特許第6883990号(P6883990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6883990ポリビニルアルコール系フィルム、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、及び偏光膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883990
(24)【登録日】2021年5月13日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系フィルム、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、及び偏光膜
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20210531BHJP
   B29C 41/26 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20210531BHJP
   C08J 5/18 20060101ALN20210531BHJP
   B29K 29/00 20060101ALN20210531BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20210531BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
   G02B5/30
   B29C41/26
   B29C55/06
   !C08J5/18CEX
   B29K29:00
   B29L7:00
   B29L11:00
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-542783(P2016-542783)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2016068598
(87)【国際公開番号】WO2016208652
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2019年1月17日
【審判番号】不服2020-8321(P2020-8321/J1)
【審判請求日】2020年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-126122(P2015-126122)
(32)【優先日】2015年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】寺本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】早川 誠一郎
【合議体】
【審判長】 樋口 信宏
【審判官】 井口 猶二
【審判官】 井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光膜の原反として用いられるポリビニルアルコール系フィルムであって、ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを7〜12重量%含有するポリビニルアルコール系樹脂からなり、
厚さD(mm)、
30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をA(N/mm2)、
50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をB(N/mm2
とした時に、下式(1)及び(2)を満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
式(1)0.6≦D×A≦1.2
式(2)0.2≦D×B≦0.4
【請求項2】
下式(3)を満足することを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
式(3)0.2≦B/A≦0.5
【請求項3】
30℃の水中における貯蔵弾性率をE1(Pa)、50℃の水中における貯蔵弾性率をE2(Pa)とした場合に、E2/E1が0.25〜0.30であることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系フィルムの厚さDが0.04mm以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系フィルムの幅が4m以上、かつ長さが4km以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項6】
20℃65%RHの大気中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に4倍に延伸した時の張力が、40〜80N/mm2であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
面内位相差が50nm以下であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載のポリビニルアルコール系フィルムを製造する方法であって、下記工程(A)〜(D)を経て製造することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
工程(A):ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを7〜12重量%含有するポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する工程。
工程(B):上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液をキャスト型に流延して製膜することによりフィルムを得る工程。
工程(C):製膜された上記フィルムを、金属加熱ロールの温度が下記条件(a)〜(d)の順に設定された複数の金属加熱ロールと接触させることにより加熱して乾燥する工程。
条件(a)≧80℃
条件(b)<80℃
条件(c)≧100℃
条件(d)<100℃
