特許第6885406号(P6885406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885406エポキシ樹脂組成物及び密着性に優れる低硬化収縮性樹脂硬化膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885406
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物及び密着性に優れる低硬化収縮性樹脂硬化膜
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/38 20060101AFI20210603BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20210603BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20210603BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210603BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   B32B27/38
   C08L63/00 C
   C08K9/04
   C08K3/36
   C08G59/20
   H05K1/03 630G
   H05K3/46 T
【請求項の数】4
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-536029(P2018-536029)
(86)(22)【出願日】2016年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2016075056
(87)【国際公開番号】WO2018037565
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2019年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 和也
(72)【発明者】
【氏名】江口 優
(72)【発明者】
【氏名】池野 浩章
(72)【発明者】
【氏名】大場 智之
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/046095(WO,A1)
【文献】 特開2009−167390(JP,A)
【文献】 再公表特許第2016/171024(JP,A1)
【文献】 特開2012−057121(JP,A)
【文献】 特開2005−015581(JP,A)
【文献】 特開2016−056371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
C08L 63/00
C08G 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材上に形成された、少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)式(1)で表される化合物(但し、(B)式(1)で表される化合物は該(A)エポキシ樹脂以外の化合物である。)及び(C)ナノシリカフィラーを含むエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化膜と、を含む積層体であって、
該基材が酸化インジウム・スズ(ITO)、Al、Cu、又はポリエチレンテレフタレート(PET)であり、
該(A)エポキシ樹脂が、多官能モノマー型エポキシ樹脂であり、
該(B)式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物および式(4)で表される化合物から成る群より選ばれる化合物の少なくとも1種を含み、
該(C)ナノシリカフィラーは多官能モノマー型エポキシ樹脂で表面処理されたものであり、
該エポキシ樹脂組成物中、エポキシ樹脂組成物の全成分の合計質量に対する質量%で、(A)エポキシ樹脂を20質量%以上60質量%以下、(B)式(1)で表される化合物を20質量%以上40質量%以下、(C)ナノシリカフィラーを10質量%以上20質量%以下含有し、
該エポキシ樹脂組成物について、評価方法1による密着性評価において、4種の基材に対する密着性が全て4B以上であることを特徴とする、積層体。
[評価方法1]
ITO、Al、Cu、及びPETの4種の基材上に、該エポキシ樹脂組成物よりなる4〜5μmの厚さの硬化膜をそれぞれ形成する。
形成された硬化膜について、ASTM D3359(Method B)に準拠し、す
きま間隔1mm、25個(5×5)のます目で付着性クロスカット法を用いて密着性試験を行い、下記の基準で評価する。
(評価基準)
5B:剥離面積0%
4B:剥離面積5%未満
3B:剥離面積5%以上15%未満
2B:剥離面積15%以上35%未満
1B:剥離面積35%以上65%未満
0B:剥離面積65%以上
【化1】
式(1)において、R1及びR2は、独立して炭素数1〜10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、全てのXがエポキシ基を含む。
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
前記(A)エポキシ樹脂が、リン含有エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物が、さらに、(D)エポキシ樹脂以外の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の積層体を含む、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及び密着性に優れる低硬化収縮性樹脂硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた接着性や電気特性、耐熱性などから、接着剤、電子材料、塗料、航空宇宙など広範に利用されている。近年、電子機器の高性能化や集積技術の向上が著しく、材料には、さらなる高性能化や高機能化が求められている。一方、シリカやシリコーンに代表される、ケイ素−酸素化合物は、有機材料単独では見られない特性を発現することから、有機−無機ハイブリッド材料として注目されている。
例えば、エポキシ樹脂の耐熱性を向上する手法として、エポキシ樹脂と無機材料からなる有機無機ハイブリッドの応用が検討されている。このような有機無機ハイブリッドの応用として、分子内に無機成分であるシロキサン結合と有機成分であるエポキシを併せ持つエポキシ変性シルセスキオキサンを用いた有機無機ハイブリッド材料が報告されている。
特許文献1には、蛍光体の分散性に優れ、加工して色変換材料として用いた場合に、耐熱性、耐熱黄変性、耐光性、透明性および屈折率が高く、基材との密着性に優れ、光半導体から発せられる光を長期間にわたり光ムラなく安定して色変換することができる硬化物を与える樹脂組成物が提案されている。
また、特許文献2には、硬化収縮によるフィルムの反りが少なく、更に耐擦傷性に優れ、ポリエステルフィルム上で鉛筆硬度3Hを上回る感光性樹脂組成物及びその硬化皮膜を有するハードコートフィルムを提供することを目的として、エポキシ基を有する特定のケイ素化合物(A)及び光カチオン重合開始剤(B)を含有する感光性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/111765号
【特許文献2】特開2005−15581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エポキシ樹脂を熱や紫外線により硬化させる際、アクリル樹脂よりは格段に小さいが硬化による収縮が起こり、表面形状の悪化、基材との応力による剥離、基材の湾曲等の問題が発生する場合がある。本発明者らの検討によると、特許文献2に記載の感光性樹脂組成物の硬化膜は、ポリエチレンテレフタレート(PET)上で3Hの鉛筆硬度を達成可能だが、十分な低反り性が得られないことがわかった。近年、電子機器の微細化に伴い、硬化収縮の抑制の要求がさらに高まっている。また、用途に応じ、密着性、透明性など様々な性能が求められている。
そこで、本発明では、硬化の際の硬化収縮が抑制され、低反り性かつ高密着性の硬化膜が得られるエポキシ樹脂組成物を提供することを、主たる目的とする。また、低反り性であり、高硬度と高密着性を両立したエポキシ樹脂組成物を提供することを、さらなる目的とする。また、低反り性かつ高密着性の積層体を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ樹脂と式(1)で表される化合物を組み合わせることにより、硬化の際の硬化収縮が抑制され、低反り性かつ密着性の高い硬化膜が得られることを見出した。さらに、鉛筆硬度H以上の高硬度を達成できることを見出した。
本発明の実施形態には、以下の構成が含まれる。
[1] (A)エポキシ樹脂、(B)式(1)で表される化合物、(C)ナノシリカフィラーを含むエポキシ樹脂組成物。
【0006】
【化1】
式(1)において、R1及びR2は、独立して炭素数1〜10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、化合物1分子中、少なくとも1個はエポキシ基を含む。
