特許第6885487号(P6885487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885487リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6885487
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20210603BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210603BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20210603BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20210603BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/136
   H01M10/0525
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-60219(P2020-60219)
(22)【出願日】2020年3月30日
【審査請求日】2020年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】中野 豊将
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−167763(JP,A)
【文献】 特開2017−142997(JP,A)
【文献】 特表2018−530898(JP,A)
【文献】 特表2020−508541(JP,A)
【文献】 特開2019−169283(JP,A)
【文献】 特開2011−076820(JP,A)
【文献】 特開2012−248378(JP,A)
【文献】 特開2016−189321(JP,A)
【文献】 特開2019−019014(JP,A)
【文献】 特開2012−216409(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2017−0084472(KR,A)
【文献】 WANG, J.-X. et al.,"Synthesis and performance of LiVPO4F/C-based cathode material for lithium ion battery",Transactions of Nonferrous Metals Society of China,2013年,Vol.23,pp.1718-1722
【文献】 WU, X. et al.,"Sol-gel synthesis of Li2CoPO4F/C nanocomposite as a high power cathode material for lithium ion batteries",Journal of Power Sources,2012年 8月 8日,Vol.220,pp.122-129
【文献】 NOH, M. et al.,"Amorphous Carbon-Coated Tin Anode Material for Lithium Secondary Battery",Chemistry of Materials,2005年 3月23日,Vol.17,pp.1926-1929
【文献】 SHARMA, N. et al.,"Carbon-Coated Nanophase CaMoO4 as Anode Material for Li Ion Batteries",Chemistry of Materials,2003年12月25日,Vol.16,pp.504-512
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00〜 4/62
H01M 10/00〜10/0587
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含み、ラマン散乱により測定された2200〜3400cm−1に存在する前記炭素のピークが、
2200〜2380cm−1にピークトップが存在するピーク1と
2400〜2550cm−1にピークトップが存在するピーク2と
2600〜2750cm−1にピークトップが存在するピーク3と
2850〜2950cm−1にピークトップが存在するピーク4と
3100〜3250cm−1にピークトップが存在するピーク5との
5種類のフォークト関数からなるピークにピーク分離されたとき、前記5種類のフォークト関数からなるピークのうち前記ピーク3及び前記ピーク4をガウス関数とローレンツ関数に分離されたときのガウス関数の割合の平均が90%以上100%未満であり、
前記炭素を含む炭素質被膜に被覆されたオリビン構造の一次粒子もしくは、その造粒体からなる活物質を含み、炭素量が0.5質量%以上7質量%以下であり、
X線回折により解析した結晶子径が、50nm以上250nm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記ピーク分離において、測定された炭素のラマン散乱のピークとの決定係数が0.998以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記ピーク分離において、前記ピーク4のピークトップの強度が最も強度が大きく、かつ、前記ピーク3の半値幅が150cm−1以上330cm−1以下であり、前記ピーク4の半値幅が280cm−1以上360cm−1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層が、請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
正極と、負極と、非水電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケル水素電池よりもエネルギー密度、出力密度が高く、スマートフォンなどの小型電子機器をはじめ、家庭用バックアップ電源、電動工具など、様々な用途に利用されている。また、太陽光発電、風力発電など、再生可能エネルギー貯蔵用として、大容量のリチウムイオン二次電池の実用化が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1では、活物質粒子へのリチウムイオンの脱挿入を阻害することを抑えながらも電子伝導性を向上させたリチウムイオン電池用正極材料を得ることを目的として、正極活物質粒子と、グラフェンを含有するマトリックスとが複合化した複合体粒子状のリチウムイオン電池用正極材料であって、前記正極活物質粒子が前記マトリックス中に分散して分布するとともに、エックス線光電子測定によって測定される材料表面における炭素元素割合(%)が5%以上50%以下であり、材料全体における炭素元素割合(%)が2%以上20%以下であり、かつ前記材料表面における炭素元素割合(%)を材料全体における炭素元素割合(%)で除した値が、1.5以上7以下である、正極活物質−グラフェン複合体粒子を開示している。
【0004】
特許文献2では、重量当たり、または体積当たりの容量が大きい蓄電装置を得ることを目的として、正極活物質となる原料を混合して混合物を作製し、第1の焼成をした後、前記混合物を粉砕し、 前記粉砕された混合物に酸化グラフェンを添加して第2の焼成を行うことで、反応生成物を形成するとともに前記酸化グラフェンを還元し、前記反応生成物の表面にグラフェンを被覆することを特徴とする蓄電装置用正極活物質の作製方法を開示している。
【0005】
