特許第6885200号(P6885200)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885200ポリビニルアルコール系樹脂組成物、成形物、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885200
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂組成物、成形物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20210531BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 41/24 20060101ALI20210531BHJP
   B29K 29/00 20060101ALN20210531BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
   C08L29/04 D
   C08L5/00
   B29C41/24
   B29K29:00
   B29L7:00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-106744(P2017-106744)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-203806(P2018-203806A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 文香
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】山内 翠
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−139240(JP,A)
【文献】 特開2001−288321(JP,A)
【文献】 特開平07−224202(JP,A)
【文献】 特表2016−503121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)と糖類(B)を含有する樹脂組成物において、糖類(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して、30〜50重量部であり、前記樹脂組成物からなるフィルムを25℃、20%RHで1週間放置した際の該フィルムの破断のびが20〜80%であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度が60〜100モル%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)の平均重合度が200〜4000であることを特徴とする請求項1又は2いずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項4】
糖類(B)の吸水率が1.003重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)と糖類(B)を含有する樹脂組成物からなるフィルムを、25℃、65%RHで1週間調湿した際の該フィルムの弾性率が600N/mm2以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形物。
【請求項7】
以下の工程[I]及び[II]を順次行い成形物を得ることを特徴とする成形物の製造方法。
[I]ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部と糖類(B)30〜50重量部を含有する樹脂組成物を水溶液にする溶解工程
[II]得られた水溶液を、乾燥温度50℃以下で乾燥する乾燥工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有してなる樹脂組成物及び成形物に関するものであり、詳しくは、低湿度下での耐ひび割れ性及び高湿度下での強度に優れる成形物が得られる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂という。)及び糖類はそれぞれ水溶性の化合物として、その特性を活かして様々な用途に用いられている。
例えば、接着剤、医薬品の結合剤、分散剤、フィルム、化粧品等が挙げられる。
中でも近年、食品包装材、医薬品の包装材、農業用の包装材など、包装材としての要望が高まっており、PVA系樹脂や糖類を用いた包装材が各種の用途で用いられるようになった。
【0003】
しかしながら、これらはいずれも成形時や冬期などの場合、低湿度下にさらされることもあり、その場合の包装材のひび割れが問題となっている。また雨天などの場合、高湿度下にさらされることがあり、その場合の包装材の強度が問題となっている。
【0004】
問題点である包装材に強度を付与するため、フィラーを含有させるなどの検討が行われている(例えば、特許文献1参照。)。また、包装材に耐割れ性を付与するため、可塑剤を含有させるなどの検討も行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−316379号公報
【特許文献2】特開2014−28963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2では、低湿度下での耐ひび割れ性及び高湿度下での強度の両立の点で未だ十分なものとは言えなかった。
