(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エマルジョンとは、互いに混和しない又は僅かな混和性しか有さない二つの相(液体を含有する)のうち一つが、微細な液滴となりもう一方の相の中に分散されている状態のことを表す。
【0003】
上記二つの相が水と油であり、そして油の液滴が水中に細かく分散されている場合、水中油滴型エマルジョン(O/W型エマルジョン)と呼ぶ。また、油中水滴型エマルジョン(W/O型エマルジョン)は、水の液滴が油中に細かく分散された形態であり、この二つの相における両者の関係は逆となる。ここでの基本的な特性は、油の種類によって決定される。
【0004】
エマルジョンは通常、界面活性剤の添加を必要とする。界面活性剤は、上記二相に対して両親媒性の分子構造を有するものであり、分子内に極性(親水性)、及び非極性(親油性)部分を持つ。また、分子内の親水部の性質により、イオン性(アニオン性、カチオン性、及び両性・双性)、及び非イオン性に細分化される。
【0005】
水と油を混ぜる際、通常は油/水界面において界面張力が働いて、界面の面積を出来るだけ小さくしようとする故に、分散によって大きい界面が形成されるよりも二相に分かれている方が安定となる(相分離)。しかし、界面活性剤の存在下では、界面活性剤分子の油/水界面への吸着により界面張力が低下され、界面の面積が大きくても分散が安定である。つまり、界面活性剤の添加によりエマルジョンは安定になる。
【0006】
上記の通り、界面活性剤は相分離しない安定なエマルジョンの形成において重要な構成要素の一つと言える。
【0007】
化粧料又は皮膚用製剤中において、一般的な界面活性剤の使用はそれ自体受け入れられている。それにも関わらず、界面活性剤は他の化学物質と同様、ある種の状況下ではアレルギー性反応、又は使用者の過敏性に基づく反応を引き起こし得る為、安全性を考慮すれば、使用量を低減(極力少なく)するか、全くもって使用しないことが求められている。
【0008】
これに対し1900年頃、ピッカリングは液/液界面に吸着した固体微粒子によって安定化したエマルジョンを発見している。これにより、種々の固体微粒子、例えば塩基性の硫酸銅や硫酸鉄、又は他の硫酸金属塩を添加することにより安定化される、パラフィン/水エマルジョンを調製した。以後、このような固体微粒子を用いて調製されるエマルジョンは、通常「ピッカリングエマルジョン」と呼ばれ、界面活性剤を用いずともエマルジョンを調製することが可能である。
【0009】
固体微粒子を用いて調製するエマルジョンの場合、微粒子は一般的な分子レベルの界面活性剤よりも吸着エネルギーが高いことから、適度な濡れ性を持つ微粒子が一度界面に吸着すると、界面からの脱離は起きにくくなり、形成するエマルジョンは安定化される特性を有している。従って上記の理由により、ピッカリングエマルジョンは通常の界面活性剤により安定化されたものと比較して、液滴間の合一に対する安定性が高いと言われている。
【0010】
近年、ピッカリングエマルジョンを化粧料又は皮膚用製剤用のための基剤として使用する技術が開発されてきており、数多くの研究報告がなされている(例えば非特許文献1)。香粧品の分野などにおけるピッカリングエマルジョンの活用も提案されている。
【0011】
例えば、特許文献1には、疎水性微粒子を含む水中油滴型エマルジョン組成物であり、化粧料及び皮膚用製剤用に有用であることが記載されている。また、特許文献2は乳化安定性に優れた水中油型乳化組成物が記載されており、固体微粒子として、疎水性シリカ、疎水性セルロース、シリコーン樹脂粉末、中空半球状シリコーン粒子、ポリアミド樹脂、タルク、疎水性顔料等が記載されている。また、特許文献3は油中水滴型エマルジョン組成物であり、表面処理を施した熱分解シリカ(乾式シリカ)や、アルキルアルコキシシランを重合させたポリシルセスキオキサン粒子を配合することが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明のエマルジョン組成物は、液/液界面に吸着した固体微粒子によって安定化されたエマルジョンであり、所謂ピッカリングエマルジョンと称されるものである。従って、本発明のエマルジョン組成物は、好ましくは乳化剤などの界面活性剤を含まない。
【0022】
<油相成分>
油相成分は、例えばシリコーン油、及び炭化水素油等の非極性油や、脂肪族アルコール、及びエステル等の極性油が挙げられ、またそれらの混合物であってもよい。好ましくは、非極性油である。
【0023】
シリコーン油は、例えば、ジメチルポリシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、カプリリルメチコン、フェニルトリメチコン、テトラキストリメチルシロキシシラン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルヘキシルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等の低粘度から高粘度の直鎖あるいは分岐状のオルガノポリシロキサンや、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン等の環状オルガノポリシロキサン、ガム状のジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等のシリコーンゴム、及びシリコーンガムやゴムの環状オルガノポリシロキサン溶液、アルキル変性シリコーン、長鎖アルキル変性シリコーン、シリコーン樹脂、及びシリコーンレジンの溶解物等が挙げられる。好ましくは、ジメチルポリシロキサン、フェニルトリメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルヘキシルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等の低粘度から高粘度の直鎖あるいは分岐状のオルガノポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
【0024】
上記シリコーン油は有機変性されていてもよい。有機変性されたシリコーン油とは、前記シリコーン油の構造中に1以上の有機官能基を有するシリコーン油であり、例えば、アミノ変性シリコーン油、エポキシ変性シリコーン油、ポリエーテル変性シリコーン油、カルボキシ変性シリコーン油、アルコール変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油、アンモニウム塩変性シリコーン油、及びフッ素変性シリコーン油等の変性シリコーン油等が挙げられる。
【0025】
