特許第6885347号(P6885347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885347含フッ素アルキン化合物及び含フッ素アルキン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885347
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】含フッ素アルキン化合物及び含フッ素アルキン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/333 20060101AFI20210603BHJP
   C07C 233/11 20060101ALI20210603BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20210603BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C08G65/333
   C07C233/11CSP
   C07C231/02
   C08L71/02
   C08K5/20
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-3655(P2018-3655)
(22)【出願日】2018年1月12日
(65)【公開番号】特開2019-123776(P2019-123776A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】林 竜人
(72)【発明者】
【氏名】福田 健一
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 Autenrieth, B. et al.,Macromolecular Chemistry and Physics,2013年,vol.214, no.1,p.33-40
【文献】 Fray, M. J. et al.,Tetrahedron,2006年,vol.62, no.29,p.6869-6875
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物。
【化1】
(一般式(1)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基である。)
【請求項2】
一般式(1)において、Aが、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基又は下記一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであり、Bが、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数2〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基である、請求項1に記載の含フッ素アルキン化合物。
【化2】
【請求項3】
一般式(1)において、Rf1が、下記一般式(5)〜(8)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基のいずれか一つである、請求項1又は2に記載の含フッ素アルキン化合物。
【化3】
(一般式(5)〜(7)において、a及びbは、互いに独立した整数であり、a≧1、b≧1、かつ2≦a+b≦150である。一般式(8)において、cは2〜150の整数である。)
【請求項4】
下記一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物。
【化4】
(一般式(9)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf2は1価のパーフルオロポリエーテル基である。)
【請求項5】
一般式(9)において、Aが、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基又は一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであり、Bが、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数2〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基である、請求項4に記載の含フッ素アルキン化合物。
【化5】
【請求項6】
一般式(9)において、Rf2が、下記一般式(15)〜(20)で表される1価のパーフルオロポリエーテル基から選ばれる基である、請求項4又は5に記載の含フッ素アルキン化合物。
【化7】
(式(15)〜(17)において、kは1〜10の整数であり、nは≦n≦100を満たす整数である。式(18)、式(19)中、nは、2≦n≦100を満たす整数である。式(20)中、kは1〜10の整数であり、nは0≦n≦100を満たす整数、mは0≦m≦100を満たす整数、さらにm、nは、1≦m+n≦100を満たす整数である。)
【請求項7】
一般式(10)で表されるジカルボニル化合物と、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体を反応させて、一般式(11)で表される中間生成物を調製する工程と、該中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させる工程を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含フッ素アルキン化合物の製造方法。
【化8】
(一般式(10)中、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基、Xはハロゲン原子である。)
【化9】
