特許第6882912号(P6882912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6882912溶液およびその製造方法、ならびに二次電池用活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6882912
(24)【登録日】2021年5月11日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】溶液およびその製造方法、ならびに二次電池用活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20210524BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210524BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210524BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210524BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C01G33/00 A
   H01M4/36 C
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G23/00 C
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-45206(P2017-45206)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-2581(P2018-2581A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-127279(P2016-127279)
(32)【優先日】2016年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】相木 良明
(72)【発明者】
【氏名】上山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−210701(JP,A)
【文献】 特開2015−103321(JP,A)
【文献】 特開2020−75846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
C01G 23/00
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと、ニオブ錯体およびチタン錯体のうち少なくともいずれかである金属錯体と、アンモニアを含有する溶液であって、当該溶液における当該アンモニアの量は1質量%以下であり、当該溶液における過酸化水素の含有量は1質量%以下であ溶液。
【請求項2】
前記金属錯体はペルオキシ基を有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記金属錯体における金属の原子に対する前記リチウムにおける原子のモル比は0.8〜2.0である、請求項2に記載の溶液。
【請求項4】
還元性化合物をさらに含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の溶液。
【請求項5】
前記溶液における前記還元性化合物の割合は0.01質量%〜5.0質量%である、請求項4に記載の溶液。
【請求項6】
二次電池用の活物質に対し、請求項1〜のいずれかに記載の溶液による表面処理を行う工程と、
表面処理された前記活物質を熱処理する工程と、を有する、二次電池用活物質の製造方法。
【請求項7】
前記活物質はリチウムを含有する酸化物である、請求項に記載の二次電池用活物質の製造方法。
【請求項8】
前記活物質はリチウムを含有する酸化物であり、前記活物質の主表面にはニオブ酸リチウム化合物およびチタン酸リチウム化合物のうち少なくともいずれかが付着している、請求項またはに記載の二次電池用活物質の製造方法。
【請求項9】
ニオブ酸およびチタン酸のうち少なくともいずれかとアンモニアとを混合して溶液中にて金属錯体を形成する工程と、前記溶液中にて前記金属錯体とリチウム化合物とを混合する工程と、混合された溶液において前記アンモニアの量が1質量%以下になるまで前記アンモニアを除去する工程と有する溶液の製造方法。
【請求項10】
前記混合された溶液において過酸化水素量を1質量%以下になるまで過酸化水素を除去する工程を有する、請求項に記載の溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極活物質を形成するのに好適な保存安定性と電池特性を示す溶液、およびその製造方法、ならびにその溶液を用いて形成される二次電池形成用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴がある。そこで、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されている。また、近年、ハイブリッド自動車用等の大型動力用の二次電池としての需要も高まりつつある。
【0003】
リチウムイオン電池では有機溶媒に塩を溶解させた非水溶媒電解質が、電解質として一般的に用いられている。ところが、当該非水溶媒電解質が可燃性のものであることから、リチウムイオン電池は安全性に対する問題を解決する必要がある。当該安全性を確保するために、例えば、リチウムイオン電池へ安全装置を組み込む等の対策が実施されている。また、より抜本的な解決法として、上述した電解質を不燃性の電解質とすること、即ちリチウムイオン伝導性の固体電解質とする方法が提案されている。
【0004】
一般的に電池の電極反応は、電極活物質と電解質との界面で生じる。ここで、当該電解質に液体電解質を用いた場合は、電極活物質を含有する電極を当該液体電解質に浸漬することで、当該液体電解質が活物質粒子間に浸透し反応界面が形成される。一方、当該電解質に固体電解質を用いた場合は、固体電解質にはこのような活物質粒子間への浸透機構がない為、あらかじめ電極活物質粒子を含む粉体と固体電解質の粉体とを混合する必要がある。この為、全固体リチウムイオン電池の正極は、通常、正極活物質の粉体と固体電解質との混合物となる。
【0005】
ところが、全固体リチウムイオン電池においては、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際に発生する抵抗(以下、「界面抵抗」と記載する場合がある。)が増大し易い。当該界面抵抗が増大した場合、全固体リチウムイオン電池において電池容量等の性能が低下することになる。
【0006】
ここで、当該界面抵抗の増大は、正極活物質と固体電解質とが反応して正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることが原因である旨、の報告(非特許文献1)がある。そして、非特許文献1には、正極活物質であるコバルト酸リチウムの表面をニオブ酸リチウムによって被覆することにより界面抵抗を低減させ、全固体リチウムイオン電池の性能向上を図る提案が開示されている。
