特許第6883290号(P6883290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 不二ライトメタル株式会社の特許一覧
特許6883290生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法
<>
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000002
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000003
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000004
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000005
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000006
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000007
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000008
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000009
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000010
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000011
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000012
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000013
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000014
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000015
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000016
  • 特許6883290-生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883290
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/57 20060101AFI20210531BHJP
   C22C 23/06 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 27/06 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 17/06 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20210531BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20210531BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20210531BHJP
   C22C 23/04 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   C23C22/57
   C22C23/06
   A61L27/04
   A61L27/02
   A61L27/06
   A61L17/06
   A61L31/02
   A61L31/14 500
   A61L27/58
   C22C23/00
   C22C23/04
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-535565(P2017-535565)
(86)(22)【出願日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】JP2016074147
(87)【国際公開番号】WO2017030173
(87)【国際公開日】20170223
【審査請求日】2019年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-163230(P2015-163230)
(32)【優先日】2015年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508080609
【氏名又は名称】不二ライトメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】518051709
【氏名又は名称】メルフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐規
(72)【発明者】
【氏名】井上 正士
(72)【発明者】
【氏名】花田 幸太郎
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−125622(JP,A)
【文献】 特表2013−524004(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/080381(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00−30/00
A61L15/00−33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムに混合物としてNd、Y、Mn、Zn、およびZrが添加されたマグネシウム合金を含む基体と、
前記基体のマグネシウム及び前記混合物のMnを由来とする酸化物複合体を含む第1保護層と、
前記基体のマグネシウム及び前記混合物のNd、Zn、Mn、Yを由来とする水酸化物複合体を含む第2保護層と、を備える、生体に使用可能な合金製部材。
【請求項2】
マグネシウムに混合物としてNd、Gd、Zrが添加されたマグネシウム合金を含む基体と、
前記基体のマグネシウム及び前記混合物のNd、Gdを由来とする酸化物複合体を含む第1保護層と、
前記基体のマグネシウム及び前記混合物のNd、Gdを由来とする水酸化物複合体を含む第2保護層と、を備える、生体に使用可能な合金製部材。
【請求項3】
前記第1保護層は、前記基体の表面にあり、
前記第2保護層は、前記第1保護層の表面にある、請求項1又は2記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項4】
前記基体は、生体組織内水分により、水酸化物および酸化物の少なくとも一方を形成可能である、請求項1又は2記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項5】
前記基体は、0.5〜5.0重量パーセントのNd、0.1〜5.0重量パーセントのY、0.1〜1.0%のMn、0.1〜4.0重量パーセントのZn、および0.1〜1.0重量パーセントのZrを含有する、請求項記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項6】
前記基体は、0.5〜5.0重量パーセントのNd、0.1〜5.0重量パーセントのGd、および0.1〜1.0重量パーセントのZrを含有する、請求項記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項7】
前記合金製部材は、生分解性を必要とする生体埋植デバイスに用いられる、請求項1からのいずれか記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項8】
前記合金製部材は、人工血管、ステント、生体の縫合材、血管用閉塞コイル、クリップ、封止材、生体の結合材および骨の結合材、メッシュシート、骨の矯正材、中実もしくは多孔体の骨の支持材、生体内で細胞が保持され増殖するスキャフォールドの少なくとも1つに使用される、請求項1からのいずれか記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項9】
前記合金製部材は、再生医療に用いられる、請求項1からのいずれか記載の生体に使用可能な合金製部材。
【請求項10】
マグネシウムに混合物としてNd、Y、Mn、Zn、およびZrが添加されたマグネシウム合金を含む基体上に、前記基体のマグネシウム及び前記混合物のMnを由来とする酸化物複合体を含む第1保護層を形成する工程と、
