特許第6881741号(P6881741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881741
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】多孔質体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20210524BHJP
   C08B 37/08 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   C08J9/28CEP
   !C08B37/08 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-53654(P2017-53654)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-154765(P2018-154765A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】竹下 覚
(72)【発明者】
【氏名】依田 智
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−039845(JP,A)
【文献】 特開平02−238001(JP,A)
【文献】 特開2011−056456(JP,A)
【文献】 特開2008−162098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08B
D04H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有する水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される高分子化合物で形成される直径1nm〜50nmのナノファイバが立体状に架橋された多孔質構造を有し、
前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のうち、一部の前記アミノ基における水素原子が下記一般式(1)及び(2)のいずれかで表される置換基で置換された置換構造を有することを特徴とする多孔質体。
ただし、前記一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数が3以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を示し、は、前記アミノ基における窒素原子との結合であることを示す。
【化1】
【請求項2】
水溶性多糖類が、キトサン及びその塩のいずれかである請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
キトサン及びその塩のアセチル化度が、0%〜65%である請求項2に記載の多孔質体。
【請求項4】
アルキル基が、炭素数4〜7の直鎖状の基である請求項1から3のいずれかに記載の多孔質体。
【請求項5】
密度が0.001g/cm〜0.5g/cmであるとともに、水滴接触角が80°以上である請求項1から4のいずれかに記載の多孔質体。
【請求項6】
ミノ基を有する水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される高分子化合物の水溶解液乃至水分散液に対し、架橋剤を添加して、前記高分子化合物を立体状に架橋させた架橋体を含む湿潤ゲルを形成する湿潤ゲル形成工程と、
前記湿潤ゲル形成工程と同時に実施されるか又は前記湿潤ゲル形成工程の前後に前記湿潤ゲル形成工程と連続して実施され、前記水溶解液乃至水分散液及び前記湿潤ゲルのいずれかに対し、炭素数が4以上のアルデヒド化合物を添加して、前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のうち、一部の前記アミノ基における水素原子が下記一般式(1)及び(2)のいずれかで表される置換基で置換された置換構造を付与して疎水化させる疎水化工程と、
前記湿潤ゲル形成工程及び前記疎水化工程を実施後の前記湿潤ゲルから内部の溶媒を除去し乾燥体として、前記高分子化合物で形成される直径1nm〜50nmのナノファイバが立体状に架橋された多孔質構造を有する多孔質体を得る乾燥工程と、
を含むことを特徴とする多孔質体の製造方法。
ただし、前記一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数が3以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を示し、は、前記アミノ基における窒素原子との結合であることを示す。
【化2】
【請求項7】
水溶性多糖類として、キトサン及びその塩を用いる請求項6に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項8】
アルデヒド化合物として、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール及びオクタナールの少なくともいずれかを用いる請求項6から7のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
【請求項9】
