【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を模式的に示す側面断面図である。
【0025】
図1に示すように、単結晶製造装置1は、水冷式のチャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持する黒鉛ルツボ12と、黒鉛ルツボ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13及び黒鉛ルツボ12介して石英ルツボ11を回転及び昇降駆動するルツボ駆動機構14と、黒鉛ルツボ12の周囲に配置されたヒータ15と、ヒータ15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体17と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸上に配置された結晶引き上げ軸であるワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置された結晶引き上げ機構19と、チャンバー10内を撮影するカメラ20と、カメラ20の撮影画像を処理する画像処理部21と、単結晶製造装置1内の各部を制御する制御部22とを備えている。
【0026】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、黒鉛ルツボ12、ヒータ15及び熱遮蔽体17はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部にはチャンバー10内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。また、メインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓10eから観察可能である。
【0027】
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。黒鉛ルツボ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11及び黒鉛ルツボ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0028】
黒鉛ルツボ12は回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部を貫通してチャンバー10の外側に設けられたルツボ駆動機構14に接続されている。黒鉛ルツボ12、回転シャフト13及びルツボ駆動機構14は石英ルツボ11の回転機構及び昇降機構を構成している。ルツボ駆動機構14によって駆動される石英ルツボ11の回転及び昇降動作は制御部22によって制御される。
【0029】
ヒータ15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液2の溶融状態を維持するために用いられる。ヒータ15はカーボン製の抵抗加熱式ヒータであり、黒鉛ルツボ12内の石英ルツボ11を取り囲むように設けられている。さらにヒータ15の外側には断熱材16がヒータ15を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。ヒータ15の出力は制御部22によって制御される。
【0030】
熱遮蔽体17は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切な熱分布を与えるとともに、ヒータ15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体17は略円筒状の黒鉛製の部材であり、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うように設けられている。
【0031】
熱遮蔽体17の下端の開口の直径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。また熱遮蔽体17の下端部の外径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽体17の下端部は石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽体17の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体17が石英ルツボ11と干渉することはない。
【0032】
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、融液面と熱遮蔽体17との間隔(ギャップ)が一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御する。このようなギャップ制御により、シリコン単結晶3の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0033】