【0007】
また非特許文献2にはコバルト酸リチウムの表面をチタン酸リチウムによって被覆することにより界面抵抗を低減させ、全固体リチウムイオン電池の性能向上を図る提案が開示されている。
【0008】
具体的には、コバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物表面上へ、Nbアルコキシド、TiアルコキシドやLiアルコキシド等の金属アルコキシドが混合されたアルコール溶液を接触させた後、当該リチウム−金属酸化物を大気中で焼成して、表面にニオブ酸リチウムやチタン酸リチウムを被覆することが提案されている。
【0009】
一方、特許文献1にも、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの製造方法について提案されている。具体的には、コバルト酸リチウムの表面に、NbエトキシドやLiエトキシド等の金属アルコキシドが混合されたアルコール溶液を接触させた後、当該コバルト酸リチウムを260℃〜300℃の比較的低温で焼成したものである。当該低温焼成によって、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの結晶化を抑制することで、被覆層の界面抵抗を低減しようとする提案である。
【0010】
また、特許文献2には、リチウムおよびニオブ錯体を含有する溶液を用いて、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムを製造する方法について提案されている。さらに本発明者は、特許文献3、4において、沈殿物を生成しにくい保存安定性に優れたリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液、およびその製造方法について開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−129190号公報
【特許文献2】特開2012−074240号公報
【特許文献3】特開2014−210701号公報
【特許文献4】特開2015−103321号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Electrochemistry Communications,9(2007)p.1486〜1490
【非特許文献2】Advanced Materials,18(2006)p.2226〜2229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の通り特許文献3、4において、本願発明者らは、沈殿物を生成しにくく保存安定性に優れたリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を開示した。この手法によれば、ニオブ錯体を用い、正極活物質表面にニオブ酸リチウム化合物を形成する手法において、喫緊の課題とされていたニオブ錯体を含む溶液の保存安定性において劇的な改善をなし得ることができた。
【0014】
上記のニオブ錯体を形成させる工程において、アンモニアは必須の構成成分である。溶液中のアンモニアの量が少なくなりすぎてしまうと、本来必要であるはずのニオブ錯体が不溶性の水酸化ニオブへと変化してしまうため、アンモニアは液中に残存していることが好ましいと考えられてきた。
【0015】
しかしながら、溶液中の過剰のアンモニアは活物質に化学的なダメージを与え、ひいては電池特性の劣化を引き起こす事が明らかになってきた。
【0016】
また、その製造過程において安定した錯体を得るためには、アンモニアをニオブ原子1モルに対してアンモニアを2モル以上投入する必要があるが、必然的に多くのアンモニアが溶液中に残存する事になる。従来の製造方法によれば、こうした過剰なアンモニアについての除去工程を備えていないので、錯体合成後に溶液中に多くのアンモニアが残留することになっていた。そもそも、アンモニアはニオブ錯体の安定化には多大な寄与をするため、特段除去することは行わなかった。
【0017】
さらに、反応工程において、過酸化水素を添加して反応を行う場合がある。その場合、溶液中の過酸化水素添加量が少なすぎると、形成させたニオブ錯体が、目的としていない水酸化ニオブへと変化し、活物質に被覆層を形成させがたい場合がある。そのため、過酸化水素は液中に残存していることが好ましいと考えてきたが、保存環境によっては、溶液から自己分解により発生する発熱および発泡が生じる場合があり、工業的に生産し、貯蔵を行うには、ハンドリングや設備の腐食等の問題で支障となり得る可能性が徐々に明らかとなってきた。
【0018】
ここで、ハンドリング時の問題とは液の移送や貯蔵時に、過酸化水素の分解によって溶液の成分が変化する事を言い、腐食の問題とは配管やタンク等の材質を酸化劣化させてしまうことを指す。この問題は、溶液中の過酸化水素量が多くなればなるほど可能性が高くなると考えられる。すなわち、錯体の安定性を支える過酸化水素の発泡により、ハンドリングや腐食が課題として浮上してきた。
【0019】
ただ、ニオブ錯体のうちあくまで一例ではあるがニオブのペルオキソ錯体を形成させる工程において、過酸化水素も必須の構成成分といえる。また、その生成過程において安定して錯体を得るためには、過酸化水素をニオブ原子1モル対し、過酸化水素量は10モル以上投入する必要があるが、これは、理論的にニオブ錯体を形成させるのに必要な過酸化水素量の5倍以上に相当する。さらに、従来の製造方法によれば、過剰な過酸化水素の除去は行っていなかったので、錯体合成後に溶液中に反応に用いられなかった過酸化水素は反応液中に残留することになっていた。また、過酸化水素そのものは錯体の安定化には多大な寄与をするため、除去して錯体の安定化を犠牲にするよりは、過酸化水素の自己分解を抑制するために保管を高温環境下としないようにするなどの対応を取ってきた。
【0020】
そこで、本発明者らは、リチウムと、ニオブ錯体およびチタン錯体のうち少なくともいずれかとを含有した溶液であって、溶液そのものは腐食性を抑制し、保存安定性に優れるとともに、活物質の電池特性を改善させうる被覆層を形成するために好適な溶液を提供することを解決すべき課題として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らの検討により、前記の課題を解決するために見いだされた発明は以下の通りである。
【0022】
第1の発明は、
リチウムと、ニオブ錯体およびチタン錯体のうち少なくともいずれかである金属錯体と、アンモニアを含有する溶液であって、当該溶液における当該アンモニアの量は1質量%以下である溶液である。
【0023】
本発明の第2の発明は、第1の発明に記載の発明であって、前記金属錯体はペルオキシ基を有する。
【0024】
本発明の第3の発明は、第2の発明に記載の発明であって、前記金属錯体における金属の原子に対する前記リチウムにおける原子のモル比は0.8〜2.0である。
【0025】
本発明の第4の発明は、第1〜第3のいずれかに記載の発明であって、還元性化合物をさらに含有する。
【0026】
本発明の第5の発明は、第4の発明に記載の発明であって、前記溶液における前記還元性化合物の割合は0.01質量%〜5.0質量%である。