疎水化工程が、キトサン及びその塩100質量部に対し、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール及びオクタナールの少なくともいずれかから選択されるアルデヒド化合物を100質量部〜10,000質量部の割合で添加する工程である請求項8に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性多糖類を用いて形成される多孔質体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース、キチン、キトサン等の多糖類は、バイオマス由来で豊富な資源を有する有機高分子化合物であり、入手容易で高い環境調和性を有する。また、これら多糖類は、天然の動植物が自身を構築する際、直径数nmのナノファイバが緻密に集積した繊維質構造を形成させやすいことが知られている。
近年、これらのバイオマス由来の多糖類ナノファイバを骨格とした低密度多孔質材料が報告され、種々の産業分野での利用が期待されている。
【0003】
本発明者は、キトサン等の水溶性多糖類のナノファイバからなる多孔質体を提案した(非特許文献1及び特許文献1参照)。この多孔質体は、前記多孔質体中の前記ナノファイバ同士が立体的に架橋されたナノメートルサイズの比較的均一な空孔を有する構造とされる。このような多孔質体は、水溶性多糖類が溶解した水溶液を出発原料とし、架橋剤を加えて湿潤ゲルを形成するゲル化工程と、前記湿潤ゲルに含まれる溶媒を除去する乾燥工程によって製造することができる。
前記多孔質体は、低密度(約0.04g/cm)で空隙率が高いことに起因して熱伝導率が低く、また、柔軟性を有することから高性能断熱材としての活用が期待できる。
更に、本発明者は、前記多孔質体の内部に無機ナノ粒子を担持した複合樹脂と、前記複合樹脂を用いたセンサ材料を提案した(非特許文献2参照)。このような複合樹脂は、低密度であることに起因して、環境中の揮発性有機化合物が前記複合樹脂の外部から内部の前記無機ナノ粒子の表面へ容易に到達することから、センサ機能を効率よく発現できる。
しかしながら、前記多孔質体は、前記水溶性多糖類を主成分として構成されるため、表面親水性に富む。このため、空気中の水分を吸着しやすく、十分な長期耐湿性を有さない。
【0004】
前記水溶性多糖類を疎水化する公知の方法として、例えば、無水酢酸を用いたキトサンのアセチル化方法(非特許文献3参照)、カルボン酸に溶解後に行う加熱処理による不溶性キトサン膜の形成方法(特許文献2参照)、ブロモデカンを用いたキトサンの水酸基のデシル基修飾方法(特許文献3参照)、ブロモオクタデカンを用いたキトサンのアミノ基のアルキル基修飾方法(特許文献4参照)、アルデヒド化合物を用いたキトサンのアミノ基のアルキル基修飾方法(非特許文献4、特許文献5,6参照)、シランカップリング試薬を用いたキトサンのトリメチルシリル化方法(非特許文献5参照)等が提案されている。
しかしながら、これらの疎水化方法では、前記水溶性多糖類の均一な溶液乃至懸濁液を出発原料とし、疎水化が完了した時点で水溶性を失うことから、前記水溶液を出発原料とする前記多孔質体の製造工程を適用することができない。
また、前記多孔質体の製造工程を経て製造される、乾燥状態の前記多孔質体に対し、これらの疎水化処理を行うと、疎水化試薬及び溶媒が前記多孔質体の内部に浸透して前記多孔質体の微細構造を変質させるうえ、これらを取り除くための乾燥過程で密度が増加し、断熱材としての機能や、ナノ粒子担持体としての機能を失う。
したがって、前記水溶性多糖類を主成分とした前記多孔質体に対し、密度や微細構造を維持しつつ疎水化する方法としては、何ら存在していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−039845号公報
【特許文献2】特開2012−052017号公報
【特許文献3】特許第5207165号公報
【特許文献4】特開平07−316201号公報
【特許文献5】特許第2962717号公報
【特許文献6】特開2001−187801号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Takeshita et al.,Chem.Mater.27,7569−7572(2015)
【非特許文献2】S.Takeshita et al.,Chem.Mater.28,8466−8469(2016)
【非特許文献3】N.Kubota et al.,Carbohydr.Res.324,268−274(2000)
【非特許文献4】K.Fink et al.,J.Adhes.Sci.Technol.23,297−315(2009)
【非特許文献5】K.Kurita et al.,Carbohydr.Polym.56,333−337(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、水溶性多糖類等を主成分とし、低密度で微細構造を有しつつ、疎水化された多孔質体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
即ち、前記多孔質体の密度を低く維持したまま耐湿性を向上させるためには、前記湿潤ゲルを形成する工程と同時乃至連続的に、高効率で高選択的な反応によって前記水溶性多糖類に疎水性官能基を導入する工程を実施し、前記多孔質体に表面疎水性を付与する必要があるとの結論に達した。
また、前記水溶性多糖類に前記疎水性官能基を導入させる方法として、キトサン等の一部の水溶性多糖類が有するアミノ基と、疎水基を有するアルデヒド化合物を反応させる方法が最良であるとの知見を得た。