[2] 前記式(1)において、R1及びR2が全てメチル基またはエチル基である、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[3] 前記式(1)において、全てのXがエポキシ基を含む、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[4] 前記(A)エポキシ樹脂が、リン含有エポキシ樹脂を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[5] 前記(B)式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物および式(4)で表される化合物から成る群より選ばれる化合物の少なくとも1種を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0007】
【化2】
【0008】
【化3】
【0009】
【化4】
[6] 前記(A)エポキシ樹脂が、多官能モノマー型エポキシ樹脂である、[1]〜[5]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[7] エポキシ樹脂組成物中、(A)エポキシ樹脂を10質量%以上80質量%以下、(B)式(1)で表される化合物を5質量%以上80質量%以下、(C)ナノシリカフィラーを5質量%以上35質量%以下含む、[1]〜[6]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[8] 前記(A)エポキシ樹脂と前記(B)式(1)で表される化合物との含有質量比が、1:0.2〜1:5である、[1]〜[7]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[9] さらに、(D)エポキシ樹脂以外の樹脂を含む、[1]〜[8]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[10] 基材と、該基材上に形成された、少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化膜と、を含む積層体であって、該エポキシ樹脂組成物中の、成分(A)と成分(B)との含有質量比が1.0:0.3〜1.0:4.0であり、該少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物について、評価方法1による密着性評価において、3種の基材に対する密着性が全て4B以上であることを特徴とする、積層体。
[評価方法1]
厚さ50μmの金属酸化物、金属基板、及びプラスチックフィルムの3種の基材上に、該少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物よりなる4〜5μmの厚さの硬化膜をそれぞれ形成する。
形成された硬化膜について、ASTM D3359(Method B)に準拠し、すきま間隔1mm、25個(5×5)のます目で付着性クロスカット法を用いて密着性試験を行い、下記の基準で評価する。
(評価基準)
5B:剥離面積0%
4B:剥離面積5%未満
3B:剥離面積5%以上15%未満
2B:剥離面積15%以上35%未満
1B:剥離面積35%以上65%未満
0B:剥離面積65%以上
【0010】
【化5】
式(1)において、R1及びR2は、独立して炭素数1〜10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、化合物1分子中、少なくとも1個はエポキシ基を含む。
[11] 前記式(1)において、R1及びR2が全てメチル基またはエチル基である、[10]に記載の積層体。
[12] 前記式(1)において、全てのXがエポキシ基を含む、[10]又は[11]に記載の積層体。
[13] 前記(A)エポキシ樹脂が、リン含有エポキシ樹脂を含む、[10]〜[12]のいずれかに記載の積層体。
[14] 前記基材が、金属酸化物、プラスチックフィルムおよび金属基板からなる群より選ばれる1種である、[10]〜[13]のいずれかに記載の積層体。
[15] [10]〜[14]のいずれかに記載の積層体を含む、電子部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、硬化の際の硬化収縮が抑制され、低反り性かつ高密着性の硬化膜が得られるエポキシ樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.エポキシ樹脂組成物
本発明の第一の実施形態は、(A)エポキシ樹脂、(B)式(1)で表される化合物、(C)ナノシリカフィラーを含むエポキシ樹脂組成物に関する。(A)エポキシ樹脂を成分(A)、(B)式(1)で表される化合物を成分(B)、(C)ナノシリカフィラーを成分(C)と表記することがある。樹脂組成物の他の成分についても同様に簡略化して称することがある。
【0013】
【化6】
式(1)において、R1及びR2は、独立して炭素数1〜10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、化合物1分子中、少なくとも1個はエポキシ基を含む。
【0014】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、樹脂組成物を構成する他の成分との相溶性がよければ特に限定されることはないが、エポキシ基を1分子あたり1〜8個含み、かつ重量平均分子量が5,000未満であるエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂に含まれる1分子あたりのエポキシの数は、好ましくは2〜4個である。エポキシの数がこれらの範囲にあれば、硬化速度と耐熱性が良好となる。
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、好ましくは80〜10000であり、より好ましくは100〜5000であり、さらに好ましくは120〜600である。重量平均分子量がこれらの範囲にあれば、インク塗膜の平坦性が良好となる。
【0015】
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは80g/eq以上1000g/eq以下であり、より好ましくは100g/eq以上500g/eq以下であり、更に好ましくは120g/eq以上300g/eq以下である。この範囲とすることで、エポキシ樹脂組成物の硬化性がより一層向上するとともに、硬化物の耐熱性が向上する。
【0016】
エポキシ樹脂の好ましい例としては、貯蔵安定性、硬化物の弾性率やTgが優れる観点から、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエ−テル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、水素化されたビスフェノール−A型のエポキシ樹脂、脂肪族ポリグリシジルエーテル、環式脂肪族エポキシ樹脂、多官能モノマー型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのなかでも、特に好ましいのは、耐熱性に優れているグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及び多官能モノマー型エポキシ樹脂である。また、リンを含有するリン含有エポキシ樹脂を用いてもよい。
(A)エポキシ樹脂は、上記した中から1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
エポキシ樹脂の具体例としては、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4,3',4’−ジエポキシビシクロヘキシル、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、ε−カプロラクトン変性 3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−([2,3−エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパンと1,3−ビス[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]−2−プロパノールとの混合物、及び2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−([2,3−エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパンなどが挙げられる。特に好ましいのは、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4,3',4’−ジエポキシビシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0018】