更に特許文献3では、表面に炭素質被膜が形成された電極活物質を用いた電極材料であって、低温環境下で高速放電を行った際の電圧低下を抑制し得る電極材料を得ることを目的として、オリビン型結晶構造を有する電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が形成されてなる粒子状の電極材料であって、該電極材料の単粒子の−10℃での35C放電容量と、該電極材料の単粒子の−10℃での1C放電容量との放電容量比の平均が0.50以上であり、該炭素質被膜のグラフェン層に起因する(002)面のXRD(CuKα線源)ピークが2θ=25.7°以下に現れる電極材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6237617号公報
【特許文献2】特開2012−099467号公報
【特許文献3】特許5743011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オリビン系正極材料では、一般にオリビン型リン酸塩が正極活物質として用いれ、活物質の一次粒子及び造粒体の最表層部に、炭素質被膜を備える構造が多く、炭素質被膜は、内部からのリチウムイオンの脱挿入、電子伝導に重要な役割を果たす。
ここで、特許文献1及び2のように、炭素源をそのまま焼成した場合、炭素質被膜の炭素が結晶性の高いグラフェン構造をとり、リチウムイオンの脱挿入を阻害しやすかった。さらに結晶性が高い場合、充放電時のオリビン型リン酸塩である正極活物質の体積変化に対して炭素の柔軟性が低くなり、炭素質被膜が正極活物質から剥離する要因となる。特許文献3ではグラフェンの結晶性を屈曲率で規定しているが、X線回折(X‐ray diffraction、XRD)で検出できるほど結晶性が高く、さらなる改良が必要であった。また、リチウムイオンの脱挿入が容易なグラフェン化が進んでいない領域では、電子伝導性が低く、電気抵抗が高くなり易かった。さらに、その領域では、炭素質被膜が柔らかいため、正極形成用のペースト作製時に剪断力により、炭素質被膜が正極活物質からはがれる要因となった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びに、該電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、リチウムイオン二次電池用正極材料が含む炭素のラマン散乱測定で得られる特定ピークのガウス関数の割合を制御することで、炭素の柔らかさを調整することができ、もって、リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性を向上し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供する。
[1]炭素を含み、ラマン散乱により測定された2200〜3400cm−1に存在する前記炭素のピークが、
2200〜2380cm−1にピークトップが存在するピーク1と
2400〜2550cm−1にピークトップが存在するピーク2と
2600〜2750cm−1にピークトップが存在するピーク3と
2850〜2950cm−1にピークトップが存在するピーク4と
3100〜3250cm−1にピークトップが存在するピーク5との
5種類のフォークト関数からなるピークによりピーク分離されたとき、前記ピーク3及び前記ピーク4におけるガウス関数の割合の平均が90%以上100%未満であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
[2] 前記ピーク分離において、測定された炭素のラマン散乱のピークとの決定係数が0.998以上であることを特徴とする上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[3] 前記ピーク分離において、前記ピーク4のピークトップの強度が最も強度が大きく、かつ、前記ピーク3の半値幅が150cm−1以上330cm−1以下であり、前記ピーク4の半値幅が280cm−1以上360cm−1以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[4] 前記炭素を含む炭素質被膜に被覆されたオリビン構造の一次粒子もしくは、その造粒体からなる活物質を含み、炭素量が0.5質量%以上7質量%以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[5] X線回折により解析した結晶子径が、50nm以上250nm以下であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[6] 電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層が、上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
[7]正極と、負極と、非水電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、上記[6]に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びに、該電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の炭素のラマンスペクトルである。
図2】比較例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の炭素のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<リチウムイオン二次電池用正極材料>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料(以下、単に「正極材料」ともいう)は、炭素を含み、ラマン散乱により測定された2200〜3400cm−1に存在する前記炭素のピークが、
2200〜2380cm−1にピークトップが存在するピーク1と
2400〜2550cm−1にピークトップが存在するピーク2と
2600〜2750cm−1にピークトップが存在するピーク3と
2850〜2950cm−1にピークトップが存在するピーク4と
3100〜3250cm−1にピークトップが存在するピーク5との
5種類のフォークト関数からなるピークによりピーク分離されたとき、ピーク3及びピーク4におけるガウス関数の割合の平均が90%以上100%未満である。
【0014】
〔ガウス関数の割合〕
正極材料に含まれる炭素について、ラマン散乱光で分光測定することで、ラマンスペクトルが得られる。本発明では、そのラマンスペクトルにおいて、2200〜3400cm−1に存在するピークを上記ピーク1〜5に分離し、得られるピーク3及びピーク4におけるフォークト関数のガウス分布とローレンツ分布の畳み込みの状態に着目した。
ピーク1〜5は、それぞれ粒子状炭素及びグラフェンにて観測される炭素の2Dバンドを表すピークと考えられる。粒子状炭素ではピーク3が最大となる複数のピークが観測され、グラフェンでは1層では単一のピークを示すが、多層のグラフェンでは各層による二重共鳴過程が増加することで、ピーク4が最大となる複数のピークが観測される。炭素は正極材料中にて、粒子上への被覆構造と、粒子間での粒子状構造をとっているため、正極材料の2Dバンドのピークはピーク3とピーク4が最大の強度のピークとなる。また、ピーク1,2,5はピーク強度が低い上、ピーク3とピーク4の肩に埋もれてしまうため、フィッティングにおいてピーク形状はピーク3とピーク4の形状が支配的となる。そのため、ピーク3とピーク4の各ピークのガウス関数の割合を算出し、その平均を求めることで、正極活物質中の炭素材料の炭素の結晶性の高さが算出される。
【0015】
ここで、ラマン散乱光のピークにおいて、結晶性を持つ固体のピークはローレンツ分布にて表され、非晶質及び液体のピークはガウス分布にて表される。そのため、ピークをフォークト関数と考え、フォークト関数は、ガウス関数とローレンツ関数が畳み込まれたものとして考えられるため、ピークのガウス関数の割合を算出することで、表されたピークの結晶性が算出される。また、フォークト関数は計算を簡略化するため、疑似フォークト関数として計算することが可能である。
