(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上であるパラジウム触媒を担体に担持させたパラジウム触媒担持担体の存在下、気相で1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを水素と反応させて1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることを特徴とする1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1224ydの製造方法は、パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上であるパラジウム触媒を担体に担持させたパラジウム触媒担持担体の存在下、気相で1214yaを水素(以下、H
2とも記す。)と反応させることを特徴とする。
本発明の1224ydの製造方法に係る1214yaと水素の反応は下式(1)で示される。
【0014】
本発明の製造方法で得られる1224ydは、Z体およびE体の混合物であってもよく、Z体のみであってもよく、E体のみでもよい。1224ydは、燃焼性を抑えるハロゲンの割合が高いうえに、大気中のOHラジカルによって分解され易い炭素−炭素二重結合を分子内に有していることから、燃焼性が低く、オゾン層への影響が少なく、かつGWPが小さい。したがって、洗浄剤、冷媒、発泡剤、溶剤、およびエアゾール用途として有用性が高い。
【0015】
<1214ya>
本発明の1224ydの製造方法は1214yaを原料とする。1214yaは、公知の方法により製造できる。1214yaの入手方法は特に限定されず、例えば、式(2)に示されるとおり、HCFC−225caを相間移動触媒の存在下にアルカリ水溶液と接触させて脱フッ化水素反応させる方法により製造可能である。
【0017】
なお、式(2)の反応に用いるHCFC−225caは、HCFC−225caとその異性体を含むジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)異性体混合物の状態で使用できる。HCFC−225異性体混合物を用いる場合、相間移動触媒によりHCFC−225異性体混合物中のHCFC−225caのみが選択的に脱フッ化水素される。反応後、得られた1214yaは蒸留等の公知の方法により分離回収できる。相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)が好ましい。
【0018】
HCFC−225caを含むHCFC−225異性体混合物は、例えば、テトラフルオロエチレンとジクロロフルオロメタンを、塩化アルミニウム等の触媒の存在下で反応させることにより製造できる。該反応により得られるHCFC−225異性体混合物には、HCFC−225caとHCFC−225cbが主成分として含まれ、他に2,2−ジクロロ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHF
2CCl
2CF
3、HCFC−225aa)、2,3−ジクロロ−1,1,2,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHF
2CClFCClF
2、HCFC−225bb)等が少量含まれる。
【0019】
HCFC−225caを含むHCFC−225異性体混合物は、市販品を用いてもよい。市販品としては、アサヒクリンAK225(旭硝子社製、商品名、HCFC−225caの48モル%と、HCFC−225cbの52モル%の混合物)等が挙げられる。
【0020】
<パラジウム触媒担持担体>
本発明の製造方法においては、上記の方法等で入手した1214yaと水素を、パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上であるパラジウム触媒を担体に担持させたパラジウム触媒担持担体の存在下、気相で反応させる。本明細書において、パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上であるパラジウム触媒を担体に担持させたパラジウム触媒担持担体を「パラジウム触媒担持担体(X)」ともいう。パラジウム触媒を「Pd触媒」とも記載する。
【0021】
本発明は、上記式(1)の反応をパラジウム触媒担持担体(X)の存在下で行うことで、過還元体であるHFC−263fbやHFO−1243zf等の副生を低減した、選択率に優れた効率的な1224ydの製造を可能とするものである。
【0022】