そこで本発明は、低湿度下での耐ひび割れ性、及び高湿度下での強度の両立の問題を解決し、低湿度下での耐ひび割れ性、かつ高湿度下での包装材の形状安定性に優れるフィルム等の成形物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明等は上記実情に鑑み鋭意検討した結果、PVA系樹脂と糖類を含有してなる樹脂組成物において、糖類を従来よりも多く含有させ、更に、フィルムとした際の破断のびを20〜80%とすることにより、低湿度下での耐ひび割れ性に優れ、かつ高湿度下での包装材の形状安定性に優れるフィルム等の成形物を得るための樹脂組成物を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の要旨は、PVA系樹脂(A)と糖類(B)を含有する樹脂組成物において、糖類(B)の含有量が、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、30〜50重量部であり、前記樹脂組成物からなるフィルムを25℃、20%RHで1週間放置した際の該フィルムの破断のびが20〜80%であることを特徴とする樹脂組成物に関するものである。
【0009】
また、本発明の第2の要旨は、
以下の工程[I]及び[II]を順次行い成形物を得ることを特徴とする成形物の製造方法に関するものである。
[I]ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部と糖類(B)30〜50重量部を含有する樹脂組成物を水溶液にする溶解工程
[II]得られた水溶液を、乾燥温度50℃以下で乾燥する乾燥工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低湿度下の耐ひび割れ性や高湿度下での強度に優れていることから、低湿度及び高湿度両方の環境下で保存、使用される農業用フィルムや医薬用フィルム等、各種用途に用いることができる。
本発明においては、PVA系樹脂及び糖類を、例えば樹脂組成物の水溶液とすることにより、水に溶解した糖類は可塑剤として作用し、溶解しきれなかった糖類はフィラーとして作用することとなり、弾性率が向上し高湿度下では強度に優れる。また、乾燥温度を比較的低温とすることにより、成形物の表面にPVA系樹脂が多く存在することとなり、低湿度下では破断のびが向上し、ひび割れが生じないものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、PVA系樹脂(A)と糖類(B)を含有する樹脂組成物において、糖類(B)の含有量が、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、30〜50重量部であり、前記樹脂組成物からなるフィルムを25℃、20%RHで1週間放置した際の該フィルムの破断のびが20〜80%である樹脂組成物である。
【0013】
また、本発明の製造方法は、
以下の工程[I]及び[II]を順次行い成形物を得ることを特徴とする成形物の製造方法である。
[I]ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部と糖類(B)30〜50重量部を含有する樹脂組成物を水溶液にする溶解工程
[II]得られた水溶液を、乾燥温度50℃以下で乾燥する乾燥工程
【0014】
〔PVA系樹脂(A)〕
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。
PVA系樹脂(A)は、ビニルエステル系単量体を共重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。
【0015】
上記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、中でも経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0016】
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、200〜4000であり、特に230〜3500、さらに250〜3000のものが好ましく用いられる。
平均重合度が小さすぎると成形物の強度が低下する傾向があり、大きすぎると水溶液の安定性、及びハンドリング性が低下する傾向がある。
【0017】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、60〜100モル%であり、特に70〜99.5モル%、さらに80〜95モル%のものが好適に用いられる。
ケン化度が低すぎると、水溶性が低下する傾向があり、高すぎると、成形物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0018】
また、本発明では、PVA系樹脂(A)として、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られたものや、PVA系樹脂に後変性によって各種官能基を導入した各種変性PVA系樹脂を用いることができる。かかる変性は、PVA系樹脂の水溶性が失われない範囲で行うことができる。
【0019】
ビニルエステル系単量体との共重合に用いられる単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0020】
また、共重合変性PVAとして、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が挙げられる。かかるPVA系樹脂としては、例えば、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等を共重合して得られる側鎖1,2ジオール変性PVA系樹脂、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2−メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等を共重合して得られる側鎖にヒドロキシメチル基を有するPVA系樹脂が挙げられる。
