【文献】
Daisuke Bizen et al.,High-precision CD measurement using energy-filtering SEM techniques,Proceedings of SPIE, Metrology, Inspection, and Process Control for Microlithography XXXI,2017年 5月,vol.10145, #101451K
【文献】
Makoto Suzuki et al.,Secondary electron imaging of embedded defects in carbon nanofiber via interconnects,APPLIED PHYSICS LETTERS,2008年12月,vol.93, no.26, #263110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算器は、前記基準パターンとして、前記荷電粒子線の加速電圧を変化させることにより前記荷電粒子線の偏向量が変化する変化量を、前記試料の深さ方向の位置ごとに取得し、
前記演算器は、前記荷電粒子線のそれぞれ異なる加速電圧について、前記試料の深さ方向の位置ごとに、前記試料の断面形状のエッジ部分の位置を取得し、
前記演算器は、前記基準パターンが記述している前記変化量と、前記異なる加速電圧ごとに取得した前記試料の断面形状のエッジ部分の位置を、前記試料の深さ方向の位置ごとに比較することにより、前記試料の断面形状を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
前記記憶部は、前記空洞を前記試料の表面に投影した位置における電位と、前記試料の表面のうち前記投影した位置以外の位置における電位との間の差分を、前記空洞の深さ方向におけるサイズごとに記述した空洞サイズデータを記憶しており、
前記演算器は、前記空洞サイズデータが記述している前記差分と、前記弁別条件ごとの前記検出信号とを比較することにより、前記試料の内部に存在する空洞の深さ方向のサイズを推定する
ことを特徴とする請求項4記載の荷電粒子線装置。
前記演算器は、前記試料の断面形状を、テーパー形状、逆テーパー形状、ボーイング形状、傾斜形状、または前記荷電粒子線装置のユーザが定義した形状のいずれかに分類し、
前記表示部は、前記演算器による前記分類の結果を表示する
ことを特徴とする請求項8記載の荷電粒子線装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
半導体デバイスの微細パターンを高精度に計測・検査する装置として、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)のニーズが高まっている。走査電子顕微鏡は、試料から放出された電子を検出する装置であり、このような電子を検出することによって信号波形を生成し、例えば信号波形ピーク(パターンのエッジ部分に相当)間の寸法を測定する。
【0016】
試料から放出される電子は、試料の放出位置の帯電(電位)状態を表す情報を保持している。例えば、正に帯電した場所から放出された2次電子と、負に帯電した場所から放出された2次電子は、放出場所の帯電差(電位差)を保持したまま検出器に入る。元々の放出エネルギーが低い2次電子(殆どが数eV)であっても、このような特性を利用することにより、放出場所の帯電電位を推定したり、2次電子のエネルギーから放出場所を特定したりすることができる。
【0017】
近年、半導体デバイスの微細化とともに、FinFET、Nanowireなどのようにデバイス構造が複雑化しており、さらにNANDフラッシュメモリなどのように3次元方向にデバイスを積み上げる高アスペクト比化のトレンドがある。例えばコンタクトホールは、穴径数十nmに対して数μmの非常に深い穴が加工されるようになってきている。したがって穴が正常にまっすぐ開いているかどうかの検査が必要である。特に、穴側壁のボーイング形状や逆テーパー形状などは、走査電子顕微鏡によるTopView画像では判定できないので、断面を割り、TEM等によりパターン形状を確認するという破壊検査が採用されている。一方で、デバイス構造の複雑化や高アスペクト化が進むことにともない、パターンの断面形状を確認するニーズは増えており、断面形状観察による開発期間の長期化とコスト増加が課題となっている。
【0018】
以下の実施形態では、上記のような課題に鑑みて、走査電子顕微鏡を用いて取得した試料のTopView画像により、試料を破壊することなくパターンの断面形状を推定する方法を説明する。