また、前記水溶性多糖類と前記アルデヒド化合物との反応は、親水性溶媒中で容易に進行し、更に、前記水溶性多糖類をゲル化させるための架橋反応と同時乃至連続的に進行することから、工程数を増加させることなく、あるいは、工程数の増加を最小限に抑えつつ、低密度で微細構造を有しつつ、前記多孔質体を疎水化することができるとの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アミノ基を有する水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される高分子化合物で形成される直径1nm〜50nmのナノファイバが立体状に架橋された多孔質構造を有し、前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のうち、一部の前記アミノ基における水素原子が下記一般式(1)及び(2)のいずれかで表される置換基で置換された置換構造を有することを特徴とする多孔質体。
ただし、前記一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数が3以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を示し、は、前記アミノ基における窒素原子との結合であることを示す。
【化1】
<2> 水溶性多糖類が、キトサン及びその塩のいずれかである前記<1>に記載の多孔質体。
<3> キトサン及びその塩のアセチル化度が、0%〜65%である前記<2>に記載の多孔質体。
<4> アルキル基が、炭素数4〜7の直鎖状の基である前記<1>から<3>のいずれかに記載の多孔質体。
<5> 密度が0.001g/cm〜0.5g/cmであるとともに、水滴接触角が80°以上である前記<1>から<4>のいずれかに記載の多孔質体。
<6>ミノ基を有する水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される高分子化合物の水溶解液乃至水分散液に対し、架橋剤を添加して、前記高分子化合物を立体状に架橋させた架橋体を含む湿潤ゲルを形成する湿潤ゲル形成工程と、前記湿潤ゲル形成工程と同時に実施されるか又は前記湿潤ゲル形成工程の前後に前記湿潤ゲル形成工程と連続して実施され、前記水溶解液乃至水分散液及び前記湿潤ゲルのいずれかに対し、炭素数が4以上のアルデヒド化合物を添加して、前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のうち、一部の前記アミノ基における水素原子が下記一般式(1)及び(2)のいずれかで表される置換基で置換された置換構造を付与して疎水化させる疎水化工程と、前記湿潤ゲル形成工程及び前記疎水化工程を実施後の前記湿潤ゲルから内部の溶媒を除去し乾燥体として、前記高分子化合物で形成される直径1nm〜50nmのナノファイバが立体状に架橋された多孔質構造を有する多孔質体を得る乾燥工程と、を含むことを特徴とする多孔質体の製造方法。
ただし、前記一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数が3以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を示し、は、前記アミノ基における窒素原子との結合であることを示す。
【化2】
<7> 水溶性多糖類として、キトサン及びその塩を用いる前記<6>に記載の多孔質体の製造方法。
<8> アルデヒド化合物として、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール及びオクタナールの少なくともいずれかを用いる前記<6>から<7>のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
<9> 疎水化工程が、キトサン及びその塩100質量部に対し、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール及びオクタナールの少なくともいずれかから選択されるアルデヒド化合物を100質量部〜10,000質量部の割合で添加する工程である前記<8>に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、水溶性多糖類等を主成分とし、低密度で微細構造を有しつつ、疎水化された多孔質体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】多孔質体の合成スキームの一例を示す図である。
図2】実施例1〜3及び比較例1に係る各多孔質体の赤外吸収スペクトルを示す図である。
図3】実施例1及び比較例1に係る各多孔質体の水滴接触角を示す図である。
図4(a)】比較例1に係る多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図4(b)】実施例1に係る多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図5】実施例4〜8に係る各多孔質体の赤外吸収スペクトルを示す図である。
図6】実施例1及び比較例1に係る各多孔質体に対する耐湿試験の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質体)
本発明の多孔質体は、高分子化合物で形成される直径1nm〜50nmのナノファイバが立体的に架橋された多孔質構造を有し、前記高分子化合物を構成する全構成単位中のアミノ基のうち、一部の前記アミノ基における水素原子が後述の置換基で置換された置換構造を有する。
【0013】
<高分子化合物>
前記高分子化合物は、前記アミノ基を有する水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される。
【0014】
前記水溶性多糖類としては、前記アミノ基を有し、かつ、水溶性であれば特に制限はなく、公知の水溶性多糖及び多糖の塩が挙げられる。
前記水溶性多糖としては、特に制限はないが、キトサンが好ましい。即ち、前記キトサンは、単位分子量当たりの前記アミノ基の数が多いことから、前記多孔質体に好適な疎水性、低密度及び構造均一性を付与することができる。
