特許第6885188号(P6885188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885188
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】導電性組成物及び端子電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20210531BHJP
   H01B 1/16 20060101ALI20210531BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B1/16 A
   H01B13/00 503C
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-89293(P2017-89293)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-190490(P2018-190490A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】粟ヶ窪 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【審査官】 中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−144126(JP,A)
【文献】 特開2015−168587(JP,A)
【文献】 特開2016−213284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 1/16
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粉末と、酸化第一銅と、無鉛ガラスフリットと、カルボン酸系添加剤とを含有する導電性組成物であって、
前記無鉛ガラスフリットを、前記銅粉末100質量部に対し、9質量部以上50質量部以下含有し、
該無鉛ガラスフリットが、
酸化ホウ素、酸化珪素、酸化亜鉛、及び任意に他の成分を含有し、かつ、含有量の多い酸化物成分の上位3種類が酸化ホウ素、酸化珪素及び酸化亜鉛であるホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットと、
酸化バナジウム、酸化亜鉛、及び任意に他の成分を含有し、かつ、含有量の多い酸化物成分の上位2種類が酸化バナジウム及び酸化亜鉛であるバナジウム亜鉛系ガラスフリットと、を含有し、
前記カルボン酸系添加剤を、前記銅粉末100質量部に対し、0.1質量部以上5.0質量部以下含有する
ことを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
前記バナジウム亜鉛系ガラスフリットを、前記無鉛ガラスフリット100質量%に対して、10質量%以上90質量%以下含有することを特徴とする、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記バナジウム亜鉛系ガラスフリットが、酸化バナジウムを30質量%以上50質量%以下含有し、酸化亜鉛を30質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットを、前記無鉛ガラスフリット100質量%に対して、10質量%以上90質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットが、酸化珪素を35質量%以上55質量%以下含有し、酸化ホウ素を5質量%以上20質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記酸化第一銅を、前記銅粉末100質量部に対して、5.5質量部以上50質量部以下含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項7】
前記カルボン酸系添加剤が、オレイン酸、リノール酸から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項8】
前記銅粉末が、球状粉末及びフレーク状粉末の少なくとも一方を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項9】
前記銅粉末の平均粒径が0.2μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項10】
有機ビヒクルを、導電性組成物100質量%に対して、10質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の導電性組成物を750℃以下の熱処理により焼成する工程を備えることを特徴とする端子電極の製造方法。
【請求項12】
前記導電性組成物を焼成して得た導体の表面にニッケルめっき又は錫めっきを形成する工程を備えることを特徴とする請求項11に記載の端子電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物及び端子電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性成分を含む導電性組成物を焼成することにより、電子部品の端子電極などを形成する方法がある。その際、導電性成分としては、金、銀、パラジウム又はこれらの混合物などが多く用いられている。しかし、金やパラジウムは、貴金属であるため価格が高く、需給状況などによって価格変動を受けやすい。よって、これらの金属を用いた場合、製品のコストアップにつながったり、価格が変動したりするなどの問題がある。銀は、金やパラジウムより安価であるが、マイグレーションが起こりやすいという問題がある。また、導電性成分として、貴金属以外ではニッケルが用いられることもあるが、導電性が比較的低いという問題がある。
