【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末(以下、単に造孔剤と言うことがある)を、非晶質シリカ凝集体を低減するように混合し、前記混合粉末を成形したのち、所定の温度で焼結することによって、気孔を均一に形成した不透明石英ガラスを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、非晶質シリカ凝集体とは非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の混合が不十分な場合、非晶質シリカ粉末中に造孔剤が均一に分散せず、混合粉末全体で俯瞰した場合に非晶質シリカのみで局所的に一定上の大きさで存在することを表すものである。またここで、得られる不透明石英ガラスは均一な気孔を有する、すなわち、ガラス全体を俯瞰した場合に局所的に気孔の密度が低く、シリカ密度が高い部分が極めて少ない。そのために当該不透明石英ガラスが光学的に高い均質性を有することを見出した。
【0009】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0010】
本発明の不透明石英ガラスは、均一な気孔を有する、すなわち、ガラス全体を俯瞰した場合に局所的に気孔の密度が低く、シリカ密度が高い部分が極めて少ない。そのために本発明の不透明石英ガラスは光学的に高い均質性を有する。特に本発明の不透明石英ガラスは局所的に赤外光を透過する部分が極めて少なく、加熱装置の部材等に好適に用いることが可能である。光学的に高均質なことは後述の画像処理法により得られるパラメーターにより示すことができる。
【0011】
本発明は、画像処理によって得られるヒストグラムで、可視光が透過している部分とそれ以外に分かれるように閾値を設定して二値化し、閾値を超えた部分のうち0.04mm
2以上の面積を有する部分(以下、「白抜け」という。)の個数をm、画像全体の面積をRcm
2 として、m/Rが50以下であることを特徴とする不透明石英ガラスに関するものである。ここで、不透明石英ガラスにおける白抜けとは可視光が透過する、一定上の大きさの部位を示す。
【0012】
本発明において、画像処理に供する画像は、一般的な光学顕微鏡を用いて不透明石英ガラスを観察して得られた画像を例示でき、観察倍率は×50で行うことが好ましい。画像処理に供する画像は光学顕微鏡50倍の観察像を用いて、少なくともその1/4以上の範囲を対象として選択すれば十分な精度で解析できる。
【0013】
また、光学顕微鏡は、画像処理ソフトがインストールされたパソコンと接続されていることが好ましい。これにより観察像を撮影後、すぐにパソコン上で画像処理を行うことができる。
【0014】
画像処理は市販のソフトまたはフリーソフトの少なくともいずれかで行えばよく、ImageJ 1.46などのフリーソフトを例示できる。具体的な手順は実施例の記載を参照のこと。画像処理ソフトは特定の閾値を基準として画像を白黒に変換(二値化)することができれば十分であり、画像の全体又は一部を選択し、その範囲内において、縦軸を画素の個数、横軸を輝度値としたヒストグラムを描くことが可能であれば好ましい。ヒストグラムの例を
図1に示す。
【0015】
本願では、前述の画像処理により得られるヒストグラムが対象とする不透明石英ガラスの観察画像の対象範囲において、光学的に完全に均質であれば、ヒストグラムは正規分布を描くものと仮定できるものとする。その正規分布から外れるほど大きな輝度を有する部分があれば、当該部分とそれ以外の部分とで画像を二値化し、白黒表示した後、輝度の大きな部分が連続して存在し、かつ、所定の面積を超える大きさである部分を白抜け部とし、その個数を前述のmとして決定することができる。
【0016】
閾値の決定は、以下のように行うことで十分である。すなわち、
図2に示すように実際に得られたヒストグラムにおいて、最大の画素の個数を示す輝度がa、最小の画素の個数を示す輝度のうち、より低い輝度がbである場合、その輝度の範囲が2×(a−b)である正規分布を仮定する。このような場合、正規分布は輝度がbから、a+a−b、(すなわち2a−b)の範囲で存在することになる。この輝度2a−bを閾値とし、画像を二値化する。この二値化した画像を処理することで白抜け部を特定することができる。具体的には、二値化後、2a−b以上の輝度の部分のうち、所定の面積以上の部分を白抜け部とする。
【0017】
本願の不透明石英ガラスは、試料厚さ1mmのときの波長1.5μmから5μmにおける透過率が1%以下であることが好ましい。これにより加熱装置の部材等により好適に用いることが可能である。
【0018】
本願の不透明石英ガラスは、試料厚さ1mmのときの波長3μmから5μmにおける透過率が0.5%以下であることが好ましい。これにより加熱装置の部材等により好適に用いることが可能である。
【0019】
次に、本発明の不透明石英ガラスの製造方法について説明する。
【0020】
本発明の不透明石英ガラスの製造方法は、非晶質シリカ粉末と造孔材粉末の混合粉末を原料とし、前記混合粉末から、画像処理によって得られるヒストグラムで、各輝度値に対する画素数が最も大きい輝度値を閾値に設定して二値化し、閾値を超えた部分のうち0.04mm
2以上の面積を有する部分の個数をn、画像全体の面積をScm