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取ることによってシリコン単結晶3を引き上げる結晶引き上げ機構19が設けられている。結晶引き上げ機構19はワイヤー18と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有している。結晶引き上げ機構19は制御部22によって制御される。結晶引き上げ機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18は結晶引き上げ機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。
図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶3の引き上げ時には石英ルツボ11とシリコン単結晶3とをそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引き上げることによりシリコン単結晶3を成長させる。結晶引き上げ速度は制御部22によって制御される。
【0034】
チャンバー10の外側にはカメラ20が設置されている。カメラ20は例えばCCDカメラであり、チャンバー10に形成された覗き窓10eを介してチャンバー10内を撮影する。カメラ20の設置角度は鉛直方向に対して所定の角度をなしており、カメラ20はシリコン単結晶3の引き上げ軸に対して傾斜した光軸を有する。すなわち、カメラ20は、熱遮蔽体17の円形の開口及びシリコン融液2の液面を含む石英ルツボ11の上面領域を斜め上方から撮影する。
【0035】
カメラ20は、画像処理部21に接続されており、画像処理部21は制御部22に接続される。画像処理部21は、カメラ20の撮影画像に写る単結晶の輪郭パターンから固液界面近傍における結晶直径を算出し、また撮影画像中の融液面に映り込んだ熱遮蔽体17の鏡像の位置から熱遮蔽体17から液面位置までの距離であるギャップ(Gap)を算出する。ノイズの影響を除去するため、実際のギャップ制御に用いるギャップ計測値としては複数の計測値の移動平均値を用いることが好ましい。
【0036】
熱遮蔽体17の鏡像の位置からギャップを算出する方法は特に限定されないが、例えば熱遮蔽体17の鏡像の位置とギャップとの関係を直線近似することにより得られる換算式を予め用意しておき、結晶引き上げ工程中はこの換算式に熱遮蔽体の鏡像の位置を代入することによりギャップを求めることができる。また、撮影画像に写る熱遮蔽体17の実像と鏡像との位置関係からギャップを幾何学的に算出することも可能である。
【0037】
制御部22は、カメラ20の撮影画像から得られた結晶直径データに基づいて結晶引き上げ速度を制御することにより結晶直径を制御する。具体的には、結晶直径の計測値が狙いの直径よりも大きい場合には結晶引き上げ速度を大きくし、狙いの直径よりも小さい場合には引き上げ速度を小さくする。また制御部22は、結晶引き上げ機構19のセンサから得られたシリコン単結晶3の結晶長データと、カメラ20の撮影画像から得られた結晶直径データに基づいて、石英ルツボ11の移動量(ルツボ上昇速度)を制御する。
【0038】
図2は、シリコン単結晶3の製造工程を示すフローチャートである。また、
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【0039】
図2に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶3の製造工程は、石英ルツボ11内のシリコン原料をヒータ15で加熱してシリコン融液2を生成する原料融解工程S11と、ワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる着液工程S12と、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を育成する結晶引き上げ工程(S13〜S16)を有している。
【0040】
結晶引き上げ工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程S13と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に増加したショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程S14と、一定の結晶直径に維持されたボディ部3cを形成するボディ部育成工程S15と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に減少したテール部3dを形成するテール部育成工程S16とが順に実施される。
