【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
(実施例1)
−スラリーの作製−
まず、ニッケル地金、コバルト地金、マンガン地金を用意し、これら3種類の地金を硝酸(55%水溶液)に溶解させて地金溶解液とした。この際、地金溶解液中のNi:Co:Mnがモル比で85:12:3となるよう、また、NO
3/(Ni+Co+Mn)のモル比が3.28となるよう、仕込みモル比を調整した。また、水素およびNO
x除去のため、排ガス処理装置を同時に作動させた。溶解開始から3時間は目標温度を110℃として加熱を行い、溶解反応を継続させた。全溶解時間は24時間であった。これとは別に、水に炭酸リチウムを分散させ、45Hzで撹拌混合させて懸濁液を作製した。次に、当該懸濁液に地金溶解液を約2L/minで滴下し、Li、Ni、Co、Mnを含むスラリーを作製した。この滴下の際、10mm径の配管を3本用意し、それぞれに地金溶解液を分割して滴下した。こうして噴霧前スラリーを作製した。
【0034】
この噴霧前スラリーに、シュウ酸ニオブ(HCスタルク製)の水溶液をNb/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.01となるように添加して溶解させた。これを藤崎電機製マイクロミストドライヤで噴霧乾燥した。噴霧乾燥条件としては、入口温度を280±2℃、出口温度を160±5℃、乾燥塔への給気を1.5±0.1m
3/min、スラリー流量に対するノズルエアー流量の比(G/S)を2400となるようにヒーター出力、ノズルエアー流量、乾燥塔への給気量、スラリー流量を制御した。
【0035】
この噴霧乾燥で得られた乾燥粉を、アルミナ匣鉢に充填して焼成した。匣鉢への充填高さは1.5cmとした。焼成パターンとしては、表1に示す通りとした。本実施例では焼成炉にローラーハースキルンを用い、1時間毎に焼成ゾーンを設定し、焼成ゾーン境界については匣鉢通過時を除いて基本的にシャッターを閉じて各焼成ゾーンの雰囲気をなるべく導入ガスと同じになるように保った。
【0036】
こうして得られた塊状の焼成物について、置かれている雰囲気を乾燥純酸素から乾燥空気に切り替え、その乾燥空気中でロールミルとパルベライザーを用いて解砕してすぐに磁選して実施例1の正極活物質とした。
【0037】
(実施例2)
地金溶解液の組成をNi:Co:Mn=90:5:5に変更したこと、表1中の(1)の温度を850℃としたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例2の正極活物質とした。
【0038】
(実施例3)
表1中の(2)の時間(15hr)を20hrにすること以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例3の正極活物質とした。
【0039】
(実施例4)
噴霧前スラリーに、さらにシュウ酸チタン二アンモニウムの水溶液をTi/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.02となるように添加して溶解させたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例4の正極活物質とした。
【0040】
(実施例5)
噴霧前スラリーに、さらに硝酸マグネシウムの水溶液をMg/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.014となるように添加して溶解させたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例5の正極活物質とした。
【0041】
(実施例6)
噴霧前スラリーに、さらに硝酸アルミニウムの水溶液をAl/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.015となるように添加して溶解させたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例6の正極活物質とした。
【0042】
(実施例7)
噴霧前スラリーに、さらにオキシ硝酸ジルコニルの水溶液をZr/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.013となるように添加して溶解させたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例7の正極活物質とした。
【0043】
(実施例8)
噴霧前スラリーに、モリブデン酸リチウムの水溶液をMo/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.05となるように添加して溶解させたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例8の正極活物質とした。
【0044】
(実施例9)
噴霧前スラリーに、パラタングステン酸アンモニウムの水溶液をW/(Ni+Co+Mn)がモル比で0.1となるように添加して溶解させたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を作製し、実施例9の正極活物質とした。
【0045】
(比較例1)