また、エポキシ樹脂としては、下記のような市販品を用いることができる。エポキシを1分子あたり3〜20個含み、かつ重量平均分子量が5,000未満であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、TECHMORE VG3101L((株)プリンテック)、EPPN−501H、502H(日本化薬(株))、JER 1032H60(三菱化学(株))など、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂としては、JER 157S65、157S70(三菱化学(株))など、フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、EPPN−201(日本化薬(株))、JER 152、154(三菱化学(株))など、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、EOCN−102S、103S、104S、1020(日本化薬(株))などを挙げることができる。また、多官能モノマー型エポキシ樹脂としては、セロキサイド(登録商標)CEL2021P、CEL2000、CEL8000(株式会社ダイセル)が挙げられる。リン含有エポキシ樹脂としては、アデカレジン(登録商標)EP-49-10P、EP-49-10P2(株式会社ADEKA)が挙げられる。
【0019】
エポキシ樹脂の割合は、樹脂組成物の固形分の総量に対して10〜80質量%である。エポキシ樹脂の割合がこの範囲であると、低そり性、耐熱性、耐薬品性、密着性のバランスが良好である。さらに好ましいのは、エポキシ樹脂が20〜60質量%の範囲である。また、エポキシ樹脂組成物中、リンを含有するリン含有エポキシ樹脂を、好ましくは2質量%〜25%質量%の範囲で含有することにより、キレートによる金属や金属酸化物層への密着性向上の効果が期待できる。
【0020】
(B)式(1)で表される化合物
式(1)で表される化合物は、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を含むダブルデッカー型フェニルシルセスキオキサンである。なお、式(1)で表される化合物を、化合物(1)と表記することがある。他の式で表される化合物についても同様に簡略化して称することがある。
【0021】
【化7】
式(1)において、R1及びR2は、独立して炭素数1〜10のアルキル基またはフェニル基であり、Xは、独立して水素又は1価の有機基であり、化合物1分子中、少なくとも1個はエポキシ基を含む。
【0022】
1及びR2は、独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることがより好ましい。
1及びR2は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。アルキル基とは、アルカンの末端から水素原子を1つ取り除いた官能基で、C2n+1で表される。R1及びR2は直鎖状及び分枝鎖状のアルキル基のいずれであってもよい。なお、分枝鎖状の場合、分枝鎖の炭素も炭素数に含めるものとする。炭素数が1〜10のアルキル基とは、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、1,1,2−トリメチルプロピル、ヘプチル、オクチルが挙げられる。
全てのR1及びR2がメチル基又はエチル基であることが特に好ましく、全てのR1及びR2がメチル基であることが、反応性や耐熱性の観点から最も好ましい。
【0023】
Xはそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。化合物1分子中、Xの少なくとも1個はエポキシ基を含み、2個のXがエポキシ基を含むことが好ましく、3個のXがエポキシ基を含むことがより好ましく、4個のX全てがエポキシ基を含むことが反応性、樹脂との相溶性、耐熱性、硬化膜の安定性の観点から最も好ましい。
1価の有機基は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、エポキシ基、ビニルエーテル基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基などが挙げられる。置換基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、エポキシ基、ビニルエーテル基、ハロゲンなどが挙げられる。また、当該置換基の数に特段の制限はなく、置換可能な範囲であれば、複数の置換基を有していてもよい。また、2種以上の置換基を有していてもよい。また、隣接しない任意の−CH−は−O−または−CH=CH−などで置き換えられてもよい。
【0024】
式(1)で表される化合物として具体的には、例えば以下が挙げられる。中でも、硬化収縮抑制硬化の観点から、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、式(4)で表される化合物が好ましい。
【0025】
【化8】
【0026】
【化9】
【0027】
【化10】
【0028】
【化11】
【0029】
【化12】
【0030】
(B)式(1)で表される化合物は、例えば、国際公開第2004/024741号に記載された方法に従って合成することができる。式(2)で表される化合物は、例えば、国際公開第2012/111765号の合成例1に記載の方法により製造することができる。
【0031】
本発明の一実施形態であるエポキシ樹脂組成物における(B)式(1)で表される化合物の含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分総量(該エポキシ樹脂組成物から溶剤を除いた残りの成分)に対する合計量を基準として、5〜80質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。この範囲とすることで、耐熱性、透明性、耐黄変性、耐熱黄変性、耐光性、表面硬度、密着性、光カチオン硬化性に関して優れた特性を示す。
硬化収縮抑制、高密着性の観点から、エポキシ樹脂組成物中の、成分(A)と成分(B)との含有質量比が、1:0.2〜1:5であることが好ましく、1:0.3〜1:4であることがより好ましく、1:0.6〜1:0.95がさらに好ましい。
また、硬化収縮抑制、高密着性の観点から、エポキシ樹脂中の、成分(A)と成分(B)の組み合わせは、特に、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートと式(2)で表される化合物の組み合わせ、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートと式(3)で表される化合物の組み合わせ、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートと式(4)で表される化合物の組み合わせ、これらの組み合わせにリン含有エポキシ樹脂を添加した組み合わせである。
【0032】
(C)ナノシリカフィラー
本発明の一実施形態である樹脂組成物は、ナノシリカフィラーを含むことが好ましい。
一般に、ナノシリカフィラーを添加することで、熱伝導性および電気絶縁性を付与することができる。本発明者らは、驚くべきことに、エポキシ樹脂、式(1)で表される化合物及びナノシリカフィラーを組み合わせることにより、樹脂組成物の硬化物について、熱伝導性および電気絶縁性向上効果のみならず、金属酸化膜、AlやCuなどの金属、PETなどに対する密着性が向上することを見出した。さらに、エポキシ樹脂、式(1)で表される化合物及びナノシリカフィラーを組み合わせることにより、鉛筆硬度H以上のハードコート性を有し、しかも、反りが少ない硬化膜を実現できることを見出した。
【0033】
ナノシリカフィラーの平均粒径はナノオーダーであれば限定されないが、1〜100nmが好ましく、透明性の観点から、1〜40nmであることがより好ましく、更に好ましくは1〜20nmである。また、粒度分布は狭いほうが好ましい。
ナノシリカフィラーの形状は特に限定されないが、球状、不定形、りん片状等のいずれの形態であってもよい。密着性向上、透明性の観点から、球状が好ましい。なお、ナノシリカフィラーの形状が球状以外の場合、ナノシリカフィラーの平均粒径とは該フィラーの平均最大径を意味する。
また、ナノシリカフィラーはシランカップリング剤等で表面処理されていてもよい。
樹脂組成物において、(C)成分としてのナノシリカフィラーの含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分総量に対する質量%で、5質量%以上35質量%以下が好ましく、10質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0034】
本実施形態においては、エポキシ樹脂にナノシリカフィラーを添加して用いてもいいし、樹脂にナノシリカフィラーが分散されている市販品を用いてもよい。
このような市販品としては、例えば、エポキシ樹脂中に40質量%ナノシリカが分散された、EVONIK INDUSTRIES製ナノシリカ分散エポキシ樹脂[Nanopox(登録商標)シリーズ(C620、F400、E500、E600、E430)]、アクリレート樹脂中に50質量%ナノシリカが分散された、Nanocryl(登録商標)シリーズ(C130、C140、C145、C146、C150、C153、C155、C165、C350)等が挙げられる。