【0003】
そこで、近年、導電性成分として、導電性に優れ、耐マイグレーション性に優れ、かつ、安価である銅が用いられ始めている。端子電極は、例えば、有機ビヒクルを配合して粘度を調整したペースト状の導電性組成物(導電性ペースト)を、スクリーン印刷などの印刷法により電子部品素体の両端面に塗布して、乾燥した後、焼成して形成される。銅は、酸化されやすいため、銅を含む導電性ペーストの焼成は、一般的に、還元性雰囲気や不活性ガス雰囲気で行われ、例えば、窒素ガス中で行われる。大気中で焼成すると、銅が酸化されてしまい、その際形成される酸化物により導電性が低下することがある。
【0004】
銅を含む導電性組成物は、主成分として、銅粉末とガラスフリットとを含む場合が多い。ガラスフリットは、導電性成分同士を密着させたり、基板と導電性成分とを密着させたりする効果がある。従来、ガラスフリットは、鉛を含有するガラスフリットが多く用いられてきた。鉛を含有するガラスフリットは、軟化温度が低く、導電性成分や基板との濡れ性に優れるため、鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物は、十分な導電性及び基板との密着性を有する。
【0005】
しかしながら、近年、環境に有害な化学物質に対する規制が厳しくなっており、鉛はRoHS指令などで規制対象物質になっている。そこで、鉛を含まないガラスフリット(無鉛ガラスフリット)を用いた導電性組成物が求められている。
【0006】
例えば、特許文献1には、銅粉、酸化第一銅粉、酸化第二銅粉およびガラス粉を主成分とする無機成分と有機ビヒクル成分からなる銅ペースト組成物が記載され、この銅ペースト組成物は、特に550〜750℃での低温焼成に適することが記載されている。しかし、その実施例において、この銅ペースト組成物に用いられるガラス粉としては、鉛を含むガラス粉のみが開示されている。
【0007】
鉛を実質的に含まない無鉛ガラスフリットは、鉛ガラスフリットに比べて基板との濡れ性に劣ることが知られている。このことにより、無鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物は、導体と基板との密着性が十分に得られない場合がある。特に、焼成の際の熱処理温度が低くなるほどその傾向は顕著にあらわれる。そのため、十分な導電性及び密着性を有する導体を形成することのできる、無鉛ガラスフリットを用いた導電性組成物が求められている。
【0008】
例えば、引用文献2には、少なくとも銅粉末、無鉛ガラスフリット、酸化第一銅を含有し、無鉛ガラスフリットは、少なくともビスマス、ホウ素およびシリコンの各酸化物を含むとともに、軟化開始温度が400℃以下である銅ペーストが開示されている。この銅ペーストは、セラミック基板に対して密着性に優れることが記載されている。
【0009】
また、引用文献3には、外部電極用銅ペーストに用いられるガラスフリットとして、ホウ珪酸系ガラスフリット(SiO−B系)、ホウ珪酸バリウム系ガラスフリット(BaO−SiO−B系)等の無鉛ガラスフリットに、酸化亜鉛を特定の割合で含有するホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットを添加することにより、電気特性および接着強度に優れた銅ペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平03−141502号公報
【特許文献2】特開2012−54113号公報
【特許文献3】特開2002−280248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2及び3に記載される銅ペーストは、900℃の焼成で導体を形成しており、例えば、750℃以下の低温で焼成した際にも、十分な導電性及び密着性を有する導体を得られるかについては検討されていない。
【0012】
本発明は、このような現状に鑑みて検討されたもので、750℃程度の温度でも焼成が可能であり、十分な密着性を有し、特に導電性に優れる導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様では、銅粉末と、酸化第一銅と、無鉛ガラスフリットと、カルボン酸系添加剤とを含有する導電性組成物であって、無鉛ガラスフリットを、前記銅粉末100質量部に対し、9質量部以上50質量部以下含有し、該無鉛ガラスフリットが、酸化ホウ素、酸化珪素、酸化亜鉛、及び任意に他の成分を含有し、かつ、含有量の多い酸化物成分の上位3種類が酸化ホウ素、酸化珪素及び酸化亜鉛であるホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットと、酸化バナジウム、酸化亜鉛、及び任意に他の成分を含有し、かつ、含有量の多い酸化物成分の上位2種類が酸化バナジウム及び酸化亜鉛であるバナジウム亜鉛系ガラスフリットと、を含有し、かつ、カルボン酸系添加剤を、銅粉末100質量部に対し、0.1質量部以上5.0質量部以下含有する導電性組成物が提供される。
【0014】