【0021】
また、後反応によって官能基が導入されたPVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVAと反応させて得られるものなどを挙げることができる。
かかる変性PVA系樹脂中の変性種、すなわち共重合体中の各種単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、通常、0.1〜20モル%であり、特に0.5〜12モル%、更に1〜10モル%の範囲が好ましく用いられる。
【0022】
〔糖類(B)〕
次に、本発明で用いられる糖類(B)について説明する。
糖類(B)としては、例えば、マンニトール、イソマルツロース、マルチトール、ラクチトールなどが挙げられる。中でも、低吸湿性の点でマンニトールが特に好ましい。
【0023】
また、糖類(B)は、添加により弾性率を低下させないという点で、吸水率が1.003重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.002重量%以下、特に好ましくは1.001重量%以下である。吸水率が大きすぎると弾性率が低下する傾向がある。なお、下限値は通常1.0001重量%程度である。
かかる吸水率は、30℃、90%RH下で糖類を保管し、1週間後の重量を測定し、保管前からの重量変化より求めるものとする。
吸水率(重量%)=〔(W2−W1)/W1〕×100
W1:吸水前の試料の重量
W2:吸水後の試料の重量
【0024】
〔樹脂組成物〕
本発明においては、PVA系樹脂(A)と糖類(B)を含有するものであるが、糖類(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、30〜50重量部であり、好ましくは35〜50重量部、更に好ましくは40〜50重量部である。かかる含有量が多すぎると成形物の強度が低下することとなり、少なすぎると成形物の耐ひび割れ性が低下することとなる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、フィルムにした際の破断のびが20〜80%である。
かかる破断のびの測定方法は以下の通りである。
即ち、樹脂組成物から得られたフィルムに対して、オートグラフ(島津製作所社製、AG−IS)を用いて、幅10mm、つかみ具間距離50mm、引張速度100mm/minにて引張試験を行い、そのときの破断のびを算出するものである。
なお、破断のびの測定に当たっては、既にフィルムとして存在する場合は、そのまま該フィルムを用いて、25℃、20%RHで1週間放置した後のフィルムについて破断のびを測定することができ、樹脂組成物として存在する場合は、例えば、以下の(1)及び(2)の方法でフィルムとし破断のびを測定することができる。
(1)PVA系樹脂(A)と糖類(B)を水に溶解させ、樹脂組成物水溶液を作製する。
(2)得られた樹脂組成物水溶液を100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材に塗工し、40℃で2時間乾燥して、膜厚100μmのフィルムとし、その後25℃、20%RHで1週間放置し、フィルムを得る。
【0026】
上記の測定方法で得られたフィルムの破断のびが20〜80%であることが必要であり、好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上である。かかる破断のびが小さすぎると低湿度下での耐割れ性が低下する傾向がある。更に、かかる破断のびの上限としては強度の点で好ましくは75%、特に好ましくは70%である。
【0027】
本発明において、上記フィルムの破断のびを調整するに際しては、例えば、(1)糖類の吸湿性(吸水率)を調整する、(2)PVA系樹脂のケン化度を調整する、(3)フィルムの含水率を調整する等の方法が挙げられ、中でもフィルム作製時の簡便性の点で(1)の方法が好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、フィルムにした際の弾性率が600N/mm2以上であることが好ましい。
かかる弾性率の測定方法は以下の通りである。
即ち、樹脂組成物から得られたフィルムに対して、オートグラフ(島津製作所社製、A
G−IS)を用いて、幅10mm、つかみ具間距離50mm、引張速度100mm/min
にて引張試験を行い、そのときの弾性率を算出するものである。
なお、以下の(1)及び(2)の方法でフィルムとし弾性率を測定することができる。
(1)PVA系樹脂(A)と糖類(B)を水に溶解させ、樹脂組成物水溶液を作製する。
(2)得られた樹脂組成物水溶液を100μmのPET基材に塗工し、80℃で2時間乾
燥して、膜厚100μmのフィルムとし、その後25℃、65%RHで1週間調湿し、フ
ィルムを得る。
【0029】
上記の測定方法で得られたフィルムの弾性率が600N/mm2以上であることが好ましく、さらに好ましくは700N/mm2以上、特に好ましくは1000N/mm2以上である。かかる弾性率が小さすぎると高湿度下での強度が低下する傾向がある。更に、かかる弾性率の上限としては通常3000N/mm2、好ましくは2800N/mm2、特に好ましくは2500N/mm2である。
【0030】
本発明において、上記フィルムの弾性率を調整するに際しては、例えば、(1)糖類の