ガウス関数の割合の平均とは、ピーク3のガウス関数の割合とピーク4のガウス関数の割合の平均を意味し、ガウス率とも称する。
【0016】
ピーク分離で得られた各ピークのガウス率は、理論上、カーブのフィッティングによって求められる。疑似フォークト関数は下記の式にて表される。
V(x)=M×G(x)+(1−M)×L(x)
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
V(x):疑似フォークト関数
M:ガウス関数の割合
G(x):ガウス関数
L(x):ローレンツ関数
A:ピーク強度
ω:ピーク半値幅
x:波数
0:ピークトップ波数
【0020】
通常、各ピークのガウス関数の割合は、ラマン分光測定装置(ラマン顕微鏡等)で測定したラマン分光データを元に、装置に備え付けられた数値計算ソフトにより算出される。
【0021】
ピーク3及びピーク4におけるガウス関数の割合の平均が90%未満では、結晶性が高いことから炭素がリチウムイオンの脱挿入を阻害してしまい、100%であると、完全に非晶質となり導電性を保持することができない。
ピーク3及びピーク4におけるガウス関数の割合の平均は、リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性をより向上する観点から、93%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることが更に好ましい。また、同様の観点から、ピーク3及びピーク4におけるガウス関数の割合の平均は、99.9%以下であることが好ましく、99.7%以下であることがより好ましい。
【0022】
〔決定係数〕
正極材料の炭素のラマン散乱測定で得られるラマンスペクトルのピーク分離において、測定された炭素のラマン散乱のピークとの決定係数は0.998以上であることが好ましい。
炭素のラマン散乱のピークとフィッティング関数との決定係数は、グラフェン層の厚さと粒子状炭素量を示しており、グラフェン層は1層ではラマン散乱のピークは単一のピークとなり5本のピークではフィッティングできなくなるために決定係数は小さくなる。また、グラフェン層が10層よりも厚くなるとピークが2本に収束するために厚くなりすぎても決定係数は小さくなる。また、粒子状炭素量が多くなるとグラファイトのラマン散乱を示し、ピークの形状が変化してしまう。決定係数が0.998以上であることは、グラフェン層の厚さが2層から10層の間で導電性とリチウムイオンの移動に適したグラフェン層の厚さを持ち、遊離炭素が少ないことを示している。
リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性をより向上する観点から、決定係数は、0.9985以上であることがより好ましく、0.9990以上であることが更に好ましく、0.9995以上であることがより更に好ましい。
決定係数はピークフィッティング時に求められるが、通常、ラマン分光測定装置(ラマン顕微鏡等)で測定したラマン分光データを元に、装置に備え付けられた数値計算ソフトにより算出される。
【0023】
〔半値幅〕
正極材料の炭素のラマン散乱測定で得られるラマンスペクトルのピーク分離において、ピーク4のピークトップの強度が最も強度が大きく、加えて、ピーク3の半値幅が150cm−1以上330cm−1以下であり、かつ、ピーク4の半値幅が280cm−1以上360cm−1以下であることが好ましい。
ピーク1〜5のうち、ピーク4のピークトップの強度が最も強度が大きいと、粒子状の炭素よりもグラフェン層を形成する炭素の方が多いことを示しており、電子伝導性に寄与する炭素の比率が高いことを示している。
また、ピーク3の半値幅が150cm−1以上330cm−1以下であり、かつピーク4の半値幅が280cm−1以上360cm−1以下であることで炭化強度が電子伝導性とリチウムイオンの通過に適した領域となる。
ピーク3の半値幅は160cm−1以上325cm−1以下であることがより好ましく、170cm−1以上320cm−1以下であることが更に好ましく、180cm−1以上315cm−1未満であることがより更に好ましい。
ピーク4の半値幅は282cm−1以上355cm−1以下であることがより好ましく、284cm−1以上350cm−1以下であることが更に好ましく、285cm−1以上345cm−1以下であることがより更に好ましい。
【0024】
〔炭素質被覆活物質〕
本実施形態に係る正極材料は、既述のラマン特性を有する炭素を含む炭素質被覆活物質であることが好ましい。具体的には、活物質が、オリビン構造の一次粒子もしくは、その造粒体からなり、活物質が、既述のラマン特性を有する炭素を含む炭素質被膜で被覆されていることが好ましい。
既述のラマン特性を有する炭素は、結晶性が高すぎず、リチウムイオンの脱挿入を阻害しにくい上、活物質から炭素質被膜か剥がれにくい柔らかさを備える。そのため、正極材料が既述のラマン特性を有する炭素を含む炭素質被膜で被覆された活物質を含むことで、電子伝導性が高く、リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性を高めることができると考えられる。
【0025】
(活物質)
本実施形態の正極材料が含む活物質(正極活物質)は、一般式LixAyDzPOで表されるオリビン型リン酸塩系化合物であることが好ましい。
一般式において、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu及びCrからなる群から選択される少なくとも1種であり、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、y、zは、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。
一般式において、A及びDは、各々独立に、2種以上であってもよく、例えば、LixAPOのような式で表されてもよい。このとき、yとyとの合計がyの範囲、すなわち0を超え1.0以下の範囲にあればよく、zとzとzとzとの合計がzの範囲、すなわち0以上1.0未満の範囲にあればよい。
【0026】
オリビン型リン酸塩系化合物は、上記構成であれば、特に限定されないが、オリビン構造の遷移金属リン酸リチウム化合物からなることが好ましい。
一般式LixAyDzPOにおいて、Aは、Co、Mn、Ni及びFeが好ましく、Co、Mn及びFeがより好ましい。また、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが好ましい。オリビン型リン酸塩系化合物がこれらの元素を含むことで、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる。また、資源量が豊富であるため、選択する材料として好ましい。
オリビン型リン酸塩系化合物は、高放電容量及び高エネルギー密度の観点から、一般式LiFex2Mn1−x2−y2y2POで表されていてもよい。
一般式LiFex2Mn1−x2−y2y2POにおいて、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYから選択される少なくとも1種、0.05≦x2≦1.0、0≦y2≦0.14である。
【0027】
本実施形態のオリビン型リン酸塩系化合物の形状は、一次粒子及びその造粒体(一次粒子の集合体である二次粒子)であることが好ましい。
オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。一次粒子が球状であることで、本実施形態の正極材料を用いて正極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、正極形成用ペーストを集電体に塗工しやすくなる。なお、正極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子及びその造粒体を、総じて活物質粒子と称する。
