(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
芳香族ポリスルホンは、ガラス転移温度(Tg)が高いため、耐熱性に優れる材料として、電子材料分野をはじめ多くの分野で用いられている。
しかし、これら芳香族ポリスルホンにはさらなる耐熱性の向上が望まれ、高いガラス転移温度(Tg)を発現させるためには未だ改良の余地があった。
電子機器を製造する際には電子機器の構成部品は、例えば、リフロー工程のように部品を高温に曝すことがある。部品の変形を抑制するためには、高いガラス転移温度(Tg)を発現が求められる。また、電子機器に限らず、高温条件下に曝される部材については、同様の問題が生じうる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高いガラス転移温度(Tg)を発現できる、新規の芳香族ポリスルホン、該芳香族ポリスルホンを用いたプリプレグ及び該プリプレグの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、式(A)で表されるジハロゲノ化合物(A)と、式(B)で表される二価フェノール(B)と、を重合して得られる熱可塑性の芳香族ポリスルホンであって、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比の値(Mw/Mn)が1.91以上であり、数平均分子量(Mn)が6000以上14000未満である、芳香族ポリスルホンを提供する。
【0008】
【化1】
[式(A)及び(B)中、X及びX’は、互いに独立に、ハロゲン原子を表す。
R
1、R
2、R
3及びR
4は、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。
n
1、n
2、n
3及びn
4は、互いに独立に、0〜4の整数を表す。n
1、n
2、n
3又はn
4が2〜4の整数である場合、複数個のR
1、R
2、R
3又はR
4は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0009】
本発明の第2の態様は、前記本発明の第1の態様の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤と、強化繊維とを用いたプリプレグである。
本発明の第3の態様は、前記本発明の第1の態様の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤とを混合した混合物に、強化繊維を含浸させる工程を有する、プリプレグの製造方法である。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の側面を有する。
[1]式(A)で表されるジハロゲノ化合物(A)と、式(B)で表される二価フェノール(B)と、を重合して得られる熱可塑性の芳香族ポリスルホンであって、
数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比の値(Mw/Mn)が1.91以上であり、数平均分子量(Mn)が6000以上14000未満である、芳香族ポリスルホン。
【化2】
[式(A)及び(B)中、X及びX’は、互いに独立に、ハロゲン原子を表す。
R
1、R
2、R
3及びR
4は、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。
n
1、n
2、n
3及びn
4は、互いに独立に、0〜4の整数を表す。n
1、n
2、n
3又はn
4が2〜4の整数である場合、複数個のR
1、R
2、R
3又はR
4は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。];
[2]式(A)において、X及びX’が塩素原子である、[1]記載の芳香族ポリスルホン;
[3]式(A)又は(B)において、n
1、n
2、n
3及びn
4が0である[1]又は[2]に記載の芳香族ポリスルホン;
[4][1]〜[3]のいずれか1項に記載の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤と、強化繊維とを用いたプリプレグ;
[5][1]〜[3]のいずれか1項に記載の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤とを混合した混合物に、強化繊維を含浸させる工程を有する、プリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高いガラス転移温度(Tg)を発現できる、新規の芳香族ポリスルホン、該芳香族ポリスルホンを用いたプリプレグ及び該プリプレグの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<芳香族ポリスルホン>
本発明の芳香族ポリスルホンは、下記式(A)で表されるジハロゲノ化合物(A)と、下記式(B)で表される二価フェノール(B)と、を重合して得られる熱可塑性の芳香族ポリスルホンであって、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比の値(Mw/Mn、多分散度)が1.91以上であり、数平均分子量(Mn)が6000以上14000未満のものである。
本明細書においては、式(A)で表されるジハロゲノ化合物(A)を、単に「ジハロゲノ化合物(A)」ということがある。また、式(B)で表される二価フェノール(B)を、単に「二価フェノール(B)」ということがある。
本発明の芳香族ポリスルホンは、ジハロゲノ化合物(A)及び二価フェノール(B)をモノマーとし、Mw/Mn及びMnが、上記の条件を満たしていることで、高いガラス転移温度を発現でき、優れた耐熱性を示す。
【0013】
【化3】
[式(A)及び(B)中、X及びX’は、互いに独立に、ハロゲン原子を表す。
R
1、R
2、R
3及びR
4は、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。
n
1、n
2、n
3及びn
4は、互いに独立に、0〜4の整数を表す。n
1、n
2、n