【0019】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る荷電粒子線装置の構成図である。本実施形態1に係る荷電粒子線装置は、走査型電子顕微鏡として構成されている。電子銃1から発生した電子線2(電子ビーム)をコンデンサレンズ3で収束させ、対物レンズ5により試料6上に収束させる。偏向器4(走査偏向器)は、電子線2(1次電子)を試料6の表面上で走査させる。1次電子を2次元的に走査して照射することにより、試料6内で2次電子7が励起され、試料6から放出される。検出器8は2次電子7を検出し、その強度を表す検出信号を出力する。検出信号を画像に変換することにより、試料6を観察・計測する。検出器8の前段には、エネルギー弁別器9(ハイパスフィルタもしくはバンドパスフィルタとして構成されている)が備えられており、特定の範囲内に収まるエネルギーを有する2次電子7のみを通過させる。
【0020】
図1の走査電子顕微鏡は、図示しない制御装置を備えており、制御装置は走査電子顕微鏡の各光学素子を制御し、エネルギー弁別器9の弁別条件を制御する。試料6を載置するための試料ステージには、図示しない負電圧印加電源が接続されている。制御装置は、負電圧印加電源を制御することにより、電子線2が試料6へ到達するときのエネルギーをコントロールする。これに限られることはなく、電子線2を加速するための加速電極と電子源との間に接続される加速電源を制御することによって、電子線2のエネルギーをコントロールしてもよい。
図1に例示する走査電子顕微鏡は、画素ごとに検出信号を記憶する画像メモリを備えており、検出信号は当該画像メモリに記憶される。
【0021】
図1に例示する走査電子顕微鏡は、図示しない演算装置を備えている。演算装置は、画像メモリに記憶された画像データに基づいて、パターンの断面形状を推定する。より具体的には、エネルギー弁別条件ごとに、画像の各画素に記憶された輝度情報に基づいて、形状プロファイル波形を形成し、これを用いてパターンのエッジ位置を求め、求めたエッジ位置を異なる基準パターンのエッジ位置と比較することにより、試料6の各深さ位置におけるエッジ位置(すなわち断面形状)を推定する。詳細は後述する。
【0022】
図2は、試料6が有する穴のパターンを例示する側断面模式図である。(a)は、側壁形状がストレートなパターンであり、本実施形態1においてはこれを基準パターンとする。(b)は、表面から穴底に向けて一様に傾斜が付いたパターンである。(c)は、穴の半分まではストレート、それ以下は一様な傾斜が付いたパターンである。(d)は、穴の半分までは一様な傾斜、それ以下はストレートなパターンである。断面形状がわかっていれば、(b)〜(d)のいずれを基準パターンとして用いてもよい。
【0023】
図2のパターン表面に+を示したように、パターンにプリドーズすることにより正の帯電をあらかじめ形成している。試料6上に引き上げ電界を設定し、2次電子放出係数が1以上となる加速条件で広い領域を電子線2により照射すると、パターン表面に
図2のような正帯電を形成することができる。
【0024】
図3は、穴内の電位勾配の例である。ここでは、穴底0V、表面140Vの正帯電を形成した際の電位勾配を例示した。
図3の横軸は、表面を1、穴底を0としたときの深さ方向の相対位置を示す。
図3の縦軸は、各深さ位置における電位を示す。穴を形成する材質が均一である場合、穴の表面から底まで、均一な電位勾配が形成される。2次電子7は放出場所の電位の情報を保持しているので、特定範囲内に収まるエネルギーを有する2次電子7を検出することにより、どの深さから放出されたのかを判断できる。
【0025】
図4は、2次電子7が有するエネルギーごとに生成したSEM画像の例である。試料6表面の帯電により電子線2が偏向されるので、穴のより深い位置まで電子線2を到達させるためには、電子線2のエネルギーをより高くする(すなわち加速電圧を大きくする)必要がある。したがって
図4の最左が穴の最も深い位置における平面形状を表し、最右が穴の最も浅い位置における平面形状を表す。この画像は、試料6表面の帯電によって電子線2が偏向された状態で取得したものであるので、この画像のみを用いて試料6の断面形状を推定するのは困難である。
【0026】
図5は、
図4に示す各SEM画像から抽出したパターンのエッジ位置を示す。ここでは
図4のパターンの左エッジの位置のみを検出した結果を示す。データ点を補うため、