2 として、n/Sが100以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の製造方法において、画像処理に供する混合粉末の画像は、一般的な光学顕微鏡を用いて不透明石英ガラスを観察して得られた画像を例示でき、観察倍率は×50で行うことが好ましい。光学顕微鏡は反射型顕微鏡でもよい。例えば、非晶質シリカ粉末と造孔材の混合粉末を両側から、粉末層の厚みが約0.5〜1.5mmになるように石英ガラス板で挟み、反射型顕微鏡で画像を撮影する方法が例示できる。
【0022】
また、光学顕微鏡は、画像処理ソフトがインストールされたパソコンと接続されていることが好ましい。これにより観察像を撮影後、すぐにパソコン上で画像処理を行うことができる。
【0023】
混合粉末の画像処理は、閾値を最大の画素の個数を示す輝度としたこと以外は不透明石英ガラスの場合と同様の処理を行えばよい。
【0024】
以下、本発明の不透明石英ガラスの製造方法について工程ごとに詳細に説明する。なお全工程に言えることであるが、工程中に不純物汚染が起こらぬように、使用する装置などについて充分に選定する必要がある。
【0025】
(1)原料粉末の選定
まず、本発明で用いる非晶質シリカ粉末を選定する。非晶質シリカ粉末の製造方法はとくに限定されないが、例えばシリコンアルコキシドの加水分解によって製造された非晶質シリカ粉末や、四塩化珪素を酸水素炎等で加水分解して作製した非晶質シリカ粉末等を用いることができる。また、石英ガラスを破砕した粉末も用いることができる。
【0026】
本発明で使用する非晶質シリカ粉末の平均粒径は、20μm以下が好ましい。粒径が大きすぎると、焼結に高温、長時間を要するため好ましくない。各種製造法で作製された非晶質シリカ粉末は、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等で粉砕、分級することで上記粒径に調整することができる。
【0027】
次に、本発明で用いる造孔剤粉末を選定する。本発明の造孔剤の粒径は不透明石英ガラスの平均気孔径と深く関係し、得たい平均気孔径と同等あるいはそれ以上の粒径の造孔剤を用いる必要がある。気孔径以上の粒径の造孔剤を用いる理由は、造孔剤の消失後の焼結段階において、気孔が当初のサイズよりも小さくなる場合があるためである。造孔剤として黒鉛またはアモルファスカーボンの球状粉末を用いる場合、平均気孔径5〜20μmの不透明石英ガラスを得るためには、造孔剤の粒径は5〜40μmであることが好ましく、9〜30μmであることがより好ましい。
【0028】
本発明の造孔剤の種類は、非晶質シリカの焼結温度以下の温度で熱分解して気化し消失するものであれば特に限定されず、黒鉛粉末やアモルファスカーボン粉末、フェノール樹脂粉末、アクリル樹脂粉末、ポリスチレン粉末などを使用することができる。このうち、黒鉛粉末またはアモルファスカーボン粉末は熱分解の際に発生するガス成分が無害、無臭であるという点で好ましい。
【0029】
本発明で使用する非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の純度は、99.9%以上であることが望ましい。石英ガラスにアルカリ金属元素、アルカリ土類元素、遷移金属元素などの不純物元素が高濃度に含まれている場合、おおよそ1300℃以上の温度において、石英ガラス中にクリストバライトが発生する。クリストバライトは230〜300℃の温度で高温型から低温型へ相転移し体積収縮を起こす。不透明石英ガラスに含有するクリストバライト量が2%より多い場合は、この体積収縮が原因で焼成体内にクラックが発生する傾向がある。特に焼成体が大型の場合、例えば直径140mm以上の不透明石英ガラスにおいてこの傾向は顕著である。非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の純度が低い場合は、純化処理を行なうとよい。純化の方法は特に限定されず、薬液処理や乾式ガス精製、高温焼成による不純物の蒸散などを行うことができる。なお、不透明石英ガラス中に含まれる金属不純物量が少ない場合であっても、水分量や炉内の雰囲気、炉材の純度、焼成時間などによってクリストバライトが多く発生する場合がある点についても言及しておく。
【0030】
本発明の造孔剤の形状は非晶質シリカ粉末と均質に混合することができる点、加圧によって粉末を成形する際に圧力伝達を良好に行うことができる点で球状であることが好ましく、その粒子の長軸と短軸の比率を表すアスペクト比が3.0以下であること好ましい。
【0031】
(2)原料粉末の混合
次に、選定した非晶質シリカ粉末及び造孔剤粉末を混合する。造孔剤粉末の添加量は、非晶質シリカ粉末に対して体積比で0.04以上となるように混合する必要があるが、好ましい範囲は造孔剤の種類、平均粒径によって異なり、造孔剤粉末が平均粒径5〜40μmの黒鉛粉末又はアモルファスカーボン粉末であれば、非晶質シリカ粉末との体積比で0.04〜0.35であることが好ましい。造孔剤粉末の添加量が少ないと、不透明石英ガラスに含まれる気孔量が少なくなり赤外光の遮光性が低下するため好ましくない。一方、添加量が多すぎると、不透明石英ガラスの密度が低くなりすぎるため好ましくない。
【0032】
非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の混合方法は、混合粉末において非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度が100個/cm
