特許第6881551号(P6881551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6881551過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881551
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 7/00 20060101AFI20210524BHJP
   C25D 11/08 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C25F7/00 V
   C25D11/08
   H01L21/304 647Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-203551(P2019-203551)
(22)【出願日】2019年11月8日
(65)【公開番号】特開2021-75764(P2021-75764A)
(43)【公開日】2021年5月20日
【審査請求日】2020年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】山川 晴義
(72)【発明者】
【氏名】井芹 一
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−153825(JP,A)
【文献】 特開平07−090628(JP,A)
【文献】 特開平09−064005(JP,A)
【文献】 特開平11−036089(JP,A)
【文献】 特開2008−084903(JP,A)
【文献】 米国特許第06605548(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G1/00−5/06
C25F1/00−7/02
C25D11/00−11/38
H01L21/304
H01L21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤として過硫酸成分を含み、該酸化剤濃度の低下を促進する不純物として窒素酸化物イオンが0.1〜50mg/Lの濃度で存在する硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下を抑制する方法であって、前記窒素酸化物イオンを含む硫酸溶液に対して不活性なガスを接触させる、過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法。
【請求項2】
前記過硫酸成分が、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸塩、ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ二硫酸塩から選択される一種以上である、請求項1に記載の過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法。
【請求項3】
前記硫酸溶液に対して不活性なガスを曝気することにより、窒素酸化物イオンを含む該硫酸溶液に対して不活性なガスを接触させる、請求項1又は2に記載の過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、シリコン、ガラス、プラスチックなど各種材料の表面洗浄や表面改質処理に用いる、酸化剤としての酸化性物質を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸塩といった過硫酸成分を含む硫酸溶液は、極めて強い酸化性を有する。この強い酸化性を利用して金属、シリコン、ガラス、プラスチックなどの各種材料表面の洗浄や表面改質に利用されている。
【0003】
例えば、金属材料に対しては、特許文献1に硫酸含有処理液を電解セルに循環流通させて過硫酸を生成させ、酸化還元電位を+1.5〜+3.5Vとした処理液中でアルミニウム膜を陽極酸化することにより、該アルミニウム膜に細孔を形成する工程を有する多孔質膜の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、シリコンウエハなどに付着した汚染物などを剥離効果が高い過硫酸溶液で洗浄剥離する際に、硫酸溶液を繰り返し利用しつつ過硫酸を再生して洗浄に供する硫酸リサイクル型洗浄システムが記載されている。さらに、特許文献3には、プラスチック材料を過硫酸塩が溶解した硫酸濃度50〜92重量%で過硫酸濃度3〜20g/Lの溶液で処理し、当該過硫酸塩を溶解した溶液の温度を80〜140℃とするめっきの前処理としてのプラスチック表面処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−145381号公報
【特許文献2】特開2006−278689号公報
【特許文献3】特許第6288213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように過硫酸成分を含む硫酸溶液は、各種材料の表面洗浄や表面改質に幅広く利用することが可能であるが、該溶液中に不純物が混入すると短時間に酸化剤濃度が低下し、酸化活性が失われることがある。このような不純物として硝酸イオン、亜硝酸イオンなどの窒素酸化物イオンがある。これらの不純物が存在し酸化剤濃度の低下が顕著な状況で表面処理に必要な該溶液中の酸化剤濃度を維持するためには、過硫酸成分の供給速度を高める必要がある。例えば、硫酸含有液を電解して生成させた過硫酸成分を供給する場合には、電解装置の大型化が必要となる。また、硫酸中に過硫酸塩を添加する方法や、硫酸中に過酸化水素を添加する方法で生成させた過硫酸成分を用いる場合には、硫酸、過硫酸塩、過酸化水素など、必要成分の使用量を増やす必要がある。このように、酸化剤濃度の低下を引き起こす不純物の混入は、過硫酸成分を含む硫酸溶液による表面処理効果の低下を招くだけでなく、処理コストの増大を招く、という問題点がある。