本発明において、パラジウム触媒担持担体(X)におけるパラジウム触媒は、パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上である触媒である。上記パラジウムを含む金属を以下、金属(M)ともいう。金属(M)は、パラジウムのみからなってもよく、パラジウム以外の金属(以下、「その他の金属」ともいう。)を含んでもよい。金属(M)はパラジウムを主体とする、具体的には金属(M)におけるパラジウム100質量部に対するその他の金属の割合が50質量部以下であることが、副生物を低減させる観点から好ましい。パラジウム100質量部に対するその他の金属の割合は、副生物を低減させる観点から30質量部以下が好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。金属(M)はパラジウム以外の金属を含有しない、すなわちパラジウム単体であることが高い触媒活性が得られる点で特に好ましい。
【0023】
その他の金属としては、鉄、ルテニウム、オスミウム等の第8族元素;コバルト、ロジウム、イリジウム等の第9族元素;ニッケル、白金等の第10族元素;金、銀、銅等の第11族元素;レニウム、亜鉛、カドミウム、錫、鉛、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。これらその他の金属は、1種であっても、2種以上であってもよい。金属(M)は、パラジウムとその他の金属との合金、すなわち、パラジウム合金であってもよく、パラジウムとその他の金属との混合物であってもよい。パラジウム合金としては、パラジウム/白金合金やパラジウム/ロジウム合金などが挙げられる。パラジウムに加えてその他の金属を含有する金属(M)を用いた場合、パラジウム単体からなる金属(M)を用いた場合に比べて触媒耐久性が高くなる。
【0024】
パラジウム触媒担持担体(X)におけるパラジウム触媒は、パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上である。パラジウム触媒のCl/Pdは、1224ydの選択率をより高める観点から2.0〜10.0が好ましく、2.0〜5.0がより好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、パラジウム触媒担持担体(X)におけるパラジウム触媒のCl/Pdは、担体の種類と、担体を得るための塩化水素処理に基づいて、以下の方法で算出される。該算出は、二酸化ケイ素表面に0.5質量%のパラジウムが担持されたパラジウム担持担体(Y
0)を所定量の塩化水素で処理してパラジウムと塩素を有するパラジウム触媒が担持されたパラジウム触媒担持担体(Y)を標準として行う。
【0026】
[Cl/Pdの算出方法]
(i)二酸化ケイ素表面に0.5質量%パラジウムが担持されたパラジウム担持担体(Y
0)および、二酸化ケイ素を準備する。
(ii)パラジウム担持担体(Y
0)70gを秤量し、SUS314製の内径21.4cmのU字管に充填し、塩化水素ガスを45℃、ガス流量300mL/分の条件で120分間流す。次いで、U字管に窒素ガスを45℃、ガス流量300mL/分の条件で30分間流し、減圧乾燥を行う。U字管内から上述の処理により得られたパラジウムと塩素を有するパラジウム触媒が担持されたパラジウム触媒担持担体(Y)を回収し、その表面における塩素原子の含有率(atom%;式(3)中の「a」である。)、およびパラジウム原子の含有率(atom%;式(3)中の「e」である。)をX線光電子分光(XPS)ワイドスペクトル測定により求める。
(iii)二酸化ケイ素70gを秤量し、上記(ii)と同様の処理を行った後、その表面における塩素原子の含有率(atom%;式(3)中の「b」である。)をX線光電子分光(XPS)ワイドスペクトル測定により求める。
【0027】
上記(ii)および(iii)で測定された値から以下の式(3)によりパラジウム触媒担持担体(Y)のCl/Pd(式(3)中、[Cl/Pd]
(y)で示す。)を得る。
[Cl/Pd]
(y) = (a−b)/e 式(3)
a:XPSワイドスペクトルから得たパラジウム触媒担持担体(Y)表面のCl含有率(atom%)
b:XPSワイドスペクトルから得た二酸化ケイ素表面のCl含有率(atom%)
e:XPSワイドスペクトルから得たパラジウム触媒担持担体(Y)表面のPd含有率(atom%)
【0028】
パラジウム触媒担持担体(X)のCl/Pd(式(4)中、[Cl/Pd]
(x)で示す。)は、上記[Cl/Pd]
