特許第6884982号(P6884982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6884982非水系二次電池用負極材の製造方法、及び非水系二次電池用負極材を用いた非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884982
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】非水系二次電池用負極材の製造方法、及び非水系二次電池用負極材を用いた非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20210531BHJP
【FI】
   H01M4/587
【請求項の数】6
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-3705(P2016-3705)
(22)【出願日】2016年1月12日
(65)【公開番号】特開2017-126426(P2017-126426A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】布施 亨
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/147123(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/072858(WO,A1)
【文献】 特開2007−242282(JP,A)
【文献】 特開2008−305661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して
原料炭素材を球状にする造粒工程を有する非水系二次電池用負極材の製造方法であって、
前記造粒工程は、比誘電率が9.0以上60以下であり、
20℃以上、25℃以下における粘度が10cP以上300cP以下であり且つ分子構
造に分岐鎖の無い有機化合物を含む造粒剤を原料炭素材100質量部に対して0.1質量
部以上、20質量部以下の存在下で行うことを特徴とする非水系二次電池用負極材の製造
方法。
【請求項2】
比誘電率が14.0以上である有機化合物を用いることを特徴とする、請求項1に記載
の非水系二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
有機化合物の密度が0.90g/cm以上、1.30g/cm以下であることを特徴
とする、請求項1または2に記載の非水系二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
有機化合物の沸点が150℃以上であることを特徴とする、請求項1乃至3いずれか1
項に記載の非水系二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
有機化合物の炭素数が2以上15以下であることを特徴とする、請求項1乃至4いずれ
か1項に記載の非水系二次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
有機化合物がラジカルと反応することができる極性基を有していることを特徴とする、
請求項1乃至5いずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用負極材の製造方法、及び非水系二次電池用負極材を用いた非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度の高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている。従来、リチウムイオン二次電池の高容量化は広く検討されているが、近年、リチウムイオン二次電池に対する更なる高性能化の要求が高まってきており、更なる高容量化、高入出力化、高寿命化を達成することが求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池については、負極用活物質として、黒鉛等の炭素材料を使用することが知られている。中でも、黒鉛化度の大きい黒鉛は、リチウムイオン二次電池用の負極用活物質として用いた場合、黒鉛のリチウム吸蔵の理論容量である372mAh/gに近い容量が得られ、さらに、コスト・耐久性にも優れることから、負極用活物質として好ましいことが知られている。一方、高容量化のために負極材料を含む活物質層を高密度化すると、材料の破壊・変形により、初期サイクル時の充放電不可逆容量の増加、大電流充放電特性の低下、サイクル特性の低下といった問題点があった。
【0004】
上記の問題を解決するために、例えば、特許文献1には、鱗片状天然黒鉛に力学的エネルギー処理を施すことにより球形化天然黒鉛を製造する技術が開示されている。
また、特許文献2では、原料黒鉛粒子に樹脂バインダを投入して球形化処理することにより、粒子表面が滑らかな球状化黒鉛粒子を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3534391号公報
【特許文献2】特開2014−114197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1で開示されている球形化黒鉛の製造方法では、球形化の処理効率が不十分であり、球状でタップ密度が高い黒鉛を得るために、長い処理時間が必要であった。また、特許文献1開示の方法では、目的とする粒径範囲のものと同時に微粉や粗粉も発生するため、より球形化度の高い黒鉛を得るためには、ふるい分けや分級処理により、微粉または粗粉を除外する工程が必要となることもあり、製品歩留りが下がることの懸念がある。
特許文献2に開示されている球形化黒鉛の製造方法も同様に、樹脂バインダを添加することによる黒鉛粒子同士の付着力は小さく、球形化の処理効率は不十分であった。一方でトルエン溶媒に溶解させた樹脂バインダ溶液を添加して球形化する技術も一例として開示されているが、溶媒の引火点が低いため球形化処理中の温度上昇により引火点以上の温度となり、製造時に爆発や火災の危険を伴うため、さらなる改善が必要である。
【0007】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は従来の球状炭素材の製造方法と比べ、簡便で、処理効率が高い、球状炭素材の製造方法を提供し、その結果
として、高性能な非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、炭素材を球形化処理するにあたり、比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物を含む造粒剤を用いることにより、短時間で高いタップ密度を有する非水系二次電池負極材を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明にかかる炭素材が前記効果を奏する理由については、次の様に考えている。
【0009】
比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物を含む造粒剤の存在下で、造粒処理を施すと、黒鉛同士が結着することにより、効率的に造粒することができる。比誘電率が9.0以上である有機化合物とは、分子の極性が大きいことを意味し、その分子中に電子が分極した反応し易い極性基を持っていることを示す。球形化処理において黒鉛同士が衝突し粉砕される際には、黒鉛のC=C結合やC−C結合が切断され黒鉛表面にラジカルが生じる。球形化処理を大気中で実施する場合は、生じたラジカルと大気中の酸素が結合し、黒鉛表面に−OH基(水酸基)、−C=O基(カルボニル基)、−C=O(−OH)(カルボキシル基)などの官能基が生じる。この黒鉛表面に形成された官能基同士が反発し、黒鉛同士の結合を阻害する方向に働き、結合できない黒鉛粒子が微粉や粗粉となって生成されてしまう。一方、本発明の、比誘電率が9.0以上である有機化合物の存在化で球形化処理を行うと、有機化合物分子中の極性基と黒鉛表面に生じたラジカルとが反応し化学的に結合することができ、有機化合物を介して黒鉛粒子同士が強く結合する傾向となる。このことによって、黒鉛粒子の球形化が促進される。比誘電率が9.0以上である有機化合物であっても、分子中に分岐鎖が存在すると、その分岐鎖が、有機化合物中の極性基の黒鉛表面ラジカルへの接近を阻害し、ラジカルと有機化合物の結合が生じ難くなる傾向を示すため、球形化を促進する効果が不十分となる。また、比誘電率が9.0未満である有機化合物は、分子の極性が小さいことを意味し、その分子中に極性基が無いか少ないことを示す。有機化合物中に極性基が無い場合、黒鉛表面のラジカルと有機化合物が反応せず、物理的に吸着するだけとなるため、黒鉛粒子間の結合が弱く、球形化の促進効果が十分ではなくなる。有機化合物中に極性基が少ない場合も、黒鉛表面のラジカルと有機化合物が反応して化学的に結合する量が少なく、物理的に吸着する量の方が多くなるため、黒鉛粒子間の結合が弱く、球形化の促進効果が十分には働かない。
【0010】
すなわち本発明の要旨は、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を球状にする造粒工程を有する非水系二次電池用負極材の製造方法であって、前記造粒工程は、比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物を含む造粒剤の存在下で行うことを特徴とする製造方法に存する。
また、その他の要旨は、上記製造方法で得られた非水系二次電池用負極材を用いた非水系二次電池に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非水系二次電池用負極材に供する球状黒鉛の製造方法によると、短時間で高いタップ密度を有する球状の黒鉛粒子を得ることができ、それを非水系二次電池用の負極活物質として用いることにより、高容量で、良好な低温入出力特性を有する非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
【0013】
本発明は、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を球状にする造粒工程を有する非水系二次電池用負極材の製造方法であって、前記造粒工程は、比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物を含む造粒剤の存在下で行うことを特徴とする非水系二次電池用負極材の製造方法である。
上記造粒工程を有すれば、必要に応じて別の工程を更に有していてもよい。別の工程は単独で実施してもよいし、複数工程を同時に実施してもよい。一実施形態としては、以下の第1工程乃至第6工程を含む。
【0014】
(第1工程)原料炭素材の粒度を調整する工程
(第2工程)原料炭素材と造粒剤とを混合する工程
(第3工程)原料炭素材を造粒する工程
(第4工程)造粒剤を除去する工程
(第5工程)造粒炭素材を高純度化する工程
(第5’工程)造粒炭素材の結晶性を高める工程
(第6工程)造粒炭素材に、さらに原料炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工程
以下、これら工程について説明する。
【0015】
(第1工程)原料炭素材の粒度を調整する工程
本発明で用いる原料炭素材は特に限定されず、前述した人造黒鉛や天然黒鉛を使用することが出来る。中でも、結晶性が高く高容量であることから天然黒鉛を使用することが好ましい。
天然黒鉛としては、例えば、鱗状、鱗片状、塊状又は板状の天然黒鉛が挙げられ、中でも、鱗片状黒鉛が好ましい。
【0016】
第1工程で得られる、球形化黒鉛の原料となる鱗片上黒鉛などの原料炭素材の平均粒子径(体積基準のメジアン径:d50)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは35μm以下、非常に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。平均粒子径は後述の方法により測定することが出来る。
【0017】
平均粒子径が上記範囲にある場合、不可逆容量の増加やサイクル特性の低下を防ぐことができる。また、球形化黒鉛の粒子内空隙構造を緻密に制御することができる。このため、電解液が粒子内空隙へと効率的に行き渡ることが出来るようになり、粒子内のLiイオン挿入脱離サイトを効率的に利用できようになるため、低温出力特性やサイクル特性が向上する傾向にある。さらに、球形化黒鉛の円形度を高く調整することができるため、Liイオン拡散の屈曲度が上がることなく粒子間空隙中のスムーズな電解液移動が可能となり、急速充放電特性が向上する。
また、平均粒子径が上記範囲にある場合、造粒工程中に生成する微粉を、造粒された黒鉛(以降、造粒炭素材と称す。)となる母材に付着或いは母材の内部に包む込みながら造粒することが可能になり、球形化度が高く微粉が少ない造粒炭素材を得ることが出来る。
【0018】
原料炭素材の平均粒子径(d50)を上記範囲に調整する方法として、例えば(天然)黒鉛粒子を粉砕、及び/または分級する方法が挙げられる。
粉砕に用いる装置に特に制限はないが、例えば、粗粉砕機としてはせん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としては、機械式粉砕機、気流式粉砕機、旋回流式粉砕機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル、サイクロンミル、ターボミル等が挙げられる。特
に、10μm以下の黒鉛粒子を得る場合には、気流式粉砕機や旋回流式粉砕機を用いることが好ましい。
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合は、回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合は、重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)を用いることができ、また、湿式篩い分けの場合は、機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0019】
また、第一工程で得られる、原料炭素材としては以下のような物性を満足することが好ましい。
原料炭素材に含まれる灰分は、原料炭素材の全質量に対して、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。また、灰分の下限は1ppm以上であることが好ましい。
灰分が上記範囲内であると非水系二次電池とした場合に、充放電時の炭素材と電解液との反応による電池性能の劣化を無視できる程度に抑えることができる。また、炭素材の製造に多大な時間とエネルギーと汚染防止のための設備とを必要としないため、コストの上昇も抑えられる。
【0020】
原料炭素材のアスペクト比は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは7以上、特に好ましくは10以上である。また、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。アスペクト比は、後述する方法により測定する。アスペクト比が上記範囲内にあると、粒子径が100μm程度の大きな粒子が出来難く、一方で一方向からの加圧をした際に接触面積が適度なため、強固な造粒炭素材を得易くなる。アスペクト比が大きすぎると粒子径が100μm程度の大きな粒子ができやすい傾向があり、小さすぎる粒子は、一方向からの加圧をした際に接触面積が小さいため、強固な造粒体が形成されない傾向があり、また粒子を造粒しても鱗片状黒鉛の小さい比表面積が反映して、比表面積が30m/gを超える造粒体となる傾向がある。
