昇温速度は100℃/h以上500℃/h以下が好ましい。焼成の雰囲気は、大気、酸素の酸素含有雰囲気が好ましく、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気、水素雰囲気等は不適である。また、焼成装置は縦型マッフル炉、横型管状炉、ロータリーキルン等が例示され、目標の温度に到達及び酸素フローができれば特に限定されない。なお、粉砕した共沈物を収めた耐火物容器中に酸素が充分に供給されないと、焼成ムラを起こしてしまうため、耐火物容器に通気用の穴を設けるなどの、酸素が均一にいきわたるような工夫が必要である。
【0052】
以上のようにして、本発明の焼結用ガーネット型複合酸化物粉末が得られる。このとき、焼結用複合酸化物粉末の一次粒子径は70nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0053】
[透明セラミックスの製造方法]
本発明に係る透明セラミックスの製造方法は、上記本発明の焼結用複合酸化物粉末の製造方法により製造されたガーネット型複合酸化物粉末を用いて成形体を成形した後、該成形体を焼結し、次いで加圧焼結することを特徴とするものである。
【0054】
(原料粉末)
ここで、上記のようにして得られた焼結用ガーネット型複合酸化物粉末(セラミックス粉末)をボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー、ジェットミル、超音波照射等の各種分散方法によってスラリー化し一次粒子まで分散する。このスラリーの溶媒としては最終的に得られるセラミックスの高度の透明化が可能であれば特に制限されず、例えば炭素数1〜3の低級アルコール等のアルコール類、純水が挙げられる。
【0055】
本発明で用いる原料粉末には、上記のようにして得られたスラリーに、焼結助剤としてテトラエトキシシラン(TEOS)をSiO2換算で原料粉末全体(ガーネット型複合酸化物粉末+焼結助剤)において0ppm超1000ppm以下(0質量%超0.1質量%以下)添加し、又はSiO2粉末を原料粉末全体(ガーネット型複合酸化物粉末+焼結助剤)において0ppm超1000ppm以下(0質量%超0.1質量%以下)添加することが好ましい。添加量が1000ppm超では過剰に含まれるSiによる結晶欠陥により微量な光吸収が発生するおそれがある。なお、焼結助剤を添加するタイミングは上記ボールミル混合等のスラリー化のときが最も好ましいが、上述した(a)、(b)、(c)、(d)成分の共沈物の調製時に添加してもよい。このようにして得られるガーネット型複合酸化物粉末及び焼結助剤を含むスラリーを原料粉末スラリーという。
【0056】
更に、原料粉末スラリーにはその後のセラミック製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。ただし、これらの有機添加剤としては、不要な金属イオンが含有されない、高純度のタイプを選定することが好ましい。
【0057】
上記のようにして得られた原料粉末スラリーに残存する未解砕の粗大粒子を除去する目的で濾過処理を行ってもよい。未解砕の粗大粒子が残存した状態で後述の成形を行うと、その未解砕の粗大粒子が起因となる透明セラミックス光学品質の劣化が発生するおそれがある。濾過処理の方法は粗大粒子のみを除去する濾過が可能であれば特に限定されないが、濾材はコンタミレスの観点からナイロン製フィルターが好ましい。また、その孔径は50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。
【0058】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末スラリーを用いて所定形状に成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも95%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行うことが好ましい。なお熱間等方圧プレス(HIP)処理をそのまま施すと、常磁性ガーネット型透明セラミックスが還元されて若干の酸素欠損を生じてしまう。そのため微酸化HIP処理、ないしはHIP処理後に酸化雰囲気でのアニール処理を施すことにより酸素欠損を回復させることが好ましい。これにより、欠陥吸収のない透明なガーネット型酸化物セラミックスを得ることができる。
【0059】
(成形)