炭化水素油としては、例えば、直鎖状、分岐状、又は環状であってよい、炭素数6〜16の低級アルカンが挙げられる。例えば、ヘキサン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン及びイソパラフィン等である。または、炭素原子を17個以上有する直鎖状または分岐状の炭化水素であってもよく、例えば、流動パラフィン、流動ワセリン、ポリデセン、水素化ポリイソブテン、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、菜種油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、アルモンド油、綿実油、やし油、落花生油、魚油、スクワレン、及びスクワラン等が挙げられる。
【0026】
脂肪族アルコールは、R−OH構造を有し、Rは炭素原子数4〜40、好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数12〜20の、飽和又は不飽和の直鎖状または分岐状の一価炭化水素基である。例えば、炭素数12〜20のアルキル基及びアルケニル基が挙げられる。Rは、少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されていても良い。
【0027】
該脂肪族アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ウンデシレニルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、及びそれらの混合物等を挙げることができる。
【0028】
エステル油は、飽和または不飽和の直鎖状または分岐状のC1〜C26脂肪族一酸、またはポリ酸と、飽和または不飽和の直鎖状あるいは分岐状のC1〜C26脂肪族モノアルコール、またはポリアルコールとの縮合反応から得られる液体エステルであり、このエステルの炭素原子の総数は10以上であることが望ましい。
【0029】
エステル油は、アジピン酸ジイソブチル、コハク酸ジエチルヘキシル、2−エチルヘキサン酸セチル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、エチルヘキサン酸ヘキシルデシル、トリエチルヘキサノイン、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、イソノナン酸エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソステアリン酸イソステアリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル、オレイン酸エチル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、及び1,2−ステアロイルステアリン酸オクチルドデシル等が挙げられる。
【0030】
<水性相成分>
本発明のエマルジョン組成物において、水性相成分は、液滴サイズが粒径1〜300μm、好ましくは1〜50μmの範囲を有するのがよい。粒径が上記上限値より大きいと、エマルジョンの保存安定性が低下する場合がある。該粒径は、例えばレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置や偏光顕微鏡で測定することが出来る。
【0031】
水性相成分は水、または水以外の水溶性の成分であればよく、従来公知の水性相成分であればよい。また、水性相成分はエマルジョンの保存安定剤を含んでいてもよい。エマルジョンの保存安定剤は、例えば、塩化ナトリウム、二塩化マグネシウム、または硫酸マグネシウム等の無機塩が挙げられる。また、水と混和性のある有機溶媒を含んでもよく、例としては2〜20個の炭素原子、好ましくは2〜10個の炭素原子、優先的には2〜6個の炭素原子を有する、グリセロール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、またはジエチレングリコール等のポリオール、モノー、ジーまたはトリプロピレングリコールアルキルエーテル、モノー、ジーまたはトリエチレングリコールアルキルエーテル等のグリコールエーテルが挙げられる。
【0032】
その他の水溶性成分は、化粧料等に用いられる有効成分が挙げられる。例えば、グリチルリチン酸ジカリウム、β−グリチルレチン酸、ヨモギエキス等の抗炎症剤;グルコシルルチン等の抗酸化剤;センブリ抽出液;ニコチン酸ベンジル等の血行促進剤;ヒアルロン酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、トウキンセンカエキス、オウゴンエキス、シラカバエキス等の保湿剤;エチニルエストラジオール等のホルモン剤;ビタミンC等のビタミン類;アミノ酸、ペプチド、核酸及びその誘導体等の栄養剤;生理活性ペプチド、各種水溶性抗がん剤、酵素、忌避剤等が挙げられる。
【0033】
また、多価アルコール、エタノールなどの低級アルコール、水溶性高分子、植物抽出エキス、防腐剤、金属封止剤、酸化防止剤、着色剤、pH調整剤、香料などの成分を適宜配合することが出来る。
【0034】
<疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子>
本発明は、油中水滴型エマルジョン組成物に配合する固体微粒子が特定の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子であることを特徴とする。即ち、本発明は、油中水滴型エマルジョン組成物が、体積メジアン径(D50)5〜1500nmを有する疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含有することを特徴とする。一般に、合成非晶質シリカは湿式法シリカと乾式法シリカに大別される。ゾルゲルシリカ微粒子は、ゾルゲル法で製造された、いわゆる湿式法シリカに分類されるシリカ微粒子である。乾式法シリカは、凝集性が高いため、溶液分散系で測定される粒度分布測定では一次粒径で得られても、粉体系で測定される顕微鏡観察では凝集が著しくなり、両者の結果は一致しない。これに対し、ゾルゲルシリカ微粒子は、凝集性が低く、分散性が高い。これは、溶液分散系で測定される粒度分布測定により得られる数値と、粉体系で測定される顕微鏡観察により得られる画像サイズとが良く一致することからわかる。また、湿式法シリカは、乾式法シリカと比較して表面シラノール基が多い。本発明のゾルゲルシリカ微粒子は該シラノール基が後述する方法にて疎水化されたものである。本発明の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は好ましくは、疎水化度10〜70を有し、また平均円形度0.8〜1を有する。