【0021】
原料炭素材のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)は、通常(d002)が3.37Å以下で(Lc)が900Å以上であり、(d002)が3.36Å以下で(Lc)が950Å以上であることが好ましい。面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)は、炭素材バルクの結晶性を示す値であり、002面の面間隔(d002)の値が小さいほど、また結晶子の大きさ(Lc)が大きいほど、結晶性が高い炭素材であることを示し、黒鉛層間に入るリチウムの量が理論値に近づくので容量が増加する。結晶性が低いと高結晶性黒鉛を電極に用いた場合の優れた電池特性(高容量で、且つ不可逆容量が低い)が発現されない。面間隔(d002)と結晶子サイズ(Lc)は、上記範囲が組み合わされていることが特に好ましい。
X線回折は以下の手法により測定する。炭素粉末に総量の約15質量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定する。その後、学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求める。
【0022】
原料炭素材の充填構造は、粒子の大きさ、形状、粒子間相互作用力の程度等によって左右されるが、本明細書では充填構造を定量的に議論する指標の一つとしてタップ密度を適用することも可能である。本発明者らの検討では、真密度と平均粒子径がほぼ等しい鉛質粒子では、形状が球状で粒子表面が平滑であるほど、タップ密度が高い値を示すことが確認されている。すなわち、タップ密度を上げるためには、粒子の形状に丸みを帯びさせて球状に近づけ、粒子表面のささくれや欠損を除き平滑さを保つことが重要である。粒子形
状が球状に近づき粒子表面が平滑であると、粉体の充填性も大きく向上する。原料炭素材のタップ密度は、好ましくは0.1g/cm以上であり、より好ましくは0.15g/cm以上であり、更に好ましくは0.2g/cm以上であり、特に好ましくは0.3g/cm以上である。タップ密度は実施例で後述する方法により測定する。
【0023】
原料炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルは粒子の表面の性状を現す指標として利用されている。原料炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値は、好ましくは0.05以上0.9以下であり、より好ましくは0.05以上0.7以下であり、更に好ましくは0.05以上0.5以下である。ラマンR値は炭素粒子の表面近傍(粒子表面から100Å位まで)の結晶性を表す指標であり、ラマンR値が小さいほど結晶性が高い、あるいは結晶状態が乱れていないことを示す。ラマンスペクトルは以下に示す方法により測定する。具体的には、測定対象粒子をラマン分光器測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。なお、アルゴンイオンレーザー光の波長は514.5nmとする。
【0024】
原料炭素材のX線広角回折法は、粒子全体の結晶性を表す指標として用いられる。鱗片状黒鉛は、X線広角回折法による菱面体結晶構造に基づく101面の強度3R(101)と六方晶結晶構造に基づく101面の強度2H(101)との比3R/2Hが好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.2以上である。菱面体結晶構造とは、黒鉛の網面構造の積み重なりが3層おきに繰り返される結晶形態である。また、六方晶結晶構造とは黒鉛の網面構造の積み重なりが2層おきに繰り返される結晶形態である。菱面体結晶構造3Rの比率の多い結晶形態を示す鱗片状黒鉛の場合、菱面体結晶構造3Rの比率の少ない黒鉛に比べLiイオンの受け入れ性が高い。
【0025】
原料炭素材のBET法による比表面積は、好ましくは0.3m/g以上、より好ましくは0.5m/g以上、更に好ましくは1m/g以上、特に好ましくは2m/g以上、最も好ましくは5m/g以上であり、好ましくは30m/g以下、より好ましくは20m/g以下、更に好ましくは15m/g以下である。BET法による比表面積は後述する実施例の方法により測定する。原料炭素材の比表面積が上記範囲内にあると、Liイオンの受け入れ性が良好となり、不可逆容量の増加による電池容量の減少を防ぐことができる。鱗片状黒鉛の比表面積が小さすぎると、Liイオンの受け入れ性が悪くなり、大きすぎると不可逆容量の増加による電池容量の減少を防ぐことができない傾向がある。
【0026】
(第2工程)原料炭素材と造粒剤とを混合する工程
本発明は、比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物を含む造粒剤を用いる。
上記造粒剤を用いることで、続く第3工程における原料炭素材を造粒する工程の際に、原料炭素材同士の付着力が増大し、原料炭素材がより強固に付着することが可能となる。
本工程は、単独工程として実施しても、続く第3工程と合わせて実施しても良い。
【0027】
(比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物)
本発明に用いる造粒剤は、比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無い有機化合物を含有する。
比誘電率が高いということは、分子の極性が高く、分子中に反応し易い極性基を持っていることを示す。炭素材同士が衝突することにより炭素粒子表面に生じるラジカルと有機化合物中の極性基が反応し化学的結合を生じる傾向にあるため、該有機化合物を介して黒鉛粒子同士が強く結合され、造粒の効果、しいては球形化効果が促進される。
【0028】
造粒剤が含有する有機化合物の比誘電率は、9以上、好ましくは12以上、より好ましくは14以上、更に好ましくは15以上であり、通常90以下、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。有機化合物の比誘電率が低すぎる場合、有機化合物分子中に極性基が無いか少ないため、炭素表面のラジカルと有機化合物の化学的結合が生じないか少ないため、炭素粒子同士の結合が十分には強くならず、造粒、しいては球形化促進効果が十分に発現されない場合がある。
【0029】
有機化合物の比誘電率は次記の方法で測定することができる。
(測定装置)
本体:Agilent製 4284A PRECISION LCR METER
治具:Agilent製 16452A LIQUID TEST FIXTURE
(測定条件)
測定周波数:100KHz
測定温度 :25.3±2℃
測定湿度 :48±5%
電極間隔 :0.3mm
測定電圧 :1V
(測定原理)
電極とその間に供した有機化合物材料により形成されるコンデンサの容量値から、次式より比誘電率を算出する。
εr=(t×Cp)/(Axε0
εr:有機化合物の比誘電率
ε0:真空の誘電率=8.854×10−12(F/m)
Cp:静電容量(F)
A:電極の面積(m
t:電極間隔:(m)
【0030】
また、本発明において造粒剤が含有する有機化合物は、分子構造に分岐鎖を有さない。分子構造に分岐鎖を有さないことにより、立体障害が生じないため、分子中の極性基が、黒鉛表面のラジカルと反応する距離まで近づくのを阻害せず、該有機化合物と黒鉛表面のラジカルが反応し、化学的結合を生じ易く、該有機化合物を介して黒鉛粒子同士が強く結合され、造粒の効果、しいては球形化効果が促進される。
また、以下に本発明の造粒剤が有する有機化合物の好ましい性状について記載する。
【0031】
・粘度
本発明の造粒剤が有する有機化合物の20〜25℃における粘度が1cP以上10000cP以下であることが好ましく、5cP以上1000cP以下であることがより好ましく、10cP以上600cP以下であることが更に好ましく、20cP以上300cP以下であることが特に好ましい。粘度が上記範囲内にあると、原料炭素材を造粒する際に、ブレードやケーシングとの衝突などの衝撃力による付着粒子の脱離を妨ぐことが可能となる。
【0032】
粘度は、市販の粘度計(ブルックフィールド社DV-II コーンプレート型)を用い、
カップに測定対象(ここでは造粒剤)を所定量入れ、所定の温度に調節して測定する。せん断速度100s−1におけるせん断応力が0.1Pa以上の場合にはせん断速度100s−1で測定した値を、せん断速度100s−1におけるせん断応力が0.1Pa未満の場合には1000s−1で測定した値を、せん断速度1000s−1におけるせん断応力が0.1Pa未満の場合にはせん断応力が0.1Pa以上となるせん断速度で測定した値を、本明細における粘度と定義する。なお、用いるスピンドルを低粘度流体に適した形状
とすることでもせん断応力を0.1Pa以上とすることが出来る。
【0033】
・炭素数
本発明の造粒剤が有する有機化合物の炭素数は、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、通常15以下、好ましくは13以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
上記範囲であれば、有機化合物の有する極性基が有効に働き、球形化を促進する効果がより高く発現する傾向がある。炭素数が上記範囲より小さいと、造粒処理中に蒸発等により有機化合物量が減少し、球形化促進効果が小さくなる可能性がある。炭素数が上記範囲より大きい場合は、有機化合物中の極性基の相対量が減少することになり、球形化促進効果が小さくなることがある。
【0034】
・密度
本発明の造粒剤が有する有機化合物の密度は、通常0.90g/cm以上、好ましくは0.95g/cm以上、より好ましくは1.0g/cm以上、更に好ましくは1.05g/cm以上であり、通常1.5g/cm以下、好ましくは1.3g/cm以下、より好ましくは1.25g/cm以下、更に好ましくは1.20g/cm以下である。
上記範囲であれば、有機化合物の有する極性基の量が適正であり、球形化を促進する効果がより高く発現する傾向にある。極性基同士は水素結合等により適当に会合するため、比重が高まる傾向にある。有機化合物の密度が上記範囲より小さいということは、極性基の量が少ない、或いは無いとうことを示しており、球形化促進効果が小さくなる傾向にある。一方、密度が上記範囲より大きい場合は、有機化合物中の極性基の同士の会合力が強いことの可能性が考えられ、造粒処理の時極性基の会合が解離し難い場合があり、黒鉛表面のラジカルとの反応量が減少し、球形化促進効果が小さくなることがある。
なお、有機化合物の密度は実施例に記載の方法で測定できる。
【0035】
・沸点
本発明の造粒剤が有する有機化合物の沸点は、通常150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、更に好ましくは250℃以上であり、上限は特に限定しない。
上記範囲以下であると、造粒処理中に有機化合物が蒸発することがあり有機化合物量が減少し、球形化促進効果が小さくなる可能性があり、望ましくない。上記範囲であれば、造粒処理中の有機化合物の蒸発が球形化効果促進に影響を及ぼさない程度に小さいか、または蒸発が生じず、有機化合物による球形化促進効果が十分に発現できる傾向となる。
なお、有機化合物の沸点は実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
・極性基
本発明の造粒剤が有する有機化合物としては、比誘電率が9.0以上であり且つ分子構造に分岐鎖の無いものであれば特に限定されないが、極性基として、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)、カルボニル基(−C=O)、アルコキシド基(−OCH,−OCHCH,−OCH−))、アミノ基(−NH)、ニトリル基(−CN)、ハロゲン(−F,−Cl、−Br、−I)などを有することが好ましく、中でも、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH)などが、末端原子が解離し易く、黒鉛表面に生じるラジカルとの反応がし易い点から更に好ましい。
上記特性を有する有機化合物は単独でも複数を混合して用いてもよく、更に上記有機化合物に含まれない他の有機溶剤や、水などに溶かして用いることもできる。造粒剤中の上記特性を有する有機化合物の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、100質量%以下である。
【0037】
さらに、本発明で用いる造粒剤は、他の有機溶剤を含む場合、少なくとも1種は引火点を有さない、あるいは引火点を有するときは引火点が5℃以上、好ましくは50℃以上、更に好ましくは90℃以上、特に好ましくは150℃以上のものであることが好ましい。これにより、続く第3工程における原料炭素材を造粒する際に、衝撃や発熱に誘発される有機化合物の引火、火災、及び爆発の危険を防止することができるため、安定的に効率良く製造を実施することが出来る。
【0038】
原料炭素材と造粒剤を混合する方法として、例えば、原料炭素材と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法や、有機化合物を低粘度希釈溶媒(有機溶剤)に溶解させた造粒剤と原料炭素材を混合した後に該希釈溶媒(有機溶剤)を除去する方法等が挙げられる。また、続く第3工程にて原料炭素材を造粒する際に、造粒装置に造粒剤と原料炭素材とを投入して、原料炭素材と造粒剤を混合する工程と造粒する工程とを同時に行う方法も挙げられる。
【0039】
造粒剤の添加量は、原料炭素材100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、より更に好ましくは6質量部以上、こと更に好ましくは10質量部以上であり、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下、特に好ましくは50質量部以下、最も好ましくは20質量部以下である。上記範囲内にあると、粒子間付着力の低下による球形化度の低下や、装置への原料炭素材の付着による生産性の低下といった問題が生じ難くなる。
【0040】
(第3工程)原料炭素材を造粒する工程(原料炭素材に対して球形化処理を行う工程)
炭素材は、原料炭素材に衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与えることにより球形化処理(以下、造粒とも称する)を施したものであることが好ましい。また、該球形化黒鉛は、複数の鱗片状黒鉛又は鱗状黒鉛、及び磨砕された黒鉛微粉からなるものであることが好ましく、特に複数の鱗片状黒鉛からなるものであることが特に好ましい。
本発明の製造方法は、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を造粒する造粒工程を有する。
この工程に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に、原料炭素材の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し与える装置を用いることができる。
【0041】
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された原料炭素材に対して衝撃、圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、原料炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返し与える機構を有するものであるのが好ましい。