図4に示したエネルギー値以外についてもエッジ位置を求めた。基準パターン(a)は穴がストレートである場合なので、エッジ位置は深さによらず一定であるはずだが、試料6表面の帯電により電子線2が偏向されるので、穴底に近づくほど、実際に検出されるエッジ位置はより大きくシフトする。
【0027】
帯電による電子線2の偏向量はほぼ同じであると考えると、基準パターン(a)のエッジ位置と、各パターンのエッジ位置との間の差分は、各パターンの断面形状を表していると見なすことができる。本実施形態1においては、このことを利用して、試料6の断面形状を推定する。
【0028】
図6は、
図5に示すエッジ位置の差分を用いて断面形状を推定した結果を示す。2次電子7が有するエネルギーは検出深さと対応しているので、
図5の横軸は試料6の深さと対応している。基準パターン(a)は穴形状がストレートであることが分かっているので、パターン(a)における穴のエッジ位置とその他パターン(b)〜(d)における穴のエッジ位置との間の差分は、ストレート形状からどの程度ずれているかを表している。
図6実線はこのことを用いて推定した各パターンのエッジ位置である。
図6点線はあらかじめシミュレーションにより求めたエッジ位置である。シミュレーションのピクセル数が少なく、推定結果にばらつきは見られるものの、(b)(c)(d)3パターンの形状の違いは判定でき、また側壁の傾斜角が変化する位置も判定できる。
【0029】
図7は、本実施形態1に係る走査電子顕微鏡が試料6の断面形状を推定する手順を説明するフローチャートである。基準パターン(a)に相当する各深さのエッジ位置は、あらかじめ取得しておくものとする。以下
図7の各ステップについて説明する。
【0030】
(
図7:ステップS701)
荷電粒子線装置は、試料6の表面と底部との間の電位差を形成する(プリドーズ)。ここでは、深さ方向の電位勾配をつけるためプリドーズを組み込んでいるが、通常の走査によってエネルギー弁別の分解能に相当する電位差が付けられるのであれば、プリドーズは不要である。
【0031】
(
図7:ステップS702)
荷電粒子線装置は、試料6表面の帯電電位(V
Surf)を計測する。帯電電位は、例えばエネルギー弁別することにより取得した試料6の観察画像の各部位の輝度分布に基づき求めることもできる。その他適当な手法により求めてもよい。
【0032】
(
図7:ステップS703〜S706)
荷電粒子線装置は、V
Surfをエネルギー弁別電圧(V
EF)の初期値として、弁別電圧を変えながら観察画像を取得する。ここでは、V
EFを10Vずつ変化させながら、プリドーズ無しの状態における本来の表面電位V
rになるまで繰り返す。V
EFの変化幅は任意にセットすることができる。変化幅を小さくするほど、深さ方向の形状をより高分解能で推定できる。
【0033】
(
図7:ステップS707)
荷電粒子線装置は、各エネルギー弁別画像(EF像)から、断面形状のエッジ位置を、深さ方向の位置ごとに抽出する。例えば
図4に示す観察画像においては、穴の各辺の位置をエッジ位置として、深さ方向の位置ごとに抽出する。本ステップは、
図5における各計測点を抽出することに想到する。
【0034】
(
図7:ステップS708〜S709)
荷電粒子線装置は、各EF像から求めたエッジ位置と、基準パターンにおけるエッジ位置とを比較することにより、両者の間のエッジ位置の差分を求める(S708)。荷電粒子線装置は、求めた差分を用いて、試料6の断面形状を推定する(S709)。これらステップは、
図5における基準パターンの計測点と各パターンの計測点との間の差分を求めることにより、
図6の推定結果を得ることに相当する。
【0035】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る荷電粒子線装置は、各エネルギー弁別画像から断面形状のエッジ位置を抽出し、あらかじめ形状がわかっている基準パターンにおける断面形状のエッジ位置と比較することにより、未知なパターンの断面形状を推定する。これにより、断面形状が未知の試料であっても、試料を破壊することなく断面形状を推定することができる。
【0036】
<実施の形態2>
実施形態1においては、既知の基準パターンと計測結果を比較することにより、断面形状を推定する例を説明した。本発明の実施形態2では、複数の加速条件を用いて取得したエッジ位置を電子線2の偏向量と比較することにより、断面形状を推定する方法について説明する。荷電粒子線装置の構成は実施形態1と同様であるので、以下では推定手順について主に説明する。
【0037】
図8は、本実施形態2において断面形状を推定する方法を説明する図である。まず、ある加速条件(例えば800eV)で試料6に対してプリドーズを実施するとともに各エネルギー弁別画像を取得する。次に異なる加速条件(例えば2000eV)で同じ試料6に対してプリドーズを実施するとともに各エネルギー弁別画像を取得する(