【0027】
本発明の第6の発明は、前記溶液において、さらに前記溶液における過酸化水素を含有する溶液であって、当該溶液における当該過酸化水素の量は1質量%以下である、第1ないし5のいずれかに記載の溶液である。
【0028】
本発明の第7の発明は、二次電池用の活物質に対し、第1〜第6のいずれかに記載の溶液による表面処理を行う工程と、表面処理された前記活物質を熱処理する工程と、を有する、二次電池用活物質の製造方法である。
【0029】
本発明の第8の発明は、第7の発明に記載の発明であって、前記活物質はリチウムを含有する酸化物である。
【0030】
本発明の第9の発明は、第7または第8の発明に記載の発明であって、前記活物質はリチウムを含有する酸化物であり、前記活物質の主表面にはニオブ酸リチウム化合物およびチタン酸リチウム化合物のうち少なくともいずれかが付着している。
【0031】
本発明の第10の発明は、ニオブ酸およびチタン酸のうち少なくともいずれかとアンモニアとを混合して溶液中にて金属錯体を形成する工程と、前記溶液中にて前記金属錯体とリチウム化合物とを混合する工程と、混合された溶液において前記アンモニアの量が1質量%以下になるまで前記アンモニアを除去する工程と有する溶液の製造方法である。
【0032】
本発明の第11の発明は、第10の発明の工程に、前記混合された溶液においてさらに過酸化水素の量を1質量%以下に低減する工程を備えた、溶液の製造方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明に従う溶液は、当該溶液を使用して形成された被覆層を有する活物質を使用すれば電池特性の優れた二次電池を得ることができるようになる。さらに、保存安定性に優れるとともに、溶液の取り扱いや保存したときのハンドリング性や腐食性に優れた二次電池用活物質を表面処理(被覆)するためのニオブ錯体溶液およびチタン錯体溶液のうち少なくともいずれかを得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】クエン酸の構造式である。
図2】EDTMPAの構造式である。
図3図3(a)は当該活物質を構成する粒子の切断面をSEM観察した結果を示す写真であり、図3(b)は当該活物質に対するCo(コバルト)元素マッピングの結果を示す図であり、図3(c)はNb(ニオブ)元素マッピングの結果を示す図である。
図4】各実施例および各比較例における、残存NH量と放電容量の変化率との関係をプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を実施するための形態として、リチウムとニオブおよび/またはチタンの錯体を含む溶液、溶液中の錯体の形態、溶液中に添加する成分、その溶液の後処理方法、得られた溶液を使用したニオブ酸リチウムおよび/またはチタン酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物とその製造方法についてそれぞれ述べる。
【0036】
なお、以降、「Aおよび/またはB」は、AおよびBのうち少なくともいずれかを意味するものとする。特にニオブ錯体および/またはチタン錯体のことを単に「金属錯体」と称することがある。また、本明細書において「〜」は所定の数値以上かつ所定の数値以下のことを指す。
【0037】
(リチウムとニオブ錯体および/またはチタン錯体とを含む溶液)
本発明に係る、リチウムと、ニオブ錯体および/またはチタン錯体(金属錯体)とを含有する溶液は、水溶性の当該金属錯体を含有する溶液と、リチウム塩等のリチウム化合物とを混合することにより得ることができる。
【0038】
(ニオブ錯体および/またはチタン錯体)
ニオブ錯体および/またはチタン錯体の配位子は、当該錯体が水溶性となるものであればよく、更には表面コート層を形成した際には、電池特性悪化の原因となる炭素の残留が生じないものを選択するのが良い。当該金属錯体中に炭素を含むようなものを選択するような場合には、後述する二次電池用の活物質に対する表面処理を本発明に係る溶液にて行い、当該活物質の主表面に対してコート層を形成した後に、当該活物質を大気中で熱処理(焼成)する工程において、当該活物質から当該金属錯体が脱離するような性質を有することが好ましい。より具体的には、焼成時において錯体が分解するような性質を有することが好ましい。したがって、焼成条件により左右されることもあるが、750℃以下で分解する性質を有するもの、好ましくは650℃以下、更に好ましくは300℃以下で分解するような性質を有したニオブ錯体および/またはチタン錯体を選択することが好ましい。
【0039】
なお、上記のニオブ錯体および/またはチタン錯体は、ペルオキシ基を有するのが好ましい。当該ペルオキソ錯体はその化学構造中に炭素を含有しないことから、こうした錯体を経由して正極活物質の表面コート層を形成した際には、焼成温度に左右されることもなく、電池特性悪化の原因となる炭素の残留が生じないので好ましい。
【0040】
ニオブおよび/またはチタンのペルオキソ錯体は、例えば以下の方法で各々作成することができる。以下に無い内容については特許文献4を参照しても良い。なお、ここで言うペルオキソ錯体とは、ニオブおよび/またはチタンに対してペルオキシ基(−O−O−)を有しているもののことを指すが、ニオブおよび/またはチタンに対して結合しているものが全てペルオキシ基でなくとも構わず、例えばニオブおよび/またはチタンに対して結合しているもののほとんどがペルオキシ基である一方で一部が酸素(オキシ基)のままであっても構わない。
【0041】
ニオブのペルオキソ錯体は、ニオブ酸(五酸化二ニオブ水和物)にアンモニア水を添加し、さらに過酸化水素を添加することによって得る。ニオブのペルオキソ錯体を作製する際、アンモニア水は過剰に添加し、例えばモル比でニオブ原子1モルに対して、2モル以上、好ましくは3モル以上とする。
【0042】
ニオブのペルオキソ錯体を作製する際、過酸化水素はニオブ酸に対して大幅に過剰に添加するのが好ましい。具体的には、モル比でニオブ原子1モルに対して、過酸化水素が10モル以上、好ましくは30モル以上、一層好ましくは50モル以上とする。こうしておけば、ペルオキソ錯体を作製するはずが当該ペルオキソ錯体の加水分解の方が優勢となることを抑制でき、所望のニオブのペルオキソ錯体を確実に得られるため好ましい。
【0043】
一方、チタンのペルオキソ錯体の場合には、金属チタン(粉末であっても、箔状であっても良い)にアンモニア水を添加し、さらに過酸化水素を添加することによって当該ペルオキソ錯体を得る。ニオブのペルオキソ錯体を作製する際、アンモニア水は過剰に添加し、例えばモル比でチタン原子1モルに対して、2モル以上、好ましくは3モル以上とする。なお、過酸化水素は、ニオブ酸と同様、大幅に過剰に添加するのが好ましい。具体的には、過酸化水素の割合は、チタン1モルに対して、過酸化水素が10モル以上、好ましくは30モル以上、一層好ましくは50モル以上とする。
【0044】
上記の手法により、ニオブおよび/またはチタンのペルオキソ錯体を得ることができる。なお、当該ペルオキソ錯体を含有する溶液は透明である。
【0045】