【0035】
疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、粒子径5〜1500nmを有し、好ましくは5〜1000nmを有し、更に好ましくは7〜800nmを有し、特に好ましくは10〜500nmを有する。この粒子径が上記下限値よりも小さいと、エマルジョンが得られない場合がある。また、粒子径が上記上限値よりも大きいと、エマルジョンが得られない、あるいは水性相の粒径を小さくすることが困難となり、保存安定性が不良となる場合がある為、好ましくない。上記粒子径は、体積メジアン径(D50)の値を示す。体積メジアン径(D50)とは、体積粒度分布を累積分布で表した際の累積50%に相当する粒子径である。体積メジアン径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定出来る。
【0036】
本発明において「球状」とは、真球だけでなく、若干歪んだ球体も包含する。このような粒子の形状は、粒子を二次元に投影した時の円形度として評価できる。円形度とは(粒子面積に等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)と定義するものである。ここで、本発明における「球状」とは、特には平均円形度が0.8〜1の範囲にあるものを意味する。従って、疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は平均円形度0.8〜1を有し、好ましくは0.85〜1を有し、より好ましくは0.90〜1を有するのがよい。尚、円形度は、電子顕微鏡等で得られる画像の解析により測定することが出来る。
【0037】
疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、体積粒度分布の指標であるD90/D10値3以下を有するのが好ましく、より好ましくは2.9以下である。粉体の粒度分布では、粒径の小さい側から累積10%となる粒子径をD10、粒径の小さい側から累積90%となる粒子径をD90という。D90/D10値が3以下、より好ましくは2.9以下であることは、粒度分布がシャープ(単一)であることを意味する。粒度分布がシャープであると、油/水界面において微粒子は最密充填的に配列することができ、エマルジョンの保存安定性を高めるのに好ましい。
【0038】
疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、上述した通り好ましくは疎水化度10〜70を有し、より好ましくは30〜70を有する。疎水化度とは、メタノールウェッタビリティー(MW値)と呼ばれるものである。疎水化度(MW値)が高いほど疎水性が強いことを示し、その数値が70以下であると良好な油中水滴型エマルジョンを得ることができる。また、疎水化度が上記下限値未満であると油中水滴型エマルジョンとならない場合がある。
【0039】
本発明における疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、好ましくはテトラアルコキシシランの加水分解によって得られる、実質的にSiO
2単位からなる親水性球状シリカ微粒子に後述する表面疎水化処理を施すことにより得られる。該疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は粒子径が親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の一次粒子径を維持し、凝集せずに、粒子径の揃った粒子となる。該疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は微細な粒子にも関わらず凝集性が低いという特性を有する。従って、該疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を油中水滴型エマルジョンの固体微粒子として使用することにより、油/水界面において粒子が単層ないし複層で最密充填的に配列することができ、それ故に保存安定性の高い良好なエマルジョンを与えることができる。
【0040】
上記において、親水性球状シリカ微粒子が「実質的にSiO
2単位からなる」とは、該微粒子は基本的にSiO
2単位から構成されているが、少なくとも表面にシラノール(Si−OH)基を複数個有することを意味する。また、原料であるテトラアルコキシシランおよび/またはその部分加水分解縮合生成物に由来する加水分解性基が、一部シラノール基に転化されず若干量そのまま粒子表面や内部に残存していてもよい。これらシラノール基や加水分解性基は上記した表面処理により疎水化される。
【0041】
本発明における疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、上記親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の−SiOR’基の一部又は全部と3官能性シランR
2Si(OR
1)
3とが反応してできる基を有する。前記式において、R'は水素原子、又は置換または非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、R
1及びR
2は、互いに独立に、置換または非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基である。疎水化処理により、親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子表面にある−SiOR’基にR
2SiO
3/2−が導入される。
【0042】
置換または非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基とは、好ましくは炭素原子数1〜6、より好ましくは炭素原子数1〜3、特に好ましくは炭素原子数1〜2の1価炭化水素基である。該1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等のアルキル基、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基、特に好ましくは、メチル基、及びエチル基が挙げられる。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子で置換されていてもよい。
【0043】
本発明における疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、好ましくは、上記3官能性シランR
2Si(OR
1)