また、バナジウム亜鉛系ガラスフリットを、前記無鉛ガラスフリット100質量%に対して、10質量%以上90質量%以下含有することが好ましい。また、バナジウム亜鉛系ガラスフリットが、酸化バナジウムを30質量%以上50質量%以下含有し、酸化亜鉛を30質量%以上50質量%以下含有することが好ましい。また、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットを、前記無鉛ガラスフリット100質量%に対して、10質量%以上90質量%以下含有することが好ましい。また、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットが、酸化珪素を35質量%以上55質量%以下含有し、酸化ホウ素を5質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。また、カルボン酸系添加剤が、オレイン酸、リノール酸から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。また、酸化第一銅を、前記銅粉末100質量部に対し、5.5質量部以上50質量部以下含有することが好ましい。また、銅粉末が、球状粉末及びフレーク状粉末の少なくとも一方を含有することが好ましい。また、銅粉末の平均粒径が0.2μm以上5μm以下であることが好ましい。また、有機ビヒクルを、導電性組成物100質量%に対して、10質量%以上50質量%以下含有することが好ましい。
【0015】
本発明の第2の態様では、上記導電性組成物を750℃以下の熱処理により焼成する工程を備える端子電極の製造方法が提供される。
【0016】
また、上記端子電極の製造方法は、導電性組成物を焼成して得た導体の表面にニッケルめっき又は錫めっきを形成する工程を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、750℃以下の温度でも焼成が可能であり、密着性に優れ、特に導電性に優れた導体を形成することができる、導電性組成物を提供できる。そのため、本発明の導電性組成物を用いることによって、電子部品の抵抗体や内部素子等にダメージを与えることなく、密着性及び導電性に優れた端子電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、積層セラミックコンデンサを示す図である。
図2図2は、実施例1、2及び比較例5、6の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.導電性組成物
本実施形態の導電性組成物は、銅粉末と、無鉛ガラスフリットと、酸化第一銅と、カルボン酸系添加剤とを含む。導電性組成物は、鉛ガラスフリットを使用しないことにより、実質的に鉛を含まず、環境特性に優れる。なお、無鉛ガラスフリットとは、鉛を含まないか、または、鉛を含む場合でも、その含有量が極めて少ないガラスフリット(例えば、ガラスフリット全体に対して、鉛の含有率が0.1質量%以下)をいう。また、導電性組成物が実質的に鉛を含まない、ということは、例えば、導電性組成物全体に対して、鉛の含有量が0.01質量%以下である状態をいう。
以下、導電性組成物を構成する各成分について説明する。
【0020】
(1)銅粉末
本実施形態の導電性組成物は、導電性成分として銅粉末を含む。銅粉末は、導電性や耐マイグレーション性に優れ、かつ、安価である。銅粉末は、酸化されやすいため、導電性組成物を熱処理する際は、通常、窒素雰囲気中で加熱処理される。
【0021】
銅粉末の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法、例えば、アトマイズ法、湿式還元法、電気分解法などを用いることができる。例えば、アトマイズ法を用いた場合、得られる銅粉中の不純物の残留濃度を小さくすることができると共に、得られる銅粉の粒子の表面から内部に至る細孔を少なくすることができ、銅粉末の酸化を抑制できる。
【0022】
銅粉末の形状および粒径は、特に限定されず、対象電子部品に応じて適宜選択できる。銅粉末の形状は、例えば、球状、フレーク状の銅粉末またはこれらの混合物を用いることができる。銅粉末は、例えば、フレーク状の銅粉末を含むことにより、銅粉末同士の接触面積が大きくなり、導電性に優れる場合がある。
【0023】
銅粉末は、球状の銅粉末及びフレーク状の混合物を用いる場合、球状の銅粉末及びフレーク状の混合割合は、用途に応じて、適宜、選択できる。混合割合は、例えば、銅粉末全体100質量部に対して、球状の銅粉末を10質量部以上90質量部以下、フレーク状の銅粉末を90質量部以下10質量部以上含有させることができる。
【0024】
銅粉末の粒径は、例えば、球状の銅粉末の場合、平均粒径が0.2μm以上5μm以下程度とすることができる。例えば、フレーク状の銅粉末の場合、フレーク状に扁平した粒径は3μm以上30μm以下程度とすることができる。粒径が上記範囲の場合、小型化した電子部品への適用性に優れる。なお、球状の銅粉末の場合、この平均粒径は堆積累計分布のメジアン径(D50)であり、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定できる。なお、銅粉末は、同一の粒径を有する粉末を用いても、異なる粒径を有する2種以上の粉末を混合して用いてもよい。フレーク状の銅粉末の場合、粒径は、電子顕微鏡観察で測定することができる。
【0025】
なお、通常、導電性粉末の粒径を小さくすることにより、焼成を進みやすくすることができるが、例えば、球状の銅粉末の平均粒径を0.2μm未満とした場合、銅粉末が酸化しやすくなり、逆に焼結不良が発生するだけでなく、容量不足や、ペースト粘度の経時変化等の不具合が起こりやすくなる場合がある。本実施形態の導電性組成物は、例えば、銅粉末の粒径が1μm以上であっても、後述する特定の成分を含むことにより、例えば750℃以下の低温の熱処理であっても、十分、銅粉末を焼成させることができる。
【0026】
(2)無鉛ガラスフリット