(y)に、パラジウム触媒担持担体(X)に用いた担体の種類により与えられるパラジウム担持量補正係数およびパラジウム触媒担持担体(X)作製時の塩化水素処理量に基づく補正係数を乗じた以下の式(4)で算出される。
[Cl/Pd]
(x) = [Cl/Pd]
(y)×c×d 式(4)
【0029】
c:塩化水素処理量補正係数
cは、パラジウム触媒担持担体(Y)を製造する際の単位質量当たりの塩化水素処理量(300mL/分、120分間)を基準として、パラジウム触媒担持担体(X)を製造した際の単位質量当たりの塩化水素処理量を上記基準で除した値である。
【0030】
d:パラジウム担持量補正係数
dはパラジウム触媒担持担体(Y)とパラジウム触媒担持担体(X)において担体の違いにより与えられる係数である。例えば、パラジウム触媒担持担体(X)の担体がヤシ殻活性炭である場合、パラジウム触媒担持担体(Y)の担体である二酸化ケイ素に対してヤシ殻活性炭はパラジウムを質量で1.4倍担持できることから、補正係数dは1.4となる。
【0031】
なお、パラジウム触媒担持担体(X)において、担体に担持させる金属(M)がパラジウムとその他の金属からなる場合、上記、dは金属(M)に対するパラジウムの含有割合を乗じた数値として式(4)に用いられる。
【0032】
本発明の製造方法において、上記パラジウム触媒は、担体に担持されたパラジウム触媒担持担体(X)として用いられる。担体としては、活性炭や、アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニア等の金属酸化物等が挙げられる。これらのうちでも触媒活性、耐久性、反応選択性の観点から活性炭が好ましい。
【0033】
活性炭としては、木材、木炭、果実殻、ヤシ殻、泥炭、亜炭、石炭等を原料として調製したものが挙げられ、鉱物質原料よりも植物原料から得られたものが好ましく、ヤシ殻活性炭が特に好ましい。活性炭の形状としては、長さ2〜5mm程度の成形炭、4〜50メッシュ程度の破砕炭、粒状炭等が挙げられる。なかでも、4〜20メッシュの破砕炭、または成形炭が好ましい。
【0034】
パラジウム触媒担持担体(X)におけるパラジウム触媒の担持量は、金属(M)の量として、担体に対して、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜1質量%がより好ましい。上記パラジウム触媒の担持量が下限値以上であれば、1214yaと水素の反応率が向上する。上記パラジウム触媒の担持量が上限値以下であれば、反応熱による触媒層(後述する)の過剰な温度上昇を抑制しやすく、副生物の生成を低減しやすい。
【0035】
パラジウム触媒担持担体(X)は、具体的には、金属(M)を担持させた金属(M)担持担体を、得られるパラジウム触媒担持担体(X)におけるCl/Pdが上記所定の範囲となるように塩化水素ガスで処理することで調製できる。金属(M)を担体に担持させる方法としては、一般に金属触媒を担体に担持させる方法が特に制限なく使用可能である。例えば、パラジウム単体を金属(M)とし担体を活性炭とする場合、塩化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、塩化テトラアミンパラジウム(II)等のパラジウム塩の水溶液を活性炭に含浸させ、乾燥することで活性炭の表面にパラジウム塩を析出させた後、パラジウム塩中のパラジウムイオンを水素ガスにより還元することでパラジウム担持活性炭が得られる。
【0036】
金属(M)担持担体からパラジウム触媒担持担体(X)を得るための塩化水素ガス処理は、例えば加熱下で行うことができる。具体的には、1224ydの製造時に使用するのと同様の反応器に金属(M)担持担体を充填し、該反応器を油浴等で温度調整しながら塩化水素ガスを反応器に供給することでパラジウム触媒担持担体(X)を調製できる。加熱温度は、油浴等の温度として10〜80℃が好ましい。この場合の処理時間は、反応器における金属(M)担持担体の充填量、塩化水素ガスの流量、油浴の温度等によるが、概ね1〜20時間とすることでパラジウム触媒におけるCl/Pdが上記範囲に調整されたパラジウム触媒担持担体(X)が得られる。
【0037】
このようにして反応器を用いてパラジウム触媒担持担体(X)を作製した場合には、パラジウム触媒担持担体(X)が充填された反応器をそのまま以下の1224ydの製造に用いることが可能である。
【0038】
<1224ydの製造>
本発明の製造方法において、パラジウム触媒担持担体(X)の存在下、気相で1214yaを水素と反応させる方法として、具体的には、パラジウム触媒担持担体(X)を充填した触媒層を形成し、該触媒層に1214yaと水素をガス状で導入する方法が挙げられる。
