特許第6885002号(P6885002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885002
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】不透明石英ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
   C03B20/00 J
   C03B20/00 B
   C03B20/00 E
   C03B20/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-155361(P2016-155361)
(22)【出願日】2016年8月8日
(65)【公開番号】特開2017-36203(P2017-36203A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-159201(P2015-159201)
(32)【優先日】2015年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川畑 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】大貫 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 一喜
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−91634(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/122517(WO,A1)
【文献】 特開2014−88286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B20/00
C03C3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質シリカ粉末と粒径5〜40μmの造孔剤粉末の混合粉末を原料とする不透明石英ガラスの製造方法であって、前記混合粉末が、画像処理によって得られるヒストグラムで、各輝度値に対する画素数が最も大きい輝度値を閾値に設定して二値化し、閾値を超えた部分のうち0.04mm以上の面積を有する部分の個数をn、画像全体の面積をScmとして、n/Sが100以下であることを特徴とする不透明石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記造孔剤粉末が平均粒径5〜40μmであることを特徴とする請求項に記載の不透明石英ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記造孔剤粉末が黒鉛粉末であることを特徴とする請求項又はに記載の不透明石英ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光の遮光性に優れ、光学的に高均質な不透明石英ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
不透明石英ガラスは熱遮断性を要する用途に使用される。熱遮断性は赤外光の遮光性と関係があり、遮光性が高い不透明石英ガラスほど熱遮断性に優れている。
【0003】
従来、不透明石英ガラスの製造方法としては、結晶質シリカまたは非晶質シリカに窒化珪素等の発泡剤を添加して溶融する方法(例えば、特許文献1〜3参照)などが知られている。しかしながら、このような製造方法で製造された不透明石英ガラスでは、発泡剤が気化して気孔を形成するため気孔の平均径が大きく、実用にたえる強度をもつものでは気孔の含有密度が低くなり、赤外光の遮光性が低下するという問題がある。
【0004】
一方、発泡剤を添加することなく、非晶質シリカ粉末の成形体をその溶融温度以下の温度で加熱し、完全に緻密化する前に熱処理を中断し、部分的に焼結する方法(例えば、特許文献4参照)も提案されている。このような製造方法で製造された不透明石英ガラスでは、気孔の平均径を小さくすることが可能であるが、気孔が閉気孔となるまで焼結させると気孔の含有密度が低くなり赤外光の遮光性が低下するという問題や、気孔の平均径が小さくなりすぎ長波長の赤外光の遮光性が低下するという問題がある。また、本方法では電気炉内の温度分布によって、不透明石英ガラスの焼結体内に密度分布が生じやすく、大型サイズで均質な不透明石英ガラスを得ることは難しいという問題もある。
【0005】
また、石英ガラス多孔質体を高圧条件下で加熱焼成する方法(例えば、特許文献5参照)も提案されているが、このような製造方法で製造された不透明石英ガラスでは、波長200〜5000nmの光の透過率が0.5〜2.0%となっており、長波長側の赤外光の遮光性が低下するという問題がある。また、本方法は高圧焼成を行うため特殊な装置が必要であり、簡易な方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−65328号公報