前記第1保護層上に、前記基体のマグネシウム及び前記混合物のNd、Zn、Mn、Yを由来とする水酸化物複合体を含む第2保護層を形成する工程と、
を備える、生体に使用可能な合金製部材の製造方法。
【請求項11】
マグネシウムに混合物としてNd、Gd、Zrが添加されたマグネシウム合金を含む基体上に、前記基体のマグネシウム及び前記混合物のNd、Gdを由来とする酸化物複合体を含む第1保護層を形成する工程と、
前記第1保護層上に、前記基体のマグネシウム及び前記混合物のNd、Gdを由来とする水酸化物複合体を含む第2保護層を形成する工程と、
を備える、生体に使用可能な合金製部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間または動物などの生体に使用可能である合金製部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間や動物などにおいては、病気やけがの治療、病気やけがの予防などのために、生体において様々な部材が使用される。例えば、切断部分の縫合、骨折部分の結合、人工血管、血管用ステント、人工関節の一部などに対応する部材が、使用される。これらの部材は、すなわち生体用インプラント(治療や予防などを目的とする生体用インプラント)である。
【0003】
これらの部材は、生体由来の素材で形成されているものもあるが、生体由来ではない素材で形成されているものもある。生体由来の素材でこれらの部材を形成することは、素材の供給や製造コストなどの面で困難が多いからである。このような困難性に対応するために、生体由来以外の素材で部材を形成することが始まっている。
【0004】
例えば、血管用ステントは、製造工程が容易であり、製造精度や製造品質が高く製造コストを抑えることのできる金属を素材として製造されることが提案され始めている。
【0005】
血管用ステントは、例えば心筋梗塞や脳梗塞などの症状のある生体の血管中に挿入される。血管用ステントは、所定の内径を有しており、収縮した血管を拡張して、心筋梗塞や脳梗塞などの症状を軽減させることができる。
【0006】
あるいは、けがや手術により皮膚や体内組織が切断されている場合に、この切断部分を縫合する縫合部材が用いられる。いわゆる縫合糸だけではなく、近年は、ステープラーなどの部材が縫合に用いられることがある。もちろん、縫合糸が用いられることもある。
【0007】
あるいは、骨折などの治療のために、骨折した骨同士を結合させる結合部材(固定ボルトなど)も、生体に用いられることがある。
【0008】
これらのような生体用の部材は、時間と共に消失することが好ましいものが多い。血管用ステント、縫合部材、結合部材などは、生体組織が生物学的に回復することで、生体にとっては不要となるからである。このため、これらの生体用の部材は、生体が生物学的に回復する期間を待って消失することが好ましい。
【0009】
あるいは、人工血管などは、生体由来の血管に取り換えるまでの一時的な期間に使用されればよいこともある。このような場合にも、この一時的な期間に使用耐久性があり、以降は、消失等しても構わない場合がある。
【0010】
このように、治療や予防に必要となる一定期間においては使用耐久性があり、一定期間を経過すると、消失や分解等する部材が、生体の治療や予防のために求められるようになっている。
【0011】
このような生体に使用可能な部材(治療や予防に使用される部材)の形成として、金属がその素材として用いられる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−160236号公報
【特許文献2】特表2009−535504号公報
【特許文献3】特開2006−167078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、2、3のそれぞれは、内部人工器官や医療用インプラントを、マグネシウムをその素材の一つとして形成する技術を提案している。特許文献1〜3のそれぞれがマグネシウムを素材の一つとして生体用部材を形成することを提案しているのは、マグネシウムが、生体に含有されている成分の一つであって、生体との親和性がよいからである。このため、特許文献1〜3のそれぞれは、マグネシウムを素材の一つとする内部人工器官や医療用インプラントなどの生体用部材を形成することを提案している。
【0014】
特許文献1は、
マグネシウム: >90%
イットリウム: 3.7%〜5.5%
希土類: 1.5%〜4.4%
残分: <1%
のマグネシウム合金を有する金属材料を含有する支持構造を有する内部人工器官を開示する。
【0015】
特許文献1は、マグネシウムを主成分とすることで、生体親和性の高い内部人工器官を提供することを目的としている。加えて、マグネシウムは、分解性が高い特徴を有しており、マグネシウムを主成分とすることで、装着後に分解消失する内部人工器官を提供することを目的としている。
【0016】
しかしながら、マグネシウムを主成分(マグネシウム合金)とする内部人工器官は、生体組織内の水分と反応して、水酸化マグネシウムと水素を発生しながら分解する。特許文献1に開示される内部人工器官は、マグネシウム合金がその表面に露出した状態であり、この水酸化マグネシウムと水素を発生させながらの分解が、早く進んでしまう。このため、特許文献1に開示される内部人工器官は、内部人工器官として維持されてほしい耐久期間を維持できない問題がある。
【0017】
例えば、内部人工器官が血管用ステントであれば、半年程度の耐久期間を必要とするが、特許文献1に開示される内部人工器官は、この耐久期間に耐えることは難しい。生分解性寿命が短いためである。
【0018】
また、生体に用いられる内部人工器官は、使用される目的に応じて、機械的強度や加工性が十分である必要がある。しかしながら、特許文献1に開示される内部人工器官は、マグネシウムを主成分とする合金のみで形成されるので、この機械的強度に限界がある。この限界を向上させようとすると、耐久期間を十分に長くすることができない問題も生じる。
【0019】
生分解性寿命が不十分であることは、生体用部材の強度不足にもつながる。生体用部材を人体や動物に埋め込んで使用する場合に、使用される場所で求められる強度を、必要とされる期間の間、保持できない問題につながる。例えば、マグネシウムの生体用部材が、血管用ステントに使用される場合には、治療完了前に、血管の収縮症状に耐えられなくなってつぶれてしまうことがある。その他の適用においても、生分解性寿命が不十分であることで、必要とする治療期間を待たずして、生体用部材がつぶれたり、破損したり、破壊されたりしてしまう問題も生じうる。すなわち、特許文献1は、適用場所や用途に対する十分な強度を有していない。
【0020】
一方で、この強度不足に対応するために、血管用ステントなどに適用される生体用部材の厚みを厚くすると、適用場所に設置することが難しいことが生じる。例えば、血管用ステントであれば、カテーテルを通じて動脈等に送り込むが、厚みが厚い場合には、この作業が困難となりうる。あるいは、設置後に血管内部での内径が小さくなりすぎて、血流を阻害してしまうこともある。
【0021】
このため、強度が不足することは、生体用部材として適当ではない。
【0022】
加えて、上述のように、内部人工器官が水酸化マグネシウムと水素を発生させながら分解すると、生体内部のpH値が上昇して生体をアルカリ環境にしてしまう問題がある。あるいは、派生する水素により、生体組織内部で、気泡発生が生じるなどの問題も生じかねない。
【0023】
特許文献2は、少なくとも90重量パーセントのマグネシウム、
1.5重量パーセント〜5重量パーセントのネオジム、
0.1重量パーセント〜4重量パーセントのイットリウム、
0.1重量パーセント〜1重量パーセントのジルコニウム、および
0.1重量パーセント〜2重量パーセントのカルシウムを含み、亜鉛を含まない生分解性マグネシウム合金を、開示する。
【0024】
特許文献2も、特許文献1と同様に、マグネシウムを主成分とするマグネシウム合金であって、生体に使用する場合に、生体内で分解する生分解性マグネシウム合金を開示する。
【0025】
特許文献2も、特許文献1と同様に、マグネシウムを主成分とするマグネシウム合金のみで生体用部材が形成される。このため、生体に使用されると、生体内水分との反応が短期間に進み、極めて早く分解・消失してしまう問題がある。この問題と同様に、機械的強度も不足する問題を有している。
【0026】
このため、特許文献2は、特許文献1と同様の問題を有している。
【0027】
特許文献3は、5.7〜22.2質量%のリチウムと、1質量%以下のジルコニウムとを含有するマグネシウム金属材料からなるインプラント本体を有する医療用インプラントを開示する。
【0028】