工程(D):得られたフィルムを、熱風を用いて110〜140℃で熱処理する工程。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか記載のポリビニルアルコール系フィルムからなることを特徴とする偏光膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムに関する。さらに詳しくは、偏光膜の原反として染色性や延伸性に優れ、偏光性能に優れた偏光膜を高い生産性で製造するためのポリビニルアルコール系フィルム、その製造方法、及び該ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光膜は、原反となるポリビニルアルコール系フィルムを、ヨウ素などの色素を用いて染色、及び延伸して製造される。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムを、温水で膨潤させた後、ヨウ素で染色し、ヨウ素分子を配列させるために延伸し、延伸した状態を保持するためにホウ酸などの架橋剤で架橋し、洗浄、及び乾燥して製造される。かかる水膨潤、染色、延伸、ホウ酸架橋の各工程は、順序を入れ替えたり、複数の工程が同時に行われることもある。共通しているのは、ロールからポリビニルアルコール系フィルムを連続的に巻き出して、巻き取り機やニップロールを用いて流れ方向に適度な張力をかけて、水平方向に搬送しながら行われる点である。
【0003】
かかる偏光膜は、携帯情報端末機やテレビなどの液晶表示装置の基幹構成部品として使用されている。近年、液晶表示の高輝度化や高精細化に伴い、高い光線透過率と高い偏光度を有する偏光膜が要望されており、更に、液晶テレビなどの大画面化や薄型化にともない、従来品より一段と幅広長尺薄型な偏光膜が要望されている。
【0004】
上述した要望に応えるためには、染色性や延伸性に優れ、かつ幅広長尺薄型のポリビニルアルコール系フィルムが必要である。ポリビニルアルコール系フィルムの染色性が低い場合には、充分な偏光度が得られず、また偏光ムラが発生しやすい傾向にある。ポリビニルアルコール系フィルムの延伸性が低い場合には、偏光膜の製造工程において破断が生じるため、幅広長尺薄型の偏光膜を製造することができない。当然のことながら、破断により連続的な製造は中断し、偏光膜の生産性は大幅に低下する。更に、延伸性が低いと、充分に色素が配向しないために偏光度が低下したり、偏光ムラが発生しやすい傾向にある。かかる染色性や延伸性の向上は、ポリビニルアルコール系フィルムが幅広長尺薄型になるほど困難である。また、いわゆる薄型化を目的とした塗布型偏光板においても、上述した染色や延伸などの工程は必須であり、支持フィルム上では有るが、塗布後のポリビニルアルコール系膜の染色性や延伸性の改良が望まれている、
【0005】
ポリビニルアルコール系フィルムの染色性を向上するために、膨潤工程の浴温を制御する手法が提案されている(例えば特許文献1、2参照。)。また、延伸性が特定範囲のポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光板が提案されている(例えば特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−065309号公報
【特許文献2】特開2014−197050号公報
【特許文献3】特開2002−236212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示の技術では、浴温により膨潤度を制御できても、浴槽中でポリビニルアルコール系フィルムにかかる張力が適切でなければ、一様な膨潤状態は得られず、その後の染色工程において、均一に色素が吸着しないという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献3に開示の技術は、ポリビニルアルコール系フィルムを水中で4〜6倍に延伸した時の応力(張力)を規定したものであるが、実際の偏光膜の製造においては、各工程の水温が異なるため、全工程にわたって適した張力を得るには不充分であった。なお、水温は、膨潤や染色などの工程では比較的低温の30℃付近、延伸やホウ酸架橋などの工程では比較的高温の50℃付近で行われることが多いものである。
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下において、染色性や延伸性に優れたポリビニルアルコール系フィルムであり、幅広長尺薄型化した場合においても高い偏光度を有し、偏光ムラのない偏光膜を得ることができるポリビニルアルコール系フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を、キャスト型に吐出及び流延して製膜し、連続的に乾燥して得られるポリビニルアルコール系フィルムについて、異なる温度の水中で延伸した時に、それぞれの水中張力が特定範囲となるように、特に高めの温度の50℃での水中張力に着目して製造されたポリビニルアルコール系フィルムが、幅広長尺薄型化した場合においても高い偏光度を有し、偏光ムラのない偏光膜を製造できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、偏光膜の原反として用いられるポリビニルアルコール系フィルムであって、ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを7〜12重量%含有するポリビニルアルコール系樹脂からなり、厚さD(mm)、30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をA(N/mm2)、50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をB(N/mm2)とした時に、下式(1)及び(2)を満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムである。
式(1)0.6≦D×A≦1.2
式(2)0.2≦D×B≦0.4
【0012】
また、本発明は、上記ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜も提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、染色性や延伸性に優れており、また、幅広長尺薄型化した場合においても高い偏光度を有し、偏光ムラのない偏光膜を得ることができ、さらには、高い生産性で偏光膜を製造できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜の原反として用いられるポリビニルアルコール系フィルムであって、ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを7〜12重量%含有するポリビニルアルコール系樹脂からなり、厚さD(mm)、30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をA(N/mm2)、50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をB(N/mm2)とした時に、下式(1)及び(2)を満足するポリビニルアルコール系フィルムであることが必要であり、
