(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe系結晶質磁性材料からなり、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Aが0.5μm以上7.0μm以下である粒状粉末Aを準備する工程と、
Fe系非晶質金属磁性材料からなり、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Bが15.0μm超35.0μm以下である粒状粉末Bを準備する工程と、
前記粒状粉末Aと前記粒状粉末Bとを混合する混合工程と、を有し、
前記混合工程を経て得られた磁心用の粉末が、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度10体積%に対応する粒子径をd10Mとし、積算頻度50体積%に対応する粒子径をd50Mとし、積算頻度90体積%に対応する粒子径をd90Mとした場合に、(d90M-d10M)/d50Mが1.6以上6.0以下であり、
前記Fe系結晶質金属磁性材料が、aFe bSi cCr dAl eC(ただし質量%で、a=100-b-c-d-e、0≦b≦12.0、0≦c≦8.0、0≦d<13.8、0≦e≦0.5を満たす)で表される組成を有し、
前記Fe系非晶質金属磁性材料が、Fe-Si-B系の非晶質金属磁性材料[ただし、その組成が、(Fe1-xCrx)a(Si1-yBy)100-a-bCb(ただしx及びyは原子比、a及びbは原子%を示し、それぞれ、0<x≦0.06、0.3≦y≦0.7、70≦a≦81、0<b≦2を満たす)で表される。]、及び/又はFe-P-C系の非晶質金属磁性材料[ただし、その組成が、Fe100-x-yPxCy (ただし原子%で、6.8%≦x≦13.0%、2.2%≦y≦13.0%を満たす)で表される。]である、
磁心用の粉末の製造方法。
前記Fe系結晶質金属磁性材料が、純鉄、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、及びFe-Cr-Al系からなる群から選ばれた少なくとも一種の結晶質磁性材料である、請求項7〜9のいずれかに記載の磁心用の粉末の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コイル部品では、更なる小型化や直流重畳特性の向上の要求がある。そこで本発明の目的は、磁心として用いられたときに、容易に透磁率を高め、直流重畳特性を向上し得る磁心用の粉末、それを用いた磁心及びコイル部品を提供すること、並びに前記磁心用の粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の一態様は、Fe系結晶質金属磁性材料の粒状粉末Aと、Fe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bとを含む磁心用の粉末であって、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、前記粒状粉末Aの積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Aが、0.5μm以上7.0μm以下であり、前記粒状粉末Bの積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Bが、15.0μm超であり、前記磁心用の粉末の積算頻度10体積%に対応する粒子径をd10Mとし、積算頻度50体積%に対応する粒子径をd50Mとし、積算頻度90体積%に対応する粒子径をd90Mとした場合に、(d90M-d10M)/d50Mが1.6以上6.0以下である、磁心用の粉末である。
【0007】
前記磁心用の粉末において、前記d50Aは1.0μm以上5.0μm以下であるのが好ましい。
【0008】
前記磁心用の粉末において、前記Fe系結晶質金属磁性材料は、純鉄、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、及びFe-Cr-Al系からなる群から選ばれた少なくとも一種の結晶質磁性材料であるのが好ましい。
【0009】
前記磁心用の粉末において、Fe系非晶質金属磁性材料はFe-Si-B系及び/又はFe-P-C系の非晶質磁性材料であるのが好ましい。
【0010】
本発明の別の一態様は、上記した一態様の磁心用の粉末を用いた磁心である。
【0011】
本発明の更に別の一態様は、上記した別の一態様の磁心を用いたコイル部品である。
【0012】