【0039】
本発明において触媒層は、通常、パラジウム触媒担持担体(X)を反応器に充填することによって形成される。触媒層におけるパラジウム触媒担持担体(X)の充填密度は、0.3〜1g/cm
3が好ましく、0.4〜0.8g/cm
3がより好ましい。パラジウム触媒担持担体(X)の充填密度が下限値以上であれば、単位容積あたりのパラジウム触媒担持担体(X)の充填量が多く、反応させるガス量を多くすることができるため生産性が向上する。パラジウム触媒担持担体(X)の充填密度が上限値以下であれば、反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制しやすく、副生物の生成を低減しやすい。パラジウム触媒担持担体(X)の充填部分、すなわち触媒層は、反応器内に1つあってもよく、2つ以上あってもよい。
【0040】
このような触媒層を用いて本発明の製造方法を行うには、上記触媒層の一方の側からガス状の1214yaと水素を導入する。該導入された1214yaと水素のガスは触媒層を通過しながら気相で反応し1224ydを生成する。そして、触媒層の1214yaと水素が導入された側とは反対側から1224ydを含む生成ガスが排出される。以下、触媒層を用いた場合を例に本発明の製造方法を説明する。触媒層の1214yaと水素が導入される側を「ガス導入部」、生成ガスが排出される側を「ガス排出部」という。
【0041】
触媒層に導入する1214yaと水素の割合は、過還元体であるHFC−263fbやHFO−1243zf等の副生を低減する点から、1214yaのモル数と水素のモル数との比(H
2/1214ya)で表わして、その値を1.4以下とすることが好ましい。1214yaと水素のモル比(H
2/1214ya)は、小さいほどHFC−263fb、HFO−1243zf等の副生を低減しやすく、1.2以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましい。また、モル比(H
2/1214ya)は、1224ydの収率の点から、0.2以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上が最も好ましい。モル比(H
2/1214ya)は、HFC−263fb、HFO−1243zf等の副生を低減する観点と、1224ydの収率の点から、0.2以上1.4以下が好ましく、0.4以上1.2以下がより好ましく、0.5以上1.0以下が最も好ましい。
【0042】
後述の方法(A)のように水素を分割導入する場合、同様に、触媒層に導入する1214yaと触媒層に導入する水素の総量との割合は、1214yaと水素のモル比(H
2/1214ya)を1.4以下とする割合が好ましく、1.2以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましい。また、1214yaと水素のモル比(H
2/1214ya)は、0.2以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上が最も好ましい。1214yaと水素のモル比(H
2/1214ya)は同様の観点から、0.2以上1.4以下が好ましく、0.4以上1.2以下がより好ましく、0.5以上1.0以下が最も好ましい。
【0043】
本発明の製造方法において、1214yaを水素と反応させる反応温度は、気相反応であることより、反応に用いる1214yaと水素の混合ガス、ただし不活性ガスを用いる場合には、1214yaと水素と不活性ガスの混合ガスの露点を越える温度とする。また、本発明の製造方法では、副生物の生成を抑制する観点から、反応温度は200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、150〜190℃が特に好ましい。
【0044】
本発明の製造方法における反応温度は、具体的には、以下に説明する触媒層の反応域の温度で示される。本発明の製造方法においては、触媒層の反応域の温度すなわち触媒層の最高温度を上記反応温度の範囲内に制御することで、反応性の向上と副生物の生成抑制が可能となる。
【0045】
触媒層の温度は、初期温度を所定の温度に設定しても、触媒の劣化の進行に伴い次第に低下し、反応率が低下するという問題がある。そのため、高い反応率を維持できるよう、触媒層の温度を所定の温度に保つ操作を行うことが好ましい。例えば、触媒層を熱媒などで外部から加熱してその温度を維持している場合は、熱媒の温度を徐々に上げることで、触媒層の温度低下を防ぐことができる。熱媒の温度は、40〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。熱媒としては、パーフルオロエーテル、硝酸塩、シリコーンオイル、水等が好ましく、パーフルオロエーテルまたは水がより好ましい。