(リチウム化合物)
上述の方法で得られた金属錯体を含有する水溶液に、リチウム化合物を添加することにより、リチウムと当該金属錯体とを含有する溶液を完成することができる。添加するリチウム化合物のリチウムのモル数は、上記水溶液中に含まれる金属錯体におけるニオブおよび/またはチタンのモル数に対して、任意に設定することができる。
【0046】
ただ、好ましくは、ニオブおよび/またはチタンの原子計1モルの量に対して、リチウムの原子の量は0.8〜2.0モルの範囲とするのが良い。
ニオブおよび/またはチタンの量に対してリチウムの量が下限値以上ならば、当該金属錯体から得られるニオブ酸リチウムおよび/またはチタン酸リチウムのリチウム伝導性を適当な値に維持できる。ニオブおよび/またはチタンの量に対してリチウムの量が上限値以下ならば、リチウム伝導性に関与しない余剰なリチウムをほとんど存在させずに済むので適当である。
【0047】
添加するリチウム化合物の好適な例としては、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、硫酸リチウム(LiSO)、炭酸リチウム(LiCO)等の無機リチウム塩が挙げられる。
【0048】
(その他の添加成分)
本発明にかかる溶液には、上記の金属錯体の安定性を更に向上させるため、還元性化物である安定性向上剤を添加するのが好ましい(例えば特許文献4の安定性向上剤を参照)。当該安定性向上剤としては、カルボン酸類、ジカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、ホスホン酸類を添加する構成も好ましい形態である。カルボン酸は−COOH基を有し、ニオブ錯体へ1座で結合することが考えられる。カルボン酸の好ましい例として、ギ酸、酢酸を挙げることができる。
【0049】
ジカルボン酸は−COOH基を2つ、ヒドロキシカルボン酸は−OH基と−COOH基とを有している。そして、これらの基は、ニオブ錯体および/またはチタン錯体に対し、1座または2座で結合することが考えられる。尚、ジカルボン酸としては、シュウ酸((COOH))、ヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸(C、構造式を図1に示す。)や、ヒドロキシジカルボン酸であるリンゴ酸(HOOC−CH(OH)−CH−COOH)を好ましい例として挙げることができる。
【0050】
同様に、ホスホン酸類のように、上記の金属錯体(特にニオブ錯体)へ結合できる基が2つ以上存在する化合物が有効である。ホスホン酸類は、ニオブ錯体へ結合できる基の数に応じて1座または2座以上でニオブ錯体へ結合することができる。尚、ホスホン酸としては、EDTA((HOOCCHNCHCHN(CHCOOH))、EDTMPA(Ethylene Diamine Tetra(Methylene Phosphonic Acid)、図2に構造式を示す。)を好ましい例として挙げることができる。
【0051】
本発明の溶液に対して添加できうる安定性向上剤において、上記の金属錯体へ結合す基は、カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、フォスフィノ基、アミノ基等がある。尚、本発明に係る安定性向上剤において、当該金属錯体と結合するのはO(酸素)、N(窒素)、P(リン)である。そして、本発明に係る安定性向上剤は、当該金属錯体をとり囲んで配位し、当該金属錯体を安定化すると考えられる。
【0052】
さらに、本発明の溶液に対して添加できうる安定性向上剤が、これらの基を分子構造中に複合的に有するキレート化合物である場合は、上記の金属錯体中のニオブおよび/またはチタンと配位結合すると考えられ、安定性を向上させる効果が期待できるので、好ましい。
【0053】
そして、本発明においては、リチウムと、上記の金属錯体とを含有する溶液において、アンモニアを残存させつつもアンモニアの残存量は1質量%以下とすることに大きな特徴がある。アンモニアの残存量は電池特性とは逆相関の関係にあり、濃度が高いほど電池特性は悪くなる。ちなみに、活物質の電池特性は、後述の実施例の項目にて示すように、全固体電池でもLiイオン電池でも測定できる。活物質の電池特性を測定できる方法であれば電解質や負極の種類は問わない。簡便には負極にLi箔、電解質はLiPFを有機溶媒に溶解したものを用い、ハーフセルを作製して測定できる。なお、取り扱う電池特性としては、低レート(0.1C)で放電した時の放電容量Aで高レート(3C)で放電した時の放電容量Bを除した値(変化率という)を用いてもよい。この値が大きいほど、活物質のリチウムイオンの授受がスムーズに行われており、電池の抵抗が低い事を表す。
【0054】
ここでアンモニアの残存量と電池特性との関係を鑑みたうえで、本発明においてはアンモニアの残存量を1質量%以下(好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下)に設定する。こうすることにより、活物質にコートした際に、電池特性の悪化は実用上において問題ない程度になる。
【0055】
また、金属錯体がニオブのペルオキソ錯体および/またはチタンのペルオキソ錯体であった場合、ペルオキソ錯体を作製するため過酸化水素を添加することになるが、40℃を超えるような高温の保存環境において、アンモニアが過酸化水素の分解を促進することがあった。そこで、金属錯体とを含有する溶液のアンモニアの量を低減することにより、アンモニアによる過酸化水素の分解を低減でき、高温でも安定した溶液を得ることができる。
【0056】
アンモニアの残存量を1質量%以下とすべく、例えばイオン交換法もしくは減圧、加熱、触媒(ニッケルもしくは白金族触媒)によりアンモニアを分解させ、アンモニアの残存量を適宜変化させることができる。特に、イオン交換によってアンモニアを除去する場合には、比較的安価な方法であることから好ましい。なお、これらの手法は一種に限定されず、組み合わせて実施しても良い。
【0057】
イオン交換による方法では、イオン交換樹脂による方法とゼオライトによる方法があり、どちらを選択してもよいが、アンモニアの選択性に優れる吸着材を選ぶことが好ましい。アンモニアの選択性に優れるゼオライトとしてはクリノプチロライト(Ca,Na)〔AlSi18〕・16HOあるいはモルデナイト(Ca,K,Na)〔AlSi12・7HOなどが知られているが、このなかでも特にクリノプチロライトがアンモニア吸着性能に優れる。
【0058】
ただし、アンモニアが少なすぎると上記の金属錯体が不安定になってしまう。これは、当該金属錯体のペルオキシ基が、加水分解によって分解され、水酸基イオンを放出し易いことに起因する。一方、当該金属錯体を含有する溶液中のアンモニアの濃度がある程度高い場合だと、水酸基イオン濃度が適度に高くすることができるため金属錯体を安定化すると考えられる。
【0059】
先ほど述べたように、上記の金属錯体は、錯体作成中の過渡的な状態においては極めて不安定であり、過剰のアンモニアを存在させて錯体の加水分解反応を抑制する必要があるが、リチウムを添加した当該金属錯体については、当該金属錯体を作製する時ほどにはアンモニアを過剰にする必要はない。ただ、リチウムを含むニオブおよび/またはチタン錯体安定性を確保できる程度には残存させておく必要がある。