3又はn
4が2〜4の整数である場合、複数個のR
1、R
2、R
3又はR
4は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0014】
[ジハロゲノ化合物(A)]
ジハロゲノ化合物(A)は、式(A)で表される。
式(A)中、X及びX’は、互いに独立に、ハロゲン原子を表す。前記ハロゲン原子の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、塩素原子であることが好ましい。
X及びX’は、それぞれベンゼン環骨格のスルホニル基(−SO
2−)が結合している炭素原子の位置番号を1位としたとき、ベンゼン環骨格の2位、3位及び4位のいずれの炭素原子に結合していてもよいが、4位の炭素原子に結合していることが好ましい。すなわち、ジハロゲノ化合物(A)は、水素原子に代わってR
3及びR
4のいずれか一方又は両方が結合していてもよいビス(4−クロロフェニル)スルホンであることが好ましい。
【0015】
式(A)中、R
3及びR
4は、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。
R
3及びR
4における前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分枝鎖状であることが好ましく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
R
3及びR
4における前記アルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分枝鎖状であることが好ましく、その例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0016】
式(A)中、n
3はR
3の結合数であり、n
4はR
4の結合数であり、互いに独立に、0〜4の整数を表す。
n
3及びn
4が、0以外である場合、対応するR
3又はR
4の結合位置は特に限定されない。ベンゼン環骨格のスルホニル基が結合している炭素原子の位置番号を1位としたとき、R
3又はR
4は、ベンゼン環骨格の2位、3位、4位、5位及び6位のいずれの炭素原子に結合していてもよい。ただし、R
3又はR
4の結合位置として、X又はX’が結合している炭素原子を除く。R
3又はR
4は、4位以外の炭素原子に結合していることが好ましく、3位もしくは5位、または3位及び5位の炭素原子に結合していることがより好ましい。
n
3又はn
4が2〜4の整数である場合、複数個のR
3又はR
4は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。例えば、n
3が2〜4の整数である場合、n
3個のR
3は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、n
3が3又は4である場合には、一部のみ同一であってもよい。n
4個のR
4も、n
3個のR
3の場合と同様である。
n
3及びn
4は、互いに独立に、0〜3の整数あることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、0又は1であることがさらに好ましい。
【0017】
好ましいジハロゲノ化合物(A)の例としては、ビス(4−クロロフェニル)スルホンが挙げられる。ビス(4−クロロフェニル)スルホンは、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンとも言う。
【0018】
[二価フェノール(B)]
二価フェノール(B)は、式(B)で表される。
二価フェノール(B)において、2個のヒドロキシ基(−OH)は、それぞれベンゼン環骨格のスルホニル基が結合している炭素原子の位置番号を1位としたとき、ベンゼン環骨格の2位、3位及び4位のいずれの炭素原子に結合していてもよいが、4位の炭素原子に結合していることが好ましい。すなわち、二価フェノール(B)は、水素原子に代わってR
1及びR
2のいずれか一方又は両方が結合していてもよいビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンであることが好ましい。ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンは、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンとも言う。
【0019】
式(B)中、R
1及びR
2は、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R
3及びR
4と同様のものである。
また、n
1はR
1の結合数であり、n
2はR
2の結合数であり、互いに独立に、0〜4の整数を表す。n
1及びn
2は、n
3及びn
4と同様のものである。
すなわち、n
1及びn
2が、0以外である場合、対応するR
1又はR
2の結合位置は特に限定されない。ベンゼン環骨格のスルホニル基が結合している炭素原子の位置番号を1位としたとき、R
1又はR
2はベンゼン環骨格の2位、3位、4位、5位及び6位のいずれの炭素原子に結合していてもよい。ただし、R
1又はR
2の結合位置として、ヒドロキシ基が結合している炭素原子を除く。R
1又はR
2は、4位以外の炭素原子に結合していることが好ましく、3位もしくは5位、または3位及び5位の炭素原子に結合していることが好ましい。
n
1又はn
2が2〜4の整数である場合、複数個のR
1又はR
2は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。例えば、n
1が2〜4の整数である場合、n
1個のR
1は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、n
1が3又は4である場合には,一部のみ同一であってもよい。n
2個のR
2も、n
1個のR
1の場合と同様である。
n
1及びn
2は、互いに独立に、0〜3の整数あることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、0又は1であることがさらに好ましい。