本発明の更に別の一態様は、Fe系結晶質磁性材料からなり、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Aが0.5μm以上7.0μm以下である粒状粉末Aを準備する工程と、Fe系非晶質金属磁性材料からなり、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Bが15.0μm超である粒状粉末Bを準備する工程と、前記粒状粉末Aと前記粒状粉末Bとを混合する混合工程と、を有し、前記混合工程を経て得られた磁心用の粉末が、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度10体積%に対応する粒子径をd10Mとし、積算頻度50体積%に対応する粒子径をd50Mとし、積算頻度90体積%に対応する粒子径をd90Mとした場合に、(d90M-d10M)/d50Mが1.6以上6.0以下である、磁心用の粉末の製造方法である。
【0013】
前記磁心用の粉末の製造方法において、前記d50Aは1.0μm以上5.0μm以下であるのが好ましい。
【0014】
磁心用の粉末の製造方法において、前記Fe系結晶質金属磁性材料は、純鉄、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、及びFe-Cr-Al系からなる群から選ばれた少なくとも一種の結晶質磁性材料であるのが好ましい。
【0015】
また磁心用の粉末の製造方法においては、前記Fe系非晶質金属磁性材料は、Fe-Si-B系及び/又はFe-P-C系の非晶質磁性材料であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁心として用いられたときに、透磁率を高め、直流重畳特性を向上し得る磁心用の粉末、それを用いた磁心及びコイル部品、並びに前記磁心用の粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る磁心用の粉末、それを用いた磁心、及びコイル部品について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。また説明において示される寸法や形状、構成部材の相対的な位置関係等は特に断わりの記載がない限りは、それのみに限定されない。更に説明においては、同一の名称、符号については同一又は同質の部材を示していて、図示していても詳細説明を省略する場合がある。
【0019】
本発明の一実施形態に係る磁心用の粉末は、Fe系結晶質金属磁性材料の粒状粉末Aと、Fe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bとを含む混合粉末である。なお、粒状粉末とは、例えばアトマイズ法によって得られるような略球状の粉末を意味し、その形状は球状であるのが好ましいが、楕円球状、液滴状といった形状異方性を有する非球状であってもよく、長径Dlと短径Dsとの比(Dl/Ds)は1.3以下であるのが好ましい。Fe系結晶質金属磁性材料の粒状粉末AやFe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bは、それぞれ組成の異なる複数の金属磁性材料で構成されていても良い。
【0020】
本発明の一実施形態に係るFe系結晶質金属磁性材料の粒状粉末Aは、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、粒状粉末Aの
積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Aは0.5μm以上7.0μm以下である。Fe系結晶質金属磁性材料は、例えば、純鉄、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、及びFe-Cr-Al系からなる群から選ばれた少なくとも一種の結晶質磁性材料である。また本発明の一実施形態に係るFe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bは、粒状粉末Bの
積算頻度50体積%に対応する粒子径d50Bが15.0μm超である。粒状粉末Aは大径の粒状粉末B間に形成される空隙を充填するような粒子径であり、磁心の密度を大きくすることができて、それによって粒子同士の磁気的なギャップが減少し、もって更なる磁気特性の向上を図ることができる。粒状粉末Aのd50Aが0.5μm未満であると磁気特性向上への寄与が小さくなる。d50Aは、好ましくは1.0μm以上であり、更に好ましくは1.5μm以上である。d50Aが7.0μm以下であると前記空隙への充填を高めることができる。d50Aは好ましくは5.0μm以下である。
【0021】