(一般式(11)中、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基、Aは、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基又はフェニレン基である。)
【請求項8】
一般式(12)で表されるモノカルボニル化合物と、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させて、一般式(13)で表される中間生成物を調製する工程と、該中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させる工程を有する、一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法。
【化10】
(式(12)中、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基、Xはハロゲン原子である。)
【化11】
(一般式(13)中、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基、Aは、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基又はフェニレン基のいずかである。)
【化12】
(一般式(9)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基である。)
【請求項9】
下記一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物からなるフルオロエラストマー用のベースポリマー又は架橋剤。
【化13】
(一般式(1)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基である。)
【請求項10】
下記一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物からなるフルオロエラストマー用の架橋剤。
【化14】
(一般式(9)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキル又はパーフルオロポリエーテルを主鎖構造とする含フッ素アルキン化合物に関する。詳細には、パーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキル又はパーフルオロポリエーテルの分子鎖末端に、アミド結合を介して、フェニレン基やアルキレン基等の炭化水素基を有するジイン構造を有する含フッ素アルキン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、適当な化学反応条件に付すことによって、あらゆる末端変性を行うことができる。たとえば、第2級アミノ基と、ケイ素原子に結合したビニル基を有するケイ素化合物を反応させることにより、アミド結合を介して末端にケイ素原子に結合したビニル基を有するフルオロポリマーを得ることができる。このフルオロポリマーの硬化物のひとつであるパーフルオロポリエーテル系エラストマーは、フルオロポリマーとSi−H結合を有する化合物とのヒドロシリル化反応による架橋物で、ゴム材料や塗料、離型剤などの用途に使用可能であることが、特許文献1、2等により報告されている。また、前記ヒドロシリル化反応を応用することで、トリアルコキシシリル基を有するポリマーを得ることができる。このパーフルオロポリエーテル系エラストマーは、スズやチタンといった触媒の存在下、空気中で加水分解を起こし、他のアルコキシシランとの間でシロキサン結合を形成するため、室温下で硬化可能なコーティング剤として利用できる。
【0003】
フルオロポリマーの末端変性方法の開発の需要はいまだ根強い。これは、加熱不可能な大型部品への使用や、耐熱性に乏しい部品への使用など、ある特定の用途に特化した硬化材料の需要が高まったことに起因すると考えられる。この点において、フルオロポリマーを主鎖骨格として有する含フッ素アルキン化合物は幅広い条件下において様々な官能基と反応するため、大変有用であると考えられる。
【0004】
室温条件下で進行するアルキン化合物の反応例として、銅触媒存在下においてアジ化物と速やかに反応し1,3−トリアゾール化合物を得ることができる、クリックケミストリーと呼ばれる反応が挙げられる。この反応はトリアゾール骨格の安定性、不可逆な反応、水中でも進行するといった様々な利点があり、有機合成化学において重要な反応として知られている。その他のアルキン化合物の反応例として、過剰の銅塩の存在下でジイン構造を与える二量化反応、ニッケルやロジウムなどの遷移金属触媒存在下において様々な基質とメタラサイクルを中間体として経由しながら反応する環化付加反応などが知られている。
【0005】
上記に例示したとおり、アルキン化合物は比較的温和な条件下において様々な化学反応に対し活性を示す。そのためアルキン化合物の硬化材料への応用は、多様化する硬化材料の需要、例えば室温硬化性に優れたポリマーの需要に対応するための手段となり得る。しかし、パーフルオロポリエーテル等のフルオロポリマーを主鎖構造とし、そのポリマー末端にアルキン構造を有する化合物は報告されていない。
【0006】
一方、下記反応式に示すような、比較的低分子のアルキレン基含有化合物における末端アミド化が非特許文献1により知られている。
【0007】
【化1】
【0008】
さらに下記反応式に示すような、非フッ素化アミド化合物に対するプロパルギル基の導入法が非特許文献2により知られている。
【0009】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5356129号公報
【特許文献2】特許第5246190号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“A Straightforward Synthesis of Benzothiazines" Gimbert et al., Organic Letters, 2009, Vol. 11, No.2, pp 269-271
