【文献】
LUNING, S. et al.,Hydrophilic interaction liquid chromoatography coupled with tandem mass spectrometry method for the simultaneous determnation of L-valine, L-leucine, L-isoleucine, L-phenylalanine and L-tyrosine in human serum,Journal of Separation Science,2015年 9月17日,Vol.38/No.22,pp.3876-3883
【文献】
MEISS, E. et al.,Metabolikte targeting: development of a comprehensive targeted metabolomics platform for the assessment of diabetes and its complications,Metabolomics,2016年 2月 9日,Vol.12/No.52,pp.1-15
【文献】
MIN, J.Z. et al.,Determination of DL-amino acids, derivatized with R(-)-4-(3-isothiocyanatopyrrolidin-1-yl)-7-(N,N-dimethylaminosulfonyl)-2,1,3-benzoxadiazole, in nail of diabetic patients by UPLC-ESI-TOF-MS,Journal of Chromatography B,2011年 2月13日,Vol.879,p.3220-3228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分析測定部をさらに含み、該分析測定部が、対象の血液試料から前記血中キラルアミノ酸を分離して定量して測定値を決定し、入力部に代わり又は入力部を介して測定値を入力する、請求項4に記載の血液分析システム。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、高血糖を特徴とする代謝障害であり、1型と2型糖尿病に大別される。1型糖尿病は、遺伝的要因及びウイルス感染により、免疫反応が誘発され、β細胞が選択的に破壊されて発症する病気であり、通常、自己免疫により生じるが、稀に特発的に生じることが知られている。2型糖尿病は、インスリン分泌低下と感受性低下の二つを原因とする糖尿病である。2型糖尿病は、生活習慣病に分類されているが、その原因は完全に明らかにされているわけではない。遺伝的に糖尿病になりやすい体質(遺伝因子)の人が、糖尿病になりやすいような生活習慣を送ること(環境因子)によって2型糖尿病が発症すると考えられている。
【0003】
インスリンは、主として血糖を抑制する作用を有しており、骨格筋におけるグルコース、アミノ酸、カリウムの取り込み促進とタンパク質合成の促進、肝臓における糖新生の抑制、グリコーゲンの合成促進・分解抑制、脂肪組織における糖の取り込みと利用促進、脂肪の合成促進・分解抑制などの作用により血糖を抑制し、グリコーゲンや脂肪などの各種貯蔵物質の新生を促進する作用を有する。健常者では、インスリンの作用により、血中の血糖は常に一定範囲に保たれている。血糖は、エネルギー源として重要である反面、高濃度のグルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さのため生体内のタンパク質と反応して糖化反応を起こし、生体に有害な作用をもたらす。そのため、インスリン恒常性における異常により生じる過剰な血糖は、神経障害や微小血管障害を引き起こし、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などを発症する。最終的には、失明、皮膚潰瘍形成、四肢切断、心臓病、及び腎障害を含む多数の合併症に結びつくことになる。
【0004】
糖尿病の診断には、通常タンパク質バイオマーカーであるヘモグロビンA1C(HbA1C)が使用される。ヘモグロビンは、血中での寿命が長いため、HbA1Cは、血糖管理の長期的尺度としての役目を果たしている。一方で、HbA1Cは、患者の糖尿病治療の効果を確認するためにも使用されているが、治療を受けた患者においては矛盾する結果が生じることもあった。したがって、糖尿病の判定には、通常、HbA1Cと空腹時血糖値とをそれぞれマーカーとして併用し、両方のマーカーがともに糖尿病を指し示す場合は、糖尿病と診断する一方で、一方のみのマーカーが糖尿病を指し示す場合には、さらに糖尿病の典型的症状を観察することで糖尿病の診断が行われている。したがって、依然として最終的には、診断する医師の解釈及び判断に依存することになる。また、HbA1Cは、糖尿病治療を受けた患者における短期の治療効果の判定には適しておらず、1,5−アンドロ−D−グリシトールやグルコアルブミンなどの短期糖尿病マーカーを併用することで治療効果の判定や経過観察が行われている。
【0005】
したがって、医師の解釈や判断を排除して、診断を可能にする糖尿病マーカーの開発が望まれており、生体試料中のApoCIIIタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、OLMF4ポリペプチドなどが新規の糖尿病マーカーとして発見されている(特許文献1〜3)が、HbA1Cを代替して使用できるような満足行くマーカーは未だ得られていない。
【0006】
糖尿病の合併症として、糖尿病性腎症が知られている。糖尿病により血糖値が高い状態が続くと、腎臓の糸球体が損傷され、腎機能が低下する。慢性腎不全の原因の一つとして糖尿病が挙げられ、糖尿病合併腎不全患者と、糖尿病非合併腎不全患者とは治療方針がことなるため、腎不全患者における糖尿病の合併の診断をより簡便かつ精度高く行うことが必要とされている。腎不全患者においては尿アルブミン値又は尿アルブミン/クレアチニン比が糖尿病合併のマーカーとして知られているが、定量性、感度、コスト等の点で問題がある。