式(1)0.6≦D×A≦1.2
式(2)0.2≦D×B≦0.4
好ましくは、下式(1')及び(2')を満足するポリビニルアルコール系フィルムであり、
式(1')0.65≦D×A≦1.15
式(2')0.25≦D×B≦0.39
特に好ましくは、下式(1'')及び(2'')を満足するポリビニルアルコール系フィルムである。
式(1'')0.7≦D×A≦1.1
式(2'')0.27≦D×B≦0.38
【0015】
上記式(1)〜(1’’)に関して、D×Aの値が低すぎると膨潤工程や染色工程においてフィルムが変形してしまい好ましくなく、高すぎても染色工程において充分な染色が困難となり好ましくない。
また、上記式(2)〜(2’’)に関して、D×Bの値が低すぎると偏光膜とした際の偏光度が低下し好ましくなく、高すぎると偏光膜製造時に破断が発生しやすく好ましくない。
【0016】
上記式(1)〜(1’’)及び上記式(2)〜(2’’)に関して、ポリビニルアルコール系フィルムの厚さDの値は、偏光膜の薄型化の点で0.04mm以下が好ましく、特に好ましくは偏光膜の更なる薄型化の点で0.03mm以下、更に好ましくは偏光膜の破断回避の点で0.01〜0.03mmである。
【0017】
更に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、下式(3)を満足することが好ましく、特に好ましくは下式(3’)、更に好ましくは下式(3’’)を満足することである。
式(3)0.2≦B/A≦0.5
式(3’)0.25≦B/A≦0.4
式(3’’)0.3≦B/A≦0.35
【0018】
上記式(3)〜(3’’)に関して、B/Aの値が低すぎると、偏光膜とした際の偏光度が低下する傾向があり、高すぎると偏光膜製造時に破断が発生しやすい傾向がある。
【0019】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力Aが、15〜40N/mmであることが好ましく、特に好ましくは18〜35N/mm、更に好ましくは20〜30N/mmである。
かかる張力Aの値が低すぎると、膨潤工程や染色工程においてフィルムが変形しやすい傾向があり、高すぎると染色工程において充分な染色が困難となる傾向がある。
【0020】
更に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力Bの値が、3〜15N/mmであることが好ましく、特に好ましくは4〜12N/mm、更に好ましくは5〜10N/mmである。
かかる張力Bの値が低すぎると、偏光膜とした際の偏光度が低下する傾向があり、高すぎると偏光膜製造時に破断が発生しやすい傾向がある。
【0021】
そして、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、30℃の水中における貯蔵弾性率をE1(Pa)、50℃の水中における貯蔵弾性率をE2(Pa)とした場合に、E2/E1の値が0.25〜0.30であることが好ましく、特に好ましくは0.26〜0.29である。
かかるE2/E1の値が低すぎると得られる偏光膜の偏光度が低下する傾向にあり、高すぎると偏光膜製造時に破断が発生する傾向がある。
【0022】
更に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、上記30℃の水中における貯蔵弾性率E1が、9〜12MPaであることが搬送性の点で好ましい。
また、50℃の水中における貯蔵弾性率E2が、2〜4MPaであることが搬送性の点で好ましい。
【0023】
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、即ち、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を、キャスト型に吐出及び流延して製膜し、連続的に乾燥することによりポリビニルアルコール系フィルムを製造する方法について説明する。
【0024】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、即ち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等が挙げられる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0025】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0026】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、10万〜30万であることが好ましく、特に好ましくは11万〜28万、更に好ましくは12万〜26万である。かかる重量平均分子量が小さすぎるととポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られにくい傾向があり、大きすぎるとポリビニルアルコール系フィルムの偏光膜製造時の延伸が困難となる傾向がある。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0027】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。かかる平均ケン化度が小さすぎるとポリビニルアルコール系フィルムを偏光膜とする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるものである。
【0028】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂として、変性種、変性量、重量平均分子量、平均ケン化度などの異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0029】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、上記ポリビニルアルコール系樹脂を用いてポリビニルアルコール系樹脂水溶液(製膜原液)を調製し、この水溶液をキャスト型に吐出及び流延して、キャスト法により製膜、乾燥することで連続的に製造することができ、例えば、以下の工程により製造される。