本発明では、上記原料粉末スラリーを用いて乾式成形法又は湿式成形法にて目的の形状に成形する。このとき、ファラデー回転子として使用できる直径かつ長さが得られ、成形体にクラック等が入らなければ、成形法に特に制限はされない。乾式成形法としては加圧プレス法が例示され、一軸プレス法が例示される。湿式成形法としては、加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形が例示される。このとき、乾式成形法の場合には上記原料粉末スラリーをスプレードライして顆粒状としたものを用いるとよい。また、湿式成形法の場合には上記原料粉末スラリーをそのまま、あるいは溶媒をある程度除去した状態のものを用いるとよい。
【0060】
本発明の製造方法においては、上記原料粉末スラリーを用いて乾式成形法又は湿式成形法にて成形した成形体を更に変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧する冷間静水圧加圧(CIP(Cold Isostatic Pressing))成形や温間静水圧加圧(WIP(Warm Isostatic Pressing))成形を行うことが好ましい。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置やWIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。
【0061】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、成形体に含まれる分散剤等の有機物を除去する目的で、成形体を大気下又は酸素雰囲気下で脱脂する。脱脂温度は400℃以上1000℃以下が好ましい。400℃未満では脱脂不十分により有機物が残存するおそれがあり、1000℃超では後の焼結工程に影響を及ぼし、透明化に至らない場合がある。
【0062】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されず、不活性ガス、酸素ガス、水素ガス、ヘリウムガス等の各種雰囲気、あるいはまた、減圧下(真空中)での焼結も可能である。ただし、最終的に酸素欠損の発生を防止することが好ましいため、より好ましい雰囲気としては、酸素ガス、減圧酸素ガス雰囲気が例示される。
【0063】
本発明の焼結工程における焼結温度は、1500〜1800℃が好ましく、1500〜1780℃がより好ましく、1550〜1750℃が更に好ましい。焼結温度がこの範囲にあると、異相析出を抑制しつつ緻密化が促進されるため好ましい。焼結温度が1500℃未満では焼結体の緻密化が足りず、1800℃超ではセラミックスの分解溶融温度を超える場合がある。
【0064】
本発明の焼結工程における焼結保持時間は数時間程度で十分だが、焼結体の相対密度は最低でも95%以上に緻密化させなければいけない。また10時間以上長く保持させて焼結体の相対密度を99%以上に緻密化させておくと、最終的な透明性が向上するため、更に好ましい。
【0065】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP)処理を行う工程を設けることができる。
【0066】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0067】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は好ましくは1000〜1800℃、より好ましくは1000〜1780℃、更に好ましくは1100〜1730℃の範囲で設定される。熱処理温度が1780℃超では酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。また、熱処理温度が1000℃未満では焼結体の透明性改善効果がほとんど得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、あまり長時間保持すると酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。典型的には1〜3時間の範囲で好ましく設定される。