【0035】
硬化収縮抑制、高密着性の観点から、エポキシ樹脂組成物の全成分の合計質量に対する質量%で、成分(A)を10質量%以上80質量%以下、成分(B)を5質量%以上80質量%以下、成分(C)を5質量%以上35質量%以下含むことが好ましく、成分(A)を20質量%以上60質量%以下、成分(B)を20質量%以上40質量%以下、成分(C)を10質量%以上20質量%以下含むことがより好ましい。また、エポキシ樹脂組成物の固形分の合計質量に対する質量%で、成分(A)を10質量%以上80質量%以下、成分(B)を5質量%以上80質量%以下、成分(C)を5質量%以上35質量%以下含むことが好ましく、成分(A)を20質量%以上60質量%以下、成分(B)を20質量%以上40質量%以下、成分(C)を10質量%以上20質量%以下含むことがより好ましい。
なお、成分(C)の量は、樹脂にナノシリカフィラーが分散されている市販品を用いた場合、その内のナノシリカフィラーの量である。
また、エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、その他の樹脂、界面活性剤、酸化防止剤等、種々の成分を添加することができる。
【0036】
(D)その他の樹脂
本発明の一実施形態である樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、エポキシ樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)を含んでもよい。エポキシ樹脂以外の樹脂としては、架橋性官能基を含む樹脂が好ましい。
例えば、エポキシ樹脂の高速硬化、硬化収縮抑制等の観点からオキセタン樹脂、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルなどのビニルエーテル基を有する樹脂などを用いることができる。
市販品としては、東亞合成(株)製オキセタン樹脂[アロンオキセタン(商品名)OXT−221]、[アロンオキセタン(商品名)OXT−101]、[アロンオキセタン(商品名)OXT−212]、[アロンオキセタン(商品名)OXT−121]、シグマアルドリッチ(株)製ビニルエーテル[1,4−シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル]、日本カーバイド工業(株)製[シクロへキサンジメタノールジビニルエーテル(略称)CHDVE]、[トリエチレングリコールジビニルエーテル(略称)TEGDVE]、[1,4−ブタンジオールジビニルエーテル(略称)BDVE]、[ジエチレングリコールジビニルエーテル(略称)DEGDVE]などが挙げられる。
【0037】
(E)溶剤
本発明の一実施形態である樹脂組成物は、溶剤を含んでいてもよい。溶剤の例には、炭化水素系溶剤(ヘキサン、ベンゼン、トルエンなど)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)など)、ハロゲン化炭化水素系溶剤(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなど)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、カーボネート系溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、アミド系溶剤(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶剤(HCFC−141b、HCFC−225)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)系溶剤(炭素数2〜4、5および6以上のHFCs)、パーフルオロカーボン系溶剤(パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶剤(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶剤(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、芳香族系フッ素溶剤(α,α,α-トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン)、水が含まれる。これらを単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
用いられる溶剤の量は、例えば塗布性の観点から、エポキシ樹脂組成物全量中、(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物の含有量が20〜80質量%となる量であることが好ましく、30〜70質量%となる量であることがより好ましく、40〜60質量%となる量であることがさらに好ましい。
【0038】
(F)硬化剤
硬化剤としては、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、及びフェノール系硬化剤などがあるが、生産性の点からカチオン重合開始剤が好ましい。
【0039】
<カチオン重合開始剤>
カチオン重合開始剤としては、例えば紫外線などの活性エネルギー線によりカチオン種またはルイス酸を発生する活性エネルギー線重合開始剤、および熱によりカチオン種またはルイス酸を発生する熱重合開始剤などを挙げることができる。活性エネルギー線カチオン重合開始剤の中には、一部の芳香族オニウム塩のように熱によりカチオン種を発生するものがあり、熱カチオン重合開始剤として用いることもできる。
【0040】
活性エネルギー線カチオン重合開始剤の例は、アリールスルホニウム錯塩、ハロゲン含有錯イオンの芳香族スルホニウムまたはヨードニウム塩、並びにII族、V族およびVI族元素の芳香族オニウム塩などである。これらの塩のいくつかは商品として入手できる。活性エネルギー線カチオン重合開始剤の具体例としては、サンアプロ(株)製[CPI-110P(登録商標)]、[CPI-210K(登録商標)]、[CPI-210S(登録商標)]、[CPI-300PG(登録商標)]、[CPI-410S(登録商標)]、(株)ADEKA製[アデカオプトマー(登録商標)SP−130]、[アデカオプトマー(登録商標)SP−140]、[アデカオプトマー(登録商標)SP−150]、[アデカオプトマー(登録商標)SP−170]、[アデカオプトマー(登録商標)SP−171]、BASF製[IRGACURE(登録商標)250]、[IRGACURE(登録商標)270]、[IRGACURE(登録商標)290]などが挙げられる。
【0041】
熱カチオン重合開始剤としては、トリフル酸(Triflic acid)塩、三フッ化ホウ素等のようなカチオン系またはプロトン酸触媒などが用いられる。好ましい熱カチオン重合開始剤の例はトリフル酸塩であり、その具体例はトリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、およびトリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウムである。一方、活性エネルギー線カチオン重合開始剤としても用いられる芳香族オニウム塩のうち、熱によりカチオン種を発生するものがあり、これらも熱カチオン重合開始剤として用いることができる。
熱カチオン重合開始剤は、樹脂組成物中に均一に配合でき、触媒型で硬化できるため、低温、短時間での硬化が可能となり、溶剤安定性もよいため、好ましい。また、これらのカチオン重合開始剤の中で、芳香族オニウム塩が、取り扱い性および潜在性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩およびホスホニウム塩が取り扱い性および潜在性のバランスに優れるという点で好ましい。カチオン重合開始剤は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
熱カチオン重合剤の市販品としては、具体的には、株式会社ADEKA製:商品名「アデカオプトンCP−66」、「CP−77」、三新化学工業株式会社製:商品名「サンエイドSI-45L」、「SI−60L」、「SI−80L」、「SI−100L」、「SI−110L」、「SI−180L」、「SI-B2A」、「SI-B3」、「SI-B3A」、住友スリーエム株式会社製:商品名「FC−520」等を挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
<酸無水物>
酸無水物の具体例は、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物およびその誘導体を例示することができる。なかでも4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、及び、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物は室温で液体のため、取り扱いが容易であり好適である。
【0043】
<アミン>
