【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のPt/SnO
2系触媒は、メタン燃焼のために硫黄酸化物を必要とするものであったとしても、硫黄酸化物が触媒活性に悪影響を及ぼさないという訳ではない。Pt/SnO
2系触媒のメタン燃焼活性に対する活性機構について検討し、特に、触媒粒子となる白金の状態について考察した。その結果、Pt/SnO
2系触媒では、白金は酸化物(PtO又はPtO
2)の状態にあってこそ、メタン燃焼に対する活性を有するとの考えに至った。後に詳述するが、Pt/SnO
2系触媒は、白金錯体を酸化スズ担体に担持して焼成することで製造される。この過程で白金は、焼成による酸化作用及び酸化物である酸化スズ担体との相互作用によって酸化状態にあると考えられる。
【0009】
そして、Pt/SnO
2系触媒の硫黄酸化物による触媒被毒のメカニズムとして、硫黄酸化物が触媒粒子(白金酸化物)を変質させていると考察した。本発明者等がこのように考えたのは、Pt/SnO
2系触媒においては、被毒物の吸着による通常の劣化傾向を示さないことによる。硫黄酸化物が通常の被毒物であり、その吸着によって燃焼成分(メタン)と触媒粒子との吸着が阻害され活性が低下するのであれば、被毒物の吸着量が平衡となれば活性は下げ止まるはずである。しかし、本発明者等の試験検討によれば、Pt/SnO
2系触媒は、そのような傾向を示さず、硫黄酸化物の吸着量が反応の初期で平衡となっても引き続き活性低下を示す。これは、硫黄酸化物によって触媒粒子(白金酸化物)の変質が生じていることを示している。
【0010】
本発明者等が考察した、硫黄酸化物によるPt/SnO
2系触媒の活性低下の具体的なメカニズムは、以下の通りである。触媒粒子(白金酸化物)近傍に飛来したSO
2等の硫黄酸化物は、酸化し易いために白金酸化物から酸素を奪ってSO
3等に酸化して脱離する。酸素を奪われメタル化した白金粒子は、近傍で同様にしてメタル化した白金粒子とシンタリングして粗大な白金粒子を形成する。このようなメタル化及び粗大化した白金粒子はメタン燃焼活性に乏しい。そして、白金酸化物のメタル化と白金粒子のシンタリングは、硫黄酸化物の吸着量が平衡になっても継続されることから、活性は低下し続けることとなる。
【0011】
本発明者等は、Pt/SnO
2系触媒の活性機構と硫黄酸化物による活性低下のメカニズムを上記のように考察した。このような考察に基づけば、特許文献2が明らかにしたPt/SnO
2触媒へイリジウムを追加的に担持したPt−Ir/SnO
2触媒の耐久性が良好となる要因も説明できる。Pt−Ir/SnO
2触媒においては、イリジウムも白金同様に酸化物(IrO
2)として存在するが、イリジウム及びイリジウム酸化物にはメタン燃焼の活性作用は殆どないと推定される。但し、イリジウム酸化物は、硫黄酸化物の酸化作用によりメタル化した白金へ酸素を供給することで、白金の酸化状態を維持する機能を有していると考えられる。そして、イリジウム酸化物は、前記の白金への酸素供給による還元や硫黄酸化物による還元によってメタル化するが、還元されたイリジウムは、酸化スズ担体からの酸素供給を受けて酸化イリジウムの状態を維持することが可能である。このようなイリジウム酸化物の作用によって、メタン燃焼触媒の耐久性が向上すると考えられる。
【0012】
以上の考察に基づくと、Pt/SnO
2系触媒の初期活性の向上と耐久性の確保のためには、いくつかの指針があることが導き出される。即ち、初期活性の向上には、活性源となる酸化物状態の白金の量を増大させることが必要である。また、耐久性の確保のためには、イリジウムの追加的担持が必要であるが、イリジウムの作用を有効にするため、触媒製造の段階で白金を微細に分散させ、その近傍にイリジウムを担持することが必要となる。本発明者等は、これらの指針のもと、Pt/SnO
2系触媒の製造方法及びその構成の最適化について鋭意検討を行った。そして、好適な酸化状態にある白金が分散したPt/SnO