3による疎水化処理後に、表面に存在するシラノール基や加水分解性基がさらに疎水化処理された疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子であるのがよい。即ち、本発明における疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子のより好ましい態様としては、前記(c)成分が、上記親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の−SiOR’基の一部又は全部と3官能性シランR
2Si(OR
1)
3とが反応してできる基を有する疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の表面に存在するシラノール基や加水分解性基とシラザン化合物又は一官能性シランとが反応してR
33SiO
1/2−が導入された疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子である。前記式においてR'は水素原子、又は置換または非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、R
1及びR
2は、互いに独立に、置換または非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、R
3は置換または非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基である。R
33SiO
1/2−で疎水化されることにより、親水性球状シリカ微粒子由来のシラノール基及び3官能性シランR
2Si(OR
1)
3由来の−SiOR
1基にR
33SiO
1/2−が導入される。
【0044】
上記式中、R
3は互いに独立に、置換または非置換の、炭素原子数1〜10、好ましくは炭素原子数1〜6、特に好ましくは1又は2の1価炭化水素基である。該1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、及びオクチル基等のアルキル基、好ましくは、メチル基、エチル基、及びプロピル基、特に好ましくは、メチル基、及びエチル基が挙げられる。また、これら1価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0045】
本発明の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、上述した通り、ゾルゲル法によって製造される球状シリカ微粒子の表面を上述の通り疎水化処理して得られる。製造方法は公知の方法に従えばよい。ゾルゲル法とは、アルコール等の親水性有機溶媒と水と塩基性物質との混合物中に4官能性シラン化合物を添加し、反応させて、親水性球状シリカ微粒子を含む溶媒分散液を得た後、溶媒を乾燥させて粉体を得る工程により製造する方法である。より詳細な製造方法について、以下に説明する。
【0046】
<製造方法(A)>
本発明の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、
工程(A1):親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の合成工程、
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程、及び
好ましくは工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
を含む製造方法により得られる。以下、各工程の詳細について、順を追って説明する。
【0047】
工程(A1):親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の合成工程
親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、一般式(I):Si(OR
1)
4 (I)で表される4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解物を加水分解及び縮合することにより得られる。上記式(I)において、R
1は置換または非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基である。該加水分解および縮合反応は、従来公知の方法に従えばよい。例えば反応温度は20〜70℃で行えばよい。即ち、塩基性物質を含む親水性有機溶媒と水との混合物中に4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解物を添加することにより行われる。これにより「実質的にSiO
2単位からなる」親水性球状シリカ微粒子を含む溶媒分散液を得る。
【0048】
上記一般式(1)で示される4官能性シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられ、好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、特に好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。また、一般式(1)で示される4官能性シラン化合物の部分加水分解縮合生成物としては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート等が挙げられる。
【0049】
親水性有機溶媒は、上記4官能性シラン化合物及び/又は部分加水分解縮合物及び水とを溶解するものであれば特に制限されない。例えば、アルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等のセロソルブ類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。好ましくは、アルコール類、セロソルブ類、特に好ましくはアルコール類が挙げられる。
【0050】
アルコール類は例えば一般式(V):R
4OH (V)で表される。一般式(V)中、R
4は炭素原子数1〜6の、好ましくは炭素原子数1〜4の、特に好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。該1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、より好ましくはメチル基、エチル基が挙げられる。該アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられるが、より好ましくは、メタノール、エタノールが挙げられる。
【0051】