このような装置としては、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン、クリプトロンオーブ(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム、ノビルタ、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)、COMPOSI(日本コークス工業製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。
【0042】
前記装置を用いて処理する場合、例えば、回転するブレードの周速度は好ましくは30m/秒以上、より好ましくは50m/秒以上、更に好ましくは60m/秒以上、特に好ましくは70m/秒以上、最も好ましくは80m/秒以上であり、好ましくは150m/秒以下である。上記範囲内であると、より効率的に球形化と同時に微粉の母材への付着や母材による内包を行うことができるため好ましい。
また、原料炭素材に機械的作用を与える処理は、単に原料炭素材を通過させるだけでも可能であるが、原料炭素材を30秒以上、装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、より好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上、装置内を循環又は滞留させて処理する。
【0043】
また、前記装置のケーシング内容積は、特に制限されないが、通常1L以上、好ましくは10L以上、通常3000L以下、好ましくは1000L以下である。
上記範囲内であれば、処理能力が高くでき、ローターを回転させるための動力も適正となり、効率的に処理できるため好ましい。ケーシング内容積が上記範囲より小さいと、仕込める原料の量が少ないため、処理能力に劣り好ましくない。一方上記範囲より大きい場合、ケーシング内に仕込む原料が多くなるため、ローターを回転さるのに大きな動力が必要となる傾向がある。また、ケーシング内容積が上記敗範囲より大きい場合でも仕込む原料の量を少なくすることも可能であるが、仕込む原料量に対し必要以上に内容積が大きい設備となり非効率となる傾向がある。
【0044】
また、前記装置のブレードの長さは、特に制限されないが、通常10mm以上、好ましくは30mm以上、通常1000mm以下、好ましくは800mm以下である。
上記範囲内であれば、原料がブレードに効率的に衝突するため、造粒効果球形化効果が高くなり、処理能力が高くなるため好ましい。ブレードの長さが上記範囲より短い場合は、原料に衝突するブレードの面積が小さいため、造粒球形化するのに長時間を要する傾向がある。ブレードの長さが、上記範囲より大きい場合、ローターを回転さるのに大きな動力が必要となる傾向がある。
【0045】
また原料炭素材を造粒する工程においては、原料炭素材を、その他の物質存在下で造粒してもよく、その他の物質としては、例えばリチウムと合金化可能な金属或いはその酸化物、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、磨砕された黒鉛微粉、非晶質炭素、及び生コークスなどが挙げられる。原料炭素材以外の物質と併せて造粒することで様々なタイプの粒子構造の非水系二次電池用負極材を製造できる。
【0046】
また、原料炭素材や造粒剤や上記その他の物質は上記装置内に全量投入してもよく、分けて逐次投入してもよく、連続投入してもよい。また、原料炭素材や造粒剤や上記その他の物質は上記装置内に同時に投入してもよく、混合して投入してもよく、別々に投入してもよい。原料炭素材と造粒剤と上記その他の物質を同時に混合してもよいし、原料炭素材と造粒剤を混合したものに上記その他の物質を添加してもよいし、その他の物質と造粒剤を混合したものに原料炭素材を添加してもよい。粒子設計に併せて、別途適切なタイミングで添加・混合することができる。
【0047】
炭素材の球形化処理の際には、球形化処理中に生成する微粉を母材に付着、及び/又は球形化粒子に内包しながら球形化処理することがより好ましい。球形化処理中に生成する微粉を母材に付着、及び/又は球形化粒子に内包しながら球形化処理することにより、粒子内空隙構造をより緻密化することが可能となる。このため、電解液が粒子内空隙へと有効且つ効率的に行き渡り、粒子内のLiイオン挿入脱離サイトを効率的に利用できなくなるため、良好な低温出力特性やサイクル特性を示す傾向がある。また、母材に付着する微粉は球形化処理中に生成したものに限らず、鱗片状黒鉛粒度調整の際に同時に微粉を含むよう調整してもよいし、別途適切なタイミングで添加・混合してもよい。
【0048】
微粉を母材に付着、及び球形化粒子に内包させるために、鱗片状黒鉛粒子−鱗片状黒鉛粒子間、鱗片状黒鉛粒子−微粉粒子間、及び微粉粒子−微粉粒子間の付着力を強くすることが好ましい。粒子間の付着力として、具体的には、粒子間介在物を介さないファンデルワールス力や静電引力、粒子間介在物を介する物理的及び/または化学架橋力等が挙げら
れる。
【0049】
ファンデルワールス力は、平均粒子径(d50)が100μmを境に小さくなるほど「自重<付着力」となる。このため、球形化黒鉛の原料となる鱗片状黒鉛(原料炭素材)の平均粒子径(d50)が小さいほど粒子間付着力が増し、微粉が母材に付着、及び球形化粒子に内包された状態となりやすく好ましい。鱗片状黒鉛の平均粒子径(d50)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは35μm以下、非常に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0050】
静電引力は、粒子摩擦等による帯電に由来しており、粒子が乾燥しているほど帯電しやすく粒子間付着力が大きくなる傾向がある。従って、例えば球形化処理を行う前の黒鉛に含まれる水分量を少なくしておくことで粒子間付着力を高めることができる。
【0051】
球形化処理の際には、処理中の鱗片状黒鉛が吸湿しないよう、低湿度雰囲気下で行うことが好ましい、また処理中に機械処理のエネルギーにより鱗片状黒鉛表面の酸化反応が進行して酸性官能基が導入されることを防ぐことを目的として不活性雰囲下で球形化処理を行うことが好ましい。
粒子間介在物を介する物理的及び/または化学的架橋力としては、液体性介在物、固体性介在物、を介する物理的及び/または化学的架橋力が挙げられる。上記化学的架橋力としては、粒子と粒子間介在物との間で化学反応、焼結、メカノケミカル効果などにより、共有結合、イオン結合、水素結合等が形成された場合の架橋力が挙げられる。
【0052】
<造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)の物性>
第3工程により造粒された造粒炭素材(球形化黒鉛)の好ましい物性について、説明する。
【0053】
・体積基準平均粒径(平均粒径d50)
造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)の体積基準平均粒径(「平均粒径d50」、又は「メジアン径」とも記載する。)は好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、殊更に好ましくは8μm以上、特に好ましくは9.5μm以上である。また平均粒径d50は、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、殊更に好ましくは31μm以下、特に好ましくは30μm以下である。上記範囲内であれば、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、非水電化液二次電池不可逆容量の増加を抑制でき、またスラリー塗布における筋引きなどの生産性が損なわれないといった傾向がある。
平均粒径d50が小さすぎると、非水系二次電池の不可逆容量の増加、初期電池容量の損失を招く傾向があり、一方平均粒径d50が大きすぎるとスラリー塗布における筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下を招く場合がある。
【0054】
また、本明細書において平均粒径d50は、イソプロパノール10mLに、炭素材0.01gを懸濁させ、これを測定サンプルとして市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA製LA−920)に導入し、測定サンプルに28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、前記測定装置において体積基準のメジアン径として測定したものであると定義する。
【0055】
・平均粒径d10
造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)の体積基準で測定した粒径の、小さい粒子側から累積10%に相当する粒径(d10)は好ましくは30μm以下、より好ましくは2
0μm以下、更に好ましくは17μm以下、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。
【0056】
d10が上記範囲内にあると、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、粒子の凝集傾向が強くなり過ぎず、スラリー粘度上昇などの工程不都合の発生、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を回避できる。また、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下も回避する傾向にある。
d10は、平均粒径d50の測定の際に得られた粒度分布において、粒子の頻度%が小さい粒径から積算で10%となった値として定義される。
【0057】
・平均粒径d90
造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)の体積基準で測定した粒径の、小さい粒子側から累積90%に相当する粒径(d90)は好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、更に好ましくは60μm以下、より更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、最も好ましくは35μm以下、好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上、更に好ましくは15μm以上である。
【0058】
d90が上記範囲内にあると、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を回避でき、スラリーの塗布時の筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下も回避できる傾向にある。
d90は、平均粒径d50の測定の際に得られた粒度分布において、粒子の頻度%が小さい粒径から積算で90%となった値として定義される。
【0059】
・d90/d10
造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)のd90/d10は通常1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上、特に好ましくは2以上であり、通常10以下、好ましくは7以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下である。d90/d10が上記範囲内であると、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、大きな粒子間の空隙に小さな粒子が入る事により非水系二次電池用負極材の充填性が向上して、比較的大きな細孔である粒子間細孔をより小さく、且つ容積を低減できるため、粉体に対する水銀圧入法により求められる細孔分布におけるモード径を小さくすることが可能になる。この結果、高容量で、優れた充放電負荷特性、及び入出力特性を示す傾向がある。
d90/d10は上記方法により測定したd90をd10で除した値として定義される。
【0060】
・タップ密度
造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)のタップ密度は通常0.7g/cm以上、好ましくは0.75g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは0.85g/cm以上、殊更に好ましくは0.88g/cm以上、特に好ましくは0.90g/cm以上、より特に好ましくは0.91g/cm以上、最も好ましくは0.92g/cm以上であり、好ましくは1.3g/cm以下であり、より好ましくは1.2g/cm以下であり、更に好ましくは1.1g/cm以下である。
【0061】
タップ密度が上記範囲内であると、非水系二次電池用負極材として用いる場合、極板化作製時のスジ引きなどの生産性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、粒子内炭素密度が上昇し難いため圧延性も良好で、高密度の負極シートを形成し易くなる傾向にある。
前記タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径5cm、体積容量100cmの円筒状タップセル上部に直径5cm高さ5cmの円筒を取り付け、目開き300μmの篩を通
して測定試料を落下させて、セル及び上部円筒に充填した後、ストローク長20mmのタップを500回行なった後、上部円筒を取り外し、セル上部面でセル上部の粉をスパチュラで摺り切り除去し、その時のセル内体積とセル内試料の質量から求めた密度として定義する。
【0062】
造粒剤除去前の造粒炭素材(球形化黒鉛)は、そのまま、或いは次記の第4工程を実施する、或いは第4工程を実施した後第5工程以降を必要により実施する、或いは次記の第5工程を実施する、或いは第5工程を実施した後第6工程以降を必要により実施する、或いは第6工程以降を必要により実施することで、非水系二次電池用負極材に用いることができる。
【0063】
(第4工程)造粒剤を除去する工程
本発明の一実施形態においては、前記造粒剤を除去する工程を有していてもよい。造粒剤を除去する方法としては、例えば、溶剤により洗浄する方法や、熱処理により造粒剤を揮発・分解除去する方法が挙げられる。
熱処理温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは200℃以上、より更に好ましくは300℃以上、特に好ましくは400℃以上、最も好ましくは500℃であり、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1000℃以下、更に好ましくは800℃以下である。熱処理温度が上記範囲内にあると、十分に造粒剤を揮発・分解除去でき生産性を向上できる。
【0064】
熱処理時間は、好ましくは0.1〜48時間、より好ましくは0.2〜40時間、更に好ましくは0.4〜30時間、特に好ましくは0.5〜24時間である。熱処理時間が上記範囲内にあると、十分に造粒剤を揮発・分解除去でき生産性を向上できる。
【0065】
熱処理の雰囲気は、大気雰囲気などの活性雰囲気、もしくは、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気があげられ、200℃〜300℃で熱処理する場合には特段制限はないが、300℃以上で熱処理を行う場合には、黒鉛表面の酸化を防止する観点で、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気が好ましい。