【非特許文献2】“gem-Difluorination of Aminoalkynes via Highly Reactive Dicationic Species in Superacid HF-SbF5: Application to the Efficient Synthesis of Difluorinated Cinchona Alkaloid Derivatives” Cantet et al., The Journal of Organic Chemistry, 2008, Vol. 73, No.7, pp 2875-2878
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、パーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキル又はパーフルオロポリエーテル等のフルオロポリマーを主鎖構造とする含フッ素新規アルキン化合物及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実情に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行い、パーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキル又はパーフルオロポリエーテルを主鎖構造とし、分子鎖末端がC(=O)X基(Xはハロゲン原子を表す)で封鎖されたポリマーの末端C(=O)X基と第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させることで得られた中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させ、その結果、アミド基を介しパーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキル又はパーフルオロポリエーテルに結合したジイン構造を分子鎖末端に持つ含フッ素アルキン化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明は、パーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキル又はパーフルオロポリエーテルを主鎖構造とする、下記一般式(1)又は(9)で表される含フッ素アルキン化合物及びその製造方法を提供するものである。
【0015】
下記一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物。
【化3】
【0016】
一般式(1)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基である。
【0017】
一般式(1)においてAは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基、炭素数〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基、又は一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであることが好ましい。また、Bは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基であることが好ましい。

【0018】
【化4】
【0019】
一般式(1)におけるRf1は、下記一般式(5)〜(8)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基のいずれか一つであることが好ましい。一般式(5)〜(7)においてa及びbは、互いに独立した整数であり、a≧1、b≧1、かつ2≦a+b≦150である。一般式(8)において、cは、〜150の整数である。

【0020】
下記一般式(9)で表される、含フッ素アルキン化合物。
【化6】
【0021】
一般式(9)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基である。
【0022】
一般式(9)におけるAは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基又は一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであることが好ましい。また、Bは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数2〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基であることが好ましい。

【0023】
【化7】
【0024】
一般式(9)におけるRf2は、一般式(14)〜(20)で表されるパーフルオロアルキル基及び1価のパーフルオロポリエーテル基から選ばれる基であることが好ましい。一般式(14)中、aは1〜10の整数であり、好ましくは2〜8の整数である。
【0025】
【化8】
【0026】
【化9】
【0027】
式(15)〜(17)において、kは1〜10の整数であり、nは≦n≦100を満たす整数である。式(18)、式(19)中、nは、2≦n≦100を満たす整数である。式(20)中、kは1〜10の整数であり、nは0≦n≦100を満たす整数、mは0≦m≦100を満たす整数、さらにm、nは、1≦m+n≦100を満たす整数である。

【0028】
さらに、本発明は下記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物と第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させて、下記一般式(11)で表される中間生成物を調製する工程と、該中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させる工程を有する、一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法を提供する。