2以下となる方法であれば、特に限定されず、ロッキングミキサー、クロスミキサー、ポットミル、ボールミル、ふるい等を用いることができる。特に本発明の混合には、ふるいを通して混合する方法を用いると、容易に非晶質シリカ凝集体の単位面積当たりの個数密度を低減させる粉末を得ることができる点で好ましい。
【0033】
(3)混合粉末の成形
次に、混合粉末を成形する。成形方法は、鋳込み成型法、冷間静水圧プレス(CIP)法、金型プレス法等の乾式プレスを用いることができる。特に本発明の成型には、CIP法を用いると、工程が少なく容易に成形体を得ることができる点で好ましい。さらにCIP法を用いて、円板形状や円筒形状、リング形状の成形体を作製する方法としては、特に限定しないが、発泡スチロールのような塑性変形可能な鋳型を用いる成形法(例えば、特開平4−105797参照)や、底板が上パンチよりも圧縮変形の少ない材料で構成されている組立式型枠を用いる方法(例えば、特開2006−241595参照)で成形することが可能である。
【0034】
(4)成形体の焼結
次に、上記の方法により成形した成形体を所定の温度で加熱し、成形体内に含まれる造孔剤を消失させる。加熱温度は造孔剤の種類によって異なるが、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用いる場合、加熱温度は700℃から1000℃で行う。
【0035】
造孔剤の消失のための加熱は造孔剤の種類や造孔剤の添加量、成形体のサイズ、加熱温度によって任意の時間行われるが、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用い、添加量が非晶質シリカ粉末との体積比で0.1〜0.2、成形体の体積が2×10
3cm
3、加熱温度が800℃の場合、加熱時間は24時間から100時間で行う。
【0036】
次に、造孔剤が消失した成形体を所定の温度で、焼結体に含まれる気孔が閉気孔となるまで焼成する。焼成温度は1350〜1500℃であることが好ましい。焼成温度が1350℃より低いと、気孔が閉気孔となるまでに長時間の焼成が必要となるため好ましくない。焼成温度が1500℃を超えると、焼成体内に含まれるクリストバライト量が多くなり、クリストバライトの高温型から低温型への相転移に伴う体積収縮によって、焼成体にクラックが発生する恐れがあり好ましくない。
【0037】
焼成時間は造孔剤の添加量や焼成温度に応じて任意の時間行われるが、例えば添加量が非晶質シリカ粉末との体積比で0.1〜0.2、焼成温度が1350〜1500℃の場合、焼成時間は1時間から20時間で行う。焼成時間が短いと焼結が十分進まず、気孔が開気孔となるため好ましくない。また、焼成時間が長すぎると焼結が進み過ぎ気孔が小さくなるため赤外光の遮光性が低下するとともに、焼成体内に含まれるクリストバライト量が多くなり、クリストバライトの高温型から低温型への相転移に伴う体積収縮によって、焼成体にクラックが発生する恐れがあり好ましくない。
【0038】
造孔剤の消失のための加熱は造孔剤が消失する雰囲気で行われ、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用いる場合は、酸素が存在する雰囲気下で行われる。
【0039】
閉気孔化のための焼成の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、真空雰囲気下で行うことができる。
【0040】
このように本願の不透明石英ガラスの製造方法は、原料粉末を混合して前述の特性を有するようにシリカ凝集体を低減する混合工程と、混合工程で得られた混合粉末を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を焼結する焼成工程を有することが好ましい。
【0041】
本発明の不透明石英ガラスは、熱遮断性能に優れることから、熱処理装置用部材、半導体製造装置用部材、FPD製造装置用部材、太陽電池製造装置用部材、LED製造装置用部材、MEMS製造装置用部材、光学部材などに利用することができる。具体的には、フランジ、断熱フィン、炉芯管、均熱管、薬液精製筒等の構成材料、シリコン溶融用ルツボ等の構成材料などが挙げられる。
【0042】
上記のような部材は、不透明石英ガラス単独で使用してもよいし、不透明石英ガラス表面の一部または全体に透明石英ガラス層を付与して使用してもよい。透明石英ガラス層は、不透明石英ガラスをシール性の要求される用途に使用する場合に、不透明石英ガラス中に含まれている気孔がシール面に露出しパッキンを使用しても完全なシールをすることが困難であることを考慮して付与される。また、不透明石英ガラスを各種用途で使用する中で随時行われる洗浄工程において、その最表面に露出している気孔が削られ、不透明石英ガラスの表面の一部が脱落し、パーティクルの発生の原因となる場合がある。これを防止する目的でも透明石英ガラス層は付与される。
【0043】
不透明石英ガラスへの透明石英ガラス層の付与の方法は特に限定されず、不透明ガラスの表面を酸水素炎で溶融して透明石英ガラスとする方法、不透明石英ガラスと透明石英ガラスとを酸水素炎や電気炉で加熱して貼り合わせる手法、不透明石英ガラスとなる非晶質シリカ粉末と造孔剤の混合粉末と透明石英ガラスとなる非晶質シリカ粉末とを所望のガラスにおける透明部及び不透明部の位置に対応させて成形し焼成する方法などがある。