【0046】
なお、触媒層の温度とは、外部からの加熱等により維持される触媒層の温度をいう。通常、1214yaと水素は触媒層の一部の領域で反応し、反応熱の発生により反応域(1214yaと水素が反応している領域)は他の触媒層領域よりも高温となる。この反応域の触媒活性は経時的に低下することにより、通常、反応域はガス導入部付近からガスの流れ方向の下流側に徐々に移動していく。また、反応域の下流側では反応域で生成した温度の高い生成ガスが流れ、通常、触媒層の温度よりも高温となり、反応域から離れるほど徐々に温度が低下していく。本発明において触媒層の温度とは反応域の上流側の温度、すなわち、熱媒などで外部から加熱してその温度を維持している触媒層の温度をいう。
【0047】
また、本発明の製造方法では、1214yaと水素の反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制して、触媒層の最高温度を上記反応温度の上限値以下にすることが好ましい。上記のように、1214yaと水素が反応している反応域およびその下流側の領域における温度は、反応熱により他の領域の触媒層の温度よりも高くなる。反応中の触媒層の最高温度とはこの反応熱の発生により他の領域よりも高温となった触媒層領域の最高温度をいう。なお、反応中の触媒層の最高温度の測定法としては、例えば、挿し込み型の温度計を用いた下記測定法が挙げられる。
【0048】
触媒層における1214yaと水素の反応は、まず、これらがガス状で導入されるガス導入部付近の触媒が反応に寄与し、該ガス導入部付近の触媒が劣化するとその下流側の触媒が反応に寄与するというように、触媒層における反応域がガス排出側に向かって徐々に移動していく。つまり、触媒層の最高温度を示す部分は、1214yaと水素の反応域の移動と共に移動していくため、予め挿し込み型の温度計の計測部を触媒層のガス導入部に位置させておき、反応の進行と共に該計測部を移動させることで触媒層の最高温度を測定できる。
【0049】
反応中の触媒層の最高温度を上記反応温度の上限値以下に維持する方法としては、触媒層の最高温度を低く制御しつつ、生産性を高く維持しやすい点から、触媒層に水素を分割して導入する方法(方法(A))が好ましい。水素を触媒層の複数個所に分割して導入すれば、1214yaの導入量を変化させずに触媒層の反応域を分散させられるため、反応熱の発生が一箇所に集中しない。そのため、生産性を低下させずに、触媒層の局所的な過剰発熱を容易に抑制できる。
【0050】
水素の分割導入とは、1214yaと水素を触媒層のガス導入部に導入するとともに、触媒層のガス導入部とガス排出部との間の少なくとも1か所から水素を導入することをいう。すなわち、ガス導入部以外に触媒層の少なくとも1箇所、すなわち、合計2箇所以上、から水素を導入することをいう。
【0051】
具体的には、触媒層のガス導入部(触媒層においてガスの流れ方向の最上流側に位置する)に導入する1214yaと水素の量は、触媒層に導入する水素の一部と1214yaの全量とする。残余の水素はガスの流れ方向下流の触媒層に水素導入部から導入し、その導入位置の触媒層を流れるガス(通常は、1214yaの一部が水素と反応した後の、生成ガス)に水素を混入し、該水素の導入位置から下流側の触媒層で未反応の1214yaを水素と反応させ、触媒層のガス排出部(触媒層においてガスの流れ方向の最下流側に位置する)から生成ガスを排出する。
【0052】
ガス導入部とガスの流れ方向の最上流側の水素導入部との間で、ガス導入部から導入された水素の少なくとも一部は1214yaと反応していることが好ましい。また、ガスの流れ方向の最下流側の水素導入部は、その水素導入部とガス排出部との間の触媒層で、該水素導入部から導入された水素と1214yaとが十分反応しうる位置に設けることが好ましい。
【0053】
方法(A)における水素の導入は、2箇所に分割導入しても、3箇所以上に分割導入してもよく、プロセスを簡略化できるという観点から、2箇所から分割導入することが好ましい。触媒層の2箇所以上に分割導入する水素は、触媒層の最高温度を低く維持しやすい点から、分割導入される各々の水素の量を等量とすることが好ましい。
【0054】
反応器内に触媒層が2つ以上ある場合、水素の分割導入は、例えば、水素の一部を1214yaと共に最も上流側(1段目)の触媒層に導入し、残部を1段目より下流側の2段目以降の触媒層に導入する方法が挙げられる。