【0020】
好ましい二価フェノール(B)の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホンが挙げられる。
【0021】
本発明の芳香族ポリスルホンの還元粘度は、好ましくは0.18dL/g以上であり、より好ましくは0.22〜0.28dL/gである。芳香族ポリスルホンは、還元粘度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易い。一方、芳香族ポリスルホンは、あまりに還元粘度が高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、流動性が低くなり易い。
【0022】
本明細書において、芳香族ポリスルホンの還元粘度(dL/g)は、以下の方法で求めた値を指す。まず、芳香族ポリスルホン樹脂約1gを精秤し、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dLとする。次いで、この溶液の粘度(η)、および溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。次いで、測定値から求められる比粘性率((η−η0)/η0)を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより、芳香族ポリスルホンの還元粘度が求められる。
【0023】
本発明の芳香族ポリスルホンの数平均分子量(Mn)は6000以上であり、好ましくは6500以上、より好ましくは7000以上、さらに好ましくは7500以上である。Mnが前記下限値以上であることで、芳香族ポリスルホンは耐熱性に顕著に優れる。
また、本発明の芳香族ポリスルホンの数平均分子量(Mn)は14000未満であり、好ましくは13500以下、より好ましくは13000以下、さらに好ましくは12500以下、とりわけ好ましくは12000以下、とりわけさらに好ましくは11500以下である。
Mnが前記上限値以下であることで、芳香族ポリスルホンは耐熱性に顕著に優れる。
なお、上記Mnの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
本発明の芳香族ポリスルホンの数平均分子量(Mn)は、例えば、8000〜11000であることがとりわけ好ましい。
【0024】
本明細書において、芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比であるMw/Mnの値は、芳香族ポリスルホンの多分散度を示す。本発明の芳香族ポリスルホンにおいて、Mw/Mnの値は1.91以上であり、好ましくは1.92以上であり、より好ましくは1.93以上であり、好ましくは2.60以下であり、より好ましくは2.50以下であり、さらに好ましくは2.40以下である。
Mw/Mnの値が前記下限値以上であることで、芳香族ポリスルホンは高いガラス転移温度を発現することができる。
上記Mw/Mnの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
本発明の芳香族ポリスルホンにおいて、Mw/Mnの値は、例えば、1.91以上2.00以下であることがとりわけ好ましい。
【0025】
本明細書において、芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により2回測定した測定値を平均することにより得られる値である。各測定においては、標準ポリスチレンの分子量を測定して得られた検量線に基づいて、標準ポリスチレン換算の分子量を求める。
【0026】
また、Mw/Mnは、上述のように平均値として得られる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから算出することができる。
【0027】
本発明の芳香族ポリスルホンは、高いガラス転移温度を発現することができる。例えばJIS−K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出したとき、本発明の芳香族ポリスルホンにおいて、ガラス転移温度(℃)は、好ましくは215℃以上、より好ましくは216℃以上となる。ガラス転移温度(℃)は、芳香族ポリスルホンの耐熱性の程度を判断する指標となるものであり、通常は、この温度が高いほど、芳香族ポリスルホンは耐熱性に優れているといえる。
【0028】
[重合]
ジハロゲノ化合物(A)と二価フェノール(B)とを溶媒中で反応させる工程(以下、「重合」と記載する)について説明する。
ジハロゲノ化合物(A)と二価フェノール(B)との重合(重縮合)は、塩基として炭酸のアルカリ金属塩を用いて行われることが好ましく、重合溶媒である有機溶媒中で行われることが好ましく、塩基として炭酸のアルカリ金属塩を用い、且つ有機溶媒中で行われることがより好ましい。
【0029】
炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリ、すなわちアルカリ金属の炭酸塩であってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ、すなわち炭酸水素アルカリやアルカリ金属の炭酸水素塩であってもよいし、これら炭酸アルカリ及び重炭酸アルカリの混合物であってもよい。
好ましい前記炭酸アルカリの例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
好ましい前記重炭酸アルカリの例としては、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)、重炭酸カリウム(炭酸水素カリウム)等が挙げられる。
【0030】
前記有機溶媒は有機極性溶媒であることが好ましい。
前記有機極性溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0031】