2系触媒として本発明に想到した。
【0013】
上記課題を解決する本発明は、酸化スズ担体に白金及びイリジウムが担持されてなり、硫黄酸化物を含む燃焼排ガス中のメタンを燃焼するためのメタン燃焼触媒において、前記メタン燃焼触媒をX線光電子分光法(XPS)で測定したとき、白金4fスペクトルから得られる金属白金(Pt)、白金酸化物(PtO及びPtO
2)の存在比率に基づき下記式により算出される金属白金に対する白金酸化物の割合R
TOが8.00以上(16.00以下)であることを特徴とするメタン燃焼触媒である。
【0014】
【数1】
ここで、R
Ptは金属白金(Pt)の存在比率であり、R
PtoはPtOの存在比率であり、R
Pto2はPtO
2の存在比率である。
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。本発明に係るPt/SnO
2系触媒からなるメタン燃焼触媒は、その基本的な構成は、従来のPt/SnO
2系触媒(特許文献1、2)と同様であり、白金とイリジウムとを酸化スズからなる担体に担持してなる。以下の説明では、触媒の各構成を説明すると共に、触媒の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
(A)本発明に係るメタン燃焼触媒の構成
上記の通り、従来のPt/SnO
2系触媒に対する本発明の特徴は、担持された白金の酸化状態にある。以下、この特徴について明らかにしつつ、本発明に係るメタン燃焼触媒を構成する白金及びイリジウム、担体について説明する。
【0017】
(A−1)白金
本発明に係る触媒は、上記の通り、白金の酸化状態において特徴を有する。本発明では、白金の酸化状態をX線光電子分光分析(XPS)による分析結果に基づいて特定する。XPSは、分析対象を構成する原子について、結合状態の種類とそれぞれの結合状態が占める割合(存在比率)を分析可能な手法であることから、本発明で適用される。具体的には、触媒をXPSで分析したときに観測される白金4f(Pt4f)スペクトルに基づき、各結合状態に対応する結合エネルギーにおける検出強度から白金の酸化状態を特定する。ここで、白金4fスペクトルにおいては、金属Ptのピークは71.0eV〜72.0eVの範囲内に、PtOのピークは72.8eV〜73.2eVの範囲内に、PtO
2のピークは74.6eV〜75.0eVの範囲内に発現する。白金の各状態の存在比率R
Pt、R
PtO、R
PtO2は、各状態のピーク面積から算出される。
【0018】
そして、本発明では、白金の各状態の存在比率R
Pt、R
PtO、R
PtO2に基づき、上記数1により金属白金に対する白金酸化物の割合R
TOを8.00以上であることを要求する。この白金酸化物の割合R
TOが高い程、酸化状態にある白金原子の割合が高いこととなる。R
TOが8.000未満の触媒では、白金の酸化状態が不十分であり、排ガス中の硫黄酸化物による影響を多く受け、メタン燃焼の活性に劣ることとなる。R
TOの数値は、高ければ高い程好ましいといえるが、現実的に全ての白金原子を酸化させることは困難であるので、R
TOの上限としては、16.00とするのが好ましい。
【0019】
本発明において、白金酸化物の割合R
TOを上記のように高めるためには、酸化スズ担体へ白金を担持する工程において、白金原子を微細且つ均一に分散させることが必要である。また、これに加えて、白金酸化物の割合R
TOの値は、担持工程から焼成工程までに行われる操作の影響を受ける。R
TOを好適範囲にするための方法の詳細については後述する。
【0020】
本発明のメタン燃焼触媒における白金の担持量は、金属白金換算で触媒全体の質量に対して質量基準で2.0質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。白金の担持量は、より好ましくは、4.0質量%以上15質量%以下である。上述の2.0質量%以上15質量%以下、4.0質量%以上15質量%以下の白金の担持量が、目標担持量となる。