本実施形態の導電性組成物は、無鉛ガラスフリットとして、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットと、バナジウム亜鉛系ガラスフリットとを含有する。導電性組成物は、上記2種類を組み合わせたガラスフリットを含むことにより、無鉛ガラスフリットを用いた場合においても、銅粉末及び基板への濡れ性にバランスよく優れるので、この導電性組成物は、750℃以下の温度で焼成した場合でも、導電性及び密着性に非常に優れた導体を得ることができる。
【0027】
導電性組成物は、無鉛ガラスフリットを、銅粉末100質量に対し、9質量部以上50質量部以下含有するのが好ましく、16質量部以上45質量部以下含有するのがより好ましく、20質量部以上41質量部以下含有するのがさらに好ましい。無鉛ガラスフリットの含有量を上記範囲にした場合、好適な端子電極を形成することができる。無鉛ガラスフリットの含有量を上記範囲にした導電性組成物を端子電極の形成に用いた場合、密着性がより向上し、かつ、端子電極の表面にニッケルめっき又は錫めっきを施した際に生じる侵食、変形等に対して優れた耐性を有することができる。また、無鉛ガラスフリットの含有量が上記範囲内である場合、導電性組成物中の無鉛ガラスフリットの含有量の増加に応じて、導電性も向上する傾向がある。
【0028】
また、無鉛ガラスフリットは、例えば、導電性ペースト100質量%に対して、5質量%以上40質量%以下含有され、好ましくは10質量%以上30質量%以下含有される。
【0029】
ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットとは、酸化ホウ素(B)、酸化珪素(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、及び任意に他の成分を含み、含有量の多い酸化物成分の上位3種類がB、SiO及びZnOであるガラスフリットのことである。ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットは、SiOを35質量%以上55質量%以下、ZnOを10質量%以上30質量%以下、Bを5質量%以上20質量%以下含有するのが好ましい。各酸化物成分を上記範囲で含有する場合、形成される導体が耐酸性、防食性に非常に優れ、ニッケルめっき又は錫めっきのめっき処理に耐えることができるため、端子用電極を形成する導電性ペーストとして好適に用いることができる。
【0030】
なお、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットの組成は、上記以外の任意に他の成分を含むことができ、例えば、LiO、KO等のアルカリ金属の酸化物やAl、CaO、ZrO、CuO等を含むことができる。これらの他の成分の添加量は、例えば、それぞれ0.5質量%以上10質量%以下とするのが好ましい。
【0031】
ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットは、軟化点が600℃以下であることが好ましく、より好ましくは400℃以上600℃以下であり、さらに好ましくは500℃以上600℃以下である。軟化点が上記範囲である場合、低温焼成した際でも、導電性及び密着性に優れた導体を得ることができる。軟化点は、例えば、ガラスフリットの組成を適宜調整することにより、制御することができる。また、軟化点は、大気雰囲気下で昇温速度10℃/分の条件による熱重量・示差熱分析(TG−DTA)で測定することができる。
【0032】
ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットの粒径は、特に限定されないが、例えば、平均粒径1μm以上10μm以下であり、好ましくは1μm以上5μm以下である。ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットの軟化点が上記範囲でかつ粒径が上記範囲であることにより、750℃以下の温度での焼成の際にも、熔融したホウ珪酸亜鉛系ガラスの流動性に優れるので、密着性に非常に優れた導体を得ることができる。なお、平均粒径は、堆積累計分布のメジアン径(D50)であり、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定できる。レーザー回折・散乱式の粒子径・粒度分布測定装置には、マイクロトラック(登録商標)と称呼される測定装置が知られている。
【0033】
ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットは、例えば、無鉛ガラスフリット100質量%に対して、10質量%以上90質量%以下含有され、好ましくは20質量%以上80質量%以下含有され、より好ましくは50質量%以上70質量%以下含有される。本実施形態において、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットの含有量が上記範囲である場合、形成される導体が導電性及び基板との密着性にバランスよく優れる。
【0034】
バナジウム亜鉛系ガラスフリットは、少なくとも酸化亜鉛(ZnO)及び酸化バナジウム(V)を含み、含有量の多い酸化物成分の上位2種類が酸化バナジウム及び酸化亜鉛である。バナジウム亜鉛系ガラスフリットは、好ましくは、ZnOを30質量%以上50質量%以下、Vを30質量%以上50質量%以下含有する。バナジウム亜鉛系ガラスフリットは、バナジウム酸化物を含むことにより、低温で熱処理した場合でも流動性に優れる導電性組成物を得ることができる。
【0035】
なお、バナジウム亜鉛系ガラスフリットの組成は、上記以外の任意成分を含有させたものでもよく、例えば、CaO等のアルカリ金属の酸化物や、B、Bi、Al等を含んでもよい。これらの任意分の添加量は、例えば、それぞれ0.5質量%以上10質量%以下とするのが好ましい。
【0036】
