(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(D)では、前記保持具に保持されている樹脂成形体に100N以上10000N以下の外力を加えて前記樹脂成形体を下方に向けて押圧する、請求項1または2に記載の樹脂成形体のスライス方法。
前記工程(D)では、前記保持具に保持されている樹脂成形体の上に載置した押込具を介して樹脂成形体を押圧する、請求項1〜3の何れかに記載の樹脂成形体のスライス方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。なお、各図において同一の符号を付したものは、同一の構成要素を示すものとする。また、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0018】
(スライス方法)
本発明の樹脂成形体のスライス方法は、保持具に保持された樹脂成形体をスライスしてスライス片を得る際に用いられる。具体的には、本発明の樹脂成形体のスライス方法は、樹脂成形体の側周面に当接して樹脂成形体を挟持する挟持面を有する保持具に保持された樹脂成形体をスライスしてスライス片を得る際に用いられる。
【0019】
そして、本発明の樹脂成形体のスライス方法は、樹脂成形体を保持具に保持させてスライス開始位置に配置する工程(A)と、保持具に保持されている樹脂成形体を1回以上スライスする工程(B)と、工程(B)でスライスされた樹脂成形体を保持具に保持された状態のまま押し出し開始位置に配置する工程(C)と、保持具に保持されている樹脂成形体を下方に押し出す工程(D)と、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置し、保持具に保持されている樹脂成形体を1回以上スライスする工程(E)とを順次実施することを特徴とする。このように、工程(A)および工程(B)の実施後に工程(C)および工程(D)を実施すれば、工程(B)の実施中には保持具に保持されていた樹脂成形体部分を工程(E)でスライスすることができる。従って、本発明の樹脂成形体のスライス方法によれば、保持具で樹脂成形体をしっかりと保持して樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスすることができる。そして、その結果、スライス片を高い歩留まりで得ることができる。
【0020】
なお、本発明の樹脂成形体のスライス方法では、工程(E)の実施後に、スライスされた樹脂成形体を保持具に保持された状態のまま押し出し開始位置に配置する工程と、保持具に保持されている樹脂成形体を下方に押し出す工程と、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置し、保持具に保持されている樹脂成形体を1回以上スライスする工程とを順次繰り返して実施してもよい。直前のスライス工程において保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスする操作を繰り返し実施すれば、樹脂成形体のスライス片を更に高い歩留まりで得ることができるからである。
【0021】
<樹脂成形体>
ここで、本発明の樹脂成形体のスライス方法でスライスされる樹脂成形体としては、特に限定されることなく、樹脂を含む材料を任意の方法で成形して得られた樹脂成形体が挙げられる。
なお、樹脂成形体の形状は、特に限定されることなく、得られるスライス片の用途に応じた形状とすることができる。中でも、樹脂成形体は、円柱状または多角柱状などの柱状であることが好ましく、四角柱状であることがより好ましい。
【0022】
そして、樹脂成形体の成形に使用される材料としては、得られるスライス片の用途に応じた材料を用いることができる。中でも、樹脂成形体の成形に使用される材料としては、樹脂と、無機充填材とを含み、任意に添加剤を更に含有する複合材料を用いることが好ましい。無機充填材を含む複合材料を使用すれば、得られるスライス片に強度、熱伝導性、導電性などの無機充填材の種類に応じた様々な性能を付与することができるからである。
なお、上記樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。また、上記無機充填材としては、特に限定されることなく、例えば、炭素材料、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化チタンなどが挙げられる。更に、上記添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、難燃剤、可塑剤、靭性改良剤、吸湿剤、接着力向上剤、濡れ性向上剤、イオントラップ剤などが挙げられる。
【0023】
上述した中でも、得られるスライス片を熱伝導シートとして使用する場合には、樹脂成形体としては、樹脂と、無機充填材としての炭素材料とを含み、任意に添加剤を更に含有する複合材料を成形して得られた樹脂成形体が好ましい。