【0060】
なお、その際の溶液に対するアンモニアの残存量(質量%)としては、好ましくは10ppb以上、より好ましくは1ppm以上、一層好ましくは10ppm以上残存させておく方がよい。もちろん1質量%以下という上述の条件は満たす必要がある。この範囲の残存量(濃度)ならば、アンモニアによる過酸化水素の分解も殆どなく、かつリチウムを含むニオブおよび/またはチタンのペルオキソ錯体の安定性に寄与する。
【0061】
なお、溶液中に含まれるアンモニアの量は、例えばイオンクロマトグラフ法や吸光光度
法、滴定法等により求める事が出来る。
【0062】
そして、本発明においては、上述の液の構成に加えて過酸化水素の残存量は1質量%以下とすることが好ましい。過酸化水素の自己分解速度は液中での過酸化水素濃度に比例し、濃度が高いほど分解速度は速くなる。こうした知見に基づいて、本発明においては上記の溶液における過酸化水素の残存量を1質量%以下に設定する。こうすることにより、溶液を保管する際に、過酸化水素の自己分解は実用上において殆ど無視できる速度になる、ひいては自己分解に伴う、溶液の組成変化や設備の腐食を抑制することが可能となる。また、副次的な効果として、過酸化水素に対して化学的に弱い活物質(ニッケル酸リチウム等)への被覆の際にも上記の溶液を使用することが可能となる。
【0063】
上記の溶液における過酸化水素の残存量を1質量%以下とすべく、例えば紫外線照射もしくは減圧、加熱、酵素(カタラーゼ)により過酸化水素を分解させ、過酸化水素の残存量を適宜変化させることができる。特に、紫外線照射によって過酸化水素を分解する場合には、ヒドロキシルラジカルの形成を促すため、溶液中に残存する過剰の炭素分をも分解できていると考えられるので好ましい。また、紫外線照射による過酸化水素の分解は、他の化合物への影響が少ないため好ましい。なお、これらの手法は一種に限定されず、組み合わせて実施しても良い。
【0064】
しかしながら、過酸化水素が少なすぎる場合には上記の金属錯体が不安定になってしまう。これは、当該金属錯体のペルオキシ基が、加水分解によって分解され易いことに起因する。具体的に説明すれば、当該金属錯体を含有する溶液中の過酸化水素の濃度がある程度高い場合だと、加水分解によって上記のニオブ錯体および/またはチタン錯体からペルオキシ基が外れたとしても、新たにペルオキシ基がニオブおよび/またはチタンの配位座へと補完される。その結果、ニオブ錯体および/またはチタン錯体の安定性が維持される。翻って、液中の過酸化水素が少ない場合、加水分解による減少分を補充する術がないため、錯体の形態が崩れてしまい、結果として水酸化ニオブなどを形成させてしまい、液中におけるニオブのペルオキソ錯体量が不足することになる。
【0065】
つまり錯体作成中の過渡的な状態においては、本発明に関係するペルオキソ錯体は極めて不安定であり、大過剰の過酸化水素を存在させて錯体の加水分解反応を抑制する必要がある。しかし、リチウムを添加した金属錯体は、錯体の安定性が向上しているので当該金属錯体を作製する時ほどには、液中における過酸化水素量を過剰にしておく必要はない。とはいえ、リチウムを含むニオブおよび/またはチタン錯体の安定性を確保できる程度には過酸化水素を残存させておく必要がある。
【0066】
なお、発明者らの検討によると、その際の溶液に対する過酸化水素の残存量(質量%)としては1質量%以下かつ、好ましくは10ppb以上、より好ましくは1ppm以上、一層好ましくは10ppm以上残存させておくことで、上述の効果が発揮されることがわかった。この範囲の残存量(濃度)ならば、過酸化水素の自己分解も殆どなく、かつリチウムを含むニオブおよび/またはチタンのペルオキソ錯体の安定性は担保される。
【0067】
なお、溶液中に含まれる過酸化水素の量は、例えばTi−PAR吸光光度法や過マンガン酸カリウムやヨウ素を使った滴定法やボルタンメトリー法、化学発光検出器を用いたポストカラムHPLC法により求めることができる。
【0068】
また、リチウムを含むニオブおよび/またはチタン錯体中におけるペルオキシ基は、例えば溶液10gをイソプロパノール100ml中に添加して得られる沈殿物(リチウムとニオブ錯体および/またはチタン錯体とによる結晶)をフーリエ変換赤外線吸収スペクトル測定装置やラマン分光装置よって測定したときに、880cm−1付近のO−O結合に由来するピークの有無により確認することができる。
【0069】
〈リチウムとニオブ錯体および/またはチタン錯体とを含有する溶液への安定性向上剤の添加方法〉
リチウムとニオブおよび/またはチタン錯体とを含有する溶液の安定性向上効果を更にもたらす物質の添加方法について、ヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸1水和物を例として説明する。上述したリチウムとニオブ錯体とを含む水溶液に対し、クエン酸1水和物(C・HO)を0.01質量%〜5.0質量%の範囲で添加すれば良い。
【0070】
ここで、添加するクエン酸の形態としては、1水和物の他に、クエン酸無水物が使用できる。もっとも、水に対する溶解性の観点から、溶解性が高いクエン酸1水和物を用いるのが好ましい。
【0071】
また、添加量が0.01質量%以上であれば安定性向上の効果が得られる。一方、添加量が5質量%以下であれば、安定性向上の効果を発揮しつつも、後工程において不純物となるC(炭素)分を適度なものにできる。
【0072】
以上、ヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸1水和物を例として、リチウムとニオブおよび/またはチタン錯体とを含有する溶液への安定性向上剤の添加形態を説明したが、この形態は、特にクエン酸に限定されず、上述のように例示したカルボン酸類、ジカルボン酸類、他のヒドロキシカルボン酸類、ホスホン酸類を用いる場合も、クエン酸1水和物を用いる場合と同様に対応することが可能である。
【0073】
(安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体および/またはチタン錯体とを含有する溶液の保存安定性)
本発明に係る安定性向上剤を添加したリチウムとニオブおよび/またはチタン錯体とを含有する溶液は、製造後12時間以上静置しても沈殿物を生成しない、という優れた保存安定性を有することを本発明者は確認している。
【0074】
その結果、二次電池用の活物質(コバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物)に対して当該溶液により表面処理を行い、被覆、すなわち活物質の主表面に対してニオブ酸リチウム化合物および/またはチタン酸リチウム化合物を付着させる工程を行う際、ニオブ酸リチウムおよび/またはチタン酸リチウムの被覆量を担保でき、制御が容易になる。そして、当該ニオブ酸リチウムおよび/またはチタン酸リチウムで被覆された二次電池用の活物質へ、当該沈殿物が混入する等の問題も回避することができる。更に、当該溶液を作製後、一定時間以内に二次電池用の活物質へ被覆する工程を開始する必要が緩和され、生産効率が向上することができる。
【0075】