バナジウム亜鉛系ガラスフリットは、その軟化点が、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは300℃以上500℃以下であり、より好ましくは350℃以上450℃以下である。軟化点が上記範囲である場合、流動性に優れた導電性組成物とすることができる。軟化点は、例えば、ガラスフリットの組成を適宜調整することにより、制御することができる。また、軟化点は、大気雰囲気下で昇温速度10℃/分の条件による熱重量・示差熱分析(TG−DTA)で測定することができる。
【0037】
バナジウム亜鉛系ガラスフリットの粒径は、特に限定されないが、例えば、平均粒径1μm以上10μm以下であり、好ましくは1μm以上5μm以下である。バナジウム亜鉛系ガラスフリットの軟化点が上記範囲でかつ、粒径が上記範囲である場合、750℃以下の温度での焼成の際にも、熔融したバナジウム亜鉛系ガラスの流動性に優れるので、密着性に非常に優れた導体を得ることができる。なお、この平均粒径は、堆積累計分布のメジアン径(D50)であり、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定できる。
【0038】
バナジウム亜鉛系ガラスフリットは、無鉛ガラスフリット100質量%に対して、例えば10質量%以上90質量%以下含有され、好ましくは20質量%以上80質量%以下含有され、より好ましくは30質量%以上50質量%以下含有される。本実施形態において、バナジウム亜鉛系ガラスフリットの含有量が上記範囲である場合、形成される導体が導電性及び基板との密着性にバランスよく優れる。
【0039】
また、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットの軟化点は、上記バナジウム亜鉛系ガラスフリットの軟化点より高いものを用いることができる。導電性組成物は、異なる軟化点を有するガラスフリットを含むことにより、導電性組成物を焼成する際の昇温過程から熔融したガラスの流動性に優れ、導電性成分及び基板への濡れ性にバランスよく優れるので、密着性に非常に優れた導体を得ることができる。また、これらのガラスフリットに含まれるZnOは、乾燥や焼成工程の際、有機ビヒクル由来の残留チャー(煤、カーボン)により還元されて亜鉛となり、この亜鉛により、銅粉末の酸化を抑制することができる。なお、ガラスフリット中のZnOの機能は上記に限定されない。
【0040】
また、導電性組成物中、ZnOは、銅粉末100質量に対し、例えば1質量部以上15質量部以下含まれ、好ましくは3質量部以上12質量部以下含まれる。また、SiOは、銅粉末100質量に対し、例えば1質量部以上15質量部以下含まれ、好ましくは4質量部以上12質量部以下含まれる。また、Bは、銅粉末100質量に対し、例えば1質量部以上10質量部以下含まれ、好ましくは2質量部以上6質量部以下含まれる。
【0041】
また、導電性組成物中、Vは、銅粉末100質量に対し、例えば1質量部以上10質量部以下含まれ、好ましくは2質量部以上7質量部以下含まれる。Vの含有量が上記範囲である場合、流動性及び密着性により優れる。また、導電性組成物中、CuOは、銅粉末100質量に対し、例えば、1質量部以上3質量部以下含まれてもよい。
【0042】
(3)酸化第一銅
本実施形態の導電性組成物は酸化第一銅(酸化銅(I):CuO)を含む。これにより、低温焼成用銅導電ペーストの銅粉末同士の焼結を促進させることができる。
【0043】
酸化第一銅の含有量は、例えば、銅粉末100質量部に対し、好ましくは5.5質量部以上50質量部以下とすることができ、より好ましくは7質量部以上40質量部以下、より好ましくは7質量部以上15質量部以下である。酸化第一銅の含有量が上記範囲である場合、銅粉末同士の焼結を促進させ、より優れた導電性及び密着性を有する。なお、酸化第一銅の含有量が銅粉末100質量部に対し50質量部を越えた場合、後述のカルボン酸系添加物を含有させても、銅の焼結に寄与しない余分な酸化銅が抵抗となり、導電性が不十分となることがある。
【0044】
無鉛ガラスフリットは、非酸素雰囲気中(例えば、窒素ガス雰囲気中など)で焼成すると基板に対する密着性が不十分となる傾向がある。しかし、無鉛ガラスフリットと酸化第一銅を含む導電性組成物を、例えば、ペースト状に調整した後、非酸素雰囲気中で熱処理すると、熱処理時に微量の酸素が酸化第一銅から焼成雰囲気中に導入されることにより、基板に対する密着性を向上させることができる。また、酸化第一銅は、酸素を非酸化性雰囲気に放出すると銅となり、銅粉末と共に導電性組成物を焼成して得られる導体を形成する。本実施形態の導電性組成物によれば、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットと、バナジウム亜鉛系ガラスフリットと、酸化第一銅とを組み合わせることにより、導電性及び基板に対する密着性を顕著に向上させることができる。なお、本実施形態の導電性組成物は、上記した効果を阻害しない範囲で、少量の酸化第二銅(酸化銅(II):CuO)を含んでもよい。酸化第二銅は、例えば、銅粉末100質量部に対し、0質量部以上5質量部以下含むことができる。
【0045】
酸化第一銅は、粉末状で、その平均粒径は、5μm以下が望ましい。平均粒径5μm以下の酸化第一銅粉末を用いることで、導電性組成物中に酸化第一銅を分散して配合することができる。酸化第一銅の平均粒径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上とすることができる。なお、酸化第一銅の平均粒径は、電子顕微鏡観察やレーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置で測定することができる。
【0046】