【0066】
<造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)の物性>
第4工程により造粒剤を除去した造粒炭素材(球形化黒鉛)の好ましい物性について、説明する。
【0067】
・体積基準平均粒径(平均粒径d50)
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)の体積基準平均粒径(「平均粒径d50」、又は「メジアン径」とも記載する。)は好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、殊更に好ましくは8μm以上、特に好ましくは9.5μm以上である。また平均粒径d50は、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、殊更に好ましくは31μm以下、特に好ましくは30μm以下である。上記範囲内であれば、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、非水電化液二次電池不可逆容量の増加を抑制でき、またスラリー塗布における筋引きなどの生産性が損なわれないといった傾向がある。
平均粒径d50が小さすぎると、非水系二次電池の不可逆容量の増加、初期電池容量の損失を招く傾向があり、一方平均粒径d50が大きすぎるとスラリー塗布における筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下を招く場合がある。
【0068】
・平均粒径d10
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)の体積基準で測定した粒径の、小さい粒子側
から累積10%に相当する粒径(d10)は好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは17μm以下、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。
【0069】
d10が上記範囲内にあると、非水系二次電池用負極材として用いた場合、粒子の凝集傾向が強くなり過ぎず、スラリー粘度上昇などの工程不都合の発生、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を回避できる。また、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下も回避する傾向にある。
【0070】
・平均粒径d90
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)の体積基準で測定した粒径の、小さい粒子側から累積90%に相当する粒径(d90)は好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、更に好ましくは60μm以下、より更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、最も好ましくは35μm以下、好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上、更に好ましくは15μm以上である。
【0071】
d90が上記範囲内にあると、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を回避でき、スラリーの塗布時の筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下も回避できる傾向にある。
【0072】
・d90/d10
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)のd90/d10は通常1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上、特に好ましくは2以上であり、通常10以下、好ましくは7以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下である。d90/d10が上記範囲内であると、非水系二次電池用負極材として用いたいた場合、大きな粒子間の空隙に小さな粒子が入る事により非水系二次電池用負極材の充填性が向上して、比較的大きな細孔である粒子間細孔をより小さく、且つ容積を低減できるため、粉体に対する水銀圧入法により求められる細孔分布におけるモード径を小さくすることが可能になる。この結果、高容量で、優れた充放電負荷特性、及び入出力特性を示す傾向がある。
【0073】
・タップ密度
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)のタップ密度は通常0.7g/cm以上、好ましくは0.75g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは0.85g/cm以上、殊更に好ましくは0.88g/cm以上、特に好ましくは0.90g/cm以上、より特に好ましくは0.91g/cm以上、最も好ましくは0.92g/cm以上であり、好ましくは1.3g/cm以下であり、より好ましくは1.2g/cm以下であり、更に好ましくは1.1g/cm以下である。
【0074】
タップ密度が上記範囲内であると、非水系二次電池用負極材として用いる場合、極板化作製時のスジ引きなどの生産性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、粒子内炭素密度が上昇し難いため圧延性も良好で、高密度の負極シートを形成し易くなる傾向にある。
【0075】
・嵩密度
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)の嵩密度は好ましくは0.3g/cm3以上
、より好ましくは0.35g/cm3以上、更に好ましくは0.4g/cm3以上、特に好ましくは0.45g/cm3以上、より好ましくは1.3g/cm3以下であり、更に好ましくは1.2g/cm3以下、特に好ましくは1.1g/cm3以下、最も好ましくは1g/cm3以下である。
嵩密度が上記範囲内であると、非水系二次電池用負極材として用いる場合、極板化作製時のスジ引きなどが抑制され生産性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、適度な細孔を有するため、電解液がスムーズに移動でき、良好な充放電負荷特性、及び低温入出力特性を示す傾向にある。
前記嵩密度は、粉体密度測定器を用い、直径5cm、体積容量100cm3の円筒状タ
ップセルに、目開き300μmの篩を通して非水系二次電池用負極材を落下させて、セルに満杯に充填したときの体積と試料の質量から求めた密度として定義する。
【0076】
・BET比表面積(SA)
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)のBET法により測定した比表面積(SA)は、好ましくは5m/g以上、より好ましくは10m/g以上、更に好ましくは15m/g以上、特に好ましくは18m/g以上である。また、好ましくは40m/g以下、より好ましくは30m/g以下、更に好ましくは28m/g以下である。
比表面積が上記範囲内であると、非水系二次電池用負極材として用いる場合、Liが出入りする部位を十分確保することができるため高速充放電特性出力特性に優れ、活物質の電解液に対する活性も適度抑えることができるため、初期不可逆容量が大きくならず、高容量電池を製造できる傾向にある。
また、炭素材を使用して負極を形成した場合の、その電解液との反応性の増加を抑制でき、ガス発生を抑えることができるため、好ましい非水系二次電池を提供することができる。
【0077】
BET比表面積は、表面積計(例えば、島津製作所製比表面積測定装置「ジェミニ2360」)を用い、炭素材試料に対して窒素流通下100℃、3時間の予備減圧乾燥を行なった後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET6点法によって測定した値として定義する。
造粒剤除去後の造粒炭素材(球形化黒鉛)は、そのまま、或いは次記の第5工程を実施する、或いは第5工程を実施した後第6工程以降を必要により実施する、或いは第6工程以降を必要により実施することで、非水系二次電池用負極材に用いることができる。
【0078】
(第5工程)造粒炭素材を高純度化する工程
本発明においては、造粒炭素材を高純度化する工程を有していてもよい。造粒炭素材を高純度化する方法としては、硝酸や塩酸を含む酸処理を行う方法が挙げられ、活性の高い硫黄元となりうる硫酸塩を系内に導入することなく黒鉛中の金属、金属化合物、無機化合物などの不純物を除去できるため好ましい。
なお、上記酸処理は、硝酸や塩酸を含む酸を用いればよく、その他の酸、例えば、臭素酸、フッ酸、ホウ酸あるいはヨウ素酸などの無機酸、または、クエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリクロロ酢酸あるいはトリフルオロ酢酸などの有機酸を適宜混合した酸を用いることもできる。好ましくは濃フッ酸、濃硝酸、濃塩酸であり、より好ましくは濃硝酸、濃塩酸である。なお、本発明において硫酸にて黒鉛を処理してもよいが、本発明の効果や物性を損なわない程度の量と濃度にて用いることとする。
【0079】
酸を複数用いる場合、例えば、フッ酸、硝酸、塩酸の組み合わせが、上記不純物を効率良く除去できるため好ましい。上記のように酸の種類を組み合わせた場合の混合酸の混合比率は、最も少ないものが通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは、25質量%以上である。上限は、全て等量混合した値である(100質量%/酸の種類で表される)。
【0080】
酸処理における黒鉛と酸の混合比率(質量比率)は、通常100:10以上、好ましくは100:20以上、より好ましくは、100:30以上、更に好ましくは、100:4
0以上であり、また100:1000以下、好ましくは100:500以下、より好ましくは100:300以下である。少なすぎると上記不純物を効率良く除去できなくなる傾向がある。一方、多すぎると、一回に洗浄できる黒鉛量が減り、生産性低下とコストの上昇を招くため、好ましくない。
【0081】
酸処理は、黒鉛を前記のような酸性溶液に浸漬することにより行われる。浸漬時間は、通常0.5〜48時間、好ましくは1〜40時間、より好ましくは2〜30時間、更に好ましくは、3〜24時間である。長すぎると、生産性低下とコストの上昇を招く傾向があり、短すぎると、上記不純物を十分に除去できなくなる傾向がある。
浸漬温度は、通常25℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは、60℃以上である。水系の酸を用いる場合の理論上限は水の沸点である100℃である。この温度が低すぎると、上記不純物を十分に除去できなくなる傾向がある。
【0082】
酸洗浄により残った酸分を除去し、pHを弱酸性から中性域にまで上昇させる目的で、更に水洗浄を実施することが好ましい。例えば、前記酸によって洗浄処理された黒鉛(処理黒鉛)のpHが、通常3以上、好ましくは3.5以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは4.5以上であれば、水で洗浄することは省略できるし、もし上記範囲でなければ、必要に応じて水で洗浄することが好ましい。洗浄する水は、イオン交換水や蒸留水を用いることが、洗浄効率の向上、不純物混入防止の観点から好ましい。水中のイオン量の指標となる比抵抗が、通常0.1MΩ・cm以上、好ましくは1MΩ・cm以上、より好ましくは、更に好ましくは10MΩ・cm以上、である。25℃での理論上限は18.24MΩ・cmである。この数値が小さいと水中のイオン量が多くなることを示しており、不純物混入、洗浄効率低下の傾向がある。
【0083】
水で洗浄する、つまり前記処理黒鉛と水とを撹拌する時間は、通常0.5〜48時間、好ましくは1〜40時間、より好ましくは2〜30時間、更に好ましくは、3〜24時間である。長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、短すぎると、残留不純物・酸分が増大する傾向になる。
前記処理黒鉛と水との混合割合は、通常100:10以上、好ましくは100:30以上、より好ましくは、100:50以上、更に好ましくは、100:100以上であり、また100:1000以下、好ましくは100:700以下、より好ましくは100:500以下、更に好ましくは100:400以下である。多すぎると生産効率が低下する傾向があり、少なすぎると残留不純物・酸分が増大する傾向になる。
【0084】
撹拌温度は、通常25℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは、60℃以上である。上限は水の沸点である100℃である。低すぎると、残留不純物・酸分が増大する傾向になる。
また、水洗浄処理をバッチ式にて行う場合は、純水中での攪拌−ろ過の処理工程を複数回繰り返して洗浄行うことが不純物・酸分除去の観点から好ましい。上記処理は、上述した処理黒鉛のpHが上記範囲になるように繰り返し行ってもよい。通常、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは、3回以上である。
【0085】
上述したように処理を施すことにより、得られた黒鉛の廃水水素イオン濃度が、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、また通常1ppm以上、好ましくは2ppm以上、より好ましくは3ppm以上、更に好ましくは4ppm以上となる。水素イオン濃度が高すぎると、酸分が残存してpHが低下する傾向があり、低すぎると処理に時間がかかり生産性の低下に繋がる傾向がある。
【0086】
(第5’工程)造粒炭素材を熱処理する工程
本発明においては、造粒炭素材の不安定炭素量や結晶性を調整するため、熱処理する工程を有していてもよい。上述の造粒処理を施す場合には炭素材粒子表面の不安低炭素量が増大しすぎる場合があり、熱処理を行なうことによって、不安低炭素量を適度に少なくすることができる。
熱処理時の温度条件は特に制限されないが、目的とする結晶化度の程度に応じて、通常300℃以上、好ましくは500℃、更に好ましくは700℃、特に好ましくは800℃以上、また、通常2000℃以下、好ましくは1500℃以下、特に好ましくは1200℃以下の範囲である。上記温度条件であると、炭素材粒子表面の結晶性を適度に高めることができる。
【0087】
また、造粒炭素材として結晶性が低い炭素材を含有する場合、放電容量を大きくすること目的とし、本工程において結晶性の低い炭素材を黒鉛化して結晶性を高めることが出来る。熱処理時の温度条件は特に制限されないが、目的とする結晶化度の程度に応じて、通常600℃以上、好ましくは900℃、更に好ましくは1600℃、特に好ましくは2500℃以上、また、通常3200℃以下、好ましくは3100℃以下の範囲である。上記温度条件であると、炭素材粒子表面の結晶性を高めることができる。
また、炭素材粒子表面の結晶は乱れている場合があり、上述の造粒処理を施す場合には特にその乱れが顕著であるため、熱処理を行なうことによって、乱された炭素材粒子表面の結晶を修復することができる。
【0088】
熱処理を行なう時に、温度条件を上記範囲に保持する保持時間は特に制限されないが、通常10秒より長時間であり、72時間以下である。