そして、上記炭素材料としては、粒子状炭素材料(例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;など)および繊維状炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物など)の少なくとも一方を用いることが好ましく、少なくとも粒子状炭素材料を用いることがより好ましく、粒子状炭素材料および繊維状炭素材料の両方を用いることが更に好ましい。
また、上記樹脂成形体の形成方法としては、上記複合材料を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得た後、得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、得られたプレ熱伝導シートを折畳または捲回して、プレ熱伝導シートの積層体よりなる樹脂成形体を得る方法が好ましい。
【0024】
<保持具>
保持具としては、樹脂成形体の側周面に当接して樹脂成形体を挟持する挟持面を有する保持具を用いる。即ち、保持具としては、樹脂成形体の上面および下面以外の面(側周面)に当接して樹脂成形体を自重で落下させることなく支持可能であり、且つ、工程(D)等において所定以上の外力を加えた場合には保持具に保持されている樹脂成形体を下方に押し出すことが可能な保持具を用いる。このように、樹脂成形体の側周面に当接して樹脂成形体を挟持する挟持面を有する保持具を使用すれば、保持具の挟持面で樹脂成形体をしっかりと保持して樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制することができる。また、樹脂成形体を下方に押し出すことで保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスすることができる。
【0025】
具体的には、保持具としては、例えば、樹脂成形体の側周面に当接して樹脂成形体を挟持する1対以上の挟持面と、保持具に保持された樹脂成形体を工程(D)等において下方に押し出す際に使用する押込具等を挿通するための上部開口と、樹脂成形体の一部(スライスされる部分)が突出する下部開口とを有する治具を用いることができる。より具体的には、特に限定されることなく、保持具としては、例えば、
図2に示す保持具20や
図3に示す保持具20Aなどが挙げられる。
なお、樹脂成形体の取り付けの容易性を高める観点からは、保持具は、ネジ孔およびネジ等の任意の締結機構を用いて分割および結合可能に形成されていてもよい。保持具を複数の部品で構成すれば、樹脂成形体を配置した状態で部品を結合することで樹脂成形体を容易に取り付けることができるからである。また、シリンダを用いたチャック機構などの把持装置を使用した保持具の把持を容易にする観点からは、保持具の上端部にはフランジを設けてもよい。フランジを設ければ、把持装置で保持具を把持した際に保持具が滑り落ちるのを防止して保持具を確実に把持することができるからである。
【0026】
ここで、
図2(a)に正面図を示し、
図2(b)に上面図を示す保持具20は、樹脂成形体の形状に対応した形状を有し、内周面が挟持面となる筒状体よりなる。具体的には、
図2に示す例では、保持具20は、互いに対向する2対の挟持面21を有する四角筒状体よりなり、四角柱状の樹脂成形体の保持に用いられる。そして、例えば
図1(a)に示すように、保持具20には、下部開口から樹脂成形体10の一部が突出するように樹脂成形体10が取り付けられる。また、保持具20の上部開口には任意に押込具30が挿通される。
なお、樹脂成形体の取り付けの容易性を高める観点からは、筒状体よりなる保持具20は、一部の側壁(例えば、
図2(b)において下側に位置する側壁)が取り外しおよび再結合可能に形成されていてもよい。また、シリンダを用いたチャック機構などの把持装置を使用した保持具20の把持を容易にする観点からは、保持具20の側壁の上端部にはフランジが設けられていてもよい。
【0027】
また、
図3(a)に正面図を示し、
図3(b)に側面図を示し、
図3(c)に上面図を示す保持具20Aは、互いに対向配置された1対の側壁と、側壁同士を図示例では上部で接続する1対の棒状接続部とを備えている。そして、保持具20Aでは、1対の側壁の対向面が挟持面21となり、保持具20Aには、下部開口から樹脂成形体10の一部が突出するように樹脂成形体10が取り付けられる。また、保持具20の上部開口には任意に押込具30が挿通される。
なお、
図2に示す保持具20と同様に、保持具20Aは、一部の側壁(例えば、
図3(b)において右側に位置する側壁)が取り外しおよび再結合可能に形成されていてもよい。また、保持具20Aの側壁の上端部にはフランジが設けられていてもよい。更に、保持具20Aにおいて、側壁同士を接続する接続部の形状は、棒状に限定されるものではなく、板状などの任意の形状にすることができる。また、保持具20Aにおいて、側壁同士を接続する接続部の配設位置は、上部に限定されるものではなく、接続部は、保持具20Aの高さ方向中央部や下部に設けられていてもよい。
【0028】
ここで、
図2および
図3では、側壁が平滑板状であり、挟持面21が平滑な面よりなる場合を示したが、保持具の形状は上述した形状に限定されるものではない。具体的には、例えば