【0007】
従来、哺乳類の生体には存在しないと考えられていたD-アミノ酸が、検出技術の発達に伴い(特許文献4)、様々な組織において存在することが明らかにされてきており、何らかの生理機能を担うことが予測されていた。体液中の幾つかのD−アミノ酸は、L−アミノ酸とは独立して変動することが分かっており、疾病の種類に応じて変動することが示された(特許文献5)。特許文献5では、糖尿病患者におけるD−アミノ酸及びL−アミノ酸の変動が調べられていたが、これらの40種のキラルアミノ酸のうち、D−アラニン、L−システイン及びL−グルタミン酸が、糖尿病患者で変動することが確認されていた一方で、他のアミノ酸での変動は確認できていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1-A】
図1−Aは、D−Aspによる糖尿病の診断の感度・特異度についてのROC曲線を示す。
【
図1-B】
図1−Bは、D−Proによる糖尿病の診断の感度・特異度についてのROC曲線を示す。
【
図1-C】
図1−Cは、L−Glnによる糖尿病の診断の感度・特異度についてのROC曲線を示す。
【
図1-D】
図1−Dは、L−Ileによる糖尿病の診断の感度・特異度についてのROC曲線を示す。
【
図2-A】
図2−Aは、糖尿病を患う対象と、糖尿病を患わない対象におけるD−Aspの量を示す。
【
図2-B】
図2−Bは、糖尿病を患う対象と、糖尿病を患わない対象におけるD−Proの量を示す。
【
図2-C】
図2−Cは、糖尿病を患う対象と、糖尿病を患わない対象におけるL−Glnの量を示す。
【
図2-D】
図2−Dは、糖尿病を患う対象と、糖尿病を患わない対象におけるL−Ileの量を示す。
【
図3-A】
図3−Aは、年齢とD−Ala値との相関を示す図(1)及びROC曲線を示す図(2)、さらに年齢とD/L%値との間のROC曲線を示す図(3)である。
【
図3-B】
図3−Bは、年齢とD−Pro値との相関を示す図(1)及びROC曲線を示す図(2)、さらに年齢とD/L%値との間のROC曲線を示す図(3)である。
【
図3-C】
図3−Cは、年齢とD−アロ−Ile値との相関を示す図(1)及びROC曲線を示す図(2)である。
【
図3-D】
図3−Dは、年齢とD−Leu値との相関を示す図(1)及びROC曲線を示す図(2)である。
【
図3-E】
図3−Eは、年齢とL−Ile値との相関を示す図(1)及びROC曲線を示す図(2)である。
【
図3-F】
図3−Fは、年齢とL−Ser値との相関を示す図(1)及びROC曲線を示す図(2)である。
【
図4-A】
図4−Aは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Asn値、(2)D−Asn値、及び(3)D/L−Asn値との相関を示す図である。
【
図4-B】
図4−Bは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Ser値、(2)D−Ser値、及び(3)D/L−Ser値との相関を示す図である。
【
図4-C】
図4−Cは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Asp値、(2)D−Asp値、及び(3)D/L−Asp値との相関を示す図である。
【
図4-D】
図4−Dは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Ala値、(2)D−Ala値、及び(3)D/L−Ala値との相関を示す図である。
【
図4-E】
図4−Eは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Ile値、及び(2)D−アロ−Ile値との相関を示す図である。
【
図4-F】
図4−Fは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Phe値、(2)D−Phe値、及び(3)D/L−Phe値との相関を示す図である。
【
図4-G】
図4−Gは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Lys値、(2)D−Lys値、及び(3)D/L−Lys値との相関を示す図である。
【
図4-H】
図4−Hは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Thr値、及び(2)D−アロ−Thr値との相関を示す図である。
【
図4-I】
図4−Iは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Pro値、(2)D−Pro値、及び(3)D/L−Pro値との相関を示す図である。
【
図4-J】
図4−Jは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Leu値、(2)D−Leu値、及び(3)D/L−Leu値との相関を示す図である。
【
図4-K】
図4−Kは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Trp値との相関を示す図である。
【
図4-L】
図4−Lは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−Tyr値との相関を示す図である。
【
図4-M】
図4−Mは、推定糸球体濾過量(eGFR)と(1)L−His値、(2)D−His値、及び(3)D/L−His値との相関を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の分析システムの構成図である。
【
図6】