(4)カルボン酸系添加剤
本実施形態の導電性組成物は、カルボン酸系添加剤を含有することにより、前記酸化第一銅が銅粉同士の焼結を促進させる効果を向上させ、密着性、導電性などにより優れる導体を形成することができる。
【0047】
酸化第一銅は、上述の様に銅粉末同士の焼結を促進させる効果があり、銅粉の焼結により導電性は向上するが、全ての酸化第一銅が焼結を促進させることができるわけでは無く、一部は未反応のまま存在していることがある。
【0048】
本実施形態の導電性組成物は、カルボン酸系添加剤を含有することにより、この未反応の酸化第一銅をより反応させることができると考えられる。そして、酸化第一銅の反応により、銅粉末同士の焼結性が向上し、かつ、導体中に残留し電気抵抗成分となる酸化第一銅が減少することにより、導電性を更に向上させることができると考えられる。
【0049】
カルボン酸系添加剤の含有量は、例えば、銅粉末100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上5.0質量部以下とすることができ、より好ましくは1.0質量部以上4.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以上3.0質量部以下である。カルボン酸系添加剤の含有量が上記範囲である場合、酸化第一銅が銅粉同士の焼結を促進させる効果を向上させたり、酸化第一銅の分解を促進させたりする効果がある。カルボン酸系添加剤の含有量が銅粉末100質量部に対して5.0質量部を越える場合、導電性組成物に有機ビヒクルを添加してペースト状の組成物の組成物とした際、該ペースト状の組成物から得られる導体の密着性が低下することや、長期保存により銅粉末が溶解しペースト状の組成物の変色等の問題が発生することがある。
【0050】
カルボン酸系添加剤は、カルボキシル基を有する添加剤をいい、常温で液状の不飽和脂肪酸が好ましい。カルボン酸系添加剤としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられ、これらの中でも、オレイン酸、リノール酸から選ばれる少なくとも1種以上であることがより好ましい。
【0051】
また、カルボン酸系添加剤は、本実施形態に係る導電性組成物に有機ビヒクルを添加してペースト状の組成物とした場合の、銅粉末や無鉛ガラスフリットを有機ビヒクルへ分散させる分散剤としての機能も備える。有機ビヒクルへの分散性の向上という観点から、カルボン酸系添加剤は、炭素数14以上18以下の不飽和カルボン酸が好ましい。
【0052】
(5)有機ビヒクル
本実施形態の導電性組成物は、有機ビヒクルを含有させてもよい。有機ビヒクルは、導電性組成物の粘度を調整し、適切な印刷性を有するペースト状の組成物とすることができる。
【0053】
有機ビヒクルは、その組成は特に限定されず、導電性ペーストに用いられる公知のものを用いることができる。有機ビヒクルは、例えば、樹脂成分と溶剤とを含有する。樹脂成分としては、例えば、セルロース樹脂やアクリル樹脂などを用いることができる。溶剤としては、例えば、ターピネオールやジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のエーテル系溶剤を、単独または複数、混合して用いることができる。
【0054】
有機ビヒクルは、導電性組成物を乾燥又は焼成する際に揮発又は燃焼する成分であるため、導電性組成物における有機ビヒクルの含有量は、特に限定されない。有機ビヒクルは、導電性組成物が適度な粘性および塗布性を有する様に添加すればよく、用途等により適宜、その含有量を調製することができる。例えば、有機ビヒクルは、ペースト状の導電性組成物(導電性ペースト)100質量%に対して、10質量%以上50質量%以下含有されることができる。
【0055】
なお、本実施形態の導電性組成物は、本発明の効果を奏する範囲で、他の成分を含有してもよい。例えば、このような他の成分として、消泡剤、分散剤、カップリング剤等を、導電性組成物に適宜添加してもよい。
【0056】
(6)導電性組成物
本実施形態の導電性組成物は、焼成後の導体の導電性及び基板との接着性に非常に優れ、かつ、耐酸性及び防食性に優れるため、端子用電極の形成に好適に用いることができる。また、本実施形態の導電性組成物は、750℃以下の熱処理で焼成することが可能であり、さらに600℃以下の熱処理でも焼成することが可能であり、形成された導体は優れた導電性及び基板との接着性を示すため、低温焼成用の導電性ペーストとして好適に用いることができる。
【0057】
本実施形態の導電性組成物は、600℃で焼成した導体の膜厚10μmに換算した面積抵抗値が、好ましくは30mΩ以下であり、より好ましくは20mΩ以下である。なお、この面積抵抗値は、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
【0058】
また、本実施形態の導電性組成物は、600℃で焼成した導体の剥離強度(ピール強度)が、好ましくは10N以上であり、より好ましくは20N以上である。なお、このピール強度は、例えば、上記導電性組成物を600℃で焼成して作製した銅導体に直径0.6mmのSnめっきCuワイヤーを3Ag−0.5Cu−Snはんだで取り付けた後、前記SnめっきCuワイヤーを引っ張って破壊させた時に測定される値で、電子部品の基板と導体の密着性を評価する値である。
【0059】
なお、本実施形態の導電性組成物は、電子部品の端子電極以外にも用いることができ、例えば、電子部品の内部電極や配線、はんだ代替品として電子素子などのチップ部品をリードフレームや各種基板に接着し、電気的又は熱的に導通させる材料として使用してもよい。
【0060】
2.端子電極の製造方法