【0041】
その後、シリコン単結晶3を融液面から切り離して冷却を促進させる冷却工程S17が実施される。以上により、
図3に示すようなネック部3a、ショルダー部3b、ボディ部3c及びテール部3dを有するシリコン単結晶インゴット3Iが完成する。
【0042】
シリコン単結晶3に含まれる結晶欠陥の種類や分布は、結晶引き上げ速度Vと結晶内温度勾配Gとの比V/Gに依存するため、シリコン単結晶3中の結晶品質を制御するためにはV/Gを制御する必要がある。
【0043】
図4は、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。
【0044】
図4に示すように、V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、空孔の凝集体であるボイド欠陥(COP)が発生する。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコン原子が過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスターが発生する。さらに、COPが発生する領域と転位クラスターが発生する領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。シリコン単結晶が無欠陥結晶であると言うためには、引き上げ軸方向と直交するシリコン単結晶の断面内の全面が無欠陥領域であることが必要である。ここで「無欠陥領域」とは、COPや転位クラスターなどのGrown−in欠陥を含まず、且つ、評価熱処理後にOSFリングが発生しない領域のことを言い、Pv領域又はPi領域であることを言う。
【0045】
結晶引き上げ速度Vを制御してPv領域又はPi領域からなる無欠陥結晶を高い歩留まりで育成するためには、PvPiマージンができるだけ広いことが好ましい。ここでPvPiマージンとは、広義には、シリコン単結晶3中の任意の領域をPv領域又はPi領域とすることができる結晶引き上げ速度Vの許容幅のことを言い、狭義には、引き上げ軸方向と直交するシリコン単結晶の断面内のPvPiマージンの最小値(PvPi面内マージン)のことを言う。通常、結晶内温度勾配Gは一定であるため、PvPiマージンは
図4におけるPv−OSF境界からPi−転位クラスター境界までのV/Gの幅の広さである。
【0046】
シリコン単結晶3の直径制御は主に結晶引き上げ速度Vを調整することにより行われ、直径変動を抑えるために結晶引き上げ速度Vを適宜変化させているため、引き上げ速度Vの変動を完全になくすことはできない。そのため、速度変動をある程度許容するPvPiマージンが必要となる。
【0047】
一方、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布は、結晶を取り巻く炉内熱環境、すなわち、ホットゾーンの影響を強く受けるため、結晶引き上げ工程の進行に伴ってホットゾーンが変化した場合には、たとえギャップを一定の距離に維持したとしても所望のPvPi面内マージンを確保することができない場合がある。例えば、
図1に示すボディ部育成工程S15の中盤では、シリコン融液の上方の空間に十分な長さの単結晶インゴットが存在しているのに対し、ボディ部育成工程S15の開始時にはそのような単結晶インゴットが存在しないため、たとえ熱遮蔽体17が設けられていたとしても空間内の熱分布は多少異なるものとなる。またボディ部育成工程S15の終盤では、ルツボ内のシリコン融液2の減少に伴うシリコン融液の固化を防止するためヒータ15の出力を増加させるため、これにより、結晶周囲の熱分布も変化する。このようにホットゾーンが変化している場合には、ギャップを一定の距離に維持したとしても結晶中の熱履歴が変化するため、結晶欠陥の面内分布を一定に維持することができない。
【0048】
そこで本実施形態では、シリコン単結晶インゴットのトップからボトムまでギャップを常に一定の距離に維持するのではなく、結晶成長段階に合わせてギャップを変化させる。このようにギャップを変化させることにより、インゴットのトップからボトムまで結晶欠陥の面内分布を狙い通りに制御することができ、PvPi面内マージンの低下を抑制して無欠陥結晶の製造歩留まりを向上させることができる。ギャップをどのように変化させればPvPi面内マージンの低下を抑制できるかは、ホットゾーンによって異なる。したがって、結晶のトップからボトムまで結晶欠陥の面内分布を一定にするためには、結晶引き上げ工程の進行に伴ってホットゾーンがどのように変化するかを考慮しながら、結晶成長段階に合わせたギャッププロファイルを適宜設定する必要がある。
【0049】
図5及び