工程(A)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する工程。
工程(B)ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液をキャスト型に流延して製膜する工程。
工程(C)製膜されたフィルムを複数の金属加熱ロールと接触させることにより加熱して乾燥する工程。
工程(D)得られたフィルムを熱風を用いて熱処理する工程。
【0030】
ここで、上記キャスト型としては、例えばキャストドラム(ドラム型ロール)やエンドレスベルト等があげられるが、幅広化や長尺化、膜厚の均一性に優れる点からキャストドラムで行うことが好ましい。
以下、キャスト型がキャストドラムの場合を例にとって説明する。
【0031】
まず、前記工程(A)について説明する。
【0032】
工程(A)においては、まず、前述したポリビニルアルコール系樹脂を、水を用いて洗浄し、遠心分離機などを用いて脱水して、含水率50重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキとすることが好ましい。含水率が大きすぎると、所望する水溶液濃度にすることが難しくなる傾向がある。
かかるポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを温水や熱水に溶解して、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製する。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の調製方法は、特に限定されず、例えば、加熱された多軸押出機を用いて調製してもよく、また、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解缶に、前述したポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを投入し、缶中に水蒸気を吹き込んで、溶解及び所望濃度の水溶液を調製することもできる。
本発明においては、偏光度向上の点で後者が好ましく、120℃以上の加圧溶解により調液することがより好ましい。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、可塑剤が含有される。また、必要に応じて、ノニオン性、アニオン性、及びカチオン性の少なくとも一つの界面活性剤を含有させることが、製膜性の点から好ましい。
【0035】
本発明で使用される可塑剤としては、安価な点でグリセリンが好ましい。
【0036】
グリセリンの配合量は、ポリビニルアルコール系樹脂に対して、〜12重量%である。
かかる配合量が少なすぎると、ポリビニルアルコール系フィルムの水中張力が増大する傾向があり、多すぎるとポリビニルアルコール系フィルムの水中張力が不足する傾向がある。
【0037】
本発明で使用される界面活性剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液との相溶性の点から、アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0038】
かくして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂濃度は、15〜60重量%であることが好ましく、特に好ましくは17〜55重量%、更に好ましくは20〜50重量%である。かかる樹脂濃度が低すぎると乾燥負荷が大きくなるため生産能力が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができにくくなる傾向がある。
【0039】
かくして、製膜原液であるポリビニルアルコール系樹脂水溶液が得られる。次に、前記工程(B)について説明する。
【0040】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡やベントを有した多軸押出機による脱泡などの方法があげられる。ベントを有した多軸押出機としては、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0041】
脱泡処理ののち、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、回転するキャストドラム上に吐出及び流延されて、キャスト法により製膜される。
【0042】
T型スリットダイ吐出口の樹脂温度は、80〜100℃であることが好ましく、特に好ましくは85〜99℃である。かかる樹脂温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0043】
かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度は、吐出時に50〜200Pa・sであることが好ましく、特に好ましくは70〜150Pa・sである。
かかる水溶液の粘度が、低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると流延が困難となる傾向がある。
【0044】
T型スリットダイからキャストドラムに吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出速度は、0.2〜5m/分であることが好ましく、特に好ましくは0.4〜4m/分、更に好ましくは0.6〜3m/分である。
かかる吐出速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると流延が困難となる傾向がある。
【0045】
流延に際しては、幅広化や長尺化、膜厚の均一性などの点からキャストドラムで行うことが好ましい。キャストドラムとしては、通常、鉄を主成分とするステンレス鋼(SUS)の表面に、傷つき防止のため金属メッキが施されているものが使用される。金属メッキとしては、例えば、クロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキなどが挙げられ、これらが単独または2層以上積層化して使用される。これらの中では、ドラム表面の耐久性の点から、最表面がクロムメッキであることが好ましい。