【0021】
(A−2)イリジウム
本発明のメタン燃焼触媒において、イリジウムは耐久性向上のための助触媒として作用する。メタン燃焼触媒におけるイリジウムも酸化物の状態にある。そして、イリジウム酸化物は、硫黄酸化物によってメタル化した白金へ酸素を供給することで、白金の酸化状態を維持する機能を有する。本発明のメタン燃焼触媒では、イリジウムの酸化状態に関しては特に制限することはない。本発明者等の検討によれば、イリジウムの場合、担持したイリジウムの殆どが酸化されていることが確認されている。後述の通り、イリジウムの酸化に関しては、白金を白金酸化物にするための条件のような厳密な条件は不要である。
【0022】
本発明のメタン燃焼触媒におけるイリジウムの担持量は、金属イリジウム換算で触媒全体の質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。イリジウムの担持量は、より好ましくは、0.2質量%以上2.0質量%以下である。
【0023】
(A−3)酸化スズ担体
酸化スズ担体は、触媒粒子の分散した状態で保持するという担体本来の機能と共に、触媒粒子である白金(白金酸化物)にメタン燃焼の活性を付与する上で必須の構成である。また、上述のとおり、本発明者等は、酸化スズ担体は、イリジウムへの酸素供給作用を有すると考察している。そのため、酸化スズ担体は、イリジウム酸化物による触媒の耐久性維持においても重要な構成といえる。
【0024】
酸化スズ担体の形態は、メタン燃焼触媒の形態に応じたものが採用される。ここで、メタン燃焼触媒の形態としては、粒状、顆粒状、ペレット状、タブレット状のいずれかの形状とすることができる。このようなメタン燃焼触媒においては、酸化スズ担体も同様の粒状、顆粒状、ペレット状、タブレット状の形状となる。このような酸化スズ担体においては、比表面積が10m
2/g以上27m
2/g以下のものが好ましく、より好ましくは11m
2/g以上15m
2/g以下とする。
【0025】
また、メタン燃焼触媒の形態としては、メタン燃焼触媒を適宜の支持体に支持させたものの適用例も多い。支持体としては、板形状、筒形状、球形状、ハニカム形状のいずれかの形状の支持体が知られている。このような触媒においては、酸化スズをいわゆるウオッシュコートとして支持体に塗布・被覆して酸化スズ担体を形成する。このように酸化スズ担体を支持体に塗布する場合、酸化スズ担体の好適量は、支持体の容量基準で250g/L以上400g/L以下とするのが好ましい。250g/L未満と担体の量が少な過ぎると白金及びイリジウムの分散性が低下して十分なメタン燃焼が困難となるおそれがある。また、400g/Lを超えて担体の量が多過ぎると処理ガス非接触の領域が形成されこの場合もメタン燃焼の効率が低下する。このような形態の酸化スズ担体の比表面積も、上記したペレット状等の担体と同様の比表面積とすることが好ましい。
【0026】
(B)本発明に係るメタン燃焼触媒の製造方法
次に、本発明に係る触媒の製造方法について説明する。本発明に係るメタン燃焼触媒は、酸化スズ担体に白金及びイリジウムを担持することで製造される。この点においては従来技術と同様であり、本発明の触媒の製造方法は基本的に従来法が適用できる。ここで、従来のメタン燃焼触媒としては、含浸法が適用される。含浸法は、担体に担持する貴金属塩(貴金属化合物)の溶液を含浸させた後、焼成熱処理を行い担体上に貴金属を析出させる公知の触媒製造方法である。
【0027】
但し、本発明においては、Pt/SnO
2系触媒の初期活性の向上には、活性源である白金酸化物となる白金量の割合を増加させることが必要であることを明らかにしている。また、触媒の耐久性の確保のためには、触媒製造の段階で白金を微細に分散させると共に、イリジウムを白金に近接させて担持してイリジウムの作用を有効にすることも必要である。本発明者等は、これらの要件を具備し得る触媒製法について検討を行い、含浸法における貴金属塩溶液の含浸手順及び含浸後の乾燥条件、更には焼成熱処理の温度を厳密に設定することが必要であることを見出した。