図8(a))。このとき、加速条件ごとに試料6の表面電位を計測することにより、エネルギー弁別電圧と計測深さを対応付けられるようにしておく。
【0038】
次に、断面形状がストレート穴である場合において、800eVのときの電子線2(1次電子)の水平方向における偏向量と、2000eVのときの1次電子の水平方向における偏向量との間の差分を、計測深さごとに算出する(
図8(b)点線)。表面の帯電電位が既知であれば、各計測深さにおける1次電子の偏向量を加速電圧ごとに算出することは容易である。
【0039】
次に、加速電圧を変更することにより、実際に計測されるエッジ位置がどの程度変化するかを、計測深さごとに求める(
図8(b)実線)。断面形状がストレートであれば、加速電圧を変更することにより計測されるエッジ位置は、1次電子の偏向量と等しいはずである。したがって、
図8(b)の点線と実線との間の差分を求めることにより、断面形状がストレートからどれだけずれているかを推定することができる。これにより、試料6の断面形状を推定することができる。
図8(c)は、その推定結果を示す。
【0040】
図9は、本実施形態2に係る走査電子顕微鏡が試料6の断面形状を推定する手順を説明するフローチャートである。以下
図9の各ステップについて説明する。
【0041】
(
図9:ステップS900〜S906)
荷電粒子線装置は、加速電圧800eVと2000eVそれぞれについて、ステップS701〜S706と同様の処理を実施する。
【0042】
(
図9:ステップS907)
荷電粒子線装置は、各エネルギー弁別画像(EF像)から、断面形状のエッジ位置を、深さ方向の位置ごとに抽出する。荷電粒子線装置は、加速電圧を変更することにより、実際に計測されるエッジ位置がどの程度変化するかを、計測深さごとに求める。これは
図8(b)実線を求めることに相当する。荷電粒子線装置はさらに、加速電圧間の1次電子の偏向量の差分を求める。これは
図8(b)点線を求めることに相当する。
【0043】
(
図9:ステップS908〜S909)
荷電粒子線装置は、
図8(b)実線と点線との間の差分を求めることにより(S908)、試料6の断面形状を推定する(S909)。
【0044】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る荷電粒子線装置は、加速電圧を変更することにより1次電子の偏向量がどの程度変化するかをあらかじめ算出しておき、加速電圧を変更することによりエッジ位置の検出結果がどの程度変化するかを計測することにより、断面形状を推定する。これにより、基準パターンが存在しない試料であっても、試料を破壊することなく断面形状を推定することができる。
【0045】
本実施形態2において、側壁形状がストレートであることを想定して、1次電子の偏向量をあらかじめ算出することとしたが、これに限られるものではなく、例えば目的とする加工形状(例えば設計データ)を想定して偏向量を算出してもよい。
【0046】
<実施の形態3>
図10は、試料6に傾斜した穴が形成されている例を示す側断面図である。ここでは3種類のパターンについて説明する。(a)はストレートなパターン、(b)は表面から底にかけて5nm傾斜したパターン、(c)は表面から底にかけて2nm傾斜したパターンである。
図10(b)(c)は、逆テーパーとよばれる形状であり、表面を電子線2によって走査しても、電子線2が側壁に当たらず、断面形状についての情報を得ることは難しい。
【0047】
図11は、実施形態1で説明した手法を用いて各パターンのエッジ位置を検出した結果を示す。通常、逆テーパーのパターンは、表面のエッジよりも内側に側壁のエッジが配置されているので、電子線2を側壁に対して直接照射するのは困難である。実施形態1で説明したように試料6の表面を正帯電させることにより、このような側壁に対して電子線2を照射することができる。
【0048】
テーパー角度が大きく、表面帯電による偏向では電子線2が側壁に到達しない場合は、偏向器4によって電子線2自体を傾斜(チルト)させてもよい。
【0049】
図12は、基準パターンのエッジ位置と計測したエッジ位置との間の差分に基づき断面形状を推定した結果を示す。点線は実際の形状を示し、実線は
図11の結果から推定した形状を示す。5nm傾斜、2nm傾斜ともに、実際の形状をほぼ推定できていることがわかる。
【0050】
<実施の形態4>