図4および
図5に示すように、保持具の側壁および挟持面には、開口22B,22Cが設けられていてもよい。
【0029】
そして、保持具の挟持面の静摩擦係数は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、1.1以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。挟持面の静摩擦係数が上記下限値以上であれば、樹脂成形体の保持性能を十分に高めることができる。また、挟持面の静摩擦係数が上記上限値以下であれば、工程(D)における樹脂成形体の押し出し性を十分に高めることができる。従って、工程(D)において樹脂成形体が斜めに押し出されるのを防止し、均一に押し出された樹脂成形体を工程(E)においてスライスすることを可能にして、面精度に優れるスライス片を得ることができる。
【0030】
<押込具>
なお、上述した通り、保持具に保持された樹脂成形体を押し出す際には、押込具を用いることができる。そして、工程(D)等において任意に使用し得る押込具としては、特に限定されることなく、保持具内に挿入可能であり、且つ、保持具内に支持された樹脂成形体を押し出すことが可能な長さを有する部材を用いることができる。押込具を使用すれば、樹脂成形体の押し出しに用いるロッド等の押し出し機構と樹脂成形体とが直接接触するのを防止して、樹脂成形体が押し出し機構にくっつくのを防止することができる。
【0031】
具体的には、押込具としては、特に限定されることなく、例えば
図6に示す押込具30を用いることができる。
ここで、
図6に示す押込具30は、保持具内に挿入される柱状部31と、柱状部31の上部に設けられたフランジ32とを有している。そして、押込具30の柱状部31は、例えば保持具の側壁と等しい長さを有しており、フランジ32は、柱状部31を全て保持具内に挿入した状態において保持具の上端と係合する。
【0032】
なお、押込具の下面には、樹脂成形体を押込具に固定する接着層を設けることが好ましい。即ち、
図6に示す押込具30においては、柱状部31の底面に接着層を設けることが好ましい。押込具の下面に接着層を設ければ、樹脂成形体の押し出しにより保持具で保持されている樹脂成形体部分の割合が少なくなった場合であっても、樹脂成形体を良好にスライスすることができる。
【0033】
<工程(A)>
そして、本発明の樹脂成形体のスライス方法の工程(A)では、樹脂成形体の一部が保持具の下端よりも下方に突出するように樹脂成形体を保持具に保持させ、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス開始位置に配置する。具体的には、例えば
図1(a)に示すように、樹脂成形体10の一部が保持具20の下端よりも下方に突出するように樹脂成形体10を保持具20に保持させる。また、任意に、保持具20に保持されている樹脂成形体10の上に押込具30を載置する。そして、樹脂成形体10を保持具20と共に下降させて、保持具20に保持されている樹脂成形体10をスライス刃50が設置されたスライド面40上のスライス開始位置に配置する。
なお、以下に詳細に説明する工程(A)〜工程(E)において、保持具に保持されている樹脂成形体の移動およびスライスは、手作業で行ってもよいし、保持具を把持するチャック機構および把持した保持具を移動させるスライド機構などを備えるスライス装置(例えば、株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」など)を用いて行ってもよい。また、保持具20に保持されている樹脂成形体10のスライス開始位置への配置および押し出し開始位置への配置は、スライス刃50が設置されたスライド面40を移動させることにより行ってもよい。
【0034】
ここで、樹脂成形体が複数枚のシートの積層体よりなる場合、工程(A)では、樹脂成形体の積層方向両面が保持具の挟持面で挟持されるように樹脂成形体を保持具に保持させることが好ましい。複数枚のシートの積層体よりなる樹脂成形体はシート同士の剥離などが起こり易く、スライス中に変形し易いが、積層方向両側を保持具の挟持面で挟持すれば、スライス中に樹脂成形体が変形するのを十分に抑制することができる。
【0035】
また、保持具の下端よりも下方に突出させる樹脂成形体の長さは、特に限定されることなく、例えば0.5mm以上30mm以下とすることが好ましい。保持具の下端から突出させる樹脂成形体の長さを上記上限値以下にすれば、スライス中に樹脂成形体が変形するのを十分に抑制することができる。また、保持具の下端から突出させる樹脂成形体の長さを上記下限値以上にすれば、工程(B)において樹脂成形体をスライス可能な量を十分に確保して、スライス片を効率的に得ることができる。
【0036】
<工程(B)>
次に、工程(B)では、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させて保持具の下端から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする。具体的には、例えば