【0055】
また、方法(A)以外の触媒層の最高温度の制御方法としては、1214yaおよび水素と共に触媒層に不活性ガスを流通させる方法(方法(B))が挙げられる。不活性ガスを流通させ、触媒層中を流通する1214yaおよび水素の濃度を調節することで、反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制できる。また、不活性ガス以外の希釈ガスを不活性ガスの代わりにまたは不活性ガスとともに使用することもできる。
【0056】
不活性ガスとしては、窒素、希ガス(ヘリウム、アルゴン等)、二酸化炭素、水素化反応に不活性なフロン類等が挙げられる。
【0057】
触媒層への不活性ガスの導入量は、触媒層の最高温度を低く維持しやすく、副生物の生成を低減しやすい点、および触媒の劣化を抑制しやすい点から、1214yaの1モルに対して、0.5モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましい。また、不活性ガスの導入量は、該不活性ガスの回収率の点から、1214yaの1モルに対して、10.0モル以下が好ましく、4.0モル以下がより好ましい。副生物の生成を低減しやすい点、および触媒の劣化を抑制しやすい点ならびに不活性ガスの回収率の点から、1214yaの1モルに対して、0.5モル以上10.0モル以下が好ましく、1.0モル以上4.0モル以下がより好ましい。
【0058】
また、方法(A)、方法(B)以外の触媒層の最高温度の制御方法としては、触媒層の温度を、反応に用いる1214yaと水素の混合ガスの露点を下限として、より低い温度とする方法(方法(C))が挙げられる。不活性ガスを用いる場合には、1214yaと水素と不活性ガスの混合ガスの露点を下限として、より低い温度とする。触媒層の温度を低く保つことで、反応熱のより迅速な除熱が可能となり、触媒層の過剰な温度上昇を抑制できる。
【0059】
方法(C)においては、触媒層が低い温度であるほど目的物である1224ydと分離困難な副生物の生成を抑制するのに有利である点、および、原料が液化した状態での反応では、1224ydが過剰に還元された副生物の生成が増加することにより1224ydの収率が低下する点から、触媒層の温度は、上記混合ガスの露点よりも高いことが好ましい。より好ましくは露点よりも高くかつ50℃未満、さらに好ましくは、露点よりも高くかつ30℃以下である。
【0060】
触媒層の最高温度の制御には、方法(A)、方法(B)、方法(C)をそれぞれ単独で用いる、またはこれらの2つ、または3つを併用することが好ましい。
【0061】
反応圧力は、取り扱い性の点から、常圧が好ましい。反応時間は0.4〜400秒が好ましく、1〜400秒がより好ましく、4〜400秒が最も好ましい。本発明の製造方法において、反応時間は、具体的には、1214yaのパラジウム触媒担持担体(X)に対する接触時間である。この接触時間は、反応器に導入される1214yaの体積と触媒層の体積から計算される。
【0062】
本発明の製造方法では、触媒層における下式(5)で表される1214yaの線速度uは、0.1〜100cm/秒が好ましく、0.1〜30cm/秒がより好ましく、0.1〜10cm/秒が最も好ましい。線速度uが0.1cm/秒以上であれば、生産性が向上し、1214yaが触媒層を均一に流れやすい。線速度uが100cm/秒以下であれば、1214yaと水素の反応率が向上し、線速度uが30cm/秒以下であれば発熱による反応点付近の温度制御が容易になる。
【0063】
線速度uは、反応器に導入される1214yaのガス量と触媒層の体積とから、下式(5)によって計算される。
u=(W/100)×V/S 式(5)
W:触媒層を流通する全ガス中の1214yaの濃度(モル%)
V:触媒層を流通する全ガスの流量(cm
3/秒)
S:触媒層のガスの流通方向に対する断面積(cm
2)
【0064】
なお、本発明の製造方法において、触媒層に導入するガス状成分には、1214ya、水素、任意成分としての不活性ガス、希釈ガスの他に、本発明の効果を損なわない範囲でその他成分が含まれていてもよい。その他成分としては、例えば、1214yaを準備する際に不純物として1214yaとともに持ち込まれる成分等が挙げられる。
【0065】
本発明の製造方法に用いる反応器としては、触媒担持担体を充填して触媒層を形成できる公知の反応器が挙げられる。反応器の材質としては、例えば、ガラス、鉄、ニッケル、またはこれらを主成分とする合金等が挙げられる。
【0066】