特許文献3も、マグネシウムを主成分とするマグネシウム合金を用いた医療用インプラント(生体用部材)を提供することを目的としている。これは、マグネシウムの生体親和性と生分解性の高さを利用しているものである。この点で、特許文献3の技術は、特許文献1、2と同様である。
【0029】
特許文献3の医療用インプラントも、マグネシウム合金のみで形成されている。このため、生分解性が優先されており、生体内水分との反応が短期間に進み、極めて早く分解・消失してしまう問題がある。この問題と同様に、機械的強度も不足する問題を有している。
【0030】
このため、特許文献3は、特許文献1と同様の問題を有している。
【0031】
以上のように、特許文献1〜3に開示される従来技術では、マグネシウムの生分解性と生体親和性を目的とした生体用部材を開示している。しかしながら、生分解性と生体親和性のみを優先している構造である結果、耐久期間である生分解性寿命の確保が不十分である問題がある。
【0032】
この生分解性寿命が不十分であることで、生体用部材としての用途や適用場所において必要となる耐久性や強度を十分に実現できない問題もある。
【0033】
加えて、生分解が短期間に進むことで、生体のアルカリ環境変化や生体内気泡発生などの、別の問題を引き起こし、生体用部材としての使用が困難となる問題もある。
【0034】
これらの結果、特許文献1〜3に開示される従来技術のマグネシウムやマグネシウム合金を用いた生体用部材は、必要な用途や適用場所における使用が困難である問題を有していた。
【0035】
本発明は、上記課題に鑑み、マグネシウムの生体親和性と生分解性の特徴を生かしつつ、必要な生分解性寿命を実現できる生体に使用可能な合金製部材およびその製造方法を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記課題に鑑み、本発明の生体に使用可能な合金製部材は、マグネシウム合金を含む基体と、
前記基体の成分を由来とする酸化物もしくは酸化物および水酸化物の複合体を含む第1保護層と、
前記基体の成分を由来とする水酸化物を含む第2保護層と、を備える。
【発明の効果】
【0037】
本発明の生体に使用可能な合金製部材とは、生体(生体組織、生体細胞を含む)との親和性または適合性が高く、例えば、人工血管、血管用ステント、縫合部材、結合部材などの様々な用途に使用することができる合金製部材をいう。
【0038】
また、本発明の合金製部材は、生分解性を有しているが、マグネシウムを主成分とする基体表面に保護層が形成されており、生分解性寿命を延ばすことができる。特に、生体内部での生体組織水分との反応をゆっくりと進めることができ、従来技術と異なり、ゆっくりと生分解を進めることができる。結果として、様々な用途に使用するにあたっての必要な期間をカバーする生分解性寿命を実現できる。
【0039】
また、保護層の成分により、保護層が除去されていく過程で、マグネシウムを主成分とする基体は、酸化物や水酸化物を生じさせる。この結果、保護層が除去されていっても、合金製部材は、ゆっくりと生分解を進める。結果として、生分解性寿命を長くすることができる。
【0040】
また、保護層による防御によって、マグネシウムを主成分とする基体は、生体で使用される際に必要となる機械的強度を、十分に実現する設計や加工をなすことができる。結果として、合金製部材は、生体の治療や予防における様々な用途、様々な適用場所に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の実施の形態1における生体用合金製部材の模式図である。
図2】生体用合金製部材が血管用ステントに用いられた場合の斜視図である。
図3】本発明の実施の形態1における血管に挿入された血管用ステントの模式図である。
図4】本発明の実施の形態1における保護層が脱落した後の血管用ステントの模式図である。
図5】従来技術と本発明の生体用合金製部材を比較する説明図である。
図6】従来技術と本発明の生体用合金製部材での、使用耐久性と使用可能性の関係を示すグラフである。
図7】本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、合金の製造を示す模式図である。
図8】本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、合金製部材の製造を示す模式図である。
図9】本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、生体用部材への加工を示す模式図である。
図10】本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、保護膜の形成を説明する模式図である。
図11】本発明の実施例1の生体用合金製部材の模式図である。
図12】実施例1での引き張り試験の結果を示すグラフと表である。
図13】実施例1での浸漬試験の結果を示す表である。
図14】本発明の実施例2の生体用合金製部材の模式図である。
図15】実施例2での浸漬試験の結果の表である。
図16】実施例3での浸漬試験の結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の第1の発明に係る生体に使用可能な合金製部材は、マグネシウム合金を含む基体と、
前記基体の成分を由来とする酸化物もしくは酸化物および水酸化物の複合体を含む第1保護層と、
前記基体の成分を由来とする水酸化物を含む第2保護層と、を備える。
【0043】
この構成により、生体に使用可能な合金製部材は、マグネシウム合金の生体への親和性の高さと、第1保護層と第2保護層による生分解性寿命の延伸を両立できる。これらの結果、生体に使用される際には、必要となる治療期間に対応する使用耐久性を実現できる。
【0044】
この構成により、生体に使用可能な合金製部材は、生体の治療や病気予防のために必要となる様々な用途に適用できる。特に、生体内部に適用される場合にも、最適に使用できる。
【0045】
本発明の第2の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1の発明に加えて、前記基体は、マグネシウムに混合物が添加されたマグネシウム合金を含む。
【0046】
この構成により、基体は、マグネシウムの生体親和性と、保護層との結合性の高さを両立できる。加えて、基体は、第1保護層、第2保護層の脱落後でも、水分との反応を効率的に生じさせて、保護層を形成できる。
【0047】
本発明の第3の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第2の発明に加えて、前記混合物は、所定の希土類元素の少なくとも一つおよび所定の非希土類元素の少なくとも一つを含む。
【0048】
この構成により、基体は、金属間化合物を生じさせて、第1保護層などとの結合力を上げることができる。更には、第1保護層などの脱落後でも、生体の水分との反応で、酸化物や水酸化物の層を形成して、腐食を遅らせることができる。
【0049】
本発明の第4の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第3の発明に加えて、前記所定の希土類元素のそれぞれは、酸化して酸化物となる場合の活性化エネルギーが1000kJ/mol以上である。
【0050】
本発明の第5の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第3または第4の発明に加えて、前記所定の非希土類元素のそれぞれは、酸化して酸化物となる場合の活性化エネルギーが1000kJ/mol以上である。
【0051】
これらの構成により、基体は、生体の水分との反応で、効率的に酸化物や水酸化物を生成できる。この酸化物や水酸化物が、基体の保護層となって基体の腐食を遅らせることができる。
【0052】
本発明の第6の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第3から第5のいずれかの発明に加えて、前記所定の希土類元素は、Sc、Y、Dy,Sm、Ce,Gd,Laのいずれか一つを含む。
【0053】
この構成により、基体に含まれる希土類元素が、生体の水分との反応で酸化物や水酸化物の層を生成できる。生成における効率もよい。
【0054】
本発明の第7の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第3から第6のいずれかの発明に加えて、前記所定の非希土類元素は、Ti、Ta、Nb、Al、Mn、Fe、Cr、B、P、V、Zrのいずれか一つを含む。
【0055】
この構成により、基体に含まれる非希土類元素が、生体の水分との反応で酸化物や水酸化物の層を生成できる。生成における効率もよい。
【0056】
本発明の第8の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、前記第1保護層は、前記基体の表面に形成され、