図6は、糖尿病合併を決定するための動作の例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、腎障害及び糖尿病合併を決定するための動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、対象において、糖尿病を判定するための血液試料の分析方法であって、キラルアミノ酸のうちの少なくとも1種類のアミノ酸の量を測定する工程、及び当該少なくとも1種類のアミノ酸の測定量を元に、糖尿病を判定する工程を含む、分析方法に関する。本発明の分析方法によって、糖尿病の病態を判断できることから、別の態様では、本発明は診断方法ということもできる。
【0018】
キラルアミノ酸の量を測定する工程は、目的のキラルアミノ酸のみを測定してもよいし、他のキラルアミノ酸とまとめて測定することもできる。また、キラルアミノ酸は、他の疾患の診断マーカーになりうる。したがって、複数の疾患を一度に解析する観点から、血液試料中の20種のタンパク質構成アミノ酸について、D体及びL体をまとめて測定することが好ましい。キラルアミノ酸の量を測定する工程の前に、血液試料を取得する工程、取得された血液試料を処理する工程が行われてもよい。血液試料は、血液、血清、血漿など血液に由来する試料であれば任意の試料であってよい。
【0019】
糖尿病を判定する工程は、特定のキラルアミノ酸量がカットオフ値と比較することで糖尿病の罹患の有無を判定することができる。カットオフ値を高値側又は低値側のどちらに超えるかについては、使用するキラルアミノ酸が、糖尿病を罹患する場合に増加するのか減少するのかに応じて適宜選択できる。例えば、D−Asp、D−Pro、及びL−Glnの場合、糖尿病患者では減少するため、低値群に属した場合に、糖尿病を罹患すると判定でき、高値群に属した場合に、糖尿病を罹患しないと判定できる。一方で、L−Ileの場合、糖尿病患者では増加するため、高値群に属した場合に、糖尿病を罹患すると判定でき、低値群に属した場合に、糖尿病を罹患しないと判定できる。キラルアミノ酸の測定量のみから判定を行ってもよいし、キラルアミノ酸の測定量を、任意の変数や定数で加工した指標値を用いてもよい。したがって、測定量には、測定量から求めた指標値も含まれるものとする。本発明では、指標値とは、アミノ酸の測定量であってもよいし、測定量に基づいて計算されてもよく、例えば対応する異性体(すなわち、D体ならL体、L体ならD体)との濃度比、割合等であってもよい。変数としては、対応する異性体の量の他に、年齢、体重、性別、BMIなど、キラルアミノ酸量に影響しうる任意の変数を利用することができる。
【0020】
糖尿病の判定は、具体的に、血液試料中の少なくとも1のキラルアミノ酸の量を、カットオフ値に基づき2又はそれ以上の群に分類し、その分類に応じて糖尿病を決定することができる。本発明者らにより、血液中の特定のキラルアミノ酸の量が高値又は低値になると、糖尿病を発症していることが見いだされていることから、高値群又は低値群に属する場合に、糖尿病を患っていると判定できる。したがって、判定は、医師ではない医療補助者などにより行われてもよいし、分析機関などが行うこともできる。したがって、本発明の分析方法は、診断の予備的方法又は補助方法と言うこともできる。
【0021】
本発明の別の態様では、本発明の分析方法は、糖尿病を判定する工程に代わり、糖尿病を判定するための病態指標値として算出する工程を含んでもよい。この方法で分析の結果算出される病態指標値を、予め決定されたカットオフ値と比較することで、糖尿病を発症していることを判定することができる。
【0022】
本発明において、糖尿病の判定のために用いる特定のキラルアミノ酸とは、タンパク質構成アミノ酸のD体又はL体のことをいう。D体とL体は体内の動態や代謝が異なるため、D体とL体を識別することにより高い精度で予後予測が可能となる。タンパク質構成アミノ酸としては、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びバリン(Val)が挙げられる。このうち、より高い精度で糖尿病を判定する観点から、D−アスパラギン酸(D−Asp)、D−プロリン(D−Pro)、L−グルタミン(L−Gln)、及びL−イソロイシン(L−Ile)が好ましい。さらに好ましくは、D−アスパラギン酸(D−Asp)、D−プロリン(D−Pro)、L−グルタミン(L−Gln)、及びL−イソロイシン(L−Ile)からなる群から選ばれる少なくとも1のアミノ酸、又はそれらの任意の組合せが使用される。
【0023】
糖尿病の判定のための境界は、コホートを解析し、統計処理することで任意に決定することができる。統計処理の手法は、当業者に周知のものを使用すればよく、例えばROC解析、t検定などが用いられてもよいし、健常者群又は糖尿病患者群の平均値、中央値、Xパーセンタイル値を使用することもできる。ここでXは任意の数値を選択することができ、3、5、10、15、20、30、40、60、70、80、85、90、95、97を適宜使用することができる。カットオフ値は1つであってもよいし、疾患の重篤度に応じて病態を分類することもできる。コホートの種類によって、境界を定めるカットオフ値は異なるが、一例として、本願実施例で使用したコホートをROC解析により、糖尿病を決定するためのカットオフ値は、D−アスパラギン酸の場合0.1μg/ml、D−プロリンの場合2.5μg/ml、L−グルタミンの場合665μg/ml、及びL−イソロイシンの場合49.3μg/mlを使用することができる。対象の血中D−アミノ酸濃度が、これらのカットオフ値より高い又は低い場合に、糖尿病を発症していると認定することができる。しかしながら、使用されるカットオフ値を、上記カットオフ値に限定されることを意図するものではない。
【0024】
対象とは、任意の対象であってよく、例えば健常者、糖尿病を患う可能性のある者について、本発明の分析方法が行われうる。ある態様では、健康診断において、本発明を分析方法が使用されるため、対象には任意の対象が含まれてよい。
【0025】