【0068】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、白金(Pt)が好適に利用でき、処理容器としてさらに酸化イットリウム、酸化ガドリニウムも好適に利用できる。特に処理温度が1500℃以下である場合、ヒーター材、断熱材、処理容器として白金(Pt)が使用でき、かつ加圧ガス媒体をAr−O2とすることができるため、HIP処理中の酸素欠損の発生を防止できるため好ましい。処理温度が1500℃を超える場合にはヒーター材、断熱材としてグラファイトが好ましいが、この場合は処理容器としてグラファイト、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のいずれかを選定し、さらにその内側に二重容器として酸化イットリウム、酸化ガドリニウムのいずれかを選定したうえで、容器内に酸素放出材を充填しておくと、HIP処理中の酸素欠損発生量を極力少なく抑えられるため好ましい。
【0069】
(アニール)
本発明の製造方法においては、HIP処理を終えた後に、得られた透明セラミックス焼結体中に酸素欠損が生じてしまい、かすかに薄灰色の外観を呈する場合がある。その場合には、前記HIP処理温度以下、典型的には1000〜1500℃にて、酸素雰囲気下で酸素アニール処理(酸素欠損回復処理)を施すことが好ましい。アニール温度が1000℃未満ではアニールの効果が薄く、酸素欠陥が埋まらない場合があり、1500℃超ではHIP処理で潰した気泡が再発生し、良好な光学品質とならないおそれがある。また、この場合の保持時間は特に制限されないが、酸素欠損が回復するのに十分な時間以上で、かつ無駄に長時間処理して電気代を消耗しない時間内で選択されることが好ましい。該酸素アニール処理により、たとえHIP処理工程でかすかに薄灰色の外観を呈してしまった透明セラミックス焼結体であっても、すべて無色透明の欠陥吸収のない常磁性ガーネット型透明セラミックス体とすることができる。
【0070】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た常磁性ガーネット型透明セラミックスについて所定の形状となるように加工され、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/2以下が好ましく、λ/8以下が特に好ましい。所定の形状とは、アイソレータとして機能する(つまり、入射光が22.5°回転する)長さを有し、且つレーザー光の直径より十分大きいことが条件となる。例えばレーザー光の直径が3mmの場合、3mmより十分大きい5mm程度の直径の透明体でなければレーザー光が透明体の淵に当たった結果、散乱してしまい、強度の強いレーザーが漏れ出してしまい危険である。
なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。
【0071】
以上のようにして得られたガーネット型複合酸化物粉末はすでに粉末の段階でガーネット化が完了しているため、従来のTb−Alの反応由来の硬い粉の問題を解決することができる。即ち、硬い粉が存在しないため、セラミックス焼結体内部に粗大空洞が発生せず、高い透明性が得られセラミックス全体の消光比が向上し、磁気光学特性に優れた常磁性ガーネット型透明セラミックスが得られる。
【0072】
[磁気光学デバイス]
更に、本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスは磁気光学材料として利用することを想定しているため、該常磁性ガーネット型透明セラミックスにその光学軸と平行に磁場を印加したうえで、偏光子、検光子とを互いにその光軸が45度ずれるようにセットして磁気光学デバイスを構成利用することが好ましい。即ち、本発明の磁気光学材料は、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9〜1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
【0073】
図2は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。図2において、光アイソレータ100は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
【0074】
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
以下のようにして焼結用ガーネット型複合酸化物粉末を作製した。
(原料粉末の合成)