【特許文献2】特開平5−254882号公報
【特許文献3】特開平7−61827号公報
【特許文献4】特開平7−267724号公報
【特許文献5】WO2008/069194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、赤外光の遮光性に優れ、光学的に高均質な不透明石英ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末(以下、単に造孔剤と言うことがある)を、非晶質シリカ凝集体を低減するように混合し、前記混合粉末を成形したのち、所定の温度で焼結することによって、気孔を均一に形成した不透明石英ガラスを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、非晶質シリカ凝集体とは非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の混合が不十分な場合、非晶質シリカ粉末中に造孔剤が均一に分散せず、混合粉末全体で俯瞰した場合に非晶質シリカのみで局所的に一定上の大きさで存在することを表すものである。またここで、得られる不透明石英ガラスは均一な気孔を有する、すなわち、ガラス全体を俯瞰した場合に局所的に気孔の密度が低く、シリカ密度が高い部分が極めて少ない。そのために当該不透明石英ガラスが光学的に高い均質性を有することを見出した。
【0009】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0010】
本発明の不透明石英ガラスは、均一な気孔を有する、すなわち、ガラス全体を俯瞰した場合に局所的に気孔の密度が低く、シリカ密度が高い部分が極めて少ない。そのために本発明の不透明石英ガラスは光学的に高い均質性を有する。特に本発明の不透明石英ガラスは局所的に赤外光を透過する部分が極めて少なく、加熱装置の部材等に好適に用いることが可能である。光学的に高均質なことは後述の画像処理法により得られるパラメーターにより示すことができる。
【0011】
本発明は、画像処理によって得られるヒストグラムで、可視光が透過している部分とそれ以外に分かれるように閾値を設定して二値化し、閾値を超えた部分のうち0.04mm以上の面積を有する部分(以下、「白抜け」という。)の個数をm、画像全体の面積をRcm として、m/Rが50以下であることを特徴とする不透明石英ガラスに関するものである。ここで、不透明石英ガラスにおける白抜けとは可視光が透過する、一定上の大きさの部位を示す。
【0012】
本発明において、画像処理に供する画像は、一般的な光学顕微鏡を用いて不透明石英ガラスを観察して得られた画像を例示でき、観察倍率は×50で行うことが好ましい。画像処理に供する画像は光学顕微鏡50倍の観察像を用いて、少なくともその1/4以上の範囲を対象として選択すれば十分な精度で解析できる。
【0013】
また、光学顕微鏡は、画像処理ソフトがインストールされたパソコンと接続されていることが好ましい。これにより観察像を撮影後、すぐにパソコン上で画像処理を行うことができる。
【0014】
画像処理は市販のソフトまたはフリーソフトの少なくともいずれかで行えばよく、ImageJ 1.46などのフリーソフトを例示できる。具体的な手順は実施例の記載を参照のこと。画像処理ソフトは特定の閾値を基準として画像を白黒に変換(二値化)することができれば十分であり、画像の全体又は一部を選択し、その範囲内において、縦軸を画素の個数、横軸を輝度値としたヒストグラムを描くことが可能であれば好ましい。ヒストグラムの例を図1に示す。
【0015】
本願では、前述の画像処理により得られるヒストグラムが対象とする不透明石英ガラスの観察画像の対象範囲において、光学的に完全に均質であれば、ヒストグラムは正規分布を描くものと仮定できるものとする。その正規分布から外れるほど大きな輝度を有する部分があれば、当該部分とそれ以外の部分とで画像を二値化し、白黒表示した後、輝度の大きな部分が連続して存在し、かつ、所定の面積を超える大きさである部分を白抜け部とし、その個数を前述のmとして決定することができる。
【0016】
閾値の決定は、以下のように行うことで十分である。すなわち、図2に示すように実際に得られたヒストグラムにおいて、最大の画素の個数を示す輝度がa、最小の画素の個数を示す輝度のうち、より低い輝度がbである場合、その輝度の範囲が2×(a−b)である正規分布を仮定する。このような場合、正規分布は輝度がbから、a+a−b、(すなわち2a−b)の範囲で存在することになる。この輝度2a−bを閾値とし、画像を二値化する。この二値化した画像を処理することで白抜け部を特定することができる。具体的には、二値化後、2a−b以上の輝度の部分のうち、所定の面積以上の部分を白抜け部とする。