図6は、結晶引き上げ工程中のギャッププロファイルと結晶欠陥分布との関係を説明するための模式図であって、
図5は従来のギャップ一定制御の場合、
図6は本発明のギャップ可変制御の場合をそれぞれ示している。
【0050】
図5に示すように、結晶引き上げ工程中ギャップを常に一定の距離に維持するギャップ一定制御では、ホットゾーンが変化することにより結晶中の熱履歴が変化するため、結晶欠陥の面内分布を一定に維持することができない。すなわち、シリコン単結晶インゴット3Iのトップ(Top)、中央(Mid)、ボトム(Bot)において、結晶欠陥の面内分布が異なることにより、インゴット3Iの中央では所望のPvPi面内マージンを確保することができるが、インゴット3Iのトップとボトムでは所望のPvPi面内マージンを確保することができない。
【0051】
これに対し、本発明では、
図6に示すように、結晶引き上げ工程の進行に合わせてギャップが段階的に狭くなるようにギャッププロファイルを設定する。特に本実施形態によるギャッププロファイルは、結晶引き上げ工程の開始時からギャップを一定に維持する第1のギャップ一定制御区間S1、ボディ部育成工程の前半に設けられギャップを徐々に低下させる第1のギャップ可変制御区間S2、ギャップを一定に維持する第2のギャップ一定制御区間S3、ボディ部育成工程の後半に設けられギャップを徐々に低下させる第2のギャップ可変制御区間S4、結晶引き上げ工程の終了までギャップを一定に維持する第3のギャップ一定制御区間S5がこの順で設けられている。このようなギャッププロファイルはホットゾーンの変化に合わせて設定され、これにより図示のようにインゴット3Iのトップからボトムまで結晶欠陥の面内分布を一定に維持して無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることが可能となる。
【0052】
なお上記のギャッププロファイルは一例であって、結晶引き上げ工程の進行に合わせてギャップが段階的に狭くなるプロファイルに限定されない。したがって、例えば第1のギャップ可変制御区間S2でギャップを徐々に低下させ、第2のギャップ可変制御区間S4でギャップを徐々に増加させることも可能である。
【0053】
次に、シリコン単結晶3の直径計測方法について説明する。シリコン単結晶3の引き上げ工程中にその直径を制御するため、CCDカメラ20で単結晶3と融液面との境界部を撮影し、境界部に発生するフュージョンリングの中心位置及びフュージョンリングの2つの輝度ピーク間距離から単結晶3の直径を求める。また、融液2の液面位置を制御するため、フュージョンリングの中心位置から液面位置を求める。制御部22は、単結晶3の直径が狙いの直径となるようにワイヤー18の引き上げ速度、ヒータ15のパワー、石英ルツボ11の回転速度等の引き上げ条件を制御する。また制御部22は、液面位置が所望の位置となるように石英ルツボ11の上下方向の位置を制御する。
【0054】
図7は、カメラ20で撮影される単結晶3と融液2との境界部の画像を模式的に示す斜視図である。
【0055】
図7に示すように、画像処理部21は、単結晶3と融液2との境界部に発生するフュージョンリング4の中心C
0の座標位置とフュージョンリング4上の任意の一点の座標位置からフュージョンリング4の半径r及び直径R=2rを算出する。つまり、画像処理部21は、固液界面における単結晶3の直径Rを算出する。フュージョンリング4の中心C
0の位置は、単結晶3の引き上げ軸の延長線5と融液面との交点である。
【0056】
CCDカメラ20は、単結晶3と融液面との境界部を斜め上方から撮影するため、フュージョンリング4を真円として捉えることができない。しかし、CCDカメラ20が設計上の決められた位置に決められた角度で正確に設置されていれば、融液面に対する視認角度に基づいて略楕円状のフュージョンリング4を真円に補正することができ、補正されたフュージョンリング4からその直径を幾何学的に算出することが可能である。
【0057】
フュージョンリング4はメニスカスで反射した光によって形成されるリング状の高輝度領域であり、単結晶3の全周に発生するが、覗き窓10eから単結晶3の裏側のフュージョンリング4まで見ることはできない。また熱遮蔽体17の開口17aと単結晶3との間の隙間からフュージョンリング4を見るとき、単結晶3の直径が大きい場合には、視認方向の最も手前側(
図7中下側)に位置するフュージョンリング4の一部も熱遮蔽体17の裏側に隠れてしまうため見ることができない。したがって、フュージョンリング4の視認できる部分は、視認方向から見て手前左側の一部4Lと手前右側の一部4Rだけである。本発明は、このようにフュージョンリング4の一部しか観察できない場合でもその一部からその直径を算出することが可能である。
【0058】
図8は、フュージョンリング4の直径Rを算出する方法を説明するための模式図である。