熱処理は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、又は、原料黒鉛から発生するガスによる非酸化性雰囲気下で行なう。熱処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、シャトル炉、トンネル炉、電気炉、リードハンマー炉、ロータリーキルン、直接通電炉、アチソン炉、抵抗加熱炉、誘導加熱炉等を用いることができる。
【0089】
(第6工程)造粒炭素材に、さらに原料炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工程
本発明の製造方法では、造粒炭素材に、さらに原料炭素材より結晶性が低い炭素質物(B)を添着する工程を有していてもよい。すなわち、複合炭素材は、電解液との副反応抑制や、急速充放電性の向上を目的とし、前記炭素材に炭素質物(B)を複合化することができる。この工程によれば、電解液との副反応抑制や、急速充放電性の向上できる炭素材を得ることができる。
造粒炭素材に、さらに原料炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着した複合黒鉛を「炭素質物複合炭素材」、「複層構造炭素材」又は「複合炭素材」と呼ぶことがある。
【0090】
・複合炭素材中の炭素質物(B)の含有量
複合炭素材中の炭素質物(B)の含有量は、造粒炭素材に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上、最も好ましくは3質量%以上であり、また前記含有量は、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは7質量%以下である。
【0091】
複合炭素材中の炭素質物(B)の含有量が多すぎると、非水系二次電池において高容量を達成する為に十分な圧力で圧延を行った場合に、炭素材(A)にダメージが与えられて材料破壊が起こり、初期サイクル時充放電不可逆容量の増大、初期効率の低下を招く傾向がある。一方、含有量が小さすぎると、被覆による効果が得られにくくなる傾向がある。
また、複合炭素材中の炭素質物(B)の含有量は、下記式のように材料焼成前後のサン
プル質量より算出できる。なおこのとき、造粒炭素材の焼成前後質量変化はないものとして計算する。
【0092】
炭素質物(B)の含有量(質量%)=[(w2−w1)/w1]×100
(w1を造粒炭素材の質量(kg)、w2を複合炭素材の質量(kg)とする)
複合炭素材中の炭素質物(B)の量は、混合法で炭素質物(B)を複合化する場合には、造粒炭素材と炭素質物(B)前駆体の複合化時の添加する炭素質物(B)前駆体の量や炭素質物(B)前駆体の残炭率等によってコントロールすることができる。例えばJIS
K2270記載の方法で求めた炭素質物(B)前駆体の残炭率がp%である場合には所望の炭素質物(B)量の100/p倍の炭素質物(B)前駆体を添加することとなる。また、気相法で炭素質物(B)を複合化する場合には、炭素質物(B)前駆体流通の温度、圧力、時間等によってコントロールすることができる。
【0093】
・炭素質物(B)のX線パラメータ
炭素質物(B)の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.3445nm以下、好ましくは0.335nm以上、0.340nm未満である。ここで、d値はより好ましくは0.339nm以下、更に好ましくは0.337nm以下である。d002値が上記範囲内にあると、黒鉛層間に入るリチウムの量が増加するため、高い充放電容量を示す。
【0094】
また、学振法によるX線回折で求めた炭素質物(B)の結晶子サイズ(Lc)は、好ましくは1.5nm以上、より好ましくは3.0nm以上の範囲である。上記範囲内であると、黒鉛層間に入るリチウムの量が増加するため、高い充放電容量を示す。なお、Lcの下限は黒鉛の理論値である。
なお、炭素質物(B)のX線パラメータは、例えば炭素質物(B)前駆体のみを加熱焼成し、炭素質物(B)を得ることで分析することができる。
【0095】
・造粒炭素材との複合化
造粒炭素材の表面に炭素質物(B)を含有させるには、例えば、造粒炭素材に炭素質物(B)の前駆体を混合もしくは炭素質物(B)を蒸着させる。特に好ましくは、造粒炭素材に炭素質物(B)前駆体である有機化合物を均一に被覆されるように混合し、非酸化性雰囲気下で加熱する処理(本発明では混合法とよぶ)、もしくは造粒炭素材に炭素質物(B)前駆体である気相コート原料化合物を不活性ガス雰囲気下において均一に蒸着させる処理(本発明では気相法とよぶ)等が挙げられる。以下、混合法と気相法について説明する。
【0096】
(混合法)
混合法では、造粒炭素材に炭素質物(B)前駆体である有機化合物を均一に被覆されるように混合し、非酸化性雰囲気下で加熱する。
【0097】
<炭素質物(B)前駆体となる有機化合物の種類>
炭素質物(B)前駆体である有機化合物としては、軟質ないし硬質の種々のコールタールピッチやコールタールや石炭液化油などの炭素系重質油、原油の常圧又は減圧蒸留残渣油などの石油系重質油、ナフサ分解によるエチレン製造の副生物である分解系重質油など種々のものを用いることができる。
また、本発明の一実施形態としては、アニリン点が80℃以下の造粒剤との親和性が良く、造粒黒鉛の表面に炭素質物前駆体となる有機化合物を均一に付着させることが可能となるため石油系原料油や石炭系原料油を用いることが好ましく、石炭系原料油を用いることが特に好ましい。
【0098】
樹脂由来の有機化合物としては、フェノール樹脂、ポリアクリルニトリル、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂、また、セルロース類、澱粉、多糖類などの天然高分子を挙げることができる。
【0099】
石炭系原料油としては、石炭を原料として製造されるコールタールピッチ、含浸ピッチ、成形ピッチ、石炭液化油等の石炭系重質油、コールタールピッチ中の不溶成分を取り除いた精製コールタールピッチ等を用いることができる。石炭系原料油は、ベンゼン環が多数結合したジベンゾコロネンやペンタセンなどの平板状の芳香族性炭化水素類を多く含んでいる。平板構造の香族性炭化水素は、焼成工程で温度が高まり流動性が増した時に、該平板構造の芳香族炭化水素の面同士が重なり易く、熱による重縮合反応により該平板構造が重なった状態で進行するため、重縮合により高分子化した炭化水素同士の面間に働くファンデルワールス力が強くなり、該高分子化した炭化水素同士の面間距離が小さくなり易く、結果、結晶化の進行度合いが高くなる。
【0100】
石油系原料油としては、重油の蒸留残渣油、ナフサ分解残渣油、接触分解重質油などが挙げられる。また、分解系重質油を熱処理することで得られるエチレンタールピッチ、FCCデカントオイル、アシュランドピッチなどの熱処理ピッチ等を挙げることができる。石油系原料油は、ベンゼン環が多数結合した平板状の芳香族性炭化水素類も含んではいるが、直鎖状のパラフィン系炭化水素を多数含んでおり、更には、ベンゼン環が多数結合した平板状の芳香族性炭化水素類であっても、メチル基などの側鎖がついているものが多いことや、ベンゼン環の一部がシクロヘキサン環に置換された物も多く含んでいることが知られている。そのため焼成工程で温度が高まり流動性が増し平板構造の芳香族炭化水素の面同士が重なろうとするときに、その面に前記直鎖状のパラフィンが多くあることで、その重なりが阻害される傾向にある。また、平板状の芳香族性炭化水素類にメチル基などの側鎖がついているものは、平板状の芳香族性炭化水素の重なりの邪魔になる傾向にある。また、シクロキサン環も芳香族性炭化水素の重なりを阻害する傾向があるが、シクロキサン環は熱により分解されメチル基などの側鎖になり、更にその重なりを阻害する傾向を示す。これらのことから、前記石炭系原料油は、石油系原料油に比較して、結晶化の進行度合いが大きい傾向となるため、本発明で用いる炭素質物前駆体となる有機化合物としては好ましい。
【0101】
具体的には、石油精製の際に発生する石油系重質油と、製鉄用コークスを製造する際に発生するコールタールを出発原料とする石炭系原料油が好ましく、コールタールを蒸留する際に塔底から抜き出される軟化点0℃以上、好ましくは30〜100℃の軟ピッチ又は中ピッチと称されるピッチがより好ましい。また、本発明の炭素質物前駆体となる有機化合物としては、これらの石炭系原料油に石油系原料油、樹脂由来の有機化合物、その他の溶媒を添加したものでもよい。
【0102】
また通常、これらの石炭系原料油には軽質のオイル成分が含まれているため、有用成分を取り出すとともに生産性を上げるため蒸留操作を行い、精製して用いることが好ましい。
【0103】
炭素質物(B)前駆体である有機化合物の残炭率は通常1%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは45%以上であり、通常99%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは60%以下である。残炭率は例えばJIS 2270に準拠した方法で測定するこ
とが出来る。残炭率が上記範囲であると、造粒炭素材表面、及び微細孔内部に均一に拡散・浸透させることが出来、入出力特性が向上する傾向がある。
【0104】
さらに、炭素質物(B)前駆体には必要に応じて溶媒等を添加して希釈することが出来る。溶媒等を添加することにより炭素質物(B)前駆体の粘度を下げることが可能になり、造粒炭素材の表面及び微細孔内部により均一に炭素質物(B)前駆体が拡散・浸透する傾向がある。
【0105】
造粒炭素材に炭素質物(B)前駆体となる有機化合物を混合する方法に特に制限はないが、例えば、造粒炭素材と炭素質物(B)前駆体となる有機化合物とを、種々の市販の混合機やニーダー等を用いて混合し、造粒炭素材に有機化合物が付着した混合物を得る方法が挙げられる。
【0106】
造粒炭素材と炭素質物(B)前駆体となる有機化合物となる有機化合物、及び必要に応じて添加される溶媒等の原料は、必要に応じて加熱下で混合される。これにより、造粒炭素材に液状の炭素質物(B)前駆体となる有機化合物が添着された状態となる。この場合、混合機に全原料を仕込んで混合と昇温を同時に行ってもよいし、混合機に炭素質物(B)前駆体となる有機化合物以外の成分を仕込んで攪拌状態で予熱し、混合温度まで温度が上がった後に常温又は予熱により溶融状態となった炭素質物前駆体となる有機化合物を添加してもよい。造粒黒鉛粒子と炭素質物前駆体となる有機化合物とが接触する際に、炭素質物(B)前駆体となる有機化合物が冷えて高粘度化することにより被覆形態が不均一となることを防ぐために、混合機に炭素質物(B)前駆体となる有機化合物以外の成分を仕込んで攪拌状態で予熱し、混合温度まで温度が上がった後に、混合温度まで予熱して溶融状態となった炭素質物(B)前駆体となる有機化合物を添加することがより好ましい。
【0107】
加熱温度は、通常炭素質物(B)前駆体となる有機化合物の軟化点以上であり、好ましくは軟化点より10℃以上高い温度、より好ましくは軟化点より20℃以上高い温度、更に好ましくは30℃以上高い温度、特に好ましくは50℃以上高い温度であり、通常450℃以下、好ましくは250℃以下で行われる。加熱温度が低すぎると、炭素質物(B)前駆体となる有機化合物の粘度が高くなって混合が困難となり被覆形態が不均一となる虞があり、加熱温度が高すぎると炭素質物(B)前駆体となる有機化合物の揮発と重縮合によって混合系の粘度が高くなって混合が困難となり被覆形態が不均一となる虞がある。
【0108】
混合機は撹拌翼を持つ機種が好ましく、例えば、リボンミキサー、MCプロセッサー、プロシェアミキサー、KRCニーダーなど市販されているものを使用することができる。混合時間は通常1分以上、好ましくは2分以上、より好ましくは5分以上であり、通常300分以下、好ましくは120分以下、より好ましくは80分以下である。混合時間が短すぎると、被覆形態が不均一となるおそれがあり、長すぎると生産性の低下やコストの増加をきたす傾向がある。
【0109】
加熱温度(焼成温度)は混合物の調製に用いた炭素質物(B)前駆体により異なるが、通常は800℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上に加熱して十分に非晶質炭素化又は黒鉛化させる。加熱温度の上限は炭素質物(B)前駆体の炭化物が、混合物中の炭素材(A)である鱗片状黒鉛の結晶構造と同等の結晶構造に達しない温度であり、通常は高くても3500℃である。加熱温度の上限は3000℃、好ましくは2000℃、より好ましくは1500℃に止めるのが好ましい。
【0110】
加熱処理時の雰囲気は、酸化を防止するため、窒素、アルゴン等の不活性ガスの流通下又はブリーズ、パッキングコークス等の粒状炭素材を間隙に充填した非酸化性雰囲気下で行う。加熱処理に用いる設備は、シャトル炉、トンネル炉、リードハンマー炉、ロータリーキルン、オートクレーブ等の反応槽、コーカー(コークス製造の熱処理槽)、電気炉やガス炉、電極材用アチソン炉等、上記の目的に添うものであれば特に限定されず、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は使用する設備の許容範囲で任意に設定することができる。
【0111】
(気相法)
気相法としては、造粒炭素材表面に、炭素質物(B)前駆体である気相コート原料化合物を不活性ガス雰囲気下において均一に蒸着させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の処理が挙げられる。
炭素質物(B)前駆体である気相コート原料化合物の具体例としては、熱やプラズマ等により分解されて上記炭素材(A)表面に炭素質物(B)被膜を形成し得る気体状化合物を用いることができる。気体状化合物としては、エチレン、アセチレン、プロピレン等の不飽和脂肪族炭化水素、メタン、エタン、プロパン等の飽和脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、ナフタレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。これら化合物は、一種のみを用いてもよく、二種以上の混合ガスとして用いてもよい。CVD処理を施す温度、圧力、時間等は、使用するコート原料の種類や、所望の被覆炭素質物(B)量に応じて適宜選択することが出来る。
【0112】
(その他の工程)
上述した混合法や気相法による処理を行った後、必要に応じ、解砕及び/又は粉砕処理、分級処理等を施すことにより、本発明の複合炭素材とすることができる。
形状は任意であるが、平均粒子径は、通常2〜50μmであり、5〜35μmが好ましく、特に8〜30μmである。上記粒子径範囲となるよう、必要に応じて、解砕及び/又は粉砕及び/又は分級を行う。
なお、本実施形態の効果を損なわない限り、他の工程の追加や上述に記載のない制御条件を追加してもよい。
【0113】
<複合炭素材(複層構造炭素材)の物性>
第6工程により製造される複合炭素材の好ましい物性について、説明する。
【0114】
・体積基準平均粒径(平均粒径d50)
複合炭素材の体積基準平均粒径(「平均粒径d50」、又は「メジアン径」とも記載する。)は好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、殊更に好ましくは8μm以上、特に好ましくは9.5μm以上である。また平均粒径d50は、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、殊更に好ましくは31μm以下、特に好ましくは30μm以下である。上記範囲内であれば、不可逆容量の増加を抑制でき、またスラリー塗布における筋引きなどの生産性が損なわれないといった傾向がある。
平均粒径d50が小さすぎると、複合炭素材を用いて得られる非水系二次電池の不可逆容量の増加、初期電池容量の損失を招く傾向があり、一方平均粒径d50が大きすぎるとスラリー塗布における筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下を招く場合がある。