信越化学工業(株)製の高純度酸化テルビウム粉末(Tb47、純度99.999%)、高純度酸化イットリウム粉末(純度99.999%)及び酸化スカンジウム粉末(純度99.99%)、並びに日本軽金属(株)製高純度水酸化アルミニウム粉末(純度99.999%)を用意し、それぞれ別々に別個の2N硝酸水溶液に加熱溶解して、(a)Tbイオン、(b)Yイオン、(c)Alイオン、(d)Scイオンの濃度がそれぞれおよそ2Mに調整された4つの水溶液((a)成分を含む水溶液、(b)成分を含む水溶液、(c)成分を含む水溶液、(d)成分を含む水溶液)を得た。
次いで、それらの水溶液の正確な濃度をICP−MS分析により求め、表1に示す5つの目的の組成となるようにそれらの水溶液を秤量し、合計200mLとなるように混合した(混合水溶液の調製)。
次いで、混合水溶液を2Mの炭酸水素アンモニウム及び0.016Mの硫酸アンモニウムを含む共沈用水溶液に加熱撹拌しながら滴下した。このときの水浴の液温30℃であり、撹拌速度は300rpmである。また、共沈用水溶液の量は、上記混合水溶液を滴下後のpHが5.8となるように調整した。混合水溶液滴下完了後、24時間撹拌した。このとき、撹拌速度は300rpmとした。
得られた沈殿物を撹拌後濾過回収(ろ別)し、超純水20Lで洗浄した。このとき、ろ液の電気伝導度が5μS/cm以下となるまで繰り返した。次いで、回収した沈殿物を80℃の乾燥機で2日間乾燥した後、酸素雰囲気下1200℃、3時間の条件で焼成し、共沈原料粉末を得た。
【0077】
(XRD分析)
得られた焼成粉末がガーネット構造となっているかを確認するため、粉末X線回折分析(XRD)を行った。粉末X線回折装置((株)リガク製、Smart Lab)を用い、2θ=10°〜90°まで測定した。得られたX線回折データと過去のリファレンスデータと比較を行い、ガーネット相あるいはペロブスカイト相が存在するかを確認した。なお、ガーネット相のみの回折ピークが表れた場合は、ペロブスカイト相の存在は1%未満と考えられ、ガーネット単相とあらわすことにする。
【0078】
(一次粒子径測定)
得られた焼成粉末の一次粒子径を測定するために、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いる。ステージ上にカーボンテープを貼り、その上に粉末を振りかけ、チャージアップを避けるために金蒸着を行う。数種類のFE−SEM写真から100個以上の一次粒子を抽出し、粒の大きさをすべてカウントし平均化したものを一次粒子径とした。
以上の結果を表1にまとめて示す。
得られた粉末は、すべてガーネット構造をしており、一次粒子径も同じであった。なお、組成はTbとYの比率のみを変化させており、Al及びScの量はすべて同じである。
【0079】
【表1】
【0080】
(透明セラミックスの製造)
得られた焼成粉末(白色粉末)を直径2mmφのナイロン製ボールを使用し、高純度エタノールを溶媒としてボールミル混合を行った。その際、分散剤としてポリエチレングリコール、バインダーとしてポリビニルアルコール系バインダーを使用した。また、焼結助剤としてテトラエトキシシラン(TEOS)を原料粉末(焼成粉末+焼結助剤)に対してSiO2換算で1000ppm添加した。ボールミル混合後、得られたスラリーを孔径10μmのナイロンフィルターを用いて濾過して原料粉末スラリーを得た。次いでこの原料粉末スラリーをスプレードライして顆粒化し、この顆粒状の原料粉末を用いて一軸プレス成形とそれに続くCIP成形を行い、相対密度約53%の成形体を得た。
次に、成形体を大気中、800℃で加熱して脱脂処理を施した。続いて得られた脱脂済み成形体を酸素雰囲気炉に仕込み、1720℃、10時間の条件で焼結した。次いで、タングステン容器に焼結体を入れてAr加圧下198MPa、1600℃、2時間の条件でHIP処理を施した。得られたサンプルは多少黒ずんでいたので、酸素雰囲気下1300℃でアニールを施した。
このようにして得られた透明焼結体を直径5mmφ×長さ25mmLとなるように研削・研磨した。その両端面の面精度(平坦度)がλ/10(λ=633nm)となるように光学研磨を施した。
【0081】
(評価方法)
以上のようにして得られた各サンプルについて以下のようにして光学特性(全光線透過率、消光比、ベルデ定数)及び熱レンズ対応可能出力を評価した。
【0082】
(全光線透過率)
光学研磨された透明焼結体の長さ25mmにおける全光線透過率をJIS K7105(ISO 13468−2:1999)を参考に測定した。
