(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883446
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】昇降駆動装置およびこれを用いた測定機
(51)【国際特許分類】
G01B 5/00 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
G01B5/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-39060(P2017-39060)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-146277(P2018-146277A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】木村 義治
(72)【発明者】
【氏名】大山 良和
(72)【発明者】
【氏名】河原井 一晃
【審査官】
仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第4835871(US,A)
【文献】
特開2010−107282(JP,A)
【文献】
特開2003−148581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00−5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降部材と、
前記昇降部材をガイドするガイド手段と、
前記昇降部材とガイド手段との間に空気層を形成する空気軸受と、
を備えた前記昇降部材の昇降駆動装置であって、
前記昇降部材から上方へと延ばされ、かつ、上端を前記ガイド手段に支持された線状部材と、
前記線状部材に作用する張力を増大させて前記線状部材により吊下げられた前記昇降部材の見かけ重量を軽減させるバランス手段と、
前記ガイド手段に設けられ前記昇降部材に接触した状態のローラと、
前記ローラを回転させる回転駆動手段と、を備えることを特徴とする昇降駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記ローラを含む一対のローラが、前記昇降部材を挟み込むように配置されていることを特徴とする昇降駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の装置において、
前記バランス手段は、
前記昇降部材の内部に位置する前記線状部材の下端に接続されたピストンと、
前記昇降部材に設けられ前記ピストンを内部に収納し、かつ、前記ピストンで区画されたシリンダ室へのエアー供給により前記ピストンに対して上下運動するシリンダと、
を有することを特徴とする昇降駆動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の装置において、前記線状部材は、ワイヤーまたは細長い棒であることを特徴とする昇降駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の昇降駆動装置を用いて、測定対象物の位置、画像、および形状のうちの少なくとも1つを測定するための測定子を前記昇降部材に取付けることにより、前記測定子を移動させる移動機構を構成することを特徴とする測定機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定機に用いる測定ヘッドの移動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
測定ヘッドに測定子を取り付けて、測定子を任意の方向からワークに接近させて各種測定を実行する測定機は、多くの場合、測定ヘッド用の昇降駆動装置を備えている。測定ヘッドには、各種測定に応じた接触・非接触プローブや高解像度カメラなどの測定子が、選択的に搭載され、それぞれの測定子によってワークの位置(座標)・画像・形状などが高い精度で測定される。また、照明機器でワークの測定箇所を照らす場合には、測定ヘッドに照明機器を搭載して測定を実行することもある。
【0003】
特許文献1には、従来の測定ヘッド用の昇降駆動装置であるZ方向駆動機構が示されている。このZ方向駆動機構は、
図5に示すように、下端に測定子13を有し垂直に支持されたZ軸スピンドル12と、このZ軸スピンドル12を垂直方向にガイドするガイド筒22と、Z軸スピンドル12の内部から上方に延びる支持軸28と、Z軸スピンドル12に設けられ支持軸28を挟み込む一対のローラ15,16と、ローラ15を回転駆動させる駆動モータ17と、を備える。
【0004】