前記多糖の塩としては、特に制限はなく、前記水溶性多糖の塩及び塩の状態で水溶性を示す多糖化合物が挙げられる。前記水溶性多糖の塩としては、特に制限はなく、前記水溶性多糖が前記キトサンであれば、キトサン塩酸塩、キトサン酢酸塩、キトサン硫酸塩、キトサンギ酸塩等のキトサン塩が挙げられる。
また、前記キトサンはキチンを脱アセチル化したものであるが、前記キトサン及び前記キトサン塩としては、水溶性の観点からアセチル化度が0%〜65%のものが好ましい。
【0015】
ここで、「水溶性」とは、水又は酸性から塩基性の水溶液に可溶であることを意味し、「水又は酸性から塩基性の水溶液に可溶である」とは、前記水溶性多糖類が水又は酸性から塩基性の水溶液1Lに対し、少なくとも1gが可溶であることを意味する。また、「可溶」とは、沈殿を生じない状態で水又は酸性から塩基性の水溶液に溶解乃至分散可能なことを意味し、条件として後述の架橋剤との架橋反応を損なわない温度範囲で水又は酸性から塩基性の水溶液が加熱、冷却される場合を含む。
【0016】
前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体としては、前記アミノ基を有するものであれば特に制限はなく、また、必ずしも前記水溶性を有する必要はない。
前記誘導体としては、例えば、カルボキシルメチルキトサン、トリメチルシリルキトサン、アシルキトサン、カルボキシルアシルキトサン等が挙げられる。
前記誘導体が前記水溶性を有さない場合には、水溶液中の前記水溶性多糖類を公知の方法で化学修飾し、その水溶液を後述の架橋反応や前記置換構造を形成する置換反応に供することができる。
【0017】
なお、前記高分子化合物の分子量としては、特に制限はなく、例えば、数平均分子量で10,000〜1,000,000程度である。
また、これら高分子化合物は、1種単独であってもよく2種以上が併用されていてもよい。
【0018】
<多孔質構造>
前記多孔質構造は、前記高分子化合物のナノファイバが立体的に架橋されて構成される。
前記架橋の方法としては、特に制限はなく、公知の架橋剤により化学架橋、静電的結合による物理架橋を生成する方法が挙げられる。
【0019】
前記化学架橋を形成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、アルデヒド基による化学架橋を生成するもの、エポキシ基による化学架橋を生成するもの、シラノール基による化学架橋を生成するもの等が挙げられる。
前記アルデヒド基による化学架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。
また、前記エポキシ基による化学架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン、メタクリル酸グリシジル、水溶性エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、前記シラノール基による化学架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0020】
前記静電的結合による物理架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0021】
<置換構造>
前記置換基は、下記一般式(1)及び(2)のいずれかで表される基である。
ただし、前記一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数が3以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を示し、は、前記アミノ基における窒素原子との結合であることを示す。
前記多孔質体では、疎水基としての前記アルキル基が付与されることで、疎水化される。
【0022】
【化3】
【0023】
前記直鎖状のアルキル基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
また、前記分岐状のアルキル基としては、例えば、iso−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ペンチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
また、前記環状のアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基等が挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、3以上であれば特に制限はないが、20以下が好ましく、7以下がより好ましい。即ち、前記炭素数が20を超えると、前記アミノ基への導入が困難となることがある。なお、前記炭素数が3未満であると、前記多孔質体の疎水化が不十分となる。
中でも、前記アルキル基としては、炭素数4〜7の直鎖状の基であることが好ましい。このようなアルキル基であると、前記多孔質体に優れた疎水性を付与するとともに、前記アミノ基へ導入させ易い。
更に、前記アルキル基としては、炭素数4又は5の直鎖状の基であることが特に好ましい。このようなアルキル基であると、更に、前記多孔質体をより低密度で製造することができる。
【0024】
前記置換構造は、前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のうち、一部の前記アミノ基における水素原子と置換された構造とされる。