硬化剤として用いられるアミンの具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレントリアミン、ビスシアノエチルアミン、およびテトラメチルグアニジン、ピリジン、ピペリジン、メセンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチル−シクロヘキサン、ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン、およびビス(4−アミノ−3−メチル−シクロヘキシル)メタン、ベンジルメチルアミン、α−メチル−ベンジルメチルアミン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、およびジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0044】
硬化剤として酸無水物あるいはアミンを用いる場合、その好ましい使用割合は、(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物に含まれているエポキシ1当量に対して酸無水物またはアミン0.7〜1.2当量であり、より好ましくは0.9〜1.1当量である。硬化剤の配合量が前記範囲内であると、硬化反応が速やかに進行し、また、得られる硬化物に着色が生じず、好ましい。
【0045】
(G)界面活性剤
界面活性剤は、基材への濡れ性、レベリング性又は塗布性を向上させるために使用することもでき、エポキシ樹脂組成物100質量%に対し、通常0.01〜1質量%添加して用いられ、好ましくは0.1〜0.3質量%である。界面活性剤は、1種の化合物であっても、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0046】
界面活性剤としては、ポリフローNo.45、ポリフローKL−245、ポリフローNo.75、ポリフローNo.90、ポリフローNo.95(共栄社化学(株))、ディスパーベイク(Disperbyk)161、ディスパーベイク162、ディスパーベイク163、ディスパーベイク164、ディスパーベイク166、ディスパーベイク170、ディスパーベイク180、ディスパーベイク181、ディスパーベイク182、BYK300、BYK306、BYK310、BYK320、BYK330、BYK342、BYK346、BYK−UV3500、BYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン(株))、KP−341、KP−358、KP−368、KF−96−50CS、KF−50−100CS(信越化学工業(株))、サーフロンSC−101、サーフロンKH−40(AGCセイミケミカル(株))、フタージェント222F、フタージェント251、FTX−218((株)ネオス)、EFTOP EF−351、EFTOP EF−352、EFTOP EF−601、EFTOP EF−801、EFTOP EF−802(三菱マテリアル(株))、メガファック(登録商標)F−410、メガファック(登録商標)F−430、メガファック(登録商標)F−444、メガファック(登録商標)F−472SF、メガファック(登録商標)F−475、メガファック(登録商標)F−477、メガファック(登録商標)F−552、メガファック(登録商標)F−553、メガファックF−554、メガファックF−555、メガファック(登録商標)F−556、メガファック(登録商標)F−558、メガファック(登録商標)F−563、メガファック(登録商標)R−94、メガファック(登録商標)RS−75、メガファック(登録商標)RS−72−K(DIC(株))、TEGO Rad 2200N、TEGO Rad 2250N(エボニック デグサ ジャパン(株))、サイラプレーン(登録商標)FM−0511(JNC株式会社)などが挙げられる。
【0047】
(H)酸化防止剤
本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤を含有することにより、耐熱性および耐候性の向上が期待できる。また、酸化防止剤を含有することにより、加熱時の酸化劣化を防止し着色を抑えることができる。エポキシ樹脂組成物における酸化防止剤の配合割合は、エポキシ樹脂組成物全量を基準として0.1質量%〜2.0質量%であることが好ましい。
【0048】
酸化防止剤としては、フェノール系およびリン系の酸化防止剤が挙げられ、例えば、モノフェノール類、ビスフェノール類、高分子型フェノール類、ホスファイト類およびオキサホスファフェナントレンオキサイド類が挙げられる。
【0049】
モノフェノール類としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノールおよびステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。
【0050】
ビスフェノール類としては、例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)および3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0051】
高分子型フェノール類としては、例えば、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジンー2,4,6−(1H,3H,5H)トリオンおよびトコフェノールなどが挙げられる。
【0052】
ホスファイト類としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトおよびビス[2−t−ブチル−6−メチル−4−{2−(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイトなどが挙げられる。
【0053】
オキサホスファフェナントレンオキサイド類としては、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよび10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどが挙げられる。
【0054】
市販の酸化防止剤としては、例えば、Irgafos 168、Irgafos XP40、Irgafos XP60、Irganox 1010、Irganox 1035、Irganox 1076、Irganox 1135、Irganox 1520L(BASFジャパン(株))、アデカスタブ(登録商標)AO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−75、AO−80、AO−330、((株)ADEKA)などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0055】
(I)光増感剤
添加剤として、光増感剤を用いることもできる。
光増感剤としては、芳香族ニトロ化合物、クマリン類(7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン、7−ヒドロキシ4−メチルクマリン、ケトクマリン、カルボニルビスクマリン)、芳香族2−ヒドロキシケトン、およびアミノ置換された、芳香族2−ヒドロキシケトン類(2−ヒドロキシベンゾフェノン、モノ−もしくはジ−p−(ジメチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾフェノン)、アセトフェノン、アントラキノン、キサントン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンズアントロン、チアゾリン類(2−ベンゾイルメチレン−3−メチル−β−ナフトチアゾリン、2−(β−ナフトイルメチレン)−3−メチルベンゾチアゾリン、2−(α−ナフトイルメチレン)−3−メチルベンゾチアゾリン、2−(4−ビフェノイルメチレン)−3−メチルベンゾチアゾリン、2−(β−ナフトイルメチレン)−3−メチル−β−ナフトチアゾリン、2−(4−ビフェノイルメチレン)−3−メチル−β−ナフトチアゾリン、2−(p−フルオロベンゾイルメチレン)−3−メチル−β−ナフトチアゾリン)、オキサゾリン(2−ベンゾイルメチレン−3−メチル−β−ナフトオキサゾリン、2−(β−ナフトイルメチレン)−3−メチルベンゾオキサゾリン、2−(α−ナフトイルメチレン)−3−メチルベンゾオキサゾリン、2−(4−ビフェノイルメチレン)−3−メチルベンゾオキサゾリン、2−(β−ナフトイルメチレン)−3−メチル−β−ナフトオキサゾリン、2−(4−ビフェノイルメチレン)−3−メチル−β−ナフトオキサゾリン、2−(p−フルオロベンゾイルメチレン)−3−メチル−β−ナフトオキサゾリン)、ベンゾチアゾール、ニトロアニリン(m−もしくはp−ニトロアニリン、2,4,6−トリニトロアニリン)またはニトロアセナフテン(5−ニトロアセナフテン)、(2−[(m−ヒドロキシ−p−メトキシ)スチリル]ベンゾチアゾール、ベンゾインアルキルエーテル、N−アルキル化フタロン、アセトフェノンケタール(2,2−ジメトキシフェニルエタノン)、ナフタレン、2−ナフタレンメタノール、2−ナフタレンカルボン酸、アントラセン、9−アントラセンメタノール、9−アントラセンカルボン酸、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン、2−メトキシアントラセン、1,5−ジメトキシアントラセン、1,8−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、6−クロロアントラセン、1,5−ジクロロアントラセン、5,12−ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、クリセン、ピレン、ベンゾピラン、アゾインドリジン、フロクマリン、フェノチアジン、ベンゾ[c]フェノチアジン、7−H−ベンゾ[c]フェノチアジン、トリフェニレン、1,3−ジシアノベンゼン、フェニル−3−シアノベンゾエート等がある。