【0017】
本願の不透明石英ガラスは、試料厚さ1mmのときの波長1.5μmから5μmにおける透過率が1%以下であることが好ましい。これにより加熱装置の部材等により好適に用いることが可能である。
【0018】
本願の不透明石英ガラスは、試料厚さ1mmのときの波長3μmから5μmにおける透過率が0.5%以下であることが好ましい。これにより加熱装置の部材等により好適に用いることが可能である。
【0019】
次に、本発明の不透明石英ガラスの製造方法について説明する。
【0020】
本発明の不透明石英ガラスの製造方法は、非晶質シリカ粉末と造孔材粉末の混合粉末を原料とし、前記混合粉末から、画像処理によって得られるヒストグラムで、各輝度値に対する画素数が最も大きい輝度値を閾値に設定して二値化し、閾値を超えた部分のうち0.04mm以上の面積を有する部分の個数をn、画像全体の面積をScm として、n/Sが100以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の製造方法において、画像処理に供する混合粉末の画像は、一般的な光学顕微鏡を用いて不透明石英ガラスを観察して得られた画像を例示でき、観察倍率は×50で行うことが好ましい。光学顕微鏡は反射型顕微鏡でもよい。例えば、非晶質シリカ粉末と造孔材の混合粉末を両側から、粉末層の厚みが約0.5〜1.5mmになるように石英ガラス板で挟み、反射型顕微鏡で画像を撮影する方法が例示できる。
【0022】
また、光学顕微鏡は、画像処理ソフトがインストールされたパソコンと接続されていることが好ましい。これにより観察像を撮影後、すぐにパソコン上で画像処理を行うことができる。
【0023】
混合粉末の画像処理は、閾値を最大の画素の個数を示す輝度としたこと以外は不透明石英ガラスの場合と同様の処理を行えばよい。
【0024】
以下、本発明の不透明石英ガラスの製造方法について工程ごとに詳細に説明する。なお全工程に言えることであるが、工程中に不純物汚染が起こらぬように、使用する装置などについて充分に選定する必要がある。
【0025】
(1)原料粉末の選定
まず、本発明で用いる非晶質シリカ粉末を選定する。非晶質シリカ粉末の製造方法はとくに限定されないが、例えばシリコンアルコキシドの加水分解によって製造された非晶質シリカ粉末や、四塩化珪素を酸水素炎等で加水分解して作製した非晶質シリカ粉末等を用いることができる。また、石英ガラスを破砕した粉末も用いることができる。
【0026】
本発明で使用する非晶質シリカ粉末の平均粒径は、20μm以下が好ましい。粒径が大きすぎると、焼結に高温、長時間を要するため好ましくない。各種製造法で作製された非晶質シリカ粉末は、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等で粉砕、分級することで上記粒径に調整することができる。
【0027】
次に、本発明で用いる造孔剤粉末を選定する。本発明の造孔剤の粒径は不透明石英ガラスの平均気孔径と深く関係し、得たい平均気孔径と同等あるいはそれ以上の粒径の造孔剤を用いる必要がある。気孔径以上の粒径の造孔剤を用いる理由は、造孔剤の消失後の焼結段階において、気孔が当初のサイズよりも小さくなる場合があるためである。造孔剤として黒鉛またはアモルファスカーボンの球状粉末を用いる場合、平均気孔径5〜20μmの不透明石英ガラスを得るためには、造孔剤の粒径は5〜40μmであることが好ましく、9〜30μmであることがより好ましい。
【0028】
本発明の造孔剤の種類は、非晶質シリカの焼結温度以下の温度で熱分解して気化し消失するものであれば特に限定されず、黒鉛粉末やアモルファスカーボン粉末、フェノール樹脂粉末、アクリル樹脂粉末、ポリスチレン粉末などを使用することができる。このうち、黒鉛粉末またはアモルファスカーボン粉末は熱分解の際に発生するガス成分が無害、無臭であるという点で好ましい。
【0029】
本発明で使用する非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の純度は、99.9%以上であることが望ましい。石英ガラスにアルカリ金属元素、アルカリ土類元素、遷移金属元素などの不純物元素が高濃度に含まれている場合、おおよそ1300℃以上の温度において、石英ガラス中にクリストバライトが発生する。クリストバライトは230〜300℃の温度で高温型から低温型へ相転移し体積収縮を起こす。不透明石英ガラスに含有するクリストバライト量が2%より多い場合は、この体積収縮が原因で焼成体内にクラックが発生する傾向がある。特に焼成体が大型の場合、例えば直径140mm以上の不透明石英ガラスにおいてこの傾向は顕著である。非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の純度が低い場合は、純化処理を行なうとよい。純化の方法は特に限定されず、薬液処理や乾式ガス精製、高温焼成による不純物の蒸散などを行うことができる。なお、不透明石英ガラス中に含まれる金属不純物量が少ない場合であっても、水分量や炉内の雰囲気、炉材の純度、焼成時間などによってクリストバライトが多く発生する場合がある点についても言及しておく。