以上の実施形態においては、試料6が有する穴の断面形状を推定する例を説明した。本発明の実施形態4では、試料6の内部に存在する空隙(ボイド)の断面形状を推定する例について説明する。荷電粒子線装置の構成は実施形態1と同様であるので、以下では推定手順について主に説明する。
【0051】
図13は、ボイドパターンの例を示す側断面模式図である。SEMは試料表面の凹凸を観察するものであるので、試料6の内部に存在するボイドを検査・計測することは、一般に困難である。この場合も実施形態1〜3と同様に、試料6の表面に帯電を付与し、エネルギー弁別画像を観察することによりボイド形状を推定することができる。具体的には、エネルギー弁別器9を用いて2次電子7を弁別することにより、試料6表面の電位を計測し、表面上の各部位間の電位差に基づき、ボイドの平面位置を推定することができる。
【0052】
図14は、試料6表面の電位分布図である。
図13に示すように、ボイドを有する試料6に対してプリドーズを実施し、表面に正帯電を付与すると、下層にボイドがある箇所の電位がその他部位の電位よりも高くなり、試料6表面上の各部位間において電位差が生じる。2次電子7は放出された場所のエネルギーをオフセットとして持つので、2次電子7を検出する際にエネルギー弁別することにより、観察画像において、下層にボイドのある領域のコントラストを強調することができる。この場合は、下層にボイドの無い領域の輝度が基準となり、その基準輝度に対して輝度が所定閾値以上高い領域を、ボイドの平面サイズとみなすことができる。
【0053】
図15は、ボイドの深さ方向のサイズと試料表面の電位差との間の対応関係を例示するグラフである。ボイドの水平方向におけるサイズが同じであっても、ボイドの深さ方向のサイズに応じて、
図14に示した表面電位差が異なる。すなわち試料表面における、下層にボイドが存在する部位の電位と下層にボイドが存在しない部位の電位との間の差分は、ボイドの深さ方向のサイズが大きいほど大きい。
図15に示す対応関係をあらかじめ実験またはシミュレーション解析などによって取得しておくことにより、ボイドの深さ方向のサイズを推定することができる。
【0054】
<実施の形態4:まとめ>
本実施形態4に係る荷電粒子線装置は、エネルギー弁別器9を用いて、試料6の部位ごとに表面電位を計測し、下層にボイドが存在しない電位分布を基準パターンとして計測結果と比較することにより、ボイドの平面形状を推定することができる。さらに、表面電位差とボイドの深さ方向サイズとの間の対応関係をあらかじめ取得しておくことにより、ボイドの深さ方向サイズを推定することができる。
【0055】
<実施の形態5>
図16は、本発明の実施形態5に係る断面形状推定システムの構成図である。走査電子顕微鏡の制御装置は、(a)走査電子顕微鏡の各部を制御する機能、(b)検出された2次電子7に基づいて試料6の観察画像を形成する機能、(c)各画像からパターンのエッジ位置を導出する機能、(d)複数の画像間でエッジ位置の変化量を導出する機能、などを備えている。これら機能の演算処理は、その一部または全部を、制御装置とは別に設けた演算装置に実施させることもできる。本実施形態5においては、後述する演算処理装置803がその演算処理を実施する構成例を説明する。
【0056】
図16の断面形状推定システムは、SEM本体801、制御装置802、演算処理装置803を備える。SEM本体801は、実施形態1〜4に係る荷電粒子線装置である。演算処理装置803は、演算処理部804とメモリ805を備える。演算処理部804は、制御装置802に対して所定の制御信号を供給し、SEM本体801が取得した信号を処理する。メモリ805は、取得した画像データ、レシピ(計測条件などを記述したデータ)、実施形態1〜4で説明した基準パターンを記述したデータ、
図15で説明したデータ、などを記憶する。制御装置802と演算処理装置803は一体的に構成してもよい。
【0057】
偏向器4は電子線2を走査する。検出器8は試料6から放出された2次電子7を捕捉する。制御装置802に内蔵されたA/D変換器は、検出器8が出力する検出信号をデジタル信号に変換する。演算処理装置803は、CPU(Central Processing Unit)などの演算処理ハードウェアを備え、同ハードウェアが検出信号を演算処理することにより、各機能を実現する。
【0058】