尚、二次電池用の活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO)以外に、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)やこれら活物質の遷移金属の一部をAlやTi、Cr、Fe、Zr、Y、W、Ta、Nbで置換したもの(LiNi0.95Al0.05等)、更にこれら活物質を複合化させた活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn1.5等)など使用する事ができる。
【0076】
(安定性向上剤を添加したリチウムとニオブおよび/またはチタン錯体とを含有する溶液により表面が被覆された後に、焼成されたリチウム−金属酸化物)
クエン酸1水和物等を添加され安定化したリチウムとニオブ錯体および/またはチタン錯体とを含有する溶液を、二次電池構成用の活物質に被覆させた後、適切な熱処理(例えば焼成)をすることにより、添加剤中のC、N、S、P等の元素を含有する成分は分解して実用上問題ない程度の量にまで除去される。
【0077】
溶液を活物質に被覆する方法としては、溶液を活物質に噴霧する方法、活物質を溶液に浸漬させて乾固する方法、活物質を有機溶媒中に分散させ溶液を添加する方法等、公知の方法を使用する事ができる。
【0078】
また、分解後にチタンおよび/またはニオブのリチウム複合酸化物は活物質の表面を被覆することになるが、これら酸化物の存在有無は、例えば粒子を断面に切断し、SEM−EDXで粒子表面部分にチタンおよび/またはニオブが偏析している様子を観察することで確認可能である。
【0079】
この結果、当該溶液を被覆された二次電池構成用の正極活物質を、リチウムイオン電池の正極材として使用した場合であっても、その電池特性に影響を与えることを回避することができる。
【0080】
従って、本発明に係る安定性向上剤を添加したリチウムとニオブおよび/またはチタン錯体とを含有する溶液によって表面が被覆された後に焼成されたリチウム−金属酸化物は、二次電池の正極活物質として好適である。
【0081】
なお、上記の金属錯体がペルオキシ基を有するものを好適例として挙げたが、上記の安定性向上剤を添加させるのならば金属錯体がペルオキシ基を有さなくとも金属錯体の安定性をある程度確保することができ、その場合、安定性を過度に損なうことなく、アンモニアを溶液中に残存させつつもアンモニアの残存量を1質量%以下にすることが可能となる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は、上述の実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明に係る実施例および比較例について説明する。
なお、以下において、実施例および比較例のアンモニア量の測定はイオンクロマトグラフ(ICS−3000型)により行った。陽イオン分子カラムとしてはIonPac CS14、溶離液は10mmol/Lメタスルホン酸(いずれもダイオネクス社製)を用いた。
【0084】
さらに、過酸化水素量の測定には日立ハイテクノロジーズ製の分光光度装置を使用した。測定は検液中のHの定量分析をTi−PAR 吸光光度法を用いて、測定波長520nmの強度を測定し、Hの標準液との相対強度から測定した。
【0085】
また、実施例および比較例のニオブ錯体および/またはチタン錯体中におけるペルオキシ基の存在の有無については、溶液10gをイソプロパノール100ml中に添加して、得られる沈殿物(リチウムとニオブ錯体および/またはチタン錯体とによる結晶)をフーリエ変換赤外線吸収スペクトル測定装置(Thermo SCIENTIFIC製のNICOLET 6700装置)によって測定したときに、880cm−1付近のO−O結合に由来するピークの有無により確認し、全ての実施例および比較例においてペルオキシ基の存在が確認されている。
【0086】
(比較例1)
純水33.5gに、濃度30質量%の過酸化水素水20.0gを添加した過酸化水素水溶液を準備した。この過酸化水素水溶液へ、ニオブ酸(Nb・5.5HO(Nb含有率72.6%))2.01gを添加した。ニオブ酸の添加後、ニオブ酸を添加した液を液温が20℃〜30℃の範囲内となるように温度調整した。このニオブ酸を添加した液に、濃度28質量%のアンモニア水3.3gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た。
【0087】
窒素ガス雰囲気中で、得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)0.46gを入れ、リチウムと、ニオブのペルオキソ錯体とを含有する透明な水溶液を得た。
【0088】
その後、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。その後、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で所定時間(6時間〜168時間)静置した後、沈殿物の生成有無を目視で確認した。その結果、6時間程度の静置により沈殿物が生成した。なお、沈殿物が生成している場合には沈殿物が分散する程度に液を攪拌した後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過することで、リチウムとペルオキソニオブ酸錯体を含有する溶液を得た。このときの溶液中のアンモニア量(残存NH量)は1.5質量%であった。また、溶液中の過酸化水素量(残存H量)は3質量%であった。
【0089】
(実施例1)
比較例1における、水酸化リチウム・1水和物を入れた、リチウムと、ニオブのペルオキソ錯体とを含有する透明な水溶液(25℃にて所定時間静置する前のもの)に対して、4gのゼオライト(ジークライト株製 イタヤゼオライトZ−13)を添加し、30分間撹拌し、遠心ろ過し溶液中のアンモニウムイオンを除去(アンモニアを除去)した溶液を得た。比較例1と同様にアンモニア量を測定した。このときのアンモニア量は0.3質量%(ゼオライトに吸着した水分は純水により補充し、除去処理前の溶液の同じ重量に調整した)であった。残存H量は3質量%であった。
この溶液はコロイド溶液(ゾル溶液)とは異なり、散乱光によるチンダル現象は見られず、透明な溶液であった。なお、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。また、この溶液を25℃で1ヶ月間保存した後であっても、ニオブ錯体の分解による溶液の白濁や沈殿物の生成は見られず、透明な溶液のままであった。
【0090】
なお、このようにしてアンモニウムイオンを除去した直後の溶液を、二次電池用の活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi0.5Co0.2Mn0.3 MTI製 粒径13ミクロン、BET 0.353m/g)粉末100gを100℃に加熱しながら上記溶液を霧吹きにて2時間かけて噴霧し、その後、大気中100℃で6時間乾燥した。その後、300℃、1時間にて焼成を行い、表面処理がなされた二次電池用の活物質を得た。
【0091】