【0029】
一般式(10)におけるRf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基、Xはハロゲン原子である。また一般式(11)におけるRf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基、Aは、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基又はフェニレン基のいずれかである。
【0030】
【化10】
【化11】
【0031】
さらに、本発明は下記一般式(12)で表されるモノカルボニル化合物と、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させて、下記一般式(13)で表される中間生成物を調製する工程と、該中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させる工程を有する、一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法を提供する。
【0032】
一般式(12)におけるRf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基、Xはハロゲン原子である。また、一般式(13)におけるRf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基、Aは、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基又はフェニレン基のいずれかである。
【0033】
【化12】
【化13】
【発明の効果】
【0034】
本発明は、上記一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物及び一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物を提供できる。また本発明のアルキン化合物の製造方法は、パーフルオロアルキレン基、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基の末端を酸ハロゲン化物とし、該ポリマーの末端と第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させることで、ポリマー末端を、アミド結合を有するエチニル基へと変換した後、ハロゲノ基などの脱離基を有するアルキン誘導体とSN2反応を行う。このような含フッ素アルキン化合物の製造方法であれば製造方法が簡便であり、工業的に効率よく一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物や一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1の第1工程で調製した含フッ素アルキン化合物の1H−NMRスペクトルである。
図2】実施例1の第2工程で調製した含フッ素アルキン化合物の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[含フッ素アルキン化合物]
本発明の含フッ素アルキン化合物の態様の一つは、下記一般式(1)で表されるものである。
【化14】
【0037】
一般式(1)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基である。
【0038】
本発明の含フッ素アルキン化合物を示す上記一般式(1)において、Aは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基、炭素数〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基、又は一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであることが好ましい。
【化15】

【0039】
一般式(1)におけるAは、より好ましくは、炭素数1〜10の直鎖型炭化水素基、又は一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであり、さらに好ましくは一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つである。直鎖型脂肪族飽和炭化水素基としては、メチル(炭素数1)からデシル(炭素数10)までの直鎖型飽和炭化水素基が好ましく、メチル(炭素数1)からブチル(炭素数4)までの直鎖型飽和炭化水素基がさらに好ましい。
【0040】
一般式(1)におけるAが炭素数10を超える脂肪族飽和炭化水素基である場合、含フッ素アルキン化合物が極性溶剤に対し膨潤しやすくなり、これを硬化させてエラストマーとした時に主鎖構造に由来する耐有機溶剤性が発揮されない場合がある。当該Aがフェニレン基ではなく、例えばナフタレン、アントラセンなどの縮環構造を有する二価の芳香族炭化水素基である場合は、上記一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物が収率よく得られなくなる場合がある。
【0041】
また、一般式(1)におけるBは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基又は分岐型脂肪族飽和炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは、メチル(炭素数1)からデシル(炭素数10)までの直鎖型炭化水素基、さらに好ましくは、メチル(炭素数1)からブチル(炭素数4)までの直鎖型炭化水素基である。Bが炭素数10を超える直鎖型脂肪族飽和炭化水素基である場合、含フッ素アルキン化合物が極性溶剤に対し膨潤しやすくなり、これを硬化させてエラストマーとした時に主鎖構造に由来する耐有機溶剤性が発揮されない場合がある。
【0042】