【0059】
図8に示すように、フュージョンリング4の直径Rの算出では、CCDカメラ20で撮影した二次元画像中に直径計測ラインL
1を設定する。直径計測ラインL
1は、フュージョンリング4と2回交差し且つ引き上げ軸の延長線5と直交する直線である。直径計測ラインL
1はフュージョンリング4の中心C
0よりも下側に設定される。なお撮影画像のY軸は引き上げ軸の延長線5と平行であり、X軸は引き上げ軸の延長線5と直交する方向に設定されている。なお、
図5に示すフュージョンリング4は単結晶の外周と一致する理想的な形状とする。
【0060】
撮影画像のXY座標の原点O(0,0)に対するフュージョンリング4の中心C
0の座標を(x
0、y
0)とするとき、中心C
0から直径計測ラインL
1までの距離Y=(y
1−y
0)となる。なおフュージョンリング4の中心C
0の位置は、例えば、フュージョンリングの2つの輝度ピーク間距離が最大となる水平方向の走査ラインと引き上げ軸との交点の位置とすることができる。
【0061】
次に、直径計測ラインL
1とフュージョンリング4との2つの交点P
1、P
1'を検出する。フュージョンリング4と直径計測ラインL
1との一方の交点P
1の座標を(x
1,y
1)とし、他方の交点P
1'の座標を(x
1',y
1)とする。フュージョンリング4と直径計測ラインL
1との交点P
1、P
1'の概略位置は、直径計測ラインL
1上の輝度ピークの位置である。フュージョンリング4と直径計測ラインL
1との交点P
1、P
1'の詳細位置については後述する。
【0062】
そして、直径計測ラインL
1上の2つの交点P
1,P
1'間の距離X=(x
1'−x
1)とし、フュージョンリング4の直径をR、半径をr=R/2とするとき、(1)式が得られる。
【0063】
r
2=(R/2)
2=(X/2)
2+Y
2 ・・・(1)
【0064】
したがって、(1)式から、フュージョンリング4の直径Rは(2)式のようになる。
【0065】
R={X
2+4Y
2}
1/2 ・・・(2)
【0066】
フュージョンリングは一定の幅を有する帯状の高輝度領域であるため、直径計測ラインL
1との交点の座標を正確に求めるためにはフュージョンリング4をラインパターンとする必要がある。そのため、フュージョンリング4と直径計測ラインL
1との交点の検出では、輝度の参照値を用いて撮影画像からフュージョンリング4のエッジパターンを検出し、このエッジパターンと直径計測ラインとの交点をフュージョンリング4の交点とする。フュージョンリング4のエッジパターンは、輝度の参照値と一致する輝度を持つ画素で構成されるパターンである。エッジパターンを定義するために用いる輝度の参照値は、撮影画像中の最高輝度に所定の係数(例えば0.8)を乗じた値とすることができる。
【0067】
液面位置を変化させるギャップ可変制御では、固液界面に発生するフュージョンリングの撮影画像内の位置も垂直方向に変化するので、直径計測ラインの垂直方向の位置が固定されている場合には、直径計測ラインに対するフュージョンリングの位置が相対的に変化し、両者の交点の位置も変化する。しかし上記のように、液面位置の変化に合わせて直径計測ラインとフュージョンリングとの交点の位置が変化すると直径計測誤差が生じやすい。そこで本実施形態においては、直径計測ラインを液面位置の変化に追従させるとともに、カメラから計測対象までの距離変化分を直径計測結果に反映させて直径計測誤差を最小限に抑える制御が行われる。
【0068】
図9は、直径計測ラインの位置の変化と結晶直径の計測値との関係を示すグラフであり、横軸及び縦軸は、結晶長及び結晶直径を基準値からの相対値としてそれぞれ表示するものである。
【0069】
図9に示すように、結晶直径が一定となるように結晶引き上げ条件が制御されているとき、結晶直径は多少上下に変動しながらも概ね一定に維持されるが、直径計測ラインが変化した瞬間にマイナス側に大きく動く傾向が見られる。すなわち、液面位置の変化に合わせて直径計測ラインの位置が変化した直後に直径計測値の変動が大きくなっており、直径計測ラインの位置の変化の影響を受けていることが分かる。なお、直径計測ライン垂直位置は結晶長の増加と共に小さくなっているが、撮影画像の原点が上端に設定されていることから、これは液面位置の上昇に合わせて直径計測ラインが撮影画像の上方に移動していることを意味する。
【0070】
上記のように直径計測値が変動する理由は、直径計測ラインの制御が撮影画像中の特定の一列を選択する非線形制御(ステップ制御)だからであると考えられる。液面位置の変化が連続的(線形)であるのに対し、直径計測ラインの変化はピクセル単位での不連続(非線形)な変化であるため、直径計測ラインの位置を1ピクセル分変化させた直後に結晶直径の計測結果が変動する。そこで、本実施形態では、直径計測ラインが変化したタイミングで結晶直径計測値を補正することにより直径計測値の変動を抑制する。