【0028】
即ち、本発明に係るメタン燃焼触媒の製造方法は、酸化スズからなる担体に白金塩溶液を含浸させる第1の担持工程及び前記第1の担持工程後の担体を焼成する第1の焼成工程と、前記第1の焼成工程後の担体にイリジウム塩溶液を含浸させる第2の担持工程及び前記第2の担持工程後の担体を焼成する第2の焼成工程と、を含み、前記第1の担持工程は、前記担体に、目標担持量の白金を含む白金塩溶液よりも白金含有量が低い白金塩溶液を複数回含浸し、前記複数回の含浸毎に、含浸後の担体を60℃以上150℃以下の温度で乾燥させることで、目標担持量の白金を含浸させる工程であり、更に、前記第1の焼成工程の加熱温度を350℃以上500℃以下とするメタン燃焼触媒の製造方法である。
【0029】
上記の通り、本発明に係る触媒製法は含浸法を基本としつつ、貴金属塩溶液の含浸工程と焼成熱処理工程のそれぞれについての改良を行っている。以下、本発明の各工程について説明する。
【0030】
(B−1)担持前工程(任意工程)
メタン燃焼触媒の形態に応じた酸化スズ担体の準備工程として、各種形態の酸化スズの調製や、支持体への酸化スズスラリーの塗布等を行うことができる。酸化スズの調製としては、比表面積の調整のための熱処理が挙げられる。この熱処理は、粉末状、粒状、顆粒状、ペレット状、タブレット状の酸化スズを大気中で450℃以上700℃以下の温度で焼成することが好ましい。また、メタン燃焼触媒をハニカム等の支持体に支持させる場合、酸化スズ粉末をスラリー化して支持体に塗布する。酸化スズスラリーは、上記熱処理した酸化スズ粉末に水や有機溶剤を分散媒とするバインダーを混合することで調製できる。酸化スズスラリーの支持体への塗布は、エアブロー、スプレー、ディッピング等各種の公知の方法が適用できる。
【0031】
(B−2)白金及びイリジウムの担持工程
酸化スズ担体への白金及びイリジウムの担持は、各貴金属の貴金属塩溶液の含浸と焼成熱処理を経てなされる。本発明では、白金の担持とイリジウムの担持を別々に行うこととする。これは、イリジウムの担持に先立ち、白金(白金酸化物)を微細且つ分散した状態で担持させた後にイリジウムを担持することで、白金(白金酸化物)とイリジウムとが近接した状態が発現し易くなるためである。この点、従来法では、白金とイリジウムの混合溶液による同時担持を許容しているが、本発明において同時担持は採用されない。
【0032】
(B−2−1)白金の担持工程(第1の担持工程)と焼成工程(第1の焼成工程)
本発明において、白金の担持工程は、微細な白金粒子を分散して担持すると共に、白金を高効率で白金酸化物にするために重要な工程である。上記の通り、本発明では、白金担持の際、目標担持量の白金を含む白金塩溶液よりも白金含有量が低い白金塩溶液を、目標担持量に到達するまで酸化スズ担体に複数回含浸させる(以下、この操作を分割担持と称することがある)。また、本発明では、分割担持における含浸毎に、所定条件の乾燥処理を行うことを要件とする。
【0033】
酸化スズ担体に含浸する白金塩溶液としては、硝酸白金水溶液、塩化白金水溶液、酢酸白金水溶液の他、白金錯体溶液であるテトラアンミン白金塩水溶液、ジニトロジアンミン白金−アンモニア水溶液、ジニトロジアンミン白金−エタノールアミン溶液等が挙げられる。これらの白金塩溶液のうち、好ましいのは、ジニトロジアンミン白金−アンモニア水溶液、ジニトロジアンミン白金−エタノールアミン溶液、硝酸白金水溶液である。白金塩溶液の酸化スズ担体への含浸方法には特に制限はなく、スプレー、滴下、ディッピングの何れでも良い。
【0034】