塩基性物質は、アンモニア、ジメチルアミン、及びジエチルアミン等が挙げられ、好ましくはアンモニア、及びジエチルアミン、特に好ましくはアンモニアが挙げられる。これら塩基性物質は、所要量を水に溶解した後、得られた水溶液を前記親水性有機溶媒と混合すればよい。
【0052】
このとき使用される水の量は、上記4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解物のアルコキシ基の合計1モルに対して0.5〜5モルであることが好ましく、0.6〜2モルであることがより好ましく、0.7〜1モルであることが特に好ましい。また、水に対する親水性有機溶媒の比率は、質量比にして0.5〜10であることが好ましく、3〜9であることがより好ましく、5〜8であることが特に好ましい。塩基性物質の量は4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解物のアルコキシ基の合計1モルに対して0.01〜2モルであることが好ましく、0.02〜0.5モルであることがより好ましく、0.04〜0.12モルであることが特に好ましい。
【0053】
上記工程(A1)により親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む溶媒分散液が得られる。該分散液中の球状ゾルゲルシリカ微粒子の濃度は、通常3質量%以上15質量%未満であり、好ましくは5〜10質量%である。シリカ微粒子の濃度が低すぎると生産性が低下するため好ましくない。また、濃度が高すぎると球状シリカ微粒子の粒子間における凝集が生じる恐れがある。
【0054】
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
上記工程(A1)において得られた親水性球状シリカ微粒子を含む溶媒分散液に、一般式(II): R
2Si(OR
1)
3(II)で示される、3官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解生成物を添加し、上記親水性球状シリカ微粒子表面にあるシラノール基またはアルコキシ基と反応させることにより、該親水性球状シリカ微粒子表面にR
2SiO
3/2単位を導入した第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む溶媒分散液を得る。上記式(II)において、R
1及びR
2は上記の通りである。上記工程(A1)で得られた親水性球状シリカ微粒子は凝集しやすいため、このような疎水化処理をすることにより、シリカ微粒子間の凝集が抑制できる。
【0055】
上記3官能性シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、及び、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシランが挙げられる。好ましくは、メチルトリエトキシシラン、及びエチルトリエトキシシランであり、より好ましくはメチルトリエトキシシランである。また、これらの部分加水分解縮合物であってもよい。
【0056】
上記3官能性シラン化合物の添加量は、親水性球状シリカ微粒子が有するSi原子1モル当り0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.1モル、特に好ましくは0.01〜0.05モルである。添加量が0.01モルより少ないと分散性が悪くなる場合があり、1モルより多いと球状シリカ微粒子の粒子間における凝集が生じてしまう。尚、親水性球状シリカ微粒子のSi原子1モルとは、原料となるテトラアルコキシシランが全て反応したと仮定した際の、Si原子1molを意味する。
【0057】
上記工程(A2)により第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む溶媒分散液が得られる。該分散液中の球状シリカ微粒子の濃度は3質量%以上15質量%未満であるのがよく、好ましくは5〜10質量%である。該球状シリカ微粒子の濃度が低すぎる条件下では生産性が低下してしまうため好ましくない。また、濃度が高すぎる条件下では球状シリカ微粒子の粒子間における凝集が生じるおそれがある。該第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、常圧乾燥、減圧乾燥等によって粉体となる。
【0058】
工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
より好ましくは、上記工程(A2)において得られた第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む溶媒分散液に、更に下記一般式(III)で示されるシラザン化合物及び/又は下記一般式(IV)で示される1官能性シラン化合物を添加し、微粒子表面にあるシラノール基またはアルコキシ基と反応させることにより、該第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子表面にR
33SiO
1/2単位を導入した第二の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む溶媒分散液を得る。
R
33SiNHSiR
33 (III) (式(III)において、R
3は上記の通り)
R
33SiX (IV) (式(IV)において、R
3は上記の通り、Xはヒドロキシ基又は加水分解性基である。)
これにより、疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子表面にR
33SiO
1/2単位が導入される(第二の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子)。
【0059】
Xで表される加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アミノ基、アシルオキシ基、及び塩素原子等が挙げられる。好ましくは、アルコキシ基、及びアミノ基であり、特に好ましくは、アルコキシ基の中でもメトキシ基、及びエトキシ基がよい。
【0060】
一般式(III)で示されるシラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、及びジオクチルテトラメチルジシラザン等が挙げられる。好ましくは、ヘキサメチルジシラザンである。また、一般式(IV)で示される1官能性シラン化合物としては、例えば、トリメチルシラノール、及びトリエチルシラノール等のモノシラノール化合物、トリメチルクロロシラン、及びトリエチルクロロシラン等のモノクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン、トリメチルシリルジメチルアミン、及びトリメチルシリルジエチルアミン等のモノアミノシラン、トリメチルアセトキシシラン等のモノアシルオキシシランが挙げられる。好ましくは、トリメチルシラノール、トリメチルエトキシシラン、及びトリメチルシリルジエチルアミンがよい。特に好ましくは、トリメチルシラノール、及びトリメチルエトキシシランが挙げられる。