好ましくは、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、などである。
市販品として、関東化学(株)製光増感剤[9,10−ジフェニルアントラセン(商品名)]、川崎化成工業(株)製光カチオン増感剤[アントラキュアー(登録商標)UVS−1101]、[アントラキュアー(登録商標)UVS−1331]、川崎化成工業(株)製光ラジカル増感剤[アントラキュアー(登録商標)UVS−581]などが挙げられる。
【0056】
(J)硬化促進剤
硬化促進剤は、エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤の反応を促進し、硬化膜の耐熱性、耐薬品性、硬度を向上するために使用することができる。硬化促進剤は、樹脂組成物の固形分100質量%(該樹脂組成物から溶剤を除いた残りの成分)に対し、通常0.01〜5質量%添加して用いられる。硬化促進剤は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用してもよい。
【0057】
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤の反応を促進する機能のあるものであればいずれも使用可能であり、イミダゾール系硬化促進剤、ホスフィン系硬化促進剤、アンモニウム系硬化促進剤などがその例として挙げられる。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO変性アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル環トリ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ/トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(アロニックスM305、M450;東亞合成(株))、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(アロニックスM402;東亞合成(株))、ジグリセリンEO変性アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0058】
(K)カップリング剤
カップリング剤は、樹脂組成物から形成される硬化膜と基材との密着性を向上させるために使用することもでき、樹脂組成物の固形分総量に対し、通常0.01〜10質量%添加して用いることができる。
【0059】
カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系及びチタネート系の化合物を用いることができる。具体的には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのシラン系;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウム系;並びにテトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなどのチタネート系を挙げることができる。これらのなかでも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが、密着性を向上させる効果が大きいため好ましい。市販品のカップリング剤としては、サイラエースS510(JNC(株))、サイラエースS530(JNC(株))などが挙げられる。
【0060】
[ワニス調整方法]
本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は溶剤を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。(A)エポキシ樹脂、(B)式(1)で表される化合物を(E)溶剤に溶解させることによりワニスとすることができる。成分(B)の濃度が高い場合には、塗布性の観点から、溶剤を用いて、ワニスとすることが好ましい。
具体的には、例えば、硬化剤以外の成分、成分(A)〜(D)、成分(G)〜(J)成分を混合し、70℃以下で加熱攪拌・溶解し、次に(F)硬化剤としてカチオン重合開始剤を加え溶解し、ワニスを調製することができる。
ワニスはスピンコーティング等の汎用の塗布方法または種々の印刷法を適用可能であり、ワニスをコーティング剤として用いることにより、安価で簡便に硬化物を製造することができる。ワニスの塗工方法、硬化方法については、以下2.積層体の項で説明する。
【0061】
2.積層体
本発明の第二の実施形態は、基材と、該基材上に形成された、少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化膜と、を含む積層体に関する。
エポキシ樹脂組成物が含む(A)エポキシ樹脂、(B)式(1)で表される化合物は、第一の実施形態で説明したエポキシ樹脂、式(1)で表される化合物と同様である。ここで、エポキシ樹脂組成物の各構成成分等については、上記に記載の本発明の第一の実施形態のエポキシ樹脂組成物に関する説明が適用できる。さらに、硬化収縮抑制、高密着性の観点から、エポキシ樹脂組成物中の、成分(A)と成分(B)との含有質量比が、1.0:0.3〜1.0:4.0であることがより好ましく、1.0:0.6〜1.0:0.95が特に好ましい。エポキシ樹脂組成物の硬化方法は、後述する[硬化工程]の項の説明が適用できる。また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は蛍光体を含まない。
【0062】
<基材>
基材は特に限定されず、積層体の用途に応じて選べばよい。例えば、石英基板、バリウムホウケイ酸ガラスや、アルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、フッ化カルシウム基板、ITO(酸化インジウム・スズ)などの金属酸化物、セラミック基板、ポリカーボネート(PC)フィルム、シリコーン系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、アクリルポリマーフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリイミド(PI)フィルム、液晶ポリマーフィルム等のプラスチックフィルム、炭素繊維フィルム、シリコンウエハ等の半導体基板、SUS基板、銅基板等の金属基板等を用いることができる。
密着性の観点から、金属酸化物、プラスチックフィルムおよび金属基板からなる群より選ばれる1種が好ましい。
【0063】
本発明の第二の実施形態に係る積層体の製造方法は、基材上に樹脂組成物を塗工する塗工工程、基材上に形成された樹脂組成物層を硬化する硬化工程とを備える。
【0064】
[塗工工程]
エポキシ樹脂組成物を基材上に塗布する方法は制限されず、基材上にエポキシ樹脂組成物のワニスを滴下しワイヤーバーにより塗布する方法や、グラビアコーター、リップコーター、スリットダイ、インクジェット法により塗布する方法等が挙げられる。一定量のワニスをムラなく塗布することができる点で、基材上にワニスを滴下しワイヤーバーにより塗布する方法や、グラビアコーター、スリットダイにより塗布することがより好ましい。
塗布量は、目的に応じて、適宜設定すればよい。
取扱性とコストの観点から、ワニスの塗布は常温で行うことが好ましい。そのため、ワニスの回転粘度は、25℃において、1〜3000mPa・secであることが好ましく、1〜500mPa・secであることがより好ましい。
【0065】
[硬化工程]
(A)エポキシ樹脂、(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物は加熱及び活性光線の照射の少なくとも一方により硬化することができ、好ましくは、紫外線により硬化する。
活性光線により硬化する場合、従来公知の方法を用いることができ、上記活性光線は、紫外線を用いることができる。紫外線を照射するための光源としては、例えば、メタルハライドタイプ、高圧水銀灯ランプ、及びUV-LEDランプ等が挙げられる。
硬化工程には市販の装置を用いることができる。例えば、紫外線露光装置[Heraeus(株)製 LH10−10Q(商品名)、 H bulb(商品名)]、LED紫外線露光装置[あすみ技研工業(株)製 ASM1503NM−UV−LED(商品名)]が挙げられる。塗工工程と硬化工程を連続して行えるように装置を設計してもよい。
活性光線により硬化する場合、硬化工程の条件は、エポキシ樹脂組成物の厚さ等に応じ、適宜設定すればよい。
具体的には、例えば、基材上に厚さ4〜5μmに塗布形成された樹脂組成物層に、紫外線露光装置[Heraeus(株)製 LH10−10Q(商品名)、 H bulb(商品名)]を用い、波長254nm、365nmの紫外線を、積算露光量0.5〜1.5J/cm2照射する。