図1(b)に示すように、スライド面40上で保持具20に保持されている樹脂成形体10を図示例では左方向にスライドさせて保持具20の下端から突出した樹脂成形体10をスライスする操作を1回以上実施する。
【0037】
なお、樹脂成形体をスライスする回数は、保持具がスライス刃に接触しない範囲で任意の回数とすることができる。また、樹脂成形体のスライスは、スライス刃の位置を固定した状態で保持具に保持されている樹脂成形体を移動させることにより行ってもよいし、保持具に保持されている樹脂成形体の位置を固定した状態でスライス刃を移動させることにより行ってもよいし、スライス刃と保持具に保持されている樹脂成形体との双方を移動させることにより行ってもよい。更に、樹脂成形体のスライスは、樹脂成形体が保持具から押し出されない程度の力で樹脂成形体をスライド面に押し付けつつ行ってもよい。
【0038】
そして、工程(B)では、保持具でしっかりと保持した樹脂成形体をスライスすることができるので、保持具から突出した樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、スライス片を得ることができる。
【0039】
なお、工程(B)では、
図1(b)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10の上に押込具30を載置した状態で樹脂成形体10をスライスすることが好ましい。押込具30を載置した状態で樹脂成形体10をスライスすれば、押込具30の自重で樹脂成形体10を下方に押しつつスライスを行うことができるので、樹脂成形体10を更に良好にスライスすることができる。従って、面精度に優れるスライス片を得ることができる。
【0040】
<工程(C)>
その後、工程(C)では、工程(B)において一部がスライスされた樹脂成形体を、保持具に保持された状態のまま押し出し開始位置に配置する。具体的には、例えば
図1(c)に示すように、一部がスライスされ、且つ、保持具20に保持されている樹脂成形体10を上方に持ち上げて押し出し開始位置に配置する。
【0041】
<工程(D)>
次に、工程(D)では、押し出し開始位置において、保持具に保持されている樹脂成形体を下方に向けて押圧して樹脂成形体の一部を保持具の下端よりも下方に押し出す。具体的には、例えば
図1(d)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10に対し、上方から押込具30を介して外力Fを加え、樹脂成形体10の一部を保持具20の下端よりも下方に押し出す。
【0042】
ここで、保持具の下端よりも下方に突出させる樹脂成形体の長さは、工程(A)と同様の理由により、例えば0.5mm以上30mm以下とすることが好ましい。
【0043】
また、工程(D)において樹脂成形体に加える外力の大きさは、100N以上であることが好ましく、1000N以上であることがより好ましく、10000N以下であることが好ましく、5000N以下であることがより好ましい。工程(D)において樹脂成形体に加える外力の大きさを上記下限値以上とすれば、樹脂成形体と保持具との摩擦によって樹脂成形体が斜めに押し出される等の押し出し不良が発生するのを抑制して、樹脂成形体を良好に押し出すことができる。その結果、次の工程(E)において面精度に優れるスライス片を得ることができる。また、工程(D)において樹脂成形体に加える外力の大きさを上記上限値以下とすれば、樹脂成形体が過度に押し出されるのを抑制して、次の工程(E)においてスライス中に樹脂成形体が変形するのを十分に抑制することとができる。
【0044】
なお、工程(D)においては、押込具を使用せずに樹脂成形体を押し出してもよいが、樹脂成形体と押し出し機構とを直接接触させた際に樹脂成形体が押し出し機構にくっつくのを防止する観点からは、押込具を使用することが好ましい。
【0045】
また、工程(D)においては、スライド面を利用して樹脂成形体を押し出す量を調整してもよい。具体的には、工程(D)では、保持具の下端とスライド面との間の距離が保持具の下端から突出させたい樹脂成形体の長さと等しくなる位置を押し出し開始位置とし、スライド面に当接するまで樹脂成形体を押し出すことにより、樹脂成形体を押し出す量を調整してもよい。このように、スライド面を利用すれば、樹脂成形体を押し出す量を確実に調節することができる。
【0046】
更に、本発明の樹脂成形体のスライス方法では、工程(D)を実施した後、工程(E)を実施する前に、樹脂成形体の押し出し状態を確認してもよい。具体的には、樹脂成形体が斜めに押し出されていないかを検知する機構を利用し、樹脂成形体の押し出し状態を確認してもよい。そして、樹脂成形体が斜めに押し出されていた場合には、樹脂成形体が真っ直ぐに押し出された状態になるように押し出し状態を修正することが好ましい。樹脂成形体が斜めに押し出された状態で次の工程(E)を実施すると、得られるスライス片の面精度が低下するからである。