【0115】
・平均粒径d10
複合炭素材の体積基準で測定した粒径の、小さい粒子側から累積10%に相当する粒径(d10)は好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは17μm以下、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。
d10が上記範囲内にあると、粒子の凝集傾向が強くなり過ぎず、スラリー粘度上昇などの工程不都合の発生、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を回避できる。また、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下も回避する傾向にある。
【0116】
・平均粒径d90
複合炭素材の体積基準で測定した粒径の、小さい粒子側から累積90%に相当する粒径(d90)は好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、更に好ましくは60μm以下、より更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、最も好ましくは35μm以下、好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上、更に好ましくは15μm以上である。
d90が上記範囲内にあると、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を回避でき、スラリーの塗布時の筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温出力特性の低下も回避できる傾向にある。
【0117】
・d90/d10
複合炭素材のd90/d10は通常2以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上、特に好ましくは2.2以上であり、通常10以下、好ましくは7以下、より好
ましくは6以下、更に好ましくは5以下である。d90/d10が上記範囲内であると、大きな粒子間の空隙に小さな粒子が入る事により非水系二次電池用負極材の充填性が向上して、比較的大きな細孔である粒子間細孔をより小さく、且つ容積を低減できるため、粉体に対する水銀圧入法により求められる細孔分布におけるモード径を小さくすることが可能になる。この結果、高容量で、優れた充放電負荷特性、及び入出力特性を示す傾向がある。
【0118】
・タップ密度
複合炭素材のタップ密度は通常0.7g/cm以上、好ましくは0.75g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは0.83g/cm以上、殊更に好ましくは0.85g/cm以上、特に好ましくは0.88g/cm以上、より特に好ましくは0.9g/cm以上、最も好ましくは0.95g/cm以上であり、好ましくは1.3g/cm以下であり、より好ましくは1.2g/cm以下であり、更に好ましくは1.1g/cm以下である。
タップ密度が上記範囲内であると、極板化作製時のスジ引きなどの生産性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、粒子内炭素密度が上昇し難いため圧延性も良好で、高密度の負極シートを形成し易くなる傾向にある。
【0119】
・嵩密度
複合炭素材の嵩密度は好ましくは0.3g/cm3以上、より好ましくは0.35g/
cm3以上、更に好ましくは0.4g/cm3以上、特に好ましくは0.45g/cm3
上、より好ましくは1.3g/cm3以下であり、更に好ましくは1.2g/cm3以下、特に好ましくは1.1g/cm3以下、最も好ましくは1g/cm3以下である。
嵩密度が上記範囲内であると、極板化作製時のスジ引きなどが抑制され生産性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、適度な細孔を有するため、電解液がスムーズに移動でき、良好な充放電負荷特性、及び低温入出力特性を示す傾向にある。
【0120】
・BET比表面積(SA)
複合炭素材のBET法により測定した比表面積(SA)は、好ましくは1m/g以上、より好ましくは3m/g以上、更に好ましくは4m/g以上、特に好ましくは5m/g以上である。また、好ましくは30m/g以下、より好ましくは28m/g以下、更に好ましくは25m/g以下である。
【0121】
比表面積が上記範囲内であると、Liが出入りする部位を十分確保することができるため高速充放電特性出力特性に優れ、活物質の電解液に対する活性も適度抑えることができるため、初期不可逆容量が大きくならず、高容量電池を製造できる傾向にある。
また、炭素材を使用して負極を形成した場合の、その電解液との反応性の増加を抑制でき、ガス発生を抑えることができるため、好ましい非水系二次電池を提供することができ
る。
【0122】
複合炭素材は、そのまま、或いはその他の工程を必要により実施することで、非水系二次電池用負極材に用いることができる。
本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された炭素材は、様々なタイプの粒子構造の炭素材を安定して製造できる。代表的な粒子構造としては、原料炭素材の平均粒子径が大きい又は中程度である鱗片状黒鉛を折り畳んで製造する炭素材、平均粒子径が小さい鱗片状黒鉛を造粒して(折り畳んで)製造する炭素材、天然黒鉛に人造黒鉛を添着させた炭素材、などがあげられる。
【0123】
このような様々なタイプの粒子構造の炭素材を安定して製造できることの一例として、全固形原料重量に対する炭素材重量比で表される歩留まり(炭素材重量/全固形原料重量)が通常60%以上であり、80%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0124】
<非水系二次電池用負極材>
本発明における非水系二次電池用負極材、前記の製造方法により得られた造粒炭素材および/又は複合炭素材を含有するものであれば良い。
また、極板の配向性、電解液の浸透性、導電パス等を向上させ、サイクル特性、極版膨れ等の改善を目的とし、前記造粒炭素材又は前記複合炭素材とは異なる炭素材を混合することができる(以下、前記造粒炭素材又は前記複合炭素材とは異なる炭素材を「添加炭素材」と呼ぶことがある。また、前記造粒炭素材又は前記複合炭素材に、前記造粒炭素材又は前記複合炭素材とは異なる炭素材を混合して得られた炭素材を「混合炭素材」と呼ぶことがある)。
【0125】
添加炭素材としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、炭素材を炭素質物で被覆した被覆黒鉛、非晶質炭素、金属粒子や金属化合物を含有した炭素材の中から選ばれる材料を用いることができる。また前記複合炭素材を混合してもよい。これらの材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で併用してもよい。
【0126】
天然黒鉛としては、例えば、高純度化した炭素材や球形化した天然黒鉛を用いることができる。高純度化とは、通常、塩酸、硫酸、硝酸、弗酸などの酸中で処理する、若しくは複数の酸処理工程を組み合わせて行なうことにより、低純度天然黒鉛中に含まれる灰分や金属等を溶解除去する操作のことを意味し、通常、酸処理工程の後に水洗処理等を行ない高純度化処理工程で用いた酸分の除去をする。また、酸処理工程の代わりに2000℃以上の高温で処理することにより、灰分や金属等を蒸発、除去しても構わない。また、高温熱処理時に塩素ガス等ハロゲンガス雰囲気で処理することにより灰分や金属等を除去しても構わない。更にまた、これらの手法を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0127】
天然黒鉛の体積基準平均粒径(単に、平均粒径とも称する)は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは12μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下の範囲である。平均粒径がこの範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
天然黒鉛のBET比表面積は、通常1m2/g以上、好ましくは2m2/g以上、また、通常30m2/g以下、好ましくは15m2/g以下の範囲である。比表面積がこの範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
【0128】
また、天然黒鉛のタップ密度は、通常0.6g/cm3以上、好ましくは0.7g/c
3以上、より好ましくは0.8g/cm3以上、更に好ましくは0.85g/cm3以上
、また、通常1.3g/cm3以下、好ましくは1.2g/cm3以下、より好ましくは1
.1g/cm3以下の範囲である。この範囲であれば高速充放電特性、生産性が良好とな
るため好ましい。
【0129】
人造黒鉛としては、炭素材を黒鉛化した粒子等が挙げられ、例えば、単一の黒鉛前駆体粒子を粉状のまま焼成、黒鉛化した粒子や、複数の黒鉛前駆体粒子を成形し焼成、黒鉛化し解砕した造粒粒子などを用いることができる。
人造黒鉛の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm、更に好ましくは30μm以下の範囲である。この範囲であれば、極板膨れの抑制や生産性が良好となるため好ましい。
人造黒鉛のBET比表面積は、通常0.5m2/g以上、好ましくは1.0m2/g以上、また、通常8m2/g以下、好ましくは6m2/g以下、更に好ましくは4m2/g以下
の範囲である。この範囲であれば、極板膨れの抑制や生産性が良好となるため好ましい。
【0130】
また、人造黒鉛のタップ密度は、通常0.6g/cm3以上、好ましくは0.7g/c
3以上、より好ましくは0.8g/cm3以上、更に好ましくは0.85g/cm3以上
、また、通常1.5g/cm3以下、好ましくは1.4g/cm3以下、より好ましくは1.3g/cm3以下の範囲である。この範囲であれば、極板膨れの抑制や生産性が良好と
なるため好ましい。
【0131】
炭素材を炭素質物で被覆した被覆黒鉛としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛に上述した炭素質物の前駆体である有機化合物を被覆、焼成及び/又は黒鉛化した粒子や、天然黒鉛や人造黒鉛に炭素質物をCVDにより被覆した粒子を用いることができる。
被覆黒鉛の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは12μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下の範囲である。平均粒径がこの範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
【0132】
被覆黒鉛のBET比表面積は、通常1m2/g以上、好ましくは2m2/g以上、更に好ましくは2.5m2/g以上、また、通常20m2/g以下、好ましくは10m2/g以下
、更に好ましくは8m2/g以下、特に好ましくは5m2/g以下の範囲である。比表面積がこの範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
また、被覆黒鉛のタップ密度は、通常0.6g/cm3以上、0.7g/cm3以上が好ましく、0.8g/cm3以上がより好ましく、0.85g/cm3以上が更に好ましい。また、通常1.3g/cm3以下、1.2g/cm3以下が好ましく、1.1g/cm3
下がより好ましい。タップ密度がこの範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
【0133】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、易黒鉛化性有機化合物を不融化処理し、焼成した粒子を用いることができる。
非晶質炭素の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下の範囲である。この範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
【0134】
非晶質炭素のBET比表面積は、通常1m2/g以上、好ましくは2m2/g以上、更に好ましくは2.5m2/g以上、また、通常8m2/g以下、好ましくは6m2/g以下、
更に好ましくは4m2/g以下の範囲である。比表面積がこの範囲であれば、高速充放電
特性、生産性が良好となるため好ましい。
また、非晶質炭素のタップ密度は、通常0.6g/cm3以上、0.7g/cm3以上が好ましく、0.8g/cm3以上がより好ましく、0.85g/cm3以上が更に好ましい。また、通常1.3g/cm3以下、1.2g/cm3以下が好ましく、1.1g/cm3
以下がより好ましい。タップ密度がこの範囲であれば、高速充放電特性、生産性が良好となるため好ましい。
【0135】
金属粒子や金属化合物を含有した炭素材は、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Ag、Si、Sn、Al、Zr、Cr、P、S、V、Mn、Nb、Mo、Cu、Zn、Ge、In、Ti等からなる群から選ばれる金属又はその化合物を黒鉛と複合化した材料が挙げられる。用いることができる金属又はその化合物としては、2種以上の金属からなる合金を使用してもよく、金属粒子が、2種以上の金属元素により形成された合金粒子であってもよい。これらの中でも、Si、Sn、As、Sb、Al、Zn及びWからなる群から選ばれる金属又はその化合物が好ましく、中でも好ましくはSi及びSiOxである。この一般式SiOxは、二酸化Si(SiO2)と金属Si(Si)とを原料とし
て得られるが、そのxの値は通常0<x<2であり、好ましくは0.2以上、1.8以下、より好ましくは0.4以上、1.6以下、更に好ましくは0.6以上、1.4以下である。この範囲であれば、高容量であると同時に、Liと酸素との結合による不可逆容量を低減させることが可能となる。
【0136】
金属粒子の体積基準平均粒径は、サイクル寿命の観点から、通常0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、更に好ましくは0.03μm以上であり、通常10μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下である。平均粒径がこの範囲であると充放電に伴う体積膨張が低減され、充放電容量を維持しつつ、良好なサイクル特性を得ることができる。
【0137】
金属粒子のBET比表面積は、通常0.5m2/g以上120m2/g以下、1m2/g
以上100m2/g以下であることが好ましい。比表面積が前記範囲内であると、電池の
充放電効率および放電容量が高く、高速充放電においてリチウムの出し入れが速く、レート特性に優れるので好ましい。
前記造粒炭素材又は前記複合炭素材と添加炭素材を混合するために用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、Pu
gmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0138】
<非水系二次電池用負極>
本発明の非水系二次電池用負極(以下適宜「電極シート」ともいう。)は、集電体と、集電体上に形成された負極活物質層とを備えると共に、活物質層は少なくとも前記非水系二次電池用負極材とを含有することを特徴とする。更に好ましくはバインダを含有する。