なお、照射は通常塗布面側から行うが、紫外線が透過可能な基材を用いることにより、紫外線照射を塗布面の裏面側より行うこともできる。
熱硬化の場合、加熱方式は特に限定されるものではなく、例えば、熱循環方式、熱風加熱方式、誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る従来公知の方式を採用した加熱手段を用いることができる。より好ましく用いられる方法としては、熱風循環による硬化炉、もしくは、赤外線による硬化炉を採用することができる。あるいは熱風循環硬化炉と赤外線による硬化炉を併用したり、熱風循環硬化炉に赤外線ヒーターを組み込み同時に加熱を行ってもよい。また光硬化炉と熱硬化炉を併用したり、加熱及び活性光線の照射を同時に行ってもよい。
熱硬化する場合の硬化条件は、エポキシ樹脂組成物の厚さ等に応じ、適宜設定すればよい。
【0066】
3.硬化物
本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂組成物の硬化物、本発明の一実施形態に係る積層体は、硬化時の硬化収縮が抑制され、低そり性かつ高密着性である。さらには、低反り性であり、高硬度と高密着性を両立することが実現できる。また、高い透明性を有することもできる。
本発明の第二の実施形態に係る積層体は、少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物について、評価方法1による密着性評価において、3種の基材に対する密着性が全て4B以上という高密着性を有する。密着性は全て5B以上であることがより好ましい。
また、少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物について、評価方法2において、硬化膜付基材の反り高さが1mm未満という低そり性を有していることが好ましい。
さらに、評価方法3による硬度評価において、鉛筆硬度がH以上の高硬度であることが好ましい。
また、本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂組成物の硬化物、本発明の一実施形態に係る積層体を透明性が要求される用途に用いる場合、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。
【0067】
[評価方法1]
厚さ50μmの金属酸化物、金属基板、及びプラスチックフィルムの3種の基材上に、該少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物よりなる4〜5μmの厚さの硬化膜をそれぞれ形成する。
形成された硬化膜について、ASTM D3359(Method B)に準拠し、すきま間隔1mm、25個(5×5)のます目で付着性クロスカット法を用いて密着性試験を行い、下記の基準で評価する。
(評価基準)
5B:剥離面積0%
4B:剥離面積5%未満
3B:剥離面積5%以上15%未満
2B:剥離面積15%以上35%未満
1B:剥離面積35%以上65%未満
0B:剥離面積65%以上
【0068】
[評価方法2]
50μm厚の基材上に、該少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物よりなる4〜5μmの厚さの硬化膜を形成し、硬化膜付基材を作製する。
該硬化膜付基材を15cm×15cmにカットし、25℃、50%RHの雰囲気下に硬化膜を上側にして24時間以上静置後、水平な台上で浮き上がった硬化膜付基材の4隅のそれぞれの高さを目視で測定する。その高さの合計値を、硬化膜付基材の反り高さとする。
下向き(Uの字)にカールした場合を正の値、上向き(∩の字)にカールした場合は負の値とする。
【0069】
[評価方法3]
50μm厚PET基材上に、該少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物よりなる4〜5μmの厚さの硬化膜を形成する。
形成された硬化膜について、JIS K 5600−5−4(1999)に準じ、鉛筆引っかき試験機を用いて鉛筆硬度を測定する。使用する鉛筆を#1000のサンドペーパーで研ぎ、測定する硬化膜付き50μm厚PET上に45度の角度で、上から750gの荷重を掛け7mm程度引っかき、1回引っかくごとに鉛筆の芯の先端を研いで、同一の芯の硬さの鉛筆で5回ずつ試験を繰り返し、鉛筆硬度を下記の基準で評価する。
(評価基準)
5回の試験で3回以上無傷で合格。
5回の試験で無傷が2回以下では不合格。
合格した最も硬い鉛筆硬度を硬化膜の鉛筆硬度とする。
【0070】
硬化物の透明性は、50μm厚PET基材上に、該少なくとも(A)エポキシ樹脂及び(B)式(1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂組成物よりなる4〜5μmの厚さの硬化膜を形成し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製 NDH 5000)を用いて、硬化膜付PET基材の全光線透過率を測定すればよい。
【0071】
<用途>
本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂組成物の硬化物、本発明の一実施形態に係る積層体は、その優れた低反り性、密着性から、各種電子部品の接着層として好適に用いられる。また、高い硬度を有するので、各種電子部品の最表面でハードコート層としても好適に用いられる。また、電子回路を有するプリント配線板の配線部の上に使用される絶縁材料にも好適に用いられる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
以下、実験例で用いた化合物について説明する。
<成分(A):エポキシ樹脂>
・A1:(株)ダイセル製エポキシ樹脂[セロキサイド(登録商標)CEL2021P]
・A2:(株)ダイセル製エポキシ樹脂[セロキサイド(登録商標)CEL8000]
・A3:(株)ADEKA[アデカレジン(登録商標)EP−49−10P]
(リン含有エポキシ樹脂含有量 40質量%)
・A4:(株)ADEKA[アデカレジン(登録商標)EP−49−10P2]
・AB’1:合成例4による脂環式エポキシ含有無定形シルセスキオキサン
(リン含有エポキシ樹脂含有量 40〜50質量%)
<成分(B):式(1)で表される化合物>
・B1:式(2)で表される化合物
・B2:式(3)で表される化合物
・B3:式(4)で表される化合物
【0074】
【化13】
【0075】
【化14】
【0076】
【化15】
【0077】
<成分(C):ナノシリカフィラー>
〔ナノシリカ分散エポキシ樹脂〕
・C1:EVONIK INDUSTRIES製ナノシリカ分散エポキシ樹脂[Nanopox(登録商標)C620]
〔オルガノシリカゾル(SiO 40質量%)〕
・C2:日産化学(株)製オルガノシリカゾル MEK−ST
<成分(D):その他の樹脂>
・D1:東亞合成(株)製オキセタン樹脂[アロンオキセタン(登録商標)OXT−221]
・D2:シグマアルドリッチ(株)製1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル
成分(E):溶剤
・E1:メチルイソブチルケトン:和光純薬工業(株)製[4−メチル−2−ペンタノン(商品名)]
<成分(F):硬化剤>
・F1:光カチオン重合開始剤:サンアプロ(株)製[CPI-110P(商品名)]
<成分(G):界面活性剤>
・G1:DIC(株)製界面活性剤[メガファック(登録商標)F563]
・G2:JNC(株)製反応性シリコーン[サイラプレーン(登録商標)FM-0511]
<成分(H):酸化防止剤>
・H1:(株)ADEKA製酸化防止剤[アデカスタブ(商品名)AO-60]
<(I)成分:光増感剤>
・I1:関東化学(株)製光増感剤[9,10−ジフェニルアントラセン(商品名)]
・I2:川崎化成工業(株)製光カチオン増感剤[アントラキュアー(登録商標)UVS−1101]
【0078】
<合成例1:4官能脂環式エポキシ含有ダブルデッカー型シルセスキオキサン(B1)の合成>
以下の方法により、化合物B1を製造した。
国際公開第2004/024741号に開示されている方法により合成した式(α)で表される化合物(以下、化合物(α)と表記する) 200g、脱水酢酸エチル(関東化学(株)製)306gを反応容器に仕込み、75℃に昇温し撹拌した。そこにPT−VTSC−3.0X(ユミコアジャパン製)0.13mLを添加し、セロキサイド2000(ダイセル化学(株)製)96gを滴下した。その後反応液を還流させ、FT−IRで2140cm−1のピークが消失したことを確認後、加熱を停止し室温まで冷却した。その後、酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)を40gと活性炭素(和光純薬工業(株)製)を15g加え一晩撹拌し、セライトを用いて活性炭素をろ過し除去した。ろ液を固形分濃度80%程度になるまでエバポレーターで濃縮し、溶液を撹拌しながらメタノール(和光純薬工業(株)製)を750g加え、白色沈殿を得た。得られた沈殿をろ過、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥し255gのB1を得た。