前記第2保護層は、前記第1保護層の表面に形成される。
【0057】
この構成により、第1保護層と第2保護層とが相まって、基体への水分の到達を低減できる。
【0058】
本発明の第9の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、前記第1保護層の前記酸化物は、マグネシウムの酸化物、希土類の酸化物、及び非希土類の酸化物の少なくともいずれかを有する。
【0059】
この構成により、第1保護層は、基体との結合力を高めることができる。更に安定した層となって、水分の基体への到達を低減できる。
【0060】
本発明の第10の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第9のいずれかの発明に加えて、前記第1保護層の前記酸化物と水酸化物の複合体は、マグネシウムの酸化物およびマグネシウムの水酸化物を有する。
【0061】
この構成により、第1保護層は、基体との結合度を高めると共に安定した層となる。
【0062】
本発明の第11の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、前記第2保護層の前記水酸化物は、マグネシウム、希土類、および非希土類の少なくともいずれかの水酸化物を有する。
【0063】
この構成により、第2保護層は、極めて緻密で安定した層となる。この結果、水分の基体への到達を低減できる。
【0064】
本発明の第12の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第11のいずれかの発明に加えて、前記基体は、生体組織内水分により、水酸化物および酸化物の少なくとも一方を形成可能である。
【0065】
この構成により、第1保護層や第2保護層の脱落後であっても、基体は酸化物や水酸化物の層を形成して、生分解性寿命を延ばすことができる。
【0066】
本発明の第13の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、前記基体は、0.5〜5.0重量パーセントのNd、0.1〜5.0重量パーセントのY,0.1〜1.0%のMn、0.1〜4.0重量パーセントのZn,および0.1〜1.0重量パーセントのZrを含有する。
【0067】
本発明の第14の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第13のいずれかの発明に加えて、前記基体は、0.5〜5.0重量パーセントのNd、0.1〜5.0重量パーセントのGd、および0.1〜1.0重量パーセントのZrを含有する。
【0068】
これらの構成により、基体の機能が最適に発揮できる。
【0069】
本発明の第15の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第14の発明に加えて、合金製部材は、生分解性を要求される生体埋植デバイスなどに使用される。
【0070】
本発明の第16の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第15の発明に加えて、合金製部材は、人工血管、ステント、生体の縫合材、血管用閉塞コイル、クリップ、封止材、生体の結合材および骨の結合材、メッシュシート、骨の矯正材、中実もしくは多孔体の骨の支持材、生体内で細胞が保持され増殖するスキャフォールドの少なくとも1つに使用される。
【0071】
本発明の第17の発明に係る生体に使用可能な合金製部材では、第1から第16の発明に加えて、前記合金製部材は、再生医療に用いられる。
【0072】
これらの構成により、生体に使用可能な合金製部材は、生体の治療や病気予防のために必要となる様々な用途に適用できる。特に、生体内部に適用される場合にも、最適に使用できる。
【0073】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0074】
(実施の形態1)
【0075】
(全体概要)
まず、実施の形態1における生体に使用可能な合金製部材(以下、「生体用合金製部材」という)の全体概要を説明する。図1は、本発明の実施の形態1における生体用合金製部材の模式図である。図1は、生体用合金製部材1の断面を模式的に示している。
【0076】
生体用合金製部材1は、後述するように、人体や動物(生物)の、体内や体の表面などの様々な用途において使用できる。このとき、生体用合金製部材1は、これらの用途に応じた形状を有している。ここで、形状や用途に応じつつも、生体用合金製部材1は、図1に示されるような断面を有する。このような断面を有する生体用合金製部材1は、用途や適用場所に応じた形状を有している。
【0077】
なお、本発明において、生体用合金製部材1は、生体の種々の場所に種々の用途で使用される状態に加工された部材である場合と、生体に使用される状態に加工される前の部材である場合とを含む。例えば、生体用合金製部材1が、血管用ステントである場合には、この血管用ステントとしての形状や大きさに加工された状態である。あるいは、生体用合金製部材1が、加工されてから血管用ステントなどに使用される場合には、加工前の状態である。
【0078】
このように、本発明の生体用合金製部材1は、図1の断面特性を有している状態であれば、生体での使用用途に加工される前の状態も、加工後の状態も含む。
【0079】
また、合金製部材1は、生分解性を要求される生体埋植デバイスに使用され、例えば、人工血管、ステント、生体の縫合材、血管用閉塞コイル、クリップ、封止材、生体の結合材および骨の結合材、メッシュシート、骨の矯正材、中実もしくは多孔体の骨の支持材、生体内で細胞が保持され増殖するスキャフォールドなどにも使用される。さらに、例えば、これらは再生医療などに利用される。
【0080】
生体用合金製部材1は、マグネシウム合金を用いた基体2と、第1保護層3と第2保護層4とを備える。第1保護層3は、基体2の上層である。第2保護層4は、第1保護層3の上層である。
【0081】
第1保護層3は、基体2の成分を由来とする酸化物もしくは酸化物および水酸化物の複合体である。基体2は、マグネシウム合金を用いているので、第1保護層3は、マグネシウムやマグネシウム合金を形成する成分を由来とする酸化物で形成される。あるいは、第1保護層3は、マグネシウムやマグネシウム合金を形成する成分を由来とする酸化物および水酸化物の複合体で形成される。例えば、酸化マグネシウムで、第1保護層3が形成される。あるいは、酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムの複合体で、第1保護層3が形成される。また、基体2のマグネシウム合金を形成する成分を由来とする水酸化マンガンなどによって、第1保護層3が形成される。
【0082】
第2保護層4は、基体2の成分を由来とする水酸化物により形成される。基体2は、マグネシウム合金を用いているので、第2保護層4は、マグネシウムやマグネシウム合金を形成する成分を由来とする水酸化物で形成される。例えば、第2保護層4は、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などで形成される。
【0083】
図1に示されるように、生体用合金製部材1は、基体2、第1保護層3、第2保護層4の順序で形成される。すなわち、生体用合金製部材1は、外部に露出する状態として、第2保護層4が最外周に露出している。基体2が、外部に露出してない状態であり、基体2が、第2保護層4、第1保護層3によって保護された構造を有している。
【0084】
生体用合金製部材1は、生体に使用されると、この基体2を基礎部分として、その外周が、第1保護層3と第2保護層4に保護されている。第2保護層4が最外周に位置して、最初に外部からの影響に対応する。第1保護層3は、第2保護層4と基体2との間にあり、基体2を、第2保護層4に続いて保護する。
【0085】
このように、実施の形態1における生体用合金製部材1は、基体2に第1保護層3と第2保護層4が設けられている。この結果、必要となる生分解性寿命を確保することができる。すなわち、生体の様々な場所や用途に使用される場合でも、生体用合金製部材1は、十分な耐久性を有する。
【0086】
生体用合金製部材1は、例えば、人工血管、ステント、生体の縫合部材、血管用閉塞コイル、生体の結合部材および骨の結合部材の少なくとも一つに用いられる。もちろん、ここに列挙された以外の用途に使用されてもよい。
【0087】
図2は、生体用合金製部材が血管用ステントに用いられた場合の斜視図である。生体用合金製部材1が、血管用ステント11に必要な形状と大きさに加工されている。血管用ステント11は、内部空間が貫通した円柱形状を有している。この形状によって、血管用ステント11は、例えば狭窄性の動脈硬化を生じている動脈に挿入される。挿入されることで、狭窄状態となっている部分の動脈を拡張させて、血流を滑らかにする。