すなわち、積分球に光を通過する入口開口と出口開口を設け、入口開口部に試料を設置する。出口開口部に反射板を取り付けることにより、試料から出射された光をすべて積分球で検知することが可能となり、この検知した出射光の強度と試料に入射する光強度の比から透過率を測定した。測定は分光光度計(日本分光(株)製、V−670)を用い、付属されている積分球を使用して測定した。その際、照射する光のスポット径は3mmとなるようにピンホールを設けた。光源はハロゲンランプ、検出器は光電子増倍管(波長750nm未満)及びPbS光電セル(波長750nm以上)を用いて、ダブルビーム方式により測定を行った。全光線透過率はそれぞれ波長1064nmの値を用いた。全光線透過率はそれぞれ5検体ずつ測定し、有効数字2桁、単位はパーセントで評価した。
【0083】
(消光比)
消光比の測定は、JIS C5877−2:2012を参考に、レーザー光源(NKT Photonics社製)とパワーメータ(Gentec社製)並びにGeフォトディテクタ(Gentec社製)及び偏光子(シグマ光機(株)製)を用いて組んだ光学系で行った。使用したレーザー光は波長1064nm、ビーム径1〜3mmφとした。測定時の室温は24℃であった。
まず、サンプルのない状態で2つの偏光子を回転させ、光のパワーが最大になる位置に偏光子を固定し光のパワーP//を測定した。その後、2つの偏光子の間にサンプルを挿入し、ディテクタ側の偏光子(検光子)を90°回転させ、直交ニコルとしたときの光のパワーPを測定した。消光比(dB)は以下の式に基づき求めた。
消光比(dB)=10log10(P///P
【0084】
続いて、上記光学研磨したサンプルについて中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜(ARコート)をコートした。得られた各サンプルについてベルデ定数、熱レンズ対応可能出力を以下のように測定した。
【0085】
(ベルデ定数)
図2に示すように、得られた各セラミックスサンプル(ファラデー回転子110に相当する)を外径32mm、内径6mm、長さ40mmのネオジム−鉄−ボロン磁石(磁石140)の中心に挿入し、その両端に偏光子(偏光子120、検光子130)を挿入した後、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、ファラデー回転角θを決定した。ファラデー回転角θは出射側の偏光子を回転させた時に、最大の透過率を示す角度とした。
ベルデ定数Vは、以下の式に基づいて求めた。なお、サンプルに印加される磁束密度(B)は、上記測定系の形状および寸法、残留磁束密度(Br)及び保磁力(Hc)からシミュレーションにより算出した値を用いた。
θ=V×B×L
(式中、θはファラデー回転角(Rad)、Vはベルデ定数(Rad/(T・m))、Bは磁束密度(T)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、0.025m)である。)
【0086】
(光学特性総合評価)
総合評価として、下記3つの目標特性をすべて満足するなら◎、2つ満足するなら△、1つ以下なら×とした。目標となる特性は、全光線透過率は83.5%以上、消光比は40dB以上、ベルデ定数は30rad/T・m以上とする。
なお、総合評価が×の場合には次の熱レンズ対応可能出力の測定は行わなかった。
【0087】
(熱レンズ対応可能出力(熱レンズ効果測定及び対応可能レーザー強度))
IPGフォトニックス社製CWレーザー(波長1070nm、出力上限100W)でレーザー照射し、ビーム伝搬アナライザ(コヒーレント社製mode master)を用いてそのレーザーの形状を評価した。即ち、サンプルがない状態でのレーザー焦点位置をf0とし、そこにサンプルを置いた時のレーザー焦点位置fとすると、|f0―f|<0.1×f0となるレーザー強度を対応可能なレーザー強度とした。つまり、サンプルの有無により、元々の焦点位置からのずれ(最大位置変化量)が10%未満のとき、そのレーザー出力において対応可能とした。その出力を100Wまで測定し、最大可能出力を決定した。
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0088】
【表2】
【0089】
以上の結果、実施例1−1〜1−3より、Tbがある一定以上含まれる場合(式(1)におけるx、y、1−x−y、zのすべて条件を満足する場合)、上記3つの特性をすべて満足することができ、熱レンズ対応可能出力も100Wであった(即ち、100Wを超える見込みがある)。一方、比較例1−1のようにYを配合しない場合(式(1)においてx=0)、光吸収量が増大することから全光線透過率が下がり、結果として熱レンズ対応可能出力も80Wであった。また、比較例1−2のようにTbの量が少なすぎると(式(1)において1−x−y=0.498)、全光線透過率及び消光比は目標特性を満足するものの、ベルデ定数が小さくなり、たとえ熱レンズ対応可能出力が100Wであったとしても、アイソレータとして大型化するという観点から望ましくない。