混合粉末を磁心とした場合に、平均粒径が大きい粒状粉末の方が磁気特性に与える影響が大きい。コイル部品としたときの直流重畳特性を考慮し、磁心とした時の飽和磁束密度、磁心損失、透磁率等の磁気特性について優先する特性が得られるようにFe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bを選択すればよい。粒状粉末Bのd50Bは、15.0μm超である。前述の通り、磁心とした時の磁気特性等は粒状粉末Bの影響を大きく受けるので、特に透磁率を大きくするには、d50Bは18.0μm以上であるのが好ましく、20.0μm以上であるのが更に好ましい。粉末の粒径が大径になる程に球形の粒子が得られがたく、また非晶質化に要求される冷却速度も増加して製造条件が厳しくなるため、d50Bは好ましくは35.0μm以下であり、更に好ましくは30.0μm以下である。
【0022】
混合粉末である磁心用の粉末の積算頻度10体積%に対応する粒子径をd10Mとし、積算頻度50体積%に対応する粒子径をd50Mとし、積算頻度90体積%に対応する粒子径をd90Mとした場合に、(d90M-d10M)/d50Mが1.6以上6.0以下である。以下、説明を簡略にするため(d90M-d10M)/d50Mを粒度比Pと呼ぶ。粒度比Pが1.6未満、又は6.0超であると透磁率が低く、コイル部品の直流重畳特性の改善も得られない場合がある。混合粉末である磁心用の粉末のd50Mは好ましくは20.5μm以下であり、更に好ましくは20.0μm以下であり、最も好ましくは19.0μm以下である。d50Mは好ましくは6.1μm超であり、更に好ましくは6.2μm以上である。
【0023】
粒状粉末A及び粒状粉末Bは、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、及び高速回転水流アトマイズ法などのように、水やガスを溶湯の粉砕手段とする方法や、火炎を超音速又は音速に近い速度でフレームジェットとして噴射する高速燃焼炎アトマイズ法などのアトマイズ法で作製することができる。
【0024】
本発明者等の検討によれば、メジアン径が30μm以上の粒状粉末を得るにはガスアトマイズ法が好適で、10μm以下の粒状粉末を得るには高速燃焼炎アトマイズ法が好適である。高速燃焼炎アトマイズ法は他のアトマイズ法ほど一般的ではないが、例えば特開2014-136807号等に記載される。高速燃焼炎アトマイズ法では、高速燃焼器による高速燃焼炎で溶湯を粉末状とし、液体窒素、液化炭酸ガスなどの冷却媒体を噴射可能な複数の冷却ノズルを有する急速冷却機構により冷却する。
【0025】
粒状粉末Aの組成は、aFe bSi cCr dAl eC(ただし質量%で、a=100-b-c-d-e、0≦b≦12.0、0≦c≦8.0、0≦d<13.8、0≦e≦0.5を満たす)であるのが好ましい。
【0026】
粒状粉末AのFe系結晶質金属磁性材料がFe-Si系である場合、実質的にFe及びSiが構成元素であり、Cr、Al及びCは不可避的に含み得る。ここでbは、は0.5≦b≦7.6であるのが好ましい。SiはFeSi結晶の主成分であり、飽和磁化等の磁気特性に影響を与える主元素であるFeに固溶し、磁歪や磁気異方性の低減に寄与する。Siは0.5質量%以上であるのが好ましく、1.0質量%以上であるのが更に好ましく、2.0質量%以上であるのが最も好ましい。また圧縮成形での成形性を良好にし、高飽和磁束密度を得るには7.6質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が更に好ましく、6.0質量%以下が最も好ましい。なおCは溶湯の粘度を安定化させるために加える場合があって、その上限は0.5質量%とする。従って、eは好ましくは0≦e≦0.5であり、更に好ましくは0.3質量%以下である。残部はFeと不可避的に含まれる成分(不可避的不純物とも呼ぶ)である。
【0027】
Fe系結晶質金属磁性材料がFe-Si-Cr系である場合、実質的にFe、Si及びCrが構成元素であり、Al及びCは不可避的に含み得る。ここでb及びcは、それぞれ0.5≦b≦7.6、及び0.3≦c≦6.0であるのが好ましい。Siは上記した理由と同様に0.5質量%以上であるのが好ましく、1.0質量%以上であるのが更に好ましく、2.0質量%以上であるのが最も好ましい。また高飽和磁束密度を得るには7.6質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのが更に好ましく、6.0質量%以下であるのが最も好ましい。Crは合金の耐食性及び絶縁抵抗の向上に有効な元素であり、0.3質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%以上であるのが更に好ましく、1.0質量%以上であるのが最も好ましい。また高飽和磁束密度を得るには6.0質量%以下であるのが好ましく、5.5質量%以下であるのが更に好ましく、5.0質量%以下であるのが最も好ましい。Cは上記した理由と同様に0≦e≦0.5であるのが好ましく、0.3質量%以下であるのがよりより好ましい。残部はFeと不可避的に含まれる成分(不可避的不純物とも呼ぶ)である。