本発明で白金の担持のために分割担持を必須とするのは、白金の微細化と高分散化のためである。目標担持量の白金濃度の白金塩溶液を1度に含浸した場合、白金(白金塩)が偏って担持されることがあり、分散性が悪化する。希薄な白金塩溶液を繰り返し含浸させることで微細な白金を高分散に担持することができる。この分割担持と後述の乾燥処理との組み合わせは、白金の微細分散にとって必要であり、その後の焼成工程における白金酸化物の生成にも寄与する。
【0035】
本発明における分割担持で含浸する白金塩溶液の白金含有量は、含浸操作毎に相違しても良いが、均等な白金含有量の白金塩溶液を含浸させることが好ましい。また、分割担持における含浸の回数としては、目標担持量にもよるが、3〜5回程度が好ましい。よって、1回の含浸操作で含浸させる白金塩溶液の白金含有量は、目標担持量をMとするとき、M/3〜M/5とするのが好ましい。
【0036】
そして、本発明では分割担持における複数回の含浸処理毎に乾燥処理を行う。乾燥処理は、含浸後の担体に含まれる水分・結晶水を蒸発・除去して担体に白金塩を定着させる処理である。乾燥処理を必須とするのは、水分が残留した状態で高温の焼成熱処理を行うと、水分によって白金が移動し分散性が低下するおそれがあるからである。この乾燥処理において留意すべきは、含浸処理で担体に吸着した白金塩を分解させることなく水分を除去する点にある。分割担持の含浸処理毎の乾燥処理において白金塩の分解が生じると、分解で生じた白金が固定され、次回の含浸処理で含浸させた白金塩が固定化された白金に吸着して凝集する傾向にある。この白金塩の凝集により、触媒の白金(白金酸化物)分散性が低下することとなる。そのため、乾燥処理では、水分を効果的に蒸発・除去しながら、白金塩が分解しない温度下での加熱が必要となる。
【0037】
具体的には、乾燥処理では温度60℃以上150℃以下の温度で加熱することを要する。60℃未満では水分の蒸発が遅くなり、処理時間が過大となる。また、150℃を超えると、白金塩の分解が生じるおそれがある。また、乾燥処理の処理時間については、担体の含水量によって調整されるが、少なくとも30分以上は前記温度範囲内で加熱することが好ましい。乾燥時間の上限は特に限定する必要はないが、製造効率を考慮して120分以下とするのが好ましい。
【0038】
本発明では、上記した分割担持により、目標担持量の白金塩が担持されるまで、白金塩溶液の含浸と乾燥を複数回行った後に焼成工程を行う。この焼成工程は、白金塩を分解して活性源となる白金酸化物を生成する処理である。この第1の焼成工程における加熱温度は350℃以上500℃以下である。350℃未満では白金酸化物の生成が不十分となる。そして、500℃を超えると、折角生成した白金酸化物が分解して金属白金となるからである。この加熱温度は、380℃以上480℃以下がより好ましい。焼成工程の処理時間は、1時間以上5時間以下とするのが好ましい。焼成工程の雰囲気は、大気中等酸化性雰囲気であれば特に限定されない。
【0039】
焼成工程と上記の乾燥処理(分割担持における最後の含浸処理後の乾燥処理)は、連動して行うことができる。つまり、乾燥処理で60℃以上150℃以下の温度で一定時間加熱した後、昇温を再開して上記焼成温度まで加熱して焼成処理を行うことができる。このような場合、乾燥温度から焼成温度まで同じ昇温速度で一気に加熱しても良い。また、乾燥温度から焼成温度に昇温する過程で昇温速度を調整しても良い。乾燥処理後の白金塩が白金酸化物となるまでの挙動としては、150℃から約300℃までで白金塩は分解し、約300℃以上で酸化物となるが500℃を超えると酸化物は金属白金に分解する。そのため、乾燥処理の温度から300℃までは遅い昇温速度(1〜3℃/min)として白金塩の分解を進行させて、300℃から500℃までの間では昇温速度を比較的速くした昇温速度(5〜10℃/min)とすることで、効率的且つ安定的に白金酸化物を生成することができる。但し、このような昇温速度の段階的な調整は必須ではなく、上記の通り、乾燥温度から焼成温度まで一気に加熱しても白金酸化物は形成できる。その場合の昇温速度としては、1〜3℃/min程度が好ましい。
【0040】