本発明の別の態様では、対象は、腎障害を患う対象である。この場合、本発明において糖尿病の判定は、腎障害を患うと判定された患者において、糖尿病を合併症として有するか否かの判定が可能になる。したがって、一の態様では、本発明における対象とは、腎障害と診断又は判定された患者を指す。腎障害は、腎機能の低下が見られる状態をいい、急性腎不全と慢性腎不全に大別される。腎機能の低下は、糸球体濾過量(GFR)の低下により決定されるが、クレアチニン値から、年齢、性別などの変数を元に算出される推定糸球体濾過量(eGFR)により決定されてもよい。さらなる別の態様では腎機能の低下を示す腎障害マーカー、例えば血清クレアチニン濃度、KIM−1やNGALなどにより決定されてもよい。さらに別の態様では、腎障害と判定された患者を、キラルアミノ酸のうち、腎障害の判定に用いる少なくとも1のアミノ酸の量を測定し、その測定量に基づいて前もって又は同時に判定することもできる。
【0026】
したがって、本発明のさらなる態様では、任意の対象において、腎障害と判定するとともに、糖尿病合併を判定することを目的とした血液試料の分析方法にも関する。この分析方法では、キラルアミノ酸のうち、腎障害の判定に用いる少なくとも1のアミノ酸と、糖尿病の合併の判定に用いる少なくとも1のアミノ酸の量を測定する工程、及び当該腎障害の判定に用いる少なくとも1のアミノ酸の測定量を元に、腎障害を判定する工程、及び腎障害と判定された場合に、当該糖尿病合併の判定に用いる少なくとも1のアミノ酸の測定量を元に、糖尿病合併を判定する工程を含む。
【0027】
糖尿病を判定するためには、従前空腹時血糖値やHbA1Cなどの既存の糖尿病の診断マーカーを用いるか、腎障害が診断された患者において尿アルブミン値又は尿アルブミン/クレアチニン比を測定する必要があった。したがって、腎障害を患う患者における糖尿病の併発を診断するためには、腎障害マーカーと糖尿病マーカーをそれぞれ解析する必要があったところ、本発明を用いれば、すでに取得されたキラルアミノ酸量を元に、腎障害を判定したうえで、糖尿病合併を判定することが可能となる。
【0028】
腎障害の判定は、血液試料中の少なくとも1のキラルアミノ酸の量に基づき行われる。
本発明者らにより、血液中のD−アスパラギン、D−セリン、D−アスパラギン酸、D−アロ−スレオニン、D−アラニン、D−プロリン、D−ロイシン、L−ヒスチジン、L−セリン、L−アスパラギン酸、L−アラニン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−リジン、及びL−チロシンからなる群から選ばれる少なくとも1のキラルアミノ酸の量が、eGFR値と相関することが見出されている(
図4A−L)ことから、これらのキラルアミノ酸量を用いて、腎障害を判別できる。より具体的には、腎障害は、血液試料中の少なくとも1のキラルアミノ酸の量を、予め分類された2又はそれ以上の群に当てはめることにより腎障害を判定でき、さらなる態様では腎障害の重篤度を判定することができる。
【0029】
腎障害の判定のための境界も同様にコホートを解析し、統計処理することで任意に決定することができる。統計処理の手法は、当業者に周知のものを使用すればよく、例えばROC解析、t検定などが用いられてもよいし、健常者群又は患者群の平均値、中央値、Xパーセンタイル値を使用することもできる。ここでXは任意の数値を選択することができ、3、5、10、15、20、30、40、60、70、80、85、90、95、97を適宜使用することができる。カットオフ値は1つであってもよいし、疾患の重篤度に応じて病態を分類することもできる。腎障害の判定に用いられるキラルアミノ酸としては、D−アスパラギン、D−セリン、D−アスパラギン酸、D−アロ−スレオニン、D−アラニン、D−プロリン、D−ロイシン、L−ヒスチジン、L−セリン、L−アスパラギン酸、L−アラニン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−リジン、及びL−チロシンが挙げられ、それぞれのカットオフ値はコホート解析を行い任意に決定することができる。対象の血中D−アミノ酸濃度が、カットオフ値より高い場合に、腎障害と判定することができる。
【0030】
本発明のさらなる態様では、本発明は、血液試料中の少なくとも1のキラルアミノ酸の量に基づき、eGFR値を決定する方法に関する。この方法では、血液試料中の少なくとも1のキラルアミノ酸の量を測定する工程、及び当該少なくとも1のキラルアミノ酸の測定値に基づきeGFR値を決定する工程を含む。一の態様では、キラルアミノ酸の測定値に基づきeGFR値を決定する工程は、予め決定された回帰曲線に基づいて決定することができる。さらに別の態様では、キラルアミノ酸の測定値に基づきeGFR値を決定する工程は、予めコホートをキラルアミノ酸の量に応じて複数の群に分け、当該群とeGFR値又はその範囲とが予め関連づけておき、測定値を当該群に分類すればよい。このようなキラルアミノ酸としては、D−アスパラギン、D−セリン、D−アスパラギン酸、D−アロ−スレオニン、D−アラニン、D−プロリン、D−ロイシン、L−ヒスチジン、L−セリン、L−アスパラギン酸、L−アラニン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−リジン、及びL−チロシンからなる群から選ばれる少なくとも1のアミノ酸を使用することができる。
【0031】
キラルアミノ酸は、その種類に応じて腎障害マーカーと糖尿病マーカーにもなりうることから、キラルアミノ酸を網羅的に測定しておくことで、腎障害を判定したうえで、糖尿病の合併症を判定することができる。
【0032】
腎障害患者において増加又は減少が見られないキラルアミノ酸が、腎障害患者において糖尿病合併を判定する上で好ましく、D−アスパラギン酸(D−Asp)、L−グルタミン(L−Gln)、及びL−イソロイシン(L−Ile)からなる群から選ばれる少なくとも1のアミノ酸、又はそれらの任意の組合せが使用される。
【0033】