【0088】
血管用ステント11として使用される生体用合金製部材1は、動脈中に挿入されて使用される。この動脈中においては、血液を始めとした生体の体液に接触することになる。すなわち、生体用合金製部材1は、生体の水分と接触する。第2保護層4は、最外周にある基体2由来の水酸化物である。この水酸化物による第2保護層4は、極めて緻密で安定した構造を有している。
【0089】
このため、第2保護層4は、血管用ステント11として使用される場合でも、血管中の水分との接触において、水分を基体2までなるべく到達させないようにできる。
【0090】
さらに、第2保護層4の内側には、第1保護層3が設けられている。第1保護層3は、基体2由来の酸化物もしくは酸化物と水酸化物の複合体である。この第1保護層3は、安定した層である。このため、第1保護層3は、水分を基体2に到達させにくい。
【0091】
図3は、本発明の実施の形態1における血管に挿入された血管用ステントの模式図である。血管用ステント11は、血管中に挿入されているので、血液5と接触する。また、血管用ステント11は、上述した生体用合金製部材1の一態様であるので、基体2、第1保護層3、第2保護層4とを備えている。
【0092】
ここで、最外周である第2保護層4が、血液5と接触する。上述の通り、第2保護層4は、極めて緻密で安定な層である。これは基体2由来の水酸化物で第2保護層4が形成されているからである。極めて緻密で安定した層であることで、第2保護層4は、血液5中の水分51の基体2への到達を可能な限り防止できる。
【0093】
また、第2保護層4の内側の第1保護層3も、安定した層である。この第1保護層3も、水分51の基体2への到達を可能な限り防止できる。これら第1保護層3と第2保護層4の二重構造が相まって、水分51の基体2への到達を可能な限り防止できる。
【0094】
図3の矢印Aは、水分51の基体2への到達を防止している状態を示している。
【0095】
このように、実施の形態1における生体用合金製部材1は、血管用ステント11として使用される場合でも、血液5との接触において、水分51の基体2への到達を可能な限り防止できる。この結果、マグネシウム合金で形成される基体2の水分との反応による劣化を、可能な限り延命できる。
【0096】
一方で、一定の時間が経過すると、第2保護層4、第1保護層3のそれぞれは、水分51との反応によって脱落していく。脱落によって、基体2が露出して、基体2が、血液5と直接的に接触するようになる。図4は、本発明の実施の形態1における保護層が脱落した後の血管用ステントの模式図である。図4は、第1保護層3と第2保護層4とが水分51との反応によって脱落した状態を示している。
【0097】
図4の状態になった血管用ステント11(生体用合金製部材1の使用態様の一つである)は、明確な層としての第1保護層3と第2保護層4とを脱落させている。
【0098】
基体2が水分51と接触するようになった場合において、基体2は、水分51との反応によって腐食していく。しかしながら、この腐食していく過程で、基体2では、合金内部に析出した金属間化合物21が表面に現れる。更に、基体2に含まれる添加元素が水分と反応することで酸化物もしくは水酸化物を生じさせる。これらは、基体2の表面に酸化物層もしくは水酸化物層もしくはその保護層を形成する。この保護層は、緻密な層であり、基体2の水分51による腐食を遅らせることができる。
【0099】
このように、第1保護層3と第2保護層4が水分51との反応によって脱落した場合でも、基体2は、水酸化物層等を形成して、水分51との反応による腐食を遅らせることができる。ここで説明した保護層は、基体2が水分51と反応することで生成される。ここで、基体2は、マグネシウム合金を生成するマグネシウムや、マグネシウム以外の成分を含んでいる。このため、水分と反応して生成される保護層は、マグネシウム由来の酸化物や水酸化物であったり、マグネシウム合金が含むマグネシウム以外の成分由来の酸化物や水酸化物であったりする。
【0100】
これらの酸化物や水酸化物の混合によって、保護層が生成される。
【0101】
特に、従来技術では、マグネシウム由来の保護層が形成されるだけであり、様々な成分由来の保護層が形成されなかった。このため、耐久性が不十分である問題があったが、実施の形態1における生体用合金製部材1では、基体を形成する種々の成分が水分と反応して保護層を形成できる。第1保護層3、第2保護層4と相まって、高い使用耐久性を実現できる。
【0102】
以上のように、生体用合金製部材1は、血管用ステント11に使用されて血液5と接触する場合でも、腐食を可能な限り遅らせることができる。すなわち、生分解性寿命を長くして、使用期間の耐久性を向上させることができる。生体用合金製部材1が血管用ステント11に使用される場合には、動脈硬化を治療できる期間の耐久性が必要である。実施の形態1の生体用合金製部材1は、この必要となる期間での使用耐久性を実現できる。
【0103】
このとき、生体用合金製部材1は、基体2由来の水酸化物である第2保護層4が、水分51の基体2への侵入を防止できる。第2保護層4は、極めて安定で緻密な層である。この特徴によって、基体2への水分51の浸入を防止できる。加えて、水酸化物であることで、水分51との反応による腐食を遅らせることもできる。これらが相まって、第2保護層4は、生分解性に対する耐久性を発揮して、腐食による脱落を遅らせることができる。
【0104】
また、第1保護層3は、基体2由来の酸化物もしくは酸化物と水酸化物の複合体である。第2保護層4とは異なる組成で形成されていることで、第2保護層4とは、異なる水分51との反応を生じさせる。すなわち、第2保護層4とは異なるメカニズムで水分51と反応して、腐食による脱落を遅らせることができる。また、第1保護層3は、安定な層であり、水分51を基体2に到達させるのを可能な限り防止できる。
【0105】
このように、それぞれ特性の異なる第1保護層3と第2保護層4との組み合わせによる保護が働くことにより、基体2への水分51の到達を防止・低減することができる。この水分51の基体2への到達が防止されることで、基体2の腐食と分解を遅らせることができる。
【0106】
次いで、第1保護層3と第2保護層4とが腐食によって脱落する場合でも、基体2は、含有する成分が水分51と反応して緻密な酸化物層を形成する。この緻密な酸化物層は、第1保護層3と同様の機能を発揮できる。すなわち、基体2への水分51の浸入を低減しつつ、基体2の水分51との反応による生分解を遅らせることができる。すなわち、第2保護層4、第1保護層3、基体2のそれぞれでの異なるメカニズムの発揮によって、生体用合金製部材1の生分解性寿命を長くすることができる。
【0107】
以上のメカニズムの発揮により、血管用ステント11などに使用される生体用合金製部材1は、生体に使用される場合での生分解性寿命を長くできる。すなわち、血管用ステント11を始めとした、様々な用途において、必要とされる期間での使用耐久性を実現できる。
【0108】
実施の形態1での生体用合金製部材1は、血管用ステント11以外にも、人工血管、生体の縫合部材、血管用閉塞コイル、生体の結合部材および骨の結合部材などの様々な用途に使用できる。それぞれの用途や適用場所に応じた形状、大きさに加工された生体用合金製部材1が使用されればよい。
【0109】
次に各部の詳細について説明する。
【0110】
(基体)
基体2は、マグネシウム合金で形成される。例えば、マグネシウムに混合物が添加されたマグネシウム合金で形成される。このため、基体2は、マグネシウムを成分の軸としつつ、適宜、種々の混合物を含んだ組成を有する。
【0111】
混合物は、所定の希土類元素の少なくとも一つを含む。あるいは、混合物は、所定の非希土類元素の少なくとも一つを含む。あるいは、混合物は、希土類元素の少なくとも一つと非希土類元素の少なくとも一つを含む。
【0112】
ここで、所定の希土類元素は、希土類元素が酸素と結びついて酸化物となる際のエネルギーである活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上である。種々の希土類の中で、この酸化物となる際の活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上となる希土類の少なくとも一つが、混合物として選択される。
【0113】
この条件に対応する所定の希土類元素は、Sc、Y、Dy,Sm、Ce,Gd,Laのいずれかである。すなわち、基体2を形成するマグネシウム合金が含有する混合物は、Sc、Y、Dy,Sm、Ce,Gd,Laの少なくとも一つでありうる。
【0114】