【0028】
(炭素質被膜)
本実施形態の正極材料が含む既述のラマン特性を有する炭素は、活物質粒子を被覆する炭素質被膜として、正極材料に含まれることが好ましい。
炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。
有機物としては、活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、フェノール、フェノール樹脂、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールには、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンおよびグリセリン等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
(炭素量)
本実施形態における正極材料は、炭素量が0.5質量%以上7質量%以下であることが好ましい。正極材料が炭素質被覆活物質粒子からなる場合、正極材料中の炭素量は、炭素質被膜と活物質粒子との合計質量に対する炭素質被膜の質量として求められる。
炭素量が、0.5質量%以上であることで、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。炭素量が、7質量%以下であることで、正極材料の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性を向上する観点から、正極材料中の炭素量は、0.5質量%以上7質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上7質量%以下であることが更に好ましい。
なお、上記炭素量は、炭素分析計(例えば、堀場製作所社製、型番:EMIA−220V)を用いて測定することができる。
【0030】
(結晶子径)
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆活物質粒子)は、X線回折により解析した結晶子径が、50nm以上250nm以下であることが好ましい。
正極材料の結晶子径が50nm以上であると、中心粒子である活物質粒子表面を炭素質被膜で十分に被覆するために必要な炭素量が抑えられ、また、炭素質被膜を形成するときに用いる結着剤の量を抑えることができる。そのため、正極中の活物質量を増やすことができ、電池の容量を高めることができる。また、結着力不足による炭素質被膜の活物質粒子からの剥離を生じにくくすることができる。
一方、正極材料の結晶子径が250nm以下であると、活物質の内部抵抗が抑えられ、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めることができる。
【0031】
正極材料の結晶子径は、50nm以上220nm以下であることがより好ましく、60nm以上170nm以下であることがさらに好ましく、60nm以上140nm以下であることがより更に好ましく、70nm以上117nm以下であることがより更に好ましい。
なお、正極材料の結晶子径は、X線回折装置(例えば、RINT2000、RIGAKU製)により測定し、得られる粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出することができる。
【0032】
[比表面積]
正極材料(好ましくは、炭素質被覆活物質粒子)の比表面積は、5〜25m/gであることが好ましい。
正極材料の比表面積が5m/g以上であることで、正極材料の粗大化を抑制して、その粒子内におけるリチウムイオンの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。
正極材料の比表面積が25m/g以下であることで、正極材料を含む正極内の正極密度を高くすることができるため、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
上記比表面積は、比表面積計(例えば、日本ベル社製、商品名:BELSORP−mini)を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定することができる。
【0033】
[一次粒子の平均粒子径]
炭素質被膜で被覆された活物質粒子(炭素質被覆活物質粒子)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。一次粒子の平均粒子径が50nm以上であると正極材料の比表面積の増加に起因する炭素量の増加を抑制でき、これによりリチウムイオン二次電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、500nm以下であると正極材料内を移動するリチウムイオンの移動時間または電子の移動時間を短くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の増加に起因する出力特性の悪化を抑制できる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。上記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することで求めることができる。
【0034】
[二次粒子の平均粒子径]
炭素質被覆活物質粒子の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上であり、そして、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると正極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の正極の正極合剤層における単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。一方、20μm以下であるとリチウムイオン二次電池の正極の正極合剤層中の導電助剤や結着剤の分散性及び均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。上記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0035】
[炭素質被膜の厚み]
活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚み(平均値)は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.4nm以上であり、そして、好ましくは10.0nm以下、より好ましくは7.0nm以下である。炭素質被膜の厚みが1.0nm以上であると炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、10.0nm以下であるとリチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
【0036】
[炭素質被膜の被覆率]
活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
なお、炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて粒子を観察し、粒子表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0037】
[炭素質被膜の密度]
炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は、好ましくは0.3g/cm以上、より好ましくは0.4g/cm以上であり、そして、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.8g/cm以下である。炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜が炭素のみから構成されると想定した場合に、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2.0g/cm以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0038】
(リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、既述のラマン特性を有する炭素を含み得る方法であれば、特に限定されない。
正極材料の製造方法は、例えば、活物質粒子を得る工程(A)と、前記工程(A)で得られた活物質粒子に有機化合物を添加して混合物を調製する工程(B)と、混合物を焼成鞘に入れて焼成する工程(C)とを有する。
上記工程(B)における有機化合物の添加量;工程(C)における混合物の焼成条件等を調整することで、既述のラマン特性を有する炭素を製造し易い。詳細は後述する。
【0039】
〔工程(A)〕
活物質粒子は、例えば、固相法、液相法、気相法等の従来の方法を用いて製造することができる。このような方法で得られたLixAyDzPOとしては、例えば、粒子状のもの(以下、「LixAyDzPO粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
LixAyDzPO粒子は、例えば、Li源と、A源と、P源と、水と、必要に応じてD源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、LixAyDzPOは、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、LixAyDzPOの前駆体であってもよい。この場合、LixAyDzPOの前駆体を焼成することで、目的のLixAyDzPO粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0040】
水熱合成の反応条件としては、例えば、加熱温度は、好ましくは110℃以上200℃以下、より好ましくは115℃以上195℃以下、さらに好ましくは120℃以上190℃以下である。加熱温度を上記範囲内とすることで、活物質粒子の比表面積を上述の範囲内とすることができる。
また、反応時間は、好ましくは30分以上120時間以下、より好ましくは1時間以上24時間以下、さらに好ましくは5時間以上15時間以下である。
さらに、反応時の圧力は、好ましくは0.1MPa以上22MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上17MPa以下である。
【0041】
Li源、A源、D源及びP源のモル比(Li:A:D:P)は、好ましくは2.5〜4.0:0〜1.0:0〜1.0:0.9〜1.15、より好ましくは2.8〜3.5:0〜1.0:0〜1.0:0.95〜1.1である。
【0042】
ここで、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物;炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)およびリン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩;酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩;ならびに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0043】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Lix1y1z1POにおけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の3価の鉄化合物や、リン酸鉄リチウム等が挙げられる。
【0044】
D源としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Lix1y1z1POにおけるDがCaである場合、Ca源としては、水酸化カルシウム(II)(Ca(OH))、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、及びこれらの水和物等が挙げられる。
【0045】
P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0046】
〔工程(B)〕
工程(B)では、前記工程(A)で得られた活物質粒子に有機化合物を添加して混合物を調製する。
まず、上記活物質粒子に有機化合物を添加し、次いで、溶媒を添加する。
活物質粒子に対する有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、活物質粒子100質量部に対して、好ましくは0.15質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.45質量部以上4.5質量部以下である。
活物質粒子に対する有機化合物の配合量が0.15質量部以上であると、この有機化合物を熱処理することにより生じる炭素質被膜の活物質粒子表面における被覆率を80%以上にすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性を向上することができる。一方、活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、相対的に活物質粒子の配合比が低下してリチウムイオン二次電池の容量が低くなることを抑制できる。また、活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、活物質粒子に対する炭素質被膜の過剰な担持により、活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制できる。なお、活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制することで電極密度の低下を抑制し、単位体積あたりのリチウムイオン二次電池の容量低下を抑制することができる。
【0047】
混合物の調製に使用する有機化合物としては、上述したものを用いることができる。
ここで、上記有機化合物として、スクロース、ラクトースなどの低分子の有機化合物を用いることで、正極材料の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成しやすくなるが、一方で熱分解によって得られる炭素質被膜の炭化度が低くなる傾向があり、十分な抵抗低下を達成可能な炭素質被膜の形成が難しい。また、このような低分子の有機化合物を用いることで、炭素質被膜中のミクロ孔の量が増加し、孔全体のミクロ孔比が増加する。一方で、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの高分子の有機化合物やフェノール樹脂などのベンゼン環構造を有する有機化合物を用いることで、熱分解によって得られる炭素質被膜の炭化度が高くなる傾向があり、十分な抵抗低下を達成できるが、一方で正極材料の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成することが難しくなる傾向があり、正極材料の十分な抵抗低下の達成が難しいなどの問題ある。また、このような高分子の有機化合物やベンゼン環構造を有する有機化合物を用いることで、炭素質被膜中のミクロ孔の量が減少し、孔全体のミクロ孔比が低下する。
【0048】
そのため、低分子の有機化合物と高分子の有機化合物、ベンゼン環構造を有する有機化合物を適宜混合して用いることが好ましい。