本発明の含フッ素アルキン化合物を示す上記一般式(1)において、Rf1は、パーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基であり、下記一般式(5)〜(8)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基のいずれか一つであることが好ましく、一般式(5)又は(6)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基のいずれか一つであることがより好ましい。
【0043】
【化16】
【0044】
一般式(5)〜(7)中、a及びbは互いに独立した整数で、a≧1、b≧1、かつ2≦a+b≦150であり、破線は結合手である。
aは好ましくは1≦a≦50、より好ましくは15≦a≦40である。bは好ましくは1≦b≦50、より好ましくは15≦b≦40である。a+bは好ましくは5≦a+b≦100、より好ましく35≦a+b≦80である。
一般式(8)中、cは〜150の整数、好ましくは〜100の整数、より好ましくは6〜80の整数であり、破線は結合手である。

【0045】
本発明の含フッ素アルキン化合物の態様の一つは、下記一般式(9)で表されるものである。
【化17】
【0046】
一般式(9)中、A及びBは、互いに独立して、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基及びフェニレン基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基である。
【0047】
一般式(9)におけるAは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基、炭素数〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基又は一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表されるフェニレン基のいずれか一つであることが好ましい。一般式(9)におけるAの説明は、一般式(1)におけるAの説明と共通する。

【0048】
【化18】
【0049】
一般式(9)におけるBは、炭素数1〜10の直鎖型脂肪族飽和炭化水素基又は炭素数〜10の分岐型脂肪族飽和炭化水素基であることが好ましい。一般式(9)におけるBの説明は、一般式(1)におけるBの説明と共通する。

【0050】
一般式(9)におけるRf2は、下記一般式(14)〜(20)で表されるパーフルオロアルキル基及び1価のパーフルオロポリエーテル基から選ばれる基であることが好ましい。一般式(14)中、aは1〜10の整数、好ましくは2〜8の整数である。
【0051】
【化19】
【0052】
【化20】
【0053】
式(15)〜(17)において、kは1〜10、好ましくは1〜6の整数であり、nは≦n≦100、好ましくは1≦n≦60を満たす整数である。
式(18)、式(19)中、nは2≦n≦100、好ましくは2≦n≦60を満たす整数である。
式(20)中、kは1〜10、好ましくは1〜6の整数であり、mは、それぞれ0≦m≦100、好ましくは1≦m≦60を満たす整数であり、nは0≦n≦100、好ましくは1≦n≦60を満たす整数であり、かつ1≦m+n≦100、好ましくは1≦m+n≦60を満たす整数である。
【0054】
[含フッ素アルキン化合物の製造方法]
本発明の一般式(1)及び(9)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法は限定されない。一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法としては、下記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物と、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させて、下記一般式(11)で表される中間生成物を調製する工程と、該中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させる工程を有する製造方法が好ましい。
【0055】
【化21】
【化22】
【0056】
一般式(10)、(11)におけるA、Rf1についての説明は、一般式(1)のA、Rf1についての説明と共通する。すなわち一般式(10)、(11)中、Aは、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基又はフェニレン基であり、Rf1はパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロポリエーテル基である。また一般式(10)中、Xはハロゲン原子であり、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0057】
以下に本発明にかかる含フッ素アルキン化合物の好ましい製造方法の製造工程を示す。
【0058】
【化23】
【0059】
【化24】
【0060】
上記の第1工程、第2工程に示す各反応式中のA、Rf1、Xは、一般式(10)、(11)のA、Rf1、Xとそれぞれ共通する。Bは直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基であり、その説明は、一般式(1)のBについての説明と共通する。Yは脱離基である。
【0061】
第1工程では、上記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物の末端C(=O)X基と、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させることで、上記一般式(11)で表される中間生成物であるアルキン化合物を製造する。上記の反応は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等に例示される塩基性化合物の存在下で行うことが好ましい。