【0030】
本発明の造孔剤の形状は非晶質シリカ粉末と均質に混合することができる点、加圧によって粉末を成形する際に圧力伝達を良好に行うことができる点で球状であることが好ましく、その粒子の長軸と短軸の比率を表すアスペクト比が3.0以下であること好ましい。
【0031】
(2)原料粉末の混合
次に、選定した非晶質シリカ粉末及び造孔剤粉末を混合する。造孔剤粉末の添加量は、非晶質シリカ粉末に対して体積比で0.04以上となるように混合する必要があるが、好ましい範囲は造孔剤の種類、平均粒径によって異なり、造孔剤粉末が平均粒径5〜40μmの黒鉛粉末又はアモルファスカーボン粉末であれば、非晶質シリカ粉末との体積比で0.04〜0.35であることが好ましい。造孔剤粉末の添加量が少ないと、不透明石英ガラスに含まれる気孔量が少なくなり赤外光の遮光性が低下するため好ましくない。一方、添加量が多すぎると、不透明石英ガラスの密度が低くなりすぎるため好ましくない。
【0032】
非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の混合方法は、混合粉末において非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度が100個/cm以下となる方法であれば、特に限定されず、ロッキングミキサー、クロスミキサー、ポットミル、ボールミル、ふるい等を用いることができる。特に本発明の混合には、ふるいを通して混合する方法を用いると、容易に非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度を低減させる粉末を得ることができる点で好ましい。
【0033】
(3)混合粉末の成形
次に、混合粉末を成形する。成形方法は、鋳込み成型法、冷間静水圧プレス(CIP)法、金型プレス法等の乾式プレスを用いることができる。特に本発明の成型には、CIP法を用いると、工程が少なく容易に成形体を得ることができる点で好ましい。さらにCIP法を用いて、円板形状や円筒形状、リング形状の成形体を作製する方法としては、特に限定しないが、発泡スチロールのような塑性変形可能な鋳型を用いる成形法(例えば、特開平4−105797参照)や、底板が上パンチよりも圧縮変形の少ない材料で構成されている組立式型枠を用いる方法(例えば、特開2006−241595参照)で成形することが可能である。
【0034】
(4)成形体の焼結
次に、上記の方法により成形した成形体を所定の温度で加熱し、成形体内に含まれる造孔剤を消失させる。加熱温度は造孔剤の種類によって異なるが、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用いる場合、加熱温度は700℃から1000℃で行う。
【0035】
造孔剤の消失のための加熱は造孔剤の種類や造孔剤の添加量、成形体のサイズ、加熱温度によって任意の時間行われるが、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用い、添加量が非晶質シリカ粉末との体積比で0.1〜0.2、成形体の体積が2×10cm、加熱温度が800℃の場合、加熱時間は24時間から100時間で行う。
【0036】
次に、造孔剤が消失した成形体を所定の温度で、焼結体に含まれる気孔が閉気孔となるまで焼成する。焼成温度は1350〜1500℃であることが好ましい。焼成温度が1350℃より低いと、気孔が閉気孔となるまでに長時間の焼成が必要となるため好ましくない。焼成温度が1500℃を超えると、焼成体内に含まれるクリストバライト量が多くなり、クリストバライトの高温型から低温型への相転移に伴う体積収縮によって、焼成体にクラックが発生する恐れがあり好ましくない。
【0037】
焼成時間は造孔剤の添加量や焼成温度に応じて任意の時間行われるが、例えば添加量が非晶質シリカ粉末との体積比で0.1〜0.2、焼成温度が1350〜1500℃の場合、焼成時間は1時間から20時間で行う。焼成時間が短いと焼結が十分進まず、気孔が開気孔となるため好ましくない。また、焼成時間が長すぎると焼結が進み過ぎ気孔が小さくなるため赤外光の遮光性が低下するとともに、焼成体内に含まれるクリストバライト量が多くなり、クリストバライトの高温型から低温型への相転移に伴う体積収縮によって、焼成体にクラックが発生する恐れがあり好ましくない。