【0090】
[実施例2]
実施例1−1において、表3に示すように(a)、(b)、(c)、(d)成分の共沈物の調製における撹拌処理の液温及び撹拌時間、焼成温度を変化させ、それ以外は実施例1−1と同じ条件で、焼結用ガーネット型複合酸化物粉末を作製し、更にこのガーネット型複合酸化物粉末を用いて透明セラミックスを製造した。
以上の結果を表3にまとめて示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3より、共沈物の調製における撹拌処理の液温、撹拌時間を変化させても焼成温度1000℃以上であれば、一次粒子径は変わるがガーネット構造を有する。ただし、比較例2−2のように、焼成温度900℃ではガーネット構造を示さず、アモルファス状となった。よって、ガーネット型複合酸化物粉末を得るためには1000℃以上の焼成温度が必要とわかる。
本実施例の透明セラミックスサンプルについて実施例1と同様の評価を行った結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
以上の結果、共沈物調製時の撹拌処理の液温50℃以下、焼成温度1000〜1300℃の場合に良好な結果が得られた。しかし、共沈物調製時の撹拌処理の液温が60℃の場合(比較例2−1)や焼成温度が1400℃の場合(比較例2−3)、一次粒子径が200nmを超える大きな一次粒子となり、焼結性が悪く、気泡を抜くことが難しくなるため、全光線透過理及び消光比が悪くなってしまった。また、焼成温度が900℃の場合(比較例2−2)、逆に一次粒子径が小さくなり、焼結性がよくなりすぎて焼結後の結晶粒界に気泡が取り残されてしまい、結果として透明性が悪くなった。
【0095】
[実施例3]
実施例1−1において、混合水溶液の調製時に主として(d)Scを含む水溶液の量を変化させて最終的な複合酸化物の組成を変化させ、それ以外は実施例1−1と同じ条件で、焼結用ガーネット型複合酸化物粉末を作製し、更にこのガーネット型複合酸化物粉末を用いて透明セラミックスを製造した。
以上の結果を表5にまとめて示す。
【0096】
【表5】
【0097】
以上の結果、実施例3−1〜3−4より、式(1)におけるx、y、1−x−y、zのすべて条件を満足する場合、すべてガーネット構造を示した。一方、比較例3−1、3−2より、式(1)においてy=z=0の場合、又はz<0.004の場合、ペロブスカイト相が析出した。
本実施例の透明セラミックスサンプルについて実施例1と同様の評価を行った結果を表6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
以上の結果、複合酸化物粉末がガーネット構造単一であった実施例3−1〜3−4では、良好な光学特性が得られ、熱レンズ対応可能出力も100Wであった。一方、結晶構造としてガーネット構造にペロブスカイト相の入った複合酸化物粉末を用いた比較例3−1、3−2では、ペロブスカイト相の発生により光散乱が起き、全光線透過率及び消光比が満足する結果にならなかった。
【0100】
[実施例4]
実施例1−1において原料粉末スラリーを調製する方法を以下のように変更し、それ以降は実施例1−1と同じ条件で、焼結用ガーネット型複合酸化物粉末を作製し、更にこのガーネット型複合酸化物粉末を用いて透明セラミックスを製造した。
【0101】
(比較例4−1)
信越化学工業(株)製の高純度酸化テルビウム粉末(Tb47、純度99.999%)、高純度酸化イットリウム粉末(純度99.999%)及び酸化スカンジウム粉末(純度99.99%)、並びに大明化学工業(株)製高純度酸化アルミニウム粉末(純度99.999%)を表7に示す組成(つまり、実施例1−1と同じ組成)となるように秤量し、全量50gとした。その混合粉末をエタノール中で、直径2mmφのナイロン製ボールを使用し、ボールミル粉砕を行って分散させた。それ以降は実施例1−1と同じ条件で透明セラミックスを製造した。即ち、上記ボールミル粉砕の際に、分散剤としてポリエチレングリコール、バインダーとしてポリビニルアルコール系バインダーを使用した。また、焼結助剤としてテトラエトキシシラン(TEOS)を原料粉末(焼成粉末+焼結助剤)に対してSiO2換算で1000ppm添加した。ボールミル混合後、得られたスラリーを孔径10μmのナイロンフィルターを用いて濾過して原料粉末スラリーを得た。これをスプレードライにより顆粒化した。この段階での原料粉末の収率は90%であった。