【0028】
Fe系結晶質金属磁性材料がFe-Si-Al系である場合、不可避的に含み得るCr及びC以外は、実質的にFe、Si及びAlが構成元素である。ここでb及びdは、それぞれ0.5≦b≦12.0、及び1.5≦d<13.8であるのが好ましい。Siは上記した理由と同様に0.5質量%以上であるのが好ましく、1.0質量%以上であるのが更に好ましく、2.0質量%以上であるのが最も好ましい。また高飽和磁束密度を得るには12.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましく、8.0質量%以下が最も好ましい。Alは合金の耐食性を向上するのに有効な元素であり、Al量が増加するほどに磁気異方性定数が低下する傾向があって、1.5質量%以上が好ましく、2.0質量%以上が更に好ましくは、2.5質量%以上が最も好ましい。また高飽和磁束密度を得るとともに、ヒステリシス損失を低減するには、Fe3Al規則構造が形成され難い、13.8質量%未満が好ましく、12.0質量%以下が更に好ましく、10.0質量%以下が最も好ましい。Cは上記した理由と同様に0≦e≦0.5であるのが好ましく、0.3質量%以下であるのがより好ましい。残部はFeと不可避的に含まれる成分(不可避的不純物とも呼ぶ)である。
【0029】
Fe系結晶質金属磁性材料がFe-Cr-Al系である場合、不可避的に含みえるSi及びC以外は、実質的にFe、Cr及びAlが構成元素である。ここでc及びdは、それぞれ0.3≦Cr≦8.0、及び1.5≦d<13.8であるのが好ましい。Crは合金の耐食性、絶縁抵抗の向上に有効な元素であり、好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上であり、最も好ましくは1.0質量%以上である。また高飽和磁束密度を得るには8.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が更に好ましく、6.0質量%以下が最も好ましい。Alは上記した理由と同様に、好ましくは1.5質量%以上であり、更に好ましくは2.0質量%以上であり、最も好ましくは2.5質量%以上である。またFe3Al規則構造が形成され難い、13.8質量%未満が好ましく、12.0質量%以下が更に好ましく、10.0質量%以下が最も好ましい。Cは上記した理由と同様に0≦e≦0.5であるのが好ましく、0.3質量%以下であるのがより好ましい。なおSiは脱酸剤として加える場合や、磁気特性改善を目的に加える場合があって、その上限は4.0質量%とする。従って、bは好ましくは0≦b≦4.0であり、更に好ましくは3.0質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以下である。残部はFeと不可避的に含まれる成分(不可避的不純物とも呼ぶ)である。
【0030】
他に不可避不純物を除いて含まれていてもよい金属としては、Mg、Ca、Ti、Mn、Co、Ni、Cu等が挙げられる。
【0031】
Fe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末BをFe-Si-B系の非晶質金属磁性材料とする場合、その組成は、(Fe
1-xCrx)
a(Si
1-yB
y)
100-a-bC
b(ただしx及びyは原子比、a及びbは原子%を示し、それぞれ、0<x≦0.06、0.3≦y≦0.7、70≦a≦81、0<b≦2を満たす)であるのが好ましい。Crは合金の耐酸化性及び耐食性を向上させ、Si、B及びCは非晶質化を向上させるのに有効な元素である。更に任意元素としてMnを原子%で3.0%以下含んでも良い。他に不可避的不純物を含み得る。
【0032】
粒状粉末BをFe-P-C系の非晶質金属磁性材料とする場合、その組成は、Fe
100-x-yP
xC
y(ただし原子%で、6.8%≦x≦13.0%、2.2%≦y≦13.0%を満たす)であるが好ましい。P及びCは非晶質化を向上させるのに有効な元素である。非晶質化を向上のため、更に任意元素としてNi,Sn,Cr,B及びSiの少なくとも一種以上の元素を含んでいても良い。それぞれ原子%で、Niは10.0%以下、Snは3.0%以下、Crは6.0%以下、Bは9.0%以下、Siは7.0%以下である。他に不可避的不純物を含み得る。
【0033】