即ち、前記アミノ基としては、複数の前記高分子化合物のナノファイバを架橋させる際、前記架橋剤による架橋反応部位とされることがあり、前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のすべてが前記置換構造で置換される必要はない。前記アミノ基が前記架橋剤による架橋反応部位とされる場合、前記アミノ基に対する前記架橋剤による架橋反応と前記置換構造における置換反応とは、競合反応とされる。
【0025】
なお、前記多孔質体としては、発明の効果を妨げない限り、必要に応じて、公知の添加剤を含むこととしてもよい。
前記添加剤としては、特に制限はなく、例えば、公知の可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等が挙げられる。なお、これら添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
<多孔質体の特性>
前記多孔質体の密度としては、特に制限はないが、0.001g/cm〜0.5g/cmであることが好ましい。
前記多孔質体が、前記密度を有すると、前記多孔質体の伝導伝熱性が低くなり、前記多孔質体を断熱性に優れた材料とすることができる。一方で、密度が低すぎると機械的な安定性を損なうことがある。こうした観点から、前記密度としては、0.005g/cm〜0.2g/cmであることがより好ましい。
前記多孔質体としては、前記密度を有しつつ、構造の機械的安定性を備える上で、繊維状体の前記高分子化合物のナノファイバが緻密に絡み合うように立体状に架橋された構造を有することが有利となる。
前記高分子化合物のナノファイバとしては、乾燥固体としての前記多孔質体の状態で、直径1nm〜50nmの繊維状体として存在し、直径20nm以下の繊維状体として存在することが好ましい。また、前記高分子化合物のナノファイバの長さとしては、長い程優れた機械的安定性が得られ易く、20nm以上が好ましい。
【0027】
また、前記多孔質体としては、特に制限はないが、常温、常圧の大気下において、水滴に対する静的接触角が80°以上であることが好ましい。前記多孔質体が、前記接触角を有すると、前記多孔質体が十分な疎水性を有し、大気中の水蒸気の吸湿を抑制することで耐湿性に優れた材料とすることができる。
【0028】
(多孔質体の製造方法)
本発明の多孔質体の製造方法は、湿潤ゲル形成工程と、疎水化工程と、乾燥工程とを含む。
【0029】
<湿潤ゲル形成工程>
前記湿潤ゲル形成工程は、直径1nm〜50nmのナノファイバ状とされるとともにアミノ基を有する水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される高分子化合物の水溶解液乃至水分散液に対し、架橋剤を添加して、前記高分子化合物を立体状に架橋させた架橋体を含む湿潤ゲルを形成する工程である。
前記高分子化合物及び前記架橋剤としては、本発明の前記多孔質体について説明した事項を適用することができる。
なお、前記架橋剤の添加量としては、前記架橋剤の種類によって異なり、それぞれ好適な添加量範囲がある。前記架橋剤の添加量が少なすぎると前記高分子化合物が安定な前記湿潤ゲルが生成されないことがあり、多すぎると前記置換構造の導入が阻害され、前記多孔質体の疎水性が十分に付与されないことがある。
【0030】
前記湿潤ゲル形成工程では、前記高分子化合物の水溶解液乃至水分散液を用意する必要がある。
前記水溶解液乃至水分散液としては、前記水溶性多糖類を水又は酸性から塩基性の水溶液である溶媒に溶解乃至透明に分散させることで調製することができる。
例えば、前記水溶性多糖類として前記キトサンを用いる場合は、溶媒に希酢酸水溶液を選択する。この際、溶媒中のキトサン濃度としては、5g/L〜20g/Lが好ましい。また、前記水溶性多糖類として前記キトサン塩を用いる場合は、溶媒に水を選択する。この際、キトサン塩濃度としては、5g/L〜20g/Lが好ましい。前記キトサン及び前記キトサン塩の濃度が高すぎると架橋密度が増大し、得られる多孔質体の密度が増大する。一方で、前記キトサン及び前記キトサン塩の濃度が低すぎると機械的安定性が損なわれることや、湿潤なゲルを形成しないことがある。
なお、例示以外の前記高分子化合物についても適宜溶媒及び濃度を選択して前記高分子化合物の溶液を調製することができる。
【0031】
<疎水化工程>
疎水化工程は、前記湿潤ゲル形成工程と同時に実施されるか又は前記湿潤ゲル形成工程の前後に前記湿潤ゲル形成工程と連続して実施され、前記水溶解液乃至水分散液及び前記湿潤ゲルのいずれかに対し、炭素数が4以上のアルデヒド化合物を添加して、前記高分子化合物を構成する全構成単位中の前記アミノ基のうち、一部の前記アミノ基におけるの水素原子が下記一般式(1)及び(2)のいずれかで表される置換基で置換された置換構造を付与して疎水化させる工程である。
ただし、前記一般式(1)及び(2)中、Rは、炭素数が3以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を示し、は、前記アミノ基における窒素原子との結合であることを示す。
【0032】
【化4】
【0033】
前記置換構造としては、本発明の前記多孔質体について説明した事項を適用することができる。
【0034】
前記アルデヒド化合物は、前記多孔質体に前記置換構造を形成する目的で添加される。
前記アルデヒド化合物としては、前記多孔質体に前記置換構造を形成可能であれば、特に制限はないが、前記水溶性多糖類と均一に混合させる観点から、水又は親水性溶媒に溶解するか、前記水又は前記親水性溶媒に混合した際に均一相を形成するものが好ましい。
前記親水性溶媒とは、使用する温度・圧力条件において前記水と均一相を形成する溶媒のことを意味し、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ピリジン等が挙げられる。
また、「均一相を形成する」とは、2種の液体を任意の比率で混合した際に相分離を起こさないことを意味する。