窒素雰囲気とした反応容器を用意し、それに3Lの純水を入れて、撹拌した。硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの1.5mol/L水溶液をそれぞれ作製し、各水溶液を所定量秤量して、Ni:Co:Mn=0.85:0.12:0.03となるように混合硫酸塩水溶液を調製して、反応タンク1に入れた。また、反応タンク2に3mol/Lとなるように苛性ソーダ水溶液を作製した。さらに、反応タンク3に20質量%となるようにアンモニア水溶液を作製した。
【0046】
反応容器の撹拌を維持しながら、この反応タンク1、反応タンク3から、5mL/minの速度で、反応容器中に送液した。その際、pHが11.0となるように、反応容器内に反応タンク2から苛性ソーダ水溶液を投入した。この時、反応容器内の液の温度が50℃となるように調整した。これを3時間継続し種晶スラリーを作製した。
【0047】
次に、反応容器中の撹拌を維持しながら、反応タンク1と反応タンク3から5mL/minの速度で、反応容器中に送液した。その際、pHが10.5となるように、反応容器内に反応タンク2から苛性ソーダ水溶液を投入した。この時、反応容器内の液の温度は50℃となるように調整した。液が10Lになった時点で、反応容器下の循環ポンプを作動させ、濃縮槽に15mL/minの速度で送液し、濃縮槽で液成分のみを一部ろ過し、ろ過後の液を反応容器内に戻した。反応容器内の液が3L以下になった時点で循環ポンプを停止し、再び10Lになった時に作動させた。これらの操作を反応容器・濃縮槽とも窒素雰囲気のまま10時間継続実施した。こうして、晶析法によってNi
0.85Co
0.12Mn
0.03(OH)
2を作製した。この液をフィルタープレスでろ過・水洗し、120℃で12時間、大気中で乾燥した。
【0048】
このNi
0.85Co
0.12Mn
0.03(OH)
2とD90が20μm以下であるLiOH・H
2Oとを、湿度が60%の大気雰囲気にてLi/(Ni+Co+Mn)が1.01となるように一つの袋に計量し、袋を膨らませたまま開口部を手で握って粉が漏れないようにして、握ってない方の手を袋の底にあてて両方の手で袋を揺らして粗混合した。この粗混合した粉体(粗混合粉)を袋から全部ヘンシェルミキサーに入れて、1500rpmで5分間混合し、混合した粉体(混合粉)をアルミナ匣鉢に充填した。匣鉢への充填高さは1cmとした。焼成炉としてローラーハースキルンを用い、ローラーハースキルン中に乾燥酸素を10m
3/minで流通して乾燥酸素雰囲気とし、該アルミナ匣鉢をローラーハースキルン中に入れ、490℃で8時間保持した後、昇温して700℃で4時間保持するように焼成パターンを設定し匣鉢を動かした。これを5℃/minで室温まで冷却するように焼成パターンを設定し匣鉢を動かした。こうして得られた塊状の焼成物について、置かれている雰囲気を乾燥純酸素から乾燥空気に切り替え、その乾燥空気中でロールミルとパルベライザーを用いて解砕した。
【0049】
解砕後の粉末を、LiアルコキシドとNbアルコキシドを用いて、常法により当該粉末の表面にLiNbO
3を被覆し、当該被覆後の粉末を磁選して比較例1の正極活物質を作製した。
【0050】
(比較例2)
実施例1の噴霧前スラリーにおいて、シュウ酸ニオブ水溶液を添加せず、実施例1で添加したシュウ酸ニオブ水溶液と同質量の純水を噴霧前スラリーに添加してよく撹拌し均一にさせたこと、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕した粉末にLiアルコキシドとNbアルコキシドを用いて、常法により当該粉末の表面にLiNbO
3を被覆し、当該被覆後の粉末を磁選したこと以外は実施例1と同様にして比較例2の正極活物質を作製した。
【0051】
(評価)
こうしてできた各実施例及び比較例のサンプルを用いて下記の条件にて各評価を実施した。
−SEMおよびEDXの評価−
粒子表面や粒子断面について、SEM観察には日本電子製のJSM−7000F型、EDXには日本電子製のJXA−8500F型を用いた。SEMでの球形/非球形の判断(粒子形態の判断)およびEDXでの各元素のスポットの有無(各元素存在状態)については常法にて判断した。断面作製は高分子で正極活物質粉体を固めた後、クロスセクションポリッシャーで断面出しを行うことにより実施した。
【0052】
−S(硫黄)含有量の評価−
ICPにてSO
42-を測定し、それをSに換算した。
【0053】
−電池特性の評価(全固体リチウムイオン電池)−
実施例および比較例の正極活物質と、LiI−Li
2S−P
2S
5とを、7:3の割合で秤量し、混合して正極合剤とした。内径40mmの金型中にLi−In合金、LiI−Li
2S−P
2S
5、正極合剤、Al箔をこの順で充填し、500MPaでプレスした。このプレス後の成形体を、金属製治具を用いて100MPaで拘束することにより、全固体リチウムイオン電池を作製した。この電池について、放電レート0.05Cで得られた初期容量(25℃、充電上限電圧:4.55V、放電下限電圧:2.5V)を測定し、次に放電レート1Cで得られた高率容量(25℃、充電上限電圧:4.55V、放電下限電圧:2.5V)を測定し、(高率容量)/(初期容量)の比を百分率としてレート特性(%)とした。
評価条件及び結果を表1及び表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】