特に、低分子の有機化合物については粉末状で用いることが、活物質粒子と有機化合物とを混合し易く、活物質粒子の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成された正極材料を得ることができるため好ましい。また、低分子の有機化合物は、高分子の有機化合物と異なり溶液中に溶解し易く、事前の溶解作業などが必要ないために作業工程の削減、溶解作業に掛かるコスト等を低減することができる。
【0049】
活物質粒子に溶媒を添加する際、その固形分が好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは25〜50質量%となるように調整する。固形分を上記範囲内とすることで、得られる正極材料のタップ密度を上述の範囲内とすることができる。
【0050】
上記溶媒としては、たとえば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0051】
活物質粒子と有機化合物とを、溶媒に分散させる方法としては、活物質粒子が均一に分散し、かつ有機化合物が溶解または分散する方法であれば、とくに限定されない。このような分散に使用する装置としては、たとえば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で撹拌する媒体撹拌型分散装置が挙げられる。
【0052】
噴霧熱分解法を用いて、上記混合物を高温雰囲気中、たとえば、110℃以上200℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、混合物の造粒体を生成してもよい。
この噴霧熱分解法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0053】
〔工程(C)〕
工程(C)では、前記工程(B)で得られた混合物を焼成鞘に入れて焼成する。
混合物の焼成は、(1)混合物を加熱して造粒粉を製造し(造粒工程)、その後、(2)加熱温度を急速に昇温して、焼成時間を制御する(急速昇温工程)ことが好ましい。このような工程で混合物を焼成することにより、活物質粒子と炭素源との界面にてグラフェン化の反応を促進することができ、低結晶性グラフェンを含む炭素質被膜で被覆された活物質粒子を製造し易い。こうして製造された炭素質被覆活物質は適度な電子伝導性とリチウムイオン透過性を保持しつつ、炭素の柔軟性も高く、リチウムイオン二次電池の充放電特性及びサイクル特性を向上することができる。
【0054】
焼成鞘として、たとえば、炭素等の熱伝導性に優れる物質からなる焼成鞘が好適に用いられる。
【0055】
(1)造粒工程
造粒工程では、混合物を加熱して造粒粉を製造する。
例えば、スプレードライヤーを用いて乾燥出口温度が40〜80℃となる温度で混合物を乾燥し、造粒すればよい。造粒工程における加熱温度は50〜70℃が好ましい。
【0056】
(2)急速昇温工程
急速昇温工程では、造粒工程で得られた造粒粉の加熱温度を急速に昇温して、焼成時間を制御する。活物質と炭素源との界面におけるグラフェン化の反応を促進するために、造粒粉を炭化温度域まで急速に昇温し、その温度で特定時間保持することが好ましい。
急速昇温工程は、2回以上繰り返すことが好ましい。
【0057】
急速昇温工程を、例えば、2回繰り返す場合、1回目の急速昇温工程では、造粒粉の加熱温度を、3℃/分以上15℃/分以下の昇温速度で、200℃以上450℃以下まで昇温し、10分以上120分以下の時間保持して焼成することが好ましい。
1回目の昇温速度は、3℃/分以上13℃/分以下であることがより好ましく、4℃/分以上9℃/分以下であることが更に好ましい。
1回目の昇温後の温度は、230℃以上420℃以下であることがより好ましく、250℃以上380℃以下であることが更に好ましい。
1回目の焼成時間は、10分以上80分以下であることがより好ましく、20分以上50分以下であることが更に好ましい。
【0058】
2回目の急速昇温工程では、造粒粉の加熱温度を、10℃/分以上25℃/分以下の昇温速度で、630℃以上770℃以下まで昇温し、10分以上120分以下の時間保持して焼成することが好ましい。
2回目の昇温速度は、12℃/分以上22℃/分以下であることがより好ましく、13℃/分以上18℃/分以下であることが更に好ましい。
2回目の昇温後の温度は、650℃以上750℃以下であることがより好ましく、650℃以上740℃以下であることが更に好ましい。
2回目の焼成時間は、10分以上70分以下であることがより好ましく、25分以上50分以下であることが更に好ましい。
【0059】
焼成温度の最高温度は、630℃以上770℃以下であることが好ましい。
焼成温度の最高温度が630℃以上であると、有機化合物の分解及び反応が十分に進行し、有機化合物を十分に炭化させることができる。その結果、得られた正極材料に低抵抗の炭素質被膜を形成することができる。一方、焼成温度の最高温度が790℃以下であると、正極材料の粒成長が進行せず十分に高い比表面積を保つことができる。その結果、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が大きくなり、十分な充放電レート性能を実現することができる。
焼成温度の最高温度は、680℃以上770℃以下あることがより好ましい。
【0060】
急速昇温工程を2回以上繰り返す場合、焼成時間の合計時間は、有機化合物が十分に炭化する時間であればよく、とくに制限はないが、たとえば、0.2時間以上100時間以下である。
【0061】
焼成雰囲気は、好ましくは窒素(N)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気または水素(H)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。また、炭化反応を促進するために過熱水蒸気雰囲気を使用してもよい。混合物の酸化をより抑えたい場合には、焼成雰囲気は還元性雰囲気であることがより好ましい。
【0062】
工程(C)の焼成により、有機化合物は焼成により分解および反応して、炭素が生成する。そして、この炭素は活物質粒子の表面に付着して炭素質被膜となる。これにより、活物質粒子の表面は炭素質被膜により覆われる。
【0063】
本実施形態では、工程(C)で、活物質粒子より熱伝導率が高い熱伝導補助物質を混合物に添加した後、混合物を焼成してもよい。これにより、焼成中の焼成鞘内の温度分布をより均一にすることができる。その結果、焼成鞘内の温度ムラによって有機化合物の炭化が不十分な部分が生じたり、活物質粒子が炭素で還元される部分が生じたりすることを抑制できる。
【0064】
熱伝導補助物質は、上記活物質粒子より熱伝導率が高い物質であればとくに限定されないが、活物質粒子と反応し難い物質であることが好ましい。これは熱伝導補助物質が活物質粒子と反応することで、焼成後に得られる活物質粒子の電池活性を損なうおそれがあることや、熱伝導補助物質を焼成後に回収して、再利用することができなくなるおそれがあるためである。
【0065】
熱伝導補助物質としては、たとえば、炭素質材料、アルミナ質セラミックス、マグネシア質セラミックス、ジルコニア質セラミックス、シリカ質セラミックス、カルシア質セラミックスおよび窒化アルミニウム等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
熱伝導補助物質は好ましくは炭素質材料であり、例えば、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェン等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの炭素質材料の中で、黒鉛が熱伝導補助物質としてより好ましい。
【0067】