【0102】
(比較例4−2、4−3)
信越化学工業(株)製の高純度酸化テルビウム粉末(Tb47、純度99.999%)、高純度酸化イットリウム粉末(純度99.999%)及び酸化スカンジウム粉末(純度99.99%)、並びに大明化学工業(株)製高純度酸化アルミニウム粉末(純度99.999%)を表7に示す組成(つまり、実施例1−1と同じ組成)となるように秤量し、それぞれ全量50gとした。その混合粉末をエタノール中で、直径2mmφのナイロン製ボールを使用し、ボールミル粉砕を行って分散させた。その際、分散剤としてポリエチレングリコールを添加し、焼結助剤としてTEOSを原料粉末(焼成粉末+焼結助剤)に対してSiO2換算で1000ppm添加した。得られたスラリーについてロータリーエバポレーターにより溶媒のみ揮発させ粉末を回収した。次に、回収した粉末をメノウ乳鉢で乾式粉砕した後、酸素雰囲気下1100℃で仮焼した。得られた仮焼粉末を再度直径2mmφのナイロン製ボールでボールミル粉砕によりスラリー化し、その後バインダーとしてポリビニルアルコール系バインダーを添加し再混合した。
次いで、得られたスラリーをそのまま原料粉末スラリーとしてスプレードライして顆粒化したものを比較例4−2とした。この段階での原料粉末の収率は92%であった。また、得られたスラリーを孔径10μmのナイロンフィルターを用いて濾過して原料粉末スラリーとし、これをスプレードライして顆粒化したものを比較例4−3とした。この段階での原料粉末の収率は52%であった。
以上の結果を表7にまとめて示す。なお、実施例1−1の結果も原料粉末の収率の測定結果と合わせて示す。
【0103】
【表7】
【0104】
それぞれの顆粒化した原料粉末を用いて、実施例1−1と同じ条件で一軸プレス成形、CIP成形、脱脂、焼結、HIP、アニール、研削・研磨、光学研磨の処理を順次行ってセラミックスサンプルを得た。
これらのサンプルについて実施例1と同様の評価を行った結果を表8に示す。また、実施例1−1の結果も示す。
【0105】
【表8】
【0106】
以上の結果、比較例4−1〜4−3より、本発明とは異なる手法(即ち、セラミックス粉末調製を粉末混合−ボールミル粉砕で行うこと)で作製した透明セラミックスはいずれも、何らかの問題を生じていた。
即ち、比較例4−1のように仮焼(焼成)処理を行わずに、粉末混合−ボールミル粉砕処理のみで調製された原料粉末を用いた場合、成形した時に成形体に横割れ(成形割れ)が頻発した。これは例えば、このような原料粉末を用いて形状が高さ(厚さ)2mm程度の薄い板状のものを成形する場合には成形割れの問題が発生しないが、本実施例のように成形の段階で高さ40mmが必要な厚肉のものを成形する場合には、一軸プレス成形の段階で成形体の中心までプレス圧力が伝わらず、成形体の形状を維持できずに割れてしまったと考えられる。なお、一軸プレス成形以外の成形方法として、湿式の鋳込み成形も検討したが、焼成していない原料粉末では粒子が細かすぎて、鋳込み成形後の乾燥時に割れてしまった。
一方、比較例4−2、4−3では成形割れは発生しなかったが、仮焼時にその後で行うスラリー化(ボールミル粉砕)で粉砕できないほどの粗大(直径100μm級)凝集粉が発生した。比較例4−2のように、原料粉末にこの粗大凝集粉を残したまま成形すると、粗大凝集粉が成形時の加圧力で潰れきらずに残存し、成形体中に粗大な空洞が形成され、最終的に得られるセラミックスにおいて良好な光学特性が得られなかった。一方、比較例4−3のように濾過により粗大凝集粉を除去するとセラミックスの光学特性は改善されたが、原料粉末の収率が50%程度となってしまい、生産という観点から好ましくない結果となった。
一方、実施例1−1のように本発明による共沈−焼成方式で合成したガーネット型複合酸化物からなるセラミックス粉末は、粗大凝集粉が形成されず、たとえ濾過を行っても原料粉末の収率は90%を超え、かつ良好な光学品質を有する透明セラミックスが得られた。
【0107】
なお、これまで本発明を上述した実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0108】
100 光アイソレータ
110 ファラデー回転子
120 偏光子
130 検光子
140 磁石
図1
図2