バインダとしては、分子内にオレフィン性不飽和結合を有するものを用いる。その種類は特に制限されないが、具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが挙げられる。このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダを用いることにより、活物質層の電解液に対する膨潤性を低減することができる。中でも入手の容易性から、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0139】
このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダと、前述の活物質とを組み合わせて用いることにより、負極板の強度を高くすることができる。負極の強度が高いと、充放電による負極の劣化が抑制され、サイクル寿命を長くすることができる。また、本発明に係る負極では、活物質層と集電体との接着強度が高いので、活物質層中のバインダの含有量を低減させても、負極を捲回して電池を製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0140】
分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダとしては、その分子量が大きいものか、或いは、不飽和結合の割合が大きいものが望ましい。具体的に、分子量が大きいバインダの場合には、その重量平均分子量が好ましくは1万以上、より好ましくは5万以上、また、好ましくは100万以下、より好ましくは30万以下の範囲にあるものが望ましい。また、不飽和結合の割合が大きいバインダの場合には、全バインダの1g当たりのオレフィン性不飽和結合のモル数が、好ましくは2.5×10−7モル以上、より好ましくは8×10−7モル以上、また、好ましくは1×10−6モル以下、より好ましくは5×10−6モル以下の範囲にあるものが望ましい。バインダとしては、これらの分子量に関する規定と不飽和結合の割合に関する規定のうち、少なくとも何れか一方を満たしていればよいが、両方の規定を同時に満たすものがより好ましい。オレフィン性不飽和結合を有するバインダの分子量が上記範囲内であると機械的強度と可撓性に優れる。
【0141】
また、オレフィン性不飽和結合を有するバインダは、その不飽和度が、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは40%以上、また、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。なお、不飽和度とは、ポリマーの繰り返し単位に対する二重結合の割合(%)を表す。
本発明においては、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダも、本発明の効果が失われない範囲において、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダと併用することができる。オレフィン性不飽和結合を有するバインダに対する、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの混合比率は、好ましくは150質量%以下、より好ましくは120質量%以下の範囲である。
【0142】
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダを併用することにより、塗布性を向上することができるが、併用量が多すぎると活物質層の強度が低下する。
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カラギナン、プルラン、グアーガム、ザンサンガム(キサンタンガム)等の増粘多糖類、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニルアルコール類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリ酸、或いはこれらポリマーの金属塩、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのアルカン系ポリマー及びこれらの共重合体などが挙げられる。
【0143】
非水系二次電池用負極材は、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダとを組み合わせて用いた場合、活物質層に用いるバインダの比率を従来に比べて低減することができる。具体的に、非水系二次電池用負極材と、バインダ(これは場合によっては、上述のように不飽和結合を有するバインダと、不飽和結合を有さないバインダとの混合物であってもよい。)との質量比率は、それぞれの乾燥質量比で、好ましくは90/10以上、より好ましくは95/5以上であり、好ましくは99.9/0.1以下、より好ましくは99.5/0.5以下の範囲である。バインダの割合が上記範囲内であると容量の減少や抵抗増大を抑制でき、さらに極板強度にも優れる。
【0144】
本発明の負極は、上述の非水系二次電池用負極材とバインダとを分散媒に分散させてスラリーとし、これを集電体に塗布することにより形成される。分散媒としては、アルコールなどの有機溶媒や、水を用いることができる。このスラリーには更に、所望により導電剤を加えてもよい。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、平均粒径1μm以下のCu、Ni又はこれらの合金からなる微粉末などが挙げられる。導電剤の添加量は、非水系二次電池用負極材に対して好ましくは10質量%以下程度である。
【0145】
スラリーを塗布する集電体としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、圧延銅箔、電解銅箔、ステンレス箔等の金属薄膜が挙げられる。集電体の厚さは、好ましくは4μm以上、より好ましくは6μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
スラリーを集電体上に塗布した後、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、また、好ましくは200℃以下、より好ましくは195℃以下の温度で、乾燥空気又は不活性雰囲気下で乾燥し、活物性層を形成する。
【0146】
スラリーを塗布、乾燥して得られる活物質層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは75μm以下である。活物質層の厚みが上記範囲内であると、活物質の粒径との兼ね合いから負極としての実用性に優れ、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能を得ることができる。
【0147】
活物質層における炭素材の密度は、用途により異なるが、容量を重視する用途では、好ましくは1.55g/cm3以上、より好ましくは1.6g/cm3以上、更に好ましくは1.65g/cm3以上、特に好ましくは1.7g/cm3以上である。また、好ましくは1.9g/cm以下である。密度が上記範囲内であると、単位体積あたりの電池の容量は充分確保でき、レート特性も低下し難くなる。
【0148】
以上説明した非水系二次電池用負極材を用いて非水系二次電池用負極を作製する場合、その手法や他の材料の選択については、特に制限されない。また、この負極を用いてリチウムイオン二次電池を作製する場合も、リチウムイオン二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下、非水系二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
【0149】
<非水系二次電池>
本発明の非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。負極としては、上述した本発明の負極を用いる。
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
【0150】
正極活物質としては、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属カルコゲン化合物などが挙げられる。金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、モリブデンの酸化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、タングステンの酸化物などの遷移金属酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの硫化物、チタンの硫化物、CuSなどの遷移金属硫化物、NiPS、FePS等の遷移金属のリン−硫黄化合物、VSe、NbSeなどの遷移金属のセレン化合物、Fe0.250.75、Na0.1CrSなどの遷移金属の複合酸化物、LiCoS、LiNiSなどの遷移金属の複合硫化物等が挙げられる。
【0151】
これらの中でも、V、V13、VO、Cr、MnO、TiO、MoV、LiCoO、LiNiO、LiMn、TiS、V、Cr0.250.75、Cr0.50.5などが好ましく、特に好ましいのはLiCoO、LiNiO、LiMnや、これらの遷移金属の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物である。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0152】
正極活物質を結着するバインダとしては、公知のものを任意に選択して用いることができる。例としては、シリケート、水ガラス等の無機化合物や、テフロン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン等の不飽和結合を有さない樹脂などが挙げられる。これらの中でも好ましいのは、不飽和結合を有さない樹脂である。正極活物質を結着する樹脂として不飽和結合を有する樹脂を用いると酸化反応時に分解される恐れがある。これらの樹脂の重量平均分子量は通常1万以上、好ましくは10万以上、また、通常300万以下、好ましくは100万以下の範囲である。
【0153】
正極活物質層中には、電極の導電性を向上させるために、導電材を含有させてもよい。導電剤としては、活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。
正極板は、前記したような負極の製造と同様の手法で、正極活物質やバインダを溶剤でスラリー化し、集電体上に塗布、乾燥することにより形成する。正極の集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール(SUS)などが用いられるが、何ら限定されない。
【0154】
電解質としては、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液や、この非水系電解液を有機高分子化合物等によりゲル状、ゴム状、固体シート状にしたものなどが用いられる。
非水系電解液に使用される非水系溶媒は特に制限されず、従来から非水系電解液の溶媒として提案されている公知の非水系溶媒の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類などが挙げられる。
【0155】
これらの非水系溶媒は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。混合溶媒の場合は、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組合せが好ましく、環状カーボネートが、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒であることが、低温でも高いイオン電導度を発現でき、低温充電不可特性が向上するという点で特に好ましい。中でもプロピレンカーボネートが非水系溶媒全体に対し、2質量%以上80質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以上70質量%以下の範囲がより好ましく、10質量%以上60質量%以下の範囲がさらに好ましい。プロピレンカーボネートの割合が上記より低いと低温でのイオン電導度が低下し、プロピレンカーボネートの割合が上記より高いと、黒鉛系電極を用いた場合にはリチウムイオンに溶媒和したプロピレンカーボネートが黒鉛相間へ共挿入することにより黒鉛系負極活物質の層間剥離劣化がおこり、十分な容量が得られなくなる問題がある。
【0156】
非水系電解液に使用されるリチウム塩も特に制限されず、この用途に用い得ることが知られている公知のリチウム塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、LiCl、LiBrなどのハロゲン化物、LiClO、LiBrO、LiClOなどの過ハロゲン酸塩、LiPF、LiBF、LiAsFなどの無機フッ化物塩などの無機リチウム塩、LiCFSO、LiCSOなどのパーフルオロアルカンスルホン酸塩、Liトリフルオロスルフォンイミド((CFSONLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸イミド塩などの含フッ素有機リチウム塩などが挙げられ、この中でもLiClO、LiPF、LiBFが好ましい。
【0157】
リチウム塩は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5mol/L以上、2.0mol/L以下の範囲である。
また、上述の非水系電解液に有機高分子化合物を含ませ、ゲル状、ゴム状、或いは固体シート状にして使用する場合、有機高分子化合物の具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物;ポリエーテル系高分子化合物の架橋体高分子;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのビニルアルコール系高分子化合物;ビニルアルコール系高分子化合物の不溶化物;ポリエピクロルヒドリン;ポリフォスファゼン;ポリシロキサン;ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリルなどのビニル系高分子化合物;ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート)、ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート−co−メチルメタクリレート)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン)等のポリマー共重合体などが挙げられる。
【0158】
上述の非水系電解液は、更に被膜形成剤を含んでいても良い。被膜形成剤の具体例としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイドなどのアルケンサルファイド;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどのスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物などの酸無水物などが挙げられる。更に、ジフェニルエーテル、シクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていても良い。上記添加剤を用いる場合、その含有量は通常10質量%以下、中でも8質量%以下、更には5質量%以下、特に2質量%以下の範囲が好ましい。上記添加剤の含有量が多過ぎると、初期不可逆容量の増加や低温特性、レート特性の低下等、他の電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0159】