反応後の生成ガスには、目的物である1224ydの他に、未反応の原料、過還元体であるHFO−1234yf、HFC−254eb、HFC−263fb、HFO−1243zf等および塩化水素(HCl)が含まれる。
【0067】
生成ガスに含まれるHClは、例えば、該生成ガスをアルカリ水溶液に吹き込んで中和することにより除去できる。上記アルカリ水溶液に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なお、生成ガスに含まれるHClは少量であり、パラジウム触媒担持担体のCl/Pdに特に影響を及ぼすものではない。生成ガスからの1224ydの回収方法としては、例えば、分留等の公知の方法を採用できる。得られる1224ydは、通常、1224ydのE体とZ体の混合物である。該混合物から1224ydのE体およびZ体の分離が必要な場合には、蒸留等の分離精製方法を用いればよい。
【0068】
以上説明した本発明の製造方法によれば、パラジウムを含む金属と塩素とを有し、パラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が2.0以上であるパラジウム触媒を担体に担持させたパラジウム触媒担持担体の存在下、気相で1214yaを水素と反応させることで、過還元体であるHFO−1234yf、HFC−254eb、HFC−263fb、HFO−1243zf等の副生が低減される。本発明の製造方法によれば、特に、HFC−263fb、HFO−1243zfの副生を抑制する効果が顕著である。このようにして副生物の生成が抑制され、結果的に、生成ガス中の目的物である1224ydの量が増えるので、選択率に優れた効率的な1224ydの製造が可能である。また、反応に用いる1214yaについては、入手が容易な原料から安定した製造方法が確立されている化合物であるため、本発明の製造方法は、工業的に実施しやすく、安定に実施可能な方法といえる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1〜4は実施例、例5〜6は比較例である。
【0070】
まず、各例に用いたパラジウム触媒担持担体を以下のようにして調製した。パラジウム触媒担持担体(X1)、(X2)は本発明に係るパラジウム触媒担持担体であり、パラジウム触媒担持担体(Cf1)は比較例用のパラジウム触媒担持担体である。また、各パラジウム触媒担持担体の調製には、粒度が4〜8メッシュのヤシ殻活性炭100質量%に対して0.5質量%のパラジウム単体が担持されたパラジウム担持活性炭(エヌ・イーケムキャット社製;以下「パラジウム担持活性炭(A)」という。)を用いた。
【0071】
また、パラジウム触媒担持担体のCl/Pdを算出するために、上記の(ii)および(iii)の測定を行い、式(3)により[Cl/Pd]
(y)を得た。[Cl/Pd]
(y)と各パラジウム触媒担持担体における、担体、塩化水素処理の条件等から式(4)により各パラジウム触媒担持担体のCl/Pdを算出した。
【0072】
パラジウム担持活性炭(A)における、Cl/Pdを上記算出方法で算出すると、塩化水素処理を施していないためCl/Pdは0.0である。パラジウム担持活性炭(A)をパラジウム触媒担持担体(Cf1)とした。
【0073】
[調製例1]
パラジウム担持活性炭(A)を以下の反応装置と同様の装置の反応管に充填した。該反応管が浸漬された油浴の温度を45℃に維持しながら、パラジウム担持活性炭(A)に対して塩化水素を流速300mL/秒で2時間流通させることによりパラジウム触媒担持担体(X1)を得た。得られたパラジウム触媒担持担体(X1)におけるパラジウム触媒のCl/Pdを上記算出方法により算出したところ2.2であった。
【0074】
[調製例2]
調製例1における塩化水素処理の時間を2時間から8時間に変更すること以外は調製例1と同様に行い、パラジウム触媒担持担体(X2)を得た。得られたパラジウム触媒担持担体(X2)におけるパラジウム触媒のCl/Pdを上記算出方法により算出したところ4.6であった。
【0075】
[例1]
1224ydの製造には、
図1に模式図を示す反応装置100を用いた。反応装置100は、
図1に示すように、1本の反応管8と、それを浸漬する油浴9を備えている。反応管8としては、内径2.14cm、全長70cmのSUS304製のU字型の反応管を用いた。反応管8は、その出口11側に上記で調製されたパラジウム触媒担持担体(X1)(Cl/Pd=2.2)が充填密度0.73g/cm
3で充填された、高さ40cmの触媒層10を有する。油浴に用いる熱媒はパーフルオロエーテルFOMBLIN
(R)YLVAC(ソルベイ社)を使用した。
【0076】