【0061】
上記式(III)又は(IV)で示される化合物の配合量は、親水性球状シリカ微粒子のSi原子1モルに対して0.01〜30モル、好ましくは0.05〜20モルである。使用量が0.01モルより少ないと系内から粒子を取り出す際、凝集の度合が激しく、うまく乾燥分離できない場合があり好ましくない。また、30モルより多いと経済的不利が生じてしまう。この疎水化処理時における使用(添加)量を制御することで、取り出す球状シリカ微粒子の疎水化度を任意に調整できる。
【0062】
上記工程(A3)により第二の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む溶媒分散液が得られる。該分散液中の球状シリカ微粒子の濃度は3質量%以上15質量%未満であるのがよく、好ましくは5〜10質量%である。濃度が低すぎる条件下では生産性が低下してしまうため好ましくなく、濃度が高すぎる条件下では球状シリカ微粒子の粒子間における凝集が生じるおそれがある。該疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子は、常圧乾燥、減圧乾燥等によって粉体となる。
【0063】
<油中水滴型エマルジョン組成物>
本発明のエマルジョン組成物は、上記油相成分、水相成分、及び疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子を含む油中水滴型エマルジョン組成物である。エマルジョン組成物中の球状ゾルゲルシリカ微粒子の量は、油相100質量部に対して0.5〜40質量部が好ましく、より好ましくは7〜25質量部の範囲であるのがよい。球状シリカ微粒子の量が上記下限値未満であると、または上記上限値超であると、安定なエマルジョン組成物は得られない。
【0064】
水性相成分の量は、油相成分100質量部に対して11〜800質量部が好ましく、100〜500質量部の範囲がより好ましい。上記下限値未満あるいは上記上限値より多い場合、エマルジョン組成物の粘度は低く、保存安定性が低下する恐れがある。エマルジョン組成物には保存安定性を高める為に界面活性剤を配合することもできるが、化粧料、皮膚用製剤等の使用時には安全性が懸念されるため、配合量を極力少なくするか、含まないのがよい。より好ましくは、本発明のエマルジョン組成物は界面活性剤を含まない。
【0065】
油中水滴型エマルジョン組成物の製造方法は、特に限定されず、従来公知のエマルジョンの製造方法にて行うことができるが、好ましくは、油相成分と疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子とを混合し、該混合物に水性相成分を徐々に添加して乳化する方法がよい。油相成分と疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子とを予め混和させることにより、保存安定性に優れるエマルジョンを効率良く得ることができる。水性相成分と疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子とは親和及び混和性が低い為、これらを先に混合すると、微粒子の持つ乳化能が低下する恐れがあり、良好なエマルジョンが得られない恐れがあるため好ましくない。また、水溶性成分を配合する場合には、予め水性相成分中に溶解させておくことが好ましい。
【0066】
油相成分と疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の混合方法は特に制限されるものでないが、プロペラ羽根、タービン羽根、およびパドル翼等の従来公知の攪拌機、もしくはホモディスパー等の高速回転遠心放射型攪拌機、及びホモミキサー等の高速回転せん断型攪拌機等の乳化分散機が使用できる。
【0067】
油相成分と疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子との混合物への水性相成分の添加方法は、特に制限はないが、該混合物に水性相成分を添加した後に撹拌する方法、または該混合物の撹拌下に、水性相成分を一度に、もしくは徐々に添加する方法が挙げられる。水性相成分を徐々に添加する場合、添加は連続的に行ってもよいし段階的でもよい。撹拌は、ホモディスパー等の高速回転遠心放射型攪拌機や、ホモミキサー等の高速回転せん断型攪拌機等の乳化分散機を用いて行えばよい。また、保存安定性を高くする為に、得られた油中水滴型エマルジョン組成物を更に圧力式ホモジナイザー等の高圧噴射式乳化分散機、コロイドミル、及び超音波乳化機等の乳化機で処理してもよい。
【0068】
本発明の油中水滴型エマルジョン組成物は、保存安定性に優れ、特に化粧料や皮膚用製剤に有用である。化粧料としては、例えば、乳液、クリーム、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー、リップクリーム、頬紅、アイシャドウ、及びマスカラ等の皮膚用化粧料に好適である。皮膚用製剤としては、塗布薬、及び湿布薬等に利用できる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0070】
[疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の合成]
[合成例1]
工程(A1): 親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の合成工程
攪拌機と、滴下ロートと、温度計とを備えた3リットルのガラス製反応器に、エタノール217.0gと、水2.3gと、28%アンモニア水17.3gとを入れて混合した。この溶液を60℃となるよう調整し、攪拌しながらテトラエトキシシラン547.0g(2.63モル)、及び水109.8gと28%アンモニア水27.5gの混合溶液を共に3時間かけて滴下した。この滴下が終了した後、更に0.5時間攪拌を継続して加水分解を行うことにより、−SiOR’基を有する親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の溶媒分散液を得た。R'は実質的に水素原子であるが、少量のエトキシ基を含み得る。
【0071】
工程(A2): 3官能性シラン化合物による表面処理工程