ガイド筒22は、X方向駆動機構のXスライダ9に支持されてX方向に移動する。ガイド筒22にはZ軸スピンドル12が挿通され、両者の隙間には複数のエアーベアリング用の複数のエアーパッド24が配置されている。エアーパッド24はガイド筒22の内周に設けられ、噴出するエアーによる空気軸受けを形成し、ガイド筒22とZ軸スピンドル12との間の摩擦抵抗を低減させる。また、ガイド筒22には、垂直上方に向かって立設された支柱25が設けられ、この支柱25の上端に設けられた横梁26によって支持軸28の上端が支持される。
【0005】
Z軸スピンドル12の内部まで挿通された支持軸28の下端にはピストンが接続され、このピストンを収容するシリンダがZ軸スピンドル12の内部に設けられている。シリンダ室にエアーを供給することによりシリンダを浮上させる力が作用して、この力がZ軸スピンドル12の重量に見合った押上力となり、Z軸スピンドル12の見かけ重量が軽減される。このような機構をここではエアーバランス機構と呼ぶ。
【0006】
特許文献1のZ方向駆動機構11を駆動させるときは、モータ17を駆動して駆動ローラ15を回転させる。駆動ローラ15と従動ローラ16は、Z軸スピンドルを吊下げている支持軸28を挟み込んでいるので、両ローラと支持軸28との間の摩擦力により回転しながら昇降する。これに伴って、Z軸スピンドル12が上下方向に移動して、測定子13を所望の高さにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3988860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
座標測定機などの測定機では、測定子を保持する測定ヘッドをX,Y,Z軸の任意の方向に、高精度かつ高速に移動・位置決めできる性能が重要であり、このような性能を長期に渡って維持できることも要求される。そのため、測定ヘッド用の昇降駆動装置においては、Z軸スピンドルの直動性と迅速な動作性能が重要になる。上記の特許文献1のZ方向駆動機構では、このような性能を発揮させるためにエアーベアリングやエアーバランス機構、および、支持軸を一対のローラで挟み込んだ摩擦駆動機構を採用しているが、さらなる構造の単純化、軽量化、および、振動対策に適したものが要求されている。
【0009】
例えば、特許文献1のZ方向駆動機構は、上下に延ばされた支持軸を挟み込む一対のローラを備え、ローラの駆動力によってZ軸スピンドルを支持軸に沿って移動させる。ローラと支持軸との間に所定の大きさの摩擦力が生じるように、支持軸と各ローラとの接触面積が確保されていなければならず、断面の大きな支持軸が使用されることから、支持軸のサイズダウンには限界があった。
また、特許文献1のZ方向駆動機構では、測定ヘッドを様々な方向に移動させた際にZ軸スピンドルが僅かでも揺れてしまうことへの対策として、Z軸スピンドルを吊下げている支持軸の上端にスラスト軸受を設けて、Z軸スピンドルの振れを積極的に減衰させる場合が多い。支持軸の上端にスラスト軸受を設けることは、振動対策のために必要ではあるが、構造的には複雑になってしまう。
【0010】
本発明の目的は、測定ヘッド用の昇降駆動装置であって、エアーベアリングで案内される昇降部材(Z軸スピンドル)の高精度の直動性および迅速な昇降動作を実現でき、かつ、構造の単純化、軽量化、および、振動対策に適したものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明に係る昇降駆動装置は、
昇降部材と、前記昇降部材をガイドするガイド手段
と、前記昇降部材とガイド手段との間に空気層を
形成する空気軸受と、を備えた前記昇降部材の昇降駆動装置であって、
前記昇降部材から上方へと延ばされ、かつ、上端を前記ガイド手段に支持された線状部材と、
前記線状部材に作用する張力を増大させて前記線状部材により吊下げられた前記昇降部材の見かけ重量を軽減させるバランス手段と、
前記ガイド手段に設けられ前記昇降部材に接触した状態のローラと、
前記ローラを回転させる回転駆動手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、昇降駆動装置のバランス手段は、昇降部材を吊下げている線状部材の張力を増大させて、この増大した張力により昇降部材を引き上げるので、昇降部材の見かけ重量を軽減させることができる。バランス手段の具体例として、エアーシリンダを利用したエアーバランス機構や、線状部材であるワイヤーを巻き上げるウインチを用いた機構などが挙がる。バランス手段によって昇降部材の自重が打ち消される分だけ、昇降部材を昇降させるのに必要な駆動力が小さくなり、昇降動作を迅速にする上で有利な構成になる。また、本発明の昇降駆動装置は、昇降部材とガイド手段との間に空気層を形成し、所謂、エアーベアリングによって昇降部材を上下に案内する。昇降部材には、ガイド手段との摩耗部分が無くなり、昇降部材の高精度の直動性を永く維持することができる。