演算処理部804は、測定条件設定部808、特徴量演算部809、設計データ抽出部810、断面形状推定部811を備える。測定条件設定部808は、入力装置813によって入力された測定条件等に基づいて、偏向器4の走査条件等の測定条件を設定する。特徴量演算部809は、入力装置813によって入力されたROI(Region Of Interest)内のプロファイルを、画像データから求める。設計データ抽出部810は、入力装置813によって入力された条件にしたがって、設計データ記憶媒体812から設計データを読み出し、必要に応じて、ベクトルデータからレイアウトデータに変換する。断面形状推定部811は、特徴量演算部809が求めた各エネルギー弁別画像を用いて実施形態1〜4で説明した手法により試料6の断面形状を推定する。
【0059】
演算処理部804およびその各機能部は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアを用いて構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアを演算装置が実行することにより構成することもできる。
【0060】
入力装置813は、演算処理装置803とネットワークを経由して接続されており、操作者に対して試料6の観察画像や断面形状の推定結果などを表示するGUI(Graphical User Interface)を提供する(後述の
図17〜
図19)。例えば画像データや設計データを併せて3次元マップとして表示することもできる。
【0061】
図17は、入力装置813が表示するGUIの例である。操作者は、画像のパターン深さ(Pattern depth)を設定する。操作者はさらに、試料底部から見た断面高さ(View height)を指定することにより、任意深さにおけるXY断面画像を見ることができる。
【0062】
演算処理装置803は試料6の3次元構造を推定するので、
図17右下の画像のように試料6全体を3次元表示することもできる。右下の3次元画像は、マウスポインタによって任意に回転することができる。右下図の3次元像から断面高さ(View height)を指定することもできる。XY断面像内で2次元領域を指定すると、その領域内の断面形状(XZもしくはYZ断面)を推定した結果を、
図17右上欄(断面形状ウィンドウ)に表示する。断面形状ウィンドウにおいて、任意の位置にマウスカーソルを移動すると、カーソルで指定した場所の深さと側壁の傾斜角度を表示する。作成した画像および断面形状波形は名前をつけて保存できる。
【0063】
図18は、推定した断面形状をパターン分類するGUIの例である。演算処理装置803は、あらかじめ設定されたパターン形状(ストレート、順テーパー、逆テーパー、傾斜、ボーイング)の他、ユーザが編集する任意形状モデルに基づき、断面形状を分類する。分類結果は
図18右側のSEM画像上にパターンごとに表示される。分類結果は画像またはテキストデータとして保存できる。
【0064】
図19は、ユーザが断面形状モデルを編集するGUIの例である。モデル編集領域上において、マウスでパターンの頂点をクリックしていくことにより、閉空間をパターンとして設定することができる。あるいは、
図19左側に示す形状テンプレートをモデル編集領域上に配置し、組み合わせることにより、形状を設定することもできる。編集した形状モデルは保存することができ、過去に作成したモデルを読み込んで編集することもできる。
【0065】
<本発明の変形例について>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について他の構成の追加・削除・置換をすることができる。
【0066】
以上の実施形態においては、1次電子が試料6の底部まで到達することが前提となる。そこで荷電粒子線装置は、パターンサイズ(穴径、溝幅など)とパターン深さに基づき、各加速条件における1次電子の偏向量を求める際に、1次電子がパターン底部まで到達することができる加速電圧の範囲を導出してもよい。さらにその加速電圧範囲や最適な加速条件の組み合わせを、実施形態5で説明したGUI上で提示してもよい。加速条件を変更してもパターン底まで電子線2が到達しない場合は、電子線2自体を傾斜(チルト)させてもよい。電子線2をチルトさせた場合は、チルトさせた電子線を照射して得られた基準パターンの画像を基に、試料6の断面形状を推定すればよい。
【0067】
実施形態1〜4で説明した各処理は、荷電粒子線装置自身が備える演算装置(例えば制御装置802)上で実施してもよいし、荷電粒子線装置自身は検出信号のみを取得し、別の演算装置(例えば演算処理装置803)がその検出信号を記述したデータを取得して同処理を実施してもよい。各演算装置が実施する処理は、その演算処理を実装した回路デバイスなどのハードウェアを用いて実施してもよいし、その演算処理を実装したソフトウェアを演算装置が実行することにより実施してもよい。