上記工程(A1)で得た親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の分散液に、室温でメチルトリエトキシシラン4.7g(0.03モル)を0.5時間かけて滴下した。滴下後も12時間攪拌を継続することにより、シリカ微粒子表面に存在していたシラノール基の一部が疎水化処理された球状シリカ粒子の分散液を得た(第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子分散液)。
【0072】
工程(A3): 1官能性シラン化合物による表面処理工程
上記工程(A2)で得られた第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子分散液に、室温下でヘキサメチルジシラザン84.5g(0.52モル)を添加した後、この分散液を50〜60℃に加熱して6時間反応させ、球状シリカ微粒子表面に存在するシラノール基をトリメチルシリル化した。次いで、この分散液中の溶媒を130℃、減圧下(6650Pa)で留去することで、球状ゾルゲルシリカ微粒子1を168g得た。(第二の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子)。後述する方法により平均円形度を測定したところ0.87であり球状であった。
【0073】
[合成例2]
工程(A1)における反応温度60℃を50℃に変更した他は上記合成例1における工程(A1)〜(A3)を繰り返して球状ゾルゲルシリカ微粒子2を166g得た。
【0074】
[合成例3]
工程(A1)における反応温度60℃を40℃に変更した他は上記合成例1における工程(A1)〜(A3)を繰り返して球状ゾルゲルシリカ微粒子3を165g得た。
【0075】
[合成例4]
工程(A1)における反応温度60℃を70℃に変更した他は上記合成例1における工程(A1)〜(A3)を繰り返して球状ゾルゲルシリカ微粒子4を170g得た。
【0076】
<合成例5>
工程(A1): 親水性球状シリカ微粒子の合成工程
攪拌機と、滴下ロートと、温度計とを備えた3リットルのガラス製反応器に、メタノール793.0gと、水32.1gと、28%アンモニア水40.6gとを入れて混合した。この溶液を30℃となるよう調整し、攪拌しながらテトラメトキシシラン646.5g(4.25モル)、及び水129.1gと28%アンモニア水31.8gの混合溶液を共に3時間かけて滴下した。この滴下が終了した後、更に0.5時間攪拌を継続して加水分解を行うことにより、−SiOR’基を有する親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の溶媒分散液を得た。R'は実質的に水素原子であるが、少量のメトキシ基を含み得る。
【0077】
工程(A2): 3官能性シラン化合物による表面処理工程
上記工程(A1)で得たシリカ粒子の分散液に、室温でメチルトリメトキシシラン5.8g(0.04モル)を0.5時間かけて滴下した。滴下後も12時間攪拌を継続して、シリカ粒子表面に存在していたシラノール基が疎水化処理された球状シリカ粒子の分散液を得た(第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子分散液)。
【0078】
工程(A3): 1官能性シラン化合物による表面処理工程
工程(A2)で得られた第一の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子分散液に、室温下でヘキサメチルジシラザン136.9g(0.85モル)を添加した後、この分散液を50〜60℃に加熱して6時間反応させ、シリカ粒子表面に残存していたシラノール基をトリメチルシリル化した。次いで、この分散液中の溶媒を130℃、減圧下(6650Pa)で留去することで、球状ゾルゲルシリカ粒子5を285g得た(第二の疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子)。後述する方法により平均円形度を測定したところ0.90であり球状であった。
【0079】
[合成例6]
合成例5の工程(A3)におけるヘキサメチルジシラザン136.9gを34.2gに変更した他は合成例5の工程(A1)〜(A3)を繰り返して球状ゾルゲルシリカ微粒子6を280g得た。
【0080】
[比較合成例7]
合成例5の工程(A3)におけるヘキサメチルジシラザン136.9gを13.6gに変更した他は合成例5の工程(A1)〜(A3)を繰り返して球状ゾルゲルシリカ微粒子7を281g得た。
【0081】
工程(A1)で得られた各親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子について、下記に従って粒子径を測定した。また合成例1〜7で得られた球状ゾルゲルシリカ微粒子1〜7について、下記に従って粒子径及び粒度分布を測定した。
【0082】
1.工程(A1)で得られた親水性球状シリカ微粒子の粒子径測定
工程(A1)で得た親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の分散液を、シリカ微粒子の濃度が0.5質量%となるようにメタノールに添加し、10分間超音波をかけることにより該シリカ微粒子を分散させた。分散させたシリカ微粒子の粒度分布を、動的光散乱法/レーザードップラー法ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、商品名:UPA−EX150)により測定し、その体積基準メジアン径を算出した。なお、メジアン径とは粒度分布を累積分布として表した際の累積50%に相当する粒子径である。結果を表1に示す。
【0083】
2.工程(A3)で得られた球状ゾルゲルシリカ微粒子の粒子径測定、及び粒度分布D90/D10値の測定
工程(A3)で得た球状ゾルゲルシリカ微粒子1〜7の各々を0.5質量%となるようにメタノールに添加し、10分間超音波をかけることにより該シリカ微粒子を分散させた。分散させたシリカ微粒子の粒度分布を、動的光散乱法/レーザードップラー法ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、商品名:UPA−EX150)により測定し、その体積基準メジアン径を算出した。結果を表1に示す。
粒度分布D90/D10値の測定は、上記粒子径測定した際の分布において小さい側から累積が10%となる粒子径をD10、累積が90%となる粒子径をD90とし、測定された値からD90/D10値を算出した。結果を表1に示す。
【0084】
3.工程(A3)で得られた球状ゾルゲルシリカ微粒子の形状及び形態観察