以上の白金焼成工程(第1の焼成工程)により、担体に白金酸化物が担持される。尚、上記から明らかな通り、本発明では白金塩溶液の含浸は複数回行うが、焼成工程は最後の含浸後の1回のみであって、含浸毎に焼成工程は行われない。分割担持の含浸毎に焼成を行うと、焼成により生成した白金酸化物に白金塩が吸着・結合するおそれがあり、これを焼成するとシンタリングが生じて粗大な酸化物となるおそれがあるからである。
【0041】
(B−3)イリジウムの担持工程(第2の担持工程)と焼成工程(第2の焼成工程)
酸化スズ担体に白金の担持と焼成を行った後、イリジウムの担持と焼成を行う。イリジウムの担持もイリジウム塩溶液の含浸によってなされるが(第2の担持工程)、白金の担持の場合と異なり、分割担持に拠らず一度の含浸処理で行なわれる。
【0042】
イリジウム担持のために含浸するイリジウム塩溶液としては、塩化イリジウム水溶液、硝酸イリジウム水溶液等のハロゲン化イリジウム水溶液、ヘキサクロロイリジウム酸水溶液等のハロゲン化イリジウム酸水溶液、ヘキサアンミンイリジウム水酸塩溶液等が挙げられる。イリジウム塩溶液の含浸方法も特に制限はなく、スプレー、滴下、ディッピングの何れでも良い。
【0043】
イリジウム塩溶液の含浸処理後は、白金と同様、乾燥処理を行う。イリジウム塩の乾燥処理においては、白金のような白金塩の分解を考慮した厳密な条件は必要ない。但し、白金の場合と同様、60℃以上150℃以下の温度が好ましい。また、乾燥時間は、30分以上2時間以下加熱することが好ましい。
【0044】
そして、焼成工程(第2の焼成工程)を経てイリジウム塩からイリジウムの析出とイリジウム酸化物の生成がなされる。本発明者等によれば、イリジウムは白金と異なり、焼成条件を厳密に設定する必要がない。イリジウムの場合、白金よりも比較的容易に酸化物が生成し、その分解のおそれも少ないからである。イリジウムの焼成においては、350℃以上で加熱することが好ましい。イリジウムの焼成工程の雰囲気も、大気中等酸化性雰囲気であれば特に限定されない。但し、イリジウムの焼成工程を過度に高温とすると、白金酸化物の分解を生じさせるおそれがある。そのため、イリジウムの焼成工程でも上限温度を500℃とすることが好ましい。また、焼成時間も白金の担持と同程度とするのが好ましい。
【0045】
以上のイリジウムの担持工程及び焼成工程を行うことで、本発明に係るメタン燃焼触媒が製造される。
【0046】
(C)本発明に係るメタン燃焼触媒によるメタンの燃焼方法
以上説明した本発明に係るメタン燃焼触媒を適用するメタン燃焼方法は、基本的には従来法と同様となる。本発明に係るメタン燃焼方法における対象としては、メタンと共に硫黄酸化物を含む燃焼排ガスである。また、メタン及び硫黄酸化物の他、エタンやプロパン等の他の炭化水素や一酸化炭素、酸素、含酸素化合物、窒素酸化物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。
【0047】
燃焼排ガス中のメタン燃焼においては、本発明に係るメタン燃焼触媒を備えた燃焼装置に処理対象ガスを通過させてメタン燃焼触媒に接触させる。燃焼装置については公知のものが適用でき、例えば、固定床流通型反応装置等が適用できる。こうした燃焼装置における触媒の使用量は、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で設定されることが一般的である。本発明においては、空間速度は、メタンの燃焼率確保のため、80,000h
−1以下とすることが好ましい。空間速度を低くすることで触媒活性は向上するので、空間速度は低ければ低い程好ましい。但し、触媒活性と経済性及び圧力損失を考慮すると、空間速度は1,000h
−1以上とするのが好ましい。
【0048】
燃焼排ガスの浄化のためのメタン燃焼触媒の加熱温度、即ち、反応温度は、反応温度を340℃以上500℃以下とする。反応温度は、350℃以上475℃以下がより好ましい。