不可避的不純物は、例えばS、O、N等であって、その含有量はSが200 ppm以下、Oが5000 ppm以下、Nが1000 ppm以下であるのが好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態の磁心用の粉末は、圧粉磁心用として、あるいはメタルコンポジット用として好適なものとなる。圧粉磁心では、例えば磁心用の粉末を絶縁材料及び結合剤として機能するバインダと混合して使用する。バインダとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、水ガラス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて、ステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を混ぜた後、成形金型内に充填し、油圧プレス成形機等で10 MPa〜2 GPa程度の成形圧力で加圧して所定の形状の圧粉体に成形することができる。
【0035】
次いで、成形後の圧粉体を250℃以上で、Fe系非晶質磁性材料の粒状粉末Bの結晶化温度未満の温度で、1時間程度で熱処理してバインダを硬化させて圧粉磁心を得ることができる。この場合の熱処理雰囲気は不活性雰囲気でも酸化雰囲気でも良い。その後、450℃以上で、且つバインダが変性、分解するなど熱的なダメージを受けにくい温度以下で熱処理することで成形歪みを除去するのも好ましい。この場合の熱処理雰囲気は不活性雰囲気でも酸化雰囲気でも良い。
図1に磁心の一実施形態例を示す。
図1に示す磁心は円環状であるが、得られる磁心1は、矩形枠状等の環状体であってもよいし、棒状や板状の形態であっても良く、その形態は目的に応じて様々に選択することができる。
図2に
図1に示した磁心を使用したコイル部品の一実施形態例を示す。磁心1の周囲に銅線を巻きつけてコイル5とし、コイル部品10を構成することができる。
【0036】
メタルコンポジット材として用いる場合、磁心用の粉末とバインダとを含む混合物中にコイルを埋没させて一体成形したコイル部品(図示せず)として良い。例えばバインダに熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を適宜選択すれば、射出成形等の公知の成形手段で容易にコイルを封止したメタルコンポジットコアとすることができる。
【0037】
磁心の他の形態として、磁心用の粉末とバインダとを含む混合物をドクターブレード法等の公知のシート化手段でシート状の磁心としても良い。シート状の磁心は、磁気シールド材や、非接触充電用のコイル、
近距離無線通信用アンテナ等のバックヨークとして好適である。
【0038】
本発明の一実施形態の磁心用の粉末には、本発明の効果が得られる範囲であれば、磁心とするために、更に別の結晶質金属系軟磁性材料の粉末を加えても良い。
【0039】
いずれの場合も、得られる磁心は透磁率、直流重畳特性が向上された磁気特性に優れたものとなり、インダクタ、ノイズフィルタ、チョークコイル、トランス、リアクトルなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の一実施形態に係る磁心用の粉末と、それを用いた磁心及びコイル部品について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0041】
最初にFe系結晶質金属磁性材料の粒状粉末Aの作製について説明する。アトマイズ後、以下のM1の組成となるようにFe、Si及びCrを秤量し、アルミナの坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行い、その後、減圧状態で、不活性雰囲気(Ar)中にて高周波誘導加熱により溶解した。その後、溶湯を冷却して母合金のインゴットを作製した。
【0042】
Fe結晶質金属磁性材料組成
M1:92Fe 3.5Si 4.5Cr(質量%)
【0043】
次いでインゴットを再溶解し、溶湯を高速燃焼炎アトマイズ法により粉末化した。用いたアトマイズ装置は、溶融金属を収納する容器と、容器底面の中央に内部に連通する注湯ノズルと、注湯ノズルから下方に流出する溶融金属に向かってフレームジェットを噴射可能なジェットバーナー(ハード工業有限会社製)と、粉砕された溶湯を冷却する冷却手段とを備えている。このアトマイズ装置は、フレームジェットで溶融金属を粉砕して溶融金属粉末を形成可能に構成され、各ジェットバーナーは、火炎を超音速又は音速に近い速度でフレームジェットとして噴射することができる。
【0044】
冷却手段は、粉砕された溶融金属に向かって冷却媒体を噴射可能に構成された複数の冷却ノズルを有している。冷却媒体は、水、液体窒素、液化炭酸ガスなどを用いることができる。
【0045】
噴射手段から噴射するフレームジェットの温度を1300℃、溶融金属の垂下速度を3〜6 kg/min程度とした。冷却媒体として水を使用し、冷却手段により液体ミストにして冷却ノズルから噴射した。溶融金属の冷却速度は水の噴射量を4.5〜8.5 L/minの範囲で変更して調整した。
【0046】
得られた粉末を遠心力型気流式分級機(日清エンジニアリング製TC-15)で分級して、平均粒径が異なる2種の粉末(粒状粉末A1及び粒状粉末A2)を得た。
【0047】