熱伝導補助物質の寸法はとくに限定されない。しかし、熱伝導効率の点で、焼成鞘内の温度分布を十分に均一にすることができ、かつ、熱伝導補助物質の添加量を減少させるために、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均は、好ましくは1mm以上100mm以下であり、より好ましくは5mm以上30mm以下である。また、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均が1mm以上100mm以下であると、篩を用いて、正極材料から熱伝導補助物質を分離することが容易になる。
また、正極材料より比重が大きい方が気流式分級機等を用いた分離が容易であるため好ましい。
【0068】
熱伝導補助物質の添加量は、熱伝導補助物質の寸法にも影響されるが、上記混合物を100体積%とした場合、好ましくは1体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上30体積%以下である。熱伝導補助物質の添加量が1体積%以上であると、焼成鞘内の温度分布を十分に均一にすることができる。一方、熱伝導補助物質の添加量が50体積%以下であると、焼成鞘内で焼成する活物質粒子および有機化合物の量が少なくなることを抑制できる。
【0069】
焼成の後、熱伝導補助物質と正極材料との混合物を篩等に通し、熱伝導補助物質と正極材料とを分離することが好ましい。
【0070】
<リチウムイオン二次電池用正極>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、正極合剤層が、本実施形態の正極材料を含有する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電特性及びサイクル特性に優れる。
以下、リチウムイオン二次電池用正極を単に「正極」と称することがある。
【0071】
正極を作製するには、上記の正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極形成用塗料又は正極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
正極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、正極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部〜30質量部、好ましくは3質量部〜20質量部とする。
【0072】
正極形成用塗料又は正極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
次いで、正極形成用塗料又は正極形成用ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とする。次いで、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤とを含む混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を作製する。
より具体的には、例えば、アルミニウム箔の一方の面に塗布する。次いで、塗膜を乾燥し、正極材料と結着剤とを含む混合物からなる塗膜が一方の面に形成されたアルミニウム箔を得る。その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、アルミニウム箔の一方の面に正極合剤層を有する集電体(正極)を作製する。
このようにして、高入力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる正極を作製することができる。
【0074】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備える。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記構成に限定されず、例えば、更にセパレータを備えていてもよい。
【0075】
〔負極〕
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金及びLiTi12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0076】
〔非水電解質〕
非水電解質は、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解したものが挙げられる。
【0077】
〔セパレータ〕
本実施形態の正極と負極とは、セパレータを介して対向させることができる。セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0078】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する正極合剤層を有することから、電池構成部材のいずれの周囲においてもLiイオン移動に優れ、高入力特性及びサイクル特性に優れる。そのため、電気自動車駆動用バッテリーやハイブリッド自動車駆動用バッテリーなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0080】
<リチウムイオン二次電池用正極材料の製造>
〔実施例1〕
1.活物質の製造
Li源としてLiOH、P源としてNHPO、Fe源としてFeSO・7HOを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して200mlの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃で12時間、水熱合成を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで容器内を冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この沈殿物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持し、ケーキ状物質とした。
得られたケーキ状物質を若干量採取し、70℃で2時間真空乾燥させて得られた粉末をX線回折で測定したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された
【0081】
2.混合物の製造
得られたLiFePO(活物質)20gと、炭素源としてスクロース0.73gを総量で100gとなるように水に混合し、0.1mmφのジルコニアビーズ150gとともに、ビーズミルを行い、分散粒径(d50)が100nmとなるスラリー(混合物)を得た。
【0082】
3.混合物の焼成
(造粒工程)
スプレードライヤーを用いて乾燥出口温度が60℃となる温度で、混合物を乾燥し、造粒した。
(急速昇温工程)
管状炉を用い、造粒粉の加熱温度を、昇温速度5℃/分で300℃まで昇温した後、30分保持して造粒粉を加熱した(1回目)。その後、加熱温度を15℃/分の昇温速度で700℃まで昇温し、30分保持して造粒粉を加熱し(2回目)、炭素質被覆活物質からなる実施例1の正極材料を得た。
【0083】
〔実施例2〕
実施例1の急速昇温工程において、管状炉での焼成温度の最高温度(2回目の焼成温度)を680℃にした以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆活物質からなる実施例2の正極材料を得た。
【0084】
〔実施例3〕
実施例1の急速昇温工程において、管状炉の焼成条件を次のように変更したほかは、実施例1と同様にして、炭素質被覆活物質からなる実施例3の正極材料を得た。
造粒粉の加熱温度を、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温した後、60分保持し、その後、15℃/分の昇温速度で加熱温度を750℃まで昇温し、20分保持した。
【0085】
〔実施例4〕