試料中のキラルアミノ酸量の測定は、当業者に周知ないかなる方法を用いて実施してもよい。例えば、予めo−フタルアルデヒド(OPA)、N−tert−ブチルオキシカルボニル−L−システイン(Boc−L−Cys)その他の修飾試薬で立体異性特異的にD−及びL−アミノ酸を誘導体化し、その後、ODS−80TsQAのような分析カラムを用いて100mMの酢酸塩緩衝液(pH6.0)とアセトニトリルの混液をグラジエント溶離して分離する方法により、アミノ酸のD−体及びL−体の同時測定に用いることができる。また、予め4−フルオロ−7−ニトロ−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(NBD−F)のような蛍光試薬でD−及びL−アミノ酸を誘導体化し、その後、ODS−80TsQA、Mightysil RP−18GP等のような分析カラムを用いて立体異性非特異的に各アミノ酸を分離した後、Pirkle型キラル固定相カラム(例えばSumichiral OA−2500S又はR)を用いて光学分割する方法が、タンパク質を構成するアミノ酸の微量測定に用いることができる(浜瀬健司及び財津潔、分析化学、53巻、677−690(2004))。本明細書における光学分割カラム系は、少なくとも光学分割カラムを用いる分離分析系をいい、光学分割カラム以外の分析カラムによる分離分析を含む場合がある。より具体的に、光学異性体を有する成分を含む試料を、移動相としての第一の液体と共に、固定相としての第一のカラム充填剤に通じて、前記試料の前記成分を分離するステップ、前記試料の前記成分の各々をマルチループユニットにおいて個別に保持するステップ、前記マルチループユニットにおいて個別に保持された前記試料の前記成分の各々を、移動相としての第二の液体と共に、固定相としての光学活性中心を有する第二のカラム充填剤に流路を通じて供給し、前記試料の成分の各々に含まれる前記光学異性体を分割するステップ、及び前記試料の成分の各々に含まれる前記光学異性体を検出するステップを含むことを特徴とする光学異性体の分析方法を用いることにより、試料中のD-/L-アミノ酸濃度を測定することができる(特許第4291628号)。代替的には、アミノ酸の光学異性体を識別するモノクローナル抗体、例えばD−ロイシン、D−アスパラギン酸等に特異的に結合するモノクローナル抗体を用いる免疫学的手法によってD−アミノ酸を定量することができる(特開2009-184981明細書)。
【0034】
本発明では、血液試料中のキラルアミノ酸量を単独で糖尿病の判定に用いてもよいし、糖尿病の判定に用いることができる他の1以上のキラルアミノ酸量と組み合わせて用いることもできる。また、本発明の分析方法は、さらに糖尿病に関する変数を測定する工程を含んでもよく、キラルアミノ酸量と、かかる変数とを組み合わせて、糖尿病の判定に使用することができる。このような変数として、糖尿病の病歴、年齢、性別、空腹時血糖の有無が挙げられ、更には既知の糖尿病マーカーや糖尿病合併マーカーも挙げられる。このような既知のマーカーとしては、HbA1C、空腹時血糖値、1,5−アンドロ−D−グリシトール、グルコアルブミン、尿アルブミン値又は尿アルブミン/クレアチニン比などが挙げられる。
【0035】
本発明の分析方法で糖尿病又は糖尿病と腎障害の合併を判定した場合に、糖尿病及び/又は糖尿病性腎症に適した治療が選択して行われる。以下のものに限定されるものではないが、例えば、血糖値管理、生活習慣改善などの治療をさらに行うことが必要となる。血糖値管理を目的として、インスリン抵抗性改善、インスリン分泌促進、糖吸収排泄調節を目的として、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、スルホニル尿素薬、インスリン分泌促進薬、DPP4阻害薬、α−グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬などの投薬治療が行われる。生活習慣の改善としては、例えば禁煙やBMI値の低下のための運動、食事制限が指導される。これらの治療方針は、キラルアミノ酸量に基づいて、医師との問診を受けた上で決定される。したがって、本発明の別の態様では、本発明の分析方法を実施し、さらに糖尿病合併している腎障害の治療行うことを含む、糖尿病合併腎障害の治療方法に関する。治療方法の詳細については、例えば非特許文献1や非特許文献2を参照することで、適切に選択することができる。これらの文献は、本明細書中に援用される。
【0036】
本発明のさらなる態様では、キラルアミノ酸を用いて、対象における推定年齢の決定方法に関する。この方法は、血液試料中のD−アラニン、D−ロイシン、D−アロ−イソロイシン、D−プロリン、L−セリン、及びL−イソロイシンからなる群から選ばれるアミノ酸のうちの少なくとも1種類のアミノ酸の量を測定する工程、及び前記少なくとも1種類のアミノ酸の測定量と、予め決定された年齢とD−アミノ酸値との相関曲線に基づき年齢を決定する工程を含む。この方法は、血中のキラルアミノ酸のうちの幾つかが、年齢と相関性を有することを見いだしたことに基づく(
図3A〜F)。予め、任意のコホートにおいて年齢と、年齢判定用のキラルアミノ酸との間で回帰曲線やカットオフ値を取得しておき、測定値と比較することで、年齢判定用のキラルアミノ酸値に基づき、推定年齢を決定することができる。かかる方法によると、意識不明者や認知症患者において年齢の推定が可能となる。
【0037】
カットオフ値としては、例えば70歳超の対象を判別できるカットオフ値としては、本発明のコホートを用いて計算した場合に、D−アラニン(D−Ala)の場合4.7μg/ml以上であり、D-プロリン(D−Pro)の場合2.5μg/ml以上であり、D−アロイソロイシン(D−アロ−Ile)の場合0.1μg/ml以上である、D−ロイシン(D−Leu)の場合0.50以上であり、L−セリン(L−Ser)の場合134.6以下であり、L−イソロイシン(L−Ile)の場合58.6以下を選択することができる。年齢に対するカットオフ値が適宜選択することができる。年齢に対するカットオフ値が適宜選択することができる。