<化学分析の詳細>
実施例1の活物質中のニオブ含有量をICPにて分析した結果、ニオブ含量は0.96質量%であった。ニオブ錯体がニオブ酸リチウム(LiNbO)として活物質に全て付着したと仮定した場合のニオブ含量の理論値は1.00質量%なので、付着収率は96%と計算され、ほぼすべてのニオブ酸錯体が活物質表面に付着したことが確認された。
【0092】
このニオブ酸錯体が活物質表面に付着した実施例1の活物質に対して各種の観察を行った結果が図3である。図3(a)は当該活物質を構成する粒子の切断面をSEM観察(SEM−EDX、日本電子製の装置JSM−7800F)した結果を示す写真であり、当該活物質に対する被覆が行われていることが確認できた。図3(b)は当該活物質に対するCo(コバルト)元素マッピング(日本電子製の装置JSM−7800F)の結果を示す図であり、図3(c)はNb(ニオブ)元素マッピング(同装置)の結果を示す図であり、両図から、コバルト酸リチウムである当該活物質に対し、ニオブが確実に付着(被覆)されていることが確認できた。
【0093】
さらに電池特性の評価は、以下のようにして行った。
正極は上記供試粉末(正極活物質)1.88gとアセチレンブラック(電気化学工業製)0.12gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を2.67ml入れ、ホモジナイザーで5分間撹拌混合する。次に、12wt% PVDF/NMP溶液(#1100)(キシダ化学製)を0.33ml入れ、ホモジナイザーで5分間撹拌混合し、正極スラリーを得る。アルミ箔上にスリット幅200ミクロンのアプリケーターを用い、上記正極スラリーを塗布する。ホットプレートを用い90℃1時間乾燥し、更に真空乾燥機で120℃6時間乾燥する。得られた正極を加圧成形機でプレスしたものを用いた。この時、正極層の厚みは50μmであった。
【0094】
負極は金属リチウム、電解液はエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を1:2の体積割合で混合した溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/L溶解したものを用いた。
【0095】
電池特性としては、先にも述べたように低レート(0.1C)で放電した時の放電容量Aで高レート(3C)で放電した時の放電容量Bを除した値(変化率という)を用いた。この値が大きいほど、活物質のリチウムイオンの授受がスムーズに行われており、電池の抵抗が低い事を表す。実施例1においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは110mAh/g、変化率は71%であった。
【0096】
なお、比較例1においても同様の化学分析を行った結果、放電容量Aは145mAh/g、放電容量Bは80mAh/g、変化率は55%であり、実施例1に比べて明らかに電池特性が劣っていた。
以降、各実施例および各比較例の結果を表2(後掲)にまとめて示す。
【0097】
(実施例2)
実施例1で得られたリチウムと、ニオブのペルオキソ錯体とを含有し、余剰のアンモニアを除去した水溶液を攪拌しながら、クエン酸1水和物(還元性化合物すなわち安定性向上剤)を0.0059g(0.01wt%)添加することで、アンモニアが除去されクエン酸が添加された溶液を得た。なお、このときの溶液中の残存NH量は0.3質量%、残存H量は3質量%であった。
実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例2においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは110mAh/g、変化率は71%であった。変化率は実施例1と同等であった。
また、この溶液においても、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。また、25℃で1ヶ月間保存した後であっても、ニオブ錯体の分解による沈殿物の生成は見られなかった。
【0098】
(実施例3)
ゼオライトの量を少なくして、2gとした以外は、実施例1を繰り返した。得られた溶液中の残存NH量は1質量%、残存H量は3質量%であった。実施例1と同様に、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。また、25℃で1ヶ月という長期間で保存したとしても、沈殿物の生成は見られなかった。
実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例3においては、放電容量Aは150mAh/g、放電容量Bは100mAh/g、変化率は67%であった。実施例1に比べて変化率はやや低下したものの、実用的には十分な特性を示した。
【0099】
(実施例4)
ゼオライトの量を多くして、5gとした以外は、実施例1を繰り返した。得られた溶液中の残存NH量は0.05質量%、残存H量は3質量%であった。実施例1と同様に、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。また、25℃で1ヶ月という長期間で保存したとしても、沈殿物の生成は見られなかった。
実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例4においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは115mAh/g、変化率は74%であった。実施例1に比べて変化率はさらに向上した。
【0100】
(実施例5)
ゼオライトの量をさらに多くして、6gとした以外は、実施例1を繰り返した。得られた溶液中の残存NH量は0.008質量%、残存H量は3質量%であった。実施例1と同様に、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。また、25℃で2ヶ月という長期間で保存したとしても、沈殿物の生成は見られず、最も長期間で保存可能であった。
実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例5においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは120mAh/g、変化率は77%であった。変化率は実施例4と同等以上の結果となった。
【0101】
(比較例2)
純水19.7gに、濃度30質量%の過酸化水素水16.0gを添加した過酸化水素水溶液を準備した。この過酸化水素水溶液へ、金属チタン粉末0.53gを添加した。金属チタン粉末の添加後、金属チタン粉末を添加した液を液温が20℃〜30℃の範囲内となるように温度調整した。この金属チタン粉末を添加した液に、濃度28質量%のアンモニア水2.4gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た。
窒素ガス雰囲気中で、得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)0.38gを入れ、リチウムと、チタンのペルオキソ錯体とを含有する透明な水溶液を得た。
【0102】