【0006】
一方、窒素酸化物イオンの混入を抑えるために、液補充や硫酸濃度調整に用いる水に、窒素酸化物イオンを含有しない純水を用いることは有効である。しかしながら、該硫酸溶液によって洗浄、表面改質処理される各種材料由来の窒素酸化物イオンを完全に排除することは困難であることから、該物質の適切な方法およびシステムで除去する必要があり実用的でない、という問題点がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、酸化剤濃度の低下を引き起こす不純物である窒素酸化物イオンの混入によっても、有効な酸化剤濃度の低下を最小限に抑制することが可能な過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、酸化剤として過硫酸成分を含み、該酸化剤濃度の低下を促進する不純物として窒素酸化物イオンが存在する硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下を抑制する方法であって、前記窒素酸化物イオンを含む硫酸溶液に対して不活性なガスを接触させる、過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法を提供する(発明1)。
【0009】
かかる発明(発明1)によれば、酸化剤濃度の低下を引き起こす窒素酸化物イオンが混入した過硫酸成分を含む硫酸溶液に不活性なガスを接触させることにより、窒素酸化物イオンが硝酸態ガスとなり、系外に放散することで酸化剤濃度の低下を抑制することができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記過硫酸成分が、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸塩、ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ二硫酸塩から選択される一種以上であることが好ましい(発明2)。
【0011】
かかる発明(発明2)によれば、これらの過硫酸成分は、酸化剤として機能するが、窒素酸化物イオンが存在すると酸化剤濃度の低下を引き起こしやすい、不活性なガスを接触させて窒素酸化物イオンの低下させることにより、これを抑制することができる。
【0012】
上記発明(発明1,2)においては、前記硫酸溶液に対して不活性なガスを曝気することにより、窒素酸化物イオンを含む該硫酸溶液に対して不活性なガスを接触させることが好ましい(発明3)。
【0013】
かかる発明(発明3)によれば、不活性なガスとの接触手段として、不活性なガスの曝気を採用することにより、曝気流量を増やすほど、かつ液深が大きいほど硝酸態窒素ガスが曝気ガスの気泡内に取り込まれるため、窒素酸化物イオンの除去効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法によれば、酸化剤濃度の低下を引き起こす窒素酸化物イオンが混入した過硫酸成分を含む硫酸溶液の酸化剤濃度の低下を有効に抑制することができ、酸化剤による各種材料の表面処理の効果を最大限に発揮させることが可能となる。さらに、表面処理に必要な該溶液中の酸化剤濃度が維持されることにより、過硫酸成分の供給速度を必要最小限に抑えることが可能となる。その結果、例えば硫酸含有液を電解して生成させた過硫酸成分を供給する場合には、コンパクトな電解装置での処理が可能となる。また、硫酸中に過硫酸塩を添加する方法や、硫酸中に過酸化水素を添加する方法で生成させた過硫酸成分を用いる場合には、硫酸、過硫酸塩、過酸化水素など、各成分の使用量を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】窒素酸化物イオンが混入した過硫酸成分を含む硫酸溶液を曝気した場合の酸化剤濃度の推移を示すグラフである。
図2】窒素酸化物イオンが混入した過硫酸成分を含む硫酸溶液を曝気しなかった場合の酸化剤濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法について、以下の実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
[過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法]
(過硫酸成分を含む硫酸溶液)
本実施形態において、過硫酸成分を含む硫酸溶液としては、酸化剤として過硫酸成分を含んでおり、かつ硫酸溶液であれば特に制限はない。前記過硫酸成分としては、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸塩、ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ二硫酸塩などが挙げられ、これらを適宜選択して単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
この過硫酸成分を含む硫酸溶液としては、例えば、硫酸含有液を電解して過硫酸成分を生成した硫酸溶液(電解硫酸溶液)、硫酸中に過酸化水素を添加することで過硫酸成分を生成した溶液などを用いることができ、特に電解硫酸溶液に好適に適用することができる。
【0019】