【0079】
【化16】
【0080】
<合成例2:4官能フェノキシ含有ダブルデッカー型シルセスキオキサン(B2)の合成>
以下の方法により、化合物B2を製造した。
国際公開第2004/024741号に開示されている方法により合成した化合物(α) 32g、トルエン(和光純薬工業(株)製)32gを反応容器に仕込み、80℃に昇温し撹拌した。そこにPT−VTSC−3.0X(ユミコアジャパン製)0.04mLを添加し、2−アリルフェニルグリシジルエーテル11gを滴下した。2−アリルフェニルグリシジルエーテルは、国際公開第2013/058046号やJ.Am.Chem.Soc.,1983,105,586−593、Tetrahedron, 2007 ,63,11341 − 11348等に開示されている方法により取得することができる。その後反応液を還流させ、FT−IRで2140cm−1のピークが消失したことを確認後、加熱を停止し室温まで冷却した。活性炭素(和光純薬工業(株)製)を5g加え一晩撹拌し、ハイフロスーパーセル(和光純薬工業(株)製)を用いて活性炭素をろ過し除去した。ろ液をエバポレーターで濃縮し、酢酸エチル/ヘキサン=1/8vol%で再沈殿させ、さらに沈殿をヘキサンで4回洗浄し、減圧乾燥し38gのB2を得た。
【0081】
<合成例3:4官能ジグリシジルイソシアヌレート含有ダブルデッカー型シルセスキオキサン(B3)の合成>
以下の方法により、化合物B3を製造した。
国際公開第2004/024741号に開示されている方法により合成した化合物(α) 32g、トルエン(和光純薬工業(株)製)32gを反応容器に仕込み、80℃に昇温し撹拌した。そこにPT−VTSC−3.0X(ユミコアジャパン製)0.04mLを添加し、MA−DGIC(1−アリル−3,5-ジグリシジルイソシアヌレート(四国化成(株)製))33gを加えた。その後反応液を還流させ、FT−IRで2140cm−1のピークが消失したことを確認後、加熱を停止し室温まで冷却した。反応液をエバポレーターで濃縮し、アセトン(和光純薬工業(株)製)130g、活性炭素(和光純薬工業(株)製)8gを加え、室温で3時間撹拌した。ハイフロスーパーセル(和光純薬工業(株)製)を用いて活性炭素をろ過し除去した。ろ液にメタノール(和光純薬工業(株)製)を500g加え、粘性の下層をさらにメタノールで洗浄し150℃で2時間減圧乾燥し、48gのB3を得た。
【0082】
<合成例4:脂環式エポキシ含有無定形シルセスキオキサン(AB’1)の合成>
特開2005−15581号公報に記載の方法に準拠して、樹脂AB’1を合成した。
2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン(JNC株式会社製 商品名:サイラエースS530)100部、メチルイソブチルケトン(東京化成工業株式会社製)100部を反応容器に仕込み、80℃に昇温した。そこに、0.1質量%水酸化カリウム(和光純薬株式会社製 特級)水溶液21.6部を30分間かけて滴下した。滴下終了後、生成するメタノールをディーンスターク装置にて除去しながら80℃にて5時間撹拌した。反応後、飽和塩化ナトリウム水溶液で水層が中性になるまで水洗を繰り返した。減圧下で溶媒を留去し、脂環式エポキシ含有無定形シルセスキオキサン70部を得た。得られた脂環式エポキシ含有無定形シルセスキオキサンのエポキシ当量は205g/eq、重量平均分子量は5500であった。
【0083】
(ワニスの作製)
実験例1〜19として、表1又は表2に示した組成となるように、ワニスを調製した。
褐色スクリュー管に成分(A)〜(E)および成分(G)〜(I)を入れ、約70℃に保持しながら加熱攪拌・溶解し、次に硬化剤として成分F(光カチオン重合開始剤)を加え溶解し、ワニスとした。
表中、成分(A)〜(E)については、成分(A)〜(E)の合計を100質量%としたときの質量%の値であり、成分(F)〜(H)の値は、成分(A)〜(E)の合計を100質量%としたときの質量%の値である。なお、成分(C)の含有量はナノシリカフィラーとエポキシ樹脂との合計量を示し、ナノシリカフィラー自体の含有量は表に示された成分(C)の含有量の40質量%である。
【0084】
(硬化膜の作製1:装置1)
各種基材上にワニスをワイヤーバーコーターで4〜5μmの厚さに塗工し、溶剤を含む場合には、オーブンにて80℃で1分間乾燥させた後、紫外線露光装置[Heraeus(株)製 LH10−10Q(商品名)、H bulb(商品名)]で紫外線(波長:254nm、365nm)を照射し、硬化膜を得た。得られた硬化膜の厚みを表1及び2に示す。表中、UV硬化(J/cm2)は紫外線積算露光量である。
【0085】
(硬化膜の作製2:装置2)
各種基板上にワニスをワイヤーバーコーターで4〜5μmの厚さに塗工し、LED紫外線露光装置[あすみ技研工業(株)製 ASM1503NM−UV−LED(商品名)]で紫外線(波長:385nm)を照射し、硬化膜を得た。得られた硬化膜の厚みを表1及び2に示す。表中、UV硬化(J/cm2)は紫外線積算露光量である。
【0086】
<密着性試験:密着性評価>
調製したワニスを、ITO膜付PET基材のITO膜上(シグマアルドリッチ製)、3mm厚アルミニウム基材(アズワン(株)製)上、3mm厚銅基材(アズワン(株)製)上、50μm厚PET基材(東レ(株)製 ルミラー(商標登録))上にそれぞれ塗布し、上述の同様の条件にて4〜5μm厚の硬化膜を作製した。ASTM D3359(Method B)に準拠し、すきま間隔1mm、25個のます目で付着性クロスカット法を用いて密着性試験を行い、下記の基準で評価した。評価結果を表1及び2に示す。表中、ITOはITO膜付きPET基材を、Alはアルミニウム基材を、Cuは銅基材を、PETはPET基材を示す。
5B:剥離面積0%
4B:剥離面積5%未満
3B:剥離面積5%以上15%未満
2B:剥離面積15%以上35%未満
1B:剥離面積35%以上65%未満
0B:剥離面積65%以上
【0087】
<カール試験:硬化収縮評価>
50μm厚PET基材上に、上述の硬化膜の作製方法により硬化膜付き50μm厚PETを作製した。
硬化膜付き50μm厚PETを15cm×15cmにカットし、25℃、50%RHの雰囲気下に硬化膜を上にして24時間以上静置後、水平な台上で浮き上がった硬化膜の4隅のそれぞれの高さを測定し、それらの合計を測定値(単位:mm)とした。このとき基材のカールはいずれも0mmであった。
表中、正の値は下向き(Uの字)にカール、負の値は上向き(∩の字)にカールという意味である。評価結果を表1及び2に示す。
【0088】
<硬度評価:鉛筆硬度試験>
50μm厚PET基材上に、上述の硬化膜の作製方法により硬化膜付き50μm厚PETを作製した。
JIS K 5600−5−4(1999)に準じ、鉛筆引っかき試験機を用いて、硬化膜付き50μm厚PET上の硬化膜の鉛筆硬度を測定した。使用する鉛筆を#1000のサンドペーパーで研ぎ、測定する硬化膜付き50μm厚PET上に45度の角度で、上から750gの荷重を掛け7mm程度引っかき、1回引っかくごとに鉛筆の芯の先端を研いで、同一の芯の硬さの鉛筆で5回ずつ試験を繰り返し、鉛筆硬度を下記の基準で評価した。評価結果を表1及び2に示す。
[評価基準]
5回の試験で3回以上無傷で合格。
5回の試験で無傷が2回以下では不合格。
合格した最も硬い鉛筆硬度を硬化膜の鉛筆硬度とした。
【0089】
<全光線透過率>
硬化膜付き50μm厚PETをヘーズメーター(日本電色工業(株)製 NDH 5000)を用いて全光線透過率を測定した(単位:%)。評価結果を表1及び2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
実施例1〜4の結果から、成分(A)〜(C)の全てを含むエポキシ樹脂組成物からは、低反り性、高硬度と金属酸化膜、金属膜、プラスチックフィルムのいずれのフィルムに対しても高密着性を有する硬化膜が得られることが示された。
比較例1〜3、13からは、基材との密着性が劣ることが示された。また、比較例6〜11の結果から、成分(A)又は(B)のみを含む場合、成分(A)と(C)のみを含む場合は、硬化の際収縮し、硬化物に反りが生じることが示された。また、実施例3と比較例12との比較から、密着性が低い硬化物となることが示された。比較例10の結果から、樹脂組成物が成分(C)を含み、かつ成分(A)及び(B)の両方を含まない場合、密着性が低く、大きな反りが生じることが示された。また、比較例11からは、成分(A)と(C)のみを含有し、成分(B)を含有しない場合、密着性が低く、大きな反りが生じることが示された。
比較例14〜16からは、成分(B)と(C)のみを含有し、成分(A)を含有しない場合、ゲル化してしまい、評価不可能であったことが示された。
比較例17からは、エポキシ基を有するシルセスキオキサンを含有していても、式(1)で表される化合物を含まない場合、密着性が非常に低く、また、PETを基材とした場合、大きな反りが生じることが示された。
【0093】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本明細書に記載された各実施形態は、その趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。