【0046】
以下に、キャストドラムを用いた場合を例にとって、製膜方法を説明する。
キャストドラムの幅は、好ましくは4m以上、特に好ましくは5m以上である。キャストドラムの幅が小さすぎると幅広フィルムが得られにくい傾向がある。
【0047】
かかるキャストドラムの直径は、好ましくは2〜5m、特に好ましくは2.4〜4.5m、更に好ましくは2.8〜4mである。
かかる直径が小さすぎると乾燥長が不足し速度が出にくい傾向があり、大きすぎると輸送性が低下する傾向がある。
【0048】
かかるキャストドラムの回転速度は、3〜50m/分であることが好ましく、特に好ましくは4〜40m/分、更に好ましくは5〜35m/分である。回転速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると乾燥が不足する傾向がある。
【0049】
かかるキャストドラムの表面温度は、40〜99℃であることが好ましく、特に好ましくは60〜95℃である。表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0050】
かくして、製膜が行われる。
【0051】
次いで、前記工程(C)について説明する。工程(C)は、製膜されたフィルムを複数の金属加熱ロールと接触させることにより加熱して乾燥する工程である。
【0052】
キャストドラムで製膜されたポリビニルアルコール系フィルムの乾燥は、膜の表面と裏面とを複数の金属加熱ロールに交互に接触させることにより行なわれる。金属加熱ロールの表面温度は特に限定されないが、通常60〜150℃、さらには70〜140℃であることが好ましい。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると乾燥しすぎることとなり、うねりなどの外観不良を招く傾向がある。
【0053】
本発明においては、ポリビニルアルコール系フィルムの水中張力を制御する点で、複数の金属加熱ロールの温度が、下記条件(a)〜(d)の順となるように設定される
条件(a)≧80℃
条件(b)<80℃
条件(c)≧100℃
条件(d)<100℃
なお、通常金属加熱ロールの本数は10〜30本であり、適宜上記温度条件を満たすように設定される。
【0054】
金属加熱ロールによる乾燥後、得られたフィルムは、工程(D)において、熱風を用いて熱処理される。次いで、前記工程(D)について説明する。
【0055】
熱処理の温度は、110〜140℃に設定され、特に好ましくは115〜135℃、更に好ましくは120〜130℃である。かかる熱処理温度が低すぎると、ポリビニルアルコール系フィルムの水中張力が不足する傾向にあり、高すぎるとポリビニルアルコール系フィルムの水中張力が増大する傾向にある。
かかる熱処理の方法としては、温度制御に優れる点で、フローティングドライヤーにて行う方法が好ましい。
【0056】
熱処理が行われたフィルムは、両端をスリットして、ロールに巻き取られてロール状のポリビニルアルコール系フィルムとなる。
【0057】
また、上記ポリビニルアルコール系フィルムの幅は、偏光膜の幅広化の点で4m以上であることが好ましく、特に好ましくは更なる幅広化の点から4.5m以上、更に好ましくは破断回避の点から4.5〜6mである。
【0058】
上記ポリビニルアルコール系フィルムの長さは、偏光膜の大面積化の点から4km以上であることが好ましく、特に好ましくは更なる大面積化の点から4.5km以上、更に好ましくは輸送重量の点から4.5〜50kmである。
【0059】
上記ポリビニルアルコール系フィルムは、巻き取り性の点で、20℃65%RHの大気中でフィルムの流れ方向(MD方向)に4倍に延伸した時の張力が、40〜80N/mmであることが好ましく、特に好ましくは、保管時の安定性の点で43〜75N/mm、更に好ましくは、水中張力の制御のしやすさから46〜70N/mmである。
【0060】
上記ポリビニルアルコール系フィルムは、水中張力の均一性の点で、面内位相差が50nm以下であることが好ましく、特に好ましくは40nm以下、更に好ましくは30nm以下である。
【0061】
かくして本発明のポリビニルアルコール系フィルムが得られる。
【0062】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは光学性能に優れるものであり、光学用のポリビニルアルコール系フィルムとして好適に用いられ、更には偏光膜用の原反として特に好ましく用いられる。
【0063】
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜の製造方法について説明する。
【0064】
本発明の偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、ロールから巻き出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥などの工程を経て製造される。
【0065】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラなどを防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。当該処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10〜45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1〜10分間程度である。また、必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0066】
染色工程は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1〜100g/Lが適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。また、必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0067】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂などのホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度10〜100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30〜70℃程度、処理時間は0.1〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0068】
