【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギー熱利用技術開発/地熱発電の導入拡大に資する革新的技術開発/バイナリー式温泉発電所を対象としたメカニカルデスケーリング法の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記推定されたスケールの厚さに係る時系列データに基づいて前記流路のメンテナンス時期を判断するメンテナンス時期判断部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスケール厚さ推定システム。
前記メンテナンス時期判断部は、前記時系列データ、または当該時系列データに基づく時系列データを関数でフィッティングすることにより、前記部材の内面に付着するスケールの厚さを予測するための予測曲線を導出することを特徴とする請求項6に記載のスケール厚さ推定システム。
前記メンテナンス時期判断部は、前記予測曲線に基づいて、前記スケールが所定の厚さに達すると思われる暴露時間を求め、前記暴露時間に基づいて前記メンテナンス時期を判断することを特徴とする請求項7または8に記載のスケール厚さ推定システム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
まず、
図1を参照して、第1の実施形態に係るスケール厚さ推定システムの概略的な構成について説明する。
【0017】
本実施形態に係るスケール厚さ推定システム1は、流体が流れる配管100の内面に付着するスケールの厚さを推定するためのシステムである。なお、本実施形態では、流路は配管により形成される円筒流路であり、流体は温水等の熱流体である。
【0018】
スケール厚さ推定システム1は、
図1に示すように、情報処理装置10と、流体温度測定部20と、流路外表面温度測定部30と、熱流束測定部40とを備えている。なお、流路外表面温度測定部30と熱流束測定部40は、温度と熱流束を同時に計測し出力可能な単一のセンサを用いて一体的に構成されてもよい。
【0019】
本実施形態では、情報処理装置10は、流体温度測定部20、流路外表面温度測定部30および熱流束測定部40に通信ネットワークを介して通信可能に接続されている。通信ネットワークは、例えばインターネットであるが、LAN等の小規模なネットワークでもよい。なお、通信ネットワークは、有線回線および無線回線のいずれでもよい。
【0020】
情報処理装置10は、流体温度測定部20、流路外表面温度測定部30および熱流束測定部40により測定されたデータを用いて配管100の内面に付着したスケールの厚さを推定する。この情報処理装置10は、デスクトップ型パソコンまたはノートパソコンであるが、タブレット型端末、スマートフォン等であってもよい。
【0021】
流体温度測定部20は、少なくとも一つの熱電対を有し、配管100内を流れる流体の温度(以下、「流体温度」ともいう。)を測定する。熱電対は、例えば、管壁を貫通するように配管100の周面に取り付けられる。L字型の配管や、継手を介して2本の配管をL字状に接続する場合、L字の屈曲部分に熱電対を取り付けてもよい。これにより、配管100の内面に付着したスケールが測定温度に与える影響を抑制することができる。
【0022】
流体温度測定部20は、熱電対の他、測定された温度データを記憶するための記憶部(図示せず)や、温度データを情報処理装置10に送信するための通信部(図示せず)を有してもよい。
【0023】
なお、配管100の長手方向に沿って複数の熱電対を設けてもよい。また、ある長手方向位置において、配管100の周方向に沿って複数の熱電対を設けてもよい。
【0024】
流路外表面温度測定部30は、少なくとも一つの温度計を有し、流路外表面温度を測定する。流路外表面温度は、流路の外表面の温度のことであり、本実施形態では、配管100の外表面の温度である。温度計は、例えば、配管100の外表面に接触させて流路外表面温度を測定する接触式温度計である。配管100の長手方向に沿って複数の温度計を設けてもよい。また、ある長手方向位置において、配管100の周方向に沿って複数の温度計を設けてもよい。
【0025】
なお、温度計は、接触式温度計以外のものを用いてもよい。例えば、一本の温度センサで複数点の温度測定を行うことが可能なファイバー式温度計、あるいは、物体から放射される電磁波に基づいて当該物体の温度を測定する放射温度計を用いてもよい。これらの温度計の場合、温度計を移動させたり、複数の温度計を設けることなく、複数の位置における配管100の流路外表面温度を測定することが可能である。
【0026】
流路外表面温度測定部30は、温度計の他、測定された温度データを記憶するための記憶部(図示せず)や、温度データを情報処理装置10に送信するための通信部(図示せず)を有してもよい。
【0027】
熱流束測定部40は、少なくとも一つの熱流束計を有し、配管100の外表面における熱流束(以下、単に「熱流束」ともいう。)を測定する。なお、配管100の長手方向に沿って複数の熱流束計を設けてもよい。また、ある長手方向位置において、配管100の周方向に沿って複数の熱流束計を設けてもよい。フィルム状の熱流束計を用いる場合は、配管100の計測エリアに熱流束計が貼着される。
【0028】
なお、後述のように流路周囲温度および流路外表面温度に基づいて熱流束を推定する場合は、熱流束測定部40に代えて流路周囲温度測定部(図示せず)が設けられる。流路周囲温度は、流路の周囲における温度のことであり、本実施形態では、配管100の周囲温度である。
【0029】
次に、情報処理装置10の詳細について、
図2を参照して説明する。
【0030】
情報処理装置10は、
図2に示すように、通信部11と、記憶部12と、入力部13と、表示部14と、制御部15とを有している。
【0031】
通信部11は、通信ネットワークを介して流体温度測定部20、流路外表面温度測定部30および熱流束測定部40との間で情報を送受信するためのインターフェースである。
【0032】
記憶部12は、半導体メモリ、ハードディスクドライブ等から構成される。記憶部12には、通信部11を介して送受信されるデータ、スケール厚さの推定に必要なデータ(後述の流路壁熱伝導率、スケール熱伝導率、配管の径や厚さ(流路壁厚さ)など)、制御部15で実行されるプログラムなどが記憶される。
【0033】
入力部13は、ユーザが情報処理装置10に情報を入力するためのインターフェースであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタン、マイク等である。入力部13を介して、流路壁熱伝導率、スケール熱伝導率、配管の径や厚さなどのデータが入力されるようにしてもよい。
【0034】
表示部14は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどであり、スケール厚さの推定結果を表示する。推定結果は、数値で表示してもよいし、
図5(b)等に示すようにグラフで表示してもよい。
【0035】
制御部15は、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ等から構成される。
【0036】
制御部15は、
図2に示すように、流体温度取得部151と、流路外表面温度取得部152と、熱流束取得部153と、流路壁熱伝導率取得部154と、スケール熱伝導率取得部155と、スケール厚さ推定部156とを有している。本実施形態では、制御部15の各部は、情報処理装置10内のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現される。なお、制御部15の各部の少なくとも一つがハードウェアにより構成されてもよい。
【0037】
流体温度取得部151は、流路(本実施形態では、配管100)内を流れる流体の温度(流体温度)を取得する。具体的には、流体温度取得部151は、通信部11を介して、流体温度測定部20により測定された流体温度を取得する。
【0038】
流路外表面温度取得部152は、配管100の外表面の温度(流路外表面温度)を取得する。具体的には、流路外表面温度取得部152は、通信部11を介して、流路外表面温度測定部30により測定された流路外表面温度を取得する。
【0039】
熱流束取得部153は、配管100の外表面における熱流束を取得する。具体的には、熱流束取得部153は、通信部11を介して、熱流束測定部40により測定された熱流束を取得する。
【0040】
なお、流体温度取得部151、流路外表面温度取得部152、熱流束取得部153は、通信部11が流体温度測定部20等から受信したデータを記憶部12に記憶した後、記憶部12から当該データを読み出してもよい。
【0041】
流路壁熱伝導率取得部154は、配管100の流路壁熱伝導率を取得する。具体的には、流路壁熱伝導率取得部154は、記憶部12に予め記憶された流路壁熱伝導率を記憶部12から読み出す。なお、流路壁熱伝導率は、配管100の素材(ステンレス、炭素鋼など)に固有の値である。
【0042】
スケール熱伝導率取得部155は、配管100の内面に付着するスケールのスケール熱伝導率を取得する。具体的には、スケール熱伝導率取得部155は、記憶部12に予め記憶されたスケール熱伝導率を記憶部12から読み出す。なお、スケール熱伝導率の値は、本実施形態では経験に基づいて設定されるが、スケールの分析結果に基づいて設定されてもよい。
【0043】
スケール厚さ推定部156は、流体温度、流路外表面温度、熱流束、流路壁熱伝導率およびスケール熱伝導率に基づいて、配管100に付着するスケールの厚さを推定する。本実施形態では、スケール厚さ推定部156は、配管100の外半径および内半径(あるいは流路壁厚さ)の値を記憶部12から読み出してスケール厚さの推定に使用する。
【0044】
より詳しくは、スケール厚さ推定部156は、式(1)を用いて配管100の内面に付着するスケールの厚さを算出する。
【数1】
ここで、δ
s:スケールの厚さ[m]、r
i:配管の内半径[m]、r
o:配管の外半径[m]、k
s:スケール熱伝導率[W/(m・K)]、k
w:流路壁熱伝導率[W/(m・K)]、q
o:配管の外表面における熱流束[W/m
2]、T
f:流体温度[K]、T
o:流路外表面温度[K]である。
【0045】
式(1)から明らかなように、スケール厚さ推定部156は、スケールの表面温度(
図3の温度T
s)は用いずにスケールの厚さを推定する。すなわち、本実施形態によれば、測定が困難なスケール表面温度が分からなくても、スケールの厚さを推定することができる。
【0046】
ここで、式(1)の導出方法について説明する。
【0047】
図3に示すように、内半径r
i、外半径r
oを有する円筒状の配管100に温度T
fの流体Fが流動し、配管100の内面に厚さδ
sのスケール110が付着している系を考える。定常状態でT
f>T
a(T
aは流路周囲温度)の関係が成り立つとき、この温度差に伴う、配管100の内側から外側への熱移動量Qは式(2)で与えられる。
【数2】
ここで、Q:熱移動量[W]、h
f:スケールと流体間の熱伝達率[W/(m
2・K)]、h
a:配管の外表面と流路周囲間の熱伝達率[W/(m
2・K)]、L:流れ方向の長さ[m]である。
【0048】
式(2)において、右辺分母の第1項は熱流体からスケールへの伝熱に伴う熱抵抗を示し、第2項はスケールの熱抵抗を示し、第3項は流路壁(配管の管壁)の熱抵抗を示し、第4項は配管の外表面から流路周囲への伝熱に伴う熱抵抗を示す。
【0049】
配管の外表面における熱流束をq
oとすると、Q=2πr
oLq
oの関係が成り立つ。
この関係を用いると、式(2)から式(3)が得られる。
【数3】
【0050】
式(3)を変形して、式(4)が得られる。
【数4】
【0051】
ところで、式(4)において、熱伝達率h
fと熱流束q
oの間には、式(5)が成り立つ。
【数5】
ここで、T
s:スケールの表面温度である。
【0052】
また、式(4)において、熱伝達率h
aと熱流束をq
oの間には、式(6)が成り立つ。
【数6】
【0053】
式(5)と式(6)を式(4)に代入すると、式(7)が得られる。
【数7】
【0054】
スケールの表面温度T
sは、式(5)に示されるようにスケールと熱流体間の熱伝達率h
fに依存し、配管内を流れる熱流体の物性値や流速、およびスケールの界面性状により変化する。一方、熱流体からスケールへの伝熱に伴う熱抵抗は、スケールや他の熱抵抗成分と比較して非常に小さい。したがって、スケールが付着している系において多少の誤差を許容すれば、式(7)のT
sをT
fとして近似することが可能である。これにより、式(1)が得られる。
【0055】
<スケール厚さ推定方法>
本実施形態に係るスケール厚さの推定方法の一例について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0056】
流体温度取得部151が、流体温度(T
f)を取得する(ステップS11)。本ステップにおいて、配管100内を流れる流体の温度が取得される。
【0057】
次に、流路外表面温度取得部152が、流路外表面温度(T
o)を取得する(ステップS12)。本ステップにおいて、配管100の外表面の温度が取得される。
【0058】
次に、熱流束取得部153が、流路の外表面における熱流束(q
o)を取得する(ステップS13)。本ステップにおいて、配管100の外表面における熱流束が取得される。
【0059】
次に、流路壁熱伝導率取得部154が、流路の流路壁熱伝導率(k
w)を取得する(ステップS14)。本ステップにおいて、配管100の流路壁熱伝導率が取得される。
【0060】
次に、スケール熱伝導率取得部155が、スケールのスケール熱伝導率(k
s)を取得する(ステップS15)。
【0061】
次に、スケール厚さ推定部156が、流体温度(T
f)、流路外表面温度(T
o)、流路の外表面における熱流束(q
o)、流路壁熱伝導率(k
w)およびスケール熱伝導率(k
s)に基づいて、流路の内面(流路壁)に付着したスケールの厚さを推定する(ステップS16)。
【0062】
なお、上記の推定方法に係る処理フローは一例に過ぎない。例えば、ステップS11〜S15の実行順序は任意に変更可能である。
【0063】
また、配管の外周面に沿って測定された温度T
oおよび熱流束q
oを用いることで、スケールの周方向の厚さ分布を推定することも可能である。この場合、
流路外表面温度取得部152は、配管100の所定の方向(例えば、周方向、長手方向など)に沿って配管100の外表面の温度を測定して得られる流路外表面温度分布を取得する。また、熱流束取得部153は、当該所定の方向に沿って配管100の外表面における熱流束を測定して得られる熱流束分布を取得する。そして、スケール厚さ推定部156は、取得された流路外表面温度分布および熱流束分布に基づいて、配管100の当該所定の方向に沿うスケール厚さの分布を推定する。配管以外の部材で形成される流路の場合も同様にして、スケール厚さの分布を推定することができる。例えば後述の平板で仕切られた流路の場合、平板の長手方向および/または幅方向に沿うスケール厚さの分布を推定してもよい。
【0064】
また、熱流束取得部153は、熱流束計で測定された熱流束ではなく、流路外表面温度および流路周囲温度に基づいて推定された熱流束を取得してもよい。具体的には、以下のようにして熱流束を推定する。
【0065】
流路の外表面における熱流束q
oは、式(8)に示すように、輻射による熱流束q
Rと対流による熱流束q
Cの和で表される。
【数8】
【0066】
輻射による熱流束q
Rは、式(9)で表される。
【数9】
ここで、ε
R:輻射率、σ:ステファンボルツマン定数[W/(m
2・K
4)]、T
o:流路外表面温度[K]、T
a:流路周囲温度[K]である。
【0067】
対流による熱流束q
Cは、式(10)で表される。
【数10】
ここで、h
C:流路(配管)の外表面における対流熱伝達率[W/(m
2・K)]、T
o:流路外表面温度[K]、T
a:流路周囲温度[K]である。
【0068】
式(8)〜式(10)によれば、熱流束q
oは、流路外表面温度T
oおよび流路周囲温度T
aに基づいて算出することができる。なお、輻射率ε
Rは、流路壁の状態(材質、温度域、色、粗さなど)により変化する。また、対流熱伝達率h
Cは、無風状態にあっても、流路の周囲の状況(例えば、流路周囲が密封されているか、または開放されているか)や、流路の形状(流路径など)、および流路の配置形態(垂直配置、水平配置など)により変化する。輻射率ε
R、対流熱伝達率h
Cは概数を用いてもよい。
【0069】
次に、
図5〜
図12を参照して、スケール厚さの推定結果について説明する。以下に示すスケール厚さの推定値の計算では、輻射率ε
Rとしては概数を用い、対流熱伝達率h
Cとしては無風状態の概数を用いた。
【0070】
まず、
図5および
図6を参照して、直管およびT字管を評価対象とした場合のスケール厚さ推定結果について説明する。
【0071】
図5(a)は、貯湯槽の出口に水平配置された配管(直管)の中央部分の断面写真である。
図5(b)は、スケール厚さの推定値と実測値を45°ごとに示している。配管の内半径は50mmである。配管に熱流体を流した期間(暴露時間)は160日である。
図5(a)に示すように、スケールは配管の内面に中心角度に対して不均一に成長している。
【0072】
図5(b)に示すように、スケール厚さが中心角度に対して比較的均一な部分(角度90°、135°、180°)では、特に高い精度でスケール厚さを推定できていることが分かる。なお、角度0°(配管の頂部)においてスケール厚さの推定精度が低下している理由は、両側の厚いスケールの熱的な影響を強く受けたためと考えられる。
【0073】
図6(a)は、貯湯槽の出口に配置された配管(T字管)の入り口部分の断面写真である。
図6(b)は、スケール厚さの推定値と実測値を45°ごとに示している。配管の内半径は50mmである。暴露時間は153日である。
図6(a)に示すように、スケールは配管の内面に中心角度に対して不均一に成長している。
【0074】
図6(b)に示すように、スケール厚さが中心角度に対して比較的均一な部分(角度90°、135°、180°、225°)では、特に高い精度でスケール厚さを推定できていることが分かる。なお、角度270°においてスケール厚さの推定精度が低下している理由は、スケールの厚さが激しく変動しており、近傍のスケールの熱的な影響を強く受けたためと考えられる。
【0075】
上記の結果から分かるように、本実施形態によれば、直管の場合だけでなく、T字管のような異形管であっても、スケール厚さを精度良く推定できる。また、スケール厚さ分布の定性的な傾向も把握することができる。
【0076】
次に、
図7〜
図11を参照して、径の異なる配管が接続された配管系を評価対象とした場合のスケール厚さ推定結果について説明する。
図7に示すように、小径の配管100Aと太径の配管100Bが接続されている。配管100Aは、小径部100aと、その端部に設けられた拡径部100bとを有する。小径部100aの内半径は25mmである。拡径部100bの内半径は25mm〜50mmである。配管100Bの内半径は50mmである。暴露時間は55日である。
【0077】
図7に示すように、小径部100aの中央部、小径部100aの端部、拡径部100b、および配管100Bの端部の計4カ所をモニタリング位置とした。各モニタリング位置では、角度0°(配管の頂部)と角度180°(配管の底部)における配管の外表面に、流路外表面温度を測定するための熱電対50をそれぞれ取り付けた。
【0078】
図8は小径部100aの中央部におけるスケール厚さの推定値と実測値を示している。
図9は小径部100aの端部におけるスケール厚さの推定値と実測値を示している。
図10は、拡径部100bにおけるスケール厚さの推定値と実測値を示している。
図11は、配管100Bにおけるスケール厚さの推定値と実測値を示している。各図のグラフにおいて、実測値については45°ごとに実測された値を示している。
【0079】
図8〜
図11の結果から分かるように、本実施形態によれば、配管の内径が小さかったり、長手方向に変化する場合であっても、スケール厚さを精度良く推定することができる。
【0080】
次に、
図12を参照して、配管に付着したスケールの除去前後における、スケール厚さの推定結果について説明する。配管の周方向に沿う4カ所(角度0°、90°、180°、270°)に熱電対を取り付け、各位置におけるスケールの厚さを推定した。また、本測定では、インターネットを介して測定データを遠隔のパソコンに送信し、当該パソコンにてスケール厚さの推定を行った。
【0081】
図12は、各測定点におけるスケール厚さの推定値を示すとともに、各位置における推定値の平均を破線で示している。
図12に示すように、デスケーリング(配管に付着したスケールの除去作業)後にスケール厚さの推定値がほぼ0となっている。
【0082】
このように、本実施形態によれば、デスケーリング前後におけるスケールの厚さや、デスケーリングの効果を精度良く判断することができる。また、本実施形態のスケール厚さ推定システムによれば、遠隔でスケール付着状況を常時モニタリングすることができる。
【0083】
以上説明したように、第1の実施形態では、スケール厚さ推定部156が、流体温度、流路外表面温度、熱流束、流路壁熱伝導率およびスケール熱伝導率に基づいて、配管の内面に付着したスケールの厚さを推定する。すなわち、従来のようにスケールの成長速度やスケール厚さの推定に必要なパラメータ間の相関関係を予め取得しておく必要がなく、また、スケール表面温度のような直接測定することが困難な値を用いることなく、スケールの厚さを精度良く推定することができる。
【0084】
このように、本実施形態によれば、比較的容易に測定可能な値に基づいて流路の内面に形成されるスケールの厚さを精度良く推定することができる。上記の説明から理解されるように、本実施形態において、厚さ推定の対象となるスケールの物質は、その熱伝導率が配管を流れる流体の熱伝導率と異なるものであれば特に限定されない。したがって、本実施形態によれば、温泉水等に含まれるカルシウムやシリカ等が配管の内面に析出して生成した金属酸化物の厚さを推定できるだけでなく、その他にも、例えば、石油を輸送する配管の内面に付着するワックス、パラフィン、ハイドレート、アスファルテン等の付着物の厚さを推定することが可能である。
【0085】
また、本実施形態によれば、直管の場合だけでなく異形管の場合であっても、配管の内面に付着したスケールの厚さを精度良く推定することができる。
【0086】
また、本実施形態によれば、流路外表面温度および熱流束を所定の方向に沿って流路の外表面における複数の測定点で測定することで、スケール厚さ分布の定性的な傾向を把握することもできる。
【0087】
また、本実施形態によれば、配管が設置された場所から離れていても、スケール付着状況を常時リアルタイムでモニタリングすることができる。
【0088】
なお、上記の実施形態では、流路は配管により形成される円筒流路であったが、本発明はこれに限られず、流路の断面形状は円形以外(四角形、楕円形等)であってもよい。
【0089】
また、流路は配管以外の部材により構成されてもよい。以下に本実施形態の変形例として、平板により仕切られた流路の内面に形成されるスケールの厚さの推定について説明する。本変形例によっても、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
<第1の実施形態の変形例>
図13に示すように、厚さδ
wの平板120で仕切られた流路に温度T
fの流体Fが流動し、平板120の内面に厚さδ
sのスケール130が付着している系を考える。流体Fは
図13において紙面の垂直方向に流動している。
【0091】
本変形例では、スケール厚さ推定部156は、式(11)を用いて平板120の内面に付着するスケール130の厚さを算出する。
【数11】
ここで、δ
s:スケールの厚さ[m]、k
s:スケール熱伝導率[W/(m・K)]、k
w:流路壁熱伝導率[W/(m・K)]、q
o:平板の外表面における熱流束[W/m
2]、T
f:流体温度[K]、T
o:平板の外表面の温度[K] 、δ
w:平板の厚さ[m]である。
【0092】
式(11)から明らかなように、スケール厚さ推定部156は、スケールの表面温度(
図13の温度T
s)は用いずにスケールの厚さを推定する。このように本変形例においても、測定が困難なスケール表面温度が分からなくても、スケールの厚さを推定することができる。
【0093】
ここで、式(11)の導出方法について説明する。
【0094】
定常状態でT
f>T
a(T
aは流路周囲温度)の関係が成り立つとき、この温度差に伴う、平板120の内側から外側への熱移動量Qは式(12)で与えられる。
【数12】
ここで、Q:熱移動量[W]、y:平板の幅方向の長さ[m]、L:流れ方向の長さ[m]、h
f:スケールと流体間の熱伝達率[W/(m
2・K)]、h
a:平板の外表面と流路周囲間の熱伝達率[W/(m
2・K)]である。
【0095】
式(12)において、右辺分母の第1項は熱流体からスケールへの伝熱に伴う熱抵抗を示し、第2項はスケールの熱抵抗を示し、第3項は流路壁(平板)の熱抵抗を示し、第4項は平板の外表面から周囲への伝熱に伴う熱抵抗を示す。
【0096】
平板の外表面における熱流束をq
oとすると、Q=yLq
oの関係が成り立つ。この関係を用いると、式(12)から式(13)が得られる。
【数13】
【0097】
式(13)を変形して、式(14)が得られる。
【数14】
【0098】
ところで、式(14)において、熱伝達率h
fと熱流束q
oの間には、式(15)が成り立つ。
【数15】
ここで、T
s:スケールの表面温度である。
【0099】
また、式(14)において、熱伝達率h
aと熱流束をq
oの間には、式(16)が成り立つ。
【数16】
【0100】
式(15)と式(16)を式(14)に代入すると、式(17)が得られる。
【数17】
【0101】
スケールの表面温度T
sは、式(15)に示されるようにスケールと熱流体間の熱伝達率h
fに依存し、平板で仕切られた流路内を流れる熱流体の物性値や流速、およびスケールの界面性状により変化する。一方、熱流体からスケールへの伝熱に伴う熱抵抗は、スケールや他の熱抵抗成分と比較して非常に小さい。したがって、スケールが付着している系において多少の誤差を許容すれば、式(17)のT
sをT
fとして近似することが可能である。これにより、式(11)が得られる。
【0102】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るスケール厚さ推定システムについて説明する。
【0103】
本実施形態に係るスケール厚さ推定システム1Aは、スケールの厚さを推定するとともに、流路の内面に付着したスケールを除去するタイミング(流路のメンテナンス時期)を判断し通知するためのシステムである。以下、第1の実施形態との相違点を中心に第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、流路は配管で形成される円筒流路であるが、これに限られず、平板により仕切られた流路等であってもよい。
【0104】
スケール厚さ推定システム1Aは、
図14に示すように、情報処理装置10Aと、流体温度測定部20と、流路外表面温度測定部30と、熱流束測定部40と、情報処理装置60とを備えている。本実施形態では、情報処理装置10は、流体温度測定部20、流路外表面温度測定部30および熱流束測定部40に通信ネットワークを介して通信可能に接続されている。また、情報処理装置10Aと情報処理装置60は通信ネットワークを介して接続されている。
【0105】
情報処理装置10Aは、流体温度測定部20、流路外表面温度測定部30および熱流束測定部40により測定されたデータを用いて配管100の内面に付着したスケールの厚さを推定するとともに、配管100のメンテナンス時期を判断する。そして、メンテナンス時期が到来すると、情報処理装置60にその旨を通知する。
【0106】
情報処理装置60は、情報処理装置10から通知されたメンテナンス時期を作業者に画像や音声で知らせる。
【0107】
情報処理装置10Aおよび情報処理装置60は、デスクトップ型パソコンまたはノートパソコンであるが、タブレット型端末、スマートフォン等であってもよい。
【0108】
なお、流体温度測定部20、流路外表面温度測定部30、熱流束測定部40が通信機能や情報出力機能を有する装置(IOT機器等)として構成される場合、これらの測定部が情報処理装置60として機能してもよい。また、情報処理装置10Aが配管100の近くに配置される等の場合は、情報処理装置10Aと情報処理装置60は一つの情報処理装置として構成されてもよい。
【0109】
次に、情報処理装置10Aの詳細について、
図15を参照して説明する。
【0110】
情報処理装置10Aは、
図15に示すように、通信部11と、記憶部12と、入力部13と、表示部14と、制御部15Aとを有している。通信部11、記憶部12、入力部13および表示部14については、第1の実施形態と同様であるので詳しい説明は省略する。
【0111】
制御部15Aは、
図15に示すように、流体温度取得部151と、流路外表面温度取得部152と、熱流束取得部153と、流路壁熱伝導率取得部154と、スケール熱伝導率取得部155と、スケール厚さ推定部156、メンテナンス時期判断部157とを有している。本実施形態では、制御部15Aの各部は、情報処理装置10内のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現される。なお、制御部15Aの各部の少なくとも一つがハードウェアにより構成されてもよい。
【0112】
制御部15Aの各部のうち、流体温度取得部151、流路外表面温度取得部152、熱流束取得部153、流路壁熱伝導率取得部154およびスケール熱伝導率取得部155については、第1の実施形態と同様であるので詳しい説明は省略する。
【0113】
スケール厚さ推定部156は、第1の実施形態で説明したように、流体温度、流路外表面温度、熱流束、流路壁熱伝導率およびスケール熱伝導率に基づいて、配管100に付着するスケールの厚さを推定する。本実施形態では、スケール厚さ推定部156は、定期的にスケールの厚さを推定し、推定されたスケール厚さを記憶部12に記憶する。このようにして記憶部12には、スケール厚さの推定値に係る時系列データが記憶される。
【0114】
メンテナンス時期判断部157は、スケール厚さ推定部156により推定されたスケール厚さに係る時系列データに基づいてメンテナンス時期を判断する。
【0115】
より詳しくは、メンテナンス時期判断部157は、推定されたスケール厚さに係る時系列データ、または当該時系列データに基づく時系列データ(後述の正規化スケール厚に係る時系列データなど)を所定の関数でフィッティングすることにより予測曲線を導出する。予測曲線は、スケールの厚さを予測するための曲線である。予測曲線の導出に用いられる関数は、時間が経つにつれて所定の値に漸近する関数である。
【0116】
予測曲線の導出について詳しく説明する。本実施形態においては、メンテナンス時期判断部157は、正規化スケール厚に係る時系列データを、時間が経つにつれて1に漸近する関数tanhでフィッティングすることにより予測曲線を求める。ここで、正規化スケール厚とは、スケールの厚さを正規化した無次元の値であり、例えば、スケール厚さの推定値を配管の内半径で除した値である。正規化スケール厚が1のときは、配管がスケールで閉塞した状態を示す。
【0117】
式(18)は、正規化スケール厚の予測曲線に係る相関式の一例を示している。
【数18】
ここで、δ
*:正規化スケール厚
、C:係数、t:暴露日数、n:次数である。
【0118】
正規化スケール厚δ
*は、配管による円筒流路の場合、δ/r
iで与えられ、平板で仕切られた流路の場合、2δ/Δxで与えられる。
δはスケール厚さの推定値であり、riは配管の内半径である。Δxは、対向する平板間の距離(すなわち、流路の幅)である。
【0119】
なお、予測曲線の導出に用いる関数は、時間が経つにつれて所定の値に漸近する関数であれば、tanhに限られない。例えば、関数expを用いてもよい。この場合における、正規化スケール厚の予測曲線に係る相関式を式(19)に示す。
【数19】
ここで、δ
*:正規化スケール厚
、C:係数、t:暴露日数、n:次数である。
【0120】
式(18)または式(19)を用いて正規化スケール厚に係る時系列データをフィッティングして係数Cおよび次数nを求めることにより、スケール厚さの予測曲線が導出される。
【0121】
予測曲線が導出された後、メンテナンス時期判断部157は、予測曲線に基づいて、スケールが所定の厚さ(例えば、δ
*=0.3)に達する暴露日数(暴露時間)を求める。
そして、メンテナンス時期判断部157は、求めた暴露日数に基づいてメンテナンス時期を判断(決定)する。例えば、求めた暴露日数から所定の日前の日をメンテナンス時期とする。
【0122】
その後メンテナンス時期が到来すると、メンテナンス時期判断部157は情報処理装置60に配管100のメンテナンスを促す通知を行う。なお、メンテナンス時期が決定されたときに、メンテナンス時期判断部157は情報処理装置60にメンテナンス時期を通知してもよい。この場合、情報処理装置60がメンテナンス時期の到来を確認してユーザに画像や音声で知らせる。
【0123】
図16(a)および
図16(b)は、水平配置された配管を対象とした場合における、スケール厚さの推定値、当該推定値に基づいて導出された予測曲線、およびスケール厚さの実測値を示している。
図16(a)および
図16(b)に示す結果から、実測されたスケール厚さは予測曲線に近似しており、精度良くメンテナンス時期を判断できることが確認された。
【0124】
<メンテナンス時期の判断方法>
図17のフローチャートを参照して、本実施形態に係るメンテナンス時期の判断方法の一例について説明する。
【0125】
情報処理装置10Aの制御部15Aが、スケールの厚さを推定するタイミングであるか否かを判定する(ステップS21)。例えば、一日の所定の時刻(正午など)になったか否かを判定する。スケール厚さを推定するタイミングであると判定された場合(S21:Yes)、スケール厚さ推定部156が、流路の内面(流路壁)に付着したスケールの厚さを推定する(ステップS22)。本ステップでは、例えば、
図4のフローチャートによる処理フローを実行する。一方、まだスケール厚さを推定するタイミングでないと判定された場合(S21:No)、ステップS21に戻る。
【0126】
スケール厚さを推定した後、スケール厚さ推定部156が、スケール厚さの推定値を記憶部12に記憶する(ステップS23)。記憶部12に記憶するデータは、スケール厚さの推定値でもよいし、推定値を正規化した値でもよい。
【0127】
その後、スケール厚さの推定値に係る時系列データに基づいて予測曲線を導出する(ステップS24)。予測曲線の導出は前述した方法で行われる。ステップS22で推定されたスケール厚さの推定値に係る時系列データに基づいて予測曲線を導出してもよいし、あるいは、スケール厚さの推定値を正規化した正規化スケール厚に係る時系列データに基づいて予測曲線を導出してもよい。
【0128】
予測曲線の導出後、メンテナンス時期判断部157が、流路のメンテナンス時期が到来しているか否かを判定する(ステップS25)。本ステップでは、予測曲線に基づいてスケールが所定の厚さに達する暴露日数を求め、この暴露日数から所定の日前の日が到来したか否かを判定する。なお、判定方法はこれに限られない。例えば、予測曲線に基づいて、正規化スケール厚が所定の値(例えば、δ
*=0.25)に達する暴露日数を求め、当該暴露日数が経過したか否かにより判定してもよい。
【0129】
メンテナンス時期が到来していると判定された場合(S25:Yes)、メンテナンス時期判断部157が、流路のメンテナンスを促す通知を行う(ステップS26)。この通知は情報処理装置60に対して行われる。情報処理装置10Aの表示部14にメンテナンス時期が到来した旨を表示してもよい。
【0130】
上記のように第2の実施形態では、メンテナンス時期判断部157が、スケール厚さの推定値に係る時系列データに基づいて流路のメンテナンス時期を判断する。これにより、適切なタイミングで流路のメンテナンスを行うことができる。
【0131】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。上記の実施形態では、流路を流れる流体は温水等の熱流体であったが、本発明はこれに限られない。例えば、流路に流れる流体は、流路周囲温度よりも低い冷流体であってもよい。すなわち、配管の半径方向(すなわち、管壁の厚さ方向)に沿う熱移動など、流路の内部から外部または流路の外部から内部への熱移動があれば、本発明に係るスケール厚さの推定を行うことが可能である。また、流体は液体に限られず、蒸気等の気体であってもよい。
【0132】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【0133】
上述した実施形態で説明したスケール厚さ推定システムの少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、スケール厚さ推定システムの少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0134】
また、スケール厚さ推定システムの少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。