本実施形態の端子電極の製造方法は、上記導電性組成物を焼成する工程を備える。また、端子電極の製造方法は、上記導電性組成物を焼成して得た導体の表面にニッケルめっき又は錫めっきを形成する工程を備えることができる。以下、端子電極の製造方法の一例として、積層セラミックコンデンサの外部電極の製造方法について説明する。
【0061】
図1A及びBは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、チタン酸バリウム等のセラミック誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層したセラミック積層体10と外部電極20とを備える。
【0062】
外部電極20は、上記ペースト状の導電性組成物(導電性ペースト)を用いて形成される外部電極層21及びめっき層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続する。なお、外部電極20は、外部電極層21及びめっき層22以外の層を備えてもよい。また、外部電極20は、めっき層22を備えなくてもよい。
【0063】
導電性ペーストは、銅粉末と、酸化第一銅と、無鉛ガラスフリットと、カルボン酸系添加剤と、有機ビヒクルとを混合して製造される。無鉛ガラスフリットは、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットと、バナジウム亜鉛系ガラスフリットとを含有する。導電性ペースト中の各成分の組成、配合割合等は、上述した通りである。
【0064】
外部電極の製造方法は、例えば、内部電極が形成され焼成して得られたセラミック積層体10の端面に、上記導電性ペーストをスクリーン印刷、転写、浸漬塗布等などの任意の方法で印刷又は塗布する。次いで、乾燥、焼成を行うことにより、導電性ペースト中のCuを焼結させ、外部電極層21を得る。さらに、外部電極層21の表面に、ニッケルめっき及び/又は錫めっきを施して、めっき層22を形成してもよい。外部電極20は、めっき層22を有する場合、はんだ付け性が向上する。また、積層セラミックコンデンサの外部電極の製造の際には、上述の導電性組成物に対する基板は、セラミック積層体である。
【0065】
焼成は、一般的に、800℃以上1000℃の熱処理により行われる。本実施形態の導電性ペーストは、800℃未満の熱処理でも十分に焼成することができ、例えば750℃以下の熱処理でも焼成が可能であり、650℃以下の熱処理でも焼成が可能である。また、本実施形態の導電性ペーストによれば、後述する実施例に示されるように、600℃の熱処理で焼成した場合でも、導電性及び密着性に非常に優れる外部電極を得ることができる。焼成の熱処理温度の下限は、特に限定されないが、例えば、400℃以上である。また、焼成の処理の時間は、ピーク温度において、例えば、5分以上20分以下である。
【0066】
また、焼成の前に乾燥を行ってもよい。乾燥の条件は特に限定されないが、例えば、50℃〜150℃、5分〜15時間程度で行うことができる。また、焼成炉内のバーンアウトゾーンの酸素濃度は、特に限定されないが、例えば、100ppmとすることができる。
【0067】
本実施形態の電子部品は、上記導電性ペーストを電子部品上に塗布すること、及び塗布後の電子部品を焼成すること、により電子部品を製造することができる。この電子部品の製造方法において本実施形態の導電性組成物を用いれば、750℃以下の熱処理で焼成させることができるため、抵抗体や内部素子等へのダメージを低減することができる。また、熱処理は、650℃以下で行うこともでき、さらに600℃以下で行うこともできる。この製造方法により形成された導体は、導電性及び密着性に非常に優れる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明について実施例と比較例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
1.原料
(1)銅粉末(球状):アトマイズ法により製造した平均粒径0.3μm、1.0μmの球状の銅粉末を用いた。
【0069】
(2)無鉛ガラスフリット
・ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリット(A):ZnO−SiO−B系ガラスフリット(ZnO:21質量%、SiO:47.6質量%、B:10.6質量%、軟化点:595℃、平均粒径1.5μm)を用いた。
・ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリット(B):ZnO−SiO−B系ガラスフリット(ZnO:15.5質量%、SiO:44.4質量%、B:13.8質量%、軟化点:590℃、平均粒径1.5μm)を用いた。
・バナジウム亜鉛系ガラスフリット:ZnO−V系ガラスフリット(ZnO:40.9質量%、V:39.5質量%、軟化点:405℃、平均粒径3.5μm)を用いた。
・ホウ珪酸ビスマス系ガラスフリット:Bi−SiO−B系ガラスフリット(B:24.4質量%、Bi:34.1質量%、SiO:17質量%、軟化点:580℃、平均粒径1.5μm)を用いた。
用いた無鉛ガラスフリットの組成を表1に示す。
【0070】
銅粉末と無鉛ガラスフリットの平均粒径はマイクロトラックで測定した。また、無鉛ガラスフリットの軟化点は、大気雰囲気下で昇温速度10℃/分の条件による熱重量・示差熱分析(TG−DTA)で測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
(3)酸化第一銅には平均粒径3μmを用いた。
(4)また、カルボン酸系添加剤には、オレイン酸とリノール酸を用いた。
【0073】
2.導電性ペーストの製造