【0038】
本発明の試料分析システム及びプログラムは、本発明の方法を実施するように構成される。
図5は、本発明の試料分析システムの構成図である。このような試料分析システム10は、記憶部11と、入力部12、分析測定部13と、データ処理部14と、出力部15とを含んでおり、対象の血液の試料を分析し、病態情報を出力することができる。より具体的に、本発明の試料分析システム10において、
記憶部11は、入力部12から入力された糖尿病を判別するための、血中キラルアミノ酸量のカットオフ値と糖尿病の病態情報を記憶し、
分析測定部13は、前記対象の血液試料中のタンパク質構成アミノ酸のうちの少なくとも1の糖尿病を判別するためのキラルアミノ酸を分離して定量し、
データ処理部14は、前記少なくとも1のキラルアミノ酸の量の測定値を、記憶部11に記憶されたカットオフ値と比較することにより、対象の糖尿病の情報を決定し、
出力部15が対象の糖尿病についての病態情報を出力することができる。
【0039】
本発明の試料分析システム及びプログラムにおいて、さらに
記憶部11は、入力部12から入力された腎障害を判別するための血中キラルアミノ酸量のカットオフ値と腎障害の情報を記憶し、
分析測定部13は、前記対象の血液試料中のタンパク質構成アミノ酸のうちの少なくとも1の腎障害を判定するためのキラルアミノ酸を分離して定量し、
データ処理部14は、前記少なくとも1の腎障害を判別するためのキラルアミノ酸の量の測定値を、記憶部11に記憶された腎障害を判別するためのキラルアミノ酸のカットオフ値と比較することにより、対象の腎障害の情報を決定すること
を含んでもよく、これにより出力部15が、対象の腎障害の情報と共に糖尿病についての病態情報を出力することができる。
【0040】
記憶部11は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置などを有する。記憶部11は、分析測定部で測定したデータ、入力部12から入力されたデータ及び指示、データ処理部14で行った演算処理結果等の他、情報処理装置の各種処理に用いられるコンピュータプログラム、データベースなどを記憶する。コンピュータプログラムは、例えばCD−ROM、DVD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。コンピュータプログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部にインストールされる。
【0041】
入力部12は、インターフェイス等であり、キーボード、マウス等の操作部も含む。これにより、入力部は、分析測定部13で測定したデータ、データ処理部14で行う演算処理の指示等を入力することができる。また、入力部12は、例えば分析測定部13が外部にある場合は、操作部とは別に、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を介して入力することができるインターフェイス部を含んでもよい。
【0042】
分析測定部13は、血液試料中のキラルアミノ酸の量の測定工程を行う。したがって、分析測定部13は、キラルアミノ酸の分離及び測定を可能にする構成を有する。アミノ酸は、1つずつ分析されてもよいが、一部又は全ての種類のアミノ酸についてまとめて分析することができる。分析測定部13は、以下のものに限定されることを意図するものではないが、例えば試料導入部、光学分割カラム、検出部を備えた高速液体クロマトグラフィーシステム(HPLC)であってもよい。分析測定部13は、試料分析システム10とは別に構成されていてもよく、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を用いて入力部12を介して入力されてもよい。
【0043】
データ処理部14は、測定されたキラルアミノ酸の量を、記憶部11に記憶されたカットオフ値と比較することにより、糖尿病の合併を判定するように構成される。データ処理部14は、記憶部11に記憶しているプログラムに従って、分析測定部13で測定され記憶部11に記憶されたデータに対して、各種の演算処理を実行する。演算処理は、データ処理部14に含まれるCPUによりおこなわれる。このCPUは、分析測定部13、入力部12、記憶部11、及び出力部15を制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェアなどで構成されてもよい。
【0044】
出力部15は、データ処理部14で演算処理を行った結果である病態指標値及び/又は病態情報を出力するように構成さる。データ処理部14における演算処理結果は、直接出力部15に出力されてもよいし、いったん記憶部11に記憶された上で、必要に応じて出力部15に出力されてもよい。出力部15は、演算処理の結果を直接表示する液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の出力手段であってもよいし、外部記憶装置への出力又はネットワークを介して出力するためのインターフェイス部であってもよい。
【0045】
図6は、本発明のプログラムによる糖尿病を決定するための動作の例を示すフローチャートである。
具体的に、本発明のプログラムは、入力部12、出力部15、データ処理部14、記憶部11とを含む情報処理装置に糖尿病の情報を決定させるプログラムである。本発明のプログラムは、以下の:
入力部12から入力された少なくとも1のキラルアミノ酸の予め決定されたカットオフ値と糖尿病の情報を記憶部11に記憶させ;
入力部12から入力された少なくとも1のキラルアミノ酸の量の測定値を記憶部11に記憶させ、
データー処理部14において、記憶部11に記憶されたカットオフ値と、記憶部11に記憶させた測定値とを比較させて、糖尿病の情報を決定し;そして
糖尿病の情報を出力部15に出力させる
ことを前記情報処理装置に実行させるための指令を含む。本発明のプログラムは、記憶媒体に格納されてもよいし、インターネット又はLAN等の電気通信回線を介して提供されてもよい。