また、所定の非希土類元素は、非希土類元素が酸素と結びついて酸化物となる際のエネルギーである活性化エネルギーが、1000kJ/Mol以上である。種々の非希土類の元素の中で、この活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上である非希土類の少なくとも一つが、混合物として選択される。
【0115】
この条件に対応する非希土類元素は、Ti、Ta、Nb、Al、Mn、Fe、Cr、B、P、V、Zrのいずれかである。すなわち、基体2を形成するマグネシウム合金が含有する混合物は、Ti、Ta、Nb、Al、Mn、Fe、Cr、B、P、V、Zrの少なくとも一つでありうる。
【0116】
これらのように、マグネシウム合金が含有する混合物は、Sc、Y、Dy,Sm、Ce,Gd,La、Ti、Ta、Nb、Al、Mn、Fe、Cr、B、P、V、Zrの少なくとも一つである。
【0117】
活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上であるこれらの混合物を含むことで、基体2は、水分と反応する際に、酸化物もしくは水酸化物を確実に形成して、水分との反応による生分解性寿命を延ばすことができる。特に、基体2を形成するマグネシウム合金が、活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上である混合物を含むことで、生分解性寿命を長くできる。
【0118】
特に、活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上であることで、強い酸化作用を生じさせる。この酸化作用によって、基体2は、使用耐久性を高める酸化物を形成しやすい。この酸化物は、上述の通り、保護層となって、生体用合金製部材1の使用耐久性が高まる。
【0119】
以上のように、基体2は、マグネシウムを成分とするマグネシウム合金で形成される。このとき、マグネシウム合金は、Sc、Y、Dy,Sm、Ce,Gd,La、Ti、Ta、Nb、Al、Mn、Fe、Cr、B、P、V、Zrの少なくとも一つである混合物を含んでいる。これらは、希土類および非希土類から選択される成分である。これらの成分を混合物として含むマグネシウム合金であることで、基体2は、第1保護層3および第2保護層4が脱落した後でも、水分との反応で酸化物を形成できる。
【0120】
この酸化物が、基体2の表面に生じることで、基体2の水分との反応による腐食を遅らせることができる。酸化物による基体2の表面の層が形成され続けるからである。この層が、基体2の保護層としての役割を発揮できる。
【0121】
また、基体2は、混合物(マグネシウムも含む)によって、生体内の水分との反応で水酸化物を形成することもできる。すなわち、基体2は、水分との反応で、酸化物および水酸化物の少なくとも一方を形成できる。この形成した酸化物や水酸化物を保護層として活用し、基体2は、生分解性寿命を延ばすことができる。
【0122】
特に、活性化エネルギーが1000kJ/Mol以上である混合物を含むことで、基体2の水分との反応による酸化物の生成が効率よくなる。酸化物の生成効率が良くなることで、基体2の水分との反応による腐食を遅らせることができる。
【0123】
これらの結果、第1保護層3、第2保護層4が脱落した後でも、基体2の生分解性寿命を延ばすことができる。この生分解性寿命は、人工血管、血管用ステント、生体の縫合部材、血管用閉塞コイル、生体の結合部材、骨の結合部材などに、生体用合金製部材1が使用される場合に、必要な期間の使用耐久性を実現できる。
【0124】
(第1保護層)
第1保護層3は、基体2の外側に形成される。特に、第1保護層3は、基体2の表面に形成されればよい。第1保護層3は、基体2由来の酸化物もしくは酸化物と水酸化物の複合体で形成される。このような組成であることで、第1保護層3は、安定な層となり、水分を基体2に到達させるのを低減できる。
【0125】
また、基体2は、Sc、Y、Dy,Sm、Ce,Gd,La、Ti、Ta、Nb、Al、Mn、Fe、Cr、B、P、V、Zrの少なくとも一つである混合物を含むマグネシウム合金で形成される。
【0126】
また、第1保護層3の酸化物は、マグネシウムの酸化物、希土類の酸化物、および非希土類の酸化物の少なくともいずれかを有する。基体2は、マグネシウムと、所定の希土類と、所定の非希土類の混合物から形成されているので、第1保護層3は、基体2に含まれるマグネシウムの酸化物、希土類の酸化物、および非希土類の酸化物の少なくともいずれかを含む。この酸化物によって、第1保護層3は、安定な層となる。
【0127】
第1保護層3は、上記した酸化物の例として、Sc23、Y23、Dy23、Sm23、CeO2、Gd23、La23のいずれかを含む。これらの酸化物は、極めて緻密であるので、第1保護層3は、極めて緻密で安定した層となる。
【0128】
また、第1保護層3の酸化物と水酸化物の複合体は、マグネシウムの酸化物およびマグネシウムの水酸化物を含む。また、希土類の酸化物と希土類の水酸化物を含む。このような組成により、第1保護層3は、安定な層となる。
【0129】
安定な層となることで、第1保護層3は、基体2への水分の到達を軽減できる。
【0130】
(第2保護層)
第2保護層4は、最外周に設けられる。すなわち、第1保護層3の外側(表面)に設けられる。第2保護層4は、基体2由来の水酸化物で形成される。水酸化物は、マグネシウムの水酸化物を含む。あるいは、水酸化物は、希土類の水酸化物を含む。
【0131】
このような組成による第2保護層4は、極めて緻密で安定した層となる。この緻密で安定した層であることで、第2保護層4は、水分を基体2に到達させることを低減できる。
【0132】
以上のように、第2保護層4は、最外周において、水分による腐食を防止することができる。ここで、第2保護層4が、水酸化物であることで、第2保護層4は、生体環境下で分解する。すなわち、生体の体液等の水分と反応して分解する。この分解によって、生体用合金製部材1が生体に適用される際に、生体環境下で分解して、所定期間を超えてまで残存することの弊害を防止できる。
【0133】
第2保護層4は、第1保護層3と相まって、基体2への水分の浸入を低減・防止し、生体用合金製部材1の使用耐久性を延ばすことができる。特に、組成と特徴の異なる第1保護層3と第2保護層4とが組み合わさった保護層であることで、生体用合金製部材1の生分解性寿命を延ばすことができる。
【0134】
以上、実施の形態1の生体用合金製部材1は、第1保護層3と第2保護層4の組み合わせによる保護と、基体2そのものの水分との反応による酸化物や水酸化物の層の形成による保護の維持の2段階の保護により、生分解性寿命を延ばすことができる。この結果、種々の用途に使用される場合に必要となる使用期間での使用が可能となる。
【0135】
(実施の形態2)
【0136】
次に実施の形態2について説明する。
【0137】
(従来技術との構造とメカニズムの違い)
従来技術の生体用合金製部材との構造とメカニズムの違いを説明する。
【0138】
図5は、従来技術と本発明の生体用合金製部材を比較する説明図である。図5の左側には、従来技術の生体用合金製部材100が示されている。図5の右側には、本発明の生体用合金製部材1が示されている。本発明の生体用合金製部材1の構造や機能は、実施の形態1で説明した通りである。
【0139】
従来技術の生体用合金製部材100は、基体101のみで構成されている。このため、図5に示されるように、基体101は、直接的に水分51にさらされている。この水分51にさらされていることで、基体101は、容易に腐食してしまう。
【0140】
従来技術の生体用合金製部材100は、基体2の強度を確保することを優先している。しかしながら、基体101中の添加物の濃化相や結晶粒界に析出する金属間化合物は、腐食の起点となってしまう。この起点によって、腐食が進展してしまい、基体101の生分解性寿命は短い。
【0141】
これに対して、図5の右側のように、基体2の外側に第1保護層3と第2保護層4を有している。また、基体2も、所定の希土類もしくは非希土類の混合物を添加したマグネシウム合金から形成される。このため、基体2に含まれている元素が、水分51と反応して酸化物および水酸化物の少なくとも一方を形成できる。この酸化物および水酸化物の少なくとも一方の層によって、基体2は、水分51による腐食を遅らせることができる。
【0142】
このように、従来技術との比較において、第1保護層3と第2保護層4の存在、および基体2の組成による酸化物等の層が形成されることの特性によって、本発明の生体用合金製部材1は、生分解性寿命を長くすることができる。
【0143】
(使用耐久性と使用可能性の関係)
図6は、従来技術と本発明の生体用合金製部材での、使用耐久性と使用可能性の関係を示すグラフである。
【0144】