なお、樹脂成形体が斜めに押し出されていないかを検知する機構としては、特に限定されることなく、例えば、樹脂成形体の底面全体が均一に面接触するかを検知する感圧センサ;樹脂成形体の底面全体が均一に面接触するかを目視で確認できる透明な部材で形成されたスライス面;押込具の側面に配置された目盛り等の目印;などが挙げられる。
【0047】
<工程(E)>
その後、工程(E)では、工程(D)で押し出された樹脂成形体を保持具と共にスライス開始位置に配置し、保持具に保持されている樹脂成形体をスライス刃に対して相対移動させ保持具の下端から突出した樹脂成形体を1回以上スライスする。具体的には、例えば
図1(e)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10をスライド面40上のスライス開始位置に移動させた後、スライド面40上で保持具20に保持されている樹脂成形体10を図示例では左方向にスライドさせて保持具20の下端から突出した樹脂成形体10をスライスする操作を1回以上実施する。
【0048】
なお、工程(B)と同様に、樹脂成形体をスライスする回数は、保持具がスライス刃に接触しない範囲で任意の回数とすることができる。また、樹脂成形体のスライスは、スライス刃の位置を固定した状態で保持具に保持されている樹脂成形体を移動させることにより行ってもよいし、保持具に保持されている樹脂成形体の位置を固定した状態でスライス刃を移動させることにより行ってもよいし、スライス刃と保持具に保持されている樹脂成形体との双方を移動させることにより行ってもよい。更に、樹脂成形体のスライスは、樹脂成形体が保持具から押し出されない程度の力で樹脂成形体をスライド面に押し付けつつ行ってもよい。
【0049】
そして、工程(E)では、保持具でしっかりと保持した樹脂成形体をスライスすることができるので、保持具から突出した樹脂成形体部分がスライス中に変形するのを抑制しつつ、スライス片を得ることができる。また、工程(E)では、工程(B)の実施中には保持具で保持されていた樹脂成形体部分をスライスすることができるので、樹脂成形体のスライス片を高い歩留まりで得ることができる。
【0050】
なお、工程(E)では、
図1(e)に示すように、保持具20に保持されている樹脂成形体10の上に押込具30を載置した状態で樹脂成形体10をスライスすることが好ましい。押込具30を載置した状態で樹脂成形体10をスライスすれば、押込具30の自重で樹脂成形体10を下方に押しつつスライスを行うことができるので、樹脂成形体10を更に良好にスライスすることができる。従って、面精度に優れるスライス片を得ることができる。
【0051】
また、工程(E)では、接着層などを用いて押込具の下面に樹脂成形体を固定した状態でスライスを行うことがより好ましい。押込具の下面に樹脂成形体を固定した状態でスライスを実施すれば、工程(D)における樹脂成形体の押し出しにより保持具で保持されている樹脂成形体部分の割合が少なくなった場合であっても、樹脂成形体を良好にスライスすることができる。その結果、樹脂成形体のスライス片を更に高い歩留まりで得ることができる。
【0052】
<その後の工程>
なお、本発明の樹脂成形体のスライス方法では、工程(E)の実施後に、上述した工程(C)〜工程(E)と同様の操作を順次繰り返して実施してもよい。直前のスライス工程において保持具に保持されていた樹脂成形体部分を保持具から押し出してスライスする操作を繰り返し実施すれば、例えば
図1(f)に示すように、樹脂成形体10を更に押し出してスライスすることができる。そして、その結果、樹脂成形体のスライス片を更に高い歩留まりで得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、保持具の挟持面の静摩擦係数および歩留まりは、それぞれ以下の方法を使用して測定および評価した。
【0054】
<静摩擦係数>
静摩擦係数は、JIS K7125に準拠し、小型卓上試験機(日本電産シンポ製、商品名「FGS−500TV」)を用いて測定した。具体的には、相手材としてアルミ板を用い、3回測定した値の平均値を静摩擦係数とした。
<歩留まり>
熱伝導シート(スライス片)の面精度が20μm以上になるまで、或いは、樹脂成形体の長さがスライド面からのスライス刃の突出長さ以下になるまでスライスを行い、スライス前後の樹脂成形体の長さから以下の式に従って歩留まりを算出した。
歩留まり(%)={(スライス前の樹脂成形体の長さ−スライス後の樹脂成形体の長さ)/スライス前の樹脂成形体の長さ}×100
なお、「面精度」は、得られた熱伝導シートの5箇所(4隅および中心)の厚さを膜厚計(ミツトヨ製、商品名「デジマチックインジケーター ID−C112XBS」)で測定して求めた、熱伝導シートの厚さの標準偏差の値である。
【0055】
(実施例1)
<樹脂成形体の製造>
スーパーグロース法を用いて調製したカーボンナノチューブ(CNT)を0.1質量部と、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−100」、平均粒子径:190μm)を50質量部と、常温で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG−101」)100質量部とを混合して得た組成物をワンダークラッシュミル(大阪ケミカル株式会社製、商品名「D3V−10」)に投入して、1分間解砕した。