【0062】
上記反応において、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体としては、例えば以下の化合物が使用できる。プロパルギルアミン、4−アミノ−1−ブチン、5−アミノ−1−ペンチン、6−アミノ−1−ヘキシン等のアミノアルキン、3−エチニルアニリン、4−エチニルアニリン、2−エチニルアニリン等のエチニルアニリン及びこれらの塩酸塩などである。上記第一級アミノ基を有するアルキン誘導体の使用量は、分子鎖両末端がC(=O)X基で封鎖されたジカルボニル化合物の末端C(=O)X基に対して、1.2当量以上であることが好ましい。
【0063】
上記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物の末端C(=O)X基と、上記第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とが反応する際に生成されるハロゲン化水素を中和するために、第1工程の反応系中に、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンに例示される塩基性化合物を添加してもよい。トリエチルアミンを添加する場合、その添加量は、分子鎖両末端がC(=O)X基で封鎖されたジカルボニル化合物の末端C(=O)X基に対して、1.1当量以上であることが好ましい。しかし、上記第一級アミノ基を有するアルキン誘導体が塩酸塩である場合は、塩酸塩を中和するために過剰量のトリエチルアミンが必要である。この場合におけるトリエチルアミンの使用量は、上記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物の末端C(=O)X基に対して、2.2当量以上であることが好ましい。
【0064】
また、上記第一級アミノ基を有するアルキン誘導体が固体である場合、少量の有機溶剤に溶解させた上で、上記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物が存在する系内に滴下してもよい。使用可能な有機溶剤として、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、好ましくは、THF、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル1,4−ジオキサンが挙げられる。
【0065】
上記の第1工程の反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。まず、上記第一級アミノ基を有するアルキン誘導体を、上記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物の存在する系内に滴下する。滴下温度は40℃以下、好ましくは20℃以下である。反応開始直後は発熱を伴うので、温度が上がりすぎる場合には滴下を中断し冷却を行う。上記第一級アミノ基を有するアルキン誘導体の滴下が終了後、一晩程度室温下で熟成を行う。反応終了後は生成したトリエチルアミン−ハロゲン化水素塩、未反応のエチニル基を有する第一級アミノ基を有するアルキン誘導体をそれぞれ取り除き、最後に活性炭で処理することで、上記一般式(11)で表される中間生成物が得られる。
【0066】
第2工程では、第1工程で得られた上記一般式(11)で表される中間生成物と脱離基を有するアルキン誘導体とを反応させることで、上記一般式(1)により表されるアルキン化合物を製造する。アルキン誘導体が有する脱離基Yとしてはハロゲノ基が好ましく、ブロモ基、ヨード基、クロロ基がより好ましい。
【0067】
上記反応において、脱離基Yを有するアルキン誘導体としては、3−ブロモ−1−プロピン、3−ヨード−1−プロピン、4−ブロモ−1−ブチン、4−クロロ−1−ブチン、4−ヨード−1−ブチン、5−ブロモ−1−ペンチン、5−クロロ−1−ペンチン、5−ヨード−1−ペンチン、6−ブロモ−1−ヘキシン、6−クロロ−1−ヘキシン、6−ヨード−1−ヘキシンなど炭素数3〜6のハロゲン化アルキンを例示できる。上記脱離基を有するアルキン誘導体の使用量は、上記一般式(11)で表される中間生成物が有するN−H量に対して、1.2当量以上、好ましくは3.0当量以上である。
【0068】
第2工程では、一般式(11)で表される中間生成物と脱離基を有するアルキン誘導体とを反応させるときに炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の塩基性化合物を添加してもよい。その場合、塩基性化合物の使用量は、上記一般式(11)で表される中間生成物であるアルキン化合物が有するN−H量に対して1.1当量以上、好ましくは6当量以上である。
【0069】
また、第2工程での上記反応には溶剤を使用することができる。このとき用いる溶剤は特に限定されないが、フッ素系溶剤又は極性有機溶剤であることが好ましい。フッ素系溶剤としては1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどが挙げられる。極性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、DMSO、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0070】
上記の第2工程の反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。まず、第1工程において得られた、上記一般式(11)で表される中間生成物と、脱離基Yを有するアルキン誘導体とを、好ましくは炭酸カリウム存在下で反応させる。反応温度は、50℃以上、好ましくは70℃以上であることが好ましい。反応終了後は炭酸カリウムをろ過により取り除き、減圧濃縮を行った後、未反応の脱離基Yを有するアルキン誘導体及び副生成物を取り除くことで、上記一般式(1)により表されるアルキン化合物を得ることができる。
【0071】