Fe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bを調製するため、Fe-Si-B系の非晶質金属磁性材料の粉末であるKUAMET(登録商標)6B2(エプソンアトミックス株式会社製、メジアン径30μm)を用意した。このKUAMET 6B2の粉末を遠心力型気流式分級機(日清エンジニアリング製TC-15)で分級して粒状粉末Bを得た。
【0048】
得られた各粉末について、以下の評価方法にて粒度を測定した。
[粉末の粒度]
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-920)により測定した。レーザー回折法により計測される体積基準の粒度分布から、小径側からの累積%が10体積%、50体積%及び90体積%となる粒子径であるd10、d50及びd90を得た。なおd10、d50及びd90について、粒状粉末A(A1及びA2)ではd10A、d50A及びd90Aとし、粒状粉末Bではd10B、d50B及びd90Bとし、粒状粉末A(A1及びA2)と粒状粉末Bの混合粉末ではd10M、d50M及びd90Mとして区別し表記する場合がある。
【0049】
粒状粉末A1はd10A、d50A及びd90Aが、それぞれ2.0μm、6.1μm及び18.2μmであり、粒状粉末A2はそれぞれ1.2μm、2.6μm及び4.9μmであった。
【0050】
粒状粉末Bは、d10B、d50B及びd90Bが、それぞれ10.3μm、21.9μm及び40.5μmであった。
【0051】
粒状粉末A(A1及びA2)と粒状粉末Bを表1-1に示す所定の配合比率で混合して粉末No.1〜15(粒状粉末A1、粒状粉末A2及び粒状粉末Bの単独の粉末も含む)を得た。得られた粉末No.1〜15の粒度及び粒度比を表1-1に示す。
【0052】
得られた粉末No.1〜15について、それぞれの粉末100質量部に対してシリコーン樹脂を5質量部加えて混錬し、成形金型内に充填し、油圧プレス成形機で100 MPaの加圧により成形して、φ13.5 mm×φ7.7 mm×t2.0 mmの円環状の磁心を作製した。作製した磁心について密度、初透磁率、及び増分透磁率の評価を行った。結果を表1-2に示す。
【0053】
なお表中、比較例の試料番号には、末尾に*を付けて区別している。また
図3及び
図4に(d90M-d10M)/d50Mで表される粒度比Pと初透磁率との関係を示す。
【0054】
[密度]
円環状の磁心の外形寸法と重量を計測し、得られた体積と重量から密度を算出した。
【0055】
[初透磁率μi]
円環状の磁心を被測定物とし、導線を30ターン巻回してコイル部品とし、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製4284A)により、室温(25℃)にて周波数100 kHzで測定したインダクタンスから次式により求めた。交流磁界を0.4 A/mとした条件で得られた値を初透磁率μiとした。
初透磁率μi=(le×L)/(μi0×Ae×N
2)
(le:磁路長、L:試料のインダクタンス(H)、μi0:真空の透磁率=4π×10
-7(H/m)、Ae:磁心の断面積、N:コイルの巻数)
【0056】
[増分透磁率μΔ]
初透磁率測定に用いたコイル部品を使って、直流印加装置(42841A:ヒューレットパッカード社製)で10 kA/mの直流磁界を印加した状態にて、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社社製4284A)によりインダクタンスLを周波数100 kHzで室温(25℃)にて測定した。得られたインダクタンスから前記初透磁率μiと同様の計算式にて得られた結果を増分透磁率μΔとした。得られた増分透磁率μΔと初透磁率μiから比μΔ/μi(%)を算出した。
【0057】
【表1-1】
【0058】
【表1-2】
【0059】
表1-1及び表1-2、並びに
図3及び
図4に示すように、粒状粉末A1と粒状粉末Bとを混合して得られた粒度比Pが1.6以上6.0以下である粉末No.4〜7、及び粒状粉末A2と粒状粉末Bとを混合して得られた粒度比Pが1.6以上6.0以下である粉末No.10〜13を使用した場合は、μΔ/μiがFe系非晶質金属磁性材料の粒状粉末Bのみで磁心とした場合と同等であるが、初透磁率μi及び増分透磁率μΔが大きく、優れた直流重畳特性と高い透磁率が得られた。一方、粒度比Pを満足しない粉末No.2*、3*、9*及び14*、並びに粒状粉末A1単独の粉末No.8*、粒状粉末A2単独の粉末No.15*、及び粒状粉末B単独の粉末No.1*では初透磁率μi及び増分透磁率μΔが劣っている。本発明の磁心用の粉末(粉末No.4〜7及び粉末No 10〜13)の方がコイル部品の小型化に有利な高い透磁率や、優れた直流重畳特性を得る点で有利であることが分かる。