また、電解質として、リチウムイオン等のアルカリ金属カチオンの導電体である高分子固体電解質を用いることもできる。高分子固体電解質としては、前述のポリエーテル系高分子化合物にリチウムの塩を溶解させたものや、ポリエーテルの末端水酸基がアルコキシドに置換されているポリマーなどが挙げられる。
正極と負極との間には通常、電極間の短絡を防止するために、多孔膜や不織布などの多孔性のセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、多孔性のセパレータに含浸させて用いる。セパレータの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエーテルスルホンなどが用いられ、好ましくはポリオレフィンである。
【0160】
本発明の非水系二次電池の形態は特に制限されない。例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0161】
本発明の非水系二次電池を組み立てる手順も特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよいが、例を挙げると、外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池にすることができる。
【実施例】
【0162】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
実施例において、黒鉛及び造粒剤の物性は以下の方法により測定した。
【0163】
<嵩密度>
粉体密度測定器を用い、直径5cm、体積容量100cm3の円筒状タップセルに、目
開き300μmの篩を通して本発明の複合炭素材を落下させて、セルに満杯に充填したときの体積と試料の質量から求めた密度を嵩密度として定義した。
【0164】
<タップ密度>
粉体密度測定器を用い、直径5cm、体積容量100cmの円筒状タップセル上部に直径5cm高さ5cmの円筒を取り付け、目開き300μmの篩を通して測定試料を落下させて、セル及び上部円筒に充填した後、ストローク長20mmのタップを500回行なった後、上部円筒を取り外し、セル上部面でセル上部の粉をスパチュラで摺り切り除去し、その時のセル内体積とセル内試料の質量から求めた密度として定義した。
【0165】
<d50、d90、d10、d90/d10>
界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標)が挙げられる)の0.2質量%水溶液10mLに、炭素材0.01gを懸濁させ、これを測定サンプルとして市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA製LA−920)に導入し、測定サンプルに28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、前記測定装置において体積基準のd50、d90、d10を測定し、d90/d10を算出した。
【0166】
<BET比表面積(SA)>
表面積計(島津製作所製比表面積測定装置「ジェミニ2360」)を用い、炭素材試料に対して窒素流通下100℃、3時間の予備減圧乾燥を行なった後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET6点法によって測定した。
【0167】
<造粒剤の比誘電率>
次記により行った。
(測定装置)
本体:Agilent製 4284A PRECISION LCR METER
治具:Agilent製 16452A LIQUID TEST FIXTURE
(測定条件)
測定周波数:100KHz
測定温度 :25.3±2℃
測定湿度 :48±5%
電極間隔 :0.3mm
測定電圧 :1V
(測定原理)
電極とその間に供した有機化合物材料により形成されるコンデンサの容量値から、次式より比誘電率を算出した。
εr=(t×Cp)/(Axε0
εr:有機化合物の比誘電率
ε0:真空の誘電率=8.854×10−12(F/m)
Cp:静電容量(F)
A:電極の面積(m
t:電極間隔:(m)
【0168】
<造粒剤の密度>
(測定法)
造粒剤を入れた容器を恒温槽にセットし、造粒剤を20℃とし、密度浮ひょうを用いて
、浮ひょう頸部の目盛を、上縁規定(メニスカスの最上端を読み取る)により読み取り、造粒剤密度とした。
【0169】
<造粒剤の粘度>
(測定装置)
ブルックフィールド社DV-II コーンプレート型
(測定条件)
サンプルカップ:CPE−44PY
コーン :CPE41
サンプル量 :2ml
測定温度 :実施例表記載の温度
(粘度値)
せん断速度100sec-1の粘度を読み取り、本実施例の粘度とした、
【0170】
<造粒剤の沸点>
蒸留法により測定した。
実施例において、電池特性は以下の方法により測定した。
【0171】
<電極シートの作製>
実施例又は比較例の黒鉛質粒子を用い、活物質層密度1.60±0.03g/cm3
活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材50.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を50.00±0.02g(固形分換算で0.500g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン1.00±0.05g(固形分換算で0.5g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0172】
このスラリーを、集電体である厚さ10μmの銅箔上に、負極材料が12.00±0.3mg/cm2付着するように、伊藤忠マシニング製小型ダイコーターを用いて幅10c
mに塗布し、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.60±0.03g/cm3になるよう調整し電極シートを得た。
【0173】
<非水電解液二次電池(ラミネート型電池)の作製方法>
上記方法で作製した電極シートを4cm×3cmに切り出し負極とし、NMCからなる正極を同面積で切り出し、負極と正極の間にはセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、組み合わせた。エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(容積比=3:3:4)に、LiPFを1.2mol/Lになるように溶解させた電解液を250μl注液してラミネート型電池を作製した。
【0174】
<低温出力特性>
上記非水電解液二次電池の作製法により作製したラミネート型非水電解液二次電池を用いて、下記の測定方法で低温出力特性を測定した。
充放電サイクルを経ていない非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲4.1V〜3.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて3サイクル、電圧範囲4.2V〜3.0V、電流値0.2Cにて(充電時には4.2Vにて定電圧充電をさらに2.5時間実施)2サイクル、初期充放電を行った。
さらに、SOC50%まで電流値0.2Cで充電を行った後、−30℃の低温環境下で、1/8C、1/4C、1/2C、1.5C、2Cの各電流値で2秒間定電流放電させ、各々の条件の放電における2秒後の電池電圧の降下を測定し、それらの測定値から充電上限電圧を3Vとした際に、2秒間に流すことのできる電流値Iを算出し、3×I(W)と
いう式で計算される値をそれぞれの電池の低温出力特性とした。
【0175】
<放電容量及びサイクル特性>
上記非水電解液二次電池の作製法により作製したラミネート型非水電解液二次電池を用いて、下記の測定方法で放電容量及びサイクル特性を測定した。
充放電サイクルを経ていない非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲4.1V〜3.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて3サイクル、電圧範囲4.2V〜3.0V、電流値0.2Cにて(充電時には4.2Vにて定電圧充電をさらに2.5時間実施)2サイクル、初期充放電を行った。この時の放電容量を本電池の放電容量とした。
次に、60℃の雰囲気で、電圧範囲4.2V〜3.0V、電流値2Cにて(充電時には4.2Vにて定電圧充電をさらに2.5時間実施)500サイクルの充放電を行い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の割合を%で表し、サイクル維持率とした。
【0176】
(実施例1)
・球形化処理
設備1に黒鉛Aを20kg、造粒剤として100kHzでの比誘電率が20.4で分子中に分岐鎖構造の無い有機化合物A2.4kgを投入し、周速度を80m/secにして60min処理を行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.961g/cm
であった。
・造粒剤の除去
続いて得られた黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)を不活性ガス中で700℃熱処理を施し、造粒剤を除去した。
処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
なお、用いた原料黒鉛の性状を表−2に、造粒剤の性状を表−3に、使用した設備の仕様を表4に示す。
【0177】
(比較例1)
造粒剤として、100kHzでの比誘電率が2.2で分子中に分岐鎖構造の無い有機化合物Bを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.912g/cm
で、実施例1より低い値であった。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0178】
(比較例2)
造粒剤を投入後、周速度を80m/secにしての処理を120minとした以外は、比較例1と同様に実施した。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.949g/cm
で、実施例1同様高い値であったが、実施例1の2倍の処理時間を必要とした。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0179】
(実施例2)
造粒剤として、100kHzでの比誘電率が23.6で分子中に分岐構造の無い有機化合物Cを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.978g/cm
で、実施例1同様に高い値であった。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前
・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0180】
(比較例3)
造粒剤として、100kHzでの比誘電率が13.6で分子中に分岐鎖構造を有する有機化合物Dを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.809g/cm
と、低い値であった。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0181】
(実施例3)
・球形化処理
設備2に黒鉛Aを2.25kg、造粒剤として100kHzでの比誘電率が20.4で分子中に分岐鎖構造の無い有機化合物A0.27kgを投入し、周速度を80m/secにして20min処理を行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.990g/cm
と、高い値であった。
・造粒剤の除去
続いて得られた黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)を不活性ガス中で700℃熱処理を施し、造粒剤を除去した。
処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0182】
(実施例4)
造粒剤として、100kHzでの比誘電率が15.8で分子中に分岐鎖構造の無い有機化合物Eを用いた以外は、実施例3と同様に行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.975g/cm
で、高い値であった。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0183】
(比較例4)
造粒剤として、100kHzでの比誘電率が8.0で分子中に分岐鎖構造の無い有機化合物Fを用いた以外は、実施例3と同様に行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.894g/cm
で、実施例3より低い値であった。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0184】
(実施例5)
造粒剤の量を0.25kgとする以外は、実施例3と同様に行った。
得られた処理黒鉛(造粒剤除去前の造粒炭素材)のタップ密度は、0.929g/cm
で、高い値であった。処理条件及び、得られた処理黒鉛(造粒剤除去前・後の造粒炭素材)の性状を表−1にまとめて示す。
【0185】
【表1】
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
(実施例6)
実施例1で得られた処理黒鉛(造粒剤除去前)と三菱化学製コールタールピッチを混合して、黒鉛コールタールピッチ混合物を得た。
この黒鉛ピッチ混合物を不活性雰囲気中1300℃で焼成し、その後粉砕機により解砕処理を行い、複層構造炭素材を得た。
得られた複層構造炭素材料の黒鉛に対するコールタールピッチ由来の炭素質物の量は8%であった。複層構造炭素材料の性状を表−6に示す。
次いで、この複層構造炭素材料を用いて、前述の方法非水系2次電池用負極を作製し、更に、前述の方法で非水系二次電池を作製し、電池評価を行った。
その結果、電池の低温出力が、92mWと高い値を示した。電池特性を表−6に示す。
【0190】
(実施例7)
実施例3で得られた処理黒鉛(造粒剤除去前)と三菱化学製コールタール14重量部を混合して、黒鉛コールタール混合物を得た。
この黒鉛ピッチ混合物を不活性雰囲気中1300℃で焼成し、その後粉砕機により解砕処理を行い、複層構造炭素材を得た。
得られた複層構造炭素材料の黒鉛に対するコールタール由来の炭素質物の量は5%であった。複層構造炭素材料の性状を表−6に示す。
次いで、この複層構造炭素材を用いて、実施例6と同様な方法で電池の作製及び電池評価を行った。
その結果、電池の低温出力が、93mWと高い値を示した。電池特性を表−6に示す。
【0191】
(比較例5)
黒鉛として、市販の黒鉛を用いた以外は、実施例6と同様に行なった。用いた黒鉛の性状を表−5に示す。得られた複層構造炭素材料の黒鉛に対するコールタール由来の炭素質物の量は5%であった。複層構造炭素材料の性状を表−6に合わせて示す。
次いで、この複層構造炭素材を用いて、実施例6と同様な方法で電池の作製及び電池評価を行った。
その結果、電池の低温出力は、73mWで低い値となった。電池特性を表−7に示す。
【0192】
【表5】
【0193】
【表6】