また、上記一般式(10)で表されるジカルボニル化合物に代えて、下記一般式(12)で表されるモノカルボニル化合物を使用すると、一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物が得られる。すなわち、一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法としては、一般式(12)で表されるモノカルボニル化合物と、第一級アミノ基を有するアルキン誘導体とを反応させて、一般式(13)で表される中間生成物を調製する工程と、該中間生成物を、脱離基を有するアルキン誘導体と反応させる工程を有する製造方法が好ましい。
【0072】
【化25】
【0073】
【化26】
【0074】
一般式(12)、(13)において、A、Rf2についての説明は、一般式(9)のA、Rf2についての説明と共通する。すなわち、一般式(12)、(13)中、Aは、直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基又はフェニレン基のいずれかであり、Rf2はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基である。また式(12)中、Xはハロゲン原子であり、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、フッ素がより好ましい。上記の一般式(9)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法における第一工程と第二工程の反応式を以下に例示する。
【0075】
【化27】
【0076】
【化28】
【0077】
当該反応式中、A、Rf2は、一般式(12)、(13)のA、Rf2と共通する。Bは直鎖型若しくは分岐型の脂肪族飽和炭化水素基であり、その説明は式(9)中のBについての説明と共通する。Yは脱離基である。一般式(13)で表される中間生成物と反応させる、脱離基を有するアルキン誘導体としては、3−ブロモ−1−プロピン、3−ヨード−1−プロピン、4−ブロモ−1−ブチン、4−クロロ−1−ブチン、4−ヨード−1−ブチン、5−ブロモ−1−ペンチン、5−クロロ−1−ペンチン、5−ヨード−1−ペンチン、6−ブロモ−1−ヘキシン、6−クロロ−1−ヘキシン、6−ヨード−1−ヘキシンなどハロゲン化アルキンを例示できる。上記脱離基を有するアルキン誘導体の使用量は、上記一般式(13)で表される中間生成物であるアルキン化合物が有するN−H量に対して、1.2当量以上、好ましくは3.0当量以上である。
【0078】
使用する溶媒等は、一般式(1)で表される含フッ素アルキン化合物の製造方法で説明したものと同様のものを使用できる。
【0079】
このような含フッ素アルキン化合物の製造方法であれば、複雑な製造工程を必要とせず、一般式(1)又は(9)で表される含フッ素アルキン化合物を効率よく製造することができる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記実施例1における第1工程および第2工程でそれぞれ得られた生成物の末端アルキンに由来するH価の算出は、得られた各アルキン1g、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン4g及びトルエン0.05gをよく混ぜ合わせた後、1H−NMR測定(使用機器:JNM−ECS400、日本電子社製)を行い、トルエン由来のシグナルに対する生成物のアルキン上のプロトン由来のシグナルの強度をもとに行った。
【0081】
[実施例1]
第1工程:
300mLフラスコに、下記式(21)により表されるパーフルオロポリエーテル209g(C(=O)F価0.300×10-3mol/g)を仕込み、フラスコ内を窒素置換した。系内の温度を10℃前後まで冷却した後、窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた4−エチニルアニリン8.80g(0.075mol)及びトリエチルアミン7.00g(0.069mol)を、系内の温度が18℃以上とならないよう30分以上かけて滴下した。滴下終了後、室温で終夜撹拌した。
【0082】
【化29】
【0083】
その後、反応生成物を1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン(70g)に溶かし込んだ溶液を水70gで洗浄し、アセトン100gで洗浄した。溶剤を減圧留去した後、反応生成物をフッ素系溶媒(商品名 PF5060、3M社製)209gに溶かし込み、活性炭(商品名 白鷺AS、大阪ガスケミカル社製)10.5gを加え、室温下で1時間撹拌した。活性炭をろ過した後、溶剤を減圧留去することで、下記式(22)で表される生成物を、橙色オイルとして202g得た。
【0084】
【化30】
【0085】
1H−NMRにて、上記第1工程で得られた、上記式(22)のアルキンに由来する−C≡C−H価を計算したところ、0.277×10-3mol/gであった。
【0086】
図1に、第1工程で得られた生成物の1H−NMRスペクトルを示す。図1に示すように、第1工程で得られた生成物では、次のシグナル:δ8.18(s, −NH−, 1H),7.69−7.04(m, フェニル, 4H), 2.80(s, −C≡CH, 1H)が現れた。これにより、第1工程で得られた生成物の分子鎖末端の構造が、式(22)で表されるアルキン化合物のパーフルオロエーテルの分子鎖末端構造に適合することを確認できた。
【0087】
第2工程:
300mLフラスコに、第1工程で得られた上記一般式(22)で表されるアルキン100g(H価0.277×10-3mol/g)、3−ブロモ−1−プロピン9.9mL(9.2mol/Lトルエン溶液、0.091mol)及び炭酸カリウム23g(0.17mol)の混合物を加え、フラスコ内を窒素シールした。これに、アセトン200gを加え、還流条件下で終夜撹拌した。反応終了後、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン100gで希釈した後、炭酸カリウムをろ過により取り除いた。溶剤を減圧留去し、得られた反応生成物をフッ素系溶媒(商品名 PF5060、3M社製、200g)に溶かし込んだ溶液を、アセトン80gで洗浄した。溶剤を減圧留去し、下記式(23)で表される化合物を、橙色オイルとして、100g得た。