吸湿性(吸水率)を調整する、(2)PVA系樹脂のケン化度を調整する、(3)フィル
ムの含水率を調整する等の方法が挙げられ、中でもフィルム作製時の簡便性の点で(1)
の方法が好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、PVA系樹脂(A)及び糖類(B)とは異なる他の水溶性高分子を含有していてもよい。他の水溶性高分子としては、例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等を挙げることができる。
上記の他の水溶性高分子の含有量としては、樹脂組成物に対して、10重量%以下、特には5重量%以下が好ましい。
【0032】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、補強剤、充填剤、可塑剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤などが含有されてもよい。
【0033】
本発明の樹脂組成物は公知の混合方法により水溶液に調製することができる。例えば、
(i)PVA系樹脂(A)の粉末と糖類(B)の粉末とを混合し、水溶液とする方法、(ii)PVA系樹脂(A)の水溶液に糖類(B)の粉末を添加し、水溶液とする方法、(iii)糖類(B)の水溶液にPVA系樹脂(A)の粉末を添加し、水溶液とする方法、(iv)PVA系樹脂(A)の水溶液と糖類(B)の水溶液を混合する等が挙げられる。
中でも製造効率の点から(i)と(iii)の方法が好ましい。
【0034】
本発明の樹脂組成物の水溶液としては、作業性の点から、樹脂濃度が5〜30重量%であることが好ましく、特には10〜25重量%、更には15〜23重量%であることが好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、低湿度下の環境下でも、更には高湿度下でも使用できるので、種々の用途に有効に用いられる。
本発明の樹脂組成物の用途としては、例えば、下記の(1)〜(10)に示すような各種用途が挙げられる。
(1)成形物関係:繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、暫定皮膜、ケミカルレース用、水溶性繊維等。
(2)接着剤関係:錠剤のバインダー、木材、紙、アルミ箔、プラスチック等の接着剤、粘着剤、再湿剤、不織布用バインダー、石膏ボードや繊維板等の各種建材用バインダー、各種粉体造粒用バインダー、セメントやモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤、アニオン性塗料の固着剤等。
(3)被覆剤関係:錠剤のコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙の内添サイズ剤、繊維製品用サイズ剤、経糸糊剤、繊維加工剤、皮革仕上げ剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤、導電剤、暫定塗料等。
(4)疎水性樹脂用ブレンド剤関係:疎水性樹脂の帯電防止剤、および親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他成形物用添加剤等。
(5)増粘剤関係:各種水溶液やエマルジョンや食料品や医薬品の増粘剤等。
(6)凝集剤関係:水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、パルプ、スラリーの濾水性等。
(7)交換樹脂等関係:イオン交換樹脂、キレート交換樹脂、イオン交換膜等。
(8)その他:土壌改良剤、感光剤、感光性レジスト樹脂等。
上記の中でも特に、本発明の樹脂組成物は、フィルムやシート等の成形物やコーティング剤として有用であり、特にフィルムや容器等の成形物として有用である。
【0036】
次に本発明の樹脂組成物の好ましい使用形態について詳細に説明する。
〔成形物〕
本発明においては、上記樹脂組成物を用いて成形物が得られる。かかる成形物の形状としては、例えば、フィルム状、カップ状、チューブ状、中空状、カプセル状などが挙げられ、特にフィルム状のものが好適に用いられる。
【0037】
本発明において、成形物の製造方法としては、以下の工程[I]及び[II]を順次行い成形物を得ることを特徴とするものである。
[I]PVA系樹脂(A)100重量部と糖類(B)30〜50重量部を含有する樹脂組成物を水溶液にする溶解工程
[II]得られた水溶液を、乾燥温度50℃以下で乾燥する乾燥工程
【0038】
上記の製造方法においては、上述のPVA系樹脂(A)と糖類(B)を所定割合で配合してなる樹脂組成物の水溶液を、乾燥温度50℃以下といった低温で乾燥することにより、得られる成形物の表面にPVA系樹脂が比較的多く存在することとなり、より本発明の効果を顕著に発揮されるのである。
成形物の作製、とりわけフィルムの作製について以下に説明するが、フィルム以外の他の成形物の場合でもこれに準じて行えばよい。
【0039】
フィルムを作製するには、例えば、流延法等の方法を採用することができる。
以下、流延法について説明する。
[I]のPVA系樹脂(A)100重量部と糖類(B)30〜50重量部を含有する樹脂組成物を水溶液にする溶解工程において、樹脂組成物の固形分濃度は、通常5〜30重量%、好ましくは8〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%である。
かかる樹脂組成物の固形分濃度が低すぎると生産性が低下する傾向があり、高すぎると高粘度となってドープの脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生する傾向がある。