【0046】
図7は、本発明のプログラムによる腎障害の病態情報とともに、糖尿病合併を決定するための動作の例を示すフローチャートである。
具体的に、本発明のプログラムは、入力部12、出力部15、データ処理部14、記憶部11とを含む情報処理装置に糖尿病合併の情報を決定させるプログラムである。本発明のプログラムは、以下の:
入力部12から入力された腎障害判定のための少なくとも1のキラルアミノ酸及び糖尿病の判定のための少なくとも1のキラルアミノ酸の予め決定されたカットオフ値をそれぞれ腎障害及び糖尿病合併の情報と併せて記憶させ;
入力部12から入力された腎障害判定のための少なくとも1のキラルアミノ酸及び糖尿病判定のための少なくとも1のキラルアミノ酸の測定値をそれぞれ記憶部11に記憶させ、
データー処理部14において、記憶部11に記憶されたカットオフ値と、記憶部11に記憶させた測定値とをそれぞれ比較させて、腎障害及び糖尿病合併の情報を決定し;
腎障害及び糖尿病の情報を出力部15に出力させる
ことを前記情報処理装置に実行させるための指令を含む。本発明のプログラムは、記憶媒体に格納されてもよいし、インターネット又はLAN等の電気通信回線を介して提供されてもよい。
【0047】
本発明の別の態様では、本発明のシステムは、推定年齢の決定システムであってもよい。当該システムは、記憶部、入力部、データ処理部、及び出力部を含み、以下の:
入力部から、年齢を判定するための血中キラルアミノ酸のうちの少なくとも1種類のアミノ酸の量と、年齢との回帰曲線又はカットオフ値が入力され、記憶部に記憶し、
入力部から、対象の血液試料中のキラルアミノ酸のうちの少なくとも1種類のアミノ酸の量の測定値が入力され、記憶部に記憶し、
データ処理部が、記憶された前記アミノ酸の量の測定値と、前記回帰曲線又はカットオフ値とに基づいて、対象の推定年齢を決定し;
推定年齢の出力部に出力する
ことができる。
【0048】
本発明のさらなる態様では、本発明は、本発明のeGFR値を決定する方法を実行するeGFR値の決定システムにも関する。このシステムは、記憶部、入力部、データ処理部、及び出力部を含み、以下の:
入力部から、eGFR値を判定するための血中キラルアミノ酸のうちの少なくとも1種類のアミノ酸の量と、eGFR値との回帰曲線又はカットオフ値が入力され、記憶部に記憶し、
入力部から、対象の血液試料中のキラルアミノ酸のうちの少なくとも1種類のアミノ酸の量の測定値が入力され、記憶部に記憶し、
データ処理部が、記憶された前記アミノ酸の量の測定値と、前記回帰曲線又はカットオフ値とに基づいて、対象のeGFR値を決定し;
eGFR値を出力部に出力する
ことができる。
【0049】
情報処理装置が、分析測定部13を備える場合、入力部12から少なくとも1のキラルアミノ酸の量の値を入力させる代わりに、分析測定部13が、血液試料から当該値を測定し記憶部11に記憶させることを情報処理装置に実行させるための指令を含んでもよい。
【0050】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0051】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例】
【0052】
集団及びサンプルの分析
本発明者らは、2005年8月〜2009年1月にわたり、りんくう総合医療センター(Rinku General Medical Centre)の第一腎臓内科から、透析を受けていないCKDステージ3、4及び5を患う118名の継続患者を、前向き調査に登録した。一晩の絶食後に、患者からベースライン血液試料を取得し、プラスチック製チューブに入れて血漿を調製した。不十分な血液試料しか取得できなかった患者を先んじて取り除いた。
本試験は、りんくう総合医療センターの倫理委員会により承認された試験であり、そしてヘルシンキ宣言に基づいて行われた。
【0053】
ベースラインの包含基準は、年齢90歳未満、悪性腫瘍についての合併症無し、及び感染症への感染無しとした。不完全なベースラインデータしか得られなかった患者(n=2)又は不十分な量の血漿試料しか取得できなかった患者(n=4)、及び登録後1月以内に腎代替療法を開始した患者(n=4)を取り除いた。本試験は、りんくう総合医療センターの施設内倫理委員会及び大阪総合医療センターにより承認され、そして全ての患者に対して、本試験に参加することについて記入式のインフォームドコンセントを得た。腎機能は、日本人に対して新たに開発された等式に基づいて推定糸球体濾過量(eGFR)を使用して、本医院を最初に受診した際のベースラインデータから評価した。
式は以下の通りである:
【数1】
{式中、年齢の単位は年であり、SCrの単位はmg/dLであり、そして糸球体濾過量(GFR)の単位は、mL/min/1.73m
2体表面である}。
女性患者には、数式の計算値に補正係数0.739をかけた。
【0054】
血清クレアチニンを、同施設内の酵素方法により計測した。ランダムな尿試料(10ml)をベースライン決定時に回収して、尿タンパクとクレアチニンの比率を測定した。ベースラインにおける他の変数は、年齢、性別、国際疾病分類第10版(ICD10)のコードE10〜E14に従って定義される糖尿病、収縮期血圧、拡張期血圧、ヘモグロビン、及びレニン-アンギオテンシ系阻害剤、βブロッカー、及びカルシウムブロッカーの使用であった。患者のベースライン特徴は以下のとおりである:
【表1】
【0055】
本試験において「腎臓アウトカム(kidney outcome)」として定義される最初のエンドポイントは、腎代替療法を必要とする末期腎臓病(ESKD)と、全死因死亡の合計とした。患者は、外来で通常のフォローアップケアを受けた。データーを、2011年末にソース文書として回収した。ベースライン及びフォローアップデータを、病院の医療記録及び退院サマリー、外来記録、初診及び透析ケア医師との面会、及び死亡診断書から回収した。エンドポイントは、少なくとも2名の医師により確認された。患者のフォローアップは、正確に利用できた。なぜなら(i)本施設が、大阪府の南部の中央病院であり、そしてこの地方に他の中央病院が無いこと、及び(ii)初診及び透析ケアの医師との地域的パートナーシップが良好であったからである。