【0088】
【化31】
【0089】
1H−NMRにて上記第2工程で得られた、上記式(23)のポリマーのアルキン構造に由来する−C≡C−H価を計算したところ、0.491×10-3mol/gであった。
【0090】
図2に、第2工程で得られた生成物の1H−NMRを示す。図2に示すように、第2工程で得られた生成物では、次のシグナル:δ7.58−7.01(m, フェニル基, 4H), 4.41(dd, J=22Hz, 8Hz, N−CH2−, 2H), 2.84(s, C(sp2)−C≡CH, 1H), 2.01(s, C(sp3)−C≡CH, 1H)が現れた。これにより、第2工程で得られた生成物の分子鎖末端の構造が、式(23)に表されるアルキン化合物のパーフルオロエーテルの分子鎖末端構造に適合することが確認できた。また実施例1に示す方法で、式(1)で表される含フッ素アルキン化合物を製造できることが確認できた。
【0091】
[実施例2]
第一工程:
100mLフラスコに、下記式(24)により表されるパーフルオロポリエーテル25gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。系内の温度を10℃前後まで冷却した後、窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた4−エチニルアニリン3.5g(0.030mol)及びトリエチルアミン2.8g(0.028mol)を、系内の温度が35℃以下となるよう20分以上かけて滴下した。滴下終了後、室温で終夜撹拌した。反応生成物を水で洗った後、水、フッ素系溶剤(商品名 PF5060、3M社製)、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンを加え、フッ素系溶剤の層を分液により回収した。
【0092】
【化32】
【0093】
その後、これを無水硫酸ナトリウムで処理した後、ろ過し、残渣を1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンにより洗った。溶剤を減圧留去した後、反応生成物に、アセトンとフッ素系溶媒(商品名 PF5060、3M社製)を加え、分液によりフッ素系溶剤の層を回収し、溶剤を減圧留去することで、下記式(25)で表される生成物を、橙色液体として18.32g得た。
【0094】
【化33】
【0095】
第一工程で得られた生成物では、重アセトン中で次のシグナル:δ10.6(s, −NH−, 1H), 7.82(d,J=8.0Hz,2H),7.60(d, J=4.0Hz, 2H), 3.73(s, −C≡CH, 1H)が現れた。これにより、第一工程で得られた生成物の分子鎖末端の構造が、式(25)で表されるアルキン化合物のパーフルオロエーテルの分子鎖末端構造に適合することを確認できた。
【0096】
第二工程:
100mLフラスコに、第一工程で得られた上記一般式(25)で表されるアルキン2.5g(0.0023mol)、3−ブロモ−1−プロピン0.29mL(9.2mol/Lトルエン溶液、0.0027mol)及び炭酸カリウム1.9g(0.014mol)の混合物を加え、フラスコ内を窒素シールした。これに、アセトン22gを加え、還流条件下で終夜撹拌した。その後、3−ブロモ−1−プロピン0.45mL(9.2mol/Lトルエン溶液、0.0042mol)及びアセトン4.0gを加え、さらに終夜攪拌した。反応終了後、炭酸カリウムをろ過により取り除いた。溶剤を減圧留去し、得られた反応生成物をフッ素系溶媒(商品名 PF5060、3M社製、200g)に溶かした後、クロロホルムを加え、フッ素系溶剤の層を分液により回収した。溶剤を減圧留去し、下記式(26)で表される化合物を、橙色オイルとして、1.35g得た。
【0097】
【化34】
【0098】
第二工程で得られた生成物の1H−NMRでは、重アセトン中において次のシグナル:δ7.71(d, J=8.0Hz,フェニル基, 2H), 7.49(d,J=8.0Hz,フェニル基,2H),4.78−4.56(m, N−CH2−, 2H), 3.87(s, C(sp2)−C≡CH, 1H), 3.00−2.93(s, C(sp3)−C≡CH, 1H)が現れた。これにより、第二工程で得られた生成物の分子鎖末端の構造が、式(26)に表されるアルキン化合物のパーフルオロエーテルの分子鎖末端構造に適合することが確認できた。また実施例2に示す方法で、式(9)で表される含フッ素アルキン化合物を製造できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の含フッ素アルキン化合物は、その加熱条件下は勿論、室温(23℃±10℃)条件下においても様々な官能基を有するポリマーと反応することで硬化する。つまり、フルオロエラストマー用のベースポリマー及び/又は架橋剤として有用である。例えば、本発明の含フッ素アルキン化合物の硬化物であるエラストマーは、自動車、化学プラント用部品、複写機、(インクジェット)プリンタ等のOA機器部品、半導体製造ライン、分析・理化学機器、医療機器用部品、航空機部品、燃料電池等の分野で使用される耐薬品性及び耐油性等が要求されるダイヤフラム、バルブ、弁、シール部品(O−リング、オイルシール、パッキン、ガスケット、ジョイント、フェースシール等)等のゴム成形品、ゲル材料、接着剤、(センサー)ポッティング材の用途、テント膜材料、シーラント、成形部品、押出部品、被覆材、複写機ロール材料、電気用防湿コーティング材、積層ゴム布、あるいは自動車用圧力センサーの保護材、車載用電子部品の保護、防振を目的とする材料といった、幅広い用途で使用可能と考えられる。
図1
図2