【0040】
次に[II]の得られた水溶液を、乾燥温度50℃以下で乾燥する乾燥工程であるが、アプリケーター等を用いて、上記樹脂組成物の水溶液をPETフィルムやポリエチレンフィルム等のプラスチック基材あるいは金属基材上にキャストして、乾燥させてフィルムを得ることができる。
また、乾燥温度としては、50℃以下であり、より好ましくは10〜48℃、特に好ましくは20〜45℃である。かかる温度が低すぎると乾燥に時間を要してしまう傾向があり、高すぎると低湿度下での耐ひび割れ性が悪化したり、製膜時に発泡してしまう傾向がある。
また乾燥時間は、通常0.1〜6時間、好ましくは1〜4時間、特に好ましくは2〜3時間である。
【0041】
上記の方法で得られたフィルムにおいては、その厚みは、用途により適宜選択されるが、通常5〜100μm、特には10〜80μmであることが好ましく、かかる厚みが薄すぎるとフィルムの機械的強度が低下する傾向があり、逆に厚すぎると製膜効率が低下し、製造効率が低下する傾向がある。
又、該フィルムの表面はプレーンであってもよいが、ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減の点から、該フィルムの片面或いは両面にエンボス模様や梨地模様等を施しておくこともできる。
【0042】
本発明の樹脂組成物からなる成形物の用途としては上記の用途以外にも、下記の用途が挙げられる。
例えば、飲食品用包装材、薬剤(農薬、医薬)の包装材、医薬用カプセル、繊維、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、暫定皮膜、ケミカルレース用繊維、水溶性繊維、容器、バッグインボックス用内袋、容器用パッキング、医療用輸液バッグ、有機液体用容器、有機液体輸送用パイプ、各種ガスの容器(チューブ、ホース)などが挙げられる。また、各種電気部品、自動車部品、工業用部品、レジャー用品、スポーツ用品、日用品、玩具、医療器具などに用いることも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「%」及び「部」とあるのは重量基準を意味する。
【0044】
実施例1
[樹脂組成物水溶液(1)の作製]
マンニトール(和光純薬社製)7.5部を85部の水に添加後、室温で10分撹拌し完全に溶解させ、8.1%水溶液を得た。得られたマンニトール水溶液にPVA(ケン化度88モル%、平均重合度2400)15部を添加後、85℃に昇温させPVAを溶解し、樹脂組成物水溶液(1)を作製した。
【0045】
[フィルム(1)の作製]
上記で得られた樹脂組成物水溶液(1)を100μmのPET基材に塗工し、40℃で2時間乾燥して、膜厚100μmのフィルムとして、25℃、20%RHで1週間放置し、フィルム(1)を得た。
得られたフィルム(1)について、以下の評価を行った。
【0046】
[破断のび評価]
25℃、20%RHの環境下で、上記で得られたフィルム(1)の引張試験を実施した。引張試験は、オートグラフ(島津製作所社製、AG−IS)を用いて、幅10mm、つかみ具間距離50mm、引張速度100mm/minで行い、破断のびを算出した。
【0047】
[フィルム(2)の作製]
上記で得られた樹脂組成物水溶液(1)を100μmのPET基材に塗工し、40℃で2時間乾燥して、膜厚100μmのフィルムとして、25℃、65%RHで1週間調湿し、フィルム(2)を得た。
得られたフィルム(2)について、以下の評価を行った。
【0048】
[弾性率評価]
25℃、65%RHの環境下で、上記で得られたフィルム(2)の引張試験を実施した。引張試験は、オートグラフ(島津製作所社製、AG−IS)を用いて、幅10mm、つかみ具間距離50mm、引張速度100mm/minで行い、弾性率を算出した。
【0049】
比較例1
実施例1において、マンニトールの含有量を3部にした以外は、実施例1と同様にして、25℃、20%RHで1週間放置した後のフィルム(3)、25℃、65%RHで1週間調湿した後のフィルム(4)を得て、実施例1と同様に評価した。
【0050】
比較例2
実施例1において、マンニトールの含有量を9部にした以外は、実施例1と同様にして、25℃、20%RHで1週間放置した後のフィルム(5)、25℃、65%RHで1週間調湿した後のフィルム(6)を得て、実施例1と同様に評価した。
【0051】
比較例3
実施例1において、フィルムの乾燥を60℃で2時間行ったこと以外は、実施例1と同様にして、25℃、20%RHで1週間放置した後のフィルム(7)、25℃、65%RHで1週間調湿した後のフィルム(8)を得て、実施例1と同様に評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
本発明の樹脂組成物を用いた実施例1においては、低湿度下での破断のびが大きく耐ひび割れ性に優れるものであり、しかも高湿度下での弾性率が十分に大きかった。一方、糖類の配合量が少なかった比較例1の樹脂組成物では、高湿度下での弾性率が低く、形状安定性に劣るものであった。糖類の配合量が多すぎた比較例2の樹脂組成物では、低湿度下での破断のびが小さく、低湿度下での耐ひび割れ性に劣るものであった。また乾燥温度が高い比較例3では、低湿度下での破断のびが小さく、低湿度下での耐ひび割れ性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の水溶性樹脂組成物からなる成形物は、低湿度下の耐ひび割れ性、高湿度下での強度に優れるため、包装材、特に農薬や肥料、医薬品の包装材料として有用である。