実施例1の混合物の製造において、スクロースの量を0.3gに変更したほかは実施例1と同様にして混合物を得た。
更に、実施例3において、実施例3で用いた混合物に代えて、上記混合物を用い、造粒工程における混合物の造粒乾燥後に、造粒粉にポリビニルアルコール粉を2g投入して混錬した以外は実施例3と同様にして、炭素質被覆活物質からなる実施例4の正極材料を得た。
【0086】
〔比較例1〕
実施例4の正極材料の製造において、ポリビニルアルコール粉の投入量を3gにした以外は実施例4と同様にして、炭素質被覆活物質からなる比較例1の正極材料を得た。
【0087】
〔比較例2〕
比較例1の急速昇温工程において、管状炉での焼成温度の最高温度(2回目の焼成温度)を680℃にした以外は比較例1と同様にして、炭素質被覆活物質からなる比較例2の正極材料を得た。
【0088】
〔比較例3〕
実施例1の急速昇温工程において、管状炉の焼成条件を次のように変更したほかは実施例1と同様にして、炭素質被覆活物質からなる比較例3の正極材料を得た。
造粒粉の加熱温度を、昇温速度10℃/分で750℃まで昇温し、120分保持した。
【0089】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
実施例及び比較例で得られた正極材料と、導電助材としてアセチレンブラック(AB)と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、電極材料:AB:PVdF=90:5:5の重量比で、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に混合し、正極材料ペーストとした。得られたペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔上に塗布、乾燥後、所定の密度となるように圧着して電極板とした。
【0090】
得られた電極板を3×3cm(塗布面)+タブしろの板状に打ち抜き、タブを溶接して試験電極を作製した。
一方、対極には同様に天然黒鉛を塗布した塗布電極を用いた。セパレータとしては、多孔質ポリプロピレン膜を採用した。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)溶液を用いた。なお、このLiPF6溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
以上のようにして作製した試験電極、対極および非水電解液を用いて、ラミネート型のセルを作製し、実施例および比較例の電池とした。
【0091】
〔正極材料の評価〕
実施例及び比較例で得られた正極材料、及び該正極材料が含む成分について物性を評価した。評価方法は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0092】
(1)炭素量
炭素分析計(堀場製作所社製、炭素硫黄分析装置EMIA−810W)を用いて、炭素質被覆活物質の炭素量(質量%)を測定した。
【0093】
(2)結晶子径
活物質の結晶子径は、X線回折測定(RIGAKU製、X線回折装置:RINT2000)により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出した。
【0094】
(3)炭素のラマン特性
正極材料に含まれる炭素のラマン分光測定を、ラマン顕微鏡(HORIBA社製、ラマン顕微鏡XploRA PLUS)を用いて行った。
測定波長は538nmを使用し、1500〜3500cm−1の間で測定を行った。2000〜3500cm−1にてピーク分離を行い、5種類のフォークト関数としてピークのフィッティングを行った。ピークのフィッティングは数値計算ソフトを用いて行い、パラメータの設定を行った。5種類のピークは、2200〜2380cm−1にピークトップが存在するピーク1と2400〜2550cm−1とにピークトップが存在するピーク2と2600〜2750cm−1にピークトップが存在するピーク3と2850〜2950cm−1にピークトップが存在するピーク4と3100〜3250cm−1にピークトップが存在するピーク5を設定した。各ピークのガウス率、ピーク強度、ピークの半値幅、フィッティングの決定係数は数値計算ソフトより算出された。得られた各ピークのガウス率から、ピーク3とピーク4におけるガウス関数の割合の平均を算出し、表1の「ガウス率」欄に示した。
図1に、実施例1の正極材料の炭素のラマンスペクトルを示し、図2に、比較例1の正極材料の炭素のラマンスペクトルを示した。なお、図1及び2のいずれも、点線(・・・)がフィッティングカーブであり、中破線(−−−)が測定値であり、小破線(---)がピーク1であり、一点破線(−・−・−)がピーク2であり、二点破線(−・・−・・−)がピーク3であり、実線(−)がピーク4であり、大破線(−−−)(中破線より長めの破線)がピーク5である。
【0095】
<リチウムイオン二次電池の評価>
実施例及び比較例で得られたリチウムイオン電池を用いて放電容量とサイクル試験による容量維持率を測定した。カットオフ電圧は2.5−3.7V(vs炭素負極)とした。結果を表1に示す。
(1)放電容量
環境温度25℃にて、充電電流を1C、放電電流を10Cとして定電流充放電により放電容量を測定した。
許容範囲は80mAh/g以上である。
【0096】
(2)容量維持率
環境温度25℃にて、充電電流を2C、放電電流を2Cとして定電流充放電により放電容量を測定し、測定された値を初期放電容量とした。その後環境温度を45℃に設定し、充電電流を2C、放電電流を2Cとして定電流充放電を600回行い、その後再度環境温度を25℃にて、再度、充電電流を2C、放電電流を2Cとして定電流充放電により放電容量を測定し、サイクル後の放電容量を得た。
サイクル試験による容量維持率は、下記式により算出した。
サイクル試験容量維持率=サイクル後の放電容量/初期放電容量
許容範囲は70%以上である。
【0097】
【表1】
【0098】
(結果のまとめ)
表1からわかるように、ピーク3とピーク4におけるガウス関数の割合の平均が0%である比較例3の正極材料を用いて製造された電池はもちろん、70%をわずかに下回る比較例1の正極材料を用いて得られた電池も、充放電特性及びサイクル特性に優れなかった。また、ピーク3とピーク4におけるガウス関数の割合の平均が100%である比較例2の正極材料を用いて製造された電池は、容量維持率が高いものの、放電容量は小さかった。
これに対し、ピーク3とピーク4におけるガウス関数の割合の平均が70%以上100%未満である実施例の正極材料を用いて得られた電池は、放電容量も容量維持率も大きく、充放電特性及びサイクル特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、リチウムイオン二次電池の正極として有用である。
【要約】      (修正有)
【課題】充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びに、該電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極を提供する。
【解決手段】炭素を含み、ラマン散乱により測定された2200〜3400cm−1に存在する炭素のピークが、2200〜2380cm−1にピークトップが存在するピーク1と、2400〜2550cm−1にピークトップが存在するピーク2と、2600〜2750cm−1にピークトップが存在するピーク3と、2850〜2950cm−1にピークトップが存在するピーク4と、3100〜3250cm−1にピークトップが存在するピーク5との5種類のフォークト関数からなるピークによりピーク分離されたとき、ピーク3及びピーク4におけるガウス関数の割合の平均が90%以上100%未満であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【選択図】図1
図1
図2