【0038】
造孔剤の消失のための加熱は造孔剤が消失する雰囲気で行われ、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用いる場合は、酸素が存在する雰囲気下で行われる。
【0039】
閉気孔化のための焼成の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、真空雰囲気下で行うことができる。
【0040】
このように本願の不透明石英ガラスの製造方法は、原料粉末を混合して前述の特性を有するようにシリカ凝集体を低減する混合工程と、混合工程で得られた混合粉末を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を焼結する焼成工程を有することが好ましい。
【0041】
本発明の不透明石英ガラスは、熱遮断性能に優れることから、熱処理装置用部材、半導体製造装置用部材、FPD製造装置用部材、太陽電池製造装置用部材、LED製造装置用部材、MEMS製造装置用部材、光学部材などに利用することができる。具体的には、フランジ、断熱フィン、炉芯管、均熱管、薬液精製筒等の構成材料、シリコン溶融用ルツボ等の構成材料などが挙げられる。
【0042】
上記のような部材は、不透明石英ガラス単独で使用してもよいし、不透明石英ガラス表面の一部または全体に透明石英ガラス層を付与して使用してもよい。透明石英ガラス層は、不透明石英ガラスをシール性の要求される用途に使用する場合に、不透明石英ガラス中に含まれている気孔がシール面に露出しパッキンを使用しても完全なシールをすることが困難であることを考慮して付与される。また、不透明石英ガラスを各種用途で使用する中で随時行われる洗浄工程において、その最表面に露出している気孔が削られ、不透明石英ガラスの表面の一部が脱落し、パーティクルの発生の原因となる場合がある。これを防止する目的でも透明石英ガラス層は付与される。
【0043】
不透明石英ガラスへの透明石英ガラス層の付与の方法は特に限定されず、不透明ガラスの表面を酸水素炎で溶融して透明石英ガラスとする方法、不透明石英ガラスと透明石英ガラスとを酸水素炎や電気炉で加熱して貼り合わせる手法、不透明石英ガラスとなる非晶質シリカ粉末と造孔剤の混合粉末と透明石英ガラスとなる非晶質シリカ粉末とを所望のガラスにおける透明部及び不透明部の位置に対応させて成形し焼成する方法などがある。
【発明の効果】
【0044】
本発明の不透明石英ガラスは、光学的に均質であるため遮熱性能のバラツキが少なく、特に半導体製造分野で使用される各種の炉芯管、治具類及びベルジャー等の容器類、例えば、シリコンウェーハ処理用の炉芯管やそのフランジ部、断熱フィン、薬液精製筒及びシリコン溶解用ルツボ等の構成材料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】不透明石英ガラスの観察像を画像処理するにより得られる輝度−画素の個数のヒストグラムの例である。
図2】不透明石英ガラスの観察像を画像処理する際に行う閾値決定の模式図である。
図3】実施例1の混合粉末を反射型顕微鏡で撮影した画像である。
図4図1の画像を元に二値化まで行った画像である。
図5図1の画像を元に「Invert」まで行った画像である。
図6図1の画像を元に「Analyze particles」まで行った画像である。
図7】比較例1の混合粉末を反射型顕微鏡で撮影した画像である。
図8図5の画像を元に二値化まで行った画像である。
図9図5の画像を元に「Invert」まで行った画像である。
図10図5の画像を元に「Analyze particles」まで行った画像である。
図11】実施例1の不透明石英ガラスを実体顕微鏡で撮影した画像である。
図12図9の画像を元に二値化した後、「Invert」まで行った画像である。
図13図9の画像を元に「Analyze particles」まで行った画像である。
図14】比較例1の不透明石英ガラスを実体顕微鏡で撮影した画像である。
図15図12の画像を元に二値化した後、「Invert」まで行った画像である。
図16図12の画像を元に「Analyze particles」まで行った画像である。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を具体例に従って詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、シリカ粉末及び不透明石英ガラスの各物性については以下の手順で測定を行った。
【0047】
(平均粒径)
非晶質シリカ粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、商品名「SALD−7100」)を用いて測定されるメディアン径(D50)の値を用いた。
【0048】