この過硫酸成分を含む硫酸溶液としては、例えば電解硫酸溶液の場合、硫酸濃度が60〜87重量%、特に70〜83重量%であることが好ましい。また、初期状態における酸化剤濃度は利用する用途にもよるが2g/L以上、特に3〜20g/Lである。酸化剤濃度が2g/L未満では、酸化剤濃度の低下による影響がそれほど大きくない一方、20g/Lを超えるものは、その製造自体困難で経済的でないうえに酸化剤濃度が多少低下しても酸化能に大きな支障がない。
【0020】
(酸化剤濃度低下を促進する不純物)
本実施形態において、上述したような過硫酸成分を含む硫酸溶液に混在する酸化剤濃度の低下を促進する不純物は、窒素酸化物イオンである。この窒素酸化物イオンとしては、硝酸イオン(NO3−)、亜硝酸イオン(NO2−)などが挙げられる。これらの窒素酸化物イオンは、硝酸、亜硝酸、及びこれらの塩に起因するのが一般的であるが、窒素酸化物イオンをもたらすものであればこれに限定されない。
【0021】
過硫酸成分を含む硫酸溶液中の窒素酸化物イオンの濃度は100mg/L(NO換算)以下程度、特に0.1〜50mg/L程度である。窒素酸化物イオンの不純物濃度が100mg/Lを超えると、窒素酸化物イオンが多すぎて、十分に除去しきれず酸化剤濃度の低下の抑制効果が十分に発揮されない。なお、窒素酸化物イオンの下限については特に制限はないが、0.1mg/L未満では酸化剤濃度の低下が大きくなく、その効果の確認が困難であるため好ましくない。
【0022】
(酸化剤濃度の低下抑制手段)
本実施形態においては、窒素酸化物イオンによる過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤の濃度低下を抑制するために、該過硫酸成分を含む硫酸溶液に対して、不活性なガスで曝気する。ここで、不活性なガスとしては、過硫酸成分を含む硫酸溶液と反応しないガスであれば制限はないが、安全性や製造コストの観点から空気や窒素ガス(N)が好ましい。
【0023】
この曝気処理の条件としては、例えば、過硫酸成分を含む硫酸溶液の貯槽の底部から、該底部の面積1mに対して、0.1〜100m/hr程度量の不活性なガスを、貯槽の底部に散在するように配置した散気菅から吐出すればよい。この曝気処理により、窒素酸化物イオンが不活性なガスと接触することで硝酸態ガスとなり、貯槽から放散することで窒素酸化物イオンが減少するため、酸化剤濃度の低下を抑制することができる。この曝気処理の時間は、窒素酸化物イオンが減少し酸化剤の濃度の低下が十分に抑制するまで継続すればよく、例えば0.5〜10時間、特に1〜5時間程度曝気すればよい。
【0024】
上述したような曝気処理は、例えば過硫酸成分を含む硫酸溶液を用いて処理する前に該硫酸溶液の貯槽で所定時間行ってもよいし、過硫酸成分を含む硫酸溶液を用いた処理を行う処理槽に曝気装置を設けて所定時間爆気した後、連続して過硫酸成分を含む硫酸溶液を用いた処理を行ってもよいし、さらには処理槽に曝気装置を設けて曝気処理を行いながら過硫酸成分を含む硫酸溶液を用いた処理を行ってもよい。
【0025】
以上、本発明の過硫酸成分を含む硫酸溶液中の酸化剤濃度の低下抑制方法について説明してきたが、本発明は前記実施例に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、過硫酸成分を含む硫酸溶液は、過硫酸成分と硫酸溶液のみから構成される必要はなく、酸化剤濃度を低下しないものであれば、リン酸などの他の酸や薬液成分を含んでいてもよい。
【実施例】
【0026】
以下の実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
【0027】
[実施例1〜4]
過硫酸成分を含む硫酸溶液の酸化剤濃度低下抑制効果を以下の手順で評価した。すなわち、78重量%の硫酸(HSO)に窒素酸化物イオンをもたらす成分として、HNOまたはNaNOを表1に示す濃度になるように添加したものを試験液とした。この試験液1Lを60℃に加温して、事前に所定時間、貯槽の下方から10L/分の流量で空気曝気を行った。この試験条件を表1に示す。
【0028】
その後、試験液を電解して酸化剤濃度が7〜8 g/L as Sとなるよう調整し、空気曝気後の試験液にNa試薬を添加して酸化剤濃度の変化を3時間測定した。結果を図1に示す。なお、酸化剤濃度は、ヨウ素滴定法により測定した。このヨウ素滴定法とは、少量分取した試験液にKIを加えてIを遊離させ、そのIをNa標準溶液で滴定してIの量を求め、そのIの量から酸化剤濃度を求める方法である。
【0029】
【表1】
【0030】
[比較例1〜3及び参考例]
実施例と同様にHNOまたはNaNOを表2に示す濃度になるように添加した試験液に対して、空気曝気を行わずスターラー撹拌を所定時間実施後、試験液を電解して酸化剤濃度が7〜8 g/L as Sとなるよう調整し、攪拌後の試験液にNa試薬を添加して酸化剤濃度の変化を3時間測定した。結果を図2に示す。また、78重量%の硫酸(HSO)に対して、酸化剤濃度が7〜8 g/L as Sとなるよう調整し窒素酸化物成分を添加しないで、Na試薬を添加して酸化剤濃度の変化を3時間測定した(参考例)。試験条件を表2に結果を図2にあわせて示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表1、2及び図1、2から明らかなように、窒素酸化物イオンが存在する硫酸溶液に対して不活性なガスである空気で曝気した実施例1〜4では、酸化剤の分解を抑制することができ、この効果は曝気時間が長いほど有効であることがわかる。これに対し、曝気処理ではなく撹拌処理した比較例1〜3では窒素酸化物イオンの存在による酸化剤の分解をほとんど抑制できていないことが確認できた。また、参考例の結果より、窒素酸化物イオンの存在がなければ、酸化剤濃度はほとんど低下せず、安定して存在できることがわかる。
図1
図2