ジハロゲノ化合物(A)の使用量は、二価フェノール(B)の使用量に対して、90〜105モル%であることが好ましく、93〜100モル%であることがより好ましく、93〜99モル%がさらに好ましく、93モル%以上97モル%未満が特に好ましい。目的とする反応(重合)は、ジハロゲノ化合物(A)と二価フェノール(B)との脱ハロゲン化水素重縮合であり、仮に副反応が生じなければ、両者のモル比が1:1に近いほど、すなわちジハロゲノ化合物(A)の使用量が二価フェノール(B)の使用量に対して100モル%に近いほど、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなり、その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、Mnが大きくなって、Mw/Mnが小さくなる傾向にある。しかし、実際は、副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲン原子のヒドロキシ基への置換反応や解重合等の副反応が生じ、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度、Mn及びMw/Mnを有する芳香族ポリスルホンが得られるように、ジハロゲノ化合物(A)の使用量を調整する必要がある。
【0032】
炭酸のアルカリ金属塩の使用量は、二価フェノール(B)のヒドロキシ基に対して、アルカリ金属として、90〜110モル%であることが好ましく、95〜105モル%であることがより好ましく、95〜100モル%がさらに好ましく、95モル%以上97モル%未満が特に好ましい。仮に副反応が生じなければ、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなり、その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、Mnが大きくなり、Mw/Mnが小さくなる傾向にある。しかし、実際は、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、上記と同様の副反応が生じ易くなり、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度、Mn及びMw/Mnを有する芳香族ポリスルホンが得られるように、炭酸のアルカリ金属塩の使用量を調整する必要がある。
【0033】
典型的な芳香族ポリスルホンの製造方法では、第1段階として、ジハロゲノ化合物(A)と二価フェノール(B)とを、有機極性溶媒に溶解させ、第2段階として、第1段階で得られた溶液に、炭酸のアルカリ金属塩を添加して、ジハロゲノ化合物(A)と二価フェノール(B)とを重縮合させ、第3段階として、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、副生したハロゲン化アルカリ、及び有機極性溶媒を除去して、芳香族ポリスルホンを得る。
【0034】
第1段階の溶解温度は、通常40〜180℃である。また、第2段階の重縮合温度は、通常180〜400℃であり、300〜400℃が好ましく、300℃を超え360℃以下がより好ましい。仮に副反応が生じなければ、重縮合温度が高いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなり、その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、Mnが大きくなり、Mw/Mnが小さくなる傾向にある。しかし、実際は、重縮合温度が高いほど、上記と同様の副反応が生じ易くなり、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度、Mn及びMw/Mnを有する芳香族ポリスルホンが得られるように、重縮合温度を調整する必要がある。
【0035】
また、第2段階の重縮合は、通常、副生する水を除去しながら徐々に昇温し、有機極性溶媒の還流温度に達した後、さらに、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜30時間保温することにより行うとよい。仮に副反応が生じなければ、重縮合時間が長いほど、目的とする重縮合が進むので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなり、その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、Mnが大きくなり、Mw/Mnが小さくなる傾向にある。しかし、実際は、重縮合時間が長いほど、上記と同様の副反応が進行し、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度、Mn及びMw/Mnを有する芳香族ポリスルホンが得られるように、重縮合時間を調整する必要がある。
【0036】
第3段階では、まず、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリを、濾過、抽出、遠心分離等で除去することにより、芳香族ポリスルホンが有機極性溶媒に溶解してなる溶液が得られる。次いで、この溶液から、有機極性溶媒を除去することにより、芳香族ポリスルホンが得られる。有機極性溶媒の除去は、前記溶液から直接、有機極性溶媒を留去することにより行ってもよいし、前記溶液を芳香族ポリスルホンの貧溶媒と混合して、芳香族ポリスルホンを析出させ、濾過や遠心分離等で分離することにより行ってもよい。
【0037】
芳香族ポリスルホンの貧溶媒の例としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ヘキサン、ヘプタン、水が挙げられ、除去が容易であることから、メタノールが好ましい。
【0038】
また、比較的高融点の有機極性溶媒を重合溶媒として用いた場合には、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリ、有機極性溶媒等の夾雑物を抽出除去することで、芳香族ポリスルホンを得てもよい。具体的には、反応混合物を冷却固化させた後、粉砕し、得られた粉体を洗浄することにより夾雑物を抽出除去し、芳香族ポリスルホンを得てもよい。洗浄は、まず上記粉体から、水を用いて、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリを抽出除去すると共に、芳香族ポリスルホンが溶解せず、且つ有機極性溶媒が溶解(均一に混合)する溶媒を用いて、有機極性溶媒を抽出除去するとよい。その際、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリの抽出に用いる水は、温水であると好ましい。ここで、抽出に用いる温水の温度は40〜80℃であると好ましい。