実施の形態1および上記で説明したように、従来技術の生体用合金製部材100は、生分解性寿命が短く、使用耐久性が低い。一方で、本発明の生体用合金製部材1は、生分解性寿命が長く、使用耐久性が高い。この差によって、本発明の生体用合金製部材1は、人工血管、血管用ステント、生体の縫合部材、血管用閉塞コイル、生体の縫合部材および骨の縫合部材などに使用される際に、要求される治療期間に対応できる。
【0145】
これら人工血管などは、生体に適用された後で、所定の治療期間を超えると腐食して消失することが求められる。腐食による消失によって、治療期間が完了すれば、生体本来の組織での生体維持が可能となる。一方で、治療期間が完了する前に、生体用合金製部材が腐食して消失してしまうと、生体本来の組織の機能発揮への交代が難しくなる。
【0146】
図6は、横軸に生体用合金製部材の生体への生分解性寿命(留置期間)を示している。縦軸に、生体用合金製部材の強度を示している。横軸の右側に行くほど、生体用合金製部材の生分解性寿命が長くなることを示している。縦軸の上側に行くほど、生体用合金製部材の強度が高いことを示している。図6では、従来技術および、本発明によって種々の強度を持つ部材をそれぞれ製造し、それらの生分解性寿命を測定して、部材強度と生分解性寿命との相関関係を示している。
【0147】
従来技術の生体用合金製部材100(矢印B)は、血管や生体に適用できる大きさや厚みでの強度の場合には、生分解寿命が、治療期間に到達できない。すなわち、治療期間が終了する前に、生体用合金製部材100は、消失してしまう。これは、図6の矢印Bの通りである。
【0148】
一方、従来技術の生体用合金製部材100の生分解性寿命を延ばすためには、その強度を向上させることが必要である。図6の矢印Cは、この強度を向上させた従来技術の生体用合金製部材100の生分解性寿命との関係曲線である。
【0149】
矢印Cのように強度を上げた従来技術の生体用合金製部材100であれば、治療期間を超える生分解性寿命を確保できる。しかしながら、この強度を得るためには、生体用合金製部材100の厚みを厚くする必要がある。厚みが厚くなると、例えば、血管中や生体組織中に挿入や埋め込むことが困難となる。例えば、血管用ステントであれば、柔軟性に欠き所定の患部への挿入が難しいため血管中に挿入が困難となるか、挿入できても内径が小さくなって、血流確保が困難となり、本来の目的を達成できない。
【0150】
図6では、破線Eが、生体への適用可能の限界を示している。これを超える強度を実現する場合には、生体への適用が困難となるサイズや厚みとなる。また、図6では、破線Fが、部材に求められる部材強度の下限値を示している。部材強度がこの下限値を下回ると、目的とする機能を発揮できなくなる。
【0151】
これらに対して、図6の矢印Dのように、本発明の生体用合金製部材1は、生体への適用が可能な強度でありながら、治療期間を超える生分解性寿命を実現できる。生体への使用と治療期間を確保した生体での留置状態の維持の両立ができることになる。
【0152】
本発明の生体用合金製部材1であれば、治療期間においては維持でき、治療期間を経過した後は腐食して消失される。血管用ステントなどの生体で使用される部材は、治療期間が終了した後は消失することが必要なので、これにも適している。加えて、矢印Cのように強度を上げることで生体への使用が困難となる問題もない。
【0153】
以上のように、本発明の生体用合金製部材1は、従来技術と異なり、生体に使用可能な厚みや大きさでありながら、必要な治療期間に対応した使用耐久性を実現できる。
【0154】
(実施の形態3)
【0155】
次に、実施の形態3について説明する。
【0156】
実施の形態3では、実施の形態1、2で説明した生体用合金製部材1の製造工程について説明する。図7は、本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、合金の製造を示す模式図である。図8は、本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、合金製部材の製造を示す模式図である。図9は、本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、生体用部材への加工を示す模式図である。図10は、本発明の実施の形態3における生体用合金製部材の製造工程の一部であって、保護膜の形成を説明する模式図である。
【0157】
図7に示される通り、まず、生体用合金製部材1の基体2を形成する合金を製造する。合金は、マグネシウム合金であり、マグネシウムと所定の混合物を溶融釜50に投入する。混合物は、実施の形態1で説明したように、所定の希土類元素もしくは非希土類元素である。
【0158】
溶融釜50では、加熱によって投入された素材が溶融され、撹拌等によって、基体2を形成する合金が製造される。溶融等の後に、固化されて合金となる。
【0159】
次いで、図8に示されるように、合金は、押し出し加工や鍛造によって板材・角材60などに加工される。すなわち、図7で得られた合金は、塑性加工されることで、板材などの合金製部材に加工される。マグネシウム合金が含有するマグネシウムは、強度が高くない。すなわち、溶融および固化を経ただけの合金では、その強度が不足することがある。
【0160】
このため、押出しや鍛造などの塑性加工が施されて、マグネシウム合金の強度を向上させる。この板材・角材60などが、次の工程で加工されると、生体に適用可能な生体用部材が得られる。
【0161】
図9は、板材・角材60などが加工されて、生体に適用可能な形状を有した生体用部材70を製造する状態を示している。板材・角材60を丸めたり内部貫通孔を形成したりして、円筒状などに加工する。また、レーザー加工Lなどによって、表面加工も行う。この加工によって、人工血管や血管用ステントなどに適用される形状を有する生体用部材となる基体2が得られる。
【0162】
図10において、基体2に、第1保護膜3と第2保護膜3が施される。基体由来の酸化物や水酸化物を生成することで、第1保護膜3と第2保護膜4を形成できる。更には、必要に応じて表面処理や殺菌処理が施されると、生体用合金製部材1が得られる。このとき、形状や構造などによって、人工血管や血管用ステントなどの様々な用途に応じた生体用合金製部材1が得られる。
【0163】
(実施例について)
実施例について説明する。
【0164】
(実施例1:Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zr)
実施例1として、Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zrによる生体用合金製部材を作成した。実施例1の生体用合金製部材は、Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zrの組成によって基体が形成されている。
【0165】
この基体を次の製造条件および表面処理条件で製造し、第1保護層および第2保護層を形成して、実施例1の生体用合金製部材を製造した。
【0166】
(製造条件)
上述の組成の合金インゴットを製造し、インゴットを押し出しによって柱状部材とする。この柱状部材を圧延して、板状の生体用合金製部材の基体が製造された。このときの、製造条件が次の通りである。
【0167】
インゴット製造条件:70mm径、金型鋳造
押し出し製造条件:押し出し温度400℃ 押し出し比25
圧延条件:350℃
総圧力下落率城乾:90%
なまし処理条件:350℃×30分
【0168】
(表面処理条件)
上記の製造条件で製造された基体表面に、第1保護層および第2保護層を、表面処理によって形成する。この表面処理の条件は次の通りである。
【0169】
基体表面を、1000メッシュまで研磨紙(ここではエメリー紙)で機械研磨する。
5%硝酸水溶液に、30秒間基体を浸漬させる。
純水で洗浄後、2分間のアセトン洗浄を行う。
【0170】
以上の製造条件と表面処理条件で製造された実施例1の生体用合金製部材を、図11に示す。図11は、本発明の実施例1の生体用合金製部材の模式図である。図11に示すように、実施例1の生体用合金製部材は、Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zrの組成のマグネシウム合金からなる基体と、基体上に形成されたMg、Mnの酸化物複合体からなる第1保護層と、第1保護層上に形成されたMg、Nd、Zn、Mn、Yの水酸化物複合体からなる第2保護層とを備える。第1保護層と第2保護層の合計膜厚は、200nmであった。
【0171】
実施例1の生体用合金製部材の強度および使用耐久性を引き張り試験および浸漬試験により確認した。
【0172】
(引き張り試験)
実施例1の試験サンプルサイズ:厚さ1mm板。並行部20mm、評点間距離10mm。
引き張り速度:1mm/分
試験内容:伸び率およびUTS
試験対象
【0173】
(1)圧延までの工程で製造された実施例1
【0174】