【0013】
加えて、本発明の昇降駆動装置は、昇降部材の表面に直接的に接触して、その摩擦力により昇降部材を昇降させるローラを具備する。従来のような吊下部材に対する摩擦駆動機構ではなくて、昇降部材に対する摩擦駆動機構になっている。その結果、昇降部材を吊下げる線状部材を必要最小限まで細くすることができ、フレキシブル性を有する線状部材を採用できるようになった。従来の支持軸のような剛性の比較的大きな吊下部材の場合には支持軸の上端部にスラスト軸受を設ける必要があったが、本発明のように曲げやネジリに対してフレキシブルな線状部材を吊下部材として使用すれば、スラスト軸受を省略することができる。線状部材として、例えば、ワイヤー、ピアノ線、ロープ、細長い棒などを採用することができる。特に、線状部材は、フレキシブル性を有するワイヤーまたは細長い棒であることが好ましい。
【0014】
一方、単純に、昇降部材の吊下部材として線状部材を採用して、上端部のスラスト軸受を無くした構成では、昇降部材の固有振動数が小さくなってしまい、従来と比較して、昇降部材が振動しやすくなってしまう。これに対して、本発明の昇降駆動装置では、線状部材の採用と同時に、昇降部材を直接的に摩擦駆動させるローラを採用した。昇降部材に対してローラが常に接触した状態が維持されるので、昇降部材の固有振動数の低下を回避して、昇降部材の振動の発生を抑制することができるとともに、仮に、振動が発生した場合であっても、ローラとの接触状態が維持されていることで振動を減衰させやすいという効果も得られる。
【0015】
ここで、前記ローラを含む一対のローラが、前記昇降部材を挟み込むように配置されていることが好ましい。昇降部材とローラ間に摩擦力を生じさせるには、駆動用ローラを昇降部材へ押し付ける力が必須であるが、本発明の昇降駆動装置では、昇降部材がエアーベアリングで案内されるため、駆動用ローラへの押し返す力をエアーベアリングのエアー圧の調整によって確保することができる。より確実に安定した押し返し力を発生させるのであれば、一対のローラを用いて、昇降部材を挟み込むのがよい。
【0016】
また、前記バランス手段は、
前記昇降部材の内部に位置する前記線状部材の下端に接続されたピストンと、
前記昇降部材に設けられ前記ピストンを内部に収納し、かつ、前記ピストンで区画されたシリンダ室へのエアー供給により前記ピストンに対して上下運動するシリンダと、
を有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、ピストンおよびシリンダは、ピストンで区画されたシリンダ室にエアーを送り込むことにより、昇降部材の重量に見合う押上力を発生させる。所謂、エアーシリンダを利用したエアーバランス機構である。このエアーバランス機構は、構成も簡単で取扱い易く、軽量化に適する。
【0018】
本発明に係る測定機は、上記の昇降駆動装置を用いて、測定対象物の位置、画像、および形状のうちの少なくとも1つを測定するための測定子を前記昇降部材に取付けることにより、前記測定子を移動させる移動機構を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の昇降駆動装置およびこれを備えた測定機によれば、エアーベアリングで案内される昇降部材を、高い精度で直動させることが可能で、迅速な昇降動作を実現することができ、かつ、構造の単純化、軽量化、および、振動対策に適したものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る測定機の外観を示す図である。
【
図2】前記実施形態におけるZ軸移動装置の内部構造を示す部分断面図である。
【
図3】前記実施形態におけるダイレクト摩擦駆動機構を模式的に示した図である。
【
図4】前記ダイレクト摩擦駆動機構の変形例を模式的に示した図である。
【
図5】従来の測定ヘッド用のZ方向駆動機構の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき本発明に係る測定機、および、この測定機に設けられた昇降駆動装置であるZ軸移動装置の実施の形態について説明する。
【0022】
図1に本実施形態の三次元測定機を示す。この三次元測定機1は、測定対象物を載置するベース2と、測定子13を移動させる移動機構を備えて構成されており、この移動機構として、測定子13をY方向へ移動させるY軸移動装置3と、測定子13をX方向へ移動させるX軸移動装置7と、測定子13をZ方向へ移動させる本実施形態のZ軸移動装置11を備えている。
【0023】