【0039】
前記粉体の体積平均粒径は、抽出効率及び抽出時の作業性の点から、好ましくは200〜2000μmであり、より好ましくは250〜1500μmであり、さらに好ましくは300〜1000μmである。前記粉体の体積平均粒径が前記下限値以上であることで、抽出の際の固結や、抽出後に濾過や乾燥を行う際の目詰まりが、高度に抑制される。また、前記粉体の体積平均粒径が前記上限値以下であることで、抽出効率がより高くなる。
本明細書において、体積平均粒径は、レーザ回折法により測定することができる。
【0040】
前記抽出溶媒の例としては、例えば、重合溶媒としてジフェニルスルホンを用いた場合には、アセトン及びメタノールの混合溶媒等が挙げられる。ここで、アセトン及びメタノールの混合比は、通常、抽出効率と芳香族ポリスルホン粉体の固着性の観点から決定される。
【0041】
また、典型的な芳香族ポリスルホンの上記と別の製造方法では、第1段階として、二価フェノール(B)と炭酸のアルカリ金属塩とを有機極性溶媒中で反応させ、副生する水を除去し、第2段階として、第1段階で得られた反応混合物に、ジハロゲノ化合物(A)を添加して、重縮合を行い、第3段階として、先に説明した方法の場合と同様に、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、副生したハロゲン化アルカリ、及び有機極性溶媒を除去して、芳香族ポリスルホンを得る。
【0042】
なお、この別法では、第1段階において、副生する水を除去するために、水と共沸する有機溶媒を加えて、共沸脱水を行ってもよい。水と共沸する有機溶媒の例としては、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。共沸脱水の温度は、好ましくは70〜200℃である。
【0043】
また、この別法では、第2段階の重縮合における反応温度は通常180〜400℃であり、300〜400℃が好ましく、300℃を超え360℃以下がより好ましい。この別法においても、先に説明した方法の場合と同様に、副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度、Mn及びMw/Mnを有する芳香族ポリスルホンが得られるように、重縮合温度や重縮合時間を調整する必要がある。
【0044】
上述のように、本発明の芳香族ポリスルホンは、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比の値(Mw/Mn)が1.91以上であり、数平均分子量(Mn)が6000以上14000未満であることで、高いガラス転移温度を発現することができる。
芳香族ポリスルホンのMnおよびMw/Mnについては、上述のように重合時のジハロゲノ化合物(A)の使用量と二価フェノール(B)の使用量との比率、炭酸のアルカリ金属塩の使用量、第2段階の重縮合温度、第2段階の重合時間の各反応条件を制御することにより調整可能である。これらの反応条件は、芳香族ポリスルホンのMnおよびMw/Mnを調整する目的でそれぞれ独立して制御し、任意に組み合わせることができる。
【0045】
本発明の芳香族ポリスルホンは、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れるため、厳しい加熱処理の条件下でもその機能を十分に発現する。また、本発明の芳香族ポリスルホンは、金属、ガラス、セラミック等の素材との密着性も良好である。したがって、例えば、金属、ガラス又はセラミック等の部材のコーティング材として好適である。前記部材のコーティングには、例えば、芳香族ポリスルホンと、これ以外の樹脂とを含有する樹脂組成物(樹脂溶液)を調製し、これを目的とする部材に塗工し、乾燥させることで、部材表面に前記樹脂のコーティング膜を形成できる。ただし、これは一例に過ぎず、本発明の芳香族ポリスルホンの用途は、これに限定されない。本発明の芳香族ポリスルホンは、例えば、自動車、航空機等の分野での利用に好適である。
【0046】
<プリプレグ>
本発明の第2の態様は、前記本発明の第1の態様の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤と、強化繊維とを用いたプリプレグである。
【0047】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に液状のエポキシ樹脂であれば限定されず、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等を適宜用いることができる。
【0048】
[硬化剤]
硬化剤としては、前記エポキシ樹脂と反応し得るものであれば特に限定はないが、アミン系硬化剤が好ましく用いられる。かかる硬化剤としては、例えば、テトラメチルグアニジン、イミダゾールまたはその誘導体、カルボン酸ヒドラジド類、3級アミン、芳香族アミン、脂肪族アミン、ジシアンジアミドまたはその誘導体等が挙げられる。
【0049】
[強化繊維]
使用される強化繊維としては、強度の観点から、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。これらの強化繊維は、織布又は不織布であってもよい。また、本発明の芳香族ポリスルホン樹脂の用途はこれに限定されず、金属、ガラス又はセラミック等の部材のコーティング材等として用いることもできる。
【0050】
<プリプレグの製造方法>
本発明の第3の態様は、前記本発明の第1の態様の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤とを混合した混合物に、強化繊維を含浸させる工程を有する、プリプレグの製造方法である。