【0071】
図10は、直径計測ラインの位置の変化に合わせて直径計測値を補正する方法を説明するための模式図である。
【0072】
図10(a)に示すように、直径計測ラインL
1は水平方向に延びてフュージョンリング4の2点と交差している。この直径計測ラインL
1は1ピクセル分の画素列であり、その垂直方向の位置は、液面位置が1ピクセル分上昇(又は降下)したときに初めて1ピクセル分上方(又は下方)にシフトする。ここで、液面位置は連続的に変化するのに対し、直径計測ラインの変化は不連続(離散的)であり、ピクセル単位でしか動くことができない。
【0073】
図10(b)に示すように、液面位置が上方に移動してフュージョンリング4も破線の位置から実線の位置まで1ピクセル分移動したとき、直径計測ラインL
1の位置も破線の位置から実線の位置に変更される。下側の破線の直径計測ラインL
1aは、位置変更前の直径計測ラインであり、上側の実線の直径計測ラインL
1bは、位置変更後の直径計測ラインである。垂直方向の位置を変化させる直前の直径計測ラインである下側の直径計測ラインL
1aに基づく結晶直径の計測値と、垂直方向の位置を1ピクセル分変化させた直後の直径計測ラインである上側の直径計測ラインL
1bに基づく結晶直径の計測値は、本来ならばほぼ同じ位置のフュージョンリング4の結晶直径を測定していることから同じ値になるはずである。
【0074】
しかし、実際には両者の直径計測値にはずれが生じており、この計測値のずれが直径計測ラインL
1の位置を変更した直後の直径変動に影響を与えている。例えば液面位置が上昇した場合、実際の結晶直径は液面位置が上昇する前後で同じであったとしても、液面位置上昇後の結晶直径は上昇前よりも短く計測されてしまう。逆に、液面位置低下後の結晶直径は低下前よりも長く計測されてしまう。そこで本実施形態では、直径計測値のずれを補正するための補正係数を算出して結晶直径の計測値を補正する。
【0075】
垂直方向の位置を変化させる直前の結晶直径計測値D
Sbとし、直径計測ラインの位置を1ピクセル分変化させた直後の結晶直径計測値D
Saとするとき、結晶直径の補正係数D
Piは以下のようになる。
D
Pi=D
Sb÷D
Sa ・・・(3)
【0076】
そして補正後の結晶直径D
Scは、現在の結晶直径D
Sに補正係数D
Piを乗じた値であり、以下のようになる。
D
Sc=D
S×D
Pi ・・・(4)
【0077】
以上のように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、単結晶引き上げ工程中の固液界面に現れるフュージョンリングを撮影し、撮影画像中に設定した直径計測ラインとフュージョンリングとの2つの交点の位置から結晶直径を求める際に、融液の液面位置の変化に合わせて直径計測ラインの垂直方向の位置を変化させ、直径計測ラインの位置が変化した直後に得られた結晶直径の計測値を補正するので、直径計測ラインの位置が変化した直後に発生する直径計測値の変動を抑えることができる。特に、直径計測値の補正では、直径計測ラインの位置を変化させる直前に求めた結晶直径の計測値に対する直径計測ラインの位置が変化した直後に求めた結晶直径の計測値の比を補正係数として求め、この補正係数を用いて位置変化後の結晶直径の計測値を補正するので、簡単な演算により結晶直径の計測値を補正することができる。したがって、ギャップ可変制御において取得される結晶直径の安定性を向上させることができ、結晶引き上げ速度を安定的に制御して高品質な単結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【0078】
図11は、本発明の第2の実施の形態による結晶直径の計測値の補正方法を説明するための模式図である。
【0079】
図11に示すように、本実施形態による結晶直径の計測値の補正方法は、1本ではなく複数本(ここでは3本)の直径計測ラインを用いて複数の直径計測値を同時に求める点にある。また、複数の直径計測値の平均値が最終的な結晶直径の計測値として採用される。
【0080】
本実施形態において、3本の直径計測ラインL
1、L
2、L
3は垂直方向に連続しており、間隔を空けずに隣り合っている。ここで、3本の直径計測ラインL
1、L
2、L
3は、撮影画像中の垂直方向に連続する画素列PL
1、PL
2、PL
3上にそれぞれ設定されているものとする。液面位置の変化に合わせて直径計測ラインL
1、L
2、L
3を上方に1ピクセル分移動させる場合、3本の直径計測ラインL
1、L
2、L
3は互いの位置関係を保ちながら一緒に変化し、これにより直径計測ラインL
1、L
2、L
3は画素列PL
2、PL
3、PL
4上にそれぞれ移動する。つまり、直径計測ラインL