ベース2は測定対象物を載置するために精密平坦加工された上面を備える四角柱状である。説明のために、ベース2の上面で互いに直交する二方向をそれぞれX方向、Y方向とし、ベース2の上面に垂直な方向をZ方向とする。Y軸移動装置3は、ベース2上でY方向に設けられたYガイドレール4と、このYガイドレール4に沿って移動可能に設けられたYスライダ左側部5Lと、Yスライダ左側部5Lと対になってベース2上をY方向へ移動するYスライダ右側部6Rとを備えて構成されている。なお、Yガイドレール4とYスライダ左側部5L、ベース2とYスライダ右側部6Rとの間にはエアーベアリングが設けられている。
【0024】
X軸移動装置7は、Yスライダ5LとYスライダ6Rに両端を支持された長手状のガイド部材であるXビーム8と、Xビーム8の長手方向に沿って移動可能に設けられた可動部材であるXスライダ9と、Xスライダ9を移動させるXスライダ駆動手段10とを備えて構成されている。Xビーム8は、長柱状であり、両端がYスライダ5LとYスライダ6Rの上に支持され、Y方向スライド機構3がY方向にスライドされると、Xビーム8もY方向に移動される。Xスライダ9は、Xビーム8に沿ってスライド可能に設けられている。Xスライダ9とXビーム8との間にはエアーベアリングが設けられている。
【0025】
図2に、Z軸移動装置11の内部構造を示す。Z軸移動装置11は、X軸スライダ9に支持されたガイド手段としてのガイド筒22と、ガイド筒22に対して垂直方向に挿通された昇降部材としてのZ軸スピンドル12と、を備える。以下、このZ軸移動装置11の具体的な構成を機能毎に説明する。
【0026】
(エアーベアリング)
ガイド筒22の内側のガイド面は、Z軸スピンドル12を四方から囲むように配置された複数のエアーパッド24(
図3参照)の噴出面により形成される。エアーパッド24から圧縮空気がZ軸スピンドル12に向けて噴出されて、Z軸スピンドル12との間に空気層が形成される。エアーパッド24は、X,Y方向からそれぞれZ軸スピンドル12を挟むように対向配置され、また、Z方向に間隔を設けて2段に配置されている。このようなエアーベアリングの構成により、ガイド筒22に対するZ軸スピンドル12の非接触状態が維持される。
【0027】
(エアーバランス機構)
ガイド筒22の上方に、3本の支柱25が立てられ、上部の横梁26を支持する。この横梁26にワイヤー18の上端が支持され、ワイヤー18によってZ軸スピンドル12が吊り下げられている。直径が0.3mmから10mm程度であるワイヤーが好ましく、更に好ましくは直径が0.5mmから3mm程度である。本実施形態では、直径が1mm程度のワイヤーを用いた。Z軸スピンドル12は、中空状で、内部にシリンダ20が取り付けられている。ワイヤー18の中心軸とシリンダ20の円筒部中心が略一直線になっている。ワイヤー18の下端は、シリンダ内のピストン29に連結されている。シリンダ20上面には、ワイヤー18の挿通孔があり、シール部材30によってシリンダ20内の気密性が保たれる。
【0028】
このような構成のエアーバランス機構19は、シリンダ内の加圧室に圧縮空気が送り込まれると、シリンダ20を浮
上させる。この浮上がZ軸スピンドル12の自重を打ち消す方向に働くので、後述するスピンドル駆動機構は小さな駆動力でZ軸スピンドル12を昇降させることができる。
【0029】
エアーベアリングおよびエアーバランス機構については、従来の構成と共通する部分を有するが、本実施形態においては、Z軸スピンドル12を吊り下げる部材が、従来の支持軸からワイヤーに変更された点が、従来の構成と大きく相違する。
【0030】
(ダイレクト摩擦駆動機構)
スピンドル駆動機構として本実施形態ではダイレクト摩擦駆動機構14を採用した。
図2には一部を分解して示すが、駆動ローラ15が、Y方向から見たZ軸スピンドル12の表面と接触するように配置される。駆動ローラ15およびその駆動用モータ17は、取付部材32を介してガイド筒22に支持される。
【0031】
駆動ローラ15は、所望の押付力でZ軸スピンドル12の表面を付勢するように設けられている。そのため、取付部材32は、駆動ローラ15およびモータ17を支持する支持部材34と、ガイド筒22に設けられたY方向の案内部材36とを用いて、支持部材34が案内部材36によってY方向に僅かに変位するように構成されている。そして、支持部材34と案内部材36との間にバネなどの弾性部材38を挟んで、支持部材34がY方向に付勢された状態になる。従って、調整された付勢力で駆動ローラ15がZ軸スピンドル12の表面を付勢する。モータ17の動力は、伝達ベルトで駆動ローラ15の回転軸に伝わって、駆動ローラ15を回転させる。
【0032】