また、「水又は親水性溶媒に溶解する」とは、前記アルデヒド化合物が水又は親水性溶媒1Lに対し、少なくとも1gが可溶であることを意味する。
【0035】
前記アルデヒド化合物としては、前記置換構造における炭素数に応じて選択することができ、例えば、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、ピバルアルデヒド、シクロヘキサンカルバルデヒド等が挙げられる。
これらの中でも、前記多孔質体に炭素数4〜7の直鎖状の前記アルキル基を有する置換構造を付与する観点から、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナールが好ましく、前記多孔質体に炭素数4又は5の直鎖状の前記アルキル基を有する置換構造を付与する観点から、ペンタナール、ヘキサナールがより好ましい。
なお、前記アルデヒド化合物としては、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記アルデヒド化合物の添加量としては、特に制限はなく、前記高分子化合物及び前記アルデヒド化合物の種類によっても異なるが、前記高分子化合物としてキトサン及びその塩を選択し、前記アルデヒド化合物としてペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール及びオクタナールの少なくともいずれかを選択する場合、キトサン及びその塩100質量部に対し、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール及びオクタナールの少なくともいずれかから選択されるアルデヒド化合物を100質量部〜10,000質量部の割合で添加することが好ましい。このような添加量であると、前記架橋剤による前記高分子化合物の架橋体の形成を妨げることなく、疎水性に優れた前記多孔質体を得ることができる。
【0037】
前記疎水化工程では、前記湿潤ゲルに含まれる溶媒を、のちの乾燥過程に適したものに交換する溶媒交換処理を行ってもよい。交換する前記溶媒としては、特に制限はないが、メタノール、エタノール、2−プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等が好ましい。
【0038】
前記湿潤ゲル形成工程における架橋反応及び前記疎水化工程における前記置換構造の導入には、通常、数時間〜数日を要し、反応が収束するまでの所要時間としては、反応の種類によって異なる。反応時間を短縮する観点から、前記水溶解液乃至水分散液及び前記湿潤ゲルを30℃〜100℃の温度で加温しながら前記湿潤ゲル形成工程及び前記疎水化工程を実施してもよい。
【0039】
前記疎水化工程は、前記湿潤ゲル形成工程と同時に実施してもよいし、前記湿潤ゲル形成工程の前後に前記湿潤ゲル形成工程と連続して実施してもよい。
前記湿潤ゲル形成工程の前に前記湿潤ゲル形成工程と連続して実施する場合、前記アミノ基に対し前記置換構造を付与する置換反応が収束した段階では、後に実施する前記湿潤ゲル形成工程における前記架橋反応が進行しないことから、前記湿潤ゲル形成工程は、前記置換反応の収束前に行う必要がある。即ち、前記湿潤ゲル形成工程の前に前記疎水化工程を実施する場合の「湿潤ゲル形成工程と連続して実施する」とは、前記疎水化工程における前記置換反応が収束する前に前記湿潤ゲル形成工程を実施することを意味する。
また、前記湿潤ゲル形成工程の後に前記湿潤ゲル形成工程と連続して実施する場合、前記架橋反応が収束した段階では、後に実施する前記疎水化工程における前記置換反応が進行しないことがあり、前記疎水化工程は、前記架橋反応の収束前に行う必要がある。即ち、前記湿潤ゲル形成工程の後に前記疎水化工程を実施する場合の「湿潤ゲル形成工程と連続して実施する」とは、前記湿潤ゲル形成工程における前記架橋反応が収束する前に前記疎水化工程を実施することを意味する。
【0040】
前記湿潤ゲル形成工程における架橋反応及び前記疎水化工程における前記置換構造の導入反応に基づく前記多孔質体の合成スキームの一例を図1に示す。なお、前記合成スキームは、前記水溶性多糖類として前記キトサンを用い、前記架橋剤として前記ホルムアルデヒドを用いた場合の例を示している。
図1に示すように、前記湿潤ゲル形成工程において、前記ホルムアルデヒドを添加すると、前記キトサンの前記アミノ基と前記ホルムアルデヒドとが反応し、複数の前記キトサンが架橋される。また、前記疎水化工程において、前記アルデヒド化合物を添加すると、前記キトサンの構成単位中の未反応の前記アミノ基と前記アルデヒド化合物とが反応し、前記アミノ基の前記水素原子が前記一般式(1)及び(2)で表される置換基と置換され、前記置換基中のアルキル基により前記多孔質体に疎水性が付与される。
これら架橋反応及び置換基の導入反応は、競合的に進行し、前記キトサン中の前記アミノ基の一部が前記架橋反応に供されるとともに、前記アミノ基の他の一部は、前記置換構造の導入反応に供されることとなる。
なお、図1では、前記一般式(1)で表される置換基による置換反応を示しているが、反応条件により前記一般式(2)で表される置換基による置換反応で、前記アミノ基が置換されてもよい。
【0041】
<乾燥工程>
前記乾燥工程は、前記湿潤ゲル形成工程及び前記疎水化工程を実施後の前記湿潤ゲルから内部の溶媒を除去して乾燥体としての多孔質体を得る工程である。
前記乾燥工程で実施される乾燥の方法としては、特に制限はないが、気液界面における界面張力の発生による応力の影響が低く抑えられ、前記湿潤ゲルの収縮が最小限にとどめられる方法が好ましく、例えば、超臨界乾燥法、常圧乾燥法が挙げられる。
【0042】