1は画素列PL
1からPL
2に移動し、直径計測ラインL
2は画素列PL
2からPL
3に移動し、直径計測ラインL
2は画素列PL
3からPL
4に移動する。
【0081】
1本の直径計測ラインのみを用いて結晶直径の補正係数を算出する場合(
図10参照)、直径計測ラインの位置が変化する前後に求めた直径計測値を用いて補正係数を算出する必要があった。しかし、隣り合う複数の直径計測ラインを使用する場合には、ある直径計測ラインを移動する前の当該位置に別の直径計測ラインが移動してきており、位置変化後の隣接する2本の直径計測ラインから求めた2つの直径計測値を用いて補正係数を算出することが可能である。すなわち、結晶直径の計測値を補正するための補正係数は、垂直方向の位置を1ピクセル分変化した直後の直径計測ラインから求めた直径計測値と、当該直径計測ラインが移動する前の位置に新たに移動してきた隣接の直径計測ラインから求めた直径計測値に基づいて求められる。
【0082】
例えば、位置変更前に直径計測ラインL
2があった画素列PL
2には直径計測ラインL
1が新たに移動してくるので、位置変更直後の直径計測ラインL
2及びL
1に基づいて補正係数が求められる。また位置変更前に直径計測ラインL
3があった画素列PL
3には直径計測ラインL
2が新たに移動してくるので、位置変更直後の直径計測ラインL
3及びL
2に基づいて補正係数が求められる。中央の直径計測ラインL
2であれば、直径計測ラインL
1〜L
3が上方に移動する場合には下方の直径計測ラインL
1と共に補正係数を算出することができ、直径計測ラインL
1〜L
3が下方に移動する場合には上方の直径計測ラインL
3と共に補正係数を算出することができる。
【0083】
このように、隣り合う3本の直径計測ラインL
1、L
2、L
3を用いて結晶直径を計測する場合には、同じ位置のフュージョンリング4から同時に計測された結晶直径の計測値を用いて補正係数を算出することができるので、タイムラグによる直径計測誤差がなく、結晶直径の補正精度を高めることが可能となる。なお直径計測ラインの本数は3本に限定されず、3本以上としても構わない。また、単結晶の引き上げ工程中、直径計測ラインの垂直方向の位置が、上方向あるいは下方向のどちらか1方向しか移動しない場合は2本でも構わない。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0085】
例えば、上記実施形態ではシリコン単結晶の製造を例に挙げたが、本発明はこれに限定されず、CZ法により育成される種々の単結晶の製造に適用することができる。
【0086】
また上記実施形態では、ギャップ可変制御において液面位置が変化する場合に直径計測値を補正する場合を例に挙げたが、ギャップ一定制御においても液面位置は変化することから、本発明による直径計測値の補正を適用することができる。
【実施例】
【0087】
図1に示した単結晶製造装置1を用いて直径約300mmのシリコン単結晶の引き上げを行った。結晶引き上げ工程ではギャップ一定制御からギャップ可変制御に切り替えて液面位置を徐々に上昇させる制御を行った。単結晶の直径計測では
図8に示したように一本の直径計測ラインを用いて結晶直径を適宜計測し、また液面位置の変化に合わせて直径計測ラインの位置を変化させた。
【0088】
ここで、比較例では直径計測ラインの位置が変化した直後に結晶直径の計測値の補正を行わなかったが、実施例では直径計測ラインの位置が変化した直後に上記の計算式(3)、(4)に基づいて結晶直径の計測値を補正した。比較例及び実施例における最終的な結晶直径の計測値の結果を
図12(a)及び(b)に示す。なお、
図12(a)及び(b)の縦軸は、結晶直径の計測値を基準値からの相対値として表示するものである。
【0089】
図12(a)に示すように、直径計測ラインの位置が変化した直後に結晶直径の計測値の補正を行わなかった比較例では、直径変動のグラフに急峻な落ち込みが周期的に発生した。この急峻な落ち込みは、液面位置に合わせて直径計測ラインが動いた瞬間にマイナス側に動いており、液面位置の緩やかな上昇(ギャップの縮小)に合わせて直径計測ラインの位置を変化させた影響を受けていることが分かった。直径計測値の標準偏差σは0.1033、直径変動のプラス側の最大値は0.248、マイナス側の最大値は-0.410、変動幅は0.658となった。
【0090】
図12(b)に示すように、直径計測ラインの位置が変化した直後に結晶直径の計測値の補正を行った実施例では、直径変動のグラフに急峻で周期的な落ち込みが発生することはなかった。すなわち、直径計測ラインの位置が変化したタイミングで発生する直径変動を除去することができた。直径計測値の標準偏差σは0.0780、直径変動のプラス側の最大値は0.208、マイナス側の最大値は-0.197となり、変動幅は0.405となった。