延伸工程は、一軸方向に3〜10倍、好ましくは3.5〜6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、30〜170℃が好ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0069】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行われ、フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1〜80g/L程度でよい。洗浄処理時の温度は、通常、5〜50℃、好ましくは10〜45℃である。処理時間は、通常、1〜300秒間、好ましくは10〜240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0070】
乾燥工程は、大気中で40〜80℃で1〜10分間行えばよい。
【0071】
また、偏光膜の偏光度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H)より、下式にしたがって算出される。
〔(H11−H)/(H11+H)〕1/2
【0072】
さらに、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0073】
かくして、本発明の偏光膜が得られるが、本発明の偏光膜は、色ムラの少ない偏光板を製造するのに好適である。
以下、本発明の偏光板の製造方法について説明する。
【0074】
本発明の偏光膜は、その片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合されて偏光板となる。保護フィルムとしては、たとえば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイドなどのフィルムまたはシートがあげられる。
【0075】
貼合方法は、公知の手法で行われるが、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜、保護フィルム、あるいはその両方に均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射することで行われる。
【0076】
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その片面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、硬化して偏光板とすることもできる。
【0077】
本発明の製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光膜は、偏光性能の面内均一性にも優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパーなど)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0079】
<測定条件>
(1)水中での延伸張力(N/mm
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、長さ(MD方向)50mm×幅(TD方向)35mm×厚さD(mm)の試験片を切り出し、チャック間距離が20mmとなるように長さ方向の両端部を幅35mmのチャックではさんだ後、30℃及び50℃の水中で、MD方向に速度18mm/分で6倍に延伸した時の応力(N)をばねばかりで測定した。かかる応力をフィルムの断面積で除した値を延伸張力(N/mm)とした。
【0080】
(2)大気中での延伸張力(N/mm
得られたポリビニルアルコール系フィルムを20℃65%RHの大気中で一日状態調整を行なった後、長さ(MD方向)120mm×幅(TD方向)15mm×厚さD(mm)の試験片を切り出し、島津製作所社製「精密万能試験機、オートグラフ(AG−IS)」を用いて、チャック間距離50mmとなるように、長さ方向の両端部を幅15mmのチャックではさんだ後、20℃65%RHの大気中で、MD方向に速度1000mm/分で4倍に延伸した時の応力(N)を測定した。かかる応力をフィルムの断面積で除した値を大気中での延伸張力(N/mm)とした。
【0081】
(3)面内位相差(nm)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、長さ(MD方向)20cm×幅(TD方向)20cmの試験片を切り出し、2次元複屈折評価システム(フォトニックラティス社製:「PA−110L」)を用いて、面内位相差(nm)を測定した。
【0082】
(4)偏光度(%)、単体透過率(%)
得られた偏光膜から、長さ4cm×幅4cmのサンプルを切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光社製:VAP7070)を用いて、偏光度(%)と単体透過率(%)を測定した。
【0083】
(5)偏光ムラ
得られた偏光膜から、長さ30cm×幅30cmの試験片を切り出し、クロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟んだのちに、表面照度14,000ルクス(lx)のライトボックスを用いて、透過モードで光学的な色ムラを観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○・・・色ムラなし
△・・・かすかに色ムラあり
×・・・色ムラあり
【0084】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの製造)
5,000Lの溶解缶に、重量平均分子量142,000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂1,000kg、水2,500kg、可塑剤としてグリセリン105kg、及び界面活性剤としてドデシルスルホン酸ナトリウム0.25kgを入れ、撹拌しながら150℃まで昇温して加圧溶解を行い、樹脂濃度25%のポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。