(非晶質シリカ凝集体の個数密度)
混合粉末における非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度は次の方法で測定した。まず、非晶質シリカ粉末と造孔材の混合粉末を両側から石英ガラス板で挟み、反射型顕微鏡(株式会社キーエンス製、DIGITAL MICROSCOPE VHX−900)で、スケールを入れた画像を撮影した。石英ガラスで挟まれた粉末層の厚みは約1mmであった。次に画像処理ソフト(ImageJ 1.46)を使用し、以下の手順で撮影した画像の画像処理を行った。 ImageJを立ち上げ、画像処理するファイルを開いた。「Image」→「Type」→「8−bit」を実行した。続いて「Image」→「Adjust」→「Threshold」を実行した。
【0049】
ヒストグラムのウインドが開くので、各輝度値に対する画素数が最も大きい輝度値を閾値に設定した後、「Apply」を実行して二値化した。画像のスケール部分に重なるように直線を入れた後、「Analyze」→「Set Scale」を実行し、「Known distance」にスケールの値を入力し、「Unit of length」にスケールの単位を入れ、「OK」を実行し、ピクセル当たりの長さを設定した。スケールを除去するように、画像の任意の範囲を指定し、「Image」→「Crop」を実行し、画像を切り出した。「Process」→「Binary」→「Skeletonize」を実行し、白黒画像において対象の縁からその骨格が単一の画素になるまで画素を繰り返し除いた。「Process」→「Binary」→「Dilate」を実行し、隣接3×3ピクセルをその最大値(暗値)にそれぞれのピクセルを置き換えた。「Dilate」は2回行った。「Edit」→「Invert」を実行し、白と黒を反転した。「Analyze」→「Analyze particles」を実行した。「Size(mm^2)」に0.04−Infinityと入力した。「Show」を「Outlines」に変え、「Display results」、「Summarize」にチェックを入れ、「OK」を実行した。「Count」として0.04cm以上の面積を有する部分(非晶質シリカ凝集体)の個数nが表示された。また、「Total Area」として0.04cm以上の面積を有する部分の面積の合計値と、「%Area」として画像全体の面積に対して、0.04cm以上の面積を有する部分の面積の合計値が占める割合が表示されるので、これらの値から画像全体の面積Scmを求めた。nとSから非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度を次式で求めた。
非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度 = n/S
【0050】
(白抜けの個数密度)
不透明石英ガラスの白抜けの単位面積当たりの個数密度は、次の方法で測定した。不透明石英ガラスをダイヤモンドブレードで切断し、縦20mm、横20mm、厚さを3mmとして試料を作製し、試料の裏面より透過光を当て、実体顕微鏡(株式会社ニコン製SMZ745T)で、スケールを入れた画像を撮影した。次に画像処理ソフト(ImageJ 1.46)を使用し、以下の手順で撮影した画像処理を行った。 ImageJを立ち上げ、画像処理するファイルを開いた。画像のスケール部分に重なるように直線を入れた後、「Analyze」→「Set Scale」を実行し、「Known distance」にスケールの値を入力し、「Unit of length」にスケールの単位を入れ、「OK」を実行し、ピクセル当たりの長さを設定した。スケールを除去するように、四角形で画像の任意の範囲を指定し、「Image」→「Crop」を実行し、画像を切り出した。「Image」→「Type」→「8−bit」を実行した。「Image」→「Adjust」→「Threshold」を実行した。ヒストグラムのウインドが開くので、透過している部分とそれ以外に分かれるように閾値を設定し二値化した。なお、閾値については、各輝度値に対する画素数が最も大きい輝度値をa、輝度値の最小値をbとして、2a−bを閾値として採用した。「Edit」→「Invert」を実行した。
【0051】
「Analyze」→「Analyze particles」を実行した。「Size(mm^2)」に0.04−Infinityと入力した。「Show」を「Outlines」に変え、「Display results」、「Summarize」にチェックを入れ、「OK」を実行した。「Count」として0.04cm以上の面積を有する部分(白抜け)の個数mが表示された。また、「Total Area」として0.04cm以上の面積を有する部分の面積の合計値と、「%Area」として画像全体の面積に対して、0.04cm以上の面積を有する部分の面積の合計値が占める割合が表示されるので、これらの値から画像全体の面積Rcmを求めた。mとRから白抜けの単位面積当たりの個数密度を次式で求めた。