図3に模式的に示すように、Z軸スピンドル12は、駆動ローラ15から受ける付勢力とは反対方向の付勢力を、反対側に設けられた従動ローラ16から受ける。スピンドル12を挟むこれら一対のローラ15,16の押付力をバランスさせることにより、駆動ローラ15の駆動によってローラ15,16とスピンドル12の表面との間に摩擦力が発生して、Z軸スピンドル12を上下方向に移動させることができる。例えば、駆動ロール15の付勢力Aとその上下のエアー押付力Bの合計と、これらに対向する従動ローラ16の付勢力A’およびエアーパッド24の押付力Cの合計とがバランスするように、各ローラのバネ長や各エアーパッドの空気圧を微調整するとよい。
【0033】
なお、
図4に示すダイレクト摩擦駆動機構の変形例では、従動ローラを設けず、Z軸スピンドル12を中心に駆動ローラ15の反対側にはエアーパッド24のみを配置してもよい。この場合は、駆動ロール15の付勢力Aとその上下のエアー押付力Bの合計と、これらに対向するエアーパッドの押付力Cの合計と、がバランスするように、ローラのバネ長や各エアーパッドの空気圧を微調整するとよい。
【0034】
本実施形態のZ軸移動装置11およびこれを備えた三次元測定機1の効果を説明する。
(1)エアーベアリングによってZ軸スピンドル12とガイド筒22との間の摩耗部分が無くなるので、ガイド筒22による高精度の直動性を永く維持できる。また、エアーバランス機構19
を含むので、Z軸スピンドル12の自重がキャンセルされた分だけ昇降に必要な駆動力が小さくなり、安定した直動性と位置決めの迅速性を維持できる。
【0035】
(2)スピンドル駆動機構として、Z軸スピンドル12に対してダイレクトに摩擦力を作用させて上下方向に移動させる駆動ローラ15を採用した。
その効果として、まず、Z軸スピンドル12用の吊下部材にサイズの制約がなくなって、従来の断面積の大きなロッドの代わりに、断面積の比較的小さいフレキシブルなワイヤー18を採用できるようになった。また、従来のロッドの場合、ロッドの上端にスラスト軸受を設ける必要があった。その理由は、従来は、Z軸スピンドル12がX,Y方向へ変位した場合に、それに応じて中空ロッドの上端も変位できるようにしておかないと、Z軸スピンドル12に生じた振動が固定側(ガイド筒22)へ伝わってしまい、振動の影響が拡散してしまうからであった。しかし、本発明のように、ワイヤー18を採用することで、Z軸スピンドル12のX,Y方向の変位がワイヤーのフレキシブル性によって吸収されるから、ワイヤー18の上端については単純な支持方法を採用できるようになった。スラスト軸受が不要になった分だけ部品点数を少なくできる。
次に、移動側のZ軸スピンドル12がローラ15および駆動用のモータ17を保持するのではなく、固定側のガイド筒22がこれらを支持する構成になるので、Z軸スピンドル12の軽量化を図れるようになった。
さらに、単にワイヤー18を採用しただけでは、そのデメリットとして、Z軸スピンドル12の固有振動数が小さくなる(一般的に振動し易くなる)ことが挙げられる。固定側のガイド筒22との連結部材としてワイヤー18を採用すると、従来のロッドの場合に比べて、Z軸スピンドル12の剛性が低下し、X,Y,Z方向のすべての方向において、Z軸スピンドルが振動し易くなってしまう。また、従来のロッドの場合は、ロッド上端をスラスト軸受によって支持していたので、Z軸スピンドルのX,Y方向の振動が、スラスト軸受によって減衰されるような構造になっていた。単にワイヤー18を採用して、スラスト軸受を無くすと、このようなZ軸スピンドル12の減衰特性も低下してしまう。しかし、本発明では、ワイヤー18の採用とともに、Z軸スピンドル12をダイレクトに摩擦駆動させる駆動ローラ15を採用したので、Z軸スピンドル12に対して駆動ローラ15が常に接触した状態が維持される。そのため、振動の発生が抑制されるとともに、振動の減衰効果も期待できる。
【0036】
なお、ワイヤーの代替品として従来のロッドよりも小径のロッド(φ3mm程度)を採用してもよい。この場合も、小径ロッドの弾性変形によって、ロッド上端のスラスト軸受が不要となる。その他、上記の効果(1)、(2)と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、座標測定機のほか、画像測定機や形状測定機などの他の測定機、顕微測定機などの光学装置における垂直軸移動装置として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 三次元測定機(測定機)
11 Z軸移動装置(昇降駆動装置)
12 Z軸スピンドル(昇降部材)
13 測定子
14 ダイレクト摩擦駆動機構
15 駆動ローラ(ローラ)
16 従動ローラ
17 モータ(回転駆動手段)
18 ワイヤー(線状部材)
19 エアーバランス機構(バランス手段)
20 シリンダ
22 ガイド筒(ガイド手段)
24 エアーベアリング用のエアーパッド
29 ピストン