次に該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、20m/分で回転するキャストドラムに吐出及び流延して製膜した。得られたフィルムをキャストドラムから剥離し、フィルムの表面と裏面とを合計20本の金属加熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行った。かかる金属加熱ロールは、90℃、70℃、110℃、85℃の温度順で配置されている。次いで、フィルム両面から140℃の熱風を吹き付けて熱処理を行った後、最後にスリットして巻き取り、ロール状のポリビニルアルコール系フィルムを得た(フィルム厚0.03mm、幅5m、長さ5km)。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は表1に示される通りであった。
【0085】
(偏光膜の製造)
得られたポリビニルアルコール系フィルムをロールから巻き出し、水平方向に搬送しながら、水温30℃の水槽に浸漬して膨潤させながら、MD方向へ1.7倍に延伸した。次に、ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる30℃の水溶液中に浸漬して染色しながら、MD方向へ1.6倍に延伸し、ついでホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(50℃)に浸漬してホウ酸架橋しながら、MD方向へ2.1倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、その後、50℃で2分間乾燥して総延伸倍率5.7倍の偏光膜を得た。かかる製造中に破断は起きず、得られた偏光膜の特性は表2に示される通りであった。
【0086】
<実施例2>
実施例1において、130℃の熱風を吹き付けて熱処理する以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1と表2に示す。
【0087】
<実施例3>
実施例1において、キャストドラムの回転速度を10m/分に変更してフィルム厚を0.06mmにし、120℃の熱風を吹き付けて熱処理する以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1と表2に示す。
【0088】
<実施例4>
実施例1において、キャストドラムの回転速度を10m/分に変更してフィルム厚を0.06mmにし、熱処理温度を110℃とする以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1と表2に示す。
【0089】
<比較例1>
実施例1において、キャストドラムの回転速度を10m/分に変更してフィルム厚を0.06mmにし、熱処理温度を100℃とする以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1と表2に示す。
【0090】
<比較例2>
実施例1において、熱処理温度を150℃とする以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムを得た。該ポリビニルアルコール系フィルムを用いて偏光膜の製造を開始したが、長さ1kmの偏光膜を製造したところで、ホウ酸架橋工程の延伸中に破断が生じ、目的とする偏光膜は得られなかった。
【0091】
<比較例3>
実施例1において、金属加熱ロール温度を全て80℃とした以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜を得た。得られた偏光膜について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1と表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
実施例1〜4のポリビニルアルコール系フィルムは、厚さD(mm)、30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をA(N/mm)、50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をB(N/mm)とした時に、D×AとD×Bの値がいずれも式(1)及び(2)を満足するものであるのに対し、比較例1のポリビニルアルコール系フィルムはD×Bの値が式(2)の範囲外であり、比較例2及び3のポリビニルアルコール系フィルムはD×Aの値が式(1)の範囲外であり、かつD×Bの値も式(2)の範囲外であった。
そして、各々のポリビニルアルコール系フィルムから得られる偏光膜の偏光特性は、実施例1〜4が比較例1及び3よりも優れるものであることがわかり、更に比較例2においては、破断によって偏光膜が得られなかった。
【0095】
更に、実施例3及び4、比較例1で得られたポリビニルアルコール系フィルムについては、下記の方法に従い、貯蔵弾性率E1,E2を測定し、E2/E1の値を計算した。
【0096】
(6)貯蔵弾性率(MPa)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、長さ(MD方向)25mm×幅(TD方向)5mmの試験片を切り出し、アイティー計測制御社製DVA−225を用いて、30℃と50℃の水中における貯蔵弾性率を測定した。詳細な試験条件は次の通りである。
周波数:10Hz
チャック間距離:15mm
荷重:MD方向に動的歪0.3%、静動比(静的歪と動的歪の比)6
30℃水浸漬10分後の貯蔵弾性率E1(MPa)と、50℃水浸漬10分後の貯蔵弾性率E2(MPa)から、E2/E1を算出した。なお、水中での貯蔵弾性率算出のための膜厚は水浸漬前の厚さを用いた。
【0097】
測定の結果は、実施例3:E2/E1=0.28、実施例4:E2/E1=0.27、比較例1:E2/E1=0.25であり、E2/E1の値が低い場合は、偏光膜とした際の偏光度が低下することが確認された。
【0098】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光膜は、偏光性能の面内均一性にも優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパーなど)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具などに好ましく用いられる。