その後、リチウムとチタン錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。その後、リチウムとチタン錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、所定時間(6時間〜168時間)静置した後、沈殿物の生成有無を目視で確認した。その結果、6時間程度の静置により沈殿物が生成した。なお、沈殿物が生成している場合には沈殿物が分散する程度に液を攪拌した後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過することで、リチウムとペルオキソチタン酸錯体を含有する溶液を得た。このときの溶液中の残存NH量は0.008質量%、残存H量は3質量%であった。
【0103】
(実施例6)
比較例2における、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)0.38gを入れた、リチウムと、チタンのペルオキソ錯体とを含有する透明な水溶液(25℃にて所定時間静置する前のもの)に対して、4gのゼオライト(ジークライト株製 イタヤゼオライトZ−13)を添加し、30分間撹拌し、遠心ろ過し溶液中のアンモニウムイオンを除去した溶液を得た。このときの残存NH量は0.5質量%(ゼオライトに吸着した水分は純水により補充し、除去処理前の溶液の同じ重量に調整した)であった。残存H量は3質量%であった。
【0104】
この溶液はコロイド溶液(ゾル溶液)とは異なり、散乱光によるチンダル現象は見られず、透明な溶液であった。なお、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、発泡の有無を目視で確認したところ、幾ばくかの発泡が見られ、液中において過酸化水素の分解が生じているものと思料された。また、この溶液を25℃で1ヶ月間保存した後であっても、チタン錯体の分解による沈殿物の生成は見られず、透明な溶液のままであった。
【0105】
また、実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例6においては、放電容量Aは150mAh/g、放電容量Bは100mAh/g、変化率は67%であった。
一方、上記の余剰アンモニアの除去処理を行わなかった溶液(比較例2)では、放電容量Aは140mAh/g、放電容量Bは70mAh/g、変化率は50%であり、実施例6に比べて明らかに電池特性が低下していた。
【0106】
(実施例7)
実施例1においてアンモニウムイオンを除去した後に、紫外線(アイグラフィックス株式会社製UV−LED装置:波長365nm)を60分間照射することで、溶液中の余剰過酸化水素を除去した以外は、実施例1と同様にサンプルを作成した。このときの溶液中の残存NH量は0.2質量%であった。また、溶液中の残存H量は20ppmであった。
実施例1〜6や各比較例に比べ、目視で観察し、明確な発泡が見られず溶液からの発泡を抑制することができ、しかも溶液中の沈澱は2ヶ月にわたり生じなかったので、実施例1よりもさらに溶液の安定性が改善していることがわかる。実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例7においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは110mAh/g、変化率は71%であり、変化率は実施例1と同等であった。
【0107】
(実施例8)
実施例2においてアンモニウムイオンを除去した後に、紫外線(アイグラフィックス株式会社製UV−LED装置:波長365nm)を60分間照射することで、溶液中の余剰過酸化水素を除去した以外は、実施例2と同様にサンプルを作成した。このときの溶液中の残存NH量は0.2質量%であった。また、溶液中の残存H量は20ppmであった。
実施例1〜6や各比較例に比べ、目視で観察し、明確な発泡が見られず溶液からの発泡を抑制することができ、しかも溶液中の沈澱は2ヶ月にわたり生じなかったので、実施例1よりもさらに溶液の安定性が改善していることがわかる。実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例7においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは110mAh/g、変化率は71%であり、変化率は実施例1と同等であった。
【0108】
(実施例9)
実施例4においてアンモニウムイオンを除去した後に、紫外線(アイグラフィックス株式会社製UV−LED装置:波長365nm)を20分間照射することで、溶液中の余剰過酸化水素を除去した以外は、実施例1と同様にサンプルを作成した。このときの溶液中の残存NH量は0.05質量%であった。また、溶液中の残存H量は0.1%(1000ppm)であった。
実施例1〜6や各比較例に比べ、目視で観察し、明確な発泡が見られず溶液からの発泡を抑制することができ、しかも溶液中の沈澱は2ヶ月にわたり生じなかったので、実施例1よりもさらに溶液の安定性が改善していることがわかる。実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例9においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは110mAh/g、変化率は71%であり、変化率は実施例1と同等であった。
【0109】
(実施例10)
実施例9においてアンモニウムイオンを除去した後に、紫外線(アイグラフィックス株式会社製UV−LED装置:波長365nm)を60分間照射することで、溶液中の余剰過酸化水素を除去した以外は、実施例1と同様にサンプルを作成した。このときの溶液中の残存NH量は0.02質量%であった。また、溶液中の残存H量は20ppmであった。
実施例1〜6や各比較例に比べ、目視で観察し、明確な発泡が見られず溶液からの発泡を抑制することができ、しかも溶液中の沈澱は2ヶ月にわたり生じなかったので、実施例1よりもさらに溶液の安定性が改善していることがわかる。実施例1と同様に電池特性を調べた結果、実施例10においては、放電容量Aは155mAh/g、放電容量Bは110mAh/g、変化率は74%であった。実施例1に比べて変化率はさらに向上したといえる。
【0110】
以上の各実施例および各比較例のゼオライトの添加(および紫外線照射)前における試験条件をまとめたものが以下の表1であり、ゼオライトの添加(および紫外線照射)の条件およびそれによりもたらされた結果をまとめたものが以下の表2である。
【表1】
【表2】
また、残存NH量と放電容量の変化率との関係をプロットしたものが図4である。図4を見ると、溶液における当該アンモニアの量が1質量%以下である実施例は比較例に比べて良好な変化率を有していることがわかる。
【0111】
以上の結果、上記の各実施例によれば、電池特性に優れるとともに、溶液の取り扱いや保存したときのハンドリング性に優れた溶液を得ることができた。その結果、二次電池用活物質を表面処理(被覆)するために当該溶液を使用する際には、被覆量を容易に制御できるようになることが期待される。
図1
図2
図3
図4