(2)圧延になまし処理までの工程で製造された実施例1
【0175】
(3)押し出し材
【0176】
図12は、実施例1での引き張り試験の結果を示すグラフと表である。実施例1の生体用合金製部材において、製造条件での押し出しまでの工程で製造された「押し出し材C」、製造条件の圧延までの工程で製造された「圧延材A」、製造条件のなまし処理までの工程で製造された「圧延材B(熱処理)」の3つのそれぞれでの引き張り強度が測定された。
【0177】
これら3つの試験サンプルそれぞれでの引き張り強度は、図12の通りである。圧延材の伸びは19%であり、圧延材(熱処理)の伸びは22%であり、押し出し材の伸びは35%である。また、圧延材のUTSは、303MPaであり、圧延材(熱処理)のUTSは、290MPaであり、押し出し材のUTSは、210MPaである。
【0178】
(浸漬試験)
次の条件で、浸漬試験を行った。
【0179】
実施例1の試験サンプルのサイズ:8×14×0.8mm 板状
浸漬条件:牛血清 37℃中に1日浸漬
【0180】
この条件での浸漬試験の結果は、図13の通りである。図13は、実施例1での浸漬試験の結果を示す表である。ここで、上述した表面処理を施していない実施例1の試験サンプル(未処理)と、表面処理を施した実施例1の試験サンプル(表面処理材)とのそれぞれで浸漬試験を行った。
【0181】
未処理の試験サンプルの重量減少率は、2.39%であり、腐食速度は、2.95mm/yである。表面処理材の試験サンプルの重量減少率は、0.91%、腐食速度は、1.10mm/yである。
【0182】
この浸漬試験結果から分かるとおり、表面処理を行って第1保護層と第2保護層を設けることが、腐食を遅らせて、使用耐久性を向上させている。
【0183】
以上のように、本発明の範囲に含まれる実施例1は、引き張り試験および浸漬試験のそれぞれから、高い強度および使用耐久性を有していることが確認された。
【0184】
(実施例2:Mg−2.5Nd−1Gd−0.4Zr)
実施例2として、Mg−2.5Nd−1Gd−0.4Zrによる生体用合金製部材を作成した。実施例2の生体用合金製部材は、Mg−2.5Nd−1Gd−0.4Zrの組成によって基体が形成されている。
【0185】
この基体を次の製造条件および表面処理条件で製造し、第1保護層および第2保護層を形成して、実施例2の生体用合金製部材を製造した。
【0186】
(製造条件)
上述の組成の合金インゴットを製造し、インゴットを押し出しによって柱状部材とする。この柱状部材を圧延して、板状の生体用合金製部材の基体が製造された。このときの、製造条件が次の通りである。
【0187】
インゴット製造条件:70mm径、金型鋳造
押し出し製造条件:押し出し温度400℃ 押し出し比25
圧延条件:350℃
総圧力下落率城乾:90%
【0188】
(表面処理条件)
上記の製造条件で製造された基体表面に、第1保護層および第2保護層を、表面処理によって形成する。この表面処理の条件は次の通りである。
【0189】
基体表面を、1000メッシュまで研磨紙(ここではエメリー紙)で機械研磨する。
5%硝酸水溶液に、30秒間基体を浸漬させる。
純水で洗浄後、2分間のアセトン洗浄を行う。
【0190】
以上の製造条件と表面処理条件で製造された実施例2の生体用合金製部材を、図14に示す。図14は、本発明の実施例2の生体用合金製部材の模式図である。図14に示すように、実施例1の生体用合金製部材は、Mg−2.5Nd−1Gd−0.4Zrの組成のマグネシウム合金からなる基体と、基体上に形成されたMg、Nd、Gdの酸化物複合体からなる第1保護層と、第1保護層上に形成されたMg、Nd、Gdの水酸化物複合体からなる第2保護層とを備える。第1保護層と第2保護層の合計膜厚は、200nmであった。
【0191】
実施例2の生体用合金製部材の使用耐久性を浸漬試験により確認した。
【0192】
(浸漬試験)
次の条件で、浸漬試験を行った。
【0193】
実施例2の試験サンプルのサイズ:8×14×0.8mm 板状
浸漬条件:牛血清 37℃中に1日浸漬
【0194】
この条件での浸漬試験の結果は、図15の通りである。図15は、実施例2での浸漬試験の結果の表である。ここで、上述した表面処理を施していない実施例2の試験サンプル(未処理)と、表面処理を施した実施例2の試験サンプル(表面処理材)とのそれぞれで浸漬試験を行った。
【0195】
未処理の試験サンプルの重量減少率は、3.23%であり、腐食速度は、2.20mm/yである。表面処理材の試験サンプルの重量減少率は、2.64%、腐食速度は、1.68mm/yである。
【0196】
この浸漬試験結果から分かるとおり、表面処理を行って第1保護層と第2保護層を設けることが、腐食を遅らせて、使用耐久性を向上させている。
【0197】
以上のように、本発明の範囲に含まれる実施例2は、浸漬試験のそれぞれから、高い使用耐久性を有していることが確認された。
【0198】
(実施例3:Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zr)
実施例3として、Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zrによる生体用合金製部材を作成した。実施例2の生体用合金製部材は、Mg−2Nd−1Y−0.5Mn−0.5Zn−0.4Zrの組成によって基体が形成されている。
【0199】
この基体を次の製造条件および表面処理条件で製造し、第1保護層および第2保護層を形成して、実施例3の生体用合金製部材を製造した。
【0200】
(製造条件)
上述の組成の合金インゴットを製造し、インゴットを押出しによって棒状部材とする。この棒状部材を再度押出し後、引抜きと加工熱処理を繰り返し、線状の生体用合金製部材の基体が製造された。このときの、製造条件が次の通りである。
【0201】
インゴット製造条件:70mm径、金型鋳造
押出し製造条件(一回目):押出し温度400℃ 押出し比25
押出し製造条件(二回目):押出し温度450℃ 押出し比25
引抜き加工条件:総減面率75%、焼き鈍し温度400℃
【0202】
(表面処理条件)
上記の製造条件で製造された基体表面に、第1保護層および第2保護層を、表面処理によって形成する。この表面処理の条件は次の通りである。
【0203】
基体を0.5%硝酸水溶液に、超音波を付加しながら30秒間浸漬させる。純水で洗浄後、1分間のアセトン洗浄を行う。
【0204】
以上の製造条件と表面処理条件で製造された実施例3の生体用合金製部材は、本発明実施例1の生体用合金製部材の模式図と同様の表面構造をとる。
【0205】
実施例3の生体用合金製部材の使用耐久性を浸漬試験により確認した。
【0206】
(浸漬試験)
次の条件で、浸漬試験を行った。
実施例3の試験サンプルのサイズ:直径1×20mm 線状
浸漬条件:培地(DMEM+10%牛血清) 37℃、5%CO2中に2か月間浸漬
【0207】
この条件での浸漬試験の結果は、図16に示す通りである。ここで、引き抜き加工後、上述した表面処理を施していない実施例3の試験サンプル(未処理材)と、表面処理を施した実施例3の試験サンプル(表面処理材)とのそれぞれで浸漬試験を行った。
【0208】
未処理の試験サンプルの重量減少率は、9週間目で40.9%であり、腐食速度は、0.6mm/yである。表面処理材の試験サンプルの重量減少率は、9週目で7.7%、腐食速度は、0.1mm/yである。
【0209】
この浸漬試験結果から分かるとおり、表面処理を行って第1保護層と第2保護層を設けることが、長期間にわたり腐食を遅らせて、使用耐久性を向上させている。
【0210】
以上のように、本発明の範囲に含まれる実施例3は、浸漬試験のそれぞれから、高い使用耐久性を有していることが確認された。
【0211】
以上のように、実施例1〜3の実験結果から分かるとおり、本発明の範囲の組成で製造されて、第1保護層と第2保護層との有する生体用合金製部材は、高い強度と使用耐久性を有する。
【0212】
なお、実施例1〜3の実験結果から基体の組成として次が適当である。
基体は0.5〜5.0重量パーセントのNd、0.1〜5.0重量パーセントのY,0.1〜1.0%のMn、0.1〜4.0重量パーセントのZn,0.1〜1.0重量パーセントのZrを含有する組成である。
【0213】
あるいは、基体は、0.5〜5.0重量パーセントのNd、0.1〜5.0重量パーセントのGd、0.1〜1.0重量パーセントのZrを含有する。
【0214】
なお、実施の形態1〜3で説明された生体用合金製部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0215】
1 生体用合金製部材
2 基体
3 第1保護層
4 第2保護層
11 血管用ステント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16