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ500μmの複合材料シートを得た。そして、得られた複合材料シートを6cm×6cm×500μmに裁断し、厚み方向に120枚積層し、圧力0.1MPaの条件下、温度120℃で3分間プレスして熱圧着させ、厚さ約6cmの四角柱状の積層体(樹脂成形体)を得た。
<樹脂成形体のスライス>
内周寸法が樹脂成形体の外周寸法と等しい四角筒状体を準備し、準備した四角筒状体の内周面に離型処理が施された厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工製、商品名「セラピールBX8」、静摩擦係数:0.1)を両面テープで貼り付けて保持具とした。
次に、保持具の内周面側に、樹脂成形体の積層方向が保持具の軸線と直交するように、且つ、保持具の下端から樹脂成形体が5mm突出するように、樹脂成形体をセットした。そして、保持具から突出した樹脂成形体部分のスライス(5回)と、上方から下方に向けて1000Nの外力を加えて保持具に保持されていた樹脂成形体を保持具の下端から樹脂成形体が5mm突出するように押し出す操作とを交互に繰り返して実施して、縦6cm×横6cm×厚さ150μmの熱伝導シート(スライス片)を得た。
なお、スライスは、樹脂成形体をスライド面に0.1MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」を用いて行った。ここで、スライス方向は、樹脂成形体の積層方向に対して0度の角度とし、木工用スライサーのナイフは、2枚の片刃が、切刃の反対側同士で接触し、表刃の刃先の最先端が裏刃の刃先の最先端よりも0.10mm高く、スリット部からの突出長さ0.16mmで配置され、表刃の刃角21°である2枚刃のものを用いた。また、樹脂成形体の押し出しは、
図6に示すような押込具を使用して行い、
図1に示すように、押込具はスライス中も樹脂成形体上に載置した。
そして、歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
四角筒状体の内周面に貼り付けるフィルムを厚さ75μmの微粘着フィルム(ソマール株式会社製、商品名「ソマタックWA」、静摩擦係数:0.6)に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体の製造および樹脂成形体のスライスを行った。そして、実施例1と同様にして歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
図3に示すような形状の部材の対向面に離型処理が施された厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工製、商品名「セラピールBX8」、静摩擦係数:0.1)を両面テープで貼り付けたものを保持具として用いた以外は実施例1と同様にして樹脂成形体の製造および樹脂成形体のスライスを行った。そして、実施例1と同様にして歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
挟持面を有さない、上面視L字型の保持具を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体の製造および樹脂成形体のスライスを実施しようとしたが、スライド中に樹脂成形体が保持具から外れてしまい、樹脂成形体のスライスを行うことができなかった。
【0059】
(比較例2)
樹脂成形体の上面および側面の一部を覆う保持具を使用し、保持具の下端から樹脂成形体が30mm突出するように樹脂成形体を保持具にセットし、樹脂成形体の押し出しを行わずにスライスを行った以外は実施例1と同様にして樹脂成形体の製造および樹脂成形体のスライスを行った。そして、実施例1と同様にして歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
樹脂成形体の上面および側面の一部を覆う保持具を使用し、保持具の下端から樹脂成形体が40mm突出するように樹脂成形体を保持具にセットし、樹脂成形体の押し出しを行わずにスライスを行う以外は実施例1と同様にして樹脂成形体の製造および樹脂成形体のスライスを行おうとしたが、スライスの途中で樹脂成形体が変形し、スライス片の面精度が20μm以上まで悪化したため、スライスを中断した。そして、実施例1と同様にして歩留まりの評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1より、実施例1〜3では、樹脂成形体のスライス片を高い歩留まりで得られることが分かる。一方、表1より、比較例1では、樹脂成形体のスライスができず、比較例2では、保持具がスライスの邪魔になり歩留まりを十分に高めることができないことが分かる。また、比較例3では、樹脂成形体の変形により歩留まりを十分に高めることができないことが分かる。