電子顕微鏡(日立製作所製、商品名:S−4700型、倍率:10万倍)により球状ゾルゲルシリカ微粒子の形状および形態を観察した。微粒子の形状として、粒子を二次元に投影した時の円形度による評価を行った。円形度とは(粒子面積と等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)であり、該値が0.8〜1の範囲にあるものを「球状」とする。結果を表1に示す。
【0085】
4.工程(A3)で得られた球状ゾルゲルシリカ微粒子の疎水化度の測定
容量200mlのビーカーに水50mlを秤採後、球状ゾルゲルシリカ微粒子0.2gを投入した。これをマグネティックスターラーで攪拌しながらビュレットにてメタノールを滴下、投入したシリカ微粒子の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した点を終点とする滴定測定を実施した。この際、メタノールの直接投入時にシリカ微粒子に接触しないよう、チューブで溶媒内へ導入した。そして、滴定終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノール体積%の値を、疎水化度とした。比較合成例7で得たシリカ微粒子は疎水化度0であった。従って、比較合成例7で得られた球状ゾルゲルシリカ微粒子は親水性である。一方、合成例1〜6で得られた球状ゾルゲルシリカ微粒子は表1に示す通り疎水化度33〜67を有し、疎水性であった(以下、疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子という)。
【0086】
【表1】
【0087】
[実施例1〜11、比較例1〜4]
下記実施例、及び比較例で使用した油相成分は以下の通りである。
油相成分1:KF−96A−6cs(商品名:信越化学工業(株)製、動粘度が6mm
2/sのポリジメチルシロキサン)
油相成分2:KF−995(信越化学工業(株)製、デカメチルシクロペンタシロキサン)
油相成分3:TMF−1.5(信越化学工業(株)製、メチルトリメチコン)
油相成分4:流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)
油相成分5:クレアロール(Sonneborn(株)製、炭化水素油)
油相成分6:SALACOS 99(日清オイリオ(株)製、イソノニルイソノナネート)
また比較例2では、固体微粒子としてVP NX−2000(日本アエロジル(株)製、乾式シリカ)を使用した。VP NX−2000は、体積メジアン径:1.3μm(日機装(株)製、粒度分布測定装置 マイクロトラック)、疎水化度:9.09(メタノールウエッタビリティ)を有する。
【0088】
油中水滴型エマルジョン組成物の調製
200mlのプラスチック製容器に、下記表2又は3に示した各組成にて油相成分及び(疎水性)球状ゾルゲルシリカ微粒子を仕込んだ。その後、高速回転せん断型攪拌機であるホモミキサー(プライミクス(株)製、乳化分散装置 ラボリューション(A))を用いて、回転速度4000〜5000rpmで撹拌しながら、下記表2又は3に示す質量部の水性相成分を徐々に添加して乳化し、油中水滴型エマルジョン組成物を得た。ただし、比較例1及び2の組成物は乳化せずエマルジョンが得られなかった。そのため下記の評価を行っていない。
尚、下記表2及び3において、括弧内に示す数値は油相成分100質量部あたりの各成分の質量部である。
【0089】
[エマルジョンの粒子径測定及び保存安定性評価]
各エマルジョン組成物のエマルジョン粒子径を、偏光顕微鏡(Nikon(株)製、偏光顕微鏡 ECLIPSE LV100POL)を用いて観察した。
また、各エマルジョン組成物をガラス瓶に取り、室温下で1ヶ月静置保存した後の外観を観察し、エマルジョン組成物の保存安定性を評価した。評価は以下の指標に基づき行った。
A:油相と水性相との間で分離は認められない
B:部分的に相分離が生じている
C:完全に2相(油相/水性相)に分離している
【0090】
また、実施例4及び10で得たエマルジョン組成物を、偏光顕微鏡を用いて観察した結果を
図1及び2に示す。
図1は実施例4のエマルジョン組成物であり、
図2は実施例10のエマルジョン組成物である。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
表2に示す通り、本発明の油中水滴型エマルジョン組成物(実施例1〜11)は、いずれもエマルジョンの粒子径(液滴径)が10〜30μmであり、また保存安定性は高い。その一方、疎水化度が0の球状ゾルゲルシリカ微粒子を用いた比較例1や、疎水化度が10以下である乾式シリカを固体微粒子として用いた比較例2では、乳化されなかった。
また、水性相成分量が少なすぎる又は多すぎる比較例3及び4の組成物はエマルジョンは形成できるものの、保存安定性は低い。
【0094】
[油中水滴型エマルジョン組成物の油/水界面における疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子の吸着状態評価]
本発明の油中水滴型エマルジョン組成物の油/水界面におけるシリカ微粒子の吸着状態について、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ(株)製、走査型顕微鏡 S−4700)を用いて観察・評価した。
【0095】
上記観察を行うには、始めにエマルジョン組成物を固定化する必要がある。そこで、実施例4におけるKF−96A−6csを反応硬化性シリコーン組成物(一価オレフィン性不飽和基を有するポリオルガノシロキサン/オルガノハイドロジェンポリシロキサン)に変更し、実施例4の工程を繰り返して油中水滴型エマルジョン組成物を調製した後、白金触媒を添加し、油相を硬化することでサンプルを作製した。
【0096】
上記サンプルを、ナイフ(医療用メス)を用いて裁断し、105℃の空気恒温槽下で水分を蒸発させた。エマルジョン組成物に含まれていた水分が存在した半球状の凹み箇所を、電子顕微鏡により観察した結果を
図3及び
図4に示す。
図3が全体像であり、
図4が拡大像である。
【0097】
本発明の油中水滴型エマルジョン組成物は
図3及び4に示す通り、固体微粒子である疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子が規則的・最密充填レベルで油/水界面に配向・吸着している。
また、油/水界面におけるシリカ微粒子の配向は層状構造となっており、1層のみならず複層の状態で界面膜を形成している。
【0098】
すなわち、本発明の油中水滴型エマルジョン組成物において、疎水性球状ゾルゲルシリカ微粒子が、最密充填レベルで規則的に油/水界面に配向していることにより、また、該ゾルゲルシリカ微粒子の吸着力の高さにより、その界面膜構造は強固なものとなり、安定なエマルジョン組成物を提供することができる。