(有機ビヒクルの作製)
ターピネオール80質量%に対して、エチルセルロース18質量%、アクリル樹脂2質量%の配合で混合し、撹拌しながら60℃まで加熱し、透明で粘稠な有機ビヒクルを作製した。
【0074】
(導電性ペーストの作製)
銅粉末、ガラスフリット、酸化第一銅、オレイン酸またはリノール酸および上述のように調整した有機ビヒクルをミキサーで混合し、混合物を得た。各成分の配合比率を表2に示す。この混合物を、三本ロールミルによって混練して、導電性ペーストを作製した。
【0075】
3.評価用の導体の形成
(1)面積抵抗値評価用試料
金ペーストをアルミナ基板に印刷、焼成し、電極間距離50mmの金(Au)電極が形成されたアルミナ基板を準備した。前記基板の表面上に、幅0.5mm、電極間距離50mmとなるパターンを用いて、焼成後の厚みが10μm〜13μmとなるように、得られた導電性ペーストをAu電極間に印刷した。この印刷後のアルミナ基板を、120℃で熱処理し、導電性ペーストを乾燥させた。乾燥処理後のアルミナ基板を、窒素雰囲気ベルト炉で、ピーク温度600℃、ピーク温度持続時間10分、炉入り口から出口まで60分のプロファイルで熱処理し、導電性ペーストを焼成した。炉内の焼成ゾーンの酸素濃度は5ppmとし、600℃まで昇温させる過程で(炉入り口から600℃のゾーンまで)に設けられたバーンアウトゾーンには乾燥空気を導入し、酸素濃度を200ppm、400ppmおよび600ppmの各濃度に設定した。なお、酸素濃度は、ジルコニア酸素濃度計(東レ製:型式LC−750)を用いて測定し、各濃度に調整した。
(2)密着性評価用の試料
アルミナ基板上に前述の導電性ペーストを2mm×2mmのパターンで印刷し、上述の面積抵抗値評価用試料作製条件と同条件で焼成して、密着性評価用の試料(焼成後の厚み10μm)を作製した。
【0076】
(3)形成した導体の特性評価
(3−1)面積抵抗値(導電性)
上記で得られた面積抵抗値評価用試料のAu電極間にデジタルマルチメータ(株式会社アドバンテスト製)の抵抗値測定用プローブを接触させて、導体の抵抗値R[t]を測定した。続いて、この抵抗値R[t]を面積抵抗値Rs[t](=R(t)×W/L)に換算した。この値を用いて、導体の厚さが10μmである場合の面積抵抗値Rs0(=Rs[t]×t/10)(mΩ/□)を算出した。なお、tは導体の厚さ、Wは導体の幅、Lは導体の長さを示す。これらの結果を表2に示す。
【0077】
(3−2)基板との密着性
得られた密着性評価用の試料の銅導体に直径0.6mmのSnめっきCuワイヤーを、96.5質量%Sn−3質量%Ag−0.5質量%Cu組成のはんだを用いてはんだ付けし、荷重測定器(アイコーエンジニアリング(株)製、MODEL 2152HTP)を用いて垂直方向に80mm/minの速度で引っ張り、導体を基板から剥離させた際の剥離強度(ピール強度)を20点測定し、その平均値で評価した。
【0078】
【表2】
【0079】
[評価結果]
表2に示されるように、実施例の導電性組成物によれば、基板に対する十分な密着性を有し、十分な導電性を有する導体を得ることができる。
【0080】
これに対して、ガラスフリットとして、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットのみを用いた比較例1は、密着性が非常に悪く、安定した導体を形成することができなかった。また、ガラスフリットとして、バナジウム亜鉛系ガラスフリットのみを用いた比較例2では、ガラス成分が基板に浸透しすぎて、導体の形状を保つことが出来ず、密着性の評価ができなかった。また、ガラスフリットとして、ホウ珪酸亜鉛系ガラスフリットとホウ珪酸ビスマス系ガラスフリットを用いた比較例3では、ガラスが十分に溶融せず密着性に劣ることが確認された。
【0081】
カルボン酸系添加剤のオレイン酸を過剰に含有させた比較例4では、導電性や密着性に劣ることが確認された。これは、過剰に存在するオレイン酸が酸化第一銅の焼結性向上だけでなく、銅粉末の溶解などを引き起こしてしまい、逆に、導電性や密着性を低下させたためと考えられる。また、比較例4の試料は、過剰なオレイン酸が銅粉末を溶解させるため、経時変化により作製した導電性ペーストが変色するのが確認された。
【0082】
また、カルボン酸系添加剤を含まない以外は、実施例1と同一の条件で得られた比較例5の導体は、実施例1の導体と比較した場合、導電性及び密着性が低下することが示された(図2参照)。また、カルボン酸系添加剤を含まない以外は、実施例2と同一の条件で得られた比較例6の導体も、同様の傾向を示した(図2参照)。この結果から、カルボン酸系添加剤を含有することにより、より導電性及び密着性が向上することが示された。
【0083】
以上の結果から、本実施形態の導電性組成物を用いることにより、750℃以下、例えば600℃程度の低温で焼成させた場合において、導電性及び密着性に非常に優れた導体を形成することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本実施形態の導電性組成物は、銅粉末と特定の無鉛ガラスフリットと酸化第一銅とを含むことにより、導電性及び接着強度に非常に優れ、外部電極などの導体の形成に好適に用いることができる。また、本実施形態の導電性組成物は、電子部品の内部電極、はんだ代替品などとしても用いることができる。中でも、本実施形態の導電性組成物は、素体との接着性、特にNiメッキもしくはSnメッキ等のメッキ処理を施した後においても高い接着強度が得られる端子電極に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミック積層体
11 内部電極層
12 誘電体層
20 外部電極
21 外部電極層
22 メッキ層
図1
図2