【0056】
サンプル調製
ヒト血漿からのサンプル調製は、Journal of Chromatography. B, Analytical technologies in the biomedical and life sciences 966, 187-192 (2014)の記載に従い改変して行った。簡潔に記載すると、20倍量のメタノールを血漿に加え、そして一定量(メタノールホモジネートから得た10μlの上清)を、褐色管にとり、そしてNBD誘導化した(0.5μlの血漿を反応に用いた)。溶液を減圧下で乾燥し、20μlの200mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)及び5μlの蛍光標識試薬(40mMの4-フルオロ-7-ニトロ2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD−F)をいれた無水MeCN)を加え、次に60℃で2分間加熱した。0.1%TFA水溶液(75μl)を加え、そして2μlの反応混合液を2D-HPLCに供した。
【0057】
2D-HPLCによるアミノ酸エナンチオマーの測定
アミノ酸のエナンチオマーを、J Chromatogr A 1217, 1056-1062 (2010)やJournal of chromatography. B, Analytical technologies in the biomedical and life sciences 877, 2506-2512 (2009)に記載される通りに、マイクロ2D-HPLCプラットフォームを用いて定量した。簡潔に記載すると、アミノ酸のNBD-誘導体を、逆相カラム(モノリシックODSカラム、0.53mmi.d.×100mm;資生堂)を用い、MeCN、THF及びTFAを含む水性移動相を用いて勾配溶出した。D体及びL体を分離して測定するために、標的アミノ酸の画分をマルチループバルブを用いて自動的に回収し、そしてエナンチオ選択カラム(KSAACSP−001S又はSumichiral oA−3200, 1.5mmi.e. ×250mm;自己充填、材料を資生堂及びSumika Chemical Analysis Serviceから取得した))に供した。4種の立体異性体(L体、D体、L-アロ体、D-アロ体)を有するIleやThrの計測には、L体及びD体と、ジアステレオ異性体(L-アロ体及びDアロ体)とを第一次元の逆相モードにより分離した(これらのジアステレオ異性体は、逆相モードで分離される)。次にそのエナンチオマー(LとD、L−アロとD−アロ)をエナンチオ選択カラムにより二次元で分離した。移動相は、クエン酸又はギ酸を含むMeOH-MeCNの混合溶液であり、そしてNBD-アミノ酸の蛍光を、470nmで励起し、530nmで検出した。全ての定量データを蛍光検出により取得した。HPLC−MS/MSを用いて、実際の生物的マトリクス中のD-アミノ酸の存在を確認した。
【0058】
統計処理
糖尿病の判定は、International Classification of Diseases, Tenth Revision (ICD - 10) codes E10 - E14 に基づき、二人の医師によって判定された。分離した各キラルアミノ酸量を、糖尿病患者及び糖尿病を患わない患者とで分けたところ、D−Asp、D−Pro、及びL−Gleで有意に低値を示し、L−Ileで有意に高値を示した(
図2A−2D)。次にこれらの各キラルアミノ酸の糖尿病の診断特異性を調べるため、本コホートについてROC曲線を描いた(
図1A−D)。かかるROC曲線に基づき糖尿病判定のためのカットオフ値を求めたところ、D−アスパラギン酸の場合0.1μg/ml、D−プロリンの場合2.5μg/ml、L−グルタミンの場合665μg/ml、及びL−イソロイシンの場合49.3μg/mlであった。
【0059】
次に分離した各キラルアミノ酸量と、年齢との相関を調べた。年齢と各キラルアミノ酸量とを散布図に表し、相関係数を算出したところ、D−Ala、D−Pro、D−アロ−Ile、D−Leu、L−Ile、及びL−Serにおいて、その血液試料中の量と年齢との相関が得られた(p<0.05)(
図3A−F(1))。次に70歳以上の群と、70歳未満の群とに患者を分け、これらの各キラルアミノ酸と年齢の決定特異性調べるためROC曲線を描いた(
図3A−F(2))。また、D−Ala及びD−Proについては、対応する異性体(すなわちL−Ala及びL−Pro)との割合、D/L%を算出し、D/L%についても同群における年齢の決定特異性調べるためROC曲線を描いた(
図3A−B(3))。かかるROC曲線に基づき70歳超の対象を決定するためのカットオフ値を求めたところ、D−Alaの場合4.7μg/ml以上であり、D−Proの場合2.5μg/ml以上であり、D−アロ−Ileの場合0.1μg/ml以上である、D−Leuの場合0.5μg/ml以上であり、L−Serの場合134.6以下であり、L−Ileの場合58.6以下であった。D/L%−Alaの場合1.3以上であり、D/L%−Proの場合1.1以上であった。
【0060】
次に分離した各キラルアミノ酸量と、推定糸球体濾過量(eGFR)との相関を調べた。eGFR値と各キラルアミノ酸量とを散布図に表し、相関係数を算出したところ、D−アスパラギン、D−セリン、D−アスパラギン酸、D−アロ−スレオニン、D−アラニン、D−プロリン、D−ロイシン、L−ヒスチジン、L−セリン、L−アスパラギン酸、L−アラニン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−リジン、及びL−チロシンにおいて、その血液試料中の量とeGFR値との相関が得られた(
図4A−L(1)〜(3))。