即ち、前記超臨界乾燥法では、例えば、前記湿潤ゲルの溶媒をメタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチルエーテル、アセトン、液化二酸化炭素等又はこれらの混合溶媒に交換し、昇温・昇圧によって超臨界流体としたのち、気液界面を発生させることなく前記超臨界流体を除去することで、乾燥した多孔質体を得ることができる。
【0043】
また、前記常圧乾燥では、前記湿潤ゲルの溶媒を界面張力の小さい溶媒、例えば、ヘキサン、メチルノナフルオロブチルエーテル等に交換し、常圧で徐々に蒸発させることで、乾燥した多孔質体を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
先ず、粉末状のキトサン(和光純薬工業株式会社製のキトサン100、アセチル化度:20%以下)を2体積%酢酸水溶液に溶解させ、10g/Lキトサン水溶液を調製した。
次に、ヘキサナールとメタノールとを体積比1:2で混合し、ヘキサナール溶液を調製した。また、36質量%ホルムアルデヒド水溶液を用意した。
次に、前記キトサン水溶液3.0mL、前記ヘキサナール溶液3.0mL、前記ホルムアルデヒド水溶液1.5mLを混合し、この混合液を密閉容器中、60℃で1昼夜熟成し、湿潤ゲルを得た(湿潤ゲル形成工程及び疎水化工程)。
なお、前記ヘキサナールは、前記キトサン100質量部に対し、前記ヘキサナールの添加量が2,700質量部の割合となるように添加した。
【0046】
この湿潤ゲルを次のように超臨界乾燥させた(乾燥工程)。
先ず、この湿潤ゲルをメタノールに4日間以上浸漬して溶媒置換を行った。この際、前記メタノールは逐次交換し、前記湿潤ゲル中に含まれる水分及び未反応成分を除去した。
次に、溶媒置換が完了した状態の前記湿潤ゲルをメタノール約150mLとともに容積470mLの圧力容器に封入し、80℃まで加温しつつ、二酸化炭素を注入して20MPaまで加圧した。容器内が平衡に達して、前記メタノールと前記二酸化炭素とが均一相を形成するのを待つため、80℃、20MPaの条件下で一昼夜保持した。
次に、80℃、20MPaの条件を保持したまま、二酸化炭素を連続的に注入しつつ前記圧力容器内の流体を排出し、約10時間かけて前記メタノールを抽出した。
次に、抽出後、12時間かけて前記圧力容器内の前記二酸化炭素を徐々に排出することで常圧まで減圧し、前記圧力容器内に残留する乾燥固体(エアロゲル)を得た。
以上により、乾燥固体としての実施例1に係る多孔質体を製造した。
【0047】
(実施例2)
ヘキサナール溶液のヘキサナールとメタノールとの体積比を1:2から1:3に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る多孔質体を製造した。なお、前記ヘキサナールは、前記キトサン100質量部に対し、前記ヘキサナールの添加量が2,000質量部の割合となるように添加される。
【0048】
(実施例3)
ヘキサナール溶液のヘキサナールとメタノールとの体積比を1:2から1:5に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る多孔質体を製造した。なお、前記ヘキサナールは、前記キトサン100質量部に対し、前記ヘキサナールの添加量が1,400質量部の割合となるように添加される。
【0049】
(比較例1)
ヘキサナール溶液を純粋なメタノールに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る多孔質体を製造した。
【0050】
(実施例4)
先ず、粉末状のキトサン(和光純薬工業株式会社製のキトサン100、アセチル化度:20%以下)を1体積%酢酸水溶液に溶解させ、10g/Lキトサン水溶液を調製した。
次に、オクタナールとメタノールを体積比1:2で混合し、オクタナール溶液を調整した。また、36質量%ホルムアルデヒド水溶液を用意した。
次に、前記キトサン水溶液3.0mL、前記オクタナール溶液3.0mL、前記ホルムアルデヒド水溶液1.5mLを混合し、この混合液を密閉容器中、60℃で1昼夜熟成して湿潤ゲルを得た(湿潤ゲル形成工程及び疎水化工程)。
次に、この湿潤ゲルに対し、実施例1と同様に超臨界乾燥を行い、実施例4に係る多孔質体を製造した。
【0051】
(実施例5)
オクタナールをヘプタナールに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5に係る多孔質体を製造した。
【0052】
(実施例6)
オクタナールをペンタナールに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る多孔質体を製造した。
【0053】
(実施例7)
オクタナールをピバルアルデヒドに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例7に係る多孔質体を製造した。
(実施例8)
オクタナールをシクロヘキサンカルバルデヒドに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例8に係る多孔質体を製造した。
【0054】
(多孔質体の特性)
実施例1〜8及び比較例1に係る各多孔質体に対して、以下の方法で、密度、赤外吸収スペクトル及び水滴接触角の測定又は算出を行った。
【0055】
<密度>
密度(g/cm)は、測定したサンプルの体積及び重量から算出した。なお、実施例1〜3及び比較例1については、複数回作製して平均値を密度とした。
【0056】
<赤外吸収スペクトル>
粉体化した前記多孔質体と臭化カリウム粉体を混合して成形したペレットを検体とし、フーリエ変換赤外吸光分光光度計(日本分光FT/IR−660plus)を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。