また、反応装置100は、1214yaガス収容容器1、水素ガス収容容器2および窒素ガス収容容器3を有し、各容器はそれぞれ配管4、5、6を介して反応管8の入口7に接続されている。反応管8の出口11から排出されるガスについては、配管13によりアルカリ洗浄槽14に移送され、アルカリ洗浄後、配管15を介して生成ガス収容容器16に回収される。以下の説明において、反応管8の出口11から排出されるガスを「出口ガス」、出口ガスをアルカリ洗浄して得られたガスを「生成ガス」という。
【0077】
まず、触媒層10が全て浸漬されるように、反応管8を45℃に温度調整した油浴9中に浸漬し、触媒層10を45℃に加熱した。次いで、1214yaガス、水素ガスおよび窒素ガスを反応管8に流通させ、排出された出口ガスをアルカリ洗浄して生成ガスを得た。
【0078】
触媒層10に充填されたパラジウム触媒担持担体(X1)に対する1214yaガスの接触時間は12秒とし、1214yaガスのモル数と、触媒層に導入する水素ガスの総導入量のモル数との比(H
2/1214ya)は1.0とした。また、1214yaガスのモル数と、触媒層に導入する窒素ガスの総導入量のモル数との比(N
2/1214ya)は2.0とした。1214yaの線速度uは0.8cm/秒とした。
【0079】
また、反応中の触媒層10の最高温度(反応温度)を、触媒層に挿入した差し込み型の温度計12により測定したところ、171℃であった。出口ガスのアルカリ洗浄は、温度15℃の20質量%水酸化ナトリウム水溶液により行った。
【0080】
[例2]
油浴9の温度を80℃に変更した以外は、例1と同様にして生成ガスを得た。反応中の触媒層10の最高温度を、触媒層に挿入した差し込み型の温度計12により測定したところ、183℃であった。
【0081】
[例3]
パラジウム触媒担持担体(X1)(Cl/Pd=2.2)をパラジウム触媒担持担体(X2)(Cl/Pd=4.6)に変更した以外は、例1と同様にして生成ガスを得た。反応中の触媒層10の最高温度を、触媒層に挿入した差し込み型の温度計12により測定したところ、153℃であった。
【0082】
[例4]
油浴9の温度を80℃に変更した以外は、例3と同様にして生成ガスを得た。反応中の触媒層10の最高温度を、触媒層に挿入した差し込み型の温度計12により測定したところ、171℃であった。
【0083】
[例5]
パラジウム触媒担持担体(X1)(Cl/Pd=2.2)をパラジウム触媒担持担体(Cf1)(Cl/Pd=0.0)に変更した以外は、例1と同様にして生成ガスを得た。反応中の触媒層10の最高温度を、触媒層に挿入した差し込み型の温度計12により測定したところ、153℃であった。
【0084】
[例6]
油浴9の温度を80℃に変更した以外は、例5と同様にして生成ガスを得た。反応中の触媒層10の最高温度を、触媒層に挿入した差し込み型の温度計12により測定したところ、171℃であった。
【0085】
[分析方法]
各例で得られた生成ガスをガスクロマトグラフィー(GC)にて分析し、下式(6)、(7)により、1214yaの1224yd(Z)への選択率X(単位:%)、および1224yd(E)への選択率Y(単位:%)をそれぞれ算出した。
【0086】
X=[a/(a+b+c)]×100 式(6)
Y=[b/(a+b+c)]×100 式(7)
(ただし、式(6)、(7)中「a」は1224yd(Z)のモル数、「b」は1224yd(E)のモル数、「c」は過還元体(HFO−1234yf、HFC−254eb、HFC−263fb、HFO−1243zf、その他)の合計モル数を示す。)
【0087】
また、1224yd(Z体およびE体)の収率を下式(8)により算出した。
1224yd(Z体およびE体)の収率= [A×(X+Y)]/100 式(8)
(ただし、式(8)中、「A」は1214yaの反応率を示す。)
【0088】
分析結果を、反応条件等とともに表1に示す。また、生成ガスのGC分析における面積比をモル比(単位:モル%)として表2に示す。なお、表1におけるパラジウム触媒担持担体の種類は符号のみを示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1および表2に示すように、本発明の実施例である例1〜4は、パラジウム触媒担持担体におけるパラジウム触媒のパラジウム原子のモル数に対する塩素原子のモル数の比(Cl/Pd)が本発明の範囲外である例5〜6に比べて、1224yd(Z)への選択率Xと1224yd(E)への選択率Yの合計、ならびに1224ydの収率について高い結果が得られた。また、例1〜4において過還元体であるHFC−263fbおよびHFO−1243zfの副生を顕著に抑制した。