白抜けの単位面積当たりの個数密度 = m/R
【0052】
(赤外線透過率)
不透明石英ガラスの赤外スペクトルはFTIR装置((株)島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて測定した。測定試料は、平面研削により加工し、厚さ1mmとした。
【0053】
実施例1
シリカ原料粉末として、化学的純度が99.9wt%以上である非晶質シリカ粉末(日本化成株式会社製、商品名「MKCシリカPS100」)を平均粒径(メディアン径D50)が4μmとなるまでジェットミルで粉砕したものを使用した。造孔材粉末として、平均粒径18μmの球状黒鉛粉末(日本カーボン株式会社製、商品名「ニカビーズ」)を使用した。
【0054】
非晶質シリカ粉末と黒鉛粉末をその体積比が0.1になるように袋に入れ、3分間シェイクした後、目開き184μmのふるいを1回通して混合粉末とした。観察倍率×50で混合粉末を観察し、画像処理において、映り込んだスケール部分を除く90%以上の範囲を指定し、画像処理を行った。図3、4、5、6に実施例1の混合粉末の画像処理の過程における画像を、図11、12、13に実施例1の不透明石英ガラスの画像処理の過程における画像を示す。
【0055】
混合粉末を発泡スチロール製の型に充填し、発泡スチロール型全体をポリスチレン製袋で減圧封入し、圧力は280MPa、保持時間は1分間の条件で冷間等方圧プレス(CIP)成形した。
【0056】
CIP成形後の直径173mm、厚み44mmの円柱状成形体を、炉床昇降式抵抗加熱電気炉((株)広築製、型式「HPF−7020」)にて、大気雰囲気下で、室温から650℃までは100℃/時、650℃から800℃まで50℃/時、800℃で36時間保持、800℃から最高焼成温度1425℃までは50℃/時で昇温し、最高焼成温度1425℃で4時間保持して焼成した。100℃/時で50℃まで降温し、その後炉冷し不透明石英ガラスを得た。使用した混合粉末のシリカ凝集体の個数密度、不透明石英ガラスの白抜けの個数密度をそれぞれ表1に示す。
【0057】
実施例2
ふるいを通す回数を2回にした以外は実施例1と同様の方法で混合粉末を得た。得られた混合粉末を用いて、実施例1と同様の方法で成形体を作製し、実施例1と同様の条件で前記成形体を焼成して、不透明石英ガラスを得た。使用した混合粉末のシリカ凝集体の個数密度、不透明石英ガラスの白抜けの個数密度をそれぞれ表1に示す。
【0058】
実施例3
ふるいを通す回数を3回にした以外は実施例1と同様の方法で混合粉末を得た。得られた混合粉末を用いて、実施例1と同様の方法で成形体を作製し、実施例1と同様の条件で前記成形体を焼成して、不透明石英ガラスを得た。使用した混合粉末のシリカ凝集体の個数密度、不透明石英ガラスの白抜けの個数密度をそれぞれ表1に示す。
実施例4
粉末混合をポットミルで3時間混合する方法に変えた以外は実施例1と同様の方法で混合粉末を得た。得られた混合粉末を用いて、実施例1と同様の方法で成形体を作製し、実施例1と同様の条件で前記成形体を焼成して、不透明石英ガラスを得た。使用した混合粉末のシリカ凝集体の個数密度は0個/cm、得られた不透明石英ガラスの白抜けの個数密度は0個/cmであった。得られた不透明石英ガラスの試料厚さ1mmのときの波長1.5μmから5μmにおける直線透過率は1%以下であり、波長2μmにおける透過率は0.82%、波長4μmにおける透過率は0.46%であった。
【0059】
比較例1
ふるいを通す回数を0回にした以外は実施例1と同様の方法で混合粉末を得た。得られた混合粉末を用いて、実施例1と同様の方法で成形体を作製し、実施例1と同様の条件で前記成形体を焼成して、不透明石英ガラスを得た。使用した混合粉末のシリカ凝集体の個数密度、不透明石英ガラスの白抜けの個数密度をそれぞれ表1に示す。
【0060】
図7、8、9、10に比較例1の混合粉末の画像処理の過程における画像を、図14、15、16に比較例1の不透明石英ガラスの画像処理の過程における画像を示す。
【0061】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0062】
熱遮断効果が高い不透明石英ガラスであり、半導体製造装置用部材などに好適に用いることができる。
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
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図10
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図16