【0057】
<水滴接触角>
自動接触角計(協和界面科学DMs−401)を用いて、モノリス状の前記多孔質体に超純水1μLを滴下し、滴下直後の水滴の形状を撮影した。得られた画像から、θ/2法を用いて接触角を測定した。
また、滴下後10秒間水滴を保持したのち再度接触角を測定し、接触角保持率を算出した。なお、前記接触角保持率は、下記(3)式により求めることができる。
接触角保持率=(滴下10秒後の接触角/滴下直後の接触角)×100% (3)
ただし、水滴が試料内部に完全に浸透して前記接触角が測定できない場合は、前記接触角を0°として扱った。
【0058】
実施例1〜3及び比較例1に係る各多孔質体の密度及び水滴接触角を下記表1に示す。また、実施例1〜3及び比較例1に係る各多孔質体の赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
上掲表1に示すように、実施例1〜3及び比較例1に係る各多孔質体の密度は、実用上求められる0.5g/cmよりも低い値であり、すべて0.2g/cmを下回っている。
また、図2に示すように、実施例1〜3に係る各多孔質体の波数2,865〜2,920cm−1のC−H伸縮振動に帰属される振動ピークの相対強度が、比較例1に係る多孔質体の前記相対強度に比べて増大しており、実施例1〜3に係る各多孔質体にアルキル基が導入されたことを示している。
【0061】
また、上掲表1に示すように、実施例1〜3に係る各多孔質体の水滴接触角は、すべて80°以上であった。また、実施例1〜3に係る各多孔質体では、メタノールに対するヘキサナールの体積比が増加するにつれて、水滴接触角が増大する傾向を示した。このことは、ヘキサナールの添加量が増加するほど、多孔質体に導入されるアルキル基の量が増加し、その結果、多孔質体の疎水性が増加することを示している。
【0062】
図3は、実施例1及び比較例1に係る各多孔質体ついて、水滴接触角測定の際に取得した画像のうち、水滴を滴下した直後の画像と、滴下10秒後の画像を示したものである。この図3から、アルキル基としてペンチル基を導入した実施例1に係る多孔質体では、滴下直後の接触角が大きいだけではなく、滴下後の水滴の浸透が抑制されていることがわかる。
【0063】
多孔質体の微視的構造を走査型電子顕微鏡(日立製作所、SU―9000)を用いて観察した結果について説明する。
一例として、図4(a)に、比較例1に係る多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この図4(a)から、比較例1に係る多孔質体は、直径5〜10nm程度のキトサンナノファイバが立体的に絡み合うように架橋された構造を有することが観察される。
また、図4(b)に実施例1に係る多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この図4(b)から、ペンチル基を導入した実施例1に係る多孔質体は、比較例1に係る多孔質体と同様に、直径5〜10nm程度のキトサンナノファイバが立体的に絡み合うように架橋された構造を有することが観察される。即ち、ペンチル基を導入した多孔質体でも、キトサンナノファイバからなる多孔質の微細構造が維持されている。
【0064】
実施例4〜6における密度及び水滴接触角を下記表2に示す。また、実施例4〜6に係る各多孔質体の赤外吸収スペクトルを図5に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
上掲表2に示すように、実施例4〜8に係る各多孔質体では、実用上求められる0.5g/cmよりも低い密度が得られている。
この点、実施例4,5に係る各多孔質体では、アルキル基の導入によって湿潤ゲルが顕著に収縮し、密度が0.2g/cmを上回った。一方、実施例6〜8に係る各多孔質体では、このような収縮は見られず、密度が0.2g/cmを下回った。
また、図5に示すように、実施例4〜6に係る各多孔質体では、波数2,865〜2,920cm−1のC−H伸縮振動に帰属される振動ピークの相対強度が顕著に増加しており、アルキル基が導入されている。一方、実施例7,8に係る各多孔質体では、前記振動ピークの増大が小さく、アルキル基の導入が不十分であることが示唆される。
また、上掲表2に示すように、実施例4〜6に係る各多孔質体では、水滴接触角が80°以上であった。一方、実施例7,8に係る各多孔質体では、水滴接触角が80°を下回った。
これらの結果より、疎水性付与の観点から、アルキル基が効率よく導入されるアルデヒド化合物としてオクタナール、ヘプタナール、ヘキサナール、ペンタナール等が好ましい。その中でも、密度を低く抑える観点から、ヘキサナール、ペンタナール等の適度な長さを有するアルデヒド化合物がより好ましい。
【0067】
<耐湿試験>
実施例1及び比較例1に係る各多孔質体に対し、耐湿試験を次のように行った。
即ち、恒温恒湿機(ヤマト科学IG420)を用いて、モノリス状の前記多孔質体を温度30℃、相対湿度70%の環境下に20分間静置し、その際の外観の変化をファイバースコープによって撮影した。得られた画像より、静置開始時の前記多孔質体の長径を100%とし、長径の時間変化を測定した。
図6に、実施例1及び比較例1に係る多孔質体に対する耐湿試験の測定結果を示す。
この図6に示すように、20分静置後の前記多孔質体の長径は、実施例1で初期の88%、比較例1で初期の66%まで吸湿によって収縮した。即ち、比較例1に係る多孔質体に対し、実施例1に係る多孔質体では、吸湿による収縮変化を小さく抑えることができており、耐湿性に優れる。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6