プリプレグの製造方法は特に限定されず、前記本発明の第1の態様の芳香族ポリスルホンと、液状のエポキシ樹脂と、硬化剤とをメチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解させた混合物を調整し、該混合物に強化繊維を含浸させればよい。用いる溶媒としては、メチルエチルケトン、メタノールの他、ジメチルスルホキシド,N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
該混合物に強化繊維を含浸させる方法としては、ウェット法とホットメルト法(ドライ法)等を挙げることができる。
ウェット法は、前記混合物に強化繊維を浸漬した後、強化繊維を引き上げ、オーブン等を用いて強化繊維から溶媒を蒸発させることにより、芳香族ポリスルホン等を強化繊維に含浸させる方法である。
ホットメルト法は、加熱により低粘度化した前記混合物を直接強化繊維に含浸させる方法、または離型紙等の上に前記混合物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより、強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
【0051】
このようにして強化繊維にエポキシ樹脂と本実施形態の芳香族ポリスルホンとを含浸させた後、例えば120〜140℃に加熱して、含浸させたエポキシ樹脂を半硬化させることにより、プリプレグを製造することができる。
本明細書において「半硬化」とは、一定の形状が維持できるまで前記エポキシ樹脂の粘度又は硬度が増加した状態であって、当該状態からさらに粘度又は硬度が増加し得る状態まで粘度又は硬度が増加可能である状態を指す。
【実施例】
【0052】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、本実施例においては、芳香族ポリスルホンの評価は、下記方法で物性を測定することにより行った。
【0053】
<芳香族ポリスルホンのMn及びMwの測定、Mw/Mnの算出>
下記条件でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析を行い、Mn及びMwを測定し、Mw/Mnを算出した。Mn及びMwはいずれも2回測定し、その平均値を求めて、それぞれMn及びMwとし、Mw/Mnの平均値を求めた。
(測定条件)
試料:濃度が0.002g/mLである芳香族ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド溶液
試料注入量:100μL
カラム:東ソー社製「TSKgel GMHHR−H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結
カラム温度:40℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.8mL/分
検出器:示差屈折率計(RI)+光散乱光度計(MALS)
標準試薬:ポリスチレン
【0054】
<芳香族ポリスルホン樹脂のガラス転移温度の測定>
示差走査熱量測定装置(島津製作所製DSC−50)を用い、JIS−K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出した。サンプル約10mgを秤量し、昇温速度10℃/minで340℃まで上昇させた後、40℃まで冷却し、再び昇温速度10℃/minで340℃まで上昇させた。2回目の昇温で得られたDSCチャートより、JIS−K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出した。
【0055】
<芳香族ポリスルホンの製造及び評価>
[実施例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン300.3g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン330.8g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン564.9gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温した。得られた溶液に、炭酸カリウム159.7gを添加した後、305℃まで徐々に昇温し、305℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトン及びメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、ろ過により得られた溶媒を含浸する粉末を150℃で加熱乾燥させ、芳香族ポリスルホンを粉末として得た。得られた芳香族ポリスルホンのMn、Mw、Mw/Mn及びガラス転移温度を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン300.3g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン331.8g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン564.9gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温した。得られた溶液に、炭酸カリウム160.5gを添加した後、290℃まで徐々に昇温し、290℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトン及びメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、デカンテーション及びろ過により得られた溶媒を含浸する粉末を150℃で加熱乾燥させ、芳香族ポリスルホンを粉末として得た。得られた芳香族ポリスルホンのMn、Mw、Mw/Mn及びガラス転移温度を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、実施例1の芳香族ポリスルホンは、比較例1に